喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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野中君……!




第67話:影響

 

 

皆で焼肉を食べた次の日、休憩中に四季さんからメッセージが来る。

 

『前に話してた野中君の件、今日みたい。』

 

「そういえば、講義で焼肉のお礼を言ってたな……」

 

『その場には居合わせることは出来なかったけど、食堂で話してるのは聞いてる途中』

 

「探偵みたいなことしてんな」

 

『すまん、盗み聞きをさせるような真似をさせて』

 

『ワタシが勝手にしてるだけだから気にしないで。彼、相当落ち込んでいるみたい。蝶も集まってる』

 

「……だろうなぁ」

 

『了解、あとで明月さんとミカドさんも交えて話し合おう』

 

『わかった。それじゃあそろそろお店に向かうことにする』

 

『気を付けてな』

 

「ふーむ……」

 

なんかこうしてやり取りしてるが……個人でのやり取りとは胸が踊るものだなっ!

 

「おっと、いかん。二人にも一応連絡入れておかないと……」

 

休憩室を出て、フロアに居る二人に声をかける。

 

「すまん、二人とも。少しいいか?」

 

「どうかしましたか?」

 

「今日、高嶺が通ってる大学で蝶を引き寄せている人が見つかる。それについて終わった後に話がしたい」

 

「うむ、承知した」

 

「分かりました。詳細はその時に聞かせてください」

 

「分かった。高嶺から話があると思う」

 

 

 

 

「わからん……理解できん」

 

その日の夜、俺を含めてた5人で高嶺からの話を聞いたが、ミカドさんからの第一声はそんな言葉だった。

 

「惹かれるメスがいればアプローチすればいい。他のオスと番いなわけではないのだろう?」

 

「そりゃそうだけど、断られた時を想像すると、やっぱり怖いもんだよ」

 

「そんなことを言っていてはほかのオスに先を越されるだけではないか。……やはり理解できん」

 

「まー猫だもんな、閣下は」

 

「んー……猫と人の違うというよりも、成功経験が無いから自信が持てないってやつじゃない?」

 

「そういうものか?……ともかく、放っておくと心がどんどん落ちていく可能性もある」

 

「そうですね。なんとかしないと」

 

「澤田達也よ、お前はどう思う?」

 

「んー……、話を聞く感じだと、四季さんと同意見かなぁ?多分自分に自信が無いから、自分で自分を追い込んでいる……そんな印象だな」

 

「相手をこの店に呼べば、なんとかしてもらえるか?」

 

「それでもいいが……親しい間柄ではないのだろう?」

 

「まぁ、今日初めて会った程度だな」

 

「それなら、こちらから向かった方が怪しまれずに済むのではないか?」

 

「なら……明月さんが大学に?」

 

「私ですか?あ、いえ、もちろん行くのはいいのですが……部外者ですよ?」

 

「大学ってそこら辺緩いから。関係者以外立ち入り禁止ってなってるけど、用件があったら入っていいし」

 

「だな。俺も以前に侵入してるしな」

 

「そうそう、学食なんて近所の人が利用してるのも普通だしね」

 

「へー……そういうものなんですか」

 

「高嶺は明日何限目受けるの?」

 

「3限と4限ですね。なので途中で抜けることになります」

 

「それじゃあ、明月さんはそれが終わった後に合流って形で。お店は残りで何とかなるはず。平日だし」

 

「わかりました。それじゃあ明日、行ってきます」

 

「よろしく頼む」

 

よしよし、これで明月さんが大学へ行くコースだな。

 

「では、今日の所は解散しよう」

 

お店を閉めて、冬の夜道を帰る。

 

「それで?明月さんを大学に送るってなったけど、これで解決はするの?」

 

「ん?ああ、いや……解決はしない」

 

「え?そうなの?てっきりこれで終わりなのかと……」

 

「中々手強いからなぁ……頑固だし、明日蝶が散ってもまた集まってくる」

 

「まだ終わりじゃないってことね」

 

「ああ、恐らく明々後日辺りには動くことになる……」

 

「明日と明後日は?」

 

「様子見になるかなぁ……」

 

