今回は明月栞那視点一本です。元々途中で変えようかと考えていましたが、書いている内に一段落として区切りました。場面は前話と同じです。
「少しだけ待ってて欲しい。」私達にそう告げると、高嶺さんと一緒に奥の部屋に入って行ってしまわれました。
「ミ、ミカドさん……っ!」
「そう慌てるな、奴は話をするだけだと言っておる。」
「ですが、わざわざ説明するのに二人になる必要は……。」
「何か高嶺昂晴についての事で吾輩達にあまり聞かれたくない事なのかもしれん。」
「………」
「そんなに奴が信用出来んか?」
「いえ、そういうわけでは……。澤田さんの事ですから上手く収めてくれるとは思いますが、その手段が気になると言いますか…澤田さん、たまに手段を選ばないみたいなこと言っておりましたから。」
「……それについては吾輩も多少は気になる所だな。」
「ミカドさん……。」
どうにか状況を知ることが出来ないかとの期待を込めてミカドさんを見る。
「全く……仕方ないな。……今回だけだぞ?」
「っ!ミカドさんっ!」
「吾輩が盗み聞きの様な真似をすることになるとはな…。」
ため息を吐きながら先ほど二人が向かった方へ耳を向けた。聞き取ろうとしているのか時折耳がピクピクと動く。なんだか可愛らしく見えてしまう。
「どうでしょうか……?」
「待て、何か話しているのは何となく聞こえるが……内容までは何とも言えん。」
更に聞き取るためか目を閉じ意識を集中し始めた。
「ねぇ、2人は何をしているの?閣下はなんだか集中している様にみえるけど……。」
私達の行動を不思議に思ったのか、ナツメさんが小声で声を掛けてくる。
「すみません、今奥の部屋の会話をどうにか聞けないかと……。」
「え?盗み聞きを?わざわざどうして……。」
「いえ、少し気になる事がありまして……。」
「お前ら、少し静かにいていてくれ。会話が聞こえないであろう。」
「あ、すみませんでした。」
再度ミカドさんは目を閉じて耳を動かす。ここから距離はあるのだが、聞き取れるのでしょうか……?
「断片的にしか聞き取れんから内容までは分からぬが、何とか聞こえはする。話している感じだと普通に勧誘している雰囲気に聞こえるな。」
「上手くいっていますか?」
「もう少し近づいてみよう。お前たちはここで待っていてくれ、奴に気づかれる可能性があるのでな。」
ミカドさんは少しずつ距離を詰めながら奥へと行き、立ち止まる。しかし直ぐに踵を返し戻ってくる。
「残念だが、もう話し合いは終わっている様だ。もうじき部屋を出てくるだろう。」
どうやら、聞こえた時点で話し合いが完了してしまっていたようです。どの様に説得をされたのでしょうか…?終わるまでが早すぎる気もするのですが……。
考えている内に、扉の閉まる音が聞こえ、2人が奥から出てこられました。高嶺さんの顔には先ほどまでの迷いは見られず納得したような表情に見えます。
「お話はもう大丈夫なのですか……?」
「ああ、高嶺さんもここで一緒に働く事になった。安心してくれ。」
「本当ですかっ!?ありがとうございますっ。」
「高嶺さん、これからよろしくお願いしますねっ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
今後一緒に働く事になり、お互いに挨拶とお辞儀を交わしていく。それに続けてナツメさんとミカドさんもよろしくと挨拶を交わす。
「よかった……引き受けてもらえて、ホッとしました。これで一安心です。」
澤田さんの謎の速さによる説得に驚きはありつつも、無事に一段落したことに安心と喜びが込み上げてくる。
「それにしてもどうして引き受ける事にしたの?奥で澤田君と何か話していたけど。」
ナツメさんがズバッと聞く。私とは違って気にせず聞きに行ける立ち位置が有難く思えます。
「い、いや、よく考えてみれば俺の命に関わる事だしさ。話を聞いている内にお店の条件も悪くないと思って。」
聞かれる事を想定していなかったのか、若干声が上擦っていますね…。言いたくない事なのでしょうか?
