今日自分も。と思い飲んでみましたが、口当たりが…違うのか?とかそんなレベルでした。
その後少しの間話している内に次第に返事が無くなり、寝息が聞こえて来た。どうやら寝たらしい。
(やっぱり眠かったのかね…。昼まで数時間あるし、ましにはなるだろう。)
目の前で静かに寝息を立てている。目元には薄らと隈があり、昨日の夜が眠れなかった事を物語っていた。
「さてと…、後は明月さんが戻ってくるまで待機かな。」
起こさないように小声で一人言を呟く。よくよく考えてみると今の状況を明月栞那が見たらネタにされそうだ。
「ま、いっか。その時はまた仕返しておこう。…腹減ったな。まだ時間掛かりそうなのか?」
お願いしてからそこそこ時間が経っている。コンビニの位置はそう遠くはないと思っていたのだが、買う物に迷っているのかもしれない。
「取り敢えず今はこの手の感触でも味わっておこうか。」
我ながら変態染みているが役得だと思っておくことにした。
「ただいま戻りましたー。」
階段の上がる音と共に明月栞那が顔を見せる。
「ご飯買ってきましたよーって、澤田さん?」
声を出しながら来る明月栞那に人差し指を立て静かにする様にお願いする。
「…なるほど。寝ていられたのですね。分かりました。」
俺の意図に気づき小声で話しかけてくる。
「少し前に漸く寝たからな。昼ぐらいまで寝かせておいてほしい。済まないがベットを使わせて貰っている。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。確かにナツメさんあまり眠れていなかったみたいでしたね。」
どうやら彼女も気づいてたらしい。まぁわかりやすかったか、あれは。
「それよりも〜。どうしたのですか?その握っている手は?」
にやにやしながらこっちを見てくる。速攻すぎる。
「何してる様に見える?明月さん視点では。」
「完全に事案かと。寝ている女性の手を無理矢理握り、あまつさえ感触を楽しんでいるだなんて…!見損ないましたよ?澤田さん。」
あながち間違ってない事を言っている。エスパーかな。
「そうことにしておこう…。それよりご飯を食べたい。お腹すいて死にそうだ。」
「そうでした。ナツメさんは寝ていますから後で大丈夫ですね。あ、アイスの方は既に冷凍庫の中に入れてますので。」
「サンキュ。ここで食べるのはアレだし、下に移動しようか。」
「良いのですか?手の感触を楽しまなくても。」
「握るのは寝るまでの約束だったからな。もう大丈夫だと思う。」
手を離そうとするが、何か勿体ないような気がして離すのを躊躇う。
(いや、仕方ない。朝食を優先せねば。だから仕方がないんだこれは。天秤に掛けるとしたら食欲に勝るものは無い。抗えぬ運命なんだこれはっ!)
「その割には物凄く名残惜しそうに見えるのですが?」
呆れた顔でこちらを見てくる。しょうがないじゃないか。男の子だから。
起きないようにゆっくりと手を離し、朝食は向かった。
朝食を食べ終え一息ついていると、明月栞那が袋の中から本らしき物を取り出した。
「ん?それは?」
「コーヒーについての本です。コンビニに置いてあったので勉強にと買いました。凄いですねコンビニって。色んな物が置いてありました。」
感心しているように話している事からあまり行く機会なかったのかもしれない。
「一通り揃っているからな。その分少し値段は上がるけど。便利さには勝てないよなー。」
「なんだか利用し続けるとスーパーまで行くのが億劫になってしまいそうです。」
「実は更に上にネット通販と言うものがあってだな…。いや、これはやめておこう。」
「そういうのはわたしには難しそうです…。」
「いや。そう言った意味ではない。明月さんとかハマりそうだなって思ってさ。あれは癖になるとヤバいから話すのをやめただけ。」
「そんなに取り扱うのに危険な物が…!やはり私には厳しそうです。」
「そうでもないけどな…慣れればボタンをポチッ。で簡単に買えてしまう悪魔のシステムさ。」
「え、それってどうやって買いたい物を手に入れるのですか?」
