喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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天使☆騒々RE-BOOT! が全ルート終わりました!

今作、なんだがエロ方面に力が入ってる……?と個人的に感じました。ストーリーとかキャラも当然面白かったですがw




第59話:パイ・ルアク……?

 

 

「おはようございまーす」

 

「澤田さん、おはようございます」

 

「明月さんか、そういえば、一昨日の件は無事に終わった?」

 

あの後は全部丸投げで帰ってしまったので、一応結果だけでも本人たちから聞いておきたい。

 

「はい、滞りなく。男性の方も蝶を回収して今は落ち着いているそうです」

 

「そうなのか、それならひとまずは大丈夫そうだな」

 

「澤田さんもありがとうございます」

 

「いや、大したことでは……それより、神様の方はどうなってた?」

 

「どうでしょうか……男性の人に力を使われた後はお帰りになりましたが……」

 

「……ま、いっか。必要なら向こうから絡んで来るだろ」

 

「神様相手にそんなてきとうな……」

 

「大丈夫大丈夫。あと、火打谷さんの件だけど、今日くらいにでも練習をしておこうかと思う」

 

「了解です。何か手伝える事などありますか?」

 

「んー……大丈夫かな?強いて言うなら……」

 

「言うなら……?」

 

「その内墨染さんからコーヒー淹れるのを代わって欲しいってお願いが来るかもしれないから、代わって欲しい……とかくらいかな?」

 

「……?何かあるのですか?」

 

「お客さんに『コーヒーの味を俺が試してやろう』的な人が居て、淹れるのをちょっと嫌がっててさ」

 

「ああ、なるほど。そのことですね」

 

「正確なタイミングはちょっと分からないから予め言っとくよ」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「まぁ、言っても言わなくても明月さんなら代わるし卒なく終わらせるから大丈夫なんだけどさ」

 

「けど、心構えが出来ますし私としてもありがたいです」

 

「なら良かった」

 

 

 

「うーむ……」

 

客からの注文が止み、時間が出来た時に高嶺が何やら考えごとをしていた。

 

「どうしたの昂晴、何か悩み事?」

 

「このお店の新しいメニューをちょっと考えてて……」

 

「どうしたの、急に。今のメニューに何か問題ある?」

 

「いえ、そういうことじゃないですよ」

 

「高嶺的にはお客さんの足を途切れさせない様に何かしたいってことでしょう。だよな?」

 

「はい。飽きさせない様にしたいなって思ってて……勿論頻繁に変えるとかではなくて、いつか必要になった時の為に備えておきたいって側面もありますが……」

 

「へー。偉い偉い。心構えはしておくに越したことないよ」

 

「でも、何も思いつかなくて」

 

「そりゃそうだ、簡単に思い浮かぶなら誰も苦労はしないって」

 

「お二人は何かアドバイスとかありませんか?」

 

「そう言われても……んー……オリジナリティを求め過ぎないとか?」

 

「あー……それありますね」

 

「達也が働いてたところとかどうだったの?何かアドバイスある?」

 

「自分の所ですか……。自分が立案とか特にしてませんでしたが……そうですね。そこまで難しく考える必要は無いのかと思います」

 

「と、言うと……?」

 

「既存のメニューを組み合わせたり、使ってる素材をちょっと変えたりとか、少し手間をかけて別のメニューを生み出す。そんな程度でも新しいのって生まれるもんかなって……」

 

「なるほど……確かにそれならコストも手間もかからないね」

 

「そう言った路線で考えるのもありかと思う」

 

「なるほど……確かに直ぐに展開しやすいですしアリですね。ありがとうございます」

 

「何かのヒントになれば幸いだな」

 

「とまぁ、今は取りあえずきちんと美味しい物を作る。ってところに集中しないとね。まずを足元を固めないと」

 

「ですね」

 

「よしっと、パンケーキ焼けたよー!」

 

「運びまーす」

 

涼音さんの声にフロアから明月さんが秒で来た。

 

「うし、これで最後のオーダーだね」

 

「ですね。フロアの方も落ち着いているみたいですし」

 

「そうですね。今のところは問題ないですよ」

 

「栞那さーん」

 

「はい?どうされましたか?」

 

「前に話してたそれっぽいお客さんが来たので、お願い出来ますか……?」

 

「はい、いいですよ」

 

「そのパンケーキはわたしが運んでおきますから、ブレンドを、5番のお客さんです」

 

