喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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……食べ物回です。うな重、猫缶、焼肉……。




第66話:美味なる物

 

それから一週間後に、無事に四季さんは退院することが出来た。退院後にお店に来たが、今日は客として純粋にケーキや紅茶を楽しんでいた。

 

その様子を見て皆も安心した表情で仕事に取り組んだ。

 

「お疲れ様」

 

「そちらもお疲れ。改めて退院おめでとう、元気な姿が見れて安心出来たよ」

 

「うん、ありがとう。それで、今から行く?」

 

「勿論、退院祝いで美味い物でも食べに行こうぜ」

 

「場所は、駅で良いの?」

 

「ああ、駅内に鰻があるらしいからな。折角だし高いもんでも食べよう」

 

「ウナギか~、食べた事なかったなぁ」

 

「白焼きとかもあるけど、濃い物食べたいだろ?」

 

「ん、味のあるものを求める」

 

「なら好都合だな」

 

店を出て駅へ向かう。フードエリア内にを歩きながら目的地へ向かう。

 

「……道中のラーメンの匂いも中々だな」

 

「わかる。でもウナギには勝てない」

 

「その内ラーメンとかも食べに来るのもありだな」

 

「場所は……地下にあるみたいね」

 

「匂いが籠ってそうだなぁ……」

 

歩いていると、目的の店を見つける。

 

「待ち時間は……20分そこらか」

 

「それじゃあ並んで待つとしますか」

 

 

 

 

 

普段食べない鰻を食べ終え、食後に……というわけではないが、四季さんの誘いで3度目のバーへやって来た。

 

「はぁ~……食べた食べたぁ……」

 

「満足していただけたかな?」

 

「そりゃもう、超満足した。……でも良かったの?ワタシの分も出して貰って」

 

「当然。今日は退院祝いだし、誘ったのは俺だしな」

 

「ありがと。それならここの会計はワタシが出そうかな?」

 

「自分が誘ったからか?」

 

「そう。と言ってもそっちとは金額が違うけどね……」

 

「こういうのは気持ちが大切なんだよ。それに……金額が届かないとはまだ分からないだろ……?」

 

「どんだけ飲むつもり?」

 

「そりゃ浴びる程にだな!今日はめでたい日だし!」

 

「ワタシの次はそっちが救急車で運ばれそうね……」

 

「急性アルコール中毒とか笑えないな」

 

「ほんとにね」

 

「……今日、退院してどうだった?」

 

「どうって?」

 

「昔と違って嬉しかったか?」

 

「……そうね、皆が笑って、"おかえり"って言ってくれたのは……思った以上に嬉しかったかも」

 

「なら良かった」

 

「ていうか、さも当然みたいに人の過去を話さないでくれます?」

 

「すまん、デリカシー無かったな」

 

「まぁ、良いんだけどね。今更だし」

 

呆れるように笑いながら、手に持ってる飲み物を飲む。

 

「……無論、ノンアルコール、だよな?」

 

「大丈夫。ちゃんと今日は飲んでないから」

 

「そうか、なら良いけど」

 

「そっちは飲んでるの?」

 

「ああ、今日の酒は人生で一番美味しい気分だ」

 

「ワタシが退院したから?」

 

「ご名答。これならいくらでも飲めそうだなっ」

 

「吐いても介護しないからね」

 

「その時は道端にでも放置して帰ってくれ」

 

「流石にそこまではしないけど……」

 

「……もしかして、俺、お持ち帰りされるのかっ!?」

 

「立場が逆。するわけ無いでしょ」

 

「残念だ……」

 

「そこで残念そうにするのはどうなの……?」

 

「明日からは大丈夫そうか?大学とか店とかは」

 

「多分ね。大学の方は誰かからノート借りてなんとかする。お店の方も出るつもり」

 

「了解」

 

それなら問題無さそうだな。

 

「ねぇ、澤田君……」

 

「どうした?」

 

「……助けてくれて、ありがとね?」

 

「……俺がしたのは精々、最初に救急車を呼べたことくらいだな」

 

「……わかった。そういうことにしといてあげる」

 

「もしかして、アルコールでも入ってるのか?」

 

