喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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ミカドさん視点から主人公視点に変わります。
思ったより文字数が多くなってしまいました。


第37話:失態と三人目

 

「それでミカドさん……話というのは?」

 

「その前に、そちらの報告を聞いてからでも良いか?」

 

「私の方からですか?良いですけど……。」

 

「すまんな、少し情報を頭で整理しておきたい。聞きながらこちらも話す内容をまとめる。」

 

「……分かりました、ですが余計に混乱しなければ良いのですが……あはは。」

 

「奴め、今回は一体どんな話を出してきたのだ。」

 

目の前に居る栞那は、話しづらい顔で苦笑いをしている。

 

「では、順を追って説明していきます。」

 

すると、先ほどから持っていた紙をこちらに差し出してきて説明を始めた。

 

 

 

「これは全部、あやつが言っていた事で間違い無いのだな?」

 

「はい、私が説明した内容を同じように澤田さんから聞きましたので間違い無いですね。」

 

「そうか……、これらが全て真実ならば、奴の奇跡は未来の細かい部分まで視ることが可能となるな。しかし…ここまでとは。」

 

「そうなります。」

 

栞那から聞かされた内容は明日の出来事と今後、この店でアルバイトとして働く人員の数からその人物の情報。更に吾輩や栞那に関係する蝶関連の情報。

 

「色々とツッコミ所が多いが……。」

 

下の欄には、“カロリー0理論の提唱者”、“褐色で片目を髪で隠しているという属性盛り”、“意外とかなりのむっつりスケベ”などとふざけているとしか思えん事も書かれていた。

 

なんなのだ?カロリー0理論の提唱者とは?どんな理論だ。それと褐色や片目を隠しているからなんだと言うんだ。ただ髪が長いだけであろう。全く。

 

「しかし、無視できない部分もわざわざ書いておるな。詳細は伏せているようだが。」

 

「ですねぇ…。今は無視していてくれとは仰っていましたが……。」

 

「今考えても仕方のない事だな。それより優先なのはこの蝶の影響を受けていると思われる三枚目の女性だな。」

 

「そちらは、明日澤田さんが念のために様子を見に行かれるそうです。何もしなくても確か……明後日には高嶺さんが動くみたいですよ?」

 

「落ち込んでいる程度で済んでいるのならすぐにどうこうなる話でも無いか。」

 

「楽観視はできませんが今の所は。………私の方からはこのぐらいでしょうか。」

 

目の前の栞那は持っている紙を見ながら、漏れが無いか確認をしている。

 

栞那からの話が本当なら……いや、紙に奴自身が書いている以上真実なのは間違い無いのであろう。あれほど事細かく知る事が可能でありながら期待しないでくれとかいっていたのか……確かに本人次第ではあるが、ここまで知っているのなら誘導も容易であろう。それを少なくとも今年まで……。奴自身は万能では無いと言っておったな……謙虚での発言か、何かしらの制限が実際にあるのか。理由を話せないのも、ある意味制限と考えればこれらは何か関係があるのか……?

 

「それで、ミカドさんからはどの様な話を……?」

 

「ああ、そうであったな。」

 

一旦考察を止め、話に戻る。

 

「今回報告をしてきた内容なのだが、話した通り、高嶺昂晴の事、澤田達也について再度報告になる。」

 

「前者については、一先ずは様子見と言う結果だ。近くで吾輩やお前が監視しつつ導いていけば恐らく問題は無いだろう。」

 

「本当ですかっ!良かったぁ……。ありがとうございます。」

 

心の底から安堵をしている。その位心配だったのだろう。

 

「問題は後者だ。いや、問題というか……吾輩が納得しきれていないだけなのだが。」

 

「澤田さん事ですよね。」

 

「ああ、取りあえずあった事を話していく。」

 

「高嶺昂晴の報告を終え、澤田達也の報告を行った。内容としては、奴が持っている奇跡の事だ、更に言えば、持っている可能性が高いであろう蝶から記憶などを読むことが出来る奇跡の事も報告しておる。吾輩から見て危険な人物では無いと考えれるが、人間が持つにはあまりにも大きな力だ。奴に対して何かしら行動を取られるのかと。」

 

「それで……その、お返事は?」

 

「それがだな……返って来た返答は、“手を出すことは出来ない”だったのだ……。」

 

「え……?手を出せない?出さないのではなくてですか。」

 

