喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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決着っと。





第65話:目覚め

 

 

蝶の大群で視界を封じて、何とか明月さんの背後を取って首元へボールペンを押し付ける。

 

「さて、負けを認めてもらうと助かるのだが……?」

 

「わ、わかりました……」

 

前へ構えている鎌を消して、手を上げる。

 

「ふぅ……助かる」

 

取りあえず、大急ぎで周囲を飛んでいる蝶を集めて回収する。

 

「っと、これで全部だな」

 

いやぁ……何とかなった。割と負けてもおかしくなかったけど。こっちは鎌の一撃もらうだけで即アウトだし、明月さんの鎌の振る速度は見えないしで……。

 

「あ、あの、澤田さん……」

 

「まて、待ってくれ。その前に、俺の話を聞いてほしい」

 

「は、はいっ」

 

「四季さんを助ける手段はある。それも俺を犠牲にしない方法でだ」

 

「……ほんとですか?」

 

「ああ」

 

「とか言って、嘘を付いて私たちを欺こうとか……」

 

「考えてない。ちゃんと理由も話す」

 

「……分かりました。聞きましょう」

 

「明月さんとミカドさんの見立てでは、四季さんを救うためには俺の魂だけでは不十分な可能性が高いって認識でオーケー?」

 

「そうですね。恐らくは……澤田さんの魂ではナツメさんの魂を補えるだけの力は無いと思います」

 

なるほど、やっぱりそれなりに必要なのか。

 

「なるほどなるほど。つまりは、俺一人分の魂だけでは無くて、もう少し追加があれば何とかなるってことだよな?」

 

「え、ええ……理論上は……そうですが」

 

「あ、俺と明月さんの二人って訳では無い。実は協力者が居るんだ」

 

「協力者ですか?」

 

「そうだ。待ってよ……ほい」

 

手を広げ、いつもの蝶を出す。

 

「鎌で切らないでくれよ。ちゃんと意思を持ってるから」

 

「え、ええ?その蝶がですか……?」

 

「ああ、っと、勝手に飛ぶな」

 

その証拠を見せようと、俺の周りをぐるぐる飛び回る。

 

「あー、もういいから戻ってくれ」

 

俺の肩に乗った蝶が溶けるように消える。

 

「と、まぁ、こんな感じだ」

 

「いえ……そう言われましても……私には、澤田さんがお一人で動かしている様にしか……」

 

「待って、それだと俺が超絶痛い奴にしか見えないだろっ!?」

 

「はい。ですから、そう仰っています」

 

「うわー、これは中々傷付くわぁ」

 

「そいつの言っている事は本当だ」

 

後ろからの声に振り返ると、閣下モードのミカドさんが立っていた。

 

「お、最後まで出てこなかったな」

 

「周囲の警戒で手が空かなかったからな」

 

「ミカドさん、本当なのですか?」

 

「ああ、先ほどの蝶には人としての記憶、魂を持ってる存在だ。最も、そこまでの力は無いがな」

 

「やっぱりミカドさんには分かるのか」

 

墨染さんのルートで赤い蝶を見抜いていたから可能だとは思っていたけどな。

 

「とまぁ、ミカドさんのお墨付きを頂きましたと、これで信じてもらえるだろ?」

 

「ええ、一応は……」

 

「俺一人では無くて、さっきの蝶の魂も使う。それでなら消費も減るし問題無いはずだ」

 

「……ですが」

 

「因みに、ミカドさんの意見は?」

 

「当然、我輩も反対だ。貴様の負担が大きすぎる。下手すればそのまま消えることになりかねん」

 

「うーん、やっぱり二人とも反対か。まぁ当然と言えば当然か」

 

「当たり前じゃないですか」

 

「でも、上の神様には既に了承を得てるんだよね」

 

「は……?貴様もしかして、あの土地神様にっ!?」

 

「あー違う違う。もっと上。その土地神様の直属の上司にだ」

 

「何を言っているのだ……?お前は……」

 

「この地に降りている卯花之佐久夜姫より更に上の神。そのお方からGOサインが出てるわけ」

 

「本気で言っているのか?そもそも、人が神と話せるなど……」

 

「いや、既にいるだろ?今は病室で待機してもらってるけど。流石にもっと上の神だと易々と此処に降りて来ることが出来ないから依代とか使っての会話がやっとだけどな」

 

「……なぜそこまで詳しいのだ」

 

「既に知ってるからな。可能だってことは」

 

「……わかった。本当かどうかは直接聞いて確かめることにする」

 

「ミカドさん……!?」

 

「上から許可が下りているのならっ!我々にはどの道止める事など出来ん」

 

「まぁまぁ、取りあえず病院へ行ってから話そう」

 

