喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

32 / 101
ここから第二部?原作の始まりからとなります。前話と同じく9/28のお話です。今回は2度目の世界になってはいますが。

書いていく内に区切りを見逃し、オープニングまで進めて文字数が増えてしまいました。




第30話:始まりの日

窓からの日差しで目が覚める。スマホを確認するが、どうやらアラームをセットしている時間より少し早く起きてしまった様だ。

 

「二度寝には時間足りないし、寝ても夢の中であいつと会うだけだしな……。起きるか。」

 

少し前から寝るとちょくちょく夢の中で謎の少女が出てくる。聞いても正体を明かしてくれなかったのでそう呼んでいる。夢の中では彼女とその日にあった事や、最近の出来事を報告したり、映像ベースで確認したりする。個人的には自分の生活を見られている様で恥ずかしいが、彼女は飽きずに楽しそうに見ている。夢の中でしか出られないから少しでも娯楽要素が欲しいのだろう。

 

「今が昼だから…。今日の昼過ぎから夕方辺りか…。」

 

今日が原作初日の9/28。遂に来てしまった。今日から高嶺昂晴の物語が始まる。

 

空腹の為食事を済ませ、本棚の端に閉まっている一冊のノートを取り出す。『喫茶ステラと死神の蝶』と書かれたタイトルのノートだ。覚えている内に可能な限り原作のフローチャートを書き込んだ一品だ。選択肢時の台詞からチャプター内で繰り広げられた会話内容など、様々だ。本棚の隙間に挟んでるため意図的に探さない限り見つけられないはず。

 

「取り敢えずはお店を開くまでの期間を無事乗り切る事が最初の課題になるのか。」

 

オープンまでに準備する物、足りていない設備、人。やる事は沢山ある。それをこなしていくためには高嶺昂晴の存在が必要不可欠。オープン後も暫くは気を抜けないはずだ。慣れて来た頃には11月になっておりどのヒロインと関係が深まっているか注意しておかないといけない。明日から12月までは高嶺昂晴の様子を確認しつつ、仕事をしていく事になる。流石に1人では無理なので明月栞那や閣下。必要なら四季ナツメにも協力を仰ぐと考えていた方が良いだろう。

 

「まぁ……。なんとかなるだろう…。可能なら火打谷愛衣の事もなんとかしておきたいが…、望みすぎかもしれないな。」

 

高嶺昂晴が明月栞那を選べば一番やりやすくなるのだが…。彼女を救えるのは主人公ただ一人だから。その場合、四季ナツメをどうにか希望や夢が持てるようにしなければならない。今の内からでも働きかけてはいるが、駅前で感じた様にまだ足りてはいなかった。

 

「大事…なのは、今日の勧誘を成功させること……だな。ふあぁ…。ねむ。」

 

腹が満たされ気を抜いたからか急に睡魔が来た。起きることも出来なくは無いが、時間はまだ余裕がある事だし少し横になっていようと体を倒した。先ほどより大きなあくびをして目を閉じていると次第に意識が落ちていく。

 

「…っと、危ない。()()寝落ちしてしまう所だった…。」

 

寝ぼけかけた頭を横に振る。

 

「……ん?また…寝落ち?」

 

ふと疑問に思う。()()と自分で言っていた。何故また、と言ってしまったのだろうか。寝落ちしてもまだ一度目の筈だが…。

 

不思議に思っている内に、ある可能性が浮かぶ。

 

(まさか…。既に二度目の9/28を迎えているのか…?)

 

寝ぼけていた為勘違いをして言った可能性もあるが、今言うのはタイミングが良すぎる。

 

「念のため、一度確認を取った方が良いかもしれないな。」

 

もしそうだとしたら、既に一度目は終わり、原作が始まっている事になる。早めに()()()()()()()()()に聞いておかなければ。

 

寝床から体を起こし、お店に向かう為に支度を始めた。

 

 

 

店に着き、扉を開く。運よくフロアに二人が居た。何やら話し合っているようだが、十中八九奇跡の事だろう。

 

「え?澤田さん?どうしてお店に…?何か用事でもありましたか?」

 

俺の顔を見て明月さんが驚く。一度目には無かった展開で不思議に思っているのもあるんだと思うが。

 