「わかりました」

 

「すみません~……」

 

「謝られることじゃないですってば。それじゃあパンケーキはお願いしますね?」

 

「はい、お願いします」

 

自分が持ってるトレイを墨染さんに渡し、こちらをチラ見してきたので、取りあえず目で返事をしておく。

 

「……それっぽいお客さん?」

 

「気になるのなら見てきたらどうだ?ここは問題ないし」

 

「んー……、ちょっと行ってきます」

 

好奇心に負けてフロアを覗きに行く。

 

「あんたは見に行かなくていいの?」

 

「その手のお客は、前の店でも腐るほど見てきましたから……」

 

「ああ、なるほどね。見飽きてると」

 

「前のは純喫茶って感じの雰囲気でしたので、それっぽい人が決まった日にやって来てましたよ」

 

「それは気が滅入りそうだなぁ……」

 

暫くすると、また考えごとをしている様に高嶺が厨房に帰って来た。

 

「どうだった?」

 

「確かにそれっぽいお客さんが居ましたね明月さんのコーヒーを飲んで絶賛していましたよ」

 

「流石だな。俺なら速攻でその場を去る自信がある」

 

「自分も同じです。それにしても凄いですよね」

 

「それは客が?淹れた明月さんが?」

 

「後者です。あんな客を唸らせるくらいって」

 

「皆日々腕を上げる為に頑張ってるからな。当初はコーヒーの味すら分からなかった明月さんも上手になるさ」

 

「そうですね……」

 

「気になるなら後で頼んでみたらどうだ?飲んでみたいって。高嶺になら喜んで淹れてくれると思うぞ」

 

「どうですかね?でも気になるんで試しに言ってみます」

 

「そうそう、その意気で頑張ってくれ」

 

「2人とも、喋るのも良いけどちゃんと手も動かす様に」

 

「了解です」

 

 

 

 

「ふー……今日も無事終わったな」

 

「だねぇ、後は片付けて終わりだね」

 

「ちゃちゃっと片付けて帰りましょうっ」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

今日の営業も終わり、皆で片付けを始める。

 

「あ、そうだ。明月さん」

 

「はい、どうされましたか?」

 

「今日、例のお客さんにコーヒーを淹れたじゃない?」

 

「ええ、そうですね」

 

「絶賛するほどって言ってたから、高嶺がどんくらい美味しいか気になるってさ。な?」

 

「高嶺さんがですか?」

 

「味が気になってたんだ。前に飲ませてもらった時と違うのかって……」

 

「良いですよ?確かに高嶺さんに飲んでもらったのは……出会ってすぐの頃ですよね?それでしたらあの時とは結構変わってますよ?あれから随分、練習を重ねてきましたから」

 

うんうん、基本的に努力家だよな。オムライスといいコーヒーといい。

 

「そうなのか?」

 

「はい。今では私もコーヒーを飲めるようになって、味だって分かるようになったんですから。と言っても、苦味が強いのはやっぱり苦手ですけど」

 

ふふーん。と腕を組みながらドヤ顔をしている。

 

「へー、かなり苦労してそうだな」

 

「それなりに。ですが、苦労だけではなく味がわかるようになってから、少し楽しみもわかってきましたから」

 

「何かコツでもあるのか?」

 

「心を籠めて、丁寧な作業を心掛けることでしょうか?あ、最後に魔法で愛情を注ぐことも忘れずにーーー」

 

「萌え萌えキュン♪」

 

指でハートマークを作り、胸の前でポーズを決める。

 

「………」

 

「……っ、ぶほっ!」

 

「あ、あの、無言が一番困るんですけど……?あとっ、澤田さんも笑わないで下さいっ!」

 

「いや、実際に目の前でやられると結構キツイな」

 

「キツイとか言わないでくださいっ!そんな反応されると私の方が傷つくんですから!」

 

なら最初から言わないのが……って思うけど、その場の勢いってあるよね。うんうん。

 

 

 

 

「さてと。片付けはこんなもんかな」

 

「ですね。冷蔵庫よし、流し台よし、コンロよし、器具類も大丈夫ですしオールオーケーです」

 

「それじゃあ、お疲れ様です」

 

「うん、お疲れ」

 

「着替えは女性陣から先で良いですよ」

 

「そう?それじゃあお言葉に甘えようかな」

 

っと、その前に火打谷さんを捕まえないと。

 