 

 

 

 

 

「事実じゃ」

 

病室で待っていた卯ノ花からそう告げられる。

 

「こやつは生意気なことに、妾を通して上とアポを取って、直接話を付けておる」

 

「そ、そうですか……」

 

「依代としては妾の付き人のルリを使ってな。全く、どこでそんな事まで知ったのか……」

 

めんどそうに扇子で肩を叩きながらため息を吐く。

 

「し、しかし……何があればその様なことに……!」

 

「さぁなそれに関しては直接やり取りをしたこやつに聞くがいい。妾はその場から離れておったからの」

 

その言葉を聞いて、ミカドさんと明月さんが一斉に俺を見る。

 

「あー……それは企業秘密という事で何とかお願いします」

 

あのチャラい神と会話まで持って行ったのは良いが、何を対価にすれば良いか分からず、向こうに決めて貰った。無論俺の頭の中は完全に読まれた。まぁそこはいい。仮にも神だ、それに対してあれこれ言わずに楽しそうに笑っていたからな。

 

対価は……俺の記憶を読むのとか他にも言われたが、些細なことだ。

 

「あの神がタダで許可するわけが無いからの、色々と嫌がらせな事を言われたに違いない」

 

「どうだろうな。確かに色々と死ねたけど……」

 

「……っ!?」

 

すまん、明月さん。そんな驚いた顔でこっちを……ああいや、だからと言って悲しそうな表情で見なくても……!

 

まぁ、今回のネックは二人が止めてくることだったからな。流石に上位存在の許可を無視してどうこうすることは出来まい!

 

「それじゃあ、早速始めるとしよう」

 

「ああ、そうだな」

 

「この場は妾が見るゆえ、二人は外で待ってるがいい」

 

「……分かりました」

 

「……はい」

 

出て行く際の寂しそうな目をした明月さんに罪悪感を感じるが……すまん、説教は後で幾らでも聞くから。

 

「では、始めるがいい。なに、引き際はこちらで見定める、お主は助けたいと強く想っているだけでよい。それにこの空間なら多少は妾の力が働いておる、滅多な事は起きん」

 

「分かった。滅茶苦茶心強いよ」

 

四季さんの横に立ち、自分の額を付ける。

 

前と同じ要領で……、それを徐々に送り付けて行く感覚を……。

 

「成功しているようじゃな。この調子で続けよ」

 

問題ないとの言葉を聞いて、少しずつ強めて行く。

 

どうか目を覚ましてほしい。四季ナツメの輝かしい未来を俺に見せてほしい……!お店で皆と笑いながら過ごす日々をっ!

 

「……む、少々力が強すぎな気が……」

 

こんな場所で終わらせてたまるか。この人には、もっと素晴らしい人生を歩んで貰わなければいけない!俺がその希望を信じた様に、この先もそれを見せてくれ!

 

「まてまて、少しは力を抑えろっ。自滅する気か!」

 

肩を掴まれ、後ろに引き戻される。

 

「うおっ!?ってもう充分なのか?」

 

「充分すぎる位になっ!全く、勢い余って全部送り込む気か……」

 

「あ……いや、目を覚まして欲しいってただ必死なだけで……」

 

「……周囲の力も吸い込もうとしておるし、やりたい放題じゃな」

 

「周囲の……?」

 

「気にせんでいい。こちらの話じゃ。どれ、様子を見てみよう」

 

確認するように、俺と四季さんを交互に見る。

 

「うーむ、少々送り過ぎな気もするが……まぁ大丈夫じゃろ」

 

「っ!?それじゃあ、四季さんは……!」

 

「その内目を覚ます。安心せい」

 

「マジか……良かったぁ……」

 

安堵するようにその場に座り込む。

 

「安心したか?」

 

「そりゃあな……」

 

「好きなおなごの為に暗躍するお主は見てて楽しかったぞ?」

 

「暗躍って……しかもその対象に自分も入ってるけど、それについてはいいのか?」

 

「神すらも利用するその度胸に免じて許してやろう」

 

「それは、なんとも……こ、うえいな……こと、……を」

 

安心したせいか急激な睡魔に襲われる。しかも、それに抗うことなくそのまま意識を手放してしまった。

 

「ふふ、今だけでも休むと良い」

 

意識を手放す直前、優しそうに呟く言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

「……眠りに落ちたか、無理もない。さて、ミカド達にも知らせないとな」

 

地面に座り、壁にもたれ掛かりながら寝ている達也を置いて、廊下へ出る。

 

「……っ!終わったのですか!?」

 

「今しがた、問題無く終わったぞ」

 

「……っ、良かったぁ……ありがとうございます!」

 

