喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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クリスマスイヴイヴヴヴヴッヴッッッイヴ。




第70話:癒しの場

 

 

「……行くか」

 

次の日の昼前、折角の休日……更にクリスマスのプレゼントを選ぶために外へ出かける。

 

「まずはてきとうに店を見て回ってみようかな」

 

渡すと言ってもどれが良いのか分からない。ここは安全策を取って複数個を用意するか、四季さんが確実に喜びそうなのを1つ選ぶか……。

 

「となると……紅茶とかなら絶対外れないもんなぁ」

 

流石にアイマスクはセットで買えないけど。

 

「あとは紅茶に合う食べ物……焼き菓子とかだな」

 

たまには少しお高いブランド物とかに手を出すのも悪くない。

 

「それらを味わえれば……いや、待てよ」

 

紅茶とお菓子は良いが、相手を満足させるにはまだ足りないのではないだろうか……?

 

「五感で楽しませてこそのプレゼント……か?」

 

そうなると……資金は足りるが時間が大丈夫か分からないな。

 

「運ぶ時間と、組み立てる時間も考えて行かないとな」

 

フラフラと歩いていた道を曲がり、信号を渡って家電などを取り扱ってるお店を目指す。

 

「……ふふ、楽しくなってきたな」

 

 

 

 

「……お?メッセージか。これは……、四季さんからだな」

 

買うものを買い、セッティングを無事にやり切って一息ついていると、良いタイミングで連絡が来た。

 

「……場所はやっぱりお店か。そろそろ夕方だが何の話だろうか」

 

支度を済まして部屋を出る。

 

「~~っ、本格的に寒くなってきたなぁ……」

 

店までの道を歩いていると、横道からの冷たい風に体が震える。白い息も出るし手とかも超冷たい。

 

「俺も手袋とか買おうかなぁ……?」

 

今日、高嶺は観覧車で明月さんから手袋を貰うはず……。羨ましいなこんちくしょう。

 

まぁ、告白前にいなされて肩透かしを食らうけどな!……後で慰め、では無いがまた話でも聞いてみよっと。

 

店に着き、裏口から入ろうとするが、鍵が掛かっていた。

 

「……?あれ、四季さんが開けて無いのか?」

 

店に来ているから、こちらの鍵を開けているはずだが……。

 

「予備は部屋に置いて来てるし……表が空いてるのか?」

 

仕方なく表に回ってドアを触る。

 

「あ、こっちは開いてんのか……」

 

表の方が開いていたため、扉を開けて中へ入る。

 

「お、おかえりなさいませ、ご主人様っ……!」

 

「………」

 

お店に入ると、そこには引きつった笑顔で俺へ"お帰り"と頭を下げる四季さんが居た。

 

「失礼いたしました」

 

あまりの状況に一度ドアを閉めて外に出る。

 

い、今の、四季さんだよな?しかも前のウェイトレス姿で。な、なにをしているのだろうか……?

 

……あっ、あれか。高嶺にも相談があると言ってその代わりにとか言ってたあれかっ!なるほどなるほど。もしかしたら俺にも同じ手段を使って来たとかか!

 

自分の中で納得をして再度お店へ入る。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様っ……!」

 

「………」

 

取りあえずもう一回ドアを閉じる。

 

うむ。紛うことなき四季さんだ。無理して引きつった笑顔を浮かべながらメイド喫茶ごっこをしている。……あと何回か楽しませてくれるのだろうか?

 

「もう一回行ってみるか」

 

面白くなって来たので再度ドアを開けて中へ入る。

 

「おかえりなさいませっ、ご主人様っ!」

 

はは、それじゃあドアを閉めてーーー

 

「おい」

 

こちらがドアを閉めようとすると、ドスの効いた良い声でそれを阻止してくる。

 

「途中から楽しんでない?」

 

「いや、逢魔が時にはちょっと早いなって思ってさ、幻覚かと思ってた」

 

「誰が魔物かっ!……取りあえず、中に入ってくれない?」

 

「もう少し楽しめそうだったんだけど……」

 

「ああ?」

 

「いえ、何でもないです」

 

ウェイトレス姿のメイドに睨まれながら席へ案内される。

 

「それでは、こちらのお席へどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

折角だし、この流れを楽しまなきゃ損だよな?後でどんなお願いが来るか分かんないけどよ!

 

「メニューはこちらになります。本日はドリンクのみとなっておりますが、如何いたしましょう?」

 

「んー……それじゃあ、アールグレイでお願いします」

 

「畏まりました。少々お待ちください、ご主人様」

 

こちらに可愛らしく一礼をしてカウンター側へ入る。

 

……いつもの凛々しい四季さんも良いが、こういった下手くそな媚び売り接客も見ていて悪くないな。表情のことは置いといて。

 

お店のメニューを見ながら待っていると、お湯が注がれる音と、暫くして紅茶の香りが鼻に届く。

 

「お待たせいたしました、ご主人様。アールグレイです」

 

「……どうも」

 

なんか、四季さんにご主人様って言われると、笑ってしまいそうだ。我慢しないと……。

 

「砂糖とミルクは如何なさいますか?ご主人様」

 

「あ、えっと……それじゃあ、それぞれ一つずつで」

 

「畏まりました。では、まずはお砂糖から、フリフリ♪」

 

「……っ、……ふ」

 

「続いて、ミルクも。シャカシャカ♪」

 

「……シャカシャカなんだ」

 

「それではご主人様。ご主人様と一緒に最後に萌えを注入したいと思います」

 

砂糖とミルク淹れ終え、最後の大仕事が始まる。

 

「はい、ご一緒にーーー萌え萌えキュン♪」

 

