喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

34 / 101
GWはとっくに過ぎていました。はい。

高嶺昂晴が働くか働かないかの返事をする回ですね。原作で最初に選択肢が出た時、気になってNOと答えたのをよく覚えています。チーン。




第32話:決断の理由

 

店に着き、いつもの様に入口から入ろうとすると店の前に人が店の上、看板を見つめていた。

 

「あれ、高嶺さん?どうしたのですか、看板を見上げて。」

 

こちらが声を掛けると存在に気づいたのか一瞬驚きながらも返事をする。

 

「あ、澤田さん…いえ、昨日は暗い時に来ていたので明るい時はまた印象が違って見えたので…。」

 

「あ~、なるほど。確かに昼夜では雰囲気変わって見えたりするし、日が無いだけでも感じ取る印象って違うのはわかります。」

 

話しながら店の取っ手に手を掛け開く。勿論カギは掛かっていなかった。俺の後に続くように入り、「失礼します」と一言断りを入れていた。

 

中に入ると四季さんが目に入る。普段着では無くお店のウェイトレス姿でのお出迎えだ。謎の優越感を感じてしまう。

 

「お疲れさん。只今参上しました。」

 

「うん?澤田君と…高嶺君?ああ、どうも。」

 

こちらに気づき軽く挨拶を交わす。隣の高嶺を見ると、四季さんのウェイトレス姿を見ながら「……へー……」などと関心の声をあげていた。

 

「……ん?なに、どうしたの?」

 

「高嶺さんは四季さんのウェイトレス姿が似合い過ぎてて感心しているんだ。勘弁してやってくれ。」

 

「この服?それはどうも、ありがとう。」

 

着ている服を少し指で摘まみながら感謝を返すが、何とも微妙な顔をしている。

 

「因みに俺も大絶賛と言っておこう。マッチし過ぎて加算じゃなくて乗算になってしまう位だ。」

 

「意味わかんないだけど。」

 

さっきより微妙……というよりか呆れた顔になってしまった。

 

「ま、澤田君の事は放って置くとして、高嶺君…で良い?」

 

「ん?ああ。何でもいいよ、好きに呼んでくれ。」

 

「なら…覗き魔?」

 

「高嶺さん……既に前科持ちだったとは、しかも被害者は四季さんときたかっ。」

 

「いや、違う。変に誤解を招く風評被害のあだ名は止めてくれます?」

 

「風評被害?事実だと思うのだけど?」

 

「って言うか昨日の事はお互いに忘れるって話じゃなかったか?」

 

「……うっ、ぐむ……。」

 

どうやら自ら墓穴を掘り返したらしい、揚げ足を取られたとも言える。可愛い。

 

「そりゃ、確かに私から忘れろと言ったけど……、開き直られると、それはそれでなんかすっごい腹が立つな。どうせ本当は覚えているくせに……。」

 

「それはまぁ……はい。覚えています。」

 

「因みに……どのぐらい覚えている?」

 

「割と鮮明に焼き付いています。」

 

「まさか、昨日ので変な事とかしていないでしょうね。」

 

「おおっと、それは見逃せないな。高嶺さんがまさか昨日の四季さんの下着姿を想像して夜に如何わしい事をしていたとかけしからん。昨日起きた事で眠れない夜を過ごしていたかと思えば別の理由で眠れなかったとは……。」

 

「えっ、い、いや、そんな事は考えていない。」

 

「本当か?あの魅力的な淡い紫色の下着を一瞬たりとも脳裏に横切らなかったって誓えるか?男として。」

 

「………」

 

そう聞くと高嶺は口を開こうとしたが、口を閉じ無言になる。正直者め。

 

「澤田君…その話題で持ち上がらないでくれる?わざわざ詳しく聞かないでほしいんだけど。」

 

恥ずかしそうにしながらも少しきつめの口調で言ってくる。萌えポイントがお高い事で。

 

「…………ていうか、どうしてそれを澤田君が知っているの…?」

 

