ちょっと、暗い展開が続く……?
次の日、昨日の出来事は直ぐに皆へ連絡が回った。四季さんが抜けた事で墨染さんと火打谷さんも穴を埋めると、出ることになった。
涼音さんや高嶺には朝の時点で色々と聞かれたが、取りあえずは命に別状はないとだけ伝えておいた。
「涼音さん、先に休憩行っても良いですか?」
昼になり、先に休憩を申し出る。
「いいよ、行っといで。てか大丈夫?」
「……はい、問題ないです」
「四季さんが倒れて心配なのは分かるけど、キミまで倒れちゃダメだからね?しっかりと休んで来て」
今日はいつもより口数が少なったからか、心配そうな表情をしていた。
「大丈夫です。確かに心配ですが……それでお店を蔑ろにするわけにはいきませんから」
「そっか」
厨房を出て、休憩室に入る。
「お見舞い、行くか」
着替えて店を出る。場所は四季さんが入院している病院だ。
中に入り、病室を教えてもらい入る。
「………」
そこには、目を覚ましていない四季さんが寝ていた。
「……まだ、大丈夫」
30分くらいは時間はあると確認して、試しに手を握る。
「………」
明月さんみたいに魂を移そうとして見るが、成功はしない。
「やっぱり、おでこくらいは必要なのかもな……」
寝ている相手に申しわけないと思いながらも額で額に触れる。これで……。
「………」
魂が移るように強く想う。蝶を自分の身体から出て行く感覚を思い浮かべる。
すると、お互いの身体が淡く光りはじめる。
「まずは第一段階が成功かぁ……」
すぐに身体を話して安堵する。
落ち着いて周りを見ると、俺のより前に既に誰かが来ている様な痕跡があった。恐らく、ご両親か大家さんとかかもしれない。
そして、壁に置かれるように、四季さんが持っていたバックがあった。テストの資料用として持っていたやつだ。
「……この成果は、無駄にしたら駄目だな」
中身を確認し、バックを手に取る。
「それじゃあ、また来るよ」
置いていたバックを持って、店へ戻る。
「あ、澤田さんっ。どこに行っていたのですか?」
「……ああ、ちょっと四季さんのお見舞いにな」
「ナツメさんは、まだ目を覚まされてませんでしたか?」
「ああ、まだだったよ。あと、これを持ってきた」
「これは……?」
「直前まで俺の部屋で一緒に作ってたテストの問題集だな。もう少しでテストだし、使わないとな」
「……そうですね。折角お二人が作ったものですもんね」
「あとで、高嶺と二人にも渡しておくよ」
「分かりました。それと、澤田さん。大丈夫ですか……?」
「大丈夫とは?」
「いえ、お疲れのように見えます。ナツメさんが心配なのは私も一緒です。ですが、無理はしない様にお願いします」
「分かってる。昨日はどうしてもあまり寝れなくてな。そのせいだと思う」
「……分かりました」
「それじゃあ、そろそろ戻るよ」
若干納得のいかない表情の明月さんがこっちを見ていたが、気にしない振りをして厨房へ戻った。
「ふー……終わった終わったぁ」
「お疲れ様です」
「うん、おつかれ。達也も今日はおつかれ」
「はい、お疲れ様です」
無事に今日の仕事も終わり、片付けを始める。
「あ、そうだ。高嶺」
「はい?」
「墨染さんと火打谷さんのテストの問題だけど、休憩室に置いてるから後で受け取ってくれ」
「分かりました。後でもらいますね」
これで取り敢えずはよし。あとは……。
「火打谷さん、ちょっと良いか?」
「ん?何でしょうかっ?」
「後で用事があるから付き合って貰っても良いか?」
「良いですよ?どういった用件で?」
「んー……個人的なのと、後はテスト関連かな?」
「え、もしかしてアタシやばいですか……?」
「いや、今の感じだと大丈夫だと思う。確認しておきたいのがあっただけ」
「あ、そうなんですか。よかったぁー」
「そんじゃ、また後で」
「了解です!」
片付けが終わり、着替えも済まして店を出る。
「場所はお店じゃなくて大丈夫なんですか?」
「店に遅くまで残るのはちょっと罪悪感がな……」
「あ、それ分かります」
「テストの問題とかもあるし、俺の部屋とかでも大丈夫か?」
「はい、良いですよーって、はッ!?もしかして……?家へ連れ込んで……!」
「安心してくれ。そんなことしたらお店に居られなくなる」
「それもそうですねっ。あと、……先輩」
