喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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主人公→明月栞那→主人公の視点に変わります。




第52話:再会の少女

 

 

「それじゃあ、お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

今日も無事1日を終え、順番に着替えてから解散していく。

 

火打谷さん、墨染さん、涼音さんがお店から出て行く。続けるように出て来た明月さんに視線を送る。

 

「大丈夫です。任せて下さい」

 

「ああ、すまんがお願いするよ」

 

「いえ、私も気になっていたので、丁度良い機会です」

 

そう言って高嶺を連れて二階へ上がっていく。

 

これで、高嶺のケアの方は問題無いだろう。一応念の為に結果だけは聞いておこうかな。

 

時間を潰すためにスマホで調べ物をしていると、奥から四季さんが出て来た。

 

「おつかれさん」

 

「おつかれーって、まだ帰って無かったの?」

 

「ちょっと用事があってな」

 

「もしかして、さっきの二人に関係すること?」

 

そう聞いてくるってことは、すれ違ったか話を聞いたのかな。

 

「そんな感じだ」

 

「何かあったの?」

 

「いいや、特に何も起きてないぞ」

 

「それならどうして」

 

「そうだなぁ……これは高嶺のプライベートにも関わるから詳しくは言えないけど、ちょっとしたケア、世間話みたいなもんだから心配しなくて大丈夫。既に明月さんにお願いしているしな」

 

「高嶺君の、ケア……?」

 

うーん、やっぱり引き下がらないかぁ。

 

「……このお店の人気って、ぶっちゃけ涼音さんの腕による人気が大部分だろ?」

 

「それは、確かにそうね」

 

「それに対して高嶺が俺にも何か出来ないかって相談しているだけだから。普通なら問題ないんだけど、高嶺の場合は少しの揺らぎが命にどう影響を及ぼすか分からないからな……。ほんとに念の為ってやつ」

 

「あ、そっか。そういえば高嶺君、今危うい状況だった……」

 

「そそ、だからミカドさん達に注意深く見てもらってる段階。今の調子なら問題無さそうだけどな」

 

「それで、澤田君は話が終わるのを待ってるってわけか」

 

「ご名答、なんで気にせず先に帰って大丈夫」

 

「分かった、それじゃ先にあがるね」

 

「おうとも、また明日~」

 

「また明日」

 

四季さんがお店を出たのを確認してスマホに目を通す。内容は、ここら近辺で何か事件や問題が起きていないか。という内容。

 

「……特に成果は無さそうだなぁ」

 

暫く調べたが、それらしい気になる記事は無かった。明日にでもミカドさんに聞いてみるか。

 

スマホをから目を離すと、奥から明月さんが出てくる。

 

「無事そっちは終わった感じ?」

 

「はい。何かを掴んだ……って程ではありませんが、取りあえずの納得は得られました」

 

「それは良かった。ま、明日には死に物狂いで働くと思うし、暫くは大丈夫だろう」

 

「え、それはどういう意味で……」

 

「明日のお楽しみだな。っと、明月さんに話しておきたいのは別にあるんだが、この後大丈夫?」

 

「はい、勿論です」

 

 

 

 

 

 

「と、いう事で、もしその条件に一致する人が来ていたら俺に連絡をしてほしい。まぁ、遅かれ早かれ気づくとは思うけど」

 

「分かりました。その時は連絡します」

 

澤田さんとの話を終え、見送る。

 

「眼鏡をかけて、スーツ姿の人……そして、コーヒーは飲むがケーキには一切口を付けずに残してしまう……ですね」

 

教えていただいた特徴を口に出して覚える。

 

お店が無事オープンし、忙しいからかあまりこういった場を設けなくなってきたと思っていましたが、今日の朝に澤田さんから相談あると言われました。

 

一つは高嶺さんのこと。こちらに関しては私の方でも気になっていたので今日くらいにでもお話する機会を作ろうかと考えていました。澤田さんの方も私への確認の意味が強かったみたいですね。

 

それからもう一つは、先ほど話に出て来た、蝶が集まってきてしまっている男性……。どうやら悩みがあるみたいですが、その内容まではその時にお話しすると言われたので詳しくは聞けていません。

 

