喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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テストへ向けての準備のお話。




第61話:定期テスト準備

 

 

「今日も、後1時間になりましたね」

 

「んー……今日はもう終わりかなー」

 

「そうですねぇ」

 

閉店まであと1時間ほどあるが、客の入り具合によってはショーケースの中身が空っぽになることも少なくない。しかもあと30分もすればラストオーダーだし、今ぐらいの時間帯はあまり人は来ないのが普通である。

 

「片付け、始めますか?」

 

なんとなく客は来ないだろうと予想している高嶺から提案で出る。

 

「それは流石に早すぎ。せめてラストオーダーまでは待たないと。ま、そうしたい気持ちは分かるけど。日が落ちて寒くなると寄り道ついでに来る人も少ないからね」

 

「もう冬ですからねぇ……」

 

「それで、達也。アンタは何してんの?」

 

「パフェを作ってます」

 

「パフェ?そんな注文あったっけ?」

 

「いえ、これは部屋でテスト勉強している子への差し入れ的なものです」

 

糖分が必要になるだろうし、クリームを入れて……更にイチゴも乗っけて……ふふ。

 

「そういえば、クリスマスってどうするんですか?」

 

「ん?クリスマス?」

 

盛り付けをしている後ろで話している二人の会話を聞く。

 

「はっは~。なんだぁ、その質問。お姉さんの予定が気になるのかにゃー?」

 

凄く気になりますっ!!

 

「……涼音さんって、もう予定埋まってたりしますか?」

 

「予定なんてありゃしないよ。悲しい事を言わせないでくれる?」

 

「なら、涼音さん……」

 

「なにさ?」

 

「……涼音さん……」

 

お、これは揶揄うシーンか。

 

「え?ホントになに?そんな真剣な顔で……」

 

「クリスマスの日なんですけど……いや、イブかな?」

 

「いや、ちょっと待ちなってば……そんな、ほ、本気?」

 

「当日はーーー」

 

「ーーーゴクンッ」

 

「……ケーキの販売ってどうするんですか?」

 

「………、は?」

 

勘違いをしていた涼音さんから素っ頓狂な声が出る。

 

「このお店のクリスマスケーキのことです」

 

「………」

 

「特別なケーキを売るか、いつも通りのケーキを売るか。前日までの予約販売にするのか。まぁ、そこら辺のことを……」

 

「………っ、~~~っ!!」

 

高嶺の冗談に気づいた涼音さんが、羞恥心のあまり暴力に出る。

 

「あたっ、あたたっ!す、すみません、すみませんってば」

 

「こっの、クソガキァっ!サイテー!サイテー!」

 

うーむ、いつもは揶揄う側の涼音さんがされる側ってのもイイね!ポイント高いですっ。

 

「先に涼音さんが揶揄ってきたのでやり返そうと思ってつい。涼音さんって、意外とピュアなんですね。もっと大人なのかと思ってました」

 

「~~~ッ!言ってろ、バーーーカ!死ねっ!死に晒せ!年下のくせに!このっ!生意気なっ!」

 

ああ、暴れられると盛り付けが……。

 

「もう言いません。今のは俺が悪かったですから!」

 

「万死に値する!絶対許さぬ!末代まで祟ってくれるわー!」

 

涼音さんの恨みが厨房内で響く。

 

「人として最低でした、すみません。本当にゴメンナサイ!」

 

「……なんだか、楽しそうね」

 

二人のじゃれ合いを聞いて楽しんでると、四季さんが厨房へ入ってくる。

 

「高嶺が涼音さんを揶揄って怒られてるだけだな」

 

「あー、それで涼音さんが高嶺君を……」

 

「そうゆこと。それで?もしかしてパフェでも所望かい?」

 

「え、うん。そうだけど……」

 

「ナイスタイミング。今しがた出来上がったばかりだ」

 

「……これ、お客さんへのじゃないの?」

 

「いや、そちら用だな。伝票ないし」

 

「……ふーん。それじゃあ貰っていこうかな?ありがとね」

 

「おっけ。ついでに部屋まで運ぼう」

 

後ろでギャーギャー騒いでる二人に任せ、厨房を後にして部屋へ向かう。

 

「ほえぇぇぇ~~~……」

 

中に入ると、完全に脳の回路が焼き切れてショートしている火打谷さんが天を仰いでいた。

 

「……ほい、パフェ」

 

「ありがとう。ほら火打谷さん。糖分補給して。脳に栄養を回して頑張って」

 

餌を与えられる雛のように、四季さんから口へパフェが運ばれていく。

 

楽しそう。俺もやってみたいな、あれ。

 