フロアに出て、奥へ行こうとする火打谷さんを途中で呼び止める。

 

「火打谷さん、ちょっといい?」

 

「ん?はい、どうかしましたか?」

 

「今日、この後暇かな?」

 

「はい。大丈夫ですけど?」

 

「それじゃあ、俺と……夜の街へ出かけないか?」

 

「へっ?ほわぁ!?よよ、夜の街っ!?」

 

「ああ、二人っきりでさ……どうかな?」

 

「なな、何をする気ですかっ!ホ、ホテルに連れ込む気ですか……!あわ、あわわっ!?」

 

「おいおい、それを俺の口からーーー」

 

「はいはい、そこら辺にしておく」

 

更に追撃を仕掛けようとすると、後ろから止めが入る。

 

「む、四季さんか。今良い所なんだが……」

 

「それ以上は、火打谷さんが限界」

 

「よ、夜のおさそい……っ~~!?」

 

「……みたいだな。止めておくよ」

 

「あまり揶揄って嫌われないように」

 

「あいよ」

 

呆れながらも奥の部屋へ消えていく。

 

「えーっと、すまん、さっきのは軽い冗談だ」

 

「軽いっ!?先輩にとっては軽めの!??」

 

「あー、まてまて、違う。一昨日の件の続きをしたいだけ」

 

「一昨日の……?」

 

「ああ、例の件で」

 

「……な、なんだぁ……良かった……」

 

「すまん、ちょっとばかし調子に乗った」

 

「ほんとですよっ!気を付けて下さいっ」

 

「……善処致します」

 

「ふー……、一応、分かりました。遅くまでは出来ませんが大丈夫です」

 

「おっけ。それじゃあ、また後で」

 

「はいっ」

 

火打谷さんと話しをつけ、フロアに戻ろうとしたが、フロアから高嶺と明月さんの会話が聞こえてくる。

 

「あれ?その手動のコーヒーミルは?」

 

「自分の分を淹れる時は、これで挽いているんです。元々は以前のお店で使っていたんだと思いますが部屋に残っていたので……ふっ、んんっ……んーっ!」

 

「固い?俺が代ろうか?」

 

「いえっ!これぐらいぃぃ……んっ!んんぁきゃっ!!」

 

明月さんの悲鳴と同時に何かがばら撒かれる音が聞こえる。

 

うん。無事中身をぶちまけた様だな。

 

その後は、何事も無く続くが……。

 

「お待たせしました。さぁ、どうぞ」

 

「ああ。ありがと……う?」

 

コーヒーを淹れ終わり、受け取った高嶺が不思議そうな声を出した。

 

「にしても……こうして高嶺さんに味を見てもらうのは、お客さんに出すよりも緊張しますね……」

 

「そ、そうか……」

 

明らかに落ち着きのない声である。

 

「高嶺さん?どうかしましたか?」

 

「あ、いや……何でもないです。じゃあ、いただきます」

 

「はい、どうぞ」

 

取りあえずスルーの方針で進んでいく。

 

「どう、でしょうか……?」

 

「うん、美味しいよ。いい香りで苦味も嫌な感じではなくて」

 

「本当ですか?よかったぁ……!」

 

「やっぱり、豆を優しく労わるように。膨らみ具合でお湯の注ぎ具合を調整するのが大事なんでしょうね」

 

「そ、そうだな。豆は大事だな。豆が膨らんで、ポチっとしてるが、可愛いんじゃないかな?」

 

「ふっ……」

 

おっと、危ない。笑ってしまうとこだった。

 

「……何を、言ってるんですか?」

 

「気にしないでくれ。とにかく美味い」

 

「豆の味を感じられてます?」

 

「そうだな。豆の存在感が凄い」

 

……我慢我慢。

 

「にっひっひ。少しは見直してくれましたぁ?もしかして、惚れ直しちゃいましたかぁ?」

 

「………」

 

「あのー……どうしたんです?さっきから様子が変ですけど……ハッ!?もしかして本当はコーヒー美味しくなかったですか!?」

 

「いや、違う。決してそういうわけではない。本心から美味しいと思っては……いる」

 

「でもー、そのわりには反応が微妙な気がするんですけれど……?何かあるならハッキリ言って下さい」

 

「いやっ、だがこればっかりは……っ!」

 

「私なら平気です。自分の淹れ方が完璧だなんて思っているわけでもないですから。コーヒーの味については、お店の今後にも関係してくるかもしれません。忌憚のない意見をお願いします」

 

「……正直に言わせてもらうが……」

 

「は、はいっ……!」

 

「コーヒー豆はともかく、胸の豆までアピールする必要はないんじゃないかな!?」

 

よく言ったっ!それでこそ男だっ、高嶺よ!!

