駄菓子屋に行くとテンションが上がるのは何だろう……懐かしいからでしょうか?
「さてと、じゃあ俺たちもさっさと帰りますか。方向こっちだっけ?」
「はい!よろしくお願いしますっ」
ミカドさん達と話を終え、すっかり元の調子に戻ったのを見て安心する。これなら明日には引きずらないだろう。
「いやーそれにしてもほんとに驚きました!まさか身近にこんなにもいるなんて」
「分かっているとは思うけど、むやみやたらに話題として出さない様にな?どこで誰が聞いているのか分からないから、確実に大丈夫な時だけだぞ?」
「了解です!変な人って思われちゃいますもんね」
「その通り」
「あの、今更ですが、一つ聞いても良いですか?」
「ん?どうした?」
「達也先輩が私と最初に会ったこの道あるじゃないですか。ここ。あの日ってやっぱり蝶々を捕えていたんですか?」
「あー、あれか。そうだな。当時はやらかしたとめちゃくちゃ焦ったわ」
「あはは、確かにそうですよね。私もビックリしましたもん」
「絶対変な人間って思われたし、次の日には顔合わせるしでさ」
「あれは私も予想外でした。けど、あれ以来そう言った素振りが無かったので気のせいなのかなーって思ってました」
「見せない様にしてたからな。回収は全部明月さんに任せていたし」
「なるほど、そう言ったカラクリでしたか……」
「そんな感じだ」
9月を思い出しながら、寒くなったなと思い返して歩いていると、正面に人影が見え始める。
「………」
道の真ん中に立ち、明らかに通せん坊の構えである。
「?」
隣の火打谷さんも不審に思い始め、首を傾げる。
近づくにつれ、その人物の周辺に青く光る蝶が複数飛んでいるのが見える。
「先輩……、あれって……」
「ああ……」
ただ事ではないと感じ、火打谷さんが足を止める。
「よぉ、ようやく店から出て来やがったな……待ちくたびれたぜ」
夜道の街灯が背後からその男を照らす。影ではっきりとは見えないが、服装と声からして卯ノ花姫に絡んでいた男と思われるが……。
「な、なんか……数、増えてませんか……?」
店で見た時より、明らかに蝶の数が増えていた。
「引き寄せられたか、自分が引っ張られたか……」
何はともあれ、これから厄介ごとが起きるのは明らかである。
「……火打谷さん、店に戻ってミカドさんたちを呼んできてもらえるか?」
隣に居る火打谷さんに小声で伝える。
「え、先輩は……?」
「用があるのはどうやら俺みたいだしな。店での恨みか何かだろう。時間を稼ぐから急いで戻ってほしい。頼めるか?」
「おいおい、なにこそこそとはなしてんだ……?」
「それじゃ、頼んだ」
「っ……わかりました!」
注意をこっちに向ける為に一歩前に出て、話しかける。
「こんな時間にナンパか何かか?男女二人に声をかけるだなんて度胸がある男だなぁ?」
俺が声を出したと同時に、後ろで走り去ってく音が聞こえる。
「そのお相手には逃げられたようだが……?情けねぇな。ハハハッ!」
「か弱い女の子なんでね。お店の時みたいに怖がらせるのは、男として許せないんだよ。まぁ、フラれたからと言って強引に手を出す貴方とは違うんですよ。はっはっはっ」
「……っ、てめぇ……!」
「お、図星か。その様子を見る限り、度量も狭いと見た。フラれて当然とも言えるか……これは失礼」
「……殺す」
うーん。一般人が込める言葉の重さじゃないなこれは。本気で殺すつもりか?
