喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

45 / 101

今回は明月さんの死神のお仕事の話を作ってみました。

皆がお店の事で頑張っている裏で、死神の事もしていたのだろうな。と思いノリで書いてみました。


第43話:死神の仕事: 思い出の品 壱

 

店をオープンさせる為に、練習する日々が始まった。高嶺は主にメニューで作る料理の練習、今はオムライスを練習している様だ。そのほかの女性陣は接客の練習やトラブル時の対応などを練習したり俺が以前に作ったマニュアルを改善しながらこの店に沿った物を作っている。

 

俺はと言うと、主に厨房で高嶺と一緒に作っていたが、一応フロアの事も出来るようにと練習に付き合ったりと固定せず日ごとに変えたりしている。多分厨房が主になったりすると思う。原作ではいつも涼音さんが悲鳴を上げながらしていたイメージがあるからな。

 

今日は何をしようかと考えていると、明月さんから声がかかる。

 

「すみません、澤田さん。今、お時間良いですか?」

 

「大丈夫だけど……どこか人が居ない場所が良いか?」

 

こちらに近寄り、周囲を気にしながら小声で話しかけてくる。あまり聞かれたくない内容なのだろう。

 

「そうですね……、私が間借りしているお部屋でも大丈夫ですか?」

 

「了解、じゃあそっちに行こうか。」

 

明月さんと少し席を外すと四季さんに一言断りを入れてから部屋へ上がっていく。

 

「さてと、それで、どういう内容の話で……?」

 

「そうですね……最初からご説明した方が良いと思うので一から話すことにします。」

 

何だか長くなりそうだったので、近くにある椅子に腰を下ろす。

 

「内容としては蝶関連になります。少し前からなのですが、ここからそう遠くない病院に入院されている方から蝶が飛んでいるのを確認していて……お知り合い程度にはなったのですが、中々原因の悩みを聞き出すことが出来ていなくて……。」

 

珍しいな、明月さんならなんやかんやで相手の懐に入り込みそうなんだが……。相当頑固な奴とか?と言うか……。

 

「病院に居るってことは何か病気に?しかも、それなりに入院が続くやつなのか?」

 

「あ、いえ、病気……では無いですね、その方はもう高齢の方で……。」

 

寿命ってことか。そうなると、そこまで猶予は残されていないのか。

 

「明月さん、後どれくらいなんだ……?」

 

あまりはっきりと聞きたくない事だが……。

 

「ミカドさんが言うには、あと5日が限度と……。」

 

「時間が無いってことか……。」

 

大体状況は理解出来た。このままだと未練を残したまま死ぬ。そうなると蝶が現世に残ってしまう可能性がある、回収してしまえばそれまでなんだろうが……恐らく悔いを残さないような人生を最後に送って欲しいと明月さんは考えているのだろう。本当は時間をかけて少しずつ聞いて行きたかったが時間がもうないと知ってしまったんだろう。

 

「状況は分かった。そこで俺で何か出来ないかと聞いて来たと言うわけか……。」

 

「話が早くて助かります。あまり澤田さんに頼るべきでは無いと分かっているのですが……。」

 

「いや、俺にも何か出来るかもしれないからな。相談くらいならいつでも大丈夫だ、変な遠慮は無しで。」

 

それにしても、俺たちが店の準備をしている裏で、死神の仕事もしていたとは……、全く気が付かなかった。

 

「ありがとうございます。」

 

「それで、俺にして欲しい事は?」

 

「相談して何か切っ掛けが出来たりしないかと考えていたくらいでしたが。」

 

「その入院している人?の情報を聞いても良いか?あと、可能なら直接会って話してみたい。」

 

「分かりました、と言っても個人的な事までは流石に言えませんが……。」

 

「基本的な事で良いよ、出来れば性格とか人柄とかまでは知りたいかな。」

 

 

 

「此処が、その女性が入院している病院か。」

 

あの後、明月さんから入院している人の話を聞いた。性別は女性、歳までは分からないが、老衰で逝きそうって事はそういうことだろう。家族関係は夫が数年前に先に他界している。これは病気でだそうだ、他は血縁関係が居るがあまり関りを持ってないらしい。お見舞いにたまに来る程度とのことだが……いつ死ぬか分からない状態でそれって事はあまり友好ではない。まぁ、ほとんど孤独に近いって事だ。

