お酒の失敗……の選択肢ですね。
「はひぃ~、ようやく落ち着きましたぁ……」
「お疲れさん」
昨日に続き、休日の日曜という事もあり同じ位の客が来店した。日曜だからか夕方が近づくとそれなりに客数が減り、なんとか落ち着いてきた。
「は~い……本当に疲れましたぁ。ゲロ吐きそう……」
「やめとけ、厨房で吐いたら涼音さんに殺されるぞ」
「冗談ですって~、あ、先輩と涼音さんもお疲れ様で~す」
「お疲れ。フロアの方はどう?」
「一応、落ち着きました。今日もケーキは売れましたよ。売り切れているのもありますが……まだ残ってるのもありますし、ナツメ先輩から補充は必要無いだろうって」
「全部揃ってないのは申し訳ないけど……しょうがないかぁ。今からしても遅いだろうし……」
「取り敢えず、一区切りついたのでアタシは休憩に入らせてもらいますねー」
「はいよ、いってら~」
休憩に向かう火打谷さんを手を振って見送る。
「というか、私たちも休憩を取った方がいいね」
「確かにそうですね、落ち着いていますし」
「順番はどうする?私はどっちでもいいよ?二人に任せる」
「う~ん、俺はまだ余裕あるし、高嶺から先に行ってきて良いぞ」
「そうですか?自分も大丈夫ですが……」
「ついでに涼音さんもご一緒にどうですか?今程度なら俺一人でも回せますし」
「そう?それならお言葉に甘えようかな」
「それだと、澤田さんに負担が……」
「余裕余裕、その分後半が二人体制で心おきなく休憩出来るからさ」
「ほら昂晴、こう言ってるんだ。早く行くよ」
「分かりました。暫くお願いします」
「あ、それと、何かあったら遠慮せずにすぐに呼ぶこと。いいね?」
「了解です。ヤバそうと感じたら直ぐにヘルプ出します」
「よろしい。じゃあ、お願いね」
火打谷さんに続き、二人も送り出す。今くらいの時間ならそこまで大丈夫だろう。
フロアの様子をチラ見する。今いるのは男性客が一人と、女性客が二人か……四季さんが丁度注文を聞いてるな。
店内の音楽でしっかりと声は聞こえないが、確認時の口の動きから見てパンケーキを二人分と見た。
こちらに来る前にパンケーキの用意をし始める。仮に違ってもパンケーキは直ぐ出るので無駄にはならないし大丈夫。
「オーダーお願いします。パンケーキを2皿」
「了解、今作ってる」
注文内容が確定したのでコンロ2つに生地を流し込む。
「あれ、澤田君だけ?残りの二人は?」
「忙しくないし、休憩に入ってもらってるよ」
「そうなんだ……てか既にパンケーキ用意してたんだ。もしかして、ここまで声聞こえてた?」
「いいや、流石にここまで声は届かないな。店内の音楽あるし」
「それじゃあ……」
「俺のサイドエフェクトがそう言っている……!」
生地が焼けるのを待つ隙を見てドヤ顔で決めポーズをする。
「………」
それを見て、『まーたなんかやってんな、こいつ……』と呆れた目でこっちを見ていた。
「うーん、ウケが良くないみたいで……」
「作ってる最中に急にそんな事されたら、誰だってそうなる」
呆れつつ、更にクソでかため息まで吐いてくる始末。
「安心しろ。パンケーキは完璧に仕上げているからな」
そろそろ出来上がるので、皿を出して盛り付けの準備をしておく。
「ほいっと、膨らみ色合い共に問題無し。それじゃあ、このパンケーキお願い」
「はいはい、あんまりふざけない様にね」
「善処します」
適当な返事に『綺麗に出来ているのがなんかムカつくなぁ……』と呟いてフロアに戻って行った。それなりに練習して仕上げたからな。当然よ。
そんなこんなで2日目も無事営業を終え、後片付けをして順番に着替える。
「それじゃあ、また明日~」
「明日は講義があるんで来れるのは夕方過ぎになりそうです」
「大丈夫、俺も涼音さんもいるし、平日だから問題と思う」
「お願いします。それじゃあ失礼します」
高嶺を見送るって、店内には俺一人……というわけではなく、さっきから帰らずに立っている四季さんが居た。
「その様子だと、俺に御用だったり……?」
「うん、澤田君に用がある」
なんだろう、お店の事か、それとも何か心配事でもあるのか?