「入ってるわけ無いでしょ」

 

もしかして、明月さんとかから聞いていたりするのか?けど、あまり話さないで欲しいって口止めはしておいたのだが……。

 

その後は、少し飲んでから店を出て、四季さんを家まで送った。

 

「……これで、ようやく戻ってきたのかな」

 

明日からはいつもの日常に戻れることに安心しながら、帰路に着く。

 

「……あ」

 

部屋の前に着くと、そこには耳と尻尾を生やした少女が立っていた。

 

「……忘れていたな?」

 

「………」

 

「ルリへの報酬を……」

 

そうだった。前に依代として体を貸してもらった際に報酬が……。

 

「……もしかして、待っててくれたのか?」

 

「姫様と、一旦帰っていた」

 

「あ、あ~……なるほどぁ、それでこの1週間は来なかったのかぁ……」

 

「貴様は、このことは今日まで忘れていたな?」

 

こちらを向き、威嚇の体勢を取る。

 

「……す、すまん……。色々と優先順位があって……さ」

 

「……そうか」

 

姿勢を低く下げ、こちらを睨む。

 

「なら、次は忘れないようにしないとな」

 

あ、これ、テレビとかで見たことがある。得物を仕留めにかかるときの姿勢だ……。

 

そんな呑気なことを考えながら現実逃避した。

 

そしてその夜、マンションに男の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。二名様ですか?こちらの席へどうぞ」

 

あれから数日経ったが、四季さんの容体は安定している。ミカドさんにも確認してもらったが、問題無いとのこと。

 

店で楽しそうに働いている姿を見て自分の作業に戻る。

 

共通ルートのテスト期間も終わり、この辺りから個別へ入る。高嶺が明月さんとの交流を深める最初の一歩は、スマホの購入である。

 

「そういえば君達2人は、今年のクリスマスシーズンは平気?」

 

「俺は平気ですよ」

 

「こっちも特に予定は……。元々お店の為に空けるつもりですし」

 

「2人揃って、何ともまぁ寂しい返事を」

 

「涼音さんもバリバリに働く予定ですよね」

 

「そりゃね。一応直前の23日はお店も定休日だけどさ。24日と25日は地獄確定だね」

 

「それなら尚の事入らないといけませんね」

 

「彼女とかいるならどちらか片方くらいは休みが欲しいかなって思ったけど、杞憂みたいだね」

 

「高嶺は、誰か誘おうとか考えてないのか?」

 

「俺ですか?」

 

「ほら、気になる子とか。お店にさ」

 

「だね。彼女はいなくても気になる子とかはいたりするんじゃない?勇気出して誘ってみたら?」

 

「いや、けど……なぁ」

 

「クリスマスみたいに世の中浮ついた感じになると、女の子でも独り身が応えるからね。意外とOKされることもあるもんだ」

 

「それって都市伝説みたいなもんじゃないですか?」

 

「都市伝説って……」

 

この調子だと、やっぱり確定とかは無さそうだな……。ここは一肌脱ごうではないか。

 

その日の営業を終え、片付けとなった時に高嶺を呼ぶ。

 

「なぁ、高嶺さんよ……さっき涼音さんとも話していたけど、本気で気になる子とかいないのか?」

 

「どうしたんですか?急に……」

 

周囲に聞こえない様に小声で話す。

 

「いや、お店のことで忘れてるかもしれないけど、キミの目的だよ」

 

「目的……あっ」

 

「思い出したか。どうしてこのお店で働くことになったのかを」

 

「そうでした。すっかり忘れてました」

 

「だと思った。最初に交わしたように、もし気になる子が居たら相談に乗るし幾らでも協力する。だからいつでも相談待ってる」

 

「ありがとうございます。頑張ってみます」

 

「了解」

 

高嶺を解放し、今度は明月さんへ声をかける。

 

「明月さんや明月さんや」

 

「どうされたのですか?おじいちゃんみたいな声を出して……」

 

「ちょっとお話をね」

 

「なんでしょう」

 

「四季さんの件が終わって落ち着いたから、そろそろ高嶺の方に集中しようかなって思っててさ」

 

「何か進展が……?」

 