「澤田達也か。貴様がこのタイミングで来るという事は何かあったのか?」

 

「二人に聞きたい。というか確認みたいなもんだが……。今日は何度目の9/28になる?」

 

「っ!澤田さん…もしかして覚えておられるのですか?」

 

「その反応って事は、…そうか既に一度目の9/28は過ぎていたんだな。それと、残念ながら俺は一度目の記憶はどうやら持ち越してはいないみたいだな。」

 

この世界の住人では無いのと死神もどきみたいな生命体だからワンチャンあるかと思ったが…、どうやら無かったらしい。無くても分かるから関係ないかもしれないが。

 

「貴様の想像通り、今日は二度目の9/28…という事になるな。」

 

「じゃあ、高嶺は既に奇跡を使ったんだな…。」

 

「その口ぶりからすると、やはりこうなる事を知っていたな?なぜ黙っていた。」

 

怒気の含んだ声がミカドさんから出る。

 

「止められたくなかったから…って言ったら納得して貰えるか?」

 

「それはつまり、高嶺昂晴が事故で死に、奇跡で今日をやり直すのを吾輩達が止める恐れがあったと言っているのか?」

 

「もしかしたら…位の可能性だったけど、何かの拍子で事故が起きなくなる要因をなるべく作りたくなかった。今回のは…条件に必要不可欠だった。」

 

「澤田達也。自分の言っている事が分かっているのか?今回の事故で死んだのは高嶺昂晴だけでは無いんだぞ?」

 

「知っている。……四季さんもだろ?最悪な事に事故のせいで魂の一部が零れてしまって更に危うい状態になってしまった事も全部知っている。そうなると知っていて……見捨てた。」

 

覚悟していたつもりだったが人から改めて指摘されるとかなりくる。が、否定できない事実でもある。

 

「貴様がそうした理由はなんだ?救えたかもしれない魂だったのだぞ。」

 

「……高嶺昂晴が、幸せを目指す為に必要になる鍵の1つだからだ。」

 

「それは一体どういう意味なのですか…?ナツメさんの魂が零れ落ちてしまった事と関係があるのですか?。」

 

「すまないが、詳しくはまだ話せない。あくまで可能性の1つとしてになるのだが…。」

 

「貴様が以前に話していた別の道の話か。」

 

以前大学に行く前の話を思い出した様だ。

 

「ああ。もしそうなった時に必ず必要になってくる。だから無くす訳には行かないと判断した。」

 

「仮にだが、もし必要にならなかった時はどうするのだ?四季ナツメの魂の一部が零れ落ちた意味が無いとなったら彼女はどうなる。」

 

ミカドさんは何となく予想が付いたのだろう。高嶺が四季さんを救う事になる未来があることを。しかし、その可能性も十分にあり得る。寧ろそうなる可能性が高いかもしれない。

 

ミカドさんの言葉を聞き、覚悟を決める。息を吸い腹部に力を込める。ミカドさんを正面から見る。

 

「その時はーーー俺が何とかする。」

 

「貴様がか?」

 

「ああ。結果がどうなれ彼女の事は救いたいとは考えていた。もし四季さんに何かあれば俺が責任持って解決に当たる。」

 

「可能なのか?、それは。」

 

「最後は本人の気持ち次第になってしまうが、夢を望みたいと。生きていきたいと思えるように導く……とまでは言わないが、サポートする。」

 

見捨てた事に対する罪滅ぼしにもならないけどな。

 

「取り敢えず四季さんのは直ぐにどうこうなるものじゃないから一旦置いておこう。それより急ぎの問題があるからな…。」

 

「ああ、高嶺昂晴の件だな。」

 

ミカドさんの声のトーンが下がる。

 

「今回の…時間を巻き戻してしまった事についてですよね…。」

 

「そうだ。魂が大きくなっていたのは分かっていたが…、奇跡を起こせる程になってしまうとはな……。吾輩にとっても完全に予想外だった。」

 

「その、、高嶺さんはどうなってしまうのでしょうか…?」

 

明月さんが不安な顔で問いかける。ミカドさんから出る答えは決まっている。

 

