喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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色々と話が混雑して来たかも……?



第56話:虫喰の瞳

 

 

涼音さんが作ったパンケーキを運び終え、ようやく戻れるかと思ったが、厨房に戻ると……。

 

『偉いさんなんでしょ?こっちはまだ二人で余裕があるから、そっちを対応してもらって平気。何かあったら呼ぶから』

 

と言われ、追い出されてしまった。

 

「どうして俺が……」

 

対応ならミカドさんでも良いんじゃないか?神相手に接待なんてごめんだぞ。

 

席に座って美味しそうにパンケーキを食べている卯ノ花姫を見る。俺の視線に気が付くと、『うむ、美味いぞ。グッドじゃ』と言いたげにご満悦であった。

 

「ま、その内帰るし問題はーー」

 

一旦気にするのは止めようとすると、店に一人新規のお客が入って来た。

 

「………」

 

それを見て、近くに居た火打谷さんが対応をし、席へ案内していく。見た目は……高嶺や四季さんと同じくらいか少し上ぐらいの男。

 

だが、その男の周囲には蝶が集まっていた。

 

明月さんとミカドさんを見ると、二人もそれに気づき、頷いていた。

 

案内した火打谷さんは、特に気が付いていない様に見えたが……、たまたま左目に映らなかったのだろうか?

 

一応注意をしながら仕事を続けていると、その男の席の近くに座っている卯ノ花姫がメニューを見ながら何を頼もうかと考えている。

 

……今日は紅茶とパンケーキだけじゃなかったのか?

 

呼ばれるのも面倒なので、先に近づいて声をかける。

 

「今日は紅茶とパンケーキじゃなかったのか?」

 

「別に追加で食べようなど考えておらん。何かルリへお土産を買って帰ろうかと考えておる」

 

「なるほど、これは失礼」

 

「オススメはどれがよいとかあるか?」

 

「おススメか……ショートケーキとかは?無難だし万人が好むと思うが」

 

「ほんとに無難じゃのう。まぁ分かった、もう少し考えておく」

 

「了解、決まったら呼んでくれ」

 

引き続きメニューを見ている神様を置いて、持ち場に戻る。

 

……ん?ドリンクの注文が来るな。

 

火打谷さんが先ほど座った男から注文を受けているのを聞き、前準備だけ進めておく。

 

「すみません、ドリンクの方お願いして良いですか?」

 

「おっけー、伝票もらうわ」

 

伝票を受け取り内容を見るが、どうやら飲み物だけのようだ。休憩に来ているだろうか。

 

飲み物を淹れ終わり、席まで運ぼうと振り返ると、目的の席には誰も座っていなかった。

 

ん?トイレか?

 

そう思って席へ近づくと、さっきの男が席を離れ、卯ノ花姫の正面に座って居た。

 

「何を頼むか困ってるのなら、俺と一緒にこれ食べようぜ?」

 

……こいつ、自殺志願者か?蝶が集まってるくらいだしあり得るな。いや、冗談だが。

 

後ろを振り返り、ミカドさんを見ると驚愕の表情で固まっていた。当の卯ノ花さんも面倒くさそうにあしらっている……が、男はめげずに話しかける。

 

「貴様、失せろと言っているのが分からんか?」

 

「はぁ?人が折角親切に聞いてんのに、その態度はねぇだろっ」

 

「それが迷惑以外何物でも無いとなぜ分からん……」

 

男の言葉に対してため息を吐く。それを見て男の顔に怒りが見える。

 

これは、一応止めに入った方が良いのか?けど、仮にも神だし余計な手出しは不要かもしれないが……。

 

飲み物が入ったトレイを持って見ていると、その輪に火打谷さんが割り込んできた。

 

「あ、あの、お客様。店内でお静かにしていただけると……」

 

「俺は別にうるさくしてねぇよ。ただお話しているだけだ」

 

「妾は別に望んでおらん。こやつが勝手に話しかけて来ただけじゃ」

 

「お相手の方も、こう仰っていますし、お席へ戻ってはどうでしょうか……?」

 

……そろそろ火打谷さんが可哀そうだし、取りあえず止めないと。

 

トレイを適当にカウンターへ置く。

 

「じゃあ、その代わりよ、店員のアンタが俺の話し相手になってくれんのか?俺は別にそれでも構わないけどよ」

 

「え、あ、いえ……そう言ったのは……」

 

「別に良いだろう?」

 

「お主、用があったのは妾では無かったのか?」

 

「うっせぇな、お前は黙ってろ」

 

自分に気を向けようと話かけた卯ノ花を無視して、火打谷さんに手を伸ばし、腕を掴む。

 