「直ぐにって訳でもない。けど、本人がそれをさっきまで忘れていたんだよなぁ……」

 

「それは……なんともまぁ……」

 

「だから、明月さんからも一言言って欲しい。あとは悩みとかあるかとかついでに聞いといて欲しい」

 

「私が、ですか?」

 

「そりゃあな、担当だし、明月さんになら高嶺も打ち明けやすいだろ?」

 

「……そうですね、分かりました。この後聞いてみます」

 

「それと、明月さんそろそろスマホとかの連絡手段を持った方がいいぞ」

 

「……あ~……やっぱりそうですか?」

 

「この前、直接連絡出来なくて不憫に思ったし、持った方が良いって俺からのアドバイス。尻込みするのは分かるけどさ」

 

「私も持った方がよろしいのでしょうか……?」

 

「ああ、一緒に行って教えたい所だが……すまん、色々と動かないといけないのがあってさ。他の人にお願いしてほしい」

 

「分かりました。私の方は気にしないで下さい」

 

「この後、高嶺と相談するんだし、そっちも言ってみたらどうだ?スマホを買いたいって」

 

「……そうですね、私ではさっぱりですし一度聞いてみます」

 

「明日定休日だしな」

 

「そうですね」

 

よし、これでフラグは立った……と思いたい。

 

満足気に片付けを終わらせ、帰りの支度をしていると、四季さんに声をかけられる。

 

「澤田君、この後暇?」

 

「暇だけどー?」

 

「ちょっと、一緒に帰らない?」

 

「……了解、丁度俺も四季さんに用があった所だ」

 

「そう?なら良かった」

 

店を出て歩き始める。

 

「それで、俺へ何か用だった?」

 

「別に大した用事じゃないんだけど……高嶺君と明月さんとひそひそと話していたから何話していたのかなって」

 

「なるほどね。丁度俺もその話をしようとしてたところ」

 

「そうなんだ。長くなりそう?どっか寄る?」

 

「そうだなぁ、俺の部屋で話すか。あまり他の耳に入れたくないし」

 

「了解。それじゃ行こ」

 

……なんだか若干上機嫌に見えるが、気のせいだろうか?声が1トーン上に思える。

 

何か良い事でもあったのだろうと考えながら、自分の部屋に上がる。

 

「お、お邪魔します……」

 

「どうぞどうぞ、いつも通り何もない場所だけどな」

 

暖房を入れ、冷蔵庫から飲み物を入れてテーブルに座る。

 

「ほい、お茶だけど」

 

「ありがと」

 

「さてと、最初に四季さんが気になってる部分から解説していこうか」

 

「うん、お願いします」

 

「前にも話しているけど、二人をくっつけようと考えている。それで、今回高嶺には明月さんのスマホを買って貰おうかと思って、話してたんだ」

 

「へぇー、遂に明月さんも文明人に……」

 

「黒電話時代の人だしなぁ……ってそれは置いといて。明月さんには明日定休日だし早速行ってみたら?とは言ってる。ついでに高嶺が本懐を今日の今日まで忘れていたからそれの相談にも乗っておいてくれってな」

 

「なるほど、それの流れでスマホを買いに行こうって話に……」

 

「その通り。これがさっきの詳細」

 

「凄い策士……って褒めたい所だけど、澤田君なら当たり前か……」

 

「褒めてくれても……良いんだぜ?」

 

「はいはい、えらいえらい」

 

ククク、想定通りの言葉だな。むしろ普通に褒められるよりそっちの方が俺にはご褒美だぜ?

 

「と、言う事でこれで晴れて明月さんも文明人となりました。拍手!ってお話」

 

「これがワタシの方で、そっちの方は?」

 

「……割と真面目な話になるから他の人には秘密でな?」

 

「うん、任せて」

 

「近いうちに、四季さんや高嶺が通ってる大学で、蝶が集まってる人と高嶺が会うことになる。涼音さんの弟さん経由でな」

 

「蝶を……」

 

「確か名前は野中君だったはず。内容は……好きな人がいるけど、自分に自信が持てなくて意気消沈的な悩みだったかな?」

 

「そんなことでも蝶って集まってくるんだ……」

 