あっ…、と思った瞬間、四季さんがもの凄い速度で高嶺を睨みつける。

 

「い、いやっ!話していない!昨日の出来事は澤田さんにはなしていないからっ。」

 

突然睨まれたこともあり高嶺は慌てて返事をする。

 

「……本当?」

 

「ああっ!命をかけても良い。話していないって誓う。」

 

まずい。つい調子に乗って発言してしまったが、非常にまずい。場の温度が下がった気がする。

 

「……そう。じゃあ、それを何処で知ったのかしら…?」

 

ゆっくりを落ち着いた声だが絶対零度と感じれる様な言葉と共にこちらを向く。同時に顔を合わせない様に逸らす。

 

「おい。」

 

ある意味聞きなれたドスの効いた声が耳に入る。顔を見ていないが彼女がどんな表情をしているか容易に想像できる。更に言えば……俺が殺されることぐらいだ。

 

二人に背を向け、即座にその場の離脱を試みる。まだ死ぬわけには……いや四季さんに殺されるならそれはそれで……あり?

 

「あっ、逃げるなっ!」

 

後ろから叫ぶ声が聞こえるが無視し、奥へと逃走する。逃げた所で問題は解決しないが今は取りあえずこの危機から逃げねば。

 

奥の通路に入り、更に進もうとすると奥から明月さんと人間姿のミカドさんが居た。どうやら話し声が聞こえて出て来たらしい。

 

「わっ。澤田さん!?どうされたのですか、通路で走られて……。」

 

「ああっ、明月さんっ!助けてくれっ。ドジを踏んでしまい俺の命がやばいんだ!」

 

「っ!澤田さんの!?一体何があったんですか!」

 

こちらの慌て具合でただ事ではないと感じ取ってか真剣な顔で聞き返してくる。後ろのミカドさんも厳しい顔になっていた。

 

「時間が無いっ。取りあえず隠れれる場所をーーー」

 

「ねぇ…。どこに……隠れるつもり?」

 

「ひぃっ!」

 

背後から死刑宣告にも等しい声が聞こえ思わず背を正す。ゆっくりと振り返るとそこには見惚れてしまう様な笑みの四季さんが立っていた。

 

即座に明月さんの背後に隠れる。

 

「あばばばば。」

 

「さ、澤田さんっ!?それとナツメさん、どうかされたのですか?」

 

「ええ、明月さんの後ろに隠れている彼に少し用があって……、出来れば引き渡してほしいのだけど。」

 

「俺は何も用は無いっ。何も知らないし見てもいない!誤解なんだっ。」

 

「へー、誤解ねぇ……。それで通ると思っているの?」

 

「あばばばばっ。」

 

「ちょっと状況が分からないのですが……、澤田さんが何かナツメさんに失礼を働いた様ですね。慌てていたから何事かと思いましたよ。」

 

「全く、いらん心配をしてしまった。」

 

「何があったのですか?一体。」

 

「昨日、更衣室のロッカーで高嶺君に下着を…見られたでしょ?明月さんは知っていると思うけど、なぜかそれを知っていないはずの澤田君が知っていたから問い詰めているだけ。」

 

「ああ~、昨日の件ですか。確かに3人しか知らない事ですね。あ、勿論私は話していないですよ?」

 

「それは大丈夫。明月さんが知らないはずの事だから。直接見られたのは高嶺君だけ……けど、彼は話していないってさっき言っていたから。」

 

「なるほど…それは確かに不思議ですね。知る方法が無いのに知っているのはおかしいですね…唯一可能性があるとすれば高嶺さんが嘘の発言をしたになりますが……澤田さん、答えは如何ほどに?」

 

納得から、からかう様な顔でこちらを見る。ちくしょうっ。逃げ場はないのか!?

 

藁にもすがるような気持ちでミカドさんを見る。頼むっ。最後の希望なんだ!何とかしてくれ!