「あ、あのっ……!……あ……」

 

「お客様、店内ではお静かに願います」

 

火打谷さんの腕を掴んでいる男の腕を掴む。

 

「はぁ?誰だよあんた」

 

「ここのお店の者ですよ」

 

男の腕を親指で押し、火打谷さんの腕から離す。

 

「いッ!いてぇなっ。放せ!」

 

痛みから逃れようと腕を振るが、逃さない様に更に力を入れる。

 

「火打谷さん、こっちは任せて良いから下がってて」

 

「え、けど……」

 

「放せってっ、客に暴力振るうのか!」

 

「お客様、店内ではお静かに……これは、最後通告です」

 

言葉を選びながら、強めに言う。横を見ると面白そうに俺を見ている神様が居た。

 

……こいつ、楽しんでやがるな?

 

「お客様、何かございましたか?」

 

目の前の客を叩きだそうかと考えていると、ミカドさんが間に入る。

 

「っ!?、何でもねぇよ。くそがっ」

 

自分より年齢が上の人間が来たのを見て、一瞬驚きながらも席を立つ。

 

「こんなクソみたいな店、二度と来るかよ」

 

逃げ台詞を吐き捨てたのを見て、手を離す。

 

「そうですか、お帰りはあちらでございます」

 

「ッ!」

 

そのまま入口まで偉そうに歩いて行くのを何かやらかさないかと後ろから付いていく。そのまま店を出て行くところまで確認して、店内へ振り返り頭を下げる。

 

「お騒がせして、大変申し訳ございません」

 

その様子を見て、店内が再び普段のように戻る。

 

「ごめん、助かった」

 

こちらに戻って来たミカドさんにお礼を言う。

 

「気にするな。当然のことをしたまでだ。それに、あのまま放っておいたら貴様が何をしでかしたか分からんかったからな」

 

「ミカドよ。見事じゃ、感謝する」

 

「い、いえ……あの程度」

 

「何もせず楽しんでいたくせに……助け船出しても良かったんじゃないか?」

 

「貴様っ!?無礼だぞ……!」

 

「よい。そうだな……お主が止めに来たのでな。どうなるか見ておったのじゃ」

 

「さようでございますか」

 

って、それよりも……。

 

「大丈夫か?火打谷さん」

 

「あ……えっと、はい。大丈夫、です」

 

「怖かっただろ?助けが遅れて申し訳ない」

 

「い、いえっ、そんなことは……」

 

「ちょっと早いけど、先に休憩取って来ていいから。少し落ち着こう。墨染さん、お願い」

 

「分かりました。行こ?愛衣ちゃん」

 

「いえ!わざわざそこまでーーー」

 

「いいからいいから」

 

半ば強制的に奥へ送り出す。

 

「って、勝手に1人減らしたけど、大丈夫だよな?」

 

「今は忙しくないし平気。最悪、澤田君に手伝って貰うから」

 

「おっけい、それなら問題無いな」

 

無事、四季さんからの許可も得たので仕事に戻ろうとすると。

 

「あの、澤田さん」

 

「ん?どうした?」

 

「蝶の件で、後でお話が……、あと愛衣さんの事でも……」

 

「……了解。終わった後でまた話そう」

 

「分かりました」

 

……まぁ、流石に気づくか。こればかりはしょうがない。

 

 

 

 

本日の営業が終わり、片付けを済ませる。

 

「皆さん、今日もお疲れ様でした」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です……」

 

皆がお互いに労っている中、火打谷さんは未だに少し元気のなかった。

 

それに気づいた女性陣が慰めながらも休憩室へ入って行く。

 

「澤田さん、今大丈夫ですか?」

 

「ああ、さっきの件だよな?」

 

レジ閉めの作業をしているミカドさんも、こちらに意識を向ける。

 

「はい。単刀直入に聞きますが、愛衣さん……見えてますよね?」

 

何が、と言わない辺り確信があるんだろう。

 

「そうだな。あの子の場合は特殊だけど、見えてるよ」

 

「特殊……もしかして、以前プロフィールで伏せられていたのと何か関係が?」

 

「ご明察通り。彼女の左目には、虫喰の瞳が宿ってる」

 

「え……っ!?愛衣さんにですか?」

 

「そうだな。使いこなせていなくて不完全な状態で、だけど……」

 

「不完全な状態で……」

 

「本人には蝶が白っぽいもやとして見えるみたいだな。昔、色々あって見ない様に片目を髪で隠しているんだが……」

 

「なるほどです。それはまた……困った能力ですね」

 

「かなり役に立つと思うが……まぁ、そこら辺はこの後、本人も交えて話そう」

 