「いや、これがな、恋とか痴情のもつれが結構蝶を集める要因になりかねないんだよなぁ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、そう言ったことで人を刺したりとかのニュースってよく見るだろ?甘く見ない方がいいな」

 

「確かに……」

 

「可能なら、四季さんには大学での事を頼みたい。流石に俺が乗り込むわけにはいかないからな……」

 

「わかった。何をしたらいいの?」

 

「まずは大学で蝶が飛んでないか、軽くでいいから気に掛けて置いてほしい。それと、高嶺に野中君のことで相談があったら可能なら同席してほしいかな?」

 

「ワタシが……?」

 

「行けるか分からないけどな。男同士の会話だし、女子が居ると話しづらいかもしれないけど、女の立場からもアドバイスが出来るかもって話せばワンチャン……?」

 

「出来るか分からないけど……努力してみる」

 

「最悪、後で高嶺から詳細を聞ければ良いだけだし、あまり深追いはしなくても平気」

 

「うん、了解」

 

「その事件が無事解決出来たら……続きはその時にでもまた話そうか」

 

「その……野中君?が相談するのって何時とかは分かったりする?」

 

「あ~……確か高嶺と同じ講義を受けてる日で……室内に蝶が入り込んで……居たはず。多分だけど」

 

「それなら大分絞り込めそうかな……週一だし」

 

「俺からの話は以上です。何か質問などはありますか?」

 

「ん~……今の所は大丈夫かな。気になったら後でまた聞くことにする」

 

「おっけ、そんじゃこの話は終わり!」

 

それから四季さんと何気ない話で盛り上がったが、時間が遅くなりそうだったので、家まで送って帰路についた。

 

 

 

 

 

 

次の日の定休日、俺は先日ネットで購入した高級品を持ってお店まで来ていた。

 

「さて……ミカドさんいるかー?居る閣下ー?」

 

ミカドさんを呼びながら暗い店内を歩き、休憩室へ入る。

 

「……居ないか」

 

外に出て、奥の間借りしてる階段下へ向かう。

 

「閣下ー?閣下ー?この中にケット・シー界の公爵様はおられませんかー?」

 

すると、上から降りてくる音が聞こえてきた。

 

「なんだ、貴様か、珍しいな。こんな時間に……我輩に用か?」

 

「その通り。色々手土産もあるぞ」

 

「手土産……?」

 

休憩室へ戻り、お互いに席に座る。

 

「それで、何用だ?」

 

「その前に、はいこれ」

 

手に持っていた紙袋の中身を出す。

 

「……これは?」

 

「閣下へ俺からのプレゼント。日頃お世話になってるからな、そのお礼」

 

机の上に中身を並べる。

 

「好みとかよく分からないから色々と買ってみた。これが、結構お高い猫缶、こっちがチュール、あとこれが少しお高いカリカリだな」

 

「これを、我輩に……?」

 

「ああ、口に合うと嬉しいけどな」

 

「……おぉ……!」

 

目を見開き、嬉しそうに口元が緩んでいる。

 

「早速どれか食べてみるか?合うかどうか分からないし……」

 

「そ、そうだなっ、我輩の口に合うか確認は重要だな!」

 

「そんじゃ、まずはこの猫缶から……」

 

4つあるうちの一つを開ける。確か4つで3500円位したやつだ。これらの中で一番値が張った。

 

「ほい、どうぞ」

 

「うむ、感謝する……」

 

恐る恐る、開けた猫缶を口にする。

 

「……ッ!?な、なんだこの旨さは……!!マグロだけではなく違う種類の魚が……!」

 

「あーなんか鯛とかも入ってた気がする」

 

「それだけではない。他にもささみやカツオだろう……4種類の魚類が絶妙なバランスで作られている……どれかが喧嘩している訳でも無くそれでもってそれぞれの味を出し、調和している……いや、更に上へステージを上げている」

 

「つまり、美味いってことだな」

 

「ああ!我輩が気に入るほどだ!」

 

「なら良かった」

 

急に食レポを言い出すくらいだ。相当気に入ってくれたのだろう。……マントとかが破れたりはしなさそうだけど。

 

「……ふむ、至福の一時であった……感謝する」

 