「おーおー、怖い怖い。おまわりさんでも呼ぼうかな?」
「殺す……っ、しねぇええ!!」
凶器でも出して来るのかと身構えていたが、素手を振りかぶってそのまま走ってくる。
「マジか……」
以前、四季さんと居た時の人の方がまだ殺意あったのではないだろうか……?動きも一般人だし。
「はッ!」
こちらと距離を詰め、俺が殴れると思った瞬間に逆に身体を前に出す。
「ッ!?」
自分で殴ろうとしていた位置からズレた事で一瞬動きを鈍らせる。その隙を逃がさない様に相手の髪の毛を掴んでそのまま顔面に膝蹴りをお見舞いする。
「がっ!?」
掴んだ髪を思い切り上に持ち上げ、今度は腹に前蹴りを入れる。つま先の先端をみぞうちにしっかりと。
「ぐぅふぅ!?……っ!ぁあ……!!」
衝撃でそのまま後ろに倒れ、お腹を押さえながらもがき苦しみ始める。
「……ほんと、折角良い感じで進んでいるのに、お前みたいなやつが一番めんどくさい……」
「がっ、あが……っ!」
「しかも、中途半端に追い払うと、逆恨みで誰かを狙う……狙われたのが俺で本当に安心したよ」
「て、てめぇ……こ……のっ!」
喋れるくらいに余裕が出て来たので、拳を握り、小指側を下にしてそのまま顔面に打ち付ける。
「ごっほ!?」
「……二度とそう思えない様にしないとな」
立ち上がり、今日火打谷さんに試した事を思い出す。
「負の感情ね」
拳を開き、掌に蝶を出す。追加で可能な限りのマイナスな感情を表に出す。
「……これで、いけるのか?」
手の平から複数の蝶がふわりと飛び出る。
「試すのにはもってこいかもしれないな」
試しに、蝶の1頭を地面で苦しんでいる男に向けて放つ。
真っ直ぐと飛んでいく蝶を見ていると、男に触れる寸前で白く輝く何かによってかき消される。
「やめておけ、このど阿呆が」
その方向を見ると、巫女の恰好で扇子をこちらに向けている卯花之佐久夜姫が居た。
「すまんが、勝手に止めさせて貰った。このままじゃと、そこに居る男がかわいそうじゃからのう」
「……つまりは、効果があるということなんだな?」
「そうじゃな。お主……分かっていて行うつもりだったろ」
「まぁな。こういった輩は、加減をすると幾らでも突っかかってくるからな。経験のあるあんたになら分かると思うが?」
「……じゃな。そちらの言い分も理解できる。だが、それをお主がする必要はない」
「……どうする気だ?」
「なに、妾の力で記憶を消すのじゃ。ついでに店には近づかない様に暗示……おまじないもかけておこう」
暗示って……。
「……それで店の安全は保たれるのか?」
「保証しよう。神である妾がな」
「……分かった。それなら任せるよ」
そっちが力で何とかしてくれるのなら、俺より確実だろう。
「そうか。……お主の怒りはもっともじゃ。じゃが、安易にそういう手段を使うでない」
「必要に駆られない限りは使わないから安心してくれ」
「いや、なんの保障にもーーー」
「先輩っ!」
地面で苦しんでいる男に注意を向けながら話していると、お店からミカドさんと明月さんを連れて火打谷さんが戻って来た。
「無事ですか、ってうぉっ!?人が倒れてるぅ!!」
俺の目の前に転がってる男を見て盛大に驚く。
「無事か……!?これは……っ!」
俺の奥に居る卯ノ花姫を見て、態度を変える。
「そう畏まらんで良い。普通にせよ」
「は、はぁ……。それで、この状況は……?」
「なに、こやつが暴漢者を倒してくれたからの。後始末を妾が引き受けようとしていただけじゃ」
「貴方様がせずともこちらで……」
「よい、妾もたまには仕事をせんと上に怒られるらかの」
おどおどとしているミカドさんに揶揄うように笑いかける。
「そう言われるのでしたら……わかりました」
「達也と、愛衣じゃったか?ぬしらはこのまま帰ると良い。あとはこちらで片付けておく」
「……分かった。あとはよろしく頼んだ」
「妾に任せておれ。結果は明日にでも知らせよう」
「そんじゃあ、火打谷さん。帰ろうか」
「え、あ……はい。分かりました……」
場の状況が一切飲み込めていないが、俺に連れられるまま帰る。
暫く歩くと、一度後ろを振り返って話かけてくる。
「あの~、いまいち状況が飲み込めなかったのですが……どうなったんですか?」