テーブルを見ると、先ほどまで頑張ったであろう痕跡があった。

 

「……テスト勉強か」

 

「そ、火打谷さんから教えて欲しいって頼まれてね。それで今は、出された宿題を教えてたんだけど……」

 

「ほえほえ~~~」

 

甘いものを摂って、脳が回復したが、まだ人語を話せるまではしてない様だ。

 

「人に教えるって難しいのよね……」

 

「まぁ、気持ちは分かる。取りあえずは宿題を終わらせないとな」

 

「はぁ~い……」

 

「う~ん、ダメそうだなこりゃ」

 

「ダメです……もう無理。わけわかんなくて、思考回路はショート寸前」

 

いや、既に焼き切れてるようにしか見えないのだが……?

 

「……因みに、どのくらいなんだ?」

 

「マジでやばいです。やだよ、怒られたくないよぉ~……」

 

語彙力が下がる位にはピンチと見た。

 

「今やってる箇所は?」

 

「今はベクトルね」

 

「あー……ベクトルかぁ」

 

名前は覚えてる。使って無いから最早忘れたけど……。

 

パフェを食べて回復した火打谷さんが問題を解くのを暫く見守る。

 

「あー……、あっ、そっか。そういうことか!」

 

何か分かった様でそのまま書いて行く。

 

「ふっ、謎は全て解けたよ、ワトソン君」

 

「誰がワトソン君か」

 

「お、自信あり気だな。して、その答えは……?」

 

「2a+3!」

 

「解けてない……」

 

んーー、ハズレッ!

 

「えぇぇ……うそー……もうダメ、数学オワッター……わけわかんない」

 

「数学って途中で挫折すると後が地獄になるからなぁ……基礎が死ぬと全部死ぬというか」

 

「先輩ぃ~!何か助けて下さいぃーー!」

 

「何かってなんだよ……」

 

「ほらっ、先輩ならどうにかしてカンニング方法とかアタシに伝授したり……!」

 

「いや、自力で頑張るしか無いぞ」

 

「ほんとですかぁ?あっと驚く様なやり方が実は……?」

 

……やるとしたら、蝶で記憶を読んだり?盗み見をしてとかか?

 

「はいはい、そんな都合の良い方法は無いから、自力で頑張って」

 

「そんなぁ……」

 

「でも懐かしいな。今も昔も習う箇所はそこまで変わらないんだな」

 

「そんなおっさんみたいな言い方……」

 

「懐かしいですか?試しに一問やってみますかっ?」

 

覗き込んでいる俺にノートを差し出してくる。

 

……なるほど、ふむ。

 

「良いだろう」

 

近くにあるメモ用紙をちぎり、特に問題も見ずに答えを書く。大丈夫、回答は覚えてる。

 

「よし。四季さん、答え当たってる?」

 

火打谷さんに見えない様に紙を差し出す。

 

「……正解」

 

「マジっすかっ!?チラッとしか見てませんよね?」

 

「ふ、これが俺の実力よ。あと、ノリで問題を解かせようとか甘い考えは通じないからな?」

 

「あ、あ~……バレてましたかぁ?」

 

「バレバレ」

 

手に持った紙を丸めてゴミ箱に入れる。

 

「ああぁ……答えがぁ」

 

「世の中甘くないってことだな」

 

蓋を閉めて振り返ると、四季さんが疑惑の目で俺を見てた。

 

「……どうかしたのか?」

 

「……べつに。便利だなぁーって思っただけ」

 

「何が言いたいかさっぱりだな」

 

「はッ」

 

俺のスルーに対して、馬鹿にするような表情をして鼻で笑った。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、お疲れ様でしたー」

 

「お疲れ様ー」

 

営業が終わり、店を閉めて皆外へ出る。

 

「最近マジで寒くなって来たなぁ……」

 

冷えた手をポケットに入れながら隣を歩く四季さんへはなしかける。

 

「もうそろそろで11月も終わりだし、本格的な寒さがやってくるしね」

 

「12月はクリスマス、それが終われば正月に2月はバレンタインか……。四季さんは正月に実家に帰る予定とかある?」

 

「ワタシ?んー……今の所は特に考えて無いかなぁ。家近いし帰ろうと思えばいつでも帰れるしね」

 

「わざわざ帰る必要は無さそうか」

 

「そうね……。そっちは正月、部屋に籠るの?」

 

「……かもな。初詣くらいには出かけるけど」

 

「へぇー意外。一人で行くの?」

 

「色々失礼な発言に聞こえるのは俺だけか……?」

 

「気のせいでしょ」

 

「まぁ、色々と用事……というか、その辺りは確認したい事がてんこ盛りでな」

 

