喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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誕生日会が終わった後からのお話です。




第55話:神様降臨

 

「いやー無事成功して良かったですねー!」

 

「ねー、結菜ちゃん達嬉しそうだったね!」

 

誕生日会も無事終わり、皆で店内の片付けをして交代で帰る支度を始める。

 

「お二人さん、こっちは終わったよー」

 

「了解です。そんじゃ行くか」

 

「ですね」

 

女性陣が終わったので高嶺と一緒に部屋へ入る。

 

「いやー、ケーキ作りまでは大変だったけど、その分得たものはあったな」

 

「そうですよね、喜んでもらえてよかったです」

 

着替えながら今日の事を話し合う。

 

「……ん?」

 

ふと、視界に長方形に立てられた段ボールが目に入る。

 

「何なんでしょう、誰かが頼んだのでしょうか」

 

「かもなぁ。こんなデカいの何に使うんだろうな」

 

二人で不思議そうに見ながら着替えを再開すると、唐突に立っている段ボールが倒れた。

 

「うわっ!?びっくりした……」

 

大きな音をたてて倒れた段ボールを見て驚いている。

 

元に戻そうと近寄ると、段ボールが誰の手も借りずに勝手に1人で立ち上がる。

 

「……は?」

 

お互いに顔を合わせる。

 

「澤田さん……今、触りました?」

 

「いや……んなわけないけど……?」

 

もう一度段ボールを見る。よく見ると、段ボールの側面に『生物』と赤いシールが貼られていた。

 

……これって。

 

「澤田さん?」

 

「……いや、ちょっと心当たりがあった」

 

「マジですか……?開けます?」

 

「いや、それは後にしておくよ。それより、着替えなくて良いのか?明月さんに何か呼ばれてなかったっけ?」

 

「あ、そうでした」

 

いそいそと着替え、早々に出て行く。

 

「これは……まさか……なぁ」

 

俺も着替えを済ませ、段ボールの正面に立つ。

 

明月さんは今高嶺と話している途中だし、ミカドさんは……って、関わって無かったって言ってたか。

 

「……うーむ」

 

考えても埒が明かないので取りあえず、段ボールのガムテープに手をかける。

 

「……ええい、ままよ!」

 

勢いよくテープを剥がし、その場を飛び退く。

 

警戒していると、中から一人の人物が出てくる。

 

「まさか、またもこれを使う羽目になるとはのぅ……」

 

手に持った扇子で肩を叩きながら疲れた顔をして出てくる。神社などで見る巫女服の様な服装に豪華で煌びやかな装飾品と意匠が描かれていた。

 

「はて、妾を出してくれたのはうぬか?感謝する」

 

こちらを見ていたのは、土地神の時と同じ見た目で現れた、()()()()()()()であった。

 

 

 

 

「……ま、まさかの事態だな……これは」

 

間違いであってほしかった。ミカドさんに調べてもらっていたはずだが、まさかご本人が直接乗り込んで来るとは……。

 

「そこで呆けておるお主よ、一つ確認しても良いか?」

 

「あ、ああ……なんなりとどうぞ」

 

「ここは、喫茶店で間違いないか?」

 

「そうだな、喫茶店だ。カフェステラって名前の……」

 

「そうか、では問題無く来れたと言うわけか」

 

満足そうに腕を組み、うんうんと頷いている。

 

「という事は、貴様が澤田達也で間違い無いのだな?」

 

「っ!?……あ、ああ。それで当たっているが……?」

 

これはぁ……、本物だなぁ。神の力か……?

 

「何やらこそこそとこちらを嗅ぎ回っている様じゃが……まぁ、それについてはこちらが先にしたとこじゃ、許そう」

 

……ミカドさんの件もバレテーラ、という事は、俺を監視させていた正体は目の前にいる神で間違いなさそうだな。

 

「……それで、どの様なご用件で……?あと、出来ればお名前を……」

 

「おっと、忘れていた。妾は卯花之佐久夜姫。簡単に言えば神じゃな。お主に用があってきた」

 

「神……様」

 

「ふむ、この感じも懐かしいのう。よかろう、その証拠を見せる」

 

「え、ちょ、待って」

 

神の力って……!嫌な予感しかなんだが!?