 

「……はぁ…。四季ナツメよ、一旦その話は後にしないか?今は高嶺昂晴の事を先に進めておきたいのでな。」

 

呆れてため息を出しながらも、ミカドさんは救いの手を差し伸べてくれた……!神よ……いや、ケット・シーよ……!

 

「閣下…?」

 

「この場では無く、後でちゃんとした場を設けてから聞くと良い。無論、こやつが逃げられない状況でな。」

 

なん……だと、まさかの延命されただけだと!?

 

ミカドさんをみると、『自分で何とかしろ。場は設けた』と言っているかの様な目をしていた。こんちくしょうっ!より事態は悪化の一歩じゃねーか!

 

「……分かった。今は閣下の顔を立てて保留にしておく。」

 

「すまんな、感謝する。では高嶺昂晴の所に向かおうか。」

 

ミカドさんと明月さんが歩き出すと、四季さんは道を譲り、端に立つ。隠れるように横を無事にーー

 

「逃げたら……、ただじゃおかないから。」

 

ーー通り過ぎることは出来なかった。

 

「ア、ハイ。」

 

小さく、だが確実に俺に聞こえる様に呟かれたその声に対して、ただ虚しく返事をすることしか出来なかった。

 

 

 

 

「高嶺さんっ、よく来てくれました。」

 

「よく来たな。高嶺昂晴」

 

フロアで待っていた高嶺はミカドさんを見ると不思議そうな顔をする。そういえばまだこの顔を見てなかったな。

 

「……誰だ?初対面の相手にいきなり……。」

 

「吾輩を馬鹿にしているのか?それとも、昨日の事をもう忘れたのか?人の体を散々弄んでおきながら…お前という奴は……。」

 

知らない顔をされたミカドさんは呆れた様子で返事を返す。

 

「はぁっ!?おまっ、何をいきなり!?」

 

「高嶺君って……そっち系の人だったの?意外…。」

 

「まさか高嶺さん、童貞では無くて……処女を捧げるのが未練だった……とか?」

 

「四季さんだけでは無く、こんなダンディな人にまで……幾ら未練の為とは言え欲望に忠実過ぎるのでは……?もしかして次は俺の番か?」

 

二人に続きボケを言う。乗るしかないよなこの流れは。

 

「そんなのこれっぽっちも考えた事無いから。」

 

「冗談ですよ、大丈夫です。ちゃんと分かっていますから。高嶺さんは攻め専門ですよね?」

 

「立役かよ……。俺がネコになるパターンじゃねーか。」

 

「役割の話をしてるんじゃないからな!」

 

「なんだ……そっか、違うんだ……残念。」

 

「え、なんで四季さんは残念そうなの?」

 

「ウソ、冗談。」

 

「悪ふざけをしてみただけです。そんなに慌てないで大丈夫ですよ、そちらの方はミカドさんですから」

 

状況がカオスになって来たところに明月さんがネタバレをする。

 

「その姿で会うのは初めてだから分からないだろうけどね。」

 

「え、あのケット・シーのか?その男が?昨日の?」

 

「あれとかそれとか無礼な呼び方をするな、全く。」

 

そういうってミカドさんは閣下モードになる。それを見て高嶺は驚きながらも疑問を投げかけている。

 

「というかお前もこの店で働くのか?」

 

「そうだ。因みに人間としての名は御帝貴紀だ、忘れずにな。」

 

「随分煌びやかな名前だな……。てか大丈夫なのか?猫が飲食店で働くとか。衛生面に問題ありまくりだろ。客に出した食べ物に毛でも入っていたら苦情出るぞ。」

 

「浅はかな…。ケット・シーは抜け毛などしないっ!」

 

「お前は昔のアイドルかっ!」

 

「高嶺さん、信じられないかもしれませんが本当の事ですよ?」

 

「そうね、私の服にも猫の毛が付いたことないしね。」

 