「そうですね。私も着替えてきます」

 

「了解。……そえば、卯ノ花さんはいつ帰ったんだ?」

 

「あの後、お土産のケーキを買われて帰られましたよ?」

 

「そうなのか……まぁいいか」

 

てっきり昨日の続きかと思ったが……いや、結果的にありがたいんだけど。

 

 

 

 

 

その後、出て来た火打谷さんを呼び止め、三人で再度部屋へと戻り、説明をした。

 

最初は何事かとビクビクしていたが、話が進んでいく内に困惑と驚きに変わっていった。

 

「えっと……あの、つまりは、栞那さん達はその蝶を回収するのがお仕事、というわけですか?」

 

「はい、現世に彷徨う蝶を神の元へ導くのが役目ですね」

 

「ミカドさんも、それを……」

 

「その通りだ」

 

「達也先輩は、そのお手伝いを……」

 

「そう言った認識で大丈夫。まぁ、少し特殊な事情もあるけどな」

 

「そう、ですか……」

 

「急に意味不明な話をされて困惑するのも無理は無いと思う」

 

「あ、いえ、確かに色々混乱していますが……ちょっと安心しました」

 

「自分の謎の力の正体が判明したのが?」

 

「です、ね。昔から人と違ったのがあって……どうしてなんだろうってずっと不思議に思ってたんです……」

 

「それが、同じ様な人達と会えて、一人じゃないんだなって」

 

「そうだな。しかも、蝶が見えるのはここにいる三人だけじゃないぞ?」

 

「え?他にもいるんですかっ?」

 

「ああ、高嶺や、四季さんも見えるぞ」

 

「え、ええっ!?マジですか!」

 

「ああ、マジだ」

 

「えぇ~……、近くに滅茶苦茶沢山いたのか……」

 

そりゃあ、それ関係で始めたお店だしな。

 

「って、ことは、希ちゃんや涼音さんも……?」

 

「残念ながら二人は見えないな」

 

「そうですか……」

 

「因みに、火打谷さんのその目の現状も割と説明出来るけど、聞く?それとも日を改めるか?」

 

「いえ、聞きたいです。聞かせて下さい」

 

「了解。さっきも言ったけど、その左目に宿っているのは虫喰いの瞳、蝶を回収して一時的に目の中に閉じ込めることが出来る。火打谷さんがそのモヤを見ていると消えるのはそういうこと」

 

「はい、アタシの目に閉じ込めているんですよね。その、実感はありませんが……」

 

「そうそう、んで、本来の力なら吸収も出来れば、それらを解き放つことも可能なんだけど……今の火打谷さんには出来ないはず」

 

「試したことはありませんが……やってみて良いですか?」

 

「どぞどぞ」

 

「ええと……んーー、うーん……」

 

眉間に皺を寄せ、目に力を入れてうんうんと唸る。

 

「……だっ、駄目でしたぁ……!」

 

「まぁ、こればかりは仕方ない」

 

「そうですね、もし放たれた蝶が人に触れると、その人へ影響を及ぼしてしまうかもしれませんし」

 

「え、なにそれっ!?こわっ!」

 

「怖がらせるような言い方になるけど、使い方次第では人を元気にさせたり、逆に無くさせたり出来てしまう力だ」

 

「安心してください。解き放ち方がわからない愛衣さんには関係のない話です」

 

「そ、そうですか……」

 

「それでだ、ここからが本題になる」

 

「は、はい……」

 

「その力を、正しく使いたいと思わないか……?」

 

「澤田さん、何だか悪役みたいな言い方ですが……」

 

「いや、人生で一度は言ってみたい台詞じゃんっ!『力がほしいか……?』的な!」

 

「まぁ、言いたい事は理解できますが……」

 

「と、それは置いといて、火打谷さんは今まで自分の力に振り回されてきたと思う。どうして自分だけ他人と違うのだろう?とか、気味悪いとか思われない様に今まで必死に隠して来ただろ?こんな力無ければ良かったって……」

 

「だけど、生きている限りその力は一生自分につきまとう。どんなに嫌だと願ってもな。まぁ、ある種の呪いと言っても良い」

 

「それならその力を正しく使って、自分の物にしたくはないか?振り回されるのではなく、自分の一部にしてしまうんだ。どうだ?」

 

「澤田さん……」

 

「ま、大事なのは本人の意思だ。こればかりはどうにも出来ないしな」

 

「そうだな。愛衣よ、意見を聞かせてくれんか?」

 

「あー……、その、達也先輩の言う通り、小さい頃からずっと考えていました。なんでこんな力があるんだろう……。どうして他の人とは違うんだろうって」

 