そうすると、澤田さんの方からフォローが入ってきました。
「そうそう、店は生活圏内から徒歩の範囲。人間関係とか面倒な事に悩む心配も無さそう。そして何より……。」
「何より?」
「四季さんや明月さんの様な可愛い女性と同じ職場で働けるっ!それだけで働く価値あり!……というわけだ。」
「いや、何がとういうわけなの?馬鹿なの?」
真面目な理由かと聞いていたら、唐突に澤田さんが脈絡のない発言をし始める。隣に居るナツメさんは哀れな物を見ている様な表情で返事をする。
「澤田さん……。」
思わず、呆れた声を出してしまう。恐らくこれも澤田さんの悪ふざけでしょう。たまにこういった冗談を挟んできますが……、ただ単純にノリでふざけただけなのか、はたまた本当の事から逸らす為の言い訳なのか……、当の本人はなにやら満足気ですし。まぁ、悪い気はしませんよ?。少しだけですがっ。
「というのは冗談で、普通に現状の説明をしただけ。命に関わる事なら普通に協力するだろ?」
「ほんとうですかぁ~?昨日みたいなハプニングをまた期待していたりしていませんか?」
ついつい癖で揶揄う様に澤田さんを見る。流石にそんなことは無いとは思いますが、本当の事を話されていない気がしますので会話を引っ張ってみましょう。
「まさか。命に関わる事なのにそんな事に余計な思考を割いている暇など……。」
同意を求める様に高嶺さんを見る澤田さんにつられて一緒に高嶺さんを見ますが、どう見てもエロい事を考えている顔に見えます。分かりやすい人ですね。
「高嶺さん……何かエロい事を考えてませんか?」
「いやいや、考えていないから。何を根拠に……全く。」
「どうですかね、何やら下心ありありな顔をしていましたからね。顔に出ていましたよ?」
「な、適当な事を言わないでもらえるかなっ、キミ。」
追及していると慌てた様子で顔に手を当て始める。今の動揺で答えている様な物ですが……。ていうか本当に昨日の事を思い出していたのですね。
「今の動揺だけで十分な証拠ですね。エロい事、考えていましたね~。にひひ。」
まぁ?高嶺さんも男の人ですしそう言う事を考える事はおかしい事ではありませんし、それに未練を解消するための一歩でもありますから。それにしても……本当に分かりやすい人ですね。澤田さんも見習ってほしい位です。
「いや、考えていないっ。明月さんが言うエロい事を考えていた訳では無くて……、そ、そうっ!思い出していただけだ!だからこれはあくまで回想であって、決して妄想では無い。」
「そういう屁理屈を言っていると、女の子のモテませんよ?」
「え?マジで……?」
屁理屈はモテないと聞くや驚愕の表情をする。本当なのかとナツメさんへと首を向ける。
「確かに。今のはちょっとウザいかも。」
「ウ、ウザい……。胸に突き刺さる……。今後気を付けます。」
ナツメさんからの真実に何やらショックを受けているご様子ですが、今後の教訓になったようです。まぁ…対価が大きい気もしますが。
三人で話していると、ミカドさんが澤田さんを呼び、輪から離れていく。恐らく先ほどの高嶺さんとの会話についてだとは思われますが…。
高嶺さんとナツメさんと話しながら、少し離れた二人に意識を向けるが、内容までは聞き取れず断念する。
後でミカドさんから聞くことにしましょう。恐らく澤田さんはあまり語らないとは思いますが…。
それと、先ほどの私が出ようとした時止めたあの行動。昨日は任せるとか頑張って欲しいとの発言をされていたのに、いざその時になれば私を止めて自ら説得の役を買って出る…。どうしてでしょうか?初めからそうするつもりだった?私が高嶺さんを本気で勧誘するか見たかった…?直前で止めた事ですし。それとも元々の予定が狂って澤田さんが出ざる負えなかった…?未来が見れる澤田さんの事ですし幾つかの可能性があったのでしょう。その中で高嶺さんが働く未来を掴み取る為の最善として自ら…?