「サイトの一覧から買いたい商品を選んで購入。配達してくれるから住所などの必要な情報を記入すると。お金は現金ではなくてネット上の決済がある。それらが完了すると、後は届くまで待っているだけで大丈夫。これの恐ろしい所は部屋などから一歩も動かずに買いたい物が買えてしまうという便利さを追求しまくったこのシステムだと思う。」
ざっと流れを説明しておく。
「今はそんな事も出来てしまうのですね…、堕落した生活を送ってしまわれませんか?」
「だな。人と接触することなく買い物が出来る。スマホが出来た事で何時でも何処でも可能になったって訳だ。」
「そういった利便性の弊害が蝶の原因になってしまう事もありそうですね…。」
「可能性はあるだろうな。昔より今の方が蝶の出現は多くなってそうだしな。時代の変化によるものかもしれないけど。」
ネット社会になった事で直接顔を見合わせる必要が無く接点が作れるのは便利だとは思うけど。他には経済や若い世代の一人当たりの年収が少ない事での生活の豊かさが減ったとか。
「様々な要因が絡み合い、それが最近になって表に出て来た感じのかもしれませんね。」
「かもしれないな。」
原因は一つでは無いだろうな。小さな事が沢山あるのだろう。
「死神としては仕事が捗る感じか。」
「そうですねぇ。と言っても少ない方が良い事ではあるのは間違いないのですが。」
そりゃそっか。
「この店を開く事で少しでもいい方向進むことを祈っておこう。」
「その為にも美味しいコーヒーを入れる為に頑張りましょう。」
「だな。四季さんが起きるまで勉強しておくか。」
「澤田さんは知っているのではないのですか?」
「一応知っているぞ?とは言っても口伝でだけどな。」
「何ですかそれ…。一子相伝とかなのですか澤田さんの淹れ方は。」
「誰でも知っている淹れ方だから心配しなくて大丈夫。直ぐに覚えられるぞ。」
「教えて頂いても大丈夫ですか?」
「了解。今は口頭だけで実践は後でしようか。」
「分かりました。宜しくおねがいします。」
では、式部茉優流美味しいコーヒーの淹れ方でも伝授しましょうか。
暫くコーヒーの話をしていると奥から足音が聞こえて来た。
(これは、四季ナツメが降りて来たのかな?)
「ナツメさんが起きてこられたのでしょうか?」
「だと思う。それ以外無いと思うし。」
明月栞那も足音に気が付き、奥を向く。足音が近づき奥から起きた四季ナツメが姿を見せた。
「あ…、二人ともおはよう。」
「おはようございます。と言ってももうすぐお昼ですが。」
「おはよう。良く寝れたかい?」
「うん。頭がすっきりしたような気がする。少なくとも寝る前よりはましになった。」
「それは良かった。お腹とか空いてたりする?明月さんが食べ物は買ってきているらしいが。」
「空いてるかも…、あ、それと明月さん。ごめん、勝手にベット使ってた。」
「いえ、大丈夫ですよ。澤田さんから話は聞いているのでお気になさらず。」
「澤田君も、その…ありがとう。」
少し照れながらもちゃんと礼を告げてくる。最高です。
「四季さんの役に立てたなら光栄ですとも。それよりお昼にでもしようか。」
「そうですね。準備しましょうか。澤田さんも食べられますか?」
「どうせならお供しようかな。」
一人で食べるよりか誰かと食べた方が美味しく感じるしな。
昼を食べ終え、コーヒーを飲む話になり準備を始める。
「そう言えば、豆って何を買ったの?聞きそびれたままだった。」
「今回は澤田さんがアメリカン、キリマンジャロ。私からこの、グアテマラという豆を3つを購入しました。」
「無難な奴とちょっと変わった奴を買った感じかな。今回はこいつらを試すことにした。」
「それじゃあ早速試して行きましょうか。」
「俺は見ておくから明月さんに淹れて貰おうかな。」
「いきなり本番ですかっ!?。出来る自信が無いのですが…。」
困った顔でこちらを見てくる。
「大丈夫大丈夫。教えながら進めて行くから。それに最初だから失敗しても気にしないで良いよ。」
「それなら…分かりました。精一杯やらせていただきます。」
「すまんが宜しく。」
コーヒー淹れると肩が痛むので淹れるのをしたくなかったので頼むことにする。
(肩とか上げる動作とかぎこちなくなりそうだし…。それでまた変な気を遣われるのは勘弁したい。)