 

「胸の、豆……?」

 

「………はあああ~~~~~~~ぁぁッッ!!??」

 

明月さんの悲鳴がフロア内で盛大に響き渡る。

 

うんうん、無事このイベントも回収出来たな。胸で豆を温めて……パイ・ルアクだっけ?

 

ギャーギャー言い合う二人を聞いていると、休憩室の扉が開く。

 

「達也?ごめん、今終わったよ」

 

「いえいえ、全然待ってませんよ」

 

「というか、澤田君はどうしてそんなところで待ってたの?」

 

「っふ……」

 

ニヒルに笑いながら、無言でフロアを指差す。

 

「ん?何か騒がしいけど……」

 

フロアの騒動が気になり、そちらへ向かってく。

 

「何か騒がしいけど、どうかしたの?」

 

「せんぱーい、女子の着替え、終わりましたよー」

 

「昂晴君も早く着替えちゃいなよ」

 

「あっ」

 

「……あっ……」

 

四人の声がハモリ、それに気づいた二人も声を上げる。……多分胸元をガッツリ開けた状態で。

 

「何事っ!?」

 

「おやまあ、随分と大胆な……」

 

「わっ、わー!わー!こ、昂晴君と栞那さんって……そ、そういう関係だったの!?」

 

「なに?Let's 筆おろし?席、外す?」

 

「しませんよ!変なこと言わないで下さいっ!これあくまで!乙女の名誉のためですから!」

 

「あはははっ!!」

 

「こんな場所でおっぱいを丸出させる名誉っ!?おっ、乙女の世界って怖い……っ!」

 

「丸出しにはしてませんっ」

 

「結局のところ、何してたの?」

 

「コーヒーの味の研究です!」

 

「胸の谷間で温めた豆を使って?」

 

「どんな信長と秀吉?」

 

「……くっ!ふふっ、ははは!」

 

やばい、まてまて、堪えろ。だが……。これは笑ってしまう。

 

「コピ・ルアクって……一杯、数千円とかしてた気が。高いところだと……八千円とかも?」

 

「そんなにですかっ!?」

 

「誰のおっぱいで温めた豆にするか。選択が出来るなら指名料だって取れるね。とはいえ、私のおっぱいで温めるなんてできないんだけどさ。あっはっはっは……はぁ~あ」

 

うむ、俺だったら余裕で指名しますがっ?しようと頑張っても出来ないのを、恥ずかしがりながらも頑張る姿とか高額に決まっているじゃないですか!!

 

「希ちゃん……コピ・ルアクって……なに?裏メニュー?八千円で、どんなプレイをするの?」

 

「いや、普通に表メニューなんだけど……。ジャコウネコの糞から取り出したコーヒー豆で淹れたコーヒーのことだよ」

 

「スカトロッ!?ひぃっ、ケダモノ先輩っ!!」

 

「あはっははっ!」

 

「待て、誤解だ!俺だってスカトロはゴメンだ!そんな趣味、決してないぞ!」

 

「否定はそこだけでいいの?」

 

あ~……最高です。

 

「そこで一人で笑ってる澤田君は何してるの?」

 

「んー?って……四季さんか?ただ楽しませてもらってるだけだが?」

 

「高嶺君と明月さんで?」

 

意味深な視線を送ってくる。

 

「そういうこと」

 

「なるほど、理解した。だから通路で立ってたのか」

 

「察しが早くて助かるよ」

 

「それで、この後は火打谷さんとデート?」

 

「だな。ちょっと蝶関連で夜の街に繰り出す感じ」

 

 

 

 

 

「ここですか?今日の場所は」

 

「ああ、ここのとあるお店だ」

 

店から出て、一緒に来たのはショッピングモール。

 

「確か……この辺に……あった」

 

たどり着いた先は、火打谷さん行きつけのファンシーショップ。

 

「ここって……」

 

「ここに入るけど平気か?」

 

「え、はいっ。全然余裕です!」

 

「それじゃあ、入るか」

 

店内に入り、ぬいぐるみを見てる振りをしながら女性店員を探す。

 