大丈夫かと心配する高嶺に二人が返事をする。神から授かった力って便利だな……。衛生面完備とか。まぁ、客に猫の姿で見られなければ不快には思われないし大丈夫だろう。

 

あれ?確かSNSで上げていたような……。「賢い猫だから厨房とかには入って来ないですよ~」って……。炎上して無さそうだったし大丈夫だろ、うん。

 

「いや、それより昨日の件を話したい。」

 

「……分かりました。お返事、聞かせてもらえますか?」

 

考えごとをしていると、大事な場面になっていた。返事をしようとしている高嶺に、明月さんが真剣な表情で待っていた。

 

「………俺はーーー」

 

返事を言おうとしたが、何か迷った様子で目を逸らす。

 

「正直迷っている…。始めは断ろうかと思っていたんだ、そんな荒唐無稽な話なんて到底信じれないから。けど、自分に置かれている状況とか色々考えてみたら……そうは言っていられないのかもしれないって思うようになって来てさ。」

 

これは際どいぞ、なんとか今は受け入れようとしているが……。明月さんは……って何か覚悟を決めた顔で深呼吸をしているが何を…?あ、昨日言っていた色仕掛けをしようとしているのか?よく見れば少し顔が赤いし恥ずかしそうな顔をしているし…。

 

ふと、こちらをみた明月さんを目が合う。俺を見て若干困った様子で笑う。そして再度高嶺を見て一歩前に踏み出しーーーたのを静止するように手を横に出しストップを掛ける。彼女から『……どうして止めるのですか?』と疑問の目を向けられるが、それに対して目を閉じ、首を横に振る。半分冗談のつもりだったがまさか本気で行こうとするとは……そういったの本当は苦手だったはず…。それほど高嶺を救いたいという事か。

 

彼女の本気を感じ、俺が行くことにした。目の前で男女のぎこちないイチャつきとか拷問でしかないからな。

 

明月さんを止め、高嶺の前に出る。

 

「迷う気持ちはよくわかるよ……、本などの作り話でしか見たことない事を急に言われても信じる事は出来ないよな。」

 

「そう……だな。未だに変な事に巻き込まれたんじゃないかと疑っている。」

 

「うんうん、現実味が無いし、損な事を手伝わされる可能性とかありそうだもんな。お店の開店の手伝いとか。」

 

「さ、さわださんっ!?」

 

後ろから驚くような声が出ているがそれに反応せずに話を続ける。

 

「そんな高嶺さんにお得な話をしよう。判断材料が少ないから返事に迷ってしまうからな。という事で、ミカドさん。奥のロッカーが置いてある休憩室をちょっと借りていい?」

 

「それは構わんが、何を話すつもりだ?」

 

「秘密。男と男の内緒話ってやつだ。少しだけ待ってて欲しい。終わったら戻ってくるからさ。」

 

高嶺を奥の部屋に向かうように手招きし、通路に向かう。不安な顔をしている明月さんを不思議そうにこっちを見ている四季さんが目に入る。ミカドさんはいうと、複雑そうな表情をしていたが、大丈夫と頷くと諦めてくれた。

 

「この部屋だな。」

 

ドアを開き、中に入る。置かれているパイプ椅子に向かい合うように適当に座る。

 

「さてと、早速話していきましょうか。」

 

「わざわざ個室にまで……あの三人には聞かせれない内容なのか……?」

 

椅子に座った高嶺は不思議そうに部屋を見渡しながら小さく呟いている。

 

「まず、高嶺さんが是非とも働きたいと思えるような話をしようじゃないか。」

 

手を大きく広げ、高らかに宣言する。こういうのは勢いが大事なのだ。

 

「この店、CAFE STELLA(カフェステラ)で働くことで何が高嶺さんのプラスになるかというと……。」

 

「はい…。」

 

手を前に出し、人差し指を開く

 

「まず、可愛い女の子と一緒に働ける。」

 

「……え?」

 