 

「問題は性格なんだよなぁ……。」

 

横に居る明月さんは、中々手強い方でした……とか言っていたが、面倒な性格に違いない。どうやって知り合ったんだ……。

 

「それでは澤田さん、最初は私から話してから、澤田さんを紹介したいと思います。」

 

「了解、聞き出す方法は俺に任せて大丈夫か?」

 

「はい。あ、でも、失礼の無いようにお願いしますよ?」

 

「それは大丈夫。」

 

部屋に着き、中を確認して明月さんが入る。壁にあるネームプレートには『辻 久子』と書かれている。多分"ひさこ"と読むと思う。

 

「こんにちは。今日もお邪魔しますね。」

 

室内からは明月さんの明るい声が響く、警戒心を感じない言い方は長年の賜物か。

 

「あんた、また来たのね……こんな年寄りに会いに来て、暇なのかい?」

 

病室から少し掠れた声が聞こえてくる。

 

「近くまで来たので、また来ちゃいました。辻さん、体調はどうですか?」

 

「いつもと変わらずだよ。今日もしぶとく生きながらえているさ。」

 

「それは良かったです。今日はですね、一緒に居た男性の人も部屋の外に居るのですが、紹介しても良いですか?」

 

「なんだい、今日は男を連れていたのかい。」

 

「私が今オープンさせようとしているお店のスタッフの方ですよ。私に付き合って貰いました。」

 

明月さんが俺の話を出したタイミングで中に入る。

 

「澤田さん、此方の方が先ほど話した辻さんです。」

 

「初めまして、澤田達也と言います。明月さんとはお店で一緒に働く仲です。」

 

「そうかいそうかい、と言っても私に紹介しても直ぐに意味無くなるかもしれないけどね。」

 

どうせすぐに死ぬから、知り合っても意味は無いぞ?と言う意味だろうな。

 

ベットの周囲には今の所蝶は見当たらない。明月さんが回収したからだろう、後は、ちょくちょく会いに来ているおかげかもしれないな。

 

「それで?そんな男前をわざわざ私に紹介した意味はなんだい?もしかして自慢かい?」

 

「い、いえっ!その様な意図はありません。」

 

さてと、どう切り出そうか……。見た感じ多少癖がありそうな性格だが、聞いていた程難ありの性格には見えないけど、明月さんが言うには悩みを聞こうとすると口を閉じてしまうとか何とか……。

 

明月さんで聞き出せないなら俺に対した事は出来ないと思う。時間を使えば突破出来そうではあるが、今回は時間が無いため少し強引な手段を取る事になりそうだ。

 

「実はさっき、明月さんから相談を受けまして……。」

 

「相談?その子からかい?」

 

「ええ……、最近、知り合った高齢の方が、何やら悩み事を抱えているそうなんですが、それをどうにか解決したいと……。」

 

「え、澤田さん?」

 

いきなり本題をぶっこんできた事に明月さんが驚いている。

 

「はぁ……またその話かい。」

 

以前にも聞かれたからだろう、少しうんざりした声とため息を吐く。

 

「話すことは無いって前に言わなかったかい?それで今回はその男を連れて来たってわけ。」

 

ばあさんの非難する視線に、明月さんが申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「彼女は悪くないです。確かに話は聞きましたが、手伝ってとまでは言われていませんので。今回は私が勝手に口を出している事になります。」

 

「余計なお世話だよ、何度も言うけど、話すことは何もない。分かったら帰ってくれ。」

 

顔を背け、しっしっと手を払う。

 

「聞かせて頂けませんか?何を悩んで、後悔しているのかを。」

 

「だから、何も無いって言ってるだろうが……。」

 

「亡くなった旦那の事ですか?」

 

俺の言葉に、反応するように動きが止まる。どうやらビンゴの様だ。

 

「数年前に亡くなったそうですね……、もしかして、貴方が悩んでいるのは、その方が関連しているのですか?」

 

「ちょ、ちょっと!?澤田さん!」

 

追い詰めるように話を続ける俺の腕を後ろに引っ張る。

 

「おっと、今話してる途中だが……。」

 

「駄目ですよ、いきなり過ぎます!」

 

「すまん、わざとしている。」

 

「尚更悪いですよっ!こんなやり方では関係が悪化してしまいます。」

 