最近は、涼音さんも生き生きと働いていますし、ナツメさんも以前より笑顔が増えています。ちょくちょく澤田さんに呆れるような視線を送る場面に遭遇しますが……これも彼がわざとそうしているみたいですし、ご愛敬ってやつですね。

 

そんな中わざわざお話をされたのですから、お店に関わる事なのは間違い無いのでしょう。それから、あの口ぶりから見るに……それが高嶺さんの自信にも繋がる何かがある。と見ても良いかもしれません。そうでないなら同じタイミングで話されるとは思えませんし……。

 

「ですが……」

 

澤田さんの話していた内容だと、高嶺さんの落ち込んでいる理由が、()()()()()()と言っておりましたが……。

 

「その要因の一つに澤田さんもおられるんですよねぇ……」

 

高嶺さん曰く、確かに涼音さんのケーキが好評でお客さんが来ていると言っておられましたが、同時に同じキッチンで働く澤田さんの活躍っぷりにも影響を受けておりました。

 

「そう言った抜けもある様ですね」

 

以前に自分の未来は見えないとか何とか仰っておりましたし、恐らく今回の事も見逃していたのかもしれません。まぁ、彼の場合自分の活躍をそこまで高く見ていないのかもしれませんが……。

 

「その分、私が高嶺さんにしっかりと寄り添えば良いだけですね」

 

ナツメさんの方は澤田さんにお任せして、私の方は高嶺さんに集中する。勿論、ナツメさんの方にも目は光らせておきますけど……。

 

「さてと、それでは私も明日に備えましょうか」

 

 

 

 

 

その次の日は物凄い勢いで高嶺が働いていた。

 

「死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ……!」

 

うん、これは思ったより効果あり過ぎたのかもしれない。

 

その様子を気を付けながら見ていると、視界の端に青い蝶が飛んでいるのに気づく。

 

「ん?昂晴、どうかした?」

 

「え、いえ、別に」

 

高嶺もその存在に気づいて俺をチラ見する。

 

「後ろ通ります」

 

蝶の様子を見ていると、明月さんがデザートの乗った皿を運んできた。

 

「ん?栞那さん、その皿のケーキって……」

 

「これは、お客さんが残してお帰りになっちゃいまして……」

 

「オーダーミス?」

 

「いえ、では無いはずです。クレームがあったわけでもありませんから」

 

「そういうの、へこむなぁ……はぁ……」

 

それを聞いて涼音さんがかなり落ち込む。

 

「でも、美味しくないとか、そういうことではないと思うんです。一口もたべてませんから、あのお客さん」

 

「一口も?」

 

「はい、食べようとはしていたのですが、実際に口に運ぶことは無くて……何だか悩んでいる様でした」

 

「皆が皆、評価してくれるわけじゃないってのは理解してるつもりだけど……それでもやっぱり……何だかなぁ~……」

 

「ごめん、ちょっと先に休憩行ってきてもいい?」

 

明らかに落ち込んでいる涼音さんをどうぞどうぞと送り出す。

 

「さて……と、明月さん、そのお皿は例の人の?」

 

「はい、澤田さんが仰っていた方ですね」

 

「なるほどな、だからさっき見た蝶は……」

 

「ちょっと、待ってほしい。さっきの蝶は……俺じゃないのか?」

 

「高嶺さんとは違いますね。先ほどまでおられた、このケーキを食べなかったお客さんが呼んだと思われます。一応フロアの方は回収していたのですが、こっちにもいたんですね」

 

「そうなのか……ごめん話を折って」

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

「取り敢えず、ミカドさんにも報告お願い。それと、暫くは様子見かな」

 

「分かりました。いきなり首を突っ込むわけにも行きませんし……取りあえずは私の方でも見ておきます」

 

「それで、よろしく」

 

「了解です」

 

「大丈夫なのか?そのまま放置しちゃまずいんじゃ……」

 

「大丈夫です、今の所はまだ初期段階ですし、まだーー」

 

「すみません、オーダー入ります」

 

「っと、今は目の前の注文に集中しないとな。それじゃそういうことで」

 

「分かりました。では私もフロアに戻りますね」

 

その後、その日は特に問題無く終わった。

 

そして、次の日も例のお父さんは店へ訪れた……が、結局デザートは一口もつけずにコーヒーだけを飲んで帰って行った。

 