「考えてもみてくれ、今この店には君の大学で有名なあの孤高の撃墜王、四季ナツメが居る。彼女と同じ店…同じ空間を共に過ごすチャンスが到来だ。四季さんだけではない。もう一人の金髪の女性、死神のこと明月栞那。彼女とも一緒だ。しかも明月さんは高嶺さんの現状を一番に心配している。常に君の事を気に掛けていると言って過言ではない。そんな女性達と同じ店で働けば必然と会話をする機会も増える。友好を築けるわけだ。」

 

「同じ職場で働いていれば仕事終わりにどこかに食べに行くかもしれない。オシャレなバーに飲みに行くかもしれない。夜だし家まで送る事になるかもしれない…、その流れで家で少しお茶をするかもしれない。他愛もない会話から一緒に買い物に出かける機会があるかもしれない。二人で遊園地などの娯楽施設に遊びに行くかもしれない……。」

 

「そんな夢の可能性が出てくる。」

 

「は…はぁ。」

 

「2つ目は、働くことで明月さんやミカドさんが高嶺さんを守りやすくなる。」

 

「えっと、昨日言っていた魂の件がまだ解決していないって話……?」

 

「そう、現状はまだ何ともないがこのまま放置されることはまずない。今後挽回しないと何かしら問題が起こる事は間違いない。ミカドさんの目が届く範囲で行動した方が安心だと思う。何かあれば必ず明月さんが助けてくれるしな。勿論俺も助力する。」

 

「それは確かにそうだよなぁ……。」

 

「ついでにバイト探しも解決できるし美味しい条件だとは思う。家からは徒歩圏内、一緒に働く人と人間関係によるトラブルが起きる確率は低い。」

 

「そして、最後に3つ目。」

 

「可愛い女性と同じ屋根の下で働くという事はつまり……、ハプニングは付き物、という事だ。」

 

「ハプニング……?」

 

ピンと来ていない様子で聞き返してくる。

 

「そうだ。言ってしまえば、昨日の様な事故がまた起きてしまうかもしれない。」

 

俺の言葉が何を指しているのかを理解したのか、目を見開く。

 

「つまり……きのう、起きたあのような事が……?」

 

昨日の四季さんの下着姿を思い出したのか、発生現場辺りに目を向けていた。

 

「ああ。また起きる可能性はあるだろう。しかし、働くという選択をしなければその可能性はゼロだ。たとえ低くても1と0には絶対的な差がある。さっき話した可能性も勿論ゼロだ。」

 

その差を知ったのか少し悩む様子を見せた後、決心した顔でこちらを見る。

 

「やる。ここで働く。あ、いや。一緒に働かせて下さい。」

 

「ようこそ、CAFE STELLA(カフェステラ)へ。私たちは君を歓迎しよう。」

 

手を前に差し出し、お互いに握手を交わす。気のせいか、力が籠っている気がする。

 

「追加で言えば、今後も働いてくれる人を募集していくつもりだ。フロアの人を必要としているから女性を募集する可能性が高い。なにが言いたいか…分かるかな?」

 

「ああ。1をより大きい方へ引き上げる……そう言うことだろ?」

 

「更にもし高嶺さんが気になる人……意中の女性が出来たのなら全力でサポートしよう。職場で同性は俺しかいないからな。」

 

「ありえるかわからないが……。」

 

「前向きに考えて行こう。これは高嶺さんの未練……願いを解決していく事に繋がっていくから。」

 

「宣言は出来ないが、頑張ることにする。」

 

「今はそれで良いと思う。その時が来たらで……。さてと、話は済んだ事だしフロアに戻ろうか?三人が待っているしな。」

 

部屋から出てフロアに戻ると、何やら三人がこちらを見ていた。特に明月さんは不安げに俺を見ている。結果が気になるのだろう。

 

「お話はもう大丈夫なのですか……?」

 

「ああ、高嶺さんもここで一緒に働く事になった。安心してくれ。」

 

「本当ですかっ!?ありがとうございますっ。」

 