「よい、妾は頼まれただけじゃ。気にするな。それより奥で寝ている阿保をどうにかしてくれんか?」

 

「奥……?って、澤田さんっ!?」

 

「慌てんでも良い。力を使って疲れて寝てるだけじゃ」

 

「ああっ、すみません!……と、取りあえず、床はよろしくないので……」

 

達也の介抱は任せてよさそうじゃの。……さて。

 

「ミカド」

 

「はい」

 

「これにて、この一件は終わりじゃ。色々と文句や言いたい事はあるかもしれんが……」

 

「いえ、助力していただきありがとうございます」

 

「そこまで大したことはしとらん。精々場の安定を保たせたくらいしかしておらん。大半はあの男が行ったこと……それだけじゃ」

 

「……そう仰られるのであれば」

 

「……これからも、あやつを見るように頼む。無論こちらも協力はしよう」

 

「はっ、お任せください」

 

……異なる世界から来た人間ならざる存在。ミカドやその店だけでは無く、妾やルリのこと……そして千歳家の事も随分と詳しい所まで知っている様に見える。

 

今回はそれを使って、ルリを依代にあの上司まで降ろして……一体どんな取引があったやら。

 

「まぁ、退屈はしなさそうじゃの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くん、……さ……だく…」

 

……ん?誰かの声がする。

 

「さわ…くん、澤田君っ」

 

「ん、ぅん……?」

 

名前を呼ばれたと思い意識を覚まして顔を上げる。

 

「……あ、やっと、起きた」

 

「………、四季さん?」

 

「そう。おはよ、良い夢見れた?」

 

「現在進行形で良い夢というか……いや、夢じゃないんだが、夢の様な感じというか……起きたんだな」

 

「うん、少し前にね。澤田君が座って寝てるからビックリした」

 

「ああ、いや、これは……ていうか!起きたんだな!?」

 

「だからさっきも言った」

 

「そっか……そうだったのかぁ……いや、喜んでる場合じゃないな」

 

四季さんが無事起きたことに今すぐにでも喜びたいけど……。

 

「まずはナースコールで呼ばないとな……てか、あれ?皆は?」

 

「皆って?ワタシが起きた時には澤田君しか居なかったけど?」

 

「え、ええ……?」

 

スマホを取り出すと、メッセージが入っていた。

 

『妾の扇子を貸しておいてやる。これなら人目に付くことはない』

 

「扇子……?」

 

足元を見ると、そこにはおいて行ったであろう扇子が置いてあった。

 

「澤田君?どうしたの?」

 

「ああ、いやちょっとな……」

 

冷静になってみれば明け方に病室にいる……これはやばい。

 

「正直、四季さんが起きた事を今すぐにでも喜んで泣きたいくらいだけど……!急いでこの場を立ち去らないといけない……!」

 

「え?……あ、そっか。居るのおかしいもんね」

 

「ああ。本気で残念だけど、一旦出直すよ……」

 

「分かった……あ、お店は?どうなってるの?」

 

「大丈夫、四季さんが居ない間はしっかりとこなしている。テストだって、頑張って作ったのをちゃんと渡しているからな」

 

「そうなんだ、良かったぁ……というか、どのくらい経ってるの?」

 

「2日とかその位だな」

 

「そんなに……っ」

 

「ああ、マジで心配した。目の前で倒れた時は気が気じゃなかったよ……って、これはまたでな?」

 

「あ、うん。また……」

 

ナースコールを押して、急いで病院から出て行く。

 

「良かった……本当によかったぁ」

 

喜びをかみしめながら、扇子を貸してくれたお礼を送っておく。

 

『こんな明け方に送ってくるでない!後で回収するから持っておれ』とお怒りの返信が来た。……そうだな。今、朝の5時過ぎだしな。

 

その後は、お店へ戻りミカドさんと明月さんにも伝えた。お二人はそれを聞いて安堵と喜び、一安心……とは行かなかった。

 

明月さんからのありがたいお怒りの言葉……それが終わると次はミカドさんからの。それが終わったかと思うと次は更に明月さんからの愚痴をすっごく言われた。一通り落ち着いてから、俺が持っている蝶を回収して、神の元へ還しに行った。

 

「言いたい事はまだあるが……今日も仕事がある。一旦帰ってくるが良い」

 

時間を見ると、涼音さんと高嶺が来るまで残り40分ほどだった。お説教が超長かった……。

 

家へ帰り、シャワーを浴びて支度を整え、もう一度お店へ向かった。

 

朝の準備の二人にも同じ様に伝え、そのままお店のグループにメッセージを送った。皆同じように安堵し喜んでくれた。

 

「そろそろお昼だね。休憩、先に行って来て良いよ」

 