高嶺さんとナツメさんと話しながらも、澤田さんの行動について考える。
私と変わってから最初に高嶺さんの気持ちを代弁するかの様に否定的な事言っていましたが……、しかし実際に高嶺さんも同じ事を考えていた訳で……。その後判断材料が少ないから返事に迷っていると言って二人で部屋に入られました。澤田さんは男と男の内緒話と仰っていましたね…。多分適当な理由作りでしょう。中でのやり取りは恐らく私が相談した時の様に高嶺さんの現状に対しても考えや気持ちを的確に突き、それらに対して真摯に答えられたのでしょう。自分以上に自分の事を理解している様に感じれば高嶺さんも多少は納得してしまうはずです。
彼は私達の過去から未来が見える。それならある程度は予想は出来るとは思いますが、ここまで的確に言い当てることは可能なのでしょうか?私の時にもそうでしたが、まるで本人の気持ちや考えを代弁しているかの様なあの言葉…。過去や未来が見える奇跡だけでは不可能の様な気がしますが……。これはまだ彼が私達に秘密としている事が関係している…?他にも彼は、蝶々に触れることでその蝶の記憶や感情を読み取る事が出来る。が、これは本人も知らなかった力と仰っていましたし、恐らくは偶然触れた事で発覚した事なのでしょう。そう考えると現段階で三種類程の奇跡を使用可能となります。過去見と未来見、何かしらの方法で対象の考えなどを読み取る力、触れた蝶々から感情を読み取る力…。いえ、もしかすると2番目と3番目は同じ力かもしれませんね…。対象を人か蝶か選べるだけかも……。
高嶺さんが持っている奇跡は世界に干渉を及ぼしてしまう程の危険な力です。例外的ではありますが強大な魂を持ってしまい世界を改変してしまった。今はそれが問題となり生き延びるか、もしくは死ぬかの瀬戸際です。今は何とか良い方向に向かっているとは思われますが…。
神様は基本的に人間が奇跡を持つ事を良しとはしません。しかもそれが大きな力であればすぐに神様が干渉してくる可能性が高いでしょう。それなのにどうして澤田さんには何も起きないのでしょうか…?よくよく考えてみますと、澤田さんの未来見も充分世界に干渉している事になると思うのですが…。自分の思うがままに人の未来をコントロール出来るのでしたら放って置くとは考えられません。高嶺さんと澤田さんの違い……うーん。年数……熟練度とかでしょうか?いえ、これは関係無いですね。
今考えても纏まらず、後でミカドさんに相談することに決め、2人の会話に意識を戻す。内容は高嶺さんがコーヒーを飲むかどうかになっていた。
「まぁ、それほど頻度は高くないが飲むことはあるぞ?大学の食堂とかでたまにだけどな。」
「それなら大丈夫かな?実は、コーヒーを飲める人が澤田君以外居なくて……。」
「二人は飲めないのか?」
「私は飲めるのですが…苦いとしか思えないんです。あ、淹れ方自体は問題無いはずです。ちゃんと練習しましたから。一応、澤田さんは大丈夫だと思うって言ってくださるのですが……。」
澤田さんですし適当な回答とは思いませんが、本当に大丈夫なのか若干の不安はあります。自分が淹れた物を提供するのですから…なるべく確実なものにしておきたい気持ちがあります。
「それで、他の人でも大丈夫かの確認が欲しい感じ?」
「そうなりますね、お店に出す可能性があるので多くの人の口に合った物を出したいので…。」
「因みに四季さんは?」
「私もコーヒーはちょっとね……。頑張れば…何とか飲めなくはないのだけど……。」
「あー。そえば四季さんは砂糖とミルクたっぷり入れないと飲めない人だった。」
「………なんで、それを知っているの…?」
「いや、大学のコンビニで四季さんがコーヒーを買ってたところを偶々見かけたから。一口飲んだ後は大量に入れていたはず。アレってブラックの味の確認をしようとしていたんだな。」
「……ああ、そういうこと。勧められたから試してみたんだけど、残念ながら全然違いが分からなかった……。」
確かに以前、ここでコーヒーの飲み比べした時に澤田さんが勧めていましたね……。コンビニだと違うかもしれないとのことでしたが、結局分からずじまいでしたか。
隣から足音がしたので見ると、ミカドさんと澤田さんがこちらに戻って来ていた。どうやら話は終わったご様子。
「そもそもコーヒーは苦い物ばっかり。苦い物は毒なのに……毒を飲むなんておかしいと思わない?」
「そういう屁理屈って子供がよく言っているよな。」
「………」
「貴族ならコーヒーの嗜みくらいあったりしないのか?」
「水とミルク以外好まん。私は猫ぞ?」
今は人の姿をしているから勘違いしてもしょうがないですが、ミカドさんは飲まないでしょう。……そろそろ高嶺さんが飲む用の準備をしましょうか。