「それじゃあ、特にすることはなさそう?」

 

「そうだな。後は明月さんと高嶺に動いてもらうよ」

 

「そうなんだ……わかった」

 

その後は特に話題には出さずにお互いの帰路に着いた。

 

そして次の日、問題が起きた。重大な大問題である。

 

「それじゃあ、パパって作るから澤田君は寛いで待ってて」

 

「あ、ああ……よろしくお願いしますとも……」

 

何故か、その日の夜に四季さんの部屋へ招かれ、晩御飯を振る舞ってもらうことになった。

 

……何故だ?恐らく、今日のお店でもやたら俺へ視線を向けていたことに関係しているとは思うが……。何かの相談か?それとも高嶺関係で話が……?いや、こっちに来るまでの道中にそんな話題はなかった。

 

もしかして、何か頼むことがあって、俺が飯を食べた時点で『……食べた、よね?』と言って強制的に頼み込む作戦?いや普通に頼めば靴ぐらい余裕で舐めますがっ!?

 

四季さんは前と同じくお礼とは言っていたが……。まるで何かの心理戦をしている気分だ。

 

台所で支度をしている四季さんを見ながら、晩御飯が出来るまで大人しく待つことにした。

 

 

 

 

 

 

「えっと、生姜焼きだから……」

 

ワタシは今日、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。

 

いつもの自分の部屋。何も変わらない部屋……ただ一つ違うとすれば……。

 

「……ぅっ」

 

澤田君が部屋にいることくらいだろう。いや、自分で招いたんだけど……。

 

入院中に夢を見てから自分がおかしくなった気がする。今までは特にこんなふうに思わなかったのに、何故か今では自分でも驚くほどに。

 

これまでなら、ワタシに対してよく冗談を言ってふざけたりしてくるのがウザくも気が許せる相手……程度だったのに、今ではそれすらも心地よく感じてしまっている。たまに見せる真面目な姿にギャップ的な感じが琴線に触れる時はあったけど……、今ではその姿にドキッてしてしまっている。

 

しかも、極めつけは、気が付くと目で追ってしまっていることだ……。

 

「前置きも無く部屋に招いたのはやりすぎだったかも……」

 

晩御飯の支度をしながら小さく呟く。

 

今日と明日は特に動きは無いって昨日聞いて、それなら……!と思って食材を買った。そして一緒にご飯をと誘った。突然なワタシからの誘いに流石の澤田君も驚いていた。なので咄嗟にお礼と称して部屋へ上げた。

 

「いや、これはあくまでも前に引き続き、お礼な訳で……別に、他意はない……はず」

 

分かってる。言い訳にすらならないことくらい。それなら澤田君の部屋でも良かった。というかそっちの方が近いのだからその方が良いに決まってる。

 

「……そうだ。わざわざ毎回送ってもらうのは申し訳ないから今回はワタシの部屋で……それだっ、それで行こう!」

 

下準備を済ましてある肉をフライパンで火を通す。

 

前回は親子丼、今回は生姜焼き……勝手にこっちで決めちゃったけど大丈夫だったかな。ハンバーグとか肉じゃがの方が良かったとか……。

 

食材を買いに行った時、何故か生姜焼きが思いついた。どうしてかわからないけど、澤田君が食べたいと思った時には勝手にカゴに入れていた。

 

「……はぁ、何してんだか。ワタシ……」

 

これじゃあ勝手に暴走している様にしか見えない。いや、実際そうなんだけどさ。

 

「……味付け、濃い方が良いかな?」

 

あとは、みそ汁と、ポテトサラダを……。あ、卵焼きも添えないと。

 

何事もなく生姜焼きが完成し、テーブルへと運ぶ。

 

「お待たせ」

 

「おぉ、遂にお披露……生姜焼き……?」

 

テーブルに置かれた生姜焼きを見て、澤田君が驚いた顔をする。

 

「そうだけど、もしかして嫌いだった……?」

 

「あ、いやっ!ちょっと驚いただけ。むしろ超絶嬉しい」

 

「そう?普通の味だからあまり期待しないでね」

 