「それじゃあ私の方はカップの準備しておく。」
「ありがとうございます。すみませんが、お願いします。」
俺も言いたいが、歩き回るのはもっと駄目だな。なんだか自分だけ働いていない奴に思えてくる。
「澤田君は動かなくて良いから。じっとしてて。」
こちらが何かしようか考えていると先に釘を刺された。
「あー…それじゃあ大人しく明月さんに教えるだけにしておこうかな。」
(普通にやるのはつまらないし…。何かしようかな。)
そう考え、椅子に深く座り直し、足を組み見下したように顔を上げる。
「さてと…、では早速淹れて…貰おうかな?」
なるべく偉そうに声出す。
「え…、澤田さん?どうしたのですか、急に。」
「口答えせずに手を動かしたまえ。コーヒーを淹れるのではないのか?」
「ええー…、何なのですかこの人は…。」
こっちの態度に呆れたが、準備を進めて行く。四季ナツメも何事かとこっちを見ている。
「そっちの君も手を止めず動かしたまえ。もたもたしていると日が暮れるぞ?」
「え、何?急に…。何キャラなの…。」
「口を動かす前に手を動かした方が良いのではないか?作業が遅れるぞ。コーヒーのカップは3つだぞ?忘れるではない。」
「私も飲むって事だよね…?」
「当然。慣れろまでとは行かないが少しでも口につけてみてはどうかね?」
「だからなんなのよその喋り方は…はぁ。分かった。努力してみる。」
横を見ると明月栞那がフィルターにコーヒーを淹れていた。
「あ、明月さん。入れたらなるべく平らになるように軽くならしておいてほしい。」
「分かりました。こう…でしょうか?」
カップを軽く揺らし、平らになっている事を確認する。
「そうそう。上手。君。センスあるねぇ…。もしかしてこの業界長かったりするかい?」
「ある訳無いじゃないですか…。今度は何ですか…。それにこの程度で褒められても。」
此方は褒めて伸ばす方針なので。
「さっきから何?何がしたいの?そのキャラは。」
「いや、何となく?ノリでそういう気分になっただけ。」
「何それ。意味が分からない。」
四季ナツメが飲むカップを並べ終え、こっちを見るがこちらの返事に呆れ、諦めた様に隣の席に戻った。
「澤田さん。淹れ方はこんな感じで大丈夫でしょうか?」
名前を呼ばれ見ると、淹れたコーヒーにお湯を淹れていた。
「そうそう。そんな感じ。全体にかける感じでゆっくりとで良いから。」
ポットに数滴コーヒーが落ちて来たことを確認し、止めさせる。
「後はこれを数回に分けて淹れて行こうか。」
「確かその時はフィルターにお湯が掛からないように。でしたか?」
「そう。中心にお湯をかけ、少しずつ円を広げる感じで。」
「掛けてしまうと変な味が出るのかな?やっぱり。」
「そこはわからん。理由までは調べた事は無いな。そういう手順としか認識してなかった。」
「ふーん。そうなんだ。」
そう言うとスマホを取り出し調べだした。
「へー。フィルターの匂いや味が取れるんだって。」
「コーヒー以外の匂いが付くなら無いの方が良いのか。付ける派も居るのか。」
フィルターに掛けることをリンスと言うらしい。
「淹れ切りました。後は待つだけですよね?」
「お疲れ様。後は落ちるのを待とうか。」
「分かりました。それまで暇になってしまいますね。」
「だな。少し暇が出来るな。」
四季ナツメを見たがまだスマホを弄っていた。
「ん?ああ。それなら澤田君の話でもしてみるのはどう?コーヒーの時に話す約束でしょ?」
「澤田さんのお話ですか…?」
「ああ。そういえば言ってたな。秘密を話す約束だったな。」
「え、…それって。大丈夫なのですか?」
明月栞那が心配そうにこちらを見る。
「大丈夫。明月さんも気になっているだろ?いい機会だし少し話しておくよ。と言ってもそんな大層な話ではないけどな。」
「澤田さんがそういうなら…。」
「そうだな…。どの時点から話そうか…。」
何処まで遡て話せば良いか考え、過去話を始めようとした。
式部先輩の淹れ方はソロフィルター版っぽい感じでした…。現実ではまだ見たことない…。
次回は主人公の過去話からスタートしていきます。