「……居た」

 

一人だからか、蝶が集まっているのがわかる。

 

「火打谷さん、いた。あの人だ」

 

女性店員注視しながら声をかけるが、返事がない。

 

「ん?火打谷さん……?」

 

「はふぁ~。この子、超かわいい~……あ、手触りもいい……お持ち帰りしたいぃ」

 

「………」

 

目的そっちのけで堪能していた。

 

「………」

 

「………はッ!?」

 

俺の視線に気づき、慌てて手を引っ込める。

 

「……楽しむのは目的が終わったあとで、な?」

 

「いや、そのっ、別に……!」

 

「いいからいいから。ささっと先に済ませてしまおう」

 

「は、はい……」

 

うーむ、この様子だと、やはりミカドさんを猫の姿にしない様に助言したのは正解では無いだろうか?

 

「ほら、あの女性の人だが、見えるか?」

 

「んー……ちょっと待って下さいね」

 

前髪を上げ、左目で女性を見る。

 

「……見えますね。あの人の周りにモヤモヤがあります」

 

「おけおけ、それじゃあ一旦ストップしてくれ」

 

「わかりました」

 

髪を下ろし左目を隠す。

 

「どうしますか?直ぐに回収します?」

 

「その前に、一応念のために確認しておきたい事があるから、先にそっちをしておくよ」

 

「確認しておきたいこと……?」

 

「ちょっと、ここで待っててくれ」

 

「了解です」

 

その場を離れ、女性店員へ近寄る。

 

「………」

 

お互いにすれ違う瞬間、相手と周囲に気づかれない様に蝶を一頭回収する。

 

「……うん、間違いないな」

 

状況を確認できたので、火打谷さんの方へ戻る。

 

「先輩?今何かしたんですか?」

 

「蝶を一度回収しておいた。相手がどんな内容で蝶を寄せているのか確認しておきたくてな」

 

「ああ、なるほど。先輩なら出来ましたね」

 

「確認した感じだと、回収しちゃっても問題無さそうだし、早速してもらってもいい?」

 

「え?はい、良いですけど……大丈夫ですか?」

 

「無問題」

 

「分かりました。それでは行きますね?」

 

再度前髪を上げ、左目で今度は周囲の蝶を見つめる。すると、周囲の蝶を淡く光を放つ。

 

「おおぉ……」

 

そのままゆらゆらと揺らめき、小さな粒子となって火打谷さんの瞳へ吸い込まれていった。

 

「……終わりました」

 

髪を下ろし、静かに呟く。

 

「了解。それじゃ一旦離れようか」

 

「はい、了解です」

 

 

 

 

「はい、イチゴのやつ」

 

「ありがとうございます。そっちは何にしたんですか?」

 

「こっちはブルーベリーのつぶつぶしたやつだな」

 

「おおー!良いですね。そっちも美味しそう」

 

蝶を回収後、念のための経過観察としてお店が見える場所のベンチでお互いにスムージーを飲む。

 

「スムージー、ありがとうございます。奢ってもらっちゃって……」

 

「いいよいいよ。今日は付き合って貰ったんだし。それに、先輩が後輩へ奢るのは当然の義務。ま、こういう時くらい年上風を吹かさせてくれ」

 

「あはは、了解です」

 

「それにしても、火打谷さんの回収の仕方、滅茶苦茶綺麗だったな」

 

「え、そうですか?自分ではよく分からないのですが……」

 

「幻想的だな。超ファンタスティックッ!って感じだ」

 

「他だと、どんなのがあるんですか?」

 

「俺は素手だし、明月さんは鎌でスパッと切る感じ」

 

「うわぁ、死神っぽいですねぇ」

 

「実際そうだしな」

 

「そういえば、気になっていたんですけど、達也先輩ってどんな経緯で栞那さん達と知り合ったのですか?」

 

「ん?俺か?」

 

「はい、普通なら知り合えないと思いますし、私みたいな感じですか?」

 

「えー、あー……そうだなぁ」

 

馬鹿正直に、夜の森の中、全裸で遭遇した……とは言えないなぁ。

 

「ある日、森の中で偶然出会ったんだ……」

 

「……くまさんか何かですか?」

 

「うん、そう思うよね」

 

想定通りの返事が返ってくる。

 

「まぁ、明月さん達が仕事で立ち寄った先で偶々出会ったんだ。俺が蝶を回収した場面を目撃してしまってな」

 