「起こしてしまった以上どうしようも無いが、その様な奇跡を起こす人間など放っておく訳には出来ん。奴の魂を刈り取らねばならん。」

 

「その場合、高嶺さんは……あの子はどうなってしまうのですか?」

 

「残念だが、転生の機会は失われ、次が訪れることは無い。」

 

「じゃあ、魂は満たされることはないままじゃないですか。」

 

「そう言う事になるな…。」

 

「それは……そんなの……、寂しすぎますよ……。」

 

「あの子は…幸せを望んであんなに頑張っていて、私が最初の言葉を信じて、幸せになろうとこんなにも頑張ってくれたかもしれないのに……。」

 

「栞那、お前の言いたい事は分かる。だが、このまま奇跡を放置しておく訳にもいかん。それは理解出来るだろう?」

 

「それは…そうですけど……。何か、何か他に方法は無いんでしょうか?」

 

「………。」

 

ミカドさんが目を閉じ、静かに息を吐く。

 

「……っ。」

 

何も言わないミカドさんを見て察したのだろう。悲しそうに目を伏せる。

 

「………残念だが、他に方法は無い。と、吾輩なら答えるだろうな。だが、澤田達也。貴様は違うのだろう?」

 

目を開け、どこか確信を持った顔でこちらを見る。

 

「いつ言ってくるかと待っておったが、静観しているからな。今までの貴様の会話から今回の件は解決出来る事なのであろう?」

 

ちょっと待て。このタイミングでこっちに振るのか。そりゃ出来るが、今からそれを明月さんが言うシーンなのに。

 

「あー、まぁな。一応救う手立てなら分かるが…。うん。」

 

「あるのですねっ。高嶺さんが助かる方法が……!」

 

「ある。と言っても恐らく明月さんが思いついている事と同じやり方になるが…。」

 

「栞那と同じ……?」

 

「じゃあ、俺の口から説明させてもらうが…。まず高嶺の魂だが、何度も満たされない人生を繰り返し、次第に強力な魂へとなってしまった事で奇跡を起こせる程になっている。奇跡を起こしてしまう原因は、これまで同様に幸せになれずに人生を終えてしまうからだ。このままだとまた同じことが起きてしまうかもしれない。」

 

「それなら高嶺が、『人生をやり直したい!』って思う事が無い位の幸せを送れることが出来れば問題はなし。けど、ミカドさんとしてはそんな魂を傍観しておく訳にも行かないから刈らなければいけない。ここまでは大丈夫?」

 

「ああ。大丈夫だ。」

 

「そこで、高嶺昂晴の魂の一部だけを刈り、力を小さくすれば奇跡は起こせないように出来るって話になるのだけど…。」

 

「だが、それでは奴の体がもつまい。魂を刈る行為での影響は決して小さくない。魂を失えば体へのショックが起こる。」

 

「そうだな。普通にやるなら高嶺の魂が持ち堪えられずに、そのまま死ぬ可能性が高い。そこでだ。」

 

「彼の魂が危機を乗り切れるまでの間を他の魂で補えば良い。一時的なショックだから乗り切る事さえ出来れば後は問題ない。そうだろ?明月さん。」

 

答え合わせの様に彼女を見る。驚きながらも何度も頷いている。

 

「もしや貴様…。高嶺昂晴の魂を自分ので補うつもりか?」

 

「いや、残念ながら…、それをするのはーー()()()()()。」

 

「貴様では無いと言うなら……。」

 

ミカドさんが明月さんを見る。そうすると、彼女は決心した顔つきで口を開く。

 

「その役目、私が担います。担わせて下さい。」

 

「その言葉の意味、理解して言っているのか…?」

 

「はい。勿論理解して言っていますよ?それを踏まえての言葉です。」

 

「それは明月栞那という存在が維持できなくなる意味を示すのだぞ?それでも良いのか?」

 

「残念ですがミカドさん。高嶺さんの魂を私が補っても、私が消える事はあり得ません。」

 

「どうしてそれが言えるのだ。」

 

「だって、そうなるなら澤田さんが止めるはずです。ですよね?澤田さん。」

 

今度は明月さんの方から答え合わせの様にこちらを見てくる。

 