「このあと暇?」
「特に予定は無いけど?」
「良かった。行きたい所があるんだけど、付き合ってくれない?」
ここでは話せない事なのか?となるとお店のことでは無くて個人的な……?
「勿論、四季さんの誘いなら喜んでお供させていただきますとも」
どのみち、内容がどうあれ協力するつもりなので答えは変わらない。
「そ。じゃあ行こっか」
「おっけー」
店を出て駅方面へと歩き出す。
「因みに、向かう先はどちらへ?」
「んー、駅の反対側?5分もかからないから安心して」
「なるほど、着いてからのお楽しみってことか……」
という事は、適当にどこかのお店に入るのだろう。流石に自分の家に招くとは思えないし……。ここで『俺の家はどう?』とか言うのはどうだろうか?夕方のように冷たい目で見られるのでは……?
「そういえば、明日から平日はワタシと高嶺君は講義で遅れるけど、お店は大丈夫そう?」
「ん?……ああ、平日だし問題無いはず。その分朝に少し余裕持ってケーキ類は作っておくつもりだし、ミカドさんも居るから何とかなるはず」
「ワタシもなるべく早く入れるようにするから、ごめんだけどよろしく」
「四季さんは安心してこっちは任せてくれ。もしヤバそうなら別途相談ってことで」
「ん、分かった。あ、そろそろ着くはず」
駅を越えて信号を渡り少し歩いた場所にそのお店はあった。
「……このお店って」
「それじゃ、乾杯しよっか」
「……ああ」
四季さんに連れられ入ったのは、オシャレな雰囲気のバー……つまり、例のお店だった。
それぞれ注文し、届いた飲み物を持つ。
「働きづめになるであろう、ブラックバイトの明るい未来に乾杯」
「ブラックなのに明るいとは……、コーヒーより苦くないことを祈っているよ。乾杯」
お互いに小さくグラスを当てて、中身を一気に飲み干す。
「んっ……はぁ……」
一気に飲んだ四季さんが、ほぅっ……と息を吐く。横目で見ていたが、飲み終えた唇から吐息まで全てが色っぽい。最高である。
「……これはお酒が進みそうだなぁ」
「澤田君は結構飲めるの?」
「それなりに……?それなりには耐性があるから多少飲んだくらいでは大丈夫……のはず」
「なに、その間は……?」
「いや、あくまで前の身体ではって話。今は違うしどうか分からないんだよな」
「あ、そっか。違う体って言ってたね」
「そそ、だからこの身体がどの程度か把握出来てない。四季さんは……どう?」
分かり切っている答えだが、一応話の流れとして聞いておく。
「んー、どうだろ?多分強くないかな。むしろ弱いと思う。カクテルでもアルコールが濃いのは苦手だから」
「なら一気に飲むのは控えた方が良いのでは……?」
「大丈夫。それに、今日はそうしたい気分なの。あ、バレンシアお願いします」
折角の忠告を無視して次を注文する。
「自分も……ブラックルシアンをお願いします」
手持ち無沙汰になったので、周囲を見渡すが、店内には俺たちの他に一人しか居なかった。
「なに?なにか気になる事でもある?」
「いや、店の内装を見てた」
「澤田君はこういった場所にはあまり来ない?」
「自分で進んでは来ないなぁ……前の仕事とか付き合いで立ち寄ることはあったが」
「なーんだ、道理であまり緊張してないと思った」
「それなりに緊張はしてるぞ?表に出して無いだけだ」
「そう?そうには見えないけど」
いや、マジで緊張してますとも!?どういった意図でこの店に来たのか!とか、お酒を飲んでる四季さんが超セクシーッ!!とかさ!色々耐えてる俺を褒めてほしいですっ!
