喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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前話の続きです。今回でお話は終了ですね。

おばあさんの家に入りますが、普通に不法侵入にあたります。窃盗もします。


第44話:死神の仕事: 思い出の品 弐

 

 

「此処が……辻さんの住んでおられる家ですか。」

 

目的の家に着き、玄関前に立つ。

 

「一軒家なんですね。」

 

「そこそこ年数は経っているけどな。」

 

玄関を開けようと手を掛けて動かすが、鍵が掛かっているようで開かない。

 

「鍵が掛かっている様ですね。どうしましょう?私が開けましょうか?」

 

さも当然の様にピッキングで開けようかと聞いてくる。

 

「いや、ちょっと待ってくれ、確か……この辺りに。」

 

近くにある郵便ポストの裏に手を入れる。

 

「お、あったあった。」

 

裏に隠してあった鍵を取り出す。

 

「それはもしかして……。」

 

「そ、玄関のカギだな。」

 

鍵口に差し込み回す。解除される手ごたえを感じたので玄関を開ける。

 

「さて、入ろうか?」

 

「なんで隠してあった場所を知っていたのか……と聞くのは愚問ですね。」

 

そりゃ、読み取った記憶からに決まっているじゃないですか。

 

中に入ると、換気がされていなかったからなのか空気が重く感じた。

 

「暫く誰もいませんでしたし、少し埃っぽいですね……。」

 

「仕方ないさ、もう誰も居ないんだからな。」

 

階段を上がり、旦那が寝ていたと思われる部屋へと入る。

 

「お邪魔しまーす。っとあれか。」

 

「失礼します……。」

 

「明月さん、これがさっき話していた金庫……になるな。」

 

「これが……ですか。中に何が入っているのでしょうか?」

 

「それは流石に分からなかったな、旦那が個人的に使っていた物みたいだし、本人しか分からないみたい。」

 

「澤田さんは、これを開けられるのですか?」

 

「このタイプだと、時間を掛ければ何とかな。因みに明月さんは?」

 

「ダイヤル式はちょっと専門外ですね……あはは。」

 

専門とかあんのかよ。鍵式はお得意ってか?

 

「大体三つくらいのハネ……穴を組み合わせれれば開くはず……。」

 

少しダイアルを触り確認する。

 

「どうでしょうか?行けそうですか?」

 

「正直気が進まないなぁ……100万近い通りを合わせることになるかもしれないと考えるとな……。」

 

集中力と手の感覚が持つか分からない為、別の方法を探る。

 

「なので、別路線で行こうかと思います。」

 

「他の方法で、ですか?」

 

「ああ、この家を散策したいと思うっ!」

 

振り返り、手を横に薙ぎポーズを決める。

 

「散策ですか……?人様の家ですよ?」

 

「大丈夫、どこに何があるか大体把握出来てるし、我が家みたいなもんだ。」

 

「いえ、そういう事では無くて……そもそも知っているならなぜ散策されるのですか?」

 

「それは……探索してのお楽しみって事で。」

 

家中の全部屋を確認したいからさっさと動き出そう。

 

「お楽しみって……待って下さいっ、私も一緒に行きますから。」

 

こうして明月さんと共に探索を始めた。

 

 

「ここが、リビングになります。ここで食事を摂っていた。」

 

「キッチンなども一緒で、広いですね。」

 

次に行こう。

 

「ここが洋室になります。ソファーに座ってゆったりしてたりしていた。」

 

「フローリングですね。窓からの日差しが気持ちよさそうです。」

 

さて、次だ。

 

「こっちは浴室だな。風呂とトイレは別々だ。」

 

「一軒家ですもんね。マンションなどとは違って別々が一般的ですね。」

 

次。

 

「二階に上がって……、ここは和室だな。よくお茶とか飲むんでいた部屋でもある。」

 

「良いですね、和室。掛け軸とかもあるので雰囲気があります。」

 

次だな。

 

「あの……、澤田さん?」

 

「待ってくれ、次で最後の部屋なんだ。………っと、ここが最後、入院しているばあさんの部屋だ。一応夫婦別で寝ていたな。」

 