「ああ。それについては大丈夫だと俺が約束しよう。更に言えば高嶺昂晴の魂が問題なく安定する所までお墨付きだ。」

 

「とのことですよ、ミカドさん?」

 

明月さんからの言葉にミカドさんは目を閉じ、諦めた様な表情をした。

 

「はぁ……。やはり今回の件は貴様の中で解決可能な事だったのだな。全く。」

 

「それではミカドさんっ……!。」

 

「待て、了承したわけではない。此方で勝手に進める訳にはいかないからな。この件については一度掛け合ってみよう。」

 

「ありがとうございますっ!よろしくお願いします。」

 

若干逸れた気がするが……、無事丸く収まった様だ。

 

(……というか、ミカドさんが俺に言ってくるという事は、明月さんの様に魂を分け与える事が出来る可能性が出て来たなこれ。)

 

恐らく出来ても使う機会は無いであろうが、試してみたい気持ちもある……が、自分が消えるのは嫌なのでやめておく事にした。

 

話がまとまり、何度か確認をした後ミカドさんが席を外し出て行った。

 

「それじゃあ、ミカドさんからGOサインが出ることを祈って、明月さんは刈り取る時のシュミレーションでもしておこうか。」

 

成功するとは思うが、言葉だけ大丈夫と言って安心させるより自分で体を動かした方が安心感が湧くだろうし。

 

「え、練習ですか……?練習出来る事では無いかと……ああ、澤田さんで試せばよろしいのですか?」

 

不思議そうにこっちを見たが、何か納得したように恐ろしい事を口にする。

 

「待て待て、落ち着け俺じゃない。あくまで仮でだ。素振りの様な感じでだ。」

 

「え~~、でもそれじゃあ、ちゃんと出来るか私……少し不安でして。」

 

「だからと言って俺に試し切りを試みようとするんじゃない。無事出来るって俺がさっき言っただろ?」

 

「しかし、澤田さんの予知が完全とは言えませんし…、何より澤田さんを信じすぎるのはよろしく無いとご自分で仰っていたではないですか。」

 

「確かに言ったが、今それを適応させなくて良いから。おいまて、どこからともなく鎌を出すな。ちらちらとこちらを見ながら俺の目の前で素振りを始めるんじゃない。」

 

「こうしろって言ったのは澤田さんですよ?言葉がちぐはぐですね…にひひ。」

 

嬉しそうな顔をしながら鎌を仕舞う。というか消した。どうやら、高嶺を助けれるのが嬉しいのと…、ちゃんとそれが出来るかの不安があるのだろう。それを少しでも安らげる為の笑顔。今の一連のおふざけも効果があったと良いのだが。

 

(てか明月さん。多分、さっきの鎌で俺が斬られたら…蝶で構成されている俺は蝶みたいに斬られた身体ごと消し飛ぶと思うのだが…。)

 

 

試す勇気も無いが、後でミカドさん確認しておこうと記憶の片隅に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココアが身に染みるなぁ……。」

 

あの話から時間が経ち、今俺は店入り口横のベンチに座り、一人飲み物を飲んでいた。

 

「後は3人が帰って来るのを待つだけだしな…。早く戻ってきてくれ。」

 

ミカドさんと明月さんは高嶺を回収しに出かけた。あれは端から見れば銃刀法違反での殺人未遂の上、拉致となる。役満でおまわりさん案件だ。大丈夫なのだろうか。

 

(ていうか死神に人権とか法とか効果あるのか?いやでも、二人とも一応戸籍持っていたし人か…。)

 

心底どうでも良い事を考えながら、通路に並べられている黄色のタイル。誘導点字ブロックをただ見つめていた。つまり暇だった。

 

外で待機しているのには一応理由がある。店の中で待ってて3人と会った時、不都合が起きる可能性がある。その為外で時間を過ごしていた。

 

「これならいっそ…、店から離れて四季さんを迎えに行った方が良かったかもしれん。でもなぁ…、一応俺が居るのかどうかの確認くらいはしておきたいよな。多分居なそうだけど。」

 

暇のあまり、一人言が口から出てくる。後どれくらいで来るのだろうか。外は暗くなっているからもうすぐだとは思うのだが…。

 