「やりたい事があってさ、ごめんだけど……一回俺に任せてもらっても良いか?」

 

「何か、方法があるってことですか?」

 

「一応、手っ取り早いと思う方法が……。」

 

「………分かりました、一度だけですよ?」

 

「ありがとう。」

 

明月さんの許可を貰い、腕を離してもらう。すまん、駄目だったらもう次は無いと思う……修復不可能と言う意味で。

 

話を続ける為に振り返ると、此方を鬼の形相で睨んでくる。

 

「あんた、そのことを何処で知ったんだい?その子にも話していないはずだけど。」

 

「まぁまぁ、私がどこで知ったかはこの際どうでもいいじゃありませんか。それでですが……関連するとなるなら、亡くなられた夫に対して何か思っている部分があるという事になりますね。」

 

「帰っておくれ。」

 

「と、なると……やはり自分を残して逝ったことに対してか、もしくは夫に対して自分が罪悪感をなどを感じている何かが……?」

 

「やかましいっ!!さっさと帰えれと言っておるだろ!」

 

病室内に、怒りの籠った声が響く。幸いこの部屋は他に誰も居ない。

 

「さ、さわださん……。」

 

もうやめましょう。と言いたげな明月さんを手を制止し、話を続ける。もう少しだけ。多分、もう少しで……。

 

「残念ながら、貴方が話してくれるまで帰るつもりはありません。」

 

一歩、ベットに近づき、圧を掛ける。これ……死にかけの年寄りにすることじゃないな……。

 

「今の反応を見た感じですと、どうやら………貴方自身が亡くなられた夫に、罪悪感をお持ちの様ですね?」

 

図星だったからか、目に明らかな動揺が見て取れる。

 

「何を想っているのですか?数年経ち、未だに消えない後悔が……。」

 

「うるさい!話しても意味は無い!おまえに何が分かる!?分かっている様な口ぶりで近寄ってくるな!帰れと言っているだろ!」

 

「そうやって喚いても、解決はしませんよ?身動きも取れずに、後悔しながら余生をそのベットの上で終えるのですか?」

 

言葉が効いたのか、喋るのをやめる。これは……やりすぎたか?

 

少し言い過ぎたかもしれないと反省しようとすると、目の前のばあさんから一頭の蝶が飛び出る。

 

「あ……。」

 

後ろで明月さんが気づき、声を上げる。

 

ーーー来た!これを待っていた。

 

目的の蝶が出て来たのを確認し、すぐさま回収しようと手を伸ばす。

 

「さわださんっ!?」

 

俺のしようとしていることに気づき、止めようとするが、それより先に蝶に触れる。

 

「………。」

 

「澤田さん!澤田さん!大丈夫ですか!?」

 

明月さんが慌てる様に肩を揺さぶってくる。ああ…待ってくれ。脳が震えるるるるr。

 

「ストップ、問題ない。ちょっと情報の整理に時間が掛かっただけだから。」

 

「蝶に触れるのは駄目と言ったではないですか!しかも、今回はわざとですよね!?」

 

「そのことは後でちゃんと聞くので、今はこっちを優先させて下さいな。」

 

「………後でお説教ですからね?」

 

「……はい。覚悟しておきます。」

 

明月さんから冷たい眼差しで告げられる。初めて見たかもしれない、ここまで怒ってるのは……。

 

怖いため急いで明月さんに背を向け、ばあさんと再度向き合う。

 

「辻……清一さんか……。」

 

「どうして……その名前を……。」

 

亡くなられた夫の名前を出したことに対して、信じられない目でこちらを見る。

 

「なるほどな、そう言う事だったか……。」

 

大体把握出来た。やはりさっき言った通り、旦那の方に申し訳ないと感じていたみたいだな、特に思い残しているのが……。

 

「ばあさん。あんたが色々後悔しているようだが……我が家にある金庫の中身が知りたいのか?」

 

「な……っ!なんでそれをっ!?」

 

「どうしてそれを知っているか……?不思議に思うよな。」

 

「誰も知る訳がない!なんであんたがそれを……!」

 

「でも、残念ながら理由を話せなくてな。それよりか、もっと大事な話をしよう。」

 

「家にある金庫……旦那の金庫だが、ばあさんが入院するまで開けることが出来ないままになってしまっている。それが心残りなんだけど……。俺がそれを開けてこようか?」

 