 

俺の制止を無視して、目を閉じて両手を勢いよく合わせる。

 

「くっ……!」

 

すると、手の隙間から眩い光が広がる。

 

「よし、こんなもんじゃろ」

 

納得するように俺の後ろを見る。つられるように振り返ると、そこにはパイプ椅子が自立ロボのように形を変えて直立していた。

 

「………」

 

「どうじゃ、これで信じる気になったか?」

 

「……いや、最初に見せるのがこれって、神様としてどうなの……?」

 

カッシャン、カッシャンと左右に動き回る。これ、元に戻んのか?

 

「何を言うか、妾の傑作じゃぞ」

 

「あー……うん、凄いのは凄いんだけど」

 

生徒会室で作った物よりか進化しているのはしている。股間のバースト砲は健全だがな。

 

「ふむ、今時の若者にはウケないとみた」

 

「どうだろうなぁ……ロボ好きには刺さると思うんだけど……」

 

「そうか?ならもう少し工夫が必要じゃな」

 

……なんの話をしているのだろうか?

 

「何事だっ!?」

 

謎の会話をしていると、切羽詰まった様子のミカドさんが乱入してくる。

 

「あ、ミカドさん」

 

「突然とてつもない力を感じたが……っ!?」

 

俺を一度見て、後ろの神様を見て目を見開く。

 

「あなた様は……!」

 

「うむ、妾は卯花之佐久夜姫。急な来訪じゃが、許せ」

 

「いえ……っ、ですが、どういった用件でわざわざ地上へ……?」

 

「そこらも含めてきちんと説明をしておこうか」

 

ミカドさんの姿勢を見れば、目の前の神の地位が高いってことが良く分かる。

 

……それより、はやくこのうるさいロボを元に戻して欲しいんだが……?

 

 

 

 

「ええと、つまり……上役の神から別の仕事を押し付けられた……で良いのか?」

 

「その認識で問題ない。全く、何が『そろそろ、別の事も知っていた方がいいんじゃないの~?』だ。面倒ごとを投げて来ただけじゃろうが……」

 

不機嫌そうにしながら、明月さんの淹れたコーヒーを飲む。

 

「む、中々美味いではないか。栞那、お主が淹れたのか?」

 

「は、はいっ、お口に合って何よりです!」

 

「そう畏まらんくてよい。こやつみたいに力を抜くがいい」

 

「澤田さんが抜きすぎな気もしますが……善処いたします」

 

「聞きたい事があるんだが……いいか?」

 

「ん?よかろう。なんなりと申し出るがいい」

 

「俺に竜胆ルリを使って監視させた理由を聞いておきたい」

 

「ほう、やはり気づいておったか」

 

「そっちが簡単に引っかかってくれたからな。お礼として袋ごと献上したけど」

 

「なるほど、ルリがうみゃい棒を沢山持ち帰ってきてたのはそういうことだったのか」

 

「喜んでもらえると思ったからな」

 

「簡単じゃ、お主の人柄や生き方を見ていた」

 

「なんのために……?」

 

「わざわざとぼける必要はない。話は聞いておる。お主の力のためにじゃ」

 

ミカドさんと明月さんと見るが首を振られる。……教えてはないようだが。

 

「そこの二人じゃない、いわば他の神からだ。報告しておったのだろう?それを聞いたまでじゃ」

 

「……なるほど」

 

そういえば、ミカドさんの上にも神が居たな。横繋がりみたいなもんだろうか。

 

「状況は大体把握出来た。それで、これからどうするんだ?」

 

「そうだのう……。久々にここの暮らしを満喫するのも手じゃな」

 

「地上にまた住むのか?」

 