そう思った矢先、通路の奥から人影が見えてくる。

 

(足音は2つ……か。)

 

こちらに向かって来ている人を確認し、ベンチから立つ。なるべく自然体で歩きながら3人に近づく。

 

(もし…俺の推測通りなら…。)

 

徐々に距離が近づき、お互いの顔が認識可能な距離になった時、すれ違う相手に向けお辞儀をした。すると一番俺の近くを歩いていた女性がそれに気づき、お辞儀を返してきた。特に会話は発生せずそのまま過ぎ去っていく。

 

足音が離れるまで歩いてから後ろを見ると、丁度店の中に入って行く所だった。扉の上には『CAFE STELLA』と書かれた看板がある。

 

少しの間店を見たあと、またさっきまでいたベンチに戻り座る。頭を下げ、長い溜息が出た。

 

(いやぁ…。やっぱりそうなったかぁ……。はぁぁ…。)

 

先程すれ違ったのは間違いなく、高嶺、明月さん、ミカドさんの3人だった。それは間違いない。が、俺を認識したにも関わらずまるで知らない人かの様に挨拶を返してきた。

 

(って事はつまり……。)

 

今すれ違った3人は今の時間のではなく未来の……確か大晦日までの記憶を持っているはず。その時点で俺を認識していない事になる。

 

(となると、今回が最初になるという事なのか?)

 

店の中に居る3人の時間軸には存在せず、今回の世界でが初めて生まれ変わっている……?

 

(もしかしてこの世界は一直線では無くて、本当に別に分かれたりしているのかもしれないな…。)

 

俺が居たり居なかったりする世界があって、たまたまこの世界には存在していた。なんてこともあり得るのかもしれない。確認しようが無いため考えても仕方ない事だが。

 

「やはり店の中で待ち構えておかなくて正解だったな。誰だこいつ状態になって感動の場面が台無しになってしまうところだった。」

 

まだ中では話し合いが続いているのだろう。終わりのタイミングは四季さんが店に来た時になる。その時にはこの時間の3人に戻っている筈だ。

 

 

 

 

「澤田君?えっと…なにしてるの?一人でお店の外で座って……。」

 

店の中での内容を脳内で振り返りながら感動やら虚無感やら嬉しさやら寂しさよく分からない感情になっていたら唐突に声を掛けられた。

 

「お、…ああ、四季さんか。漸く来てくれたか。」

 

「私を待ってたの?何か用事があったら連絡してくれれば良いのに。」

 

「あー、いやいや。勝手に待って居ただけだから気にしないでくれ。目安としてただけ。」

 

「目安…?意味がわからないんだけど。」

 

「まぁまぁ、細かい事は気にせず、取り敢えず店に入ろう。」

 

ベンチから立ち上がり、扉を開け中に入る。フロアではミカドさんと明月さんが不思議そうな顔をして話し合っていた。

 

「こんばんは。」

 

中に入ると四季さんから2人へ挨拶を掛ける。

 

「あっ、ナツメさん。服の方はどうですか?」

 

「一応ちゃんと仕上げてもらった。着替えてみるから、念のためおかしくないか確認してもらえる?」

 

「はい。分かりました。待っています。」

 

会話を終え、四季さんは奥へと消えていく。ロッカーで着替えて来るのだろう。

 

(例の事件がその時起こるのだが……どんまい。あと高嶺は羨まけしからん奴だ。)

 

進んでいく四季さんの背中に合掌をしておく。どうか高嶺を撲殺しませんようにと。

 

「澤田さん?何をされているのですか…?」

 

一人で馬鹿していると後ろから明月さんが怪しんだ様に声を掛けてくる。

 

「いや、何でもない。気にしないでくれ。」

 

「もしかして……ナツメさんの着替えを覗くつもりでは…?」

 

「HAHAHA。俺はそんな事しないから安心してくれたまえ。」

 

あくまで俺はしない。俺はな。

 

「そのエセ外国人みたいな笑い方で誤魔化そうとしている様にしか見えませんが…。」

 

「そんな事より高嶺はどうしたんだ?回収しに行ったんじゃなかったのか?もしかして刈った後放置してきたのか?」

 