「一体何が不満なのさっ、こんなに美味しいじゃん!」

 

今回のイチゴのタルトは店でも人気のメニューだ、それを食べなかったという結果に涼音さんが激怒している。

 

「澤田さん、大丈夫でしょうか……?」

 

「あー……まぁ、一応。それに、そろそろ救世主がやってくるからさ」

 

「救世主……?」

 

俺の言葉に不思議そうに聞き返す明月さんの後ろから、困った様子の四季さんが入ってくる。

 

「あの、涼音さん。少し良いですか?お客さんが、ちょっと……」

 

「なに?クレーム?」

 

「いえ、そうじゃなくて……とにかくフロアにお願いします」

 

「んん?」

 

歯切れの悪い言葉に不思議に思いながらも四季さんの後に続いて厨房を後にする。

 

「おお、遂に来たか」

 

あの反応からして間違いないだろう。

 

「澤田さん、もしかして……?」

 

「ああ、救世主のご登場だ」

 

涼音さんの様子を見るために一旦フロアに顔を出す。

 

「ふわふわしているケーキ。パパが、すきなの……ありませんか?」

 

そこには、五歳くらいであろう少女が困った様子で縋るように話しかけていた。

 

「何とかなりませんか?涼音さん」

 

「って言われてもだね……参ったなこりゃ」

 

その様子を見ていると、俺の存在に気づいたのか、顔に驚きと笑みを浮かべて指を指す。

 

「あ、まほうつかいのおにいちゃんっ!!」

 

「まほうつかいの……」

 

「おにいちゃん……?」

 

不安の中知っている人間を見つけたからか、足に抱き着いて来た。

 

「なに、達也、知り合いの子?」

 

「以前にショッピングモールで一度遊んだことがありまして」

 

取りあえず頭を撫でておく。

 

「それでどうして魔法使いって……おまわりさんに連絡しておく?」

 

「事案ですね」

 

「待て待て待て、違う、ちょっと手品してあげただけっ、なぁ?そうだよな結菜ちゃん?」

 

「はい!沢山チョコレートもらって、魔法も見せてもらいました。すごかったですっ」

 

「なるほど、それで魔法使いか」

 

「それで、今日はどうしてここに?」

 

これ以上変な方向に行きたくない為本題に入る。

 

「えっと、パパが好きなケーキをかいたくて……」

 

「ふむふむ、パパ想いの良い子だ。そのケーキはここにはある?」

 

「ないです」

 

「なるほどなるほど、パパの好きなケーキってどんなのだったか覚えているかな?」

 

「白っぽくて……でもショートケーキより白くないです」

 

「となると、生クリームじゃないのか」

 

結菜ちゃんの話を聞きながら涼音さんが正体を考察していく。

 

「他には、ママとかパパから何かお話聞いてたりは?」

 

「ママが言ってた!チーズが入ってるって!」

 

「涼音さん、何か分かりますか?」

 

「それだけじゃ……お店に無いやつで……あっ、ちょっと待ってて。スマホ持ってくるから」

 

予定通り、思いついた涼音さんが急いでスマホを取りに行く。

 

「分かりますか……?」

 

「偉いな、結菜ちゃんの名推理でさっきのおねえちゃんが分かったぞ。これでパパが好きなケーキが手に入りそうだ」

 

「ありがとうございますっ!」

 

満面の笑みを浮かべていたので取りあえず頭を撫でておく。

 

「達也先輩って小さい子の相手慣れているんですね」

 

「そうか?」

 

「ね、意外過ぎて驚いた……」

 

火打谷さんの隣で、四季さんが信じられない物を見たような顔でこっちを見ていた。

 

「ごめんっ、これ、どう?こんな感じのケーキで合ってる?」

 

「うん!これ!このケーキがほしいです」

 

「アタシも知ってる。中のチーズケーキが二層になってるやつですよね」

 

「そうそう、うーん……ゴメンね。ここには売って無いの」

 

それを聞いて絶望するような表情を浮かべる。

 

「結菜ちゃん、そのケーキは今日欲しいの?」

 

「パパの誕生日にプレゼントしたいですっ!」

 

「それっていつかな?」

 

「つぎの月曜です」

 

「となると……あまり時間はないけど、何とかなるかなぁ……?」

 

「涼音さん、行けそうですか?」

 