部屋を見渡すが目的の人が見当たらない。人と呼んでいいのかは微妙だが……。

 

「最初のおじいさんの部屋の隣ですね。それで澤田さん?家の中を探索した目的って……?」

 

「んーー。ちょっと探し物みたいのをしていたんだが、見当たらなかったな……。居ると思っていたんだがなぁ……。」

 

ここで最後という事はこの家には居ないって事になるのか……、仕方ないが、面倒な手段の方を取るかぁ……。

 

「すまない、最初の部屋に戻ろう。探し物は見つからなかったみたいだし。」

 

「分かりました。戻ったら話してくださいね?」

 

諦めて、最初の部屋に戻る。

 

「………あ……。」

 

最初の部屋に戻ると、金庫の上に蝶が止まっていた。

 

「蝶ですね……。あれってもしかして?」

 

「此処に居たのか……、もしかして入れ違いになったのか?」

 

目的の人物を見つけた事に安堵する。と言うか戻って来たら居るって、なんだかダンジョンとかで部屋を全て探索したら解除されるギミックみたいだな。

 

「もしかして先ほど仰っていたのは……?」

 

「その通り。旦那さんの方の蝶を探していたんだ。」

 

「なるほど、それで家の中を探していたのですね。納得出来ました。」

 

「説明の手間が省けて助かる。」

 

さて、それじゃ蝶がどこか行く前に済ませるとしよう。

 

「待って下さい。」

 

蝶に近づこうと前に出ると、明月さんから、待てが入る。

 

「………なにか?」

 

「これから、何をされようと?」

 

「………」

 

これは……気づかれた感じか?まぁ病室での前科があれば分かるか。

 

「澤田さん。駄目ですよ。」

 

「な、何が駄目なのか俺にはよくわからないなぁ……。主語が抜けてるぞ?」

 

「辻さんのだけではなく、その方の記憶を読まれるおつもりですよね?今から蝶に触れようと……。」

 

「いやー、珍しい蝶が居たから近くで観察したくてさ?光ってる青い蝶なんて早々に見ないし……。」

 

「何を仰っているんですか。言い訳ならもっとまともなのを用意してください。」

 

はい、すみません。

 

「やっぱり、触っては駄目か?」

 

「危険すぎます。今日だけで既に一人触れています、こんな短時間に別々の記憶や感情を取り込んだら澤田さんの魂への負担がどうなるか……。」

 

「分からないと……?」

 

「はい。最悪澤田さんの記憶や感情が二人に引っ張られてしまいます。」

 

それは怖いな。中身が爺や婆になるってことか。

 

「………それなら止めておくか。明月さんにそんな顔させてまでする事でもないし……。手間だけど地道に開けるほうにしておくよ。」

 

なので、そんな心配そうな顔は止めてください。罪悪感半端ないんですわ。

 

「……本当ですね?油断した隙に触るとか無しですよ?」

 

「ほんとほんと。なんならそこの蝶を明月さんに回収してもらっても良い。」

 

「そうですね……、念のため先に回収だけでも……あれ?」

 

「ん?どうした……って居ないな。」

 

後ろを覗いた明月さんにつられ振り返ると、先ほどまで止まっていた蝶が見当たらない。

 

「どこか飛んで行かれたのでしょうか?見逃したとは思えないのですが……。」

 

「まぁ、居ない方が好都合だし、さっさと始めるか。時間に余裕があるわけじゃないしな。」

 

「そうですね、それじゃあ澤田さん、よろしくお願いします。」

 

「まかせな。と言ってもどんだけ掛かるか分からんから気長に待つつもりで。30分かもしれないし、数時間かもしれないからな。」

 

「大丈夫です。待つのには慣れていますから、ご心配なく。」

 

 

 

 

 

「もう少しで開けれそうだ……。」

 

あれから大体一時間近く経った。最終関門まで何とか来れた。後は時間の問題、やり続ければその内解除出来る。

 

「凄いですね……小さな感触の違いを感じ取れるのも勿論ですが、それを長時間維持するなんて……集中力持たないですよ。」

 

「そこは気合と……慣れと、後は意地だな……いつかは開けれるってわかってるから何とかなっている……感じだな。」

 