「元気出して下さいね?ナツメ先輩のこと」
「ああ、ありがとな」
部屋に着き、中へ招く。
「へぇー……男の人の部屋に初めて入りましたけど、綺麗なんですね」
「一応定期的に掃除して保ってるからな」
「それでそれで?アタシへの用とは?」
「そうだな先にテストの方を……って言っても本題の為の誤魔化しみたいなもんだったけど」
「あ、やっぱりそうでした?」
「という事で、本題へ入ります!」
「了解です!って、用件は一つしかないですけどねー……」
「だな。左目の事だな。ちょっと試しておきたい事があって」
「なんですなんです?」
「最近は火打谷さんだけでも任せているから全体を把握できていないけど、一度瞳の蝶を回収しておこうかなって思ってさ」
「あーなるほど、回収しないと消えちゃいますもんね」
「消えるのはもっと先だけどな。ただ、回収する際に実は問題がありました。だと、大変だろ?」
「確かにそうですね」
「だからもう一回、回収を試しておきたいんだが……大丈夫か?」
「はいっ、アタシは全然大丈夫ですよ?」
「おっけー。それじゃあ早速始めるが、今回は目を開けたままで見るか?」
「あ、それ良いですね。どんな光景か気になります」
「じゃあ、行くぞー」
手を広げて、火打谷さんの目に当てる。
「……すみません、真っ暗なんでやっぱり閉じますね」
「まぁ、そうなるか」
目を閉じたのを確認してから、蝶を回収する。
「……今の所、違和感とか感じない?」
「はい、特には……」
「それじゃあ、このまま続けるぞ」
暫くの間、そのまま待っていると、『あ、もう終わりだな』って感覚を感じて手を離す。
「終わりですか?」
「だな。取りあえず今日はこの辺りにしておこうか」
「了解です」
「蝶はあとでミカドさんに俺から渡しておくよ」
「ふっふっふ、アタシの成果をしっかりと伝えて下さいね?」
その後、少し雑談を交わして、火打谷さんを家まで送って行った。
次の日、今日は幸いにも定休日という事もあり、家に引きこもっていた。
「……決行は夜。人が居なくなってからだな」
病室の人払いは既にお願いしている。あとは無事に成功する事だが……。
「今日もまだか……」
「そうですねぇ……ナツメさんが心配ですが……」
「目が覚めるまで待つしかない。どうするかはそれ次第だ」
「……なんだか歯がゆいですね」
「ああ、そうだな。しかし澤田達也はもっとだろうな」
「その場面に居たんですよね……」
「むしろ、いたからこそ早めの治療が受けれたのは確かだ。それにしても……」
「しても?」
「いや、奴にとっても想定外とは言っておったが……それにしては妙に落ち着いてると感じてな」
「そうですか?結構落ち込んでいましたよ?」
「それでもだ。何か策でも考えついたのか……?」
「まさか。それならすぐにでも実行しますって……」
「そうだな……」
「失礼しまーす……あ、ミカドさん、栞那さん、居たのですね!」
「愛衣さん、どうしたのですか?今日は定休日ですよ?」
「いやーお恥ずかしながら……テストの為の紙を忘れてしまってて……あはは」
「そうでしたか」
「いやー、昨日達也先輩から貰ったのばかりに目が行ってたので……日が暮れてから取りに来ました」
「定期テストの方は大丈夫そうですか?」
「はい!少なくとも赤点は回避して見せます!」
「もっと向上心を持って挑んだ方が良いと我輩は思うが」
「あはは、頑張ります。あ、そうだ。達也先輩からアタシの頑張り、受け取りましたか?」
「澤田さんから?」
「あれ?休みだし明日なのかな?」
「なんのことだ?」
「いえ、昨日達也先輩の家で左目の蝶を回収してもらったんです」
「愛衣さんの蝶を……?」
「はい。取りあえず実験という事で。後でミカドさんに渡すって言ってましたが、まだみたいですね」
「そうだな。少なくとも我輩達は受け取っていない」
「そうなんですね。それじゃあ、明日だと思います。アタシの頑張った成果を見てくださいね!それじゃあ、失礼しまーす」
「ああ、わかった。気を付けて帰るといい」
「……ミカドさん、今の話、澤田さんから聞いてましたか?」
「どうやら、そっちも聞いてはいないようだな」
「はい、残念ながら……」
「愛衣の瞳については、テストが終わってからと言っていたはず……何か緊急の事でも起きたのか?」
「ですが、どうして蝶を……?」
