喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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駅前で宣伝しよう!




第49話:マドレーヌ

 

「ふぁ~……朝かぁ……」

 

カーテンから差し込む光に起こされ、体を起こす。

 

「これからは毎日この時間に起きなくてはな……」

 

今までとは違い、お店での仕込みや準備がある。幸いなことに、家と店の距離が近いので苦ではない。

 

「さてと、行くか」

 

朝食を済ませ、支度を整える。最後に部屋の中を好き勝手に飛んでいる蝶に声をかける。

 

「そろそろ、出るぞ~」

 

俺の声に反応して、肩に止まる。そのまま風景に溶けるように姿を消す。

 

ここ最近は忙しかったから夢で会って無かったが、その代わりと言わんばかりに勝手に部屋を飛び回ったり、俺の朝食を眺めるようにテーブルに止まったりしている。特に害はないので気にせず放置している。

 

「……お、涼音さんから連絡来てるな」

 

『起きてるかー?』とメッセージが来ていたので、『ちょうど家から出た所です』と返事を返しておいた。

 

店に着き、裏口の鍵を開けて中に入る。二人はまだ来ていない様だ。

 

「おはようございます、澤田さん」

 

休憩室に入ると、中に明月さんが居た。

 

「うい、おはようございます。既に起きていたんだな」

 

「初日ですから、私も気になってしまって」

 

「初日……確かにな。とは言っても、マドレーヌを作ってチラシを配布する日だけどね」

 

「楽しみですね。涼音さんが作られるのですよね?」

 

「ああ、実際美味しいから楽しみにして良いと思う。割と好評だしな」

 

「さらっと先の事を話されても……まだ作ってすらいないのに」

 

「あの芳ばしいバターの風味と、程よい甘みが口の中一杯に広がる……実物が楽しみだ……」

 

「それはそれは……。今日はそれらを配る、で良いのでしょうか?」

 

「だな。涼音さんから話があったように、作ってチラシと一緒に宣伝だ。涼音さんと高嶺は近隣住宅のポストへチラシを配りに。他4人は駅前でチラシとマドレーヌ配布だな」

 

「了解です。……あれ、澤田さんはどうされるのですか?」

 

「あー……俺か」

 

そういえば特に考えてなかったな。

 

「んー……そうだなぁ。駅前の配布にでも付いて行こうかなぁ?いや、男が居たら女性陣の華に汚点が出来るな……」

 

「汚点って……」

 

「いいや、色とりどりのウェイトレス姿の女性が4人っ!世の男どもは確実に見る。可愛らしいデザインという事もあり、女も見るだろう。甘い物で釣れるしな。そこに俺が居たらどう思う……?折角の美を台無しにしてしまう……!という事で、離れて一人で配るよ」

 

「何もそこまで気にされなくても……」

 

「すまんな。これは俺個人の問題なのだ。これだけは譲れない」

 

「……とか言って、遠くから私たちの姿を楽しもうとか考えていませんか?」

 

「……勘の良いガキは嫌いだよ」

 

「やっぱり図星でしたか」

 

「いや、割と本音ではーーー」

 

「おはようございます」

 

明月さんと雑談をしていると、高嶺が入って来た。

 

「高嶺さん。おはようございます」

 

「中から話し声が聞こえると思ったら、明月さんが居たのか。朝早いんだな……ってそうか、ここを間借りしてるんだっけか」

 

「高嶺さんもキッチンもお仕事を?」

 

「ああ。澤田さんと同じだな」

 

「なるほど、お店のお仕事でしたら、私も手伝いましょうか?」

 

「ん?いや、キッチンはこっちの担当だからな。どうしてもって時はお願いするけど、今日は大丈夫かな」

 

「……分かりました」

 

「その分、俺に出来ないことを、後で明月さんにはやってもらうことになるだろうしな」

 

「私に……ですか?」

 

「出来上がったチラシとマドレーヌを他のみんなと一緒に配って欲しいんだ」

 

「なるほどなるほど。それ位でしたら、喜んで引き受けます」

 

「ああ、よろしく」

 

「それじゃあ、そちらはお任せします。何かあれば、いつでも呼んで下さいね」

 

そう言って、部屋を出て行く。……じゃあ着替えるか。

 

「そういえば、涼音さんは?」

 

「キッチンの確認があるから、先に着替えて来いとのことです」

 

「じゃあ、さっさと着替えて交代しないとな」

 

「ですね」

 

遅くなるわけにも行かないので、サクッと着替えましょうか。

 

 

 

 

「それじゃあ、チラシと一緒にこのマドレーヌも配ろう」

 

チラシと一緒に、包装を終えたマドレーヌを並べる。

 

「味見させてもらったけど美味しかったよ」

 