「ああ。吾輩も聞き直したが、返って来たのは同じく手を出せないだった。」

 

「それって、一体どういう事なのでしょうか?」

 

「吾輩もそれが謎なのだ。神であるお方が一人間に手出しが出来ないなどありえない。」

 

一度目の返事の時はあまりにも理解が出来ず思わず聞き直してしまった。『奇跡を放置せず回収など何かしらされるのでしょうか?』と。

 

しかし二度目の返事も変わらず“手を出すことは出来ない。”とだけだった。

 

更に幾つか似たような質問を投げかけては見たが、返って来た回答は“手を出せる許可が出ていない。”“奴は管轄外に近い存在、扱うには手順を踏む必要がある”などと、どれも澤田達也に対して手出しは出来ないという内容であった。

 

「結局、どうなったのですか?」

 

「結果的に、高嶺昂晴と同じく様子見という事になった。奴の奇跡に関しては、気になる所があるという事で自ら調べてみると仰っていた。」

 

「神様自らですかっ…!?」

 

「普通なら考えられない事だ。だが、調べている間は吾輩の方で見ていてくれ。という事だ。」

 

「ええ……、あの、少し状況が飲み込めないと言いますか……。」

 

「吾輩も同じだ。正直信じられん。神でさえ手を出すには許可が必要など……。」

 

「高嶺さんと違って何か事情があるのでしょうか?」

 

「かもしれんな。それが何かまでは分からぬが。」

 

「そうですね……、澤田さん自身まだ話されていない事が多くあると思います。勿論私達の事を考えての事なのでしょう。もしかすると、澤田さんがどうしても話せない秘密と何か関係があるのかもしれないですね。」

 

「奴の秘密と、神が手を下すのに許可が必要な事、か……。」

 

「今のを聞くと、まるで澤田さんが、神様でさえ手を出すには何かの許可を得る必要があるほどの存在……って事になりますね。」

 

自分で発言しておきながら、呆れた笑いを浮かべている。

 

「何を馬鹿な……、奴の奇跡を考えれば細心の注意が必要という事は当然だ。神一人で決めれるものではなく、他の神と話し合うとかでは無いか?」

 

「それも似たようなことだと思うのですが……。でも澤田さんの奇跡は大変強力です。正直高嶺さんの様に魂が強い訳でもないのにどうして使えるのか、何かしら他の人とは違う存在などと言われても納得しそうですよ……。」

 

「実際、この世界の人間では無いからな。そういった意味では唯一無二と言えるが……。」

 

奴が持っている奇跡は前の世界から所持していると聞いている。前の世界の神がどの様な存在かは分からぬが、神自ら手を下しはせずに放置をしていたのだろうか?今栞那が言った言葉を含めて考えるとするなら……、奇跡を持つことが容認されていた?

 

「今のお前の言葉を考慮するのなら、もしかすると……前の世界では、奇跡を持つことを容認されていたのかもしれんな。」

 

「それは神様に持つことを許されていた……という事でしょうか?」

 

「あくまで可能性の話だ。」

 

「まぁ、可能性はあるかもしれませんが……でも、そのせいで澤田さんはあのような過去を持ち、この世界に来てしまう原因になったかもしれないと考えると、良い事とは素直に思えないですね……。」

 

神より指令や命令の為に力を授かる事は基本的に非常に名誉な事になる。この現世を任されたと考えてもいい。もし、吾輩らと同じ場合ならば……。いや、それなら何故転生する時点で回収されなかったのだ?前の世界での役目があったのなら、死んだ時点でその力は神の元に還るのが普通だ。

 

「………。」

 

もしも仮に……回収されていない理由があるのならどうだ。奴がすべき役目が前の世界だけでは無く、吾輩らが居るこの世界でもすべき役目がある?これが当たりと仮定すれば、これまでの辻褄が合う部分が幾つか出てくる。

 

なぜ奴は、あの日、あの場所で転生をした?吾輩らが死神の仕事で赴いたあの地で。タイミングがあまりにも出来すぎているのではないだろうか?まるで引き寄せられているかの様に……導かれた?

 

それと、奴が視えると言った未来の範囲は聞いた限りではかなり限定的だった。この店に関わる人物を中心に視えている口ぶりだ。前の世界では様々な物を視て来てたが、この世界では今の所、高嶺昂晴を始めに、栞那や四季ナツメ……そして今目の前にある紙に書かれている人物。全てこの店に関わる人物だ。もしかすると話せない秘密はこのことが関係している……?

