存在しない事になった世界ですが、それでも、記憶に残っている人が三人ほど居る世界です。
窓からの日差しで目が覚める。スマホを確認するが、どうやらアラームをセットしている時間より少し早く起きてしまった様だ。
「二度寝には時間足りないし、寝ても夢の中であいつと会うだけだしな……。起きるか。」
少し前から寝るとちょくちょく夢の中で謎の少女が出てくる。聞いても正体を明かしてくれなかったのでそう呼んでいる。夢の中では彼女とその日にあった事や、最近の出来事を報告したり、映像ベースで確認したりする。個人的には自分の生活を見られている様で恥ずかしいが、彼女は飽きずに楽しそうに見ている。夢の中でしか出られないから少しでも娯楽要素が欲しいのだろう。
「今が昼だから…。今日の昼過ぎから夕方辺りか…。」
今日が原作初日の9/28。遂に来てしまった。今日から高嶺昂晴の物語が始まる。
空腹の為食事を済ませ、本棚の端に閉まっている一冊のノートを取り出す。『喫茶ステラと死神の蝶』と書かれたタイトルのノートだ。覚えている内に可能な限り原作のフローチャートを書き込んだ一品だ。選択肢時の台詞からチャプター内で繰り広げられた会話内容など、様々だ。本棚の隙間に挟んでるため意図的に探さない限り見つけられないはず。
「取り敢えずはお店を開くまでの期間を無事乗り切る事が最初の課題になるのか。」
オープンまでに準備する物、足りていない設備、人。やる事は沢山ある。それをこなしていくためには高嶺昂晴の存在が必要不可欠。オープン後も暫くは気を抜けないはずだ。慣れて来た頃には11月になっておりどのヒロインと関係が深まっているか注意しておかないといけない。明日から12月までは高嶺昂晴の様子を確認しつつ、仕事をしていく事になる。流石に1人では無理なので明月栞那や閣下。必要なら四季ナツメにも協力を仰ぐと考えていた方が良いだろう。
「まぁ……。なんとかなるだろう…。可能なら火打谷愛衣の事もなんとかしておきたいが…、望みすぎかもしれないな。」
高嶺昂晴が明月栞那を選べば一番やりやすくなるのだが…。彼女を救えるのは主人公ただ一人だから。その場合。四季ナツメをどうにか希望や夢が持てるようにしなければならない。今の内からでも働きかけてはいるが、駅前で感じた様にまだ足りてはいなかった。
「大事…なのは、今日の勧誘を成功させること……だな。ふあぁ…。ねむ。」
腹が満たされ気を抜いたからか急に睡魔が来た。起きることも出来なくは無いが、時間はまだ余裕がある事だし少し横になっていようと体を倒した。先ほどより大きなあくびをして目を閉じていると次第に意識が落ちていく。
遠のく意識と増していく睡魔に抗わず、身を委ねることにした。
「…んん、あ?…寝落ちしてしまっていたのか。」
目を空けると辺りが暗くなっており、自分が寝ていた事に気が付く。一瞬夜かと思い体を起こすが、見覚えのある場所であったが為落ち着く。
「なるほど。寝てしまったからか、ここに来たのか。」
いつもは一日の終わりの睡眠で来ることが多いが、休息の睡眠で来てしまったらしい。周囲を見ると、近くに光が照らされている場所があり、テーブルがあり向かうように席が2つあった。片方は空席、もう片方には夢の住人が既に座っている。こちらの存在に気づくと相席を求めるように手招きをしている。
「おはよう。で良いのか分からないが、今回はティータイム的な演出なのか?」
テーブルの横まで近づくと、紅茶とスコーンやケーキなどが乗せられているスタンドがある。
「おはようで良いんじゃないかしら。今回は貴方が働く場所をイメージしてみたんだけど美味しそうに見えない?。前回貴方が買って食べたチョコレートも中々美味しかったけどね。」
この空間はあくまで俺の夢の中という事で、俺の記憶にあるものならある程度再現出来るらしい。味などは俺が感じた味覚ベースの結果が出るそうだ。
「ああ。あれか。丁度良い位の甘さで飽きない奴だった。確かに美味しかったな。」
紅茶に口を付けている彼女の前の席に座り、話しかける。