「まぁ、予備知識があったからな……少しは隠せる」
「あー……もしかして澤田君の?」
濁す様に言いかける。多分、未来視とかそう言いたいんだろう。
「ご想像にお任せします」
「なにそれ?カッコつけてるつもり?」
ジト目でこちらを見てくる。もっと下さい。
「お待たせしました」
バーテンダーから注文の品がテーブルに置かれる。
「それじゃあ、四季さん。改めて乾杯」
「乾杯……って、何に?」
「そりゃ、ブラックバイトの明るい未来に決まってる。このルシアンみたいになっ!」
「あーはいはい、全然うまくもなんともないから」
俺の渾身のネタに呆れながら手を振る。そしてそのまま自分の飲み物を口に付ける。
……これの為に折角頼んだが、無駄に終わったみたいだ。
「ふぅ……」
美味しそうに飲む姿を見て、半分やけくそにあおる。
「おお、良い飲みっぷり」
……あまり口に合わないな。
「すみません、マティーニを1つ」
次は四季さんに合わせてこっちも果実系を行こうかと思っていたが、口直しに少し辛めのが欲しくなる。
「マティーニかぁ、それ辛くない?」
「さっきのが想像より甘かったからな」
「なぁに?かっこつけてるのぉ?」
「男はいつだって女の前では虚勢を張る生き物だ」
四季さんが若干いつもより口調が柔らかくなってきている。
「なにそれ、だっさー……ふふ」
「四季さんは飲んだことあるのか?」
「前に一度ね。ほら、カクテルと言えばよく聞くじゃない?それで試しに飲んでみたの」
「確かに良く聞くな。それで結果は惨敗だったと?」
「そこまでじゃないけど……ワタシには合わなかったなって」
「ま、自分に合うのを飲むのが一番だよな」
少し拗ねた顔をした四季さんを見ていると、飲み物が運ばれる。
「……ふぅ、潤うわぁ」
「なにそれ、ちょっと言ってみたい」
「一度は言ってみたい台詞だよな。強いやつとか飲んだ時にさ」
「そうそれ」
「まぁ、別に今のはそこまで強くは無いけどな」
「それでも多少は憧れない?」
「分かる。あとは、伝説の『あちらのお客様からです』だよな」
「それめっちゃわかるっ。一度は見てみたい」
「……実は一回、したことがあるぞ」
「ええっ!?マジ?」
「ああ、仕事関係で一度だけどな。その場の勢いもあったが……」
「それで、どうだったのっ?」
「どうと言われると……話のキッカケづくりとしてナンパ紛いをしたのを後悔した感じだな」
「へぇー……意外。澤田君ってそういうことするんだ……」
「いや、仕方なくだからな?する必要があったからだ!仕事でだっ」
「ナンパしなきゃいけなくなる仕事ってどんな仕事だが……」
「一応弁解しておくが、如何わしい仕事では無いからな?」
まぁ、怪しい仕事ではあったが……。
「どうだか……。どうしよう、急に身の危険を感じて来たかも……」
「安心してくれ、例えそうであってもここで四季さんへ積み上げて来た信頼を壊すつもりはない」
「分かってる」
目の前の飲み物を一口飲み、本題を切り出す。
「……それで、今日はわざわざどうしてここに誘ったんだ?」
「別に大した理由はない。さっきも言ったけど、お店が順調に行っているから。その感謝にって思っただけ」
「……単純にお礼をか?」
「そうだけど、なに?ワタシがそうしたらおかしい?」
「あ、いや、全然っ。てっきり何か相談事かと思ってたからさ」
「心配ありがと。でも大丈夫。今の所良い走り出しだし、澤田君のアドバイスのおかげで初日も上手く乗り切れた」
「それは良かった」
「何その反応?これでも一応感謝してるんだけど……?」
「そういうわけじゃない。ただ、大したことじゃないから少し驚いただけだ」
「大したことじゃないって……まぁ、澤田君からしたらそうかもしれないけど……」
「でもお礼は受け取っておく。どういたしまして」
「うん、よろしい」
恥ずかしさを紛らわす為か、手に持っている飲み物を一気のあおる。
「ふぅ……すみません、パイナップルを使ったカクテル、お願いします」