 

いやまて、奴は確か最初この店で話した時、あの森に何故居たのか分からないと言っていたはず、この言葉が本当ならこの世界に転生した事自体は奴にとって想定外か?そうなると秘密とは無関係?しかし、ここまで都合が良すぎるのは何かしらの関係があるのは間違い無いはず。しかし、それが何かまでは……。

 

「あ、あのー、ミカドさん?」

 

「ああ、すまん、考え込んでいた。」

 

「結論は出ましたか?」

 

「いや、残念だが、謎が深まっただけだ。」

 

「結局、いつも通りという事ですね……。」

 

「だな、一歩答えに近づいたかと思えば、更に離れている事に気づいたような感覚だ。」

 

「澤田さんから言うまで聞かないと言った手前、無理に聞き出したくは無いですし……。」

 

「現状我らに出来るのは、変化を見逃さない様に見ておくことぐらいであろう。」

 

「することは変わらないという事ですね。分かりました。」

 

「そろそろ、時間も遅いから寝るとしよう。奴の事を話し合っていたら堂々巡りになるだけだしな。」

 

「そうですねぇ、もう寝ましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー翌日。

 

 

「ねぇ、澤田君、本当に高嶺君のお父さんが来るの?」

 

「まぁまぁ、期待して待っててくれ午前中には来るはずだ。」

 

「いや、朝来て唐突に言われたから戸惑っているんだけど?」

 

今日は朝から早めに店に行き、明月さんと高嶺父に出すメニューの下ごしらえ…というか準備をしていた。暫くすると四季さんも店に来て挨拶を交わしたのち、高嶺父が今日店に来ることを伝えた。最初は驚きながら疑っていたが、時間が経つにつれて少し緊張感が見られる。明月さんが料理の準備をしている事からも信憑性が出てきたのだろう。

 

「ただ、注文された料理を出すだけだから大丈夫。細かいのは明月さんにお願いしてるからさ。」

 

「その間、澤田君はどこかへ出かけると?」

 

「それに関してはすまん、早めに済ましておきたい用事なんだ。終わり次第さっさと帰ってくるつもりではある。」

 

「いやまぁ、外せないのなら仕方ないんだけどね。その為に明月さんに色々指示してくれてたわけだし……。」

 

「ただ、“任せた!”と言って面倒ごとを避けた様に聞こえたから……、小言の1つも言いたくなる。」

 

少し困ったような、拗ねたような顔で文句を言ってくる。恐らく心細いとかもあるかもしれんが……。

 

「最初は言わずにいようかと思ったんだけど、それは流石に悪い事した気がしたから気を遣ったつもりだったんだが……。でも最悪俺の方は後でも大丈夫だし居た方が良いのか?」

 

「うーん、そこまで必要は無いかな?やる事は決まっているし、わざわざ用事をずらしてもらう程でもないかな。」

 

あ、必要なしですか。それは失礼。まぁいらない程度には明月さんには話しているからなっ。そりゃいらないよな!ありがとうございます!

 

「あ、はい。それならそろそろ行ってくる。」

 

「もう行く?」

 

「さっさと行って、さっさと帰って来るよ。」

 

「分かった、気を付けて。」

 

「まかせ。」

 

「明月さん、俺はそろそろ行ってこようかと思うから、後は宜しく頼む。」

 

「りょうかいです。お気をつけてくださいね?」

 

厨房にいる明月さんに一言掛けて店を出る。

 

まだ九月の終わりだが何となく寒くなってきたような気がする。

 

「給料入ったら、新しく服買わないとな……。」

 

今度は無駄にしない様に気を付けないといけないが、ミカドさんから貰ったお金も何かしらの恩として返しておきたい。要らないとは言っていたので現金としてではなく現物とかを考えておこう。

 

今後の事を考えつつ目的地に向かっていると、前方から顔見知りが歩いてくるのが見える。

 

「あれ、澤田さん?」

 

近づくと、高嶺とその父が一緒に歩いていた。

 

「奇遇だな、こんな場所で。」

 

奇遇とか言ったが、お互い目的地が入れ替わるだけなので道中に出会うのは普通である。ただ時間帯が読めなかっただけで。

 