「……奴が意味も無く回収をするとは思えん。何か理由が……っ!?まさか……?」
「何か気づきました?」
「いや、まさかだとは思うが……栞那、お前のように自分の魂を四季ナツメに与える気かもしれん……」
「ナツメさんに……!?可能なのですか?」
「恐らくは……お前と似たような構成だ。近い事は出来てもおかしくない」
「それじゃあ、蝶々を回収した理由って……」
「十中八九、何かに使うためだろうな」
「ですが、それは……!」
「ああ、良くて今のお前みたいにギリギリを保てるが……下手すれば蝶に還るだろう」
「……今すぐにでも止めに行きましょう」
「ああ、まずは奴の部屋に行くぞ!」
「さてと、そろそろ良い時間かな?」
日が落ち、夜も深まった時間。目的の為に動き出す。
俺が身を潜めて待っている間、心配なのか青い蝶が外に出て来て俺の周囲を飛んだり、肩に止まったりと好き放題していた。
見つかったら消されるぞ……全く。
既に卯ノ花姫にも連絡済み。あとは病室で四季さんを助ければ晴れて解決になる。
「………」
こういう時、嫌な予感や予想が必ず当たるって言ったのは、どこのどいつだろうか……?
夜の裏路地を歩いていると、正面に人影が見える。
「やっぱり、そうなるのかなぁ」
近づくにつれ、シルエットがハッキリと分かってくる。
マントと人ほどの大きな鎌。見間違えるはずがない。
「澤田さん……一体どちらへ向かうおつもりですか……?」
10mも無い位の距離になると正面の相手が俺にそう聞いてくる。周囲に気を配るが、不気味な程人の気配や生活の音、ましてや表通りの車の音すら聞こえない。
結界かなんかでも張ったのだろう。
「……やっぱり、明月さんだったか……」
死神の礼装を身につけ、身長ほどの大きな鎌を構えてこちらを見る。
「まさかだとは思いますが……ナツメさんの病室でしょうか?」
「……お見舞いに行くことは普通だと思うんだが……?」
「そうですね。普通だと思います。夜遅くでなければ、ですが……」
「いやー……四季さんが心配でしょうがないんだ。居ても立っても居られなくて……!」
「では、どういった理由で、愛衣さんから蝶を回収されたのですか?」
「……本人から聞いた?」
「はい、少し前にお店に忘れ物を取りに来た時に偶然」
「そうなんだ。いや、火打谷さんに回収してもらっているけど、実は目から回収する時に不具合ありました。とかあったらダメだろ?だから早めに大丈夫か確認しておきたかっただけ。変な心配をさせてしまったのなら謝るよ」
「分かりました。では、その蝶々たちを私の方で受け取ります」
「……明日じゃダメ?」
「駄目です。本来早めに神の元へ返すべきなんです。なので、今すぐにです」
「……そっか、それは面倒だなぁ」
「渡せないご理由でも?例えば……蝶を使ってナツメさんに何かするとか」
「……はぁ、当然気づくよなぁ」
「つまり、やっぱり澤田さんは……!」
「多分、明月さんが考えているのが当たってるよ。明月さんがしたように、俺が四季さんに魂を分け与えて安定させる」
「澤田さんは知ってるはずですっ!それをしてどうなるか……」
「明月さんみたいにギリギリを保てるか、もしくは崩壊して蝶に帰るかの二択だろ?」
「分かっているのならどうして……!」
「それは一番明月さんが理解できるはずだ。どうしても救いたい人がいて、その方法があるのなら、迷わず選ぶと思うけど?」
「……それは……っ」
「明月さんだって、高嶺を助ける為に自分を削った。なら俺も四季さんを救いたい。その重さは違うかもしれないが心の底からそう思ってる」
「……それでしたら、私がします」
「は?明月さんが?」
「はい」
「いやいや、冗談だろ?次は無いって自分が良く分かってるはずだぞ?」
「当然、理解しています。ですが、それなら澤田さんの犠牲を強いることもありません」
「待て待て!俺が消えるみたいな言い方してるが、成功率の方がずっと高いからな!明月さんがする必要はない!」
「………」
正面の明月さんは何も喋らずに、ただ俺を見ている。
「……本気か?」
「はい、これ以上、澤田さんに背負わせる訳にはいきません」
「待ってくれ。一度冷静になって話し合おう。お互いに少し熱が入って正常じゃない」
「私は正常です」
……あー、これ、めちゃくちゃキレてないか?