「前にも話したかもしれないけど、澤田君はお店の為に色々動き回ってくれているのは知っているつもり。それと明月さんや閣下の仕事だって手伝っているんでしょ?」
「まぁ、暇があればなるべくな」
と言っても蝶の回収を手伝ったり、ちょくちょく進捗を話し合ったりだ。前ほど高頻度でこれからの事は話してはいない。
「ちゃんと休めてる?ワタシが言うのもアレだけどね」
「それについては大丈夫だ。それに、今の身体になってから前より丈夫な感じがする」
「へぇ、そうなんだ。例えば?」
「多分だけど、病気とかになりにくいと思う。あとは睡眠時間を減らしても多少は平気ってところだな」
「いいなぁ便利そう……ってあまりこういうのは良くないか、ごめん」
「俺もそう思ってるから大丈夫。それに明月さんやミカドさんにはかなり助けてもらったからな。多少無理してでも恩は返しておきたい」
「お待たせしました」
さっき頼んだ四季さんのカクテルが届く。
「ワタシはそこら辺詳しく聞いていなかったけどそんなに?」
「考えてみてくれ。戸籍や住む家、ましてや服も無くてどこぞと知れない世界に体一つで飛ばされたんだぞ?それが四季さんと席を並んで美味しくカクテルを飲める生活が出来てるってなれば……」
「うわぁ……確かにそれは大きな恩だなぁ」
「だろ?俺なりに手伝える事とか助言を言って助けてるつもりだけど、正直全然足りてない」
「向こうはそうは思って無さそうだけどなぁ……」
「そうか?」
「ええ、ワタシが聞いてる感じだと、向こうも澤田君に恩を感じているっぽい?多分だけど」
「2人とも人間が出来ているからなぁ……いや片方は猫か」
「そこは困った時はお互いさまってやつ?ってこれも私が言えた事じゃなかった……」
「どうしてだ?」
「ほら、ワタシって皆に助けられてばっかりじゃない?それでようやくここまでこれた訳だし……」
「別に嫌って訳じゃないからな?皆自分の意思で四季さんと働いている」
「大丈夫、そこはちゃんと分かってるって」
「それなら、今度は四季さんが助けてあげれば良いだけだな。ほら、困った時お互い様だろ?」
「……そうね、そうする」
「んじゃ、気を取り直して、乾杯」
「乾杯」
小さく、お互いのグラスがぶつかると音が響いた。
「………」
「ねぇ、澤田君……」
「……どうした?」
「終電……なくなっちゃったね」
「そうだね。四季さんの頭も終了のお知らせみたいだな」
「それ、どういう意味ぃー?馬鹿にしてるの?」
「いや、安心してくれ。終電にはまだ30分以上余裕がある」
「知ってるー」
揶揄うように笑い始める。今ぐらいが丁度ふわふわしてて気持ち良いのだろう。
「そもそも、四季さんの家は電車使わないだろ?」
「えー、どうして知ってるの?ストーカー?おまわりさーん」
「やめろっ、前に話した事があるだろ!?」
「それも知ってるー。変な期待するのかなーって思って……」
「期待、した……?」
挑発するような表情でこちらを煽る。少し赤くなった頬と、油断している雰囲気が何とも言えない……!!!クソがっ!くっそ可愛いしエロいぞッ!くぁwせdrftgyふじこlp。
「安心してくれ。四季さんが一緒にこういった場に来た時点で淡い期待をしてるからな!」
「なにそれ、キモッ、帰ろっかなぁ?」
「ストレートな感想どうも……」
「ウッソー。落ち込んだ?ねぇ、落ち込んだ?」
「大分仕上がって来たな……」
いつもよりかなりハイなテンションである。
「そうかな?そうかも。気持ちいいくらいふわふわしてる。ふふっ」
「それは何より。明日には残さない程度に留めような?」
「大丈夫、明日に残ったりもしないから。心配しないでいいわよ。一度言ってみたかっただけ」
「さっきの続きか」
「そうかも。ついつい言っちゃった」
まぁ、こちらとしては得しかないのでごちそうさまです!なんだがな。
「……ねぇ」
「ん?どうした?」
「……今日は、帰りたくないかも……」
身体をこちらに寄せ、口を耳元に近づけてそう呟く。