「昂晴、知り合いか?」

 

「初めまして、澤田達也と申します。高嶺さんが働くことになった喫茶店で、共に働かせてもらっている者です。」

 

「なるほど、わざわざご丁寧に。昂晴の父、高嶺和史です。」

 

お互いに挨拶を交わす。

 

「お店には既に他の人が居るので、今から来店されても大丈夫ですよ?大したおもてなしは出来ませんが歓迎します。」

 

店の方へ流れる様に手の平を向け、催促する。

 

「澤田さんはこれからどちらに?」

 

「早めに片づけておきたい用事が出来たからちょっとな。直ぐに店には戻れると思う。一応、明月さんと四季さんから許可は貰っているから。」

 

「なるほど。」

 

外出の理由に納得し、そのまま父親を連れて再び店の方へと向かって行く。その姿を、少しの間見送ってからマンション方面へ歩き出す。

 

「店の方は何とかなるだろう。てか、本来なら居ないしな。」

 

居た事で変な事が起きないかの方が逆に不安だ。

 

目的の建物に着き、辺りを見る。一階辺りには蝶は見えないが、見上げるとある階層の一か所から蝶が飛んでいるのが見える。目視で確認できるだけで二頭ほど。

 

「うわぁ、居るなあれは。外であれなら中はどんな感じなんだ。」

 

嫌な気分になりながらも目的の階まで上がる。廊下に出ると、丁度玄関から蝶が出ているのが確認できた。

 

「……分かりやすくてありがたい事だな。」

 

蝶が出て来た部屋の前まで来る。下の道路から確認した場所と一致する。間違いなくこの部屋からだ。つまりこの扉の先には汐山涼音さんが居るという事になる。

 

玄関ドア横の壁にもたれ掛かる。

 

取りあえずは……中の状況だけでも確認しておくか。

 

「嫌な役目かもしれないが、頼んだ。」

 

胸の高さ位で手の平を開くと一頭の蝶が出てくる。毎度おなじみ夢の中で出会うあの少女?の蝶だ。前は分からなかったが、自らの意思で外に出れるらしい。初めて俺が寝た夜とかには実際に出ていたとか何とか、寝ていたから知らないが。

 

目の前の蝶はひらりと俺の前で回り、扉の奥へと消えていった。暫くすると、同じように扉から出てくる。

 

「行けたか?」

 

無事終わったかの確認のすると、先ほどの様にひらりと回り肩へと止まる。肩を見ると数度羽を動かしたのち、溶けるように消えていった。

 

「現実では意思疎通は出来ないが……戻って来たのならまだ問題は無かったという事で良いんだろう。」

 

何かしら問題があったのなら、違うアクションを取ってきたはずだ。危機的状況なら緊急事態として中に無理やり入る事も考えていたが、杞憂で済みそうだ。

 

「んじゃ、早々に去るか。」

 

このままだと不審者と疑われてしまう可能性が出てくるため、なるべく人目に付かない様に店へと戻る。店が見えて来た時、丁度中から高嶺の父親が出て来た。どうやら間に合わなかったらしい。

 

「もうお帰りですか?」

 

「君は、先ほどあった昂晴の……。」

 

「はい、澤田達也です。どうでしたか?お店の方は。」

 

「料理は美味しかったよ。特に紅茶とオムライスはまた食べたいと思う位だった。」

 

確かどちらも70点だったな。コーヒーは50点だったっけ?他はそれ以下のはず。

 

「ありがとうございます。けど、あくまで()()は、ですよね?」

 

「その口ぶりだと、君は気づいていたのか?」

 

「大体はですかね。今のお店の雰囲気では人を集めるのは難しいかもしれない……ぐらいですが。同じ意見だったみたいですね。」

 

「さっき店の中の子らには話したから、詳しくは中で聞いて貰えると助かるのだが…。」

 

「いえいえ、わざわざもう一度言いづらい事を言う必要はありませんから、大丈夫です。」

 

「多分、中で丁度話し合っていると思う。」

 

「分かりました。本日は此方の頼みを聞き入れてもらいありがとうございます。」

 

「いえ、ただ息子の頼みを聞いてやった、親としては当然の事ですよ。」

 

「また、ご来店してください。今度は、見違えるように変わったこのお店と……成長した息子さんのお姿をお見せしましょう。」

 