「澤田さんが自分を犠牲にする気が無いのでしたら、私も矛を収めましょう」
「……もし仮に、この場は大人しくなったとして、俺以外にどうやって四季さんを救う考えなんだ?」
「ですから、それは死神である私の役目です。澤田さんが背負う必要はありません」
「つまり……俺が退けば明月さんがその役を担うってことだな?」
「そうですね。それが普通です」
「……それなら、絶対に譲る訳にはいかなくなったな」
「……っ!?どうしてですか!」
「残念だけど、明月さんがその役目を果たすのは今じゃない。もっと後だ」
「どういう意味ですか……?」
「……すまんが、それを今話すことは出来ないんだ」
「……あなたはっ、いつもいつもそうやって、全部を自分一人で背負おうとして……!」
俺の言葉に声を荒げ、鎌を構える。
「それなら、私もあなたを止めます」
言葉の選択をミスったな……というか、なんでこうなったんだ。もう少しマシなやり方があったはずなのに……。
「どうしても、譲ってくれないのか……?」
多分、自分でも分からないくらいに焦っていたんだろ。そのせいでこんな結果を……。
「そのままそっくりお返ししますよ」
「……それじゃあ、仕方ないな」
ここで引くわけにはいかない。
「ごめんだけど、明月さんには退場してもらう」
「ーーー明月さんには退場してもらう」
そう私に告げた澤田さんの雰囲気が、ガラリと変わる。
彼の肩には蝶が止まっている。つまり、蝶を引き寄せてしまう程に精神が沈んでしまってる証拠。これ以上この人に重荷を背負わす訳にはいかない……!
どうしましょうか……、澤田さんを抑えるにはこの鎌で少しだけ切るのが一番早いのですが、そのせいで魂にどの様な影響を及ぼすか……大丈夫だとは思いますが……。
「やるしか、無いですね……」
鎌を再び構え、正面に立っている澤田さんを見る。
歩きながら私に近づいてくる。そのまま来れば鎌の範囲内に入る。
「……おっと、ここだな」
後一歩、そう思っていると、寸前でその動きを止める。
「ここまでが、明月さんの鎌の射程圏内だな」
「……お見事です。ですが……っ!」
あと一歩程度ならこちらから踏み込めば届く。
そう思って足を前に出そうとした瞬間、彼の身体から無数の蝶が飛び出す。
「はぁっ!?」
驚きながらも全ての蝶を切る。
「相変わらず意味不明な速度だな!」
彼が手を前に出すと、先ほどより大量の蝶が飛び出す。
「っく……!」
咄嗟に斬るが、一振りでは全てを回収しきれず避ける。
「一振りには限界があるみたいだな……!」
すると、先ほどとは比べ物にならない数の蝶が彼の身体から飛び出す。
「待ってください!澤田さん!何をしてるんですか!」
「そりゃ、明月さんを止めるためだよ!」
「だからと言って、こんな大量の蝶を……!」
おかしい。明らかに異常だ。人にこんな大量の蝶たちが居て正気を保てるわけがない。
「死にたいのですか!あなたは……!」
「四季さんを助けれるなら本望だな!フハハハハッ!」
なんですか!その悪役みたいな笑い方は……!
全力で鎌を振り続けるが、どうやっても処理できる量を越えていた。
「流石の明月さんも、この量は無理みたいだな!」
「と、止めて下さい!これ以上は……!」
幸い、結界のおかげで蝶が外に出て行くとこは無いが……いや、それを見越して彼はこの手段を?
「そろそろ終わりにしよう」
そう言うと、先ほどの倍近い蝶が彼の身体から飛び出し、渦を描くように飛び回る。
「……ッ!視界が……!」
もはや、多すぎて前が見えない程の蝶が高速で周囲を舞っている。
前に鎌を振るうが、焼け石に水である。
「はい、チェックメイト」
背後から声が聞こえたかと思うと、私の首元に冷たい何かが触れる。
「さ、澤田さん……っ!?」
「これで、明月さんの負けだ」
コロコロと視点が変わってしまいました……!申し訳ございませんっ。