「それで?急にここに来たのだけど、もしかして何か緊急なのがあったりするとか?」
「いいえ、特にそういったのは無いわね。単純に貴方が寝ていたからお茶でもどうかと思って誘っただけよ?」
特に用は無かったらしい。こちらも時間は大丈夫の為、茶会に付き合う。
「とうとう今日という日が来た。という所かしら?意気込みはどう?」
「意気込みと言われてもなぁ…。頑張るとしか言えないかな?」
「彼らのこれから起こりえる先が見えるというのに随分とやる気が無い返事ね。心情は穏やかじゃないと思うのだけど。」
隠せないと分かっていたが、せめて口だけでも本心を隠してみたが意味は無かった。
「そりゃ、これから起きる事を考えたら落ち着いている方がおかしいだろ?二人を見捨てようとしてるんだからな。」
「でも仕方ない事って割り切ったんじゃないの?必要なんでしょ?彼が一度死ぬことは。」
「そうだが…。いや、考えて駄目だと決めた事だし今更どうこう言うのは止めるか。そうだな、高嶺昂晴が今日交通事故で死ぬのは物語として必要不可欠。この物語が始まるため仕方ない展開って事だな。それがあったが為に、幸せになるためのこれからを謳歌していく。明月栞那。四季ナツメ。墨染希。火打谷愛衣。汐山涼音。彼女らの誰を選ぶかは分からないが…。」
「幸せな未来を掴み取れる様にサポートして行くって事よね?」
「そんな感じだな。役に立てるか分からないけど。」
「……ふーん。そう。」
「…?何か問題でもあるのか。」
急に目線を下げ、意味ありげな声を出す。
「別に。その割にはあまり歩み寄っている様には見えないと思っただけ。」
「いや、そんな事だろ。確かに直近はあまり会っていない事の方が多いけど。それに明日からは嫌でもほぼ毎日顔合わせる事になるからな?。」
「私が言いたいのはそんな物理的な話じゃないわ。精神的な事を言ってるのよ?」
「俺の…?」
「気づいていないのか蓋をしているだけなのか分からないけど。貴方は彼らや彼女らをどこかまだゲームや物語の登場人物として見ているのよねぇ。話す時は苗字とかでちゃんと読んでいる。けど自分の中ではいつもフルネームよね?」
「まぁ…。確かにそうだな。」
「そういった小さな所に壁を作ってるんじゃないの?自分が違う世界の人でこの世界の人では無いとか、彼らの物語に余計に割り込んでしまっているとか考えたりもしているしね。」
「それに関しては実際にその通りとしか言えないし、事実だろ?」
「その考えがいけないと思うのだけど…。そこは今後一緒に過ごしていく内に払拭されることに期待かしら。貴方も彼らもこの世界で生きている事には変わりないのだから。」
どうやら勝手に結論付けてしまったらしい。
「それと、気になっていたのだけど……彼、今日の交通事故で一度死ぬのよね?」
話の流れからして彼とは高嶺昂晴の事だろう。
「そうだな。さっき言った通り。」
「その時に彼女、ええと四季ナツメさん?も巻き込まれて一度死んでしまうのよね?二度目の世界では一度目の死ぬ際に死への肯定があったが為に魂が零れ落ちてしまって危うくなる。で良いかしら?」
「当たっている。魂が弱り切っている為、結構危険な状態になってしまう。色々と諦めてしまっているからな……。彼女は。」
「貴方の記憶では、彼が四季ナツメさんを好きになる事で彼女に生きる活力…、一緒に生きていきたいと思えるような希望を見せてくれる。そんな感じで良い?」
目の前の彼女の質問に肯定をして頷く。
「もし彼が彼女を選ばず他の女性を選んだ場合は…、特にこれと言って何かが起きているわけじゃないのね。」
「そこは……仕方ないかと。個別のシナリオに入らない限りヒロインの事はあまり描かれないからな。逆に言えば高嶺昂晴が四季ナツメと結ばれる物語にならなければ倒れたりはしないかもしれない。」
「なるほどね…。これは他の人達にも言える事なのかしら。つまり彼が四季ナツメさんを選ばなければ魂が衰弱しているが為に倒れてしまう。というイベント?が起きる必要は無い訳ね。」
「シナリオの大事な場面だしな。それがあった事で自分の気持ちを否定せず高嶺の告白を受け入れるという一大イベントになる。」