「高嶺さん、これからよろしくお願いしますねっ。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

二人はお互いに向き合いお辞儀を交わす。

 

「これからよろしく。」

 

「これから宜しく頼む。」

 

四季さんとミカドさんも続くように返事をする。

 

「よかった……引き受けてもらえて、ホッとしました。これで一安心です。」

 

「それにしてもどうして引き受ける事にしたの?奥で澤田君と何か話していたけど。」

 

高嶺が決心したことが疑問に思う四季さんから当然の様に質問が飛んでくる。

 

「い、いや、よく考えてみれば俺の命に関わる事だしさ。話を聞いている内にお店の条件も悪くないと思って。」

 

高嶺よ。声が上擦っているぞ、冷静になれ。

 

「そうそう、店は生活圏内から徒歩の範囲。人間関係とか面倒な事に悩む心配も無さそう。そして何より……。」

 

「何より?」

 

「四季さんや明月さんの様な可愛い女性と同じ職場で働けるっ!それだけで働く価値あり!……というわけだ。」

 

「いや、何がとういうわけなの?馬鹿なの?」

 

「澤田さん……。」

 

最後を力説すると二人から呆れてや哀れな物を見る視線が飛んでくる。ごちそうさまです。

 

「というのは冗談で、普通に現状の説明をしただけ。命に関わる事なら普通に協力するだろ?」

 

「ほんとうですかぁ~?昨日みたいなハプニングをまた期待していたりしていませんか?」

 

「まさか。命に関わる事なのにそんな事に余計な思考を割いている暇など……。」

 

同意を求めるつもりで横に居る高嶺を見る。その顔は何やら考えている様子だが……。駄目だ。エロい事を考えている顔に見えてしまう。

 

「高嶺さん……何かエロい事を考えてませんか?」

 

「いやいや、考えていないから。何を根拠に……全く。」

 

「どうですかね、何やら下心ありありな顔をしていましたからね。顔に出ていましたよ?」

 

「な、適当な事を言わないでもらえるかなっ、キミ。」

 

明月さんからの言葉に高嶺は慌てた様子で顔に手を当てた。おいおい、その行動だけでバレた様なもんだぞ。

 

「今の動揺だけで十分な証拠ですね。エロい事、考えていましたね~。にひひ。」

 

考えていた事がバレた高嶺だが、何とか逃げようと屁理屈を言うが明月さんが「屁理屈はモテない」をいう一撃であっけなく撃沈していた。

 

「おい。」

 

三人の会話を見ていると後ろからミカドさんに声を掛けられる。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「少し良いか?」

 

小声で話しかけてくる辺り、他に聞かれたくない様だ。三人から少し離れて会話を再開する。

 

「何か聞きたい事?」

 

「まぁな。先ほど貴様が高嶺昂晴と奥の部屋で話していたそうだが、何をしたんだ?」

 

「何をしたって…、普通に会話……というか説明をしただけだが?」

 

さっきも言ったがどうやらミカドさんは腑に落ちなかったご様子だ。

 

「具体的にはどんな内容なのだ?」

 

「あー、それは企業秘密って事で。あまり他の人に聞かせれる内容でも無いしな。でも……しいて言うなら。」

 

「言うなら?」

 

「人間の純粋な本能を搔き立てた……って事かな?ただそれだけ。」

 

お店でヒロインとエロハプニングがワンチャン来いっ!みたいな会話してたとかを言う訳にもいかないのでそれっぽい事をそれっぽい雰囲気で返す。さぁ!これで納得してくれ!