「んー……端的に説明すると、俺がさっきの男をボコボコにして、あの豪華な巫女服を着た女性に後の処理を頼んだ?的な感じ」
「ほうほう……って色々ツッコミどころ満載なのですが……?というか、あの女の人誰ですか?」
「……俺やミカドさん達の知り合い?ほら、お店であの男に絡まれていた人」
「……、あー!あの綺麗な人ですか!思い出しましたっ」
「そうそう、その人」
「え、どうして巫女服を……?」
「そりゃ、正装だから?ほら、墨染さんも巫女服着るじゃん?それと似たような感じだよ」
「ん?ん~……?つまりは、そう言ったお仕事の人ってこと?」
「そうだな。その認識で大丈夫」
「どうしてその人がこんな時間に……?」
「……火打谷さん」
「はい?」
「人には、誰しも言えない秘密があるんだ。無闇に突っ込まず、時にはスルーするのも大人として重要なんだ……」
「え、どういう意味ですか?」
「いずれ分かる時が来るよ……」
「え~……」
俺の言い訳に理解不能と声を上げる。
「それよりも、家はこの方向で当たってるのか?」
「え、はいっ!大丈夫です。このまま真っ直ぐでお願いします」
「了解」
「……あの、達也先輩」
「どうした?」
「その、ありがとうございます」
「それは、さっきのことに対してか?」
「はい。アタシを危ないからとお店へ行かせたので……」
「まぁ、俺一人ならあの程度特に問題無かったからな。万が一火打谷さんが狙われた時が厄介だったし」
「あはは、だから残られたんですね」
「そゆこと。よくあるだろ?護衛対象が居た方が難易度上がるってさ」
「確かに、ゲームとかでは良くありますね……」
「だから火打谷さんが、『見捨てた』とか『危険を一人に押し付けた』とか気にする事じゃない。俺は相手を足止めする。その間にそっちは助けを呼ぶ。役割分担だ。お店での仕事と同じ。オーケー?」
「……わかりました。改めて、ありがとうございます」
「おうとも、何事も無くて安心したよ」
「思いっきり起きてましたけどね……あはは」
「あの程度、日常のちょっとしたスパイスさ……フッ」
カッコつけるように前髪を払う動作をする。
「なんすかそれ、まるで機関のエージェントみたいっすね」
「表は喫茶店の店員。しかし、その裏の顔は……!?という感じで売って行くか」
「いいっすね!それっ。街の掃除屋……みたいな感じで!」
「勿論夜は、煙草を咥えて街を歩いてるだろ?」
「そうですそうです」
実際にそんな感じではあったんだがな。タバコは吸わんけど。
そのまま話を盛り上げつつ、今度は何事も無く火打谷さんを家まで送り届け、帰路に着く。
「………」
見られてるな。多分例のあの子だろう。
直接家には帰らず、コンビニに寄ってうみゃい棒を何種類か買う。
そのまま人気の無い裏路地に向かい、適当な段差に腰を下ろす。
「……見ているのは分かっているから、出て来てくれないか?」
誰に対するわけでもなく、周囲に声を響かせる。
「………」
しかし、こちらを見ているだけで出てこない。
「……竜胆ルリ、俺を監視しているのは分かってる。姿を現してくれ」
……しかし、姿を現さない。
「……やっぱり餌を出さないと駄目かぁ」
コンビニで買ったうみゃい棒を袋から取り出す。
「これをやる。頼みがある」
うみゃい棒を手に持って掲げた瞬間、一瞬で俺の手から消え去る。
「うぉっ!?はっや……」
頭上を白い何かが横切った位しか認識が出来なかった。
「……話を聞こう……んぐんぐ」
背後から声が聞こえる。振り返らずにそのまま会話を続ける。
「……さっきの男だが、あんたの神様が後処理をすると言っているが、その後の経過を確認しておきたい。それを頼みたい」
「……断る。もぐもぐ」
「……そちらの条件を聞こう。俺の頼みを聞いてくれるための報酬は何がほしい……?」
「……もっと、うみゃい棒を寄越せ」
「分かった。この中身全部差し出そう」
手に持っている袋を上に掲げる。
「………」
「……成功した暁には、同じ量を買うと誓おう」
「………」
「分かったっ!毎日、今日と同じ数をその日の終わりに捧げようじゃないか!これでどうだ?」
「……分かった。頼みを聞いてやる」
返事を貰えた瞬間、またも俺の手から袋ごと消える。
「……これは、今日の分。もらってく」
「ああ、好きにしてくれ」