「なるほど、根性って奴ですね。」

 

「そんな感じだ………おっ、いけた!解錠出来たぞ?」

 

「本当ですかっ、想像していたより随分早いですね。」

 

「俺にかかればこんなもんよ。さてと、それじゃあ早速開けるぞ?」

 

後ろを振り返り、明月さんに確認をする。

 

「はい。開けちゃってください。」

 

取っ手を掴み、開ける。

 

「中身は、紙……」

 

手紙の様なものが積まれている。と言おうとした瞬間中から蝶が飛び出してきた。

 

「え……」

 

後ろの明月さんも予想外だったか、驚くような声が出る。

 

全く予想していなかった場所から蝶が出て来たので咄嗟に避けることが出来ず、そのまま俺の胸元に触れる。

 

「あっ……。」

 

(ーーーーどうか、よろしく頼む。)

 

頭の中に様々な風景と思い出、感情が流れて来たと思ったら、脳内にはっきりと、そう聞こえた。

 

「これは……。」

 

蝶が触れた胸元を手で触りながら、記憶を読み解く。

 

「澤田さんっ!大丈夫ですか?何か体の方へ異常とかは!?」

 

「いや、問題無さそう。」

 

「本当ですか!?心配させない様に嘘を発言されたり、誤魔化していたりしていませんよね?」

 

「ああ、現時点で特に変化は感じられないな。」

 

なんか信用が無いのかめっちゃ疑われているな……。

 

「よかったぁ……安心しました。ところで、今の蝶は……?」

 

「さっき居なくなった蝶だった。まさか金庫の中から出て来るとは……。」

 

なんで金庫に?と一瞬思ったが、その理由は考えるまでも無かった。

 

「それと、明月さん。」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「今のは、わざとでは無いので……説教は無しでお願いしたいのですが……。」

 

「分かっています。さっきのは不可抗力って事くらい、事故みたいなものですから。」

 

良かった……。またあの説教をされるかと………いや、ありだったかもしれない?滅多に見られなかった姿だし。いやでも心配させたくないし自らは止めておこう。

 

「結果としてじいさんの方も得てしまったが……。中身は手紙や書類……言ってしまえば夫婦の想い出の産物って感じだな。」

 

「それをこの中に……?」

 

「恥ずかしかったから見られたくない為に金庫に……防犯も兼ねているのか?」

 

相手はばあさんに対してなのか?そこまでして見られたくなかったのか……?

 

「一先ず、目的は達成したが……。」

 

「病院へ戻りますか?」

 

「そうしようか。………それともう一つ済ましておきたい事が……。」

 

「まだ何かありましたか?」

 

「ちょっとな。」

 

金庫から離れ近くの机の引き出しを漁る。

 

「さ、澤田さん?」

 

唐突に物色し始めた俺に驚く。

 

「お、あったあった。」

 

中から小さい箱を取り出す。

 

「それは……?」

 

「結婚指輪だそうだ。渡して欲しいと。」

 

どうやら二人にとって、思い入れがあるらしいが……。

 

「それじゃあ、急いで戻りますか。」

 

 

 

 

 

「ばあさん、入るぞ。」

 

病室に入ると、此方に気づいたか凄い形相で睨んできた。

 

「なにもそこまで睨まなくても……。」

 

「顔も見たくもなかったからね。」

 

「そうか。本題に早速入るけど……」

 

「なんじゃ?言い訳でもするのか。」

 

「二階のじいさんの部屋にあった金庫の中身をまずは渡そう。」

 

ベットに備え付けのテーブルに中身を置く。

 

「これが……?」

 

「あんたの旦那さんが大事に閉まっていた物だ。確認すれば分かる。」

 

目の前のばあさんは、机に置かれた紙をひったくる様に取って中身を確認する。

 

「………これは、確かに……。」

 

一つ読み、また一つと置かれている紙を読んでいく。

 

「………確かにこれは、あの人との物で間違いない。という事はあんたは……?」

 

「金庫の中身を開けたって事だな。少しは信じてもらえた様で。」

 

続いて、部屋から回収した箱を置く。

 