「良いですか?涼音さんから先でも大丈夫ですよ?」

 

「いいよ、それより早くお見舞いに行ってあげて。我慢してるのバレバレだから」

 

「……すみません、表に出したつもりは無かったのですが」

 

「そこまでじゃないよ。でも、いつもより落ち着きがない様に見えたからね。それなら早く行って安心させた方が良いでしょ?」

 

「……ありがとうございますっ!」

 

「いいよいいよ、行っておいで」

 

「すみません、時間内には戻りますので!」

 

涼音さんの許可を得たので急いで準備して病院に向かう。

 

「はぁ、はぁ……、ふぅ……」

 

病室まで急ぎ、息を整えて中へ入る。

 

「……あ、澤田君……」

 

「約束通り、お見舞いに参上しました」

 

「ごめんね、わざわざお昼に抜け出してまで……」

 

「好きで来てるだけだがら気にしないでくれ」

 

「……うん」

 

「それで、あれからどんな感じ?」

 

「あー……深山先生が来て、色々診察?してた。聞いた感じだと問題は無いって、一週間くらいは様子見る事にはなりそうだけど……」

 

「そうか……そうなら良かった」

 

「だから、その間お店とか色々……」

 

「大丈夫、四季さんがいない間ぐらいこっちで何とかしておくから。しっかり体を休めてくれ」

 

「……うん、ありがとう」

 

「……あー、それで、一つ聞きたいんだが良いか?」

 

「ん?なに?」

 

「ほんとに身体の調子とか大丈夫か?なんかいつもより違和感があるとか、前と違う点っていうのかな……?」

 

「身体……?特にそう感じるのは……ないんじゃないかな。ってよく分からないけどね」

 

「そうか、なら良かった」

 

魂の譲渡での後遺症とかは無さそうだな。

 

「何かあるの?」

 

「いや、念のためだ。特に無さそうなら大丈夫」

 

「そういえば、テストの方は平気そう?」

 

「ああ、そっちは高嶺にお願いしてるよ。と言ってもあとは本番形式で解いて採点を繰り返すだけだけどな」

 

「そっか、それなら大丈夫そうかな」

 

「他に気になる事とかあるか?」

 

「……うーん、ワタシが倒れてた2日間って何かあった?」

 

「……これと言って、皆が心配してたとか?」

 

「澤田君は?」

 

「そりゃ当然心配したぞ?」

 

「それは嬉しいけど、聞きたいのは何してたかってこと」

 

「……俺か?」

 

「うん」

 

「お見舞いとか、お店で働いたりとか、あとは四季さんの魂をミカドさんに見てもらったりとか?」

 

「ワタシの?」

 

「倒れたのが魂関連じゃないかって気になってな。まぁ、あまりあてにならなかったけどな」

 

「ふーん、そうなんだ……」

 

「四季さんはその2日間は?」

 

「寝ていたに決まってるでしょ、なにそれ嫌味?」

 

「小粋なジョークだよ」

 

それなりに元気は戻って来てるし、問題は無さそうかな?

 

それから、時間になるまでお喋りを続け、お店へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

澤田君が病室を出て、一人になる。

 

「……ッ」

 

彼が居なくなったことに寂しく思うのと、何故か突然恥ずかしくなり顔が赤くなる。

 

「……おかしい」

 

それもこれも、きっと寝ている時に見た夢のせいだ。そうに決まってる。

 

「……ワタシを助ける為に……あんなに」

 

不思議な夢を見た。

 

最初は目が覚める前に聞いた声だった。深い暗闇から誰かが必死に呼んでいる様な声だった。次に見たのが……さ、澤田君がワタシを助ける為に必死に奔走している夢。

 

「……おかしな夢」

 

明月さんと対峙している光景や、誰かと取引?みたいなのをしている夢。そして、病室でワタシを……。

 

「……~~ッ!?」

 

自然と手がおでこに触れる。

 

「ま、まさか、ね……」

 

夢だとすればワタシはとんでもない夢を見ていたってことになる。

 

「さ、澤田君が……」

 

まるで彼の気持ちが流れ込んで来るみたいだった。倒れる前のあの場所で言われた時よりももっと強烈な感情が……。

 

「ッ!?~~……はぁ」

 

お、落ち着こう。あれは夢だ。そうに決まってる。いや、そうだとしても自意識過剰ってレベルじゃないっ!

 

「……でも」

 

不思議と嫌じゃない。むしろ、温かくて、心に染み渡るような心地良さまであった。

 

「……どうしたんだろ、ワタシ」

 

次にどんな顔して会えばいいのだろうか……。

 

「……はぁ、水飲も」

 

熱くなった体を冷まそうと、飲み物を手に取った。

 

 

 






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