「確認したいこと?」

 

「ま、それも機会があればおいおい話すよ」

 

まだ、ルートが確立したわけじゃないしな。

 

「あ、そっち系……」

 

「そそ、一人で寂しく神社に参拝しに行くのさ。惨めになっ」

 

「自分で卑下してどうする……澤田君も彼女とか作ってみたらどう?」

 

「……恋人ねぇ」

 

「なんか、微妙な反応?ほしくないの?」

 

「いや、んな暇無いし……仮に出来ても色々と大変だしさ、ほら?俺の事情が事情だろ?」

 

「あ~……確かにそれはあるかも……。蝶の関連もあるし、何より身体のこととかあるもんね」

 

「そうそう。そう言った観点から今のところは作らないのが正解かなって結論に至りました。あ、別に負け惜しみとかじゃないからなっ?」

 

「わかってるわかってる」

 

「あ、コンビニ寄っても大丈夫?合間に何か食べたい」

 

「了解、手伝って貰うわけだし、ワタシが出そうか?」

 

「いやいや、提案したのは俺だから自分で払うよ」

 

「そう?それなら……わかった」

 

コンビニで買い物をして、俺の部屋へ向かう。

 

どうして俺の部屋に向かうかって?それはなぁ……墨染さんと火打谷さんのテストに向けての資料とか問題をまとめるためだよ!!

 

じゃなきゃ、用も無く俺が四季さんと一緒に帰れるわけ無い……いや、同じ職場で働く仲だし、送るとかの口実で一緒に帰ってもおかしくないのでは……?

 

部屋へ上がり、暖房をつける。

 

「この待機時間が地獄だよなぁ」

 

「部屋に炬燵とか置いたりする予定はないの?」

 

「あーいいよな炬燵。ちょっと検討してはいるんだけど」

 

「分かる。冬の炬燵は最強」

 

「四季さんは買わないのか?」

 

「ワタシはちょっとなー……。それで、買うご予定は?」

 

「あれ?これは買うように催促されてるのか?」

 

「うそうそ、冗談。炬燵を堪能したいって気持ちは無くは無いけどね」

 

「……もし買ったら、その時連絡するよ」

 

「その時はワタシが審査してあげる」

 

「いや、なんの審査を……」

 

部屋が暖まって来たので、テーブルに資料を並べる。

 

「それで、俺は四季さんが書いたのをこっちに書き写せば良いのか?」

 

「ワタシが要点とかをまとめるからそれを写すのをお願い」

 

「おっけー。問題集とかテスト方式で作ったりは?」

 

「それはもう少しあとでいいかな?二人の苦手とかをもう少し把握出来たら作るつもり。そっちは高嶺君にもお願いするけどね」

 

因みにだが、テスト勉強の依頼があるのはまだ火打谷さんだけである。まぁ、どの道明日にでも墨染さんもって話が出るけどな。

 

「了解。そんじゃ始めますか」

 

四季さんが纏めてくた箇所をもう一枚の紙へ書き写していく。ぶっちゃけパソコンで出力した方が楽ではあるが……持ってないしなぁ。

 

公式や用語。文章をもう一枚の紙を見て書く。……うむ、俺とは違って女の子を感じる文字だな、綺麗に書いてはいるけど個人の特徴が良く見える。

 

四季さん直筆という謎の達成感を感じながら進めて行く。

 

……よし、取りあえず1枚目は終わりだな。

 

2枚を確認しながら抜けや誤字が無いか確かめて行く。

 

「1枚目が終わったからここに置いておくぞ」

 

「え?ああ、わかった……ミス無さそう?」

 

「確認した限りでは問題無さそうだったな」

 

「それじゃ引き続きお願い」

 

「お任せあれ」

 

暫くの間、お互いの筆記音だけが聞こえる。

 

ピンポーン。

 

「……来たか」

 

「ん?お客さん?」

 

「そうだな。可愛いお客さんが来たみたいだ」

 

近くに置いてある袋を持って玄関へ出る。ドアを開けると、毎度おなじみの少女が堂々と立っていた。

 

「今日の分を貰いに来たぞ」

 

「ああ、毎日ご苦労様。今回の報酬」

 

「うむ」

 

俺が渡した中身を見て深く頷く。

 

「ああ、そうそう。依頼だけどさ、あれから問題無さそうだし今日で終わりにしよう。今までありがとな」

 

「今日で……終わり……?」

 

「そうだな。だから報酬もこれが最後だ」

 

「……そうか」

 

声のトーンが落ち、耳と尻尾が、シュン……。と垂れる。明らかに落ち込んでいるご様子。

 