「これはじいさんから頼まれた品だ。ばあさんに渡してくれと。」

 

「……渡してくれと頼まれた?」

 

机に置かれた箱を取る。

 

「ゆ……指輪……。あの人との……。」

 

それを見つめながら、大事そうに撫でている。

 

「どうやら、大事な物みたいだな。」

 

じいさんから貰った記憶は断片的ではあったが、何となく予想は出来る。

 

と、考えていると目の前のばあさんが泣き始める。

 

「え……、あ、あきづきさんっ!」

 

どう対処して良いか分からず、後ろに居る明月さんに助けを求める。

 

「あらら、澤田さんってば、女性の方を泣かせてしまいましたね?」

 

「いや、これは俺のせいでは無いと思うのだが……。」

 

「どうでしょうか~?要因を作ったのは澤田さんと思うのですが。でも、任せて下さい。こういうのには慣れていますから。」

 

どういう事になのだろうか……?人が泣く場面によく立ち会うって……。死神してるとよくあるのか?闇が深そう。

 

 

 

 

それからしばらくばあさんが泣き止むのを待ち、会話が可能と考え再度話しかける。

 

「もう……大丈夫ですか?」

 

気を遣う様に恐る恐る聞く。

 

「情けない所を見られたね……。」

 

「全然変じゃありませんよ?それほどまで大事な物だったのですから。」

 

明月さんからのフォローが入る。

 

「明月さん、取り敢えず頼まれたことは終わったと思うんだけど、これで大丈夫だったか?」

 

「辻さんの悩みが解決という点では完了だとは思います。ありがとうございます。」

 

任務完了で一安心である。

 

「なぁ……あんた。」

 

「ん?俺か?」

 

明月さんと話していると、ばあさんから声を掛けられた。

 

「なんで……どうしてこれを持ってくることが出来たんだ?」

 

「………」

 

まぁ当然の疑問だよな。

 

明月さんの方を見ると"どうしましょうか?"とこっちを見る。

 

「説明しても?」

 

「そうですね……大丈夫だと思いますが、澤田さんから説明しておきますか?」

 

「じゃあ、そうする。」

 

俺の適当な返事に困った様に肩を竦める。

 

「答えたくないって言ったら理解してもらえたりは可能だったり?」

 

「出来るわけないだろう。最初の時も何故金庫の事やあの人の事を知っていたのかも説明が欲しい。」

 

うわぁ……、折れなさそうだなこれは……。適当にはぐらかした方が良いけど、最後ぐらいは誠意を見せた方が良いのか?確か……余命は残り5日程度だったよな?

 

それなら広まる心配も無いと考える。最後にこのばあさんの驚いた顔を見るのも悪くないし。

 

「説明かぁ、そうだな……。それじゃあ最初に、ばあさんの余命が残り5日程度って言ったら信じられるか?」

 

「残りが……?医者から聞いたのかい?」

 

「いや、医者が赤の他人に個人情報は教えないからそこからじゃない。」

 

「それじゃあ一体どこから……。」

 

「実はな、ここにいる明月さんは死神なんだ。」

 

「はぁ?その子が死神ぃ?」

 

「これから納得できる説明をしていく。」

 

 

 

 

「つまり、後悔があるとあの世に行けないからそれらを解消しにきたってことなのかい?」

 

「まとめるとそんな感じだな。」

 

「その子は死神だから余命が分かると……?」

 

「まぁ、そんなところだ。」

 

正確には違うがそのままにしておく。

 

「なるほどの、だから近づいて来たわけなのか。」

 

「騙すような真似をしてしまい、申し訳ありません。」

 

「ああいや、仕事だったのだろう?それなら仕方ないとは理解は出来るのじゃが……。」

 

「それなら、明月さん。」

 

明月さんの方を向き、死神の鎌のジェスチャーを見せる。

 

「そうですね、見てもらった方が早いですね。辻さん、私の右手を見ててくださいね?」

 

右手を横に出し、次の瞬間には身体程の大きな鎌が手に握られていた。

 

「これが、死神の鎌です。」

 

ベットに居るばあさんを見ると、目を大きく広げ驚いている。そうなるよな、分かる。

 