「で、貴方は彼が結ばれるならあの子…死神の子が良いと思っているのよね?」
「……ああ。彼女…、明月栞那と結ばれるのが一番良いかと考えている。他と違って彼女を救えるのは高嶺しかいないからな…。」
「それはそうね…。過去に戻るなんて超常現象を起こす…、貴方には到底無理そうね。」
「そりゃな。あいつの魂だからこそ出来た事だし。」
「それなら、四季ナツメさんが今日の事故で死ぬ必要性ってあるのかしら?」
彼女からの唐突な質問が出てくる。
「何言って…そりゃ必要に……。いや、待てよ。」
どうして当たり前の事を聞いてくるのだろうと思ったが、よく考えてみる。確かに高嶺昂晴と結ばれないのなら魂が衰弱している話も倒れる場面も起きない。他では店を開けたことで少しずつだが夢を追いかけれているという前向きな気持ちを持つことが出来ている筈。あくまで高嶺昂晴と結ばれる為に必要な要素の一つだとしたのなら…。
「なんとなく気づいたかしら?別に彼女が死んで魂が弱まる事は要らないかと思ったのだけど…。彼と結ばれないのならば。」
「そうかもしれないが…。それは物語に影響を与えてしまわないかの心配が残ってしまう。」
「そこは問題ないんじゃない?既に貴方が居る事自体が影響も問題もありまくりでしょ。」
少し呆れ気味で返してくる。全く持ってその通りとしか言えない。
「じゃあ、四季さんを助けるのは大丈夫なのか…?」
「貴方が助ける事で多少なり原作?との違いが出て来るかもしれないけど…、そこは貴方が何とかしたら良いんじゃない?それも含めて彼女の助けになるつもりなんでしょ?」
「ああ…。既に相違点を生んでいる可能性があるし。と言っても四季さんに限らず全員の事を可能な限り見るつもりだ。」
「なら助けても大丈夫じゃない?」
「俺が助けても良いのか?」
「私に聞かないでよ。そこは貴方の気持ちが大事なんだから好きにしなさい。」
「じゃあ助ける。それで四季ナツメが少しでも良い傾向になってくれるのなら喜んで助ける。」
「そう。それじゃあ行ってらっしゃい。まだ時間はあると思うわ。」
「ああ。場所はそんなに離れていないし大丈夫だと思う。」
そうと決まると、席を立つ。
「やっぱり待ちなさい。」
「ん?どうしたんだ。まだ何か。」
「折角お茶会って名目なのに一口も飲まないのはどうなのかしら?」
「……あ、ああ。それもそうだな。」
こっちは少しでも早く起きたいのだが覚めるかどうかは向こう次第の事もあり下手に逆らわない方が良いだろう。テーブルにある紅茶を口にする。どこか懐かしい様な味の気がした。恐らく叔父が淹れていた味に近い。俺の記憶から再現したのだろう。
「紅茶だけで良いの?色々と用意したのだけど…?」
「紅茶だけでも十分。感謝する。久し振りに懐かしい味が飲めた気がする。」
「残念。でも味が判るようで安心したわ。」
そう言って彼女は紅茶に口を付け飲む。すると周囲の景色が少しずつ明るみを帯びていく。そろそろ終わりの合図が来たという事だ。
「貴方がこの世界では幸せな人生を歩めるように……応援しているわ。頑張って。」
「そこは保証は出来ないが…、高嶺昂晴の事が無事終わったら考えてみるさ。」
中途半端な返事をする。周りが光で包まれていく中、少し困った様な表情で、相変わらずね。と口を動かしているのを確認したのを最後に夢の世界は終わりを告げた。
目を覚ます。数秒間頭が働かなかったが夢の事を思い出すと直ぐに覚醒した。急いで体を起こし外を見る。まだ日は上っているから少なくとも夕方では無い事は確かだ。スマホでも確認はしたがまだ猶予はあるはず。事故が起こる正確な時間帯が分からない為、悠長にはしていられないが。
「急ごう。駅前なら時間は掛からない。」
ベットから起き、着替える。念のためスマホを持ち家を出る。エレベーターのボタンを押すが少しの待ち時間が長く感じた。建物から出るや駅まで走る。この世界に来て初めて本気で走った気がする。まだ完全に治りきってはいない足から痛みを感じるがそれどころではない。