自信たっぷりな台詞に驚いた様な表情でこちらを見る。

 

「ほほう……、それはまた日本に居る間に楽しみが増えた。期待してしまってもいいのかい?」

 

「必ず上手くいかせてみせると、お約束しましょう。」

 

宣戦布告の様な言葉と、大胆不敵な笑みで返事をする。此方の顔を確認したのか向こうも楽しむような顔をしていた。

 

「それじゃあ、また来ることにするよ。………ますます楽しみになってきたなぁ……。」

 

後ろに振り返り、帰ろうとする高嶺父からワクワクしている様な言葉が漏れた。その姿を見送りお店へ入ろうと扉を掴む。

 

楽しみにしていてください。この店の生まれかわった姿と、見違えた息子の姿を。

 

貴方たち二人の親子関係はここから再びーーーー始まるのだから。

 

その手助けをしていく事を決意し、店の扉を開ける。

 

ーーーさぁ、まずはここから。ようやく店が動き始めるのだ。

 

 

 

 

 

 

「それな。そーしゃるねっとわーくサービスな。なるほどなぁ。」

 

そんな決意を共に中に入ると、第一声に聞こえたのが明月さんの、明らかに知らない事を言っている様にしか聞こえない発言だった。

 

やっぱり……駄目かもしれない。

 

 

 

その後、メニューについての話し合いと、今後は人も増やさないといけないという方向で話はまとまった。どちらとも昨夜明月さんには話していたことだったのでさりげなく誘導する程度で済んだ。

 

「そろそろ日も暮れてきたことだし、今日はお開きにしないか?」

 

話し合いも一段落したので皆に提案する。

 

「あー、もうこんな時間か……そうね、そろそろ帰りましょうか。」

 

「明日も引き続きにはなるけど、問題は人員だな。皆は働いてくれそうな知り合いとか居る?」

 

取りあえず見渡しながら聞いてみるが……、ていうか聞く人選おかしいかもしれんなこれ。

 

親しい友人が居ない四季さん、死神という立場上作れるはずもなく点々としてきた明月さん、高嶺は大学に男連中が居たからワンチャンあるかも?ぐらいだ。

 

「あー、それについてなんだが、もしかしたら心当たりが一人居る。」

 

女性陣二人から返事が無い事に、若干気まずそうな高嶺が手を挙げる。

 

「俺の幼馴染に一人もしかしたら……くらいの淡い期待レベルなんだが。」

 

「高嶺君って幼馴染いるんだ……。」

 

「父親同士が昔からの友人らしくてな、小さい頃からよくお世話になっている。」

 

「じゃあ、一応声とか掛けてみる?無理にとは言わないからさ。」

 

「元々、料理に慣れている人とかの話題の時に思い浮かんでいたからこの後会うつもりだった。」

 

「好都合だな。すまないけどよろしく頼みます。」

 

「期待はしないで欲しいけど、分かった。」

 

「それじゃあ早く解散としますか。お疲れさん。」

 

一足先に帰る高嶺を見送る。

 

「それじゃあ、わたしは着替えてくるから。」

 

そう言って四季さんは奥へと消えていく。

 

「澤田さん、今日確認しに行った方はどうでしたか?」

 

人が居なくなったのを見計らい声を掛けてくる。気になってはいたのだろう。

 

「一応部屋の位置まで確認してきた。蝶が幾つか漏れ出る程度ではあった。本人はまだ問題は無いと思う、少なくとも生きているのは間違いない。」

 

「そうですか……。それなら安心しました。」

 

「明日、高嶺が部屋を訪れてから本人は家族が居る実家に一時帰る事になる。その後に回収に向かって欲しい。」

 

「明日ですね、分かりました。」

 

「タイミング的には、明日夕方辺りに渡した紙の二枚目の子がこの店に来る。」

 

「え?明日ですか?」

 

「そう、今日作ったこのアルバイト募集の紙を見て、明日訪ねてくる予定だ。」

 

テーブルに置かれたアルバイト募集の紙を持ち上げる。

 

「対応は三人でしておくからその間に行ってきて欲しい。」

 

「ええっと、取りあえずは明日ですね?分かりましたっ。」

 

「いきなりで申し訳ない、詳しくはまた明日話させてほしい。少なくとも午前中は二人は大学だから時間は作れる。」

 

「あ、そうなのですね。それなら大丈夫そうです。」

 