「ああ、天にも昇るような絶品だった……!」

 

「あんたはいちいちリアクションが大げさなんだよ」

 

作ったマドレーヌの一つを食べさせてもらったが、めちゃクソ美味かった。感動の余り涼音さんに膝を付いて手を合わせたら頭を引っ叩かれた。

 

「それじゃあ、配りに行きますか」

 

「え?そのまま行くんですか?勿体無くありませんか?」

 

配りにいこうとする四季さんに火打谷さんが不思議そうに聞く。

 

「でも、その為に作ってくれたんだから」

 

「いえいえ、そっちではなくて、お店の宣伝をするのでしたら、相応の服装があるんじゃないか。ってことですよ」

 

「ああ。確かにそうかも。普通にチラシを配るよりも分かりやすくなるかも」

 

「え?それって……」

 

何かに察した四季さんが驚きの声を上げた。

 

「この恰好で表に出ろとっ!?」

 

その後、火打谷さん達に連れられ、奥から戻って来た皆は、お店のウェイトレス姿を着ていた。

 

「ナツメさん、どの道その服で接客する事になるんですから」

 

「それはわかるけど、わかってはいるんだけれども……やっぱりスカート短くない?」

 

最初の頃と同じ様な反応を示す。

 

「ヘーキですってば。むしろ、そうやってモジモジしている方が、エロさが増し増しな気がします」

 

ふむ、火打谷さん、キミとは美味い酒が飲めそうだな。今度良い店に連れてってあげようではないか。

 

「コスプレと思われそうで嫌だなー……」

 

「その分目立つことで、お客さんが来てくれるかもしれませんよ?」

 

「やる。文句言ってても仕方ないから、やるけど」

 

観念したように覚悟を決める。

 

「その意気その意気」

 

「それじゃあ、俺は近隣住宅にポスティング」

 

「私たちは駅前でチラシとマドレーヌの配布ですね」

 

「ああ、そっちは頼む」

 

「了解です」

 

「あ、私もポスティングの方に回るよ」

 

「行かないんですか?渡して、食べてくれた人の反応をその場で確認したりとか……」

 

「確かにそれも気になるけど……今回は止めとくよ」

 

「そうですね、ポスティングも高嶺さん1人だと大変でしょうし、良いと思いますよ」

 

「そうだな。それで行こう。ポスティングは涼音さんと高嶺に任せよう」

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

四季さんの開始の合図に全員で『おー!』と声を合わせた。

 

 

 

 

「私たちの方も頑張らないといけませんね」

 

「ですね、目指せ配布完了ですっ」

 

「駅前で……この恰好で駅前を……」

 

「喜んでもらえると良いですね」

 

俺の前を歩く女性陣が各々の反応を示す。

 

「それにしても、どうして涼音さんはこっちに来なかったんですかね?」

 

「昂晴君の方が大変だったからじゃない?」

 

「そうなのかなー?」

 

「以前働いていたお店が近くにあるので、気を遣われたのではないでしょうか?」

 

「あ~……それなら納得です。確かに気まずいですねそれは」

 

「なので、私たちで頑張りましょう」

 

「任せて下さいっ、バンバン告知していきますので!」

 

駅に着き、早速活動を始める。涼音さんが作ってくれたマドレーヌはそこそこある。これを全部捌かないと帰れそうにはないな。

 

「じゃあ、俺は少し離れて宣伝しておくから、そっちはお願い」

 

「え、達也先輩は一緒にこっちでしないのですか?」

 

「バラけた方がその分広げれるからな。そんじゃっ!」

 

全体の一割から二割無い位の量を持ってその場を離れる。……さてと。

 

一応女性陣が視界に入る距離で良いとして……配ろうか。ある程度受け取ってくれそうな人を見分けておかないとな。

 

駅前を行き交う人を観察しながら、周囲に告知しつつ、取りあえず若い女性を中心に声をかけて渡してみる。

 

これでも、顔はイケてる方だと……思いたい。前世でも言う程悪くは無かったし……見た目の価値観は変わらないはずっ!

 

なるべく警戒心を抱かせない様に声をかけ、チラシを見せて視覚情報を与え、今度は食いもんで興味を惹かせる。ついでにSNSもやっていると最後に添えて渡す。うむ、最初の内はこれで行こう。

 

前を通ろうとする人に配ること一時間、周辺でチラホラと興味を持ち始めてこっちを見ている人が出来始めた。

 

そちらに近づき、チラシとマドレーヌを渡して行く。中にはその場で食べ始める人も居たので、しっかりと包装紙を回収していく。

 

「……この調子ならあと一、二時間で終わりそうだな」

 

想定より早いペースで消費が出来ている。これなら無事涼音さんに報告出来そうだな。

 