「前回で四季さんの料理は美味しいって分かってるからな。当然これも期待してるに決まってる!」

 

いつも通りこっちをおだてる様な大げさ反応。

 

「そんじゃあ、いただきます!」

 

「召し上がれ」

 

そして、なんてことない料理を食べて、オーバーリアクションで喜ぶ。……悪い気はしないけどね。

 

「……なるほど、これが四季さんの生姜焼きの味かぁ……」

 

と思ったが、何故かしみじみと噛み締めていた。

 

「どう、かな……?」

 

いつもと違った反応に若干の不安を感じる。

 

「滅茶苦茶美味い。まずこれは大前提。そして俺は今、猛烈に感動してる……まさか生姜焼きが食べれる日がこようとは……!」

 

「たかが生姜焼きでそんな大げさな……」

 

「四季さんにとってはたかが、されど俺にとってはその位の美味しさなんだよ」

 

食べてみるが、やはり普通だ。生姜焼きに何があったらそこまでの感動を覚えるのだろう。よく分からないが……。

 

「そう?美味しいならいいけど」

 

ここまで喜んでもらえるのなら作った甲斐があったって思える。正直かなり嬉しい。

 

「なにもしてないのに四季さんの手料理が味わえるなんて……俺、明日死ぬのでは……?」

 

「はいはい、大人しく食べてくれる?」

 

「ういっす」

 

何もしてないって……、そんなわけ無いのに。以前に明月さんも愚痴を零していたが、彼は自分が何をしたのか、そのすごさを良く分かっていない。もしくはとぼけている節がある。そもそも未来が見えるなんて超能力みたいな力を持っているのにそれを自慢するわけでもなく、偉そうにするわけでも……いや、たまにしてるけど。

 

それで、得た功績を自分の手柄にせず、最初から変わらずのほほんとしている。今だってワタシが作った料理を美味しそうに食べてるし……いや、ほんとに美味しそうに食べてる。

 

死神やケット・シーだけではなく、神様とかいう存在とも知り合いで実際に面と向かって対等に話してもいた。閣下が怯えるみたいに下手に出ている相手にもお構いなしだ。どんだけ面の皮が厚いのだろうか……。

 

夢で見た光景の彼の声は真剣だった。お店に来ていた人よりも偉い人と交渉をして、明月さんとも対峙して……それもこれもワタシの為にと思うと……なんて言うのだろうか、心が暖まる。多分、これが一番しっくりくる。

 

「凄く、美味しそうに食べてるけど、そんなに美味しかったの?」

 

「そうだな、これは前回の親子丼を越えたな……!」

 

嬉しそうにグッドポースで応える。……やっぱり、今の彼からは想像出来ない。けど、裏路地で見た時のような一面もあるのは事実だし……、どっちが本当の彼なのだろう。

 

「……ま、どっちでもいっか」

 

「いいや、良くない!俺は生姜焼きを推すねっ」

 

ワタシのつぶやきに勘違いをして反論してくる。

 

「澤田君的には、今回の方が好みだった?」

 

「好きかどうかで言えば……今回かもな。味濃い方がどちらかと言えば好みだし。あ、でも、まだ二択しか無いから、評価としては母数が足りてないかもなぁ~?チラチラ?」

 

「そんなにアピールしなくても、また次も作ってあげるから」

 

「マジっすか……!?最高かよ……っ!」

 

「だから大げさ」

 

「これでも感情を押し殺して耐えている状態であります」

 

「なに、開放したら空でも飛ぶ気?」

 

「テンションのまま外で踊って警察にお世話になる位には……ニュースレベルで」

 

「うわぁ……。もしインタビュー受けたら『いつかやるとは思ってました』って言ってあげる」

 

「否定も反論も出来ないのが痛い所だな」

 

「いや、しなさいよ……」

 

……そっか、また食べたいのかぁ。次は何がいいのだろうか。というか、完全にその気になっちゃってるなぁ……今更だけど。

 

彼がワタシを助けてくれたことを、ちゃんと言葉で伝えたいけど、彼はきっと認めないだろう。それなら、態度や行動で示せば良いだけだ。ここ数ヶ月でそれを学んだ。その気持ちはちゃんと相手に伝わるってことを……。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末様、それじゃあ、食器洗ってくる」