「お客さんに渡す商品だし、練習をね、しておきたんだよ」

 

「それなら俺と高嶺で多少はカバーしますんで、予約受付ってことでやりませんか?」

 

「するとなると、そうなるかな……?大きくなっちゃうけど、大丈夫かな?」

 

「はい!おっきいケーキ、大好きですっ!」

 

「そんじゃあ、連絡先とか詳しく聞きましょうか」

 

一段落着いたと思ったら、結菜ちゃんのお腹が盛大になる。

 

「……おなか、すいたぁ……」

 

救いの女神を求めるような顔でこっちを見て来たので、四季さんと高嶺に視線を送る。

 

「あーはいはい。わかってる。ワタシだって鬼じゃないって」

 

四季さんの許可をもらい、高嶺が結菜ちゃんと視線を合わせる。

 

「半熟と薄焼き、どっちのオムライスが好きかな?」

 

よし、これで予定通りだな!

 

足にしがみ付いている結菜ちゃんを剥がして席に座らせる。

 

「それじゃ、俺は厨房の方に戻るから、あとはこっちのおねえちゃんとお話進めてね?」

 

「はい!わかりましたっ、ありがとうございます!」

 

「お礼まで言えるとはすごいな」

 

最後にもう一度頭を撫でて立つ。

 

「すみません、それじゃあこの子をお願いします。俺は一応厨房の方へ戻っておきます」

 

「わかった。お願いね」

 

この後は涼音さんや他のみんなに任せて問題無いだろう。

 

厨房に戻り、オムライスを完成させた高嶺に直接席まで運搬を依頼しておく。その間位は俺一人で何とかしてみせよう……!

 

中華料理の映画みたいに気合を入れていると、心配をしたのか四季さんが顔を覗かせる。

 

「……何か御用で」

 

「いや、何今のポーズ……?」

 

「いや、ちょーと気合を入れようかと……な?」

 

「それであんな変なポーズをとるのっ?」

 

「たまにはそう言う気分があるんだ。それで、何用?」

 

「そういう気分て……まぁいいや。大したことじゃないけど、あの子と知り合いだったんだなって思っただけ」

 

「9月くらいに買い物しにショッピングモールに行った時に偶然な、衝撃的出会いだったぞ」

 

「なにそれ、気になる」

 

「俺が座って居たベンチの横に座っててさ、両手にソフトクリームと飲み物を持っていてさ、それが超危なっかしいわけよ」

 

「あー……それはワタシも思う」

 

「ヤバそうと思って席を立って離れようとしたら後ろで嫌ぁな声と音がして振り返ると、案の定飲み物を零しててさ、それを止めようと動いてアイスも落として残ったのはコーンだけ……」

 

「あちゃー……」

 

「すると、顔を歪ませて涙を浮かべ始めたわけ!俺にはすぐに分かったよ。『あ、これ充電してんな』って……今すぐにも爆発しそうな危険な状態だった。そんなの見たら放っておく訳にも行かないから、何とかあやして片付けをして代わりにチョコをあげて、母親と合流まで手品して遊んだって感じ」

 

「それはそれは、盛大な出会いで……」

 

「あれだな、四季さんに大学に侵入したいってお願いした日だな」

 

「あー……あの日か。そんな事もあったなぁ」

 

「とまぁ、馴れ初めはこんな感じだな」

 

「馴れ初めって……でも納得した。それならあんだけ懐くのも無理ないか……」

 

「知らない店で知らない人だらけの中知ってる人を見つけたんだ。縋りたくもなる」

 

「……何だか妙に説得力のある言い方」

 

「既に俺が経験しているからな」

 

「あー……たしかに」

 

四季さんと話していると、入口の扉が開いたベルの音が聞こえる。

 

「おっと、新規だな。おしゃべりはここまでとしよう」

 

「面白い話も聞けたし、ワタシも戻らないと」

 

客が来たことで四季さんもフロアに戻っていく。

 

無事深山結菜ちゃんがケーキを求めて三千里してきてくれたわけだし。後は誕生日まで何とか乗り切れれば、10月は乗り切れそうかな。

 

入って来た注文を作りながら、そう考えていた。

 

 





さてさて、お次は原作から少し離れて行きます。誕生日のイベントには戻るかも……?

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