「後は……」

 

他に重要な事はあったかと、考えていると奥の部屋から足音が聞こえてくる。

 

「あれ、澤田君はまだ帰ってなかったの?」

 

「ポスターを少しチェックしていた。」

 

手に持ったポスターをひらひらと見せる。

 

「どこかおかしい所とかあった?」

 

「いや、完璧。これなら明日には速攻で人が集まる事間違い無しだな。うんうん。」

 

「何を言ってるやら……、そんなに早く来るわけないでしょ?でも、問題無いのならよかった。」

 

「後は俺が掲示しておくから、先に帰っても良いぞ?もう暗くなって来たしな。」

 

「そう?それじゃお願いしようかな。」

 

「また明日、気を付けてな。」

 

「お疲れさまでした。また明日です。」

 

「二人もおつかれさま。あまり遅くならない様に。」

 

帰りの挨拶を告げ、店を出ていく。

 

「それじゃあ、俺もさっさと店を閉めて帰ろうかな。」

 

「あれ、お帰りになるのですか?」

 

「ポスターを貼ったら、帰るよ。」

 

「そうなのですが、てっきりこれから明日の事を話されるのかとばかり……。」

 

「そうしたいのだけど、店が閉まっていないと色々不都合だから。」

 

「あ、もしかして先ほど言っていた子ですか?」

 

「そうそれ、明日来ることになっているから店を開けているとまずいかなーっと。」

 

「分かりました。それなら明日にしておきましょうか。」

 

二人してせっせと戸締りをし終える。

 

普通に考えて四季さんにもしてもらえばよかったか?いやでもこの後の行動を考えると、一緒に店から帰らないと変だしなぁ。

 

「それじゃあ、また明日。」

 

「はい、また明日。」

 

鍵を閉め、店を出る。入口に募集の紙を貼り、帰宅……はせずに張り紙が見える店の角で気配を殺し、張り込みもどきを行う。

 

明日のこの店に来るためには、今日、アルバイト募集の紙を見てもらう必要がある。それのイベントが無ければ、明日来ることは無い。少なくともそれを確認しておいた方が安心できる。俺の心が。

 

明月さんにあそこまで話して、いざ明日になっても来ませんでした、では情けないというか物語が崩れてしまうからな。端から見れば不審者だが、気にしない。

 

時間が経ち、少し飽き始めた時、店前へ人の気配がしてきた。声までは聞こえないが、何かぼそぼそと言っている様な音は聞き取れる。ようやく目的の人物が来たのかと頭を上げると、目の前を青い蝶が横切る。

 

蝶か……、こんな時に出て来るとはな。

 

タイミング悪く蝶が出てきたことに運が無いなと思いながらも回収しようと近寄り、素早く手を振る。触れた蝶は消えるように霧散していった。

 

後で明月さんに渡さないとな。と考えて横を見ると、そこには驚愕の顔をした人物と目が合う。

 

やらかしてしまった。と、その瞬間気づいたがもう手遅れだった。そのリアクションをするからに、回収をばっちり見られてしまっている。

 

普通の人なら虫か何かを追い払った程度で済むが、目の前に居る少女は違う。はっきりとでは無いがその姿を捉えることが出来る。

 

「………いまの…。」

 

驚きの声が正面の少女から零れ出る。

 

明月さんに後で謝らないといけないな…。自分が想定外の出会いをしてしまったのだから。

 

高校生の服であろう。暗くてはっきりとは見えないが薄い紫色であろうショートヘア、右側の髪はヘアピンで上げられており、その逆は目が隠れるほど前に下ろしている。身長的には多分明月さんや四季さんより少し低く見える。

 

 

驚いたまま固まっている少女、失態により予期せぬ出会いを果たしてしまった。

 

 

原作四人目のヒロインーーーー火打谷愛衣がそこに立っていた。

 

 





はい!ドエロ谷愛衣の登場ですっ!主人公の失態により想定より早く三人目との出会いですね。
彼は蝶を回収しようとしていただけなのに……。

因みに三人目とは出会った順番で、最後に書いた四人目とは原作でのヒロイン順を指しています。

1明月栞那
2四季ナツメ
3墨染希
4火打谷愛衣
5汐山涼音

が原作順と思っていますので……。


次回は主人公が何とか切り抜けようとしていく場面から始まります。
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