「じゃな。色々と気になることもあるからの。当然、お主の経過を見つつになるが」

 

「まぁ、お好きにどうぞ」

 

「色々と聞いておきたい事もあるが……まぁよい。それについては明日以降にしておく」

 

「了解。こっちも朝が早いんでそっちの方が助かる」

 

 

 

 

卯花之佐久夜姫とのファーストコンタクトを終え、お店に静寂が戻る。……というか今日どこで寝泊まりするんだろう。あの神様は……。

 

「はぁあああーーー……何事も無く終わりましたねぇ」

 

明月さんから盛大なため息が出る。

 

「うむ、荒波を立てることなく終えれたな」

 

「終始二人とも無言だったしな」

 

「堂々と話されてる澤田さんがおかしいんですよっ!?」

 

「本来なら易々とおりてくることは無いはずだ……。全く、貴様の口の利き方には何度肝を冷やされたか」

 

「2人にとってはそんなもんか」

 

「逆に澤田さんは何も思わないんですか……?」

 

「いや~……思った通りというか、想像以上に想定内というか……」

 

最初は警戒こそしていたが、話していくたびに頭の中の人物像と一致していった。

 

「正直、気が気じゃありませんでしたよぉ……」

 

「急に店内で膨大な力を感じたと思えば……」

 

「それについてはすまん。まさか、懲りずにまた段ボールで来るとはなぁ……。あ、パイプ椅子って元に戻ってるか見ないとな」

 

「よりにもよって心配するのはそれか……」

 

明月さんとミカドさんが呆れた様子でこちらを見る。

 

「確認だが、貴様が気にしていた存在で間違い無いのだな?」

 

「ああ、ミカドさんにお願いしていた相手で問題無い。ま、向こうからやって来ちゃったけどな」

 

「向こうの顰蹙を買ったかと思ったが……。違ったようで心底安心した……」

 

「とまぁ、何とかなったし、取りあえず今日は解散しようか。続きはまた明日ということで!」

 

「……そうだな。そうしよう」

 

 

 

 

 

次の日、いつも通り働いていると、厨房に四季さんが入ってくる。

 

「澤田君、ちょっといい?」

 

「ん?どした?」

 

「お客さんで、澤田君を呼んでくれって言っている人が居るんだけど……」

 

「俺を?ご指名?」

 

「ええ、呼べば分かるって……」

 

「……それって、髪が長くて、昔っぽい口調の女の人だったりする?」

 

「え、うん。そうだけど、知り合い?」

 

「あ~……まぁ、一応。分かった。対応するよ」

 

「ごめんだけど、お願い」

 

「すみません、少し外して大丈夫ですか?」

 

同じ厨房の涼音さんと高嶺に一声かける。

 

「べつにいいよ。とりわけ忙しいって程じゃないし。いってきたら?」

 

「すぐ戻りますんで」

 

厨房を出てフロアを見渡す。……居た。

 

向かう途中に、明らかに緊張したミカドさんと目が合う。『くれぐれも粗相のない様に……!』と目で言ってきたので苦笑いで返す。

 

「お待たせ」

 

四人用の机に一人で座っている姫様の正面に座る。

 

「お、来よったか」

 

メニューを広げながらこちらを見る。昨日とは違い、周囲に馴染めるような服装をしていた。

 

「それで、何用でしょうか?今は忙しくないけど、出来ればあまり持ち場から離れたくないんだが……」

 

「わかっておる。その為にわざわざ空いている時間帯に来たからの」

 

「お気遣いどーも」

 

「ここのお店のオススメを食べたくてな、ちと教えてはくれんか?」

 

「おススメを……?」

 

「どれも美味しそうでな、どうせなら一番を食べておこうかと思ったんだが」

 

「なるほど、そうだなぁ……売れ行き的にはイチゴのタルトとかどうだ?女性人気ナンバーワンだぞ」

 

「イチゴのタルト……向こうの二人が食べているやつか?」

 