 

「詳しく話すつもりはないようだな。」

 

「それについてはすまないと謝る事しか出来ない。個人のプライバシーにも関わるからご勘弁。」

 

「分かった。だが一つだけ言っておく。」

 

前置きをしてからこちらを見る。流れから言いたい事は何となく想像できる。

 

「危険な事はしないようにな。もし何かするのなら吾輩だけでも良い、一言話してからすることだ。」

 

「大丈夫、重々承知しているから。その時は遠慮なく頼らさせてもらうから。」

 

そんな危ない事する気も機会も無いが、取りあえずきちんと返事はしておこう。保険として。

 

俺の言葉に満足したのか、うむ。と言って三人の場所に戻っていく。そちらに耳を向けると、コーヒーが飲める飲めないの話をしていた。聞いているとどうやら四季さんは大学のコンビニでコーヒーを買ったが飲めなかったらしい。挑戦する精神は尊敬できる。+1万点。だが砂糖入れすぎとは思う。-100点

 

「そもそもコーヒーは苦い物ばっかり。苦い物は毒なのに……毒を飲むなんておかしいと思わない?」

 

出た。伝家の宝刀『子供の屁理屈』である。もしかすると良薬という可能性もあるのでは無いのだろうか……いや無いか。

 

「そういう屁理屈って子供がよく言っているよな。」

 

「………」

 

高嶺の会心の一撃に恥ずかしそうに目を逸らしながら拗ねる。

 

「貴族ならコーヒーの嗜みくらいあったりしないのか?」

 

「水とミルク以外好まん。私は猫ぞ?」

 

猫にコーヒーを飲まそうだなんて愛護団体から訴えられるぞ。

 

「それじゃあ直ぐに準備しますね。」

 

そう言って明月さんはカウンターの中に入り、コーヒー準備を進める。高嶺に関してはもう大丈夫だろう。それより今日は例の人の来客日だ。

 

「澤田君。」

 

今日のこの後の展開を考えていると後ろから四季さんに呼ばれる。

 

「ん?何か用?」

 

「そうね。とっても大事な用事。私が言いたい事わかる?」

 

あ。これはあれですね、さっきの続きというわけですね。

 

「あー…、今は高嶺のコーヒーが先ではないのでしょうか…?」

 

「そっちは明月さんに任せているから大丈夫、それより澤田君と話して……聞き出しておきたい。」

 

優しく笑顔で言っているが纏っている空気が真逆にしか見えない。

 

「い、いや、残念ながらそんな時間は作れそうに無いかなー?今から四季さん俺に構っている暇無くなりそうだしさ。」

 

「大丈夫。時間はだっぷりあるから。」

 

俺が今度は逃げ出さない様に肩を掴んでくる。肩に伝わる痛みから怒りの度合いがよく分かってしまう。

 

「無いっ。俺に構っている時間が消えるから!その話はまた後でっ。」

 

「何を意味の分からない言い訳を言ってーーー」

 

すると、四季さんの言葉を遮るように店の入り口が開く。店内にカランとベルの音が響く。

 

「お邪魔させてもらいますね。」

 

入って来たのは前に一度来たことがある高齢の女性、大家さんだ。

 

その姿を見た四季さんはすぐさま肩から手を離し、向き直る。真剣な表情となり、張り詰めた雰囲気となる。

 

「いらっしゃいませ。」

 

先程までの姿とは打って変わって本物のメイドの様に頭を下げて挨拶をしている。あのオプション、幾らでしてくれるのだろうか……。

 

「どうも、ナツメちゃん。さっそくだけど、ブレンドコーヒーを淹れてもらえるかしら?」

 

「畏まりました。少々お待ち下さい。」

 

注文を聞き、コーヒーを淹れ始める。大家さんを見ると、向こうもこっちを見ていたらしく目が合った。軽くお辞儀をし合うと、四季さんの方へ視線を移した。

 

(さて、大家さんのおかげで難を逃れたが……、これからの流れを考えておかないとな。)

 

 

店に漂う張り詰めた雰囲気に少し気まずさを感じ、それから逃れるために考えごとをしているふりをしながら時間が過ぎるのを待った。

 




大家さん、再度ご来店。ブレンドコーヒーを飲みにやってきました。

次回は明月栞那の視点で進めて行こうかと考えています。


気づけばGWも終わり五月の半ば……。時間の流れが速すぎる気が……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。