大通りに出て駅方面に向かう。この時間帯でも車と人は思ったより多く居た。
「恐らくこの場所のはずっ。」
目的の場所であろう交差点に辿り着き周囲を見る。が、目的の二人は見当たらない。まだその時では無いのだろうと考え息を整える。問題は四季ナツメがどこ側から向かってくるか…。高嶺昂晴は恐らく大学側からだとは思うが、彼女は確かウェイトレス服を取りに行く日。行く途中なのかその帰りなのか…。
信号が何度か変わるが一向に姿は見えないそもそもいつになるか分かっていない。直ぐなのか一時間後なのか…それまで気を抜けない状態になる。
「事故はまだ起きていない…。これからなら救う事は可能。高嶺は駄目だが巻き込まれただけの四季さんだけなら大丈夫だ。」
自分に大丈夫だと言い聞かせている内に、ふと夢の中の事を思い出す。
「なるほど…。さっきみたいに呼び方を分けているのが…か。」
あまり意識はしていなかったが無意識に分けている所を見るとやっぱり自分の中で壁を作っていたのだろう。
「これから変えるように意識していくか…。」
焦っていた気持ちが少し落ち着き余裕が出てくる。
「……ていうか電話すれば一発だろ。馬鹿か。」
普通に考えれば分かる事なのに。なんなら家から出る時点でしていれば良かったと後悔しながら電話を掛ける。何回目かのコール後電話に出た。
「もしもし?澤田君?どうしたの。また急に電話をして来て…。」
「四季さんっ。今どこにいる?もしかして外か?」
「え?外だけど?前に話したウェイトレス服あるでしょ?。今日受け取りだからそれを取りに行こうとしているのだけど…。何かあったの?そんな焦って。」
「今どこにいるっ。駅の近くとか?」
電話越しに車が通る音や人の声が聞こえる。
「今?駅の近くを歩いているけど…?」
まずいと感じ、辺りを見渡すが姿は見えない。もうすぐそこに来ているという事は時間が無い。再度スマホに意識を向ける。
「今その場から動かないで欲しい。もし横断歩道が近いならその場をすぐに離れてくれ。」
「え、それってどういう事…?急に言われても困るだけど……あ、もしかして反対側に居るの澤田君?」
電話越しからの声にまさかと思い、顔を上げる。と同時に周囲の人達が動き出す。信号を見ると青に変わっている。反対側を見ると赤いコートを着た女性がこっちに手をひらひらと振りながら横断歩道を渡って歩き出しだした。スマホから、『やっぱり当たってた。』と声が聞こえたが、それを無視し全力で走り出す。近くで悲鳴が上がると同時に何かが激しくぶつかるような音が鳴り響く。視界の隅で2台の車が衝突したのが見えた。
(……間に合ってくれっ!)
四季ナツメまで後少し…。彼女は走ってくる俺に驚いたが、衝突音を聞くと視線をそっちに向けていた。
ぶつかり合った車は停止せず1台がこちらに向かってくる。このままだと完全に轢かれる未来が待っている。
「四季さんっ!」
周囲の人を手で退かし彼女を庇うように抱き、飛び込む。直ぐ傍から悲鳴が上がったが気にしていられない。彼女が地面と頭が当たらない様に反対側の手を後頭部に添え自分の方から落ちる様に肩を出す。真後ろで車が通りすぎた風切り音が聞こえた。と同時に何かとぶつかる音がした。金属では無く、それよりか柔らかい何かに…。
地面とぶつかり肩に痛みが走ったが、そんな事より安否の確認を急いだ。
「無事かっ!?」
「え、あ、うん。無事だけど…?」
何が起きたかちゃんと把握は出来てはいないが車に轢かれずに済んだ事は理解は出来た様だ。
「良かった…。間に合って安心した。」
「う、うん。もう轢かれたと思ってたから…。」
何とか間に合ったと安堵する。これで四季ナツメの死は回避出来たと思って良いだろう。
そう考えた瞬間、悲鳴が上がる。悲鳴とは別に何かが大きな音を上げ、こちらに向かってきた。反射的にそちらに顔を向けると車が真っ直ぐこちらに向かって来ていた。車の側面に何かとぶつかった様な跡が見えた。
(ーーは?)
一瞬完全に思考が停止した。何故まだ車がこちらに向かってくるのか理解できなかった。既に事故は起こった後だというのに。
(まずいっ!)