「残り三缶あるから、好きな時に食べてくれ……お次は……チュールでも行っとく?」

 

「チュール?その棒状食べ物か?」

 

「ああ、ペースト状の食いもんだが……一説によれば、あまりの旨さに理性が飛ぶらしい」

 

「そ、そこまでか……っ!?」

 

「この道の話によれば、猫界の薬物とも言われる位に食べた者を虜にするそうだ……」

 

「な……なんと、その様な危険な食べ物があるのなら、公爵として確認せねばならないな……!」

 

「その通り。秩序を守る立場として見過ごせないよなぁ?」

 

先端の封を切って差し出す。

 

「では……ご賞味あれ」

 

「……いただこう」

 

口を近づけ、一口、チュールを食べる。

 

「ッ!?……っ!……!!」

 

驚いたのも一瞬、喰らい付くようにチュールを食べ始める。

 

「ーーッ!なんだっ!……このっ!やみつきになるような……ッ!食べ物、は!」

 

そのまま狂ったようにチュールを食べ切る。……ほんとにそうなるんだな。

 

「……はぁ、はぁ……なんて危険な食料なんだ……」

 

「どう?飛んだ?」

 

「公爵である我輩でなければ危うかっただろう……今すぐにでも全てのチュールを規制して回収すべきだ……!」

 

割と理性無かったと思うが……それに、それって独占なのでは?

 

「全く、人間とは時折危険な物を生み出すとは聞いていたが……なんて業の深い物を……」

 

「……ああそうだな」

 

それからしばらくの間、ミカドさんの精神を落ち着かせて再び開始した。

 

「残りはカリカリだけど、どうする?」

 

「いやっ、もう一杯一杯だ。それは後ほど味わおう」

 

「了解、そんじゃこれらは渡しておく……明月さんには内緒でな?」

 

「分かっておる。これは個人で楽しむとしよう」

 

「缶詰を開けて欲しい時は呼んでくれ」

 

「恩に着る」

 

そそくさと袋を受け取り、横に置く。

 

「さて、我輩への土産も貰ったことだし、本題へ入ろう。用件はなんだ。わざわざ個別で来たのだ、大事な話なのだろう?」

 

「流石ミカドさん、察しが良い」

 

「栞那から貴様が忙しくなるって聞いてすぐにこれだ。嫌でも察する」

 

「それもそうか」

 

「それで、栞那にも話せないことか?」

 

「……そうだな、明月さんだけには話せないことだ」

 

「聞こう」

 

「先に言っておくけど、今から話す内容は四季さんにも協力してもらうことにもなってる」

 

「最近二人で帰ることが多かったのはそれでか」

 

「そんな感じ。んでだ、ミカドさんと明月さんには以前に、高嶺の幸せの為に色々と動いているって話したよな?」

 

「ああ、そうだな」

 

「実は隠して言って無かったんだが、俺は高嶺だけの幸せの為に動いていた訳じゃないんだ」

 

「状況から察するに、栞那のことか?」

 

「ああ、高嶺だけでは無く、明月さんの幸せを叶えたいって考えている」

 

「栞那の願いは、高嶺昂晴が無事に幸せになることだ。それの何が違うというのだ?」

 

「そうだな。その通りだ。これまではそうだった」

 

「……変わるというのか?」

 

「変わる……というわけではないが、高嶺の幸せの為に明月さんが幸せになってもらうというか……」

 

「どういう意味だ?」

 

「すまん、まだハッキリと確定したわけじゃないから詳しくは話せない感じ」

 

「……不確定な情報でどうなるかわからないということか」

 

「ほんとすまんっ、ただ、今後そのせいで色々と状況が動くって伝えたかっただけ」

 

「……わかった。前もって話に来ただけでもありがたい」

 

「ミカドさんには色々と心配と迷惑をかけることになるかもしれないが……出来れば許してほしい」

 

「……一体何をする気だ?」

 

「いや、大したことじゃないから。別に()()何かするわけでもないし」

 

「可能な限り、事前に連絡をしてもらえると助かるのだが……」

 

「するする、させていただきますとも」

 

「それなら良い」

 