「な、何を言い出すかと思えば……!急に何なんだいあんたは。」

 

「俺がその心残りと自己嫌悪を解決しようか?という話なんだが……。」

 

「あんたがどこでその話を知ったか知らないけどね!赤の他人のあんたに開けられるわけがないっ、私が開けられなかったんだよ!」

 

「うんうん、知ってる。だから、俺が開けて……中に何が入っているか確認しておこうかと思うのだけど……、ああ、中身はちゃんと持ってくるからさ。」

 

「ふざけたことを……!それが出来たら苦労していないよ。……やれるもんならやってみたらいい。」

 

「よし、許可は下りた事だし、早速解錠しに行こうか?」

 

後ろでやり取りを見守っている明月さんに声を掛ける。

 

「え、あ……分かりました。」

 

「後で、出来ませんでした。と言いに来るのを楽しみにしておくとするさ!」

 

部屋を出ようとすると後ろからばあさんの罵声が飛んでくる。それに対して適当に手を振りながら出ていく。

 

「さて、今からなんだけど……。」

 

部屋を出て、エレベーターの乗った辺りで得た情報を話す。

 

「澤田さん。」

 

話そうとしたが、明月さんからにじみ出るオーラに口を閉じる。

 

「終わった後に、何があるか……忘れていませんよね?」

 

「……はい。」

 

明らかに、『ブチ切れていますよ?』と笑顔でこちらを見てくる。

 

「取り敢えず、お外に出ましょうか?」

 

死刑宣告に等しい台詞に、俺の代わりに扉の開く音が答えた。

 

 

 

 

 

「全く……反省してくださいっ。」

 

「はい……猛省しまくりやがっています……。」

 

あの後、明月さんからの説教が始まった。ばあさんとの会話から始まり、蝶を出すまで追い詰めた事、更に出てしまった蝶に触った事、しかもそれらを狙って行った事。全部ゲロッた……いや、正確には自白させられた。

 

「確かに!澤田さんのおかげで事は進みました。それに関しては感謝しています。ですが、やり方があれでは酷過ぎではありませんか?もう少し何とかならなかったのですか?」

 

「あ……えっと、そうですね……はい。」

 

「もっと!ハキハキと仰って下さい!」

 

「あれが一番最速だと判断いたしましたっ!」

 

「まぁ……澤田さんに任せてしまった私にも落ち度があったわけですし……。」

 

「いや、明月さんは悪くないと思う。あれは俺が勝手にしたことだから。」

 

「いえ、分かってはいるんです。さっきみたいに澤田さんが蝶々から直接情報を掴むのが一番早いって事くらい……。」

 

でも、使わせたくないんだろう?使ってほしいって言いたくないもんな。

 

「明月さん。」

 

「はい……?」

 

「今回は、俺が勝手にそれが早いと考えて起こした行動だからな?明月さんにお願いされてしたわけではない。それで起きた結果は俺の責任になる。」

 

「そして、それに対して気を遣われてしまう始末……。」

 

あるぇー?更に落ち込んでしまったぞ、逆効果だったか。

 

「澤田さんが仰っている事は理解しています。自分の責任だから私が気にすることは無いと言いたいんですよね?蝶の事ですし、私が言えない事くらい把握出来ている事ですし……だから自ら動いたと。」

 

どうやらバレバレのご様子で……。なにそれ俺めっちゃ恥ずかしい奴じゃん。

 

「あ、そうだな……うん。」

 

「澤田さんに相談した時点でこうなる事を予想できなかった私も反省すべきですね……。」

 

「い、いや!何もそこまで明月さんが背負い込まなくても……!あ、そうだっ!早くばあさんの家に行かないか?やるべきことがあるからさ?」

 

このままだとよくないと思い、話を変える。

 

「……そうですね。いつまでもこうしてはいられません。気持ちを切り替えます。」

 

「じゃあ、家まで案内するよ。」

 

「場所も知っておられるのですか?」

 

「まぁな、徒歩で行ける距離だから安心してくれ。」

 

「分かりました。それじゃあ、エスコートの方をお願いしますね。」

 

「お任せを、お嬢様。」

 

無事説教が終わり、目的の家へ向かう事となった。

 

 





長くなりそうなので前半と後半で分けることにしました。後半は明日辺りにでもあげます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。