二人とも地面に座り込んだままで今から避けるのは不可能だと判断し、彼女を庇うように抱きしめ、車に背を向ける。
直後背中に体験した事の無い衝撃を受けた。上下の間隔が狂い、何度か体を固い面にぶつかっている感覚を感じた。
体が衝撃を受けなくなって状況を把握する為に目を開ける。が体が上手く動かせなかった。頭から足先まで自分の体では無いような感覚に襲われる。だが轢かれたことだけは認識することが出来た。
上手く動かせない体を何とか起こし、目だけを動かして周りを見る。辺りから聞こえてくる声や音が物凄く遠く感じる。
「四季……さ…んは…?」
声を出したつもりだが口からは出ず、喉でノイズみたいな音が出た。視界もぼやけよく見えない。自分の体を見ると、あちこちから大量に血が出ており体の一部は普段とは違う方向を向いていた。以前怪我したナイフでの傷が可愛く見える。
顔を上げると少し先に自分の血とは違った赤い色をしたコートが見える。が、その人物は地面に伏せていた。
動かない体を無理やり這いずりながら近づく。不思議と痛みは感じなかったが、自分の体の中か何かが漏れ出ている感覚がしている気がする。
倒れている人物の傍まで来た。よく見るとコートとは別の赤が自分と同じ様に体から大量に出ている。覚束無い頭が理解を拒む。知りたくないと思いながらも倒れている人の髪を掬い、顔を確認した。
「四季………さん…。」
髪は乱れ、傷を負い、血があちこちから出ているが、見間違い無い。倒れていたのは四季ナツメだった。
「四季さん…?」
掠れた声を出すが返事は来ず、目は意思も感情も持っておらず、どこかを見ている様で何も写してはいなかった。
彼女の状態を確認しようとしたが脳がそれを否定する。もう分かっていた。よく確認せずとも助からない状態である事は理解できた。
ーーー彼女は、もう死んでいる。
それを頭が理解すると激しい吐き気と眩暈の様な感覚が襲ってくる。助ける事が出来なかったと…。
なぜ2回目の事故が起きたのか、俺だけ生きているのか頭の中がぐちゃぐちゃになる。
視界の隅で青く光る何かが映り、それを見る。よく見ると沢山の蝶が居た。それらは近くの一ヶ所に集まる様に飛んでいる。あれは恐らく高嶺昂晴に集まっているのだろうと分かった。となるとこの世界はもうすぐ改変されるのだろう。原作通りに。
半ば諦めた様な気持ちが出ながらも彼女の手を握る。お互いの傷や血でおかしく感じたが、あの日、お店の二階のベットで寝る際に握った手だった。
そう思うと後悔が押し寄せる。あの日宣言した事を思い出してしまった。
次第に意識が薄れていく。体の感覚も良く分からないが、この世界が終わる最後まではせめて手だけは握っていようと力を入れるが上手く行かない。
(ごめん四季さん…。だが…。)
消えていく意識の中で確かな誓いを決める。
ーーー今度は必ず。
ーーーーーー必ず君を幸せにして見せる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー他の誰かでは無く俺が。
君をーーーー必ず救って見せる。
たとえ世界が書き換えられたとしても、この誓いだけは忘れない様にと強く心に想ったのを最後に、意識はそこで途切れた。
その瞬間、世界は白く包まれた。
広がるのは暗くも薄らと青く照らされている風景。その中で他とは違い、光に照らされている場所がある。そこには一人の女性がテーブルに座り、紅茶を飲んでいた。
「どうやら…、駄目だったみたいね…。」
紅茶を置き、寂しそうな表情で呟く。
「でも…、収穫もあったと、そう思う事にしておきましょう。ね?」
反応を求める様に、肩に乗っている青い蝶に話しかける。蝶はそれに答える様に羽を動かす。
「そうね……、彼には二度も同じ事を体験させてしまった事は反省しているわ…。けど、今回で彼は強く想ったと思う。怪我の功名とは言いたくないけどね。」
「確かにそうかもしれない。けど、人の魂は思ったより強い物よ?心の奥底から願った誓いや想いはたとえ世界がやり直されてもどこかに残ると思うわ。きっとあの子のも、次に迎える今日でも消えることなく活かされる筈。そう思う事にしましょう。」
私達にはそれ位の事しか出来ないのだから…。と、肩に乗っている蝶にそう返事をし、静かに紅茶を飲んだ。
原作に無事追いつくことが出来ました…。
今回のこの世界は人々の記憶からは無くなりますが、消えず残る物や、引き継がれる物があり、彼のその想いが何処かで活かされる事でしょう。
今回の話で切りが良いので、ここまでを第一部にしておこうかと思います。一応この物語は次の二部で終わる事になりますが…。いつ書ききれるか分かりませんがそれまで読んでもらえると嬉しいです。
第二部も内容は大体決めているので直ぐに上げる様に頑張ります。が、その前におまけを挟みます。気が向いたらこれまでの感想とか書いていただけると助かります。どんな感想を持ったのか気になりますので…。