すいません……かなり負担を強いるかもしれないが……。

 

ミカドさんへの申し訳なさを感じていると、スマホの通知が鳴る。

 

「……ん?」

 

手に取ると、一度ではなく複数回鳴る。

 

「……あー、焼肉か。もうそんな時間か」

 

「焼肉?……何かあるのか?」

 

「ああいや、今日高嶺と明月さんがスマホ買ったじゃん?その帰りに駅前を歩いていたら墨染さんと火打谷さんと偶然会って、初スマホ記念にグループとか作って写真を共有してるところ」

 

画面を開き、ミカドさんへ見せる。

 

「なるほど、店の写真か……む、我輩も居るな」

 

「そうそう、そこに偶々涼音さんが来て、更に四季さんまで合流。そんで折角だし皆で焼肉に行こうって話が出るわけ」

 

「そんな偶然がありえるのか?」

 

「さぁ?生活圏が近いしあり得るんじゃないか?多分、俺にも来ないかって電話が来ると思う」

 

……これで来なかったら流石の俺でも人間不信になるぞ。

 

少し待つと、スマホに着信が入る。良かった……ハブられてなくて……。ちょっとドキドキしたぞ。

 

『あ、もしもし、澤田君?』

 

「はい、澤田ですよ、もしかして皆で焼肉でも行くのか?」

 

『え、……うん、そうだけど?だから一緒にどう?』

 

「了解、今お店で閣下とお喋りしてたからすぐに合流可能だ」

 

『そう、それじゃあ駅前の時計台で待ってる』

 

「はいよ」

 

通話を切る。……時計台ってどっちのだ?まぁ、行けば分かるか。

 

「と、いう事で、お食事のお誘いが来たので行ってまいります」

 

「ああ、楽しんで来るといい」

 

「こっちは焼肉で楽しむから、ミカドさんもその土産で楽しんでくれ」

 

「……もしかして、その為に買ったのか?」

 

「日頃のお礼ってのはほんとだ。今日がタイミング的に良かっただけ」

 

「そうか、では有難くいただこう」

 

「是非楽しんでくれ」

 

 

 

 

 

「どう?達也は来れそう?」

 

「はい、今お店の方にいるらしいので直ぐに合流出来そうです」

 

「お店に?定休日なのに?」

 

「澤田さん、お店に何か用事があったのでしょうか?」

 

「どうだろ、ミカドさんとお喋りしていたとは言っていたけど……」

 

「休日までお店にとは、社畜魂が染みついてるねぇ……」

 

「達也先輩も入れて7人ですね!それじゃあ栞那さん、予約しましょう。予約!」

 

「あ、はいっ。お願いしますっ」

 

「四季さんは何か聞いてたりするのか?」

 

「ううん、特に何も……」

 

「個人的な悩みとか?」

 

「それよりかは、お店のことの方が可能性として高いかなぁ?」

 

「確かに」

 

「真面目だねぇ。キッチンとフロアの両立可能だし、教えたこともすぐに覚えてミスもしない上に仕事にも熱心とか……どこであんな人材捕まえてきたんだい?」

 

「あー、どこでしょうねぇ……明月さんとミカドさんから紹介されたので」

 

「御帝さんからかぁ、それならなんか納得」

 

「しかも経験者ですもんね」

 

「それはデカい。新しく開いたお店に経験者ってかなり重宝されるし」

 

「お陰でメニューとかマニュアル作成がスムーズに進められましたよ」

 

「私も初日の客の予想では助けられたしなぁ……」

 

「先輩方!無事予約が取れましたよ!」

 

「お、でかした。あとは残りの1人を待つのみだね」

 

 

 

 

 

 

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押してください。それでは失礼します」

 

皆と合流し、お店へ入る。

 

「すまん、高嶺、奥へ詰めてくれ」

 

「さってとー。何注文しよっかなー?やっぱり、取りあえず生かな」

 

「お止めなさい」

 

「そんな真剣な顔してなくても、冗談ですよ冗談。ウーロン茶にします」

 

「あ、わたしもウーロン茶で」

 

「私も。今日はソフトドリンクにしとくか」

 

「ワタシは……何か炭酸を……あっ、ラムネ懐かしい」

 