「正直、まだ完全に理解は出来ていませんけど……でも、アタシのこの力を、正しく使えるのなら、手伝いたいです。もう振り回されるばかりは嫌です。もし、何か役目があって私に宿ったのならそれを果たしたいです」

 

「……って、ちょっと大げさな言い方ですけど、あはは」

 

「いいや、大げさではない。我輩たちと瞳の所持者が出会ったのも、運命であろう。そうだろう?」

 

「ああ、運命だな。ようこそ、火打谷愛衣よ。我らは君を歓迎する」

 

「だからいつまで悪役を続けるのですか……全く」

 

良いじゃんかよ。場の空気も和らぐじゃん。

 

「火打谷さんが仲間に加わった所で、俺から一つ試した事があるんだが……いいか?」

 

「ほう、なんだ?」

 

「上手く行けば、火打谷さんの中に格納されている蝶を引っ張りだせると思う」

 

「それはまことか!?」

 

「多分な。これなら火打谷さんに負担を掛けずに楽に回収が出来るはずだ」

 

「勿論、リスクは無いのだろうな?」

 

「当然。取り合えず試してみるよ」

 

「えっと、アタシはどうすれば?」

 

「リラックスしてて良いよ。全部こっちでやるから」

 

「は、はい……」

 

実験する前に、感覚を確認する為に一度自分の手のひらから蝶を適当に出す。

 

「え、先輩の身体からモヤが……」

 

よし、この感覚だな。

 

蝶を戻して、その手のひらを火打谷さんに向ける。

 

「……うーーん」

 

「どうでしょうか?」

 

「いや、ちょっと難航中……」

 

感覚は合ってると思うのだが……。

 

「難しそうか?」

 

「いや、ごめんだけど。直接体に触れても良いか?」

 

「へっ!?は、はい……だ、大丈夫です……」

 

「澤田さん、実験と偽ってセクハラは駄目ですよ……?」

 

「いや、違うから!別にべたべたと触らないっ!なんなら指先だけでも良いから!」

 

「それはそれはえっちぃ気もしますねぇ……にひひ」

 

「あ、あの……自分は大丈夫なので」

 

「すまん、じゃあ失礼するぞ」

 

「は、はいぃ……」

 

緊張と羞恥心で顔を赤らめている火打谷さんの……瞼の上に手を被せる。

 

「う、ぅぅ~……」

 

すまん、耐えてくれ。こっちまで恥ずかしくなってくるから。

 

意識を集中させ、自分の身体の時と同じ要領で蝶を引っ張りだす。

 

「……あっ」

 

明月さんの驚く声がしたと思うと、俺の手が青く光る。

 

「……このまま」

 

感覚を維持しながら瞼から手を離す。

 

「お、おおー……」

 

すると、俺の手に引っ張られるように蝶が出てくる。

 

「おっと、一旦止めよう」

 

取り出すのを中断すると、途中で取り残された蝶が宙を舞う。

 

「明月さん、頼む」

 

「はい」

 

飛んでいる蝶を、そのまま鎌で回収する。

 

「成功したな」

 

「そうですね……愛衣さんは体調に変化などはありますか?」

 

「い、いえ、特におかしくは……いつも通りです」

 

「これで、愛衣が無理に解き放たなくとも回収が可能となったわけだ」

 

「澤田さんの方は大丈夫ですか?」

 

「ああ、特に変化はないな」

 

「そうだと思っていたが、やはり影響を受けておらんな」

 

「おかげさまで」

 

「え、え?どういうことですか?」

 

「先ほども言った様に、瞳の中の蝶を人に放てば、その者の体調を崩したり不幸にさせることも出来る。だが、原因は分かっていないが、こやつはその影響を受け付けないのだ」

 

「えっ!?それじゃあ、危ないことだったの!?」

 

「本来ならな。しかし、こやつが問題無いと言ったのだ。大事にならないとは思っていた」

 

「火打谷さんからしたら変な光景に見えたかもな」

 

「確かにそうですね。なんだか生命エネルギーを吸われている様でした」

 

「ああ、HPドレインみたいに見えたのか」

 

「そうそう、それですっ。ああっ、吸われてくぅ~……!みたいな?」

 

「はは、白いモヤだもんな」

 

「それにしても、達也先輩凄いっすね!先輩も私みたいに能力持っているんですか?」

 

「ふっふっふ、色々とあるのさ……ふっ」

 

「なにその強キャラ感……因みにぃ~、どんな力なんすかぁ?」

 

「そうだな、複数持ちだ」

 