「ああっ、そういえば。お店まで運んできたような気もするのですが…。何故か記憶が曖昧で、、。」

 

「もしや…、遂にボケの症状が見えてきてしまったのか?そろそろ出て来てもおかしくない年代だしなぁ……。」

 

「誰がおばあちゃんですかっ!女性に対して失礼ですよ!その言い方は!……それに、死神に年齢とか関係ありませんからっ。衰える事などありません。」

 

冗談だったが、割とマジ切れされてしまった。

 

「じゃあ記憶がその部分だけ綺麗に抜け落ちている事になるな。」

 

「そう言う事になってしまいますが……うーん。」

 

「まぁ店で休んで貰っているならその内目を覚ますだろ。それと明月さん。いつも身に着けているマントはどうしたんだ?無いように見えるが。」

 

「そういえば…、あれ、どこに置いてきてしまったのでしょう。」

 

「寝かせている高嶺に布団代わりに被せて置いたとか?」

 

「なのでしょうか……記憶には無いのですが、、、ちょっと探してきますね。」

 

「了解。行ってらっしゃい。」

 

明月さんもマントを探しに奥に消えていく。次来るのは3人でだろう。

 

「さてと、それじゃあミカドさん。邪魔にならない様に端の席で待っておこうか。」

 

「急に話出したかと思えば、なぜ端に行かねばならないのだ。」

 

「この後、明月さんが戻ってきたら高嶺と四季さんと一緒に来て状況の説明を行うんだけどさ、その時にミカドさんが居たら話どころじゃなくなるかなと…。あと一旦猫の状態になっていた方が良いかも。明月さんが説明した後にミカドさんの話をした方がスムーズに事が運べると思う。」

 

「なるほど、一理あるな…。物事には順序が大事だからな。」

 

「そうそう。死神の話は半信半疑だけど、ケット・シーを見れば流石に信じてくれるし。」

 

「であれば、暫くの間ここで待つことにしよう。」

 

「その時が来たら合図送るから、会話に参加しに行ってほしい。」

 

「承知した。」

 

今頃高嶺は記憶を差し出すか、いっそ首ごと差し出すかの選択に迫られているだろうと思いながら、しばし待つことにした。

 

 

 

 

暫くすると、奥から3人が出てくる。お互いに自己紹介を終え、明月さんが本題に入る。俺やミカドさんが参加してこない事を察してかそのまま進めて行く。高嶺の状況、死神、魂、蝶。説明が進み、高嶺の状況が未だ解決していない事を伝えた時点で、ミカドさんに合図を送る。

 

「ミカドさん。」

 

「分かった。では行ってくる。」

 

「はいよ。いってら。」

 

ひらひらと手を振りながら見送る。てか俺はどのタイミングで出たら良いのだろうか。このままオブジェクトとなっておこうか?

 

出ていく機会を探っていく内に、何やらミカドさんの鳴き声が木霊する。何が起きているか察した。俺もモフってみたい。

 

聞き耳を立てると、どうやら高嶺に未練とか無いのかとミカドさんが問いかけている。あ、これはもしや…来るのか?あの大事件が。

 

少しすると、大きめの声で語尾にウェイと付いた男の声が店に響く。『俺も今日から陽キャになるウェイ!』と……。

 

店が静寂に包まれる中、口元を抑え、声が漏れるのを必死に抑える。反動に体が震える。堪えきれず鼻や喉から音が漏れ出る。

 

(いやいや!むり!これを我慢しろって言うのが無理なんだよっ!。リアルで聞くと更にひどいっ。声が付くだけでこんなに間抜けに聞こえるのか!?)

 

笑うのを必死に耐える中、店中に明月さんの爆笑の声が響き渡る。分かる。凄く分かるよそれ。

 

一通り笑い終え、落ち着いたのち、ミカドさんと明月さんが納得をした声を出し、明月さんが高嶺に問いかける。

 

『我々の、死神の仕事を手伝ってもらえませんか?』

 

『このカフェで一緒に働いて欲しいんです』と……。

 

 




はい。オープニング入りました。

主人公が出ていくタイミングが見つからずそのまま突入です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。