安心しながら周囲を見ていると、少し離れた場所から女性陣の方を指差して盛り上がっている男たちが居た。

 

見た感じ、『おまえ、声をかけて来いよ』的なノリである。やっぱり居るんだな。まぁ、したくなる気持ちは完全に同意だけどな。

 

原作ではそんなことは起きていないので多分大丈夫だとは思うが……、配っておくか。

 

離れた4人組の男子に近づいて、チラシとマドレーヌを渡す。いきなり声をかけて来た俺に驚きながらも、お礼を言って受け取っていく。

 

4対4で丁度人数が合うとか話していたのだろうか……?『お前誰が良い?』みたいな会話をしていたのかもしれん。知らんけど。

 

その後も配っていると、駅前から信号を渡った地点で、高嶺が女性と話している場面を見かける。

 

……あれは確か、涼音さんが以前に働いていたお店の社員さんだっけ?

 

嬉しそうに話している女性の手には、例のマドレーヌとチラシがあった。

 

 

 

 

 

チラシ配りの日から何日か経ち、その日はSNSの発信をもっと出来ないかと話し合っていた。

 

その中には、たまにはお店だけの内容だけでは無く、息抜き的な要素も入れておいた方が親近感が湧くと提案が出た。

 

「断る」

 

その夜、早速ミカドさんにお願いしてみるが、案の定初手は断られた。

 

「前にも言っただろう、吾輩は貴族だ。人間に愛想を振りまくつもりは無い」

 

「猫の姿で接客してほしいってわけじゃない。あくまで写真を撮るだけだから……ね?」

 

「………」

 

四季さんの提案に渋い顔で無言を通す。

 

「カリカリになっても?」

 

そこで、悪魔の条件を出して来る。

 

「いちいちカリカリを持ち出すな!卑怯だぞっ!せめて、ふりかけだけは何とか……っ!」

 

ふりかけは死守したいボーダーなのだろうか?

 

「写真1枚につき、ふりかけ一つまみ」

 

「ひとつまーーーっ!?強欲にも程がある!動物愛護団体に訴えるぞ!貴様ぁ!」

 

「ワタシが言うのもなんだけど……そこに貴族の誇りはあるの?」

 

ミカドさんにとってはそこは譲れない何かなのだろう。カリカリは飽きるらしいし。

 

「コホン。落ち着いて下さい、閣下」

 

見かねた明月さんが声をかける。俺と高嶺はそれを見守る。

 

「閣下は勘違いをされています」

 

「何が勘違いだっ!騙されんぞ」

 

「いいえ、勘違いです。愛想を振りまいたり、媚び諂う必要なんてありません。そんなことは、普通の猫がすることです」

 

「求められているのは、写真だけで人を魅了する気品です。それは貴族である閣下にしか持ち得ないものです」

 

「貴族である我輩にしか……?」

 

「貴族としての気品、そしてその優雅な振る舞いで見た人を従えるのです」

 

「従える……」

 

「閣下なら容易いはずです。なにせ貴族、公爵ですからね」

 

「我輩……貴族……」

 

「まぁ、それでも難しいと仰るならば……無理強いは出来ません。諦めるしかないでしょうね……できないのであれば」

 

ものすっごく単純な煽りだが、ミカドさんには効く。

 

「ハンッ、バカを言うな。その程度、私にかかれば容易な事だ」

 

「では、写真の件……お願い出来ますか?」

 

「仕方あるまい。そこいらの猫にはない、格の違いをみせつけてくれる。それに、カリカリだけというのも嫌だしな……」

 

「ありがとうございますっ……フッ」

 

言質を取った明月さんが勝ち誇った顔で笑う。これはチョロい。

 

善は急げ。ミカドさんの気が変わらない内に早速撮影会を始める。

 

「あーいいですねー、そのポーズいいですねー。凄くいいですねー」

 

「切れてる、断然切れてる。ナイスバルク。仕上がってる」

 

「いいですねーいいですねー、あー、お腹丸出しにしているところも可愛いですね」

 

「ナイスシックスパック。腹斜筋が威嚇してる」

 

「フンッ。次はこの角度など……どうだっ?」

 

乗せられたミカドさんもノリノリである。

 

「振り返り気味に目線もらえますか?あーそんな感じで。流し目が素敵ですよー」

 

「いよっ、ケット・シー界のレオニダス」

 

言葉が通じるミカドという事もあり、望み通りの写真が撮れる。やりたい放題である。

 

撮影会も終わり、満足気に写真の選別をしている四季さんに声をかける。

 

「すまんが、この後時間あったりする?」

 

「ん?別に大丈夫だけど……?」

 

「お店をオープンする時にあたって、一つ相談が……」

 

 

 





ここらで、一度区切って、次にオープンさせます。

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