「俺は……緑茶にしとくかな」

 

皆が席へ座ってメニューを開き、各々の飲み物を頼む。

 

「私は……同じく緑茶でお願いします」

 

「んー……俺はジンジャーエールとかにしておこうかな」

 

「了解、取りあえず、適当にたのんじゃっていいの?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「それじゃあ、タンとハラミと……」

 

「カルビをお願いします!あと白米もっ」

 

「愛衣ちゃんって、ガッツリいくよね」

 

「折角焼肉に来たんだもん。脂の甘みを味わっていかないとね!」

 

「……そうね。滅多に来ないんだから、ワタシもカルビとご飯食べよ」

 

「俺も白米食べようかな。あと、焼きしゃぶロースとナムルも」

 

「お、良いねぇナムル」

 

「ツマミとかに最高ですよねぇ……」

 

「希ちゃん希ちゃん、このカルビと上カルビってやっぱり違う?」

 

「どうだろ?こっちの方が高いし、やっぱり美味しいんじゃない?」

 

「それじゃあ、こっちにしよっと!」

 

「ご飯他に食べる人いますか?」

 

「私も頼もうかな」

 

「わかりました」

 

「栞那さんは、何か食べたいものってあります?」

 

「え?そうですねぇ……この、いちぼってなんですか?」

 

「尻の先の方のお肉だね。それなりに、希少な部位だった気がする」

 

「取り敢えず、頼んでみればいいんじゃない?」

 

「それでは、このいちぼをよろしくお願いします」

 

「高嶺は何か頼まないのか?」

 

「えー、そうですねぇ……」

 

「安心してくれ。俺も半額出そう。女性陣には奢りで野郎二人で割り勘だ」

 

メニュー表で顔隠しながら、高嶺にこっそり伝える。

 

「……それは流石に悪いですよ」

 

「気にするな。本当は年長の俺が払いたいが……ここは間を取って半分ずつと行こう」

 

「……恩に着ます」

 

「だから遠慮せず楽しんでくれ。で、何食う?」

 

「それじゃあ、この壺漬けってのが気になりますね」

 

「おっけー」

 

 

 

 

 

「お待たせしましたー」

 

店員から肉が運ばれ、テーブルに次々と並べられていく。

 

「それじゃあ焼いていきますね」

 

「じゃんじゃん焼いちゃって、まだ次が来るからさ」

 

トングを取って墨染さんが肉を焼いてく。

 

「くはぁ~……肉が焼ける音と匂いだけで満たされるぅ」

 

「タンと、ハラミと……」

 

「あ、希ちゃん、このお肉貰っていい?」

 

「私もいただくね?」

 

「どうぞどうぞ。ナツメさんと栞那さんもどうぞ食べて下さい」

 

「ありがと、いただくね」

 

「ありがとうございます」

 

「高嶺、あの肉は俺たちの領土だ。奪わせるんじゃないぞ?」

 

「任せて下さい。死守してみせます」

 

「あんたたちは何してんのさ……」

 

「戦争が起きない為に領土を主張しております!少佐!」

 

「ふむ、ではその領土は没収だ」

 

「そんなぁ~……」

 

「俺たちの……エデンが……ッ!?」

 

「俺はここに第一次大戦を宣言するぞ!」

 

「はいはい、こっちの肉を分けてあげるから。大人しく食べて」

 

「おぉ……女神よ……」

 

「これが撃墜王の実力……見事に陥落しちまった……!」

 

「誰が女神か、あと、その名で呼ぶなっ」

 

「あっ、このカルビ美味しいですね」

 

「でしょ~?カルビを焼いてご飯に乗せる。このオリジナル焼肉丼がたまらんのですよ~」

 

「たしかに。肉汁とタレが白米に染みて……良い感じの味付けになりますね」

 

「これが焼肉の醍醐味。奇跡的組み合わせ、マリアージュ!」

 

「マリアージュ……あっ、写真写真」

 

新しく買ったスマホでの写真撮影に夢中のようだ。

 

「お肉を焼いただけなのに美味しいんだよねぇ……」

 

「網での焼き具合は家で出すのは難しいですからね。あっと、焦げちゃう」

 