「なんと……!ショッキングな場面を……」

 

「超ビビったぞ?人ほどの大きさの鎌を持った女性が居たんだから。あ、蝶だけにな」

 

「……先輩、それ、クソくだらないです……」

 

「あーい」

 

うむ、安易なダジャレだったようだ。次はもう少し捻ろう。

 

「そのあと、その鎌を持ってこっちに近づいて来て……ってのが最初の出会いだったな」

 

「トラウマもんでしょ……それ」

 

ああ、全裸は確かにトラウマだったな。いや、違うか。

 

その後、飲み物を飲み切り、特に問題は無いと判断出来たので今日は終わりとして火打谷さんを送って行った。

 

 

「さてと……帰る前にコンビニ寄るか」

 

忘れてはならない。今日の分の報酬を……。忘れた暁には絶対噛まれる。

 

コンビニへ寄り、うみゃい棒とその他駄菓子を幾つか見繕って後にする。

 

「一応、昨日と内容は少し変えてるし……大丈夫だろ」

 

これで駄目出しされたら……その時はちゃんとした駄菓子屋に行かなければならないな。

 

どうでも良い事を考えながら歩いていると、スマホに着信が入る。

 

「着信……?しかも相手は不明……?」

 

お店のメンバーは当然全員登録しているし……それ以外?

 

気になって取りあえず取ってみる。

 

「はいもしもし」

 

「おまえ、今日の報酬を忘れてないな……?」

 

通話口から聞こえたのは、俺に恨みでもあるのか?と勘違いするレベルで力の入った声だった。

 

「待て待て、ちゃんと買っている。今帰っている途中だ」

 

「……分かった。待ってる」

 

そのまま通話が切れる。……間違いなくうみゃい棒だな。てか、なんで俺の番号知ってんの?教えてないんだけど……?

 

急にプライバシー面が不安になってくる。え?誰か教えた?それとも神の力とか?

 

「いや、普通に考えるならミカドさん辺りが教えたってのが定石か……」

 

じゃなきゃ怖すぎるんだけどっ!?

 

何故の恐怖に苛まれながら部屋へ帰ると、案の定玄関の前で待っていた。

 

「……遅かったな。ルリが待っているのだからもっと早く来い」

 

「それはすまん。選ぶのに時間がかかってたんだ」

 

「まぁ許してやる。さぁ、今日の報酬を寄越すがいい」

 

手を伸ばして俺に催促してくる。

 

「ほいよ。これが今日の分」

 

「うむ、確かに受け取った」

 

袋の中身を覗き、満足そうに頷く。

 

「……あ、あとこれ、渡しておく」

 

「おう、ありがとな」

 

白い紙。多分報告書だろう物を受け取る。

 

「じゃあな。明日もしっかりと用意しておくんだぞ」

 

「ああ、ちゃんと用意しておくよ」

 

袋を持って、ご満悦の表情でその場を去って行く。……やっぱりチョロい気がする。

 

部屋に入り、渡された紙の中身を確認する。

 

 

『問題なし』

 

 

と、一文だけ書かれていた。

 

……頼む相手、間違ってしまったのではないだろうか……?

 

眉間を押さえ、下に書かれている文を読んでく。

 

『前にくれたチョコ。うまかった。もっと要求する。』

 

『それからパンダの絵があった肉、あれはうまかった。』

 

『あと、みょーんと伸びるブドウ味、こんどはこれを要求する。』

 

「………」

 

いや、報告より報酬への文字が多いのはどうなの?しかも商品名分からないしっ!俺に解読しろと!?

 

『姫様がお前に用があるって言ってた。』

 

「仮にも主様だろうが……。それを最後に書くなよ……」

 

さっき直接言えば良いのに……報酬の事ですっぽ抜けていたか?

 

色々とツッコミどころしかないが……まぁ、問題無いのならいいや。一番重要な要素だしな。うんうん。

 

取りあえず、これらを忘れない様にと上着の胸ポケットへ入れておく。

 

「……風呂入って寝よ」

 

思考を放棄して、風呂場へ向かった。

 

 

 





『前にくれたチョコ。うまかった。もっと要求する。』
→ブラックサンダー。

『それからパンダの絵があった肉、あれはうまかった。』
→カルパス。

『あと、みょーんと伸びるブドウ味、こんどはこれを要求する。』
→ねるねるねるね。



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