「と、言うのは冗談で、今までのとは別の依頼をしたいのだが、良いか?」

 

「別の……?」

 

「ああ、観察対象を変えたいから一旦契約を終わらせて、再度結びたい」

 

「報酬は、どうなる……?」

 

「そりゃ、今まで通り継続になるな。ちゃんと働いてくれたらの話だが」

 

「……っ!謀ったな!ルリを騙した」

 

「いやぁ~思ったより楽しみにしてくれてるとはなぁ……?」

 

「人間のくせにっ、覚えてろ!姫様に言いつけてやるからな」

 

「すまんすまん。天罰とか勘弁してくれ」

 

「ふん、精々楽しみにして待ってるといい」

 

くるりと振り返り、帰っていく。……尻尾で感情が丸わかりなんだよなぁ。

 

「……つうか、対象も聞かずに……まぁ明日で良いか」

 

相手の事も調べてもらわなきゃいけないし。神様パワーをお借りせんとな。

 

ドアを閉めて部屋へ戻る。

 

「もしかして、前と同じ子?」

 

「そうそう、気分は近所の子供にお菓子をあげてる感じだな」

 

「完全に子供扱いね……まぁ見た目がその通りなんだけどね」

 

「まぁな」

 

来訪者も去ったことで、再び紙と向き合う。

 

もうすぐ12月に入ろうとしている。どうなるかは分からないが、上手く行けば野中君の件が発生するはず。そして、そこで高嶺が影響を受け魂が衰弱する。

 

最終的には逆に相手に影響を与え事なきを得る。しかし、魂の衰弱で体調は崩れる。そこで明月さんが自分のを分け与える……。

 

確実にその道を辿るために色々とサポートしておいた方が良さそうだな……。まずは、スマホを買いに行かせるところからか。

 

「澤田君?」

 

「ん?どした?」

 

「いや、何だか難しそうな顔をしてたから……どこかおかしい箇所でもあった?」

 

「あー……いや、問題ない。少し考え事をしていただけ」

 

「それはさっき言ってた話と関係してること?」

 

「……ああ、そうだな。正解を引き当てる為にちょっとやることが色々とな」

 

「そう。何かあったらワタシにも相談して?手伝えることがあったらだけど……」

 

「一応、今の所四季さんにも手伝ってもらう必要があるのも……あるっちゃ、ある。まだ先の話になるけど」

 

「わかった。その時にまた連絡して」

 

「了解。その前にこいつらを片付けないとな」

 

「そうね。早い内に終わらせましょう」

 

気合を入れ直し、目の前の作業を片付けていく。

 

それから一時間程で一通り完了したので休みを入れる。

 

「今日のはこれで終わり?」

 

「かなー?今のところはここまでのでいけそう」

 

「おっけ。てか、結局コンビニで買ったのに手を付けなかったなぁ」

 

「ほんとそれ。思ったより集中していたみたい。てか、澤田君写すの早くない?」

 

「そうか?」

 

「そうっ、こっちが追いつかれそうで少し焦ったんだから」

 

「自分では良く分からんな……前に明月さんにも同じこと言われたし」

 

「明月さんも?」

 

「ああ、前にお店で……少しな」

 

おっと、危ない反射的に口に出して喋ってしまうとこだった。

 

「あ、濁した。そんなに言えない事だったの?」

 

「いやいや、蝶関連のことをな。個人的な話もあって濁しただけだ、気にしないでくれ」

 

「ふーん。なんか怪しい……」

 

ちくしょ、蝶関連なんだから深堀しないでくれ!俺が死ぬからっ!

 

「ま、別に良いんだけど」

 

ほ、良かった……。

 

「それじゃあ、そろそろワタシは帰ろうかな。時間も遅いし」

 

「『終電……無くなっちゃった』とかなら泊まってくか?」

 

バーでの出来事を蒸し返す。

 

「ッ!?……しね」

 

超弩直球の暴言っ!恥ずかしながらもしっかりと蔑む様な視線っ!うーーん、ビューティフォー!!

 

「冗談冗談。それじゃあ、送ってくよ」

 

「わざわざ送ってもらわなくても……家にいるのに面倒でしょ?」

 

「好きでしてることだからな。俺の安心のためだと思って付き合って欲しい」

 

「……わかった。それならお願いする」

 

「お任せを。しっかりとエスコートを……って帰るだけだし違うか」

 

「どうでもいいから、早く支度して」

 

「あ、はい」

 

 

 

 





四季さんが火打谷さんへパフェを与えてる絵は結構好きなシーンだったり。ゲームとかのロード画面に使いたい……。

あと、小さい頃に遊んだたまごっちを思い出すw

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