「ああ、あれだな。他には……コーヒーとかもおススメだ。それとパンケーキだな。あれは外せない」

 

「ふむ……じゃが、全部は食べ切れんが……」

 

「別に今日じゃなくて明日でも良いのでは?」

 

「それもそうじゃな。因みに、お主はどれが得意だ?」

 

「俺?んー……強いて言えば紅茶が一番練度高いかなぁ?」

 

「そうか、ではこのアールグレイと、パンケーキを頼む」

 

「コーヒーじゃなくて良いのか?」

 

「昨日飲んだからな。今日は別のにしておく」

 

「俺が淹れるのを楽しもうって考えか……」

 

「喜べ。妾が評価してやる」

 

「精々頑張るよ……。じゃあ、紅茶とパンケーキだな。少々お待ちください」

 

「うむ、楽しみに待っておる」

 

席を立ち、伝票に注文を書いて、厨房へ届ける。

 

「すみません、パンケーキ一つお願いします」

 

「りょうかいって、なんであんたが?」

 

「ちょっと知り合いの偉いさんが来てたので、パンケーキと紅茶を……」

 

「なるほどねー、分かった。とびっきりのを用意してやんよ」

 

「お願いします」

 

フロアに戻り、紅茶を淹れる準備をする。

 

「澤田達也……!貴様、大丈夫だろうな!?」

 

「問題無いって、普通にお店のおススメを聞かれただけだから」

 

「そうか……、なら良い」

 

安心しながら持ち場に戻っていく。

 

「ねぇ、澤田君」

 

ミカドさんの次は四季さんがやってくる。

 

「なに?」

 

「えっと、何かあったの?なんだが、閣下と明月さんがピリピリしてるんだけど……」

 

「あー、二人の業界の偉いさんが来てるからな。ほら、さっき俺を指名してた女の人」

 

「ああ、あの綺麗な人。……え?本気?」

 

「本気も本気。だからミカドさんがソワソワしているだろ?」

 

「確かに……。それならどうして澤田君が対応をしてるの?」

 

「さぁ?気に入ってくれたんじゃない?」

 

紅茶を淹れ終え、運ぶ。

 

「お客様、お待たせしました。こちら、アールグレイでございます」

 

「うむ、ご苦労。ではさっそく……」

 

カップを手に取り、一口飲む。

 

「……美味しいな」

 

「お口に合って安心したよ。大したことじゃないけどな」

 

「謙遜する必要はない。それなりに腕を磨いたのじゃろ?」

 

「そりゃあそれなりには。……Robinのとどっちが上かな?」

 

「……わざわざ言って来るという事は、眞一郎のことも知っておるのじゃな?」

 

「どうせ神には既に筒抜けだしな。隠しても意味は無い」

 

「そうか。……ま、向こうのにはまだまだ及ばんな」

 

「流石に熟練相手には勝てんか」

 

「当たり前じゃ。磨き上げて来た年数が違う」

 

「向こうの人達は元気そうか?」

 

「問題無かろう。たまに見ておるが、元気じゃったぞ」

 

「それはそれは何よりで」

 

「貴様は……どこまで知っておる?」

 

「大雑把に、ある程度は」

 

「今すぐにでも問いたい所だが……それはあとにしよう」

 

「だな。……ところで、気になったんだが、昨日はどこで寝泊まりしたんだ?」

 

「ん?普通にホテルに泊まったが?」

 

「そ、そうか……」

 

普通に金とか服は持ってきたのか……?あまり深く突っ込まない方が吉だなこれは。

 

 

 

 

 

「………」

 

紅茶を淹れ、それを席へ運んでいく澤田君を見る。

 

相手は……閣下達の偉い人って言ってたけど、二人の様子を見た限り嘘じゃなさそう。

 

その相手に親しげに話しているけど、元々知り合いだったのだろうか……?わざわざ本人を指名するくらいだし親しい関係なのだろう。

 

「いつの間に、親しくなったんだろう……?」

 

 

 





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