 

「……何から何までほんとありがとうございます」

 

ワタシが食器を取るのを察して、動かずにお礼を言う。

 

「ちゃんと最後までがお礼だから。お茶でも飲んで寛いでて」

 

「いやー、四季さんの部屋で寛げは難易度が高すぎというか……」

 

食べ終えた食器を流し台に入れ洗う。

 

「……ちゃんと食べてもらえた、か……」

 

今回も無事上手く成功したでいいのだろう。

 

「次は……」

 

次の機会はいつだろう。明日も様子見とは言っていたけど、連日は流石に変だし……。

 

「そういえば、そろそろクリスマスの時期かぁ……」

 

前日と当日は忙しいと思うけど、23日は定休日だし時間はある。

 

「……ほんとに、どうしようもないなぁ……」

 

 

 

 

 

「それでは、明日の夕方に高嶺さんが通ってる大学の方へ行ってきますね」

 

「ああ、大丈夫だとは思うが、気を付けて行って来い。店の方は気にするな」

 

「今更なのですが、行くの私で良かったんですかね?」

 

「安全を取るなら澤田達也に任せるか、一緒に愛衣も連れて行けば間違いは無いだろうが……栞那、お前が行くとなった時に特に、止めずにむしろ勧めていた様に見えた」

 

「つまりは……私が行くことに意味があるってことですね」

 

「かもしれん。もしかすると特に理由はないという可能性もありえるが」

 

「理由が無くても向かうのには変わりありませんし、問題無いですよ」

 

「……そうだな。奴の方でも動いていることだろう。こちらはこちらの役目を果たせばよい」

 

「わかりました。最近はナツメさんを特に気に掛けられている様ですし」

 

「心配なのだろう。既に魂は定着し安定しているのは確かだ。むしろ我輩には逆に見える」

 

「それは、ナツメさんが澤田さんに……?」

 

「そうだ。最近は共に帰ることも多くなっている。今日も何度も澤田達也を見ていたからな」

 

「それは……仕方がないと思いますよぉ?前にナツメさんから聞かれましたもん」

 

「何をだ?」

 

「『ワタシが倒れている間に何があったの?』『澤田君って何かしていた?』と、質問攻めされましたから……」

 

「……もしかして、何となく感じているのかもしれんな」

 

「可能性をあげるとするなら、澤田さんの魂をナツメさんへ移した際に記憶なども移った……とかでしょうか」

 

「なるほど、ありえなくはないな。それを無意識に理解してしまっているのかもしれないな」

 

「はい。もしそうであれば、好きにならない方がおかしいですしね……にひ」

 

「あのような姿を知ったとなれば当然のことか」

 

「上手く行くと良いですね、ナツメさん」

 

「何か問題でもあるのか?既に両想いではないか」

 

「わかってませんね、相手はあの澤田さんですよ?きっと色々と歪んでいます。ナツメさんの好意も歪めに歪めて受け取るに決まってます」

 

「……四季ナツメも、難儀な相手を好きになったものだな」

 

「ほんと、そうですよね……未だに彼自身謎が多いですし」

 

「全くだ。次から次へと……」

 

「それで、ナツメさんの蝶の方は……」

 

「安心してよい。以前より羽ばたきが大きくなっている。この調子ならそう遠くはない内に戻れるはずだ」

 

「そうですか。安心しました」

 

「安心するのにはまだ早い。まだ高嶺昂晴がいるのだからな」

 

「分かってますって……高嶺さんが幸せになるようにちゃんと手伝いますよ」

 

「そうか。ならいい」

 

「あっ。そういえば食事がまだでしたよね?直ぐに用意します」

 

「あ、いやっ、今日は大丈夫だ……」

 

「どうしました?食欲がないのですか?」

 

「いや……ちょっとな。取りあえず、食事の用意はしなくても大丈夫だ」

 

「はぁ……わかりました。食べる時にまた言ってください」

 

「……ああ、承知した」

 

 

 

 





生姜焼き……こんな味なんだ……。


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