「いま……、一瞬でその大きな鎌が……本当なんじゃな。」

 

「はい、この鎌も本物です。と言っても体などを傷つけることは出来ませんが。」

 

一通り見せ、右手に持っている鎌を消す。

 

「はは……なるほどねぇ、既にお迎えが来ていたって訳か。それなら余命が無いのも納得出来るよ。」

 

現状を受け入れたのか、呆れた様に笑っている。

 

「くっくっくっ、お前さんらが来たのはその魂がこの世に彷徨わない様にするため、私がそのままだと彷徨ってしまいかねないから解決する為にか……。」

 

「問題は解決出来たと思っているが、他に思い残している事とかあったりは?この際、最後まで付き合うが……。」

 

「いーや、もう残すことは無いよ。これらを持ってきてもらっただけでも充分。そして人生の最後に死神に出会えるとはねぇ……。」

 

「なぁ……、明月さんじゃったか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「死んだら、その後はどうなる?」

 

「魂は神の元に送られ、次の新しい生が始まります。なので何も怖がることはありません……また次が始まるだけですので、ご安心を。」

 

「そうかい……また次が……。」

 

ばあさんは何処か遠くを見つめる様に窓から外を見上げる。

 

「もしかしたら生まれ変わった先でまたじいさんに会えるかもな。お互い他人になってるとは思うけど。」

 

「ふふ……、そうじゃな。また一から始めるのも悪くないかもしれん。」

 

何処か憑き物が落ちたような穏やかな表情で微笑んでいた。

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ退散するよ。」

 

用事も終わり、することも無いので帰ることにする。

 

「感謝するよ、ありがとねぇ。」

 

「いえ、お礼だなんて……したくてしただけなのでお気になさらず。それでは澤田さん、帰りましょうか。」

 

明月さんと共に部屋を出ようとする。

 

「結局、あんたの事は話さないのかい?」

 

ばあさんのベットの前を横切ろうとした時、問いかけられる。

 

「そのまま誤魔化されてて欲しかったんだけどな……。」

 

「そうしても良かったのだけれど……、そこの子の事は話したがあんたの事は一切出なかったから気になってね。」

 

ばあさんを見ると、どこか挑発的な目でこちらを見つめてくる。

 

「明月さん。」

 

「私は部屋の外で待っておきますね?」

 

俺が何を言おうか察して、外に出ようとする。いや、外に出て欲しかったわけじゃなかったんだが……。話しても良いか確認したかったんだけど。

 

「あんたはどこで家の事、金庫の事、そしてあの人の事を知りえたんだい?最初はそんな素振りは無かったと思っていたんだが。」

 

「そのことか……まぁ、この際話しておくか。残り短いし……。あの世のじいさんとの肴にしてくれ。」

 

「そうだな、なんで知っているか……。俺は特定の条件で相手の記憶などを読むことが出来る……と言ったら信じられるか?」

 

「何かしらの条件で……、あの子が死神の様にあんたもそういったのかい?」

 

「少なくとも死神では無いな。ばあさんをわざと逆なでするように煽ったのはそれが必要だったからという事になる。」

 

「その条件を満たすためにかい?」

 

「そうなる……、怒らせるようなことを言ったのは謝罪する。」

 

「過ぎた事はもういい。結果的にそれに成功し、記憶を読めたからこうなっているのじゃからな。」

 

結果良ければって奴だな。

 

「摩訶不思議な存在が二人も居たとはねぇ……。」

 

まだまだいるけどな。

 

「あの子は死神……、それならあんたは何者なんだい?」

 

不思議そうにこちらを見る。

 

「さぁな、何者か聞きたいのは俺の方だよ……。」

 

自分が何者で何のためにこの世界に転生したのか……それは未だに分からない。ミカドさんが言う神に聞けばわかるのかも知れない。元の世界でプレイした世界にわざわざ行く……。何か意味があるのなら良いが……もしかしたら神の悪戯でした。とかの可能性もワンチャンあるかもな。

 

「なんだい、自分でもわかってないのかい。」

 

「そうかもしれない……、それをこれから見つけるのか、この世界では何者でもないのか……。」

 