背後から気配が消えたのを確認して、ため息を吐く。
「うみゃい棒なら釣れるとは思っていたが……思ったより引き出されたなぁ」
と言っても1日100円ちょっとだ。俺が少しだけ我慢すれば余裕である。
「まぁ、破格の依頼には違いないな」
100円程度で対象の監視を依頼してくれるんだ。お得過ぎるだろう。
「……帰るか」
良く分からない謎の疲れを感じて、そのまま帰宅した。
次の日、今日は定休日という事もあり、朝に起きたのは良いが特にすることも無くダラダラ過ごしていた。
ガコン。
ポスト入れに何か入る音がして起きる。
「チラシか何かか?」
そう言ったのは入口のポストに来るはずなので覚えがない。
蓋を開けて中身を取り出すと、1枚の紙が入っていた。
「ん……?」
どうやら手紙?の様だ。
『きさまの言っていた人間は姫様が無事解放された。問題無し』
と書かれた紙であった。
「これは……あれか。一応報告書的なものか」
更に下を読むと、
『今日の報酬を忘れるな』
「……まぁ、契約は契約だよな」
特に用事も無いが、供物は忘れないようにと着替えて部屋を出る。
「昼前だし、ついでに何か食べて行くか……」
コンビニでうみゃい棒だけ買って帰るのも味気ない。折角外に出るのだから何か用事を作らねば損だ。
そう考えながらコンビニへ向かう。
「んー……なに味が良いとかあったっけ……?」
コンビニに着き、駄菓子コーナーを漁る。
「コンポタと、めんたい、たこ焼きも入れておくか。それとチーズ味」
同じ味だと飽きられるかもしれないので、何種類かカゴに入れる。
「あと、おまけに黒い稲妻も入れておこう。チョコだし食べてくれるだろう」
「あ、これもあるのか……」
手に取ったのはソースカツのお菓子。
「おお、これ懐かしい!」
更にラムネのお菓子を取る。
「……親戚の子供にお菓子を買ってる気分だな、完全に」
気づくと、手に持ったカゴには予定より多くのお菓子を入れてしまっていた。
「……まぁ、いいだろう」
自分の分にもと、言い訳をしながら気になった奴をカゴに入れて行く。ふふ、あとで家で祭りでも開催しようではないか。なんなら報酬と言って招待してやっても良いかもしれないな。
少しテンションが上がりながら、お菓子を漁る。
「え、澤田君……?何してるの?」
「……ん?」
顔を上げると、驚いた表情でこちらを見ている四季さんと目が合った。
「いやー、まさか休日の日にまで四季さんと会えるとは、これは女神に感謝しないといけないな」
「はいはい、ありがとう。それで、そんなに駄菓子を買って何をする気なの?」
「まるで俺が駄菓子を使って何か起こすみたいな言い方に聞こえるんだが……?」
「違うの?それだと澤田君が駄菓子コーナーでニヤニヤしながら漁っていたキモイ人ってなるんだけど……」
「冗談ですっ!します!目論見まくっています!暗躍します!」
「というのは冗談だけど。結菜ちゃんにでもあげるの?」
「いや、これはあれだ。とある依頼への正当な報酬としてだな……」
「依頼……?てか、報酬が駄菓子て……」
「四季さんが呆れるのも無理は無い。だが本当だ。うみゃい棒10本で手を打った」
「もしかして、何かのおままごと的なやつ?」
「割とガチ目の依頼です。蝶関連です」
「たった100円そこらで受けてくれるんだ……」
「好物だからな。一応色を付けて他にも買ってみたが」
「誰の?」
「誰のって……あーそうか、四季さんにはまだ詳しく話していなかったな」
「ん?どういうこと」
「昨日お店に来ていた女の人覚えてるか?ミカドさん達の偉いさん」
「え、うん。昨日対応してた人でしょ?……え、あの人が?」
「違う違う。その部下的な奴がだ。少し気になる事があって頼んだんだ」
「へぇー。確かにそこら辺私は聞いてなかったなぁ」
「これからも店に足を運ぶと思うし、一応聞いておくか?」
「そうする。何かあった時に困るし」
「となると……お店が良いか?いや、定休日だったな」
「そうね……丁度お昼だし、どっかで食べながらにでもする?」
「お、いいねっ!……と言いたいところだが、あまり人が周りにいる環境で話せる内容じゃないんだよなぁ……これが」
「それもそっか……。じゃあ、澤田君の部屋はどう?」
「それならあんし……ん?俺の部屋……?」
うみゃい棒