「……四季さん、安心してくれ。今日の四季さんの為に二人きりで夜景を眺められる最上階のホテルを用意しているんだ。是非ともそこに行こう。そして、窓から見下ろす夜景を見てこう呟こう……『この綺麗な夜景より、キミの方が世界一綺麗だよ』って!」
「なにそれぇ、趣味悪すぎないー?鳥肌がたつ……」
自分の腕をさすりながら白けた目で俺を見てくる。それにしても、今の囁きはやばすぎだろ……っ!咄嗟にキモイ決め台詞で乗り切ったが……。俺の理性を破壊する気か。
「明日も講義だろ?今日はもう帰ろう」
「……帰りたく、ないなぁ……?」
「わかったわかった。お店でも俺の部屋でも自由に使ってくれ。すみません、お会計をお願いします。それと、彼女を冷却したいのでお水も」
「別にいらないわよー、水なんてぇー……」
子供みたいにごねる四季さんに水を飲まし、会計を済まして店を出る。
「夜風が気持ちいいー……」
酔っている体には最高な気温だろう。
「送っていくよ。家の方向どこら辺?」
「平気、大丈夫だから」
「いや、心配だろ」
「親切装って女の部屋に上がり込むつもり?おまわりさーんっ」
「やめろっ外では洒落にならないから!」
「ふふ、冗談冗談」
いつもより楽しそうに笑う。とても良い事なのは間違い無いのだが……気が気じゃないぞこちらは。
「でも、本当に1人で帰れるから」
「いや、送らせてほしい。前みたいなことがあったら嫌だからな」
「その言い方すっごく卑怯……、それを言われたら何も言い返せないでしょ」
そりゃあ、分かってて言ったからな。
「……分かった。それじゃあお願いします」
「お任せあれ」
少し足取りが不安定な四季さんを見ながら、住宅内を歩いて行く。
「ワタシの家、ここだから」
四季さんが立ち止まり、目の前の建物を指差す。
「了解、ゆっくりと休んで明日に備えてくれ」
「適当な理由付けて部屋に上がろうとかしないの?」
「少なくとも本人の了承を得ずに上がるつもりは無いな」
「そう?でもあれでしょ、男の人って部屋に上がったらその気になって襲って来るんでしょ?」
「……否定は、出来ないかもなぁ。部屋に上げてる時点でそれなりに受け入れられているって考えるからワンチャンイケる……!?とか思ってもおかしくないしな」
「澤田君も?」
「ふふ、それは上がってからのお楽しみだな。なんなら、今から試してみようか……?」
「きゃーー襲われるぅー、おまわりさーん」
「だからそれは禁じ手だろ!俺に勝ち目無いからな?それ使われると」
「ふふふ、それじゃ、また明日ね」
「ああ、お休み」
「おやすみ」
手を振りながら四季さんが建物に入って行くのを確認してその場を後にする。
「………」
少し歩き、盛大にため息を吐く。
「かはぁあああぁぁーーー~~……何とか耐えれたなぁ」
唐突に誘われたから何かと思えば……まさかお礼の為に誘ったとは……。
「事前に知っていなければヤバかったな……いや、それでもやばかったが……!」
いつもはこっちが揶揄う事が多いが、今日は四季さんが冗談を言って揶揄って来ていた。それも子供の様な笑顔を浮かべて笑うように……。
「くそっ!スマホで録画でもするべきだった……!!せめて録音か写真だけでも撮っておけば……!!」
現状に満足してあの場を楽しむことしか考えてなかった。何たる失態……!
「いや、まだチャンスはあるはずだ。それに、お楽しみは今日だけじゃなくて明日も続くはず……ふふふ、ふはは」
時間も遅い夜道を、不気味な笑いを浮かべながら歩いて行く。
「……ん?」
妙な気配を感じて後ろを振り返る。
「……気の、せいか……?」
一瞬、誰かに見られてた気がしたが……。
「って、そりゃこんな時間に笑ってるやつがいたら気味悪く思うか」
さて、明日からも楽しい日々の始まりだ。次は……高嶺のケアと、父親の誕生日ケーキを求めてやってくる少女、深山結菜のイベントだろう。楽しむのも良いが、気を引き締めていかないとな。
日付が変わろうとしている誰もいない夜道を、いつもより軽快に帰って行った。
次の日、案の定こちらと顔合わせない四季さんを揶揄ったが、記憶を消せとパイプ椅子を握り出した時は流石に肝が冷えた。
あばばばばb¥bbbbb。