元々存在しない人間だしな。意味とか無いのかもしれない。それはなんだか……虚しくなってくるな。

 

「それじゃ、帰るとするよ。元気で……はおかしいな、さよなら?」

 

「最後に締まらない返事だね、これで最後になるとは思うけど……それじゃあね。」

 

別れの挨拶を済まし、部屋を出る。

 

「お話は終わりましたか?」

 

「ああ、別れの挨拶程度は。」

 

病院を出る。日が沈みかけており、もう夜と呼んで良い位の時間になっている。

 

「澤田さん。」

 

横を並びながら歩いている明月さんから話掛けられ返事をする。すると、明月さんは立ち止まる。

 

「貴方は澤田達也さんです。同じお店で働き、一緒にお店をオープンさせようと協力して下さっています。蝶の事、高嶺さんやナツメさんの事でも私やミカドさんは助けられています。」

 

突然何を言い出したかと見ると、真剣な眼差しでこちらを見る。

 

「いつもお店の事や、私達の事を考え行動をしている事も知っています。面白そうなことがあれば動いたり、何かあれば自分一人で勝手に解決しようとしたり……。皆さんの事を知っておられるからそれをネタに揶揄って反撃を受けたり……。」

 

揶揄っているのは大抵四季さんだな。ほかは明月さん……たまに高嶺だろう。

 

「私は澤田さんがどういったお人なのか知っています。私だけじゃありません。他お店の方達も短い付き合いですが、澤田さんを知っています。」

 

ええっと、つまり……俺がばあさんと話していた会話は全部丸聞こえだったというわけか。なるほどな、部屋から出た意味ないじゃん。

 

「ええぇ……。」

 

「あの……澤田さん?そこでドン引きされるのは予想外なのですが……。」

 

「あ、いや、ちょっとな。つまり明月さんが言いたい事をまとめると?」

 

「澤田さんは澤田さんでありますのでって言いたかったのですが……何故か引かれてしまい、ちょっと傷付きました……。」

 

「あーいや、それに関しては申し訳ない。真面目な話の途中だったのに。明月さんが言いたい事は理解した。」

 

「それなら良いのですが……。」

 

納得がいかない様子でこちらを見てくる。俺があんなことを言ったから安心させる為にわざわざ言ってきたのだろう。ほんと出来た人だよな……何年も生きていればそうもなるのか?

 

「そうだ、お店までの道中にケーキ屋があるんだが、寄って行かないか?さっき傷つけてしまったお詫びに。」

 

「ケーキですか?」

 

「うむ、今日通った時に見かけたけどまだ開いているとは思う。」

 

「私へのお詫びにって、半分冗談みたいなもんでしたが……?」

 

「じゃあ、無事に今日の事が終えれた事の祝いとして。」

 

「それなら寧ろ私の方が澤田さんへお礼するべきなのでは?」

 

「………お店の為に味を知る必要があるとか?」

 

「あらら、私がついでになってしまいましたね。」

 

「ま、理由とかどうでも良いか。」

 

「考えるの放棄して、適当になりましたね……。」

 

頑張った後なので甘いもんが食べたい。そんなので良いだろう。

 

「どうせなら皆の分も買っていくか、食べれないのがある人っていたっけ?」

 

「どうでしょうか……?特に聞いたことはありませんが。」

 

「バラバラに買えば大丈夫か。」

 

「ですね、別々のを買えば何かしら食べれるとは思います。」

 

「そんじゃ、店が閉まる前に向かうか。」

 

「了解です、お供させていただきます。」

 

 

一先ず、明月さんからの依頼は無事完遂出来た。

 

ケーキを買い店に戻り、皆に渡したが、二人で出掛けた事をやたら火打谷さんから聞かれた。今回の事情を知っている四季さんはそれを面白そうに煽ってきたのを訂正しては火打谷さんからの質問と面倒なループが暫く続いたが、デートなどと勘違いされては色々困るので、そこら辺ははっきりと言っておいた。

 

 





次回は、新ユニフォームのお披露目回にしようかと思います。

そろそろ選択肢が入って来る頃だと思いますね。

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