「それじゃあ直ぐに準備しますね。」
そう言って私がカウンターの中に入ると、高嶺さんが席に座る。いつも通りに、問題が無いようにゆっくりと準備を進めて行く。
沸いたお湯を注ぐと、一気に芳醇な香りが広がります。今回もいつもに近い感じなので問題は無いと思いますが…。
「良い香りだな……。」
「ありがとうございます。この香りがするとコーヒーを淹れているって感じがしますね。」
「確かに。……そういえば、明月さんはメイド服を着ないのか?」
ナツメさんをチラッと見て問いかけてくる。
「おやおや、高嶺さんは私のメイド服もご所望でしたか。」
「いや、そういう事じゃない。」
「見たくないのですか?」
「そりゃ、見られるなら見たくはある。」
「にっひっひ、だと思いました。」
こちらの問いかけに素直に答える。
「もしかしたら可能性はあるかもしれませんよ?元々私はキッチンを担当する予定ですが、フロアになるかもしれませんから。」
キッチンを担当すると思っていましたが、前に澤田さんからフロア寄りの仕事内容を習いましたので、もしかすると…澤田さんの予想図では私をキッチンでは無くフロア担当にしようとしている可能性が高いです。正式にはまだ決まってないので確約は出来ませんが……。
「そうなのか。明月さんなら似合うだろうし楽しみにしておく。」
「そんなに褒めてもらっても出せるのはコーヒーぐらいですよ…?」
高嶺さんからの急な誉め言葉に何でも無いように返しますが……、そんなこと言われると恥ずかしいです。ま、まぁ嬉しいのは嬉しいのですが……。うぅ…少し顔が赤くなっている気がします。
「はい、どうぞ。」
そんな会話をしている内に淹れ終え、高嶺さんの前に置く。その後ろではナツメさんが笑顔で澤田さんに詰め寄っていた。恐らくはさっきの続きだと思われますが……澤田さんが構っている時間がないやら言い訳を繰り広げているみたいですね。それにしても、もう少しまともな言い訳があると思うのですが。
「何を意味の分からない言い訳を言ってーーー」
ナツメさんが更に問い詰めようとすると、ベルの音と一緒にお店の扉が開く。
「お邪魔させてもらいますね。」
落ち着いた声で入って来たのは、このお店の大家さんでした。
その声を聞いたナツメさんは、即座に大家さんへと振り返り緊張した表情を見せます。
「いらっしゃいませ。」
先程とは違い、真剣な様子で接客を始める。なんとなくお店に張り詰めたような空気が出来る。
「どうも、ナツメちゃん。さっそくだけど、ブレンドコーヒーを淹れてもらえるかしら?」
「畏まりました。少々お待ち下さい。」
大家さんからの注文を聞くと、カウンターへ入りコーヒーを淹れ始めた。高嶺さんを見ると、何が起きているのか分かっていないが、空気を読んで静観をしている。カウンター内では先ほどの私と同じようにナツメさんが黙々とコーヒーを淹れている。
何となく澤田さんの方へ視線を向けると、大家さんと目が合ったのかお互いにお辞儀をし合っていた。その後大家さんは再びナツメさんに視線を戻し、動きをただ眺めています。一方で澤田さんはこの空気の中、何やら真剣表情で考え事をしています。ナツメさんや大家さんを見ている訳でもなく……虚空へ視線を向けています。一体何を見ているのでしょうか……?
少しすると今度は顎に指を当て、更に考え込むような仕草を見せます。時折視線を上に向けたりとして何かを思い出そうとしているご様子。ん?何かを思い出そうと……?
もしかして、何か奇跡の力を使っている?もしくは、それらを思い出そうとしている……?
すると、今度は顎に指を当てて、目を閉じ始める。何か集中しようとしている様にも見えますが……。もしかして本当に奇跡の力を?……いえ、まだ決まったわけではありません。ただ記憶を思い出そうとしているだけかもしれませんし、決めつけは軽率ですね。
暫くすると目を開け、真っ直ぐにナツメさんと大家さんを見る。その様子を見た澤田さんは小さく口を動かしました。一体なんと言ったのでしょう?多分二言位でしたが……。状況的にナツメさんの事についてだとは予想できますが。
「それじゃあ、また様子を見に来るから。」
「はい。お待ちしております。」
そうこう考えている内に大家さんが帰ろうする。ナツメさんがそれを見送り入口の扉が閉まる。
今回も許可はいただけない結果で終わってしまったと考えていると、先ほど大家さんが居た場所から一頭の蝶が飛んできた。
もう……五月が……終わる……。この前半ばとか書いていたのに。
次回は、大家さんが帰った後、四季さんが休憩行った部屋へ主人公が突撃しに行く回になると思います。
その裏では高嶺と明月さんのオムライスイチャコラか……。明月さんの心情と背景を知ると……こう。目から汗が……。