「複数っ!?チートじゃないですか!」

 

「澤田さんの場合は色々と特殊で、私たちも未だに調べている最中なんです」

 

「ふ、すまないね。別格なのだよ……私は」

 

「いや、何キャラなんですか……それは。それでそれでっ、どういったのですか?」

 

「俺だけ言わないのもフェアじゃないしな。別に良いぞ」

 

「澤田さんっ!?」

 

俺の発言に、明月さんとミカドさんが驚く。

 

「いやいや、大丈夫だから」

 

「あ、あの~、もしかして、聞いちゃまずいやつでしたか?地雷踏みました?」

 

「大丈夫大丈夫。勿体ぶる気も無いしな」

 

「あ、よかったぁ……やらかしたかとヒヤヒヤしましたよ」

 

「俺にある力なんだが、そうだなぁ……火打谷さんにさっきしたみたいに蝶を割と好き勝手に弄れるのと……その蝶の感情や記憶を覗き見ることが出来る……感じかな?」

 

「……蝶の、ですか?」

 

「そうそう。蝶は人の魂みたいなもんだからな。感情があれば記憶を持ってる蝶だっている。それを視ることが出来る」

 

「ほへぇ~……よくわかんないですけど、すごいっすねぇ」

 

「一応補足しておくが、通常の人間には不可能だからな?蝶の感情に触れれば、その感情に自分も引っ張られる。嫌な感情なら自分も嫌な気持ちにな。記憶など更に危険な行為だ」

 

「ど、どうなるんですか?」

 

「相手の記憶を自分の魂に入れるのだ。いわば追体験をしてるに近い。当然、その時に感じた記憶も重なる。最悪感情と記憶が混ざるとこもある」

 

「えっ!?やばくないですか!それっ!」

 

「こやつはそれを既に何度もしているが、それでも魂に一切の変化が見えん」

 

「魂の記憶って……その、死んだ人のもって、ことですよね?」

 

「そうなるな」

 

「ひぃ、やばすぎじゃないですか!?」

 

「だからそう言っておる」

 

「まぁまぁ、俺のことより、今は火打谷さんのことだろ?」

 

「む、そうだったな」

 

「取りあえず、機会があれば火打谷さんに蝶を回収するのを手伝って貰う。これで良いか?」

 

「そうですね。愛衣さんなら、相手と話さずとも取り除くことが可能ですし……」

 

「そうだな。前回の結菜の父の様な客にも有効だろう」

 

「結菜ちゃんのお父さん……?」

 

「仕事でミスして落ち込んでたろ?あれで蝶が寄って来てたんだ」

 

「あー、なるほどです。そういうことでしたか」

 

「詳しくは明日以降にでも話そう。今日はもう遅い。二人共帰った方が良いだろう」

 

「そうですね。相談は後日にしましょう」

 

「了解。そんじゃあ今日は帰るか。遅いし送ってくよ」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、ミカドさん、栞那さん、また明日です!」

 

「お疲れ様でした」

 

「気を付けて帰るがよい」

 

 

 

 

 

「2人は店を出たみたいだな」

 

「ですね。それにしても、色々と驚きましたね……」

 

「愛衣の瞳もそうだが、澤田達也の力の応用もな」

 

「まさか、直接蝶を取り出すだなんて、滅茶苦茶にもほどがありますよ」

 

「奴に関しては今更驚いても仕方あるまい。こちらとしては瞳の所持者が仲間になっただけでもプラスだ」

 

「それはそうですけども……」

 

「それにしても、少し意外だったな。愛衣が力を使うのを反対するかと思っていたが?」

 

「そりゃ反対でしたよ?愛衣さんへ危険が伴いますし……表沙汰になる可能性も考えました。ですが、澤田さんが大丈夫と仰っていましたし、あんな卑怯な言い方されたら、止めるに止めれないじゃないですか……」

 

「愛衣の境遇と、あやつの境遇を重ねたか?」

 

「はい。他とは違う力を持っている。その心境を澤田さんは知っているはずです。彼もまた同じ人生を生きて来ています。そんな彼が、同じ境遇の愛衣さんへ手を差し伸べたのですから……」

 

「ふむ、奴の事だ、愛衣の力の事も把握した上での行動なのだろう。今日の事が良い切っ掛けと見た筈だ」

 

「そうですね。となると……」

 

「ん?どうした?」

 

「いえ、今回の事で愛衣さんの事を知りましたが、似た様に伏せられたのが希さんにもあったので……」

 

「もしかすると、同じようなものを抱えているのかもしれないな」

 

「かもしれませんね……」

 

 

 





次回はちょっと事件発生……ですかね?

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