「昂晴君、はい」

 

「ありがとう、希」

 

「ナツメさんも、どうぞ」

 

「高嶺二等兵……!貴様、敵から情けをもらうとは……!裏切ったなっ!?」

 

「情けって……欲しかったらワタシの分食べる?」

 

「敵国からの情けなど受けんっ、俺は一人でも抗ってみせるぞ……!」

 

「お好きにどうぞ。それより、墨染さんも肉の世話ばっかりやかなくていいから食べて食べて」

 

「焼き加減とか気になって、勝手に動いちゃうんですよ。美味しい一瞬を逃すのは大変ですから。わたしもちゃんと食べてますから気にしないで下さい」

 

「そう?それなら……。……はぁ……、言ってみて良かった……美味しい」

 

「高嶺二等兵、これを貴様にくれてやろう」

 

「……これは?」

 

「我が国の秘伝の肉だ。白米と合わせて食ってみろ。……飛ぶぞ?テイクオフだ」

 

「ありがとうございます……っ!?……うまっ!」

 

「旨いよな!このロース最高だろ」

 

「先輩達なんですか?その食べてるやつ」

 

「火打谷さんも食べる?」

 

「良いんですかっ!?食べたいです」

 

「その代わり……そちらの国の機密情報が条件だ」

 

「な、なんと卑劣な……しかしっ、お肉には……背に腹は代えられない……!」

 

「ここらで一人懐柔するのも一興よ……ほら、食うてみ」

 

「いただきます!……うまっ!滅茶苦茶うまい!何ですかこの肉とタレは!?」

 

「ククク……堕ちたな」

 

「へぇーそんなに美味しいの?ワタシも食べてみようかな?」

 

「おっと、四季さんもこれを食べるかい?それなら……」

 

「あ、ううん。自分で注文するから平気」

 

「ガッデムッ!!」

 

「うん、こっちのお肉も美味しいです」

 

「栞那さん的には、どこの部位が美味しかったですか?」

 

「どれも美味しいですけど……しいて上げるなら、タンが好みです」

 

分かる。

 

「どうします?追加で注文とかします?」

 

「食べたいですけど……食べ切る自信がないので……」

 

「へーきへーき。若い男の子が居るんだから、いざとなれば全部任せればいいよ」

 

「おい、高嶺。ご指名だぞ」

 

「全部っ!?てか、おれだけですか!?」

 

「高嶺君食べてなくな~い?」

 

「食べてますけどっ!?」

 

「陽キャになるためにはノリよく。コールには乗っていく。これ大事」

 

「そういうのはハラスメント!同調圧力ハラスメント!」

 

「すみませーん。タンとハラミ、2人前ずつ追加でお願いしまーす」

 

「おまっーーーしかも2人前って!?」

 

この流れは……来るな、あれが。ならば乗るしかねぇ!このビッグウェーブに……!

 

両手でメガホンを作り、言い放つ。

 

「高嶺のぉ!ちょっといいとこ、見てみたぁい!」

 

「それ、お肉♪お肉♪お肉♪お肉♪お肉ッ♪」

 

「なんで打ち合わせしたかのように息ピッタリなんだよッ!?というか、我先に裏切りましたねっ!!」

 

「いやぁー、行くしかないかなって思ってさ。ちゃんと食べるから安心してくれ」

 

「わたしも食べるつもりだから大丈夫」

 

「あっ。アタシも若干の余裕はありますから。安心して下さい」

 

「ワタシは割と限界気味かなぁ……数枚程度なら何とか」

 

「この様子なら、2人前ずつが丁度よさそうだね」

 

追加の肉が来る間に女性陣で写真を撮ってデコったりと楽しみながら無事焼肉会を終えた。

 

因みに余談だが、ミカドさん宛てに買ったへそくりは、後日明月さんにバレた。コソコソとしているのを怪しんで確認したところを現行犯逮捕とのこと。

 

その元凶が俺だとバレ明月さんに注意を受けた。運動不足気味のミカドさんにはカロリーが高いとか何とか……。

 

 

 





何かエロいことを考えてる顔の死神「焼肉……男女で焼肉……うーむ……」

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