胸の前でハートを作り、それを紅茶へ向けて放つ。それを見て、俺もハートを作り、同じような動作をする。

 

「萌え、萌え、キューーーーーーンッ!入れっ!俺の魂ぃ!!第三者目線から見たらかなりきついことしてるけどそれを恥ずかしがりながら耐えて萌え萌えキュン♪としている大学三年生のメイドさんに負けないくらいの萌えを!今ここにーーー!」

 

「おい」

 

「あれ?何かご不満?」

 

「不満しかない!自分でもわかってることをいちいち口に出すなっ!」

 

「分かりながらも俺の為に頑張ってる四季さんの努力を無駄にしない為に精一杯付き合ったつもりなんだが……」

 

「さっきの言葉で全部だめになってるから!」

 

「それで?今日は随分と趣旨の違うことをしてたけど……、もしかして何かしたい事でもあったのか?」

 

「……はあぁぁぁーー……ちょっと待ってくれる?心を落ち着かせる時間がほしい」

 

「そんな時におすすめなのは、このアールグレイ。安らぐぞ」

 

「そうね。ワタシも飲もうかな……」

 

疲れ切った様な声で自分の分の紅茶も淹れにいく。

 

「……では」

 

淹れて貰った紅茶を飲む。……美味いなぁ。しかも前より違いが分かるぐらいに美味しくなってる。俺が憧れた紅茶をこうして飲めるとか……これだけで心が満たされる。

 

「な、なんだこれは……!一瞬強い香りを感じさせながら安らぐような口当たり!後から来る渋みが口の中でサッパリとしている……!それで体と心を温めてくれるようなこの安らぎと優しさは……っ!?」

 

「これが萌えかっ……!?素晴らしい!確かに萌えを感じる!流石はメイドさんの萌えが注入された紅茶だ!一味違うっ!」

 

カップを置いて盛大に驚く。

 

「おい」

 

隣を見ると、自分の分のカップを手に持ち、絶対零度の眼差しでこちらを見ている四季さんが居た。

 

「あ、いえ、一応萌えに対する評価を……しておこうかと思いまして……ね?」

 

「今のは明らかに死体蹴りでしょうがっ!」

 

しておかないといけないという、使命を強いられているんだ!

 

「と、少しは落ち着いたか?」

 

「多少はね。……未だに恥ずかしいけど」

 

「因みに言っておくが、個人的にはあんな下手くそ演技では無くていつも通りのキリっとした四季さんの方が刺さります」

 

「下手くそって……いやまぁ、反論が出来ないなぁ」

 

「練習したら様にはなると思うが……」

 

「しないからっ。する予定もないから」

 

「それじゃあ、なんでメイドの真似ごとを……?」

 

「それは……ほら、日頃のお礼をしたいなって考えてたら……」

 

「日頃の……?前みたいにご飯ご馳走になった時みたいな?」

 

「そう。澤田君最近色々と頑張ってるし……少しでも癒しがあった方が良いかなって」

 

「なるほどぉ。それでご主人様と来たわけか……」

 

メイド喫茶で癒されるのは……まぁ、何となく想像しやすいが、それを自分で実行する辺り……。

 

「分かった。四季さんの気持ちと姿勢はしっかりと伝わった。方向性はあれだけど、その気持ちはしかと受け取った!」

 

「途中から自分でもおかしいとは思ってた。けど、今更止める訳にもいかないし……」

 

今更自分の所業を省みたのか、恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

「いや、その気持ちは素直に嬉しかったし、おも……楽しかったぞ?」

 

「そうよね。さぞ滑稽だったでしょ」

 

「それは……うん」

 

ごめん、嘘は付けない。

 

「あぁ……っ。忘れてっ!さっきまでのメイドは忘れて今から仕切り直させて!」

 

「仕切り直すって……まぁ、いいけど」

 

ごめん、やっぱり嘘つくわ。忘れられん。

 

「……ありがと。じゃあワタシ、着替えて来るから少し待ってて」

 

「あいよー」

 

少し焦りが見えながらも着替えに奥へ消えて行く。

 

「……結局、俺を労わろうとしていたで、良いのか……?」

 

イマイチ良く分からない空気のまま、戻って来た四季さんと一緒に店を出る。

 

「んでんで、後半戦?はどの様なご用件で?」

 

「さっきのは失敗したけど……今度は大丈夫……」

 

何だか自分に言い聞かせるみたいに意気込んでいるなぁ……。

 

「……澤田君って、冬なのに手袋やマフラーってしてないの?」

 

「ん?ああ……問題無いだろって少し舐めていたけど、結構寒いし今度買おうかなって考えてる」

 

「……そう。なら、ちょうど良かった……」

 

小さくそう呟くと、手に持ってた紙袋を俺に差し出して来る。

 

「……これは?」

 

「……少し早いけど、クリスマスでしょ?」

 

「……つまりは、プレゼント……ということか?」

 

「正解。持って無さそうだったし、ちょうど良いかなって」

 

「……えっと、中を見ても?」

 

渡されてプレゼントを手に持ち、聞いてみる。

 

「……お好きにどうぞ」

 

封を開け、中を見ると、そこにはマフラーがあった。

 

「マフラー……?」

 

「これから冬でしょ?それに……以前肩の傷の時にダメにしていたのを思い出してね」

 

「そういうこともあったなぁ……」

 

最新のファッションとかボケていたっけ?

 

取りあえず開封してマフラーを手に持つ。黄色……ではあるけど、明るめでは無く少し薄く重め……という感じだろうか?

 

「……あっ」

 

色の名称や例えを考えていると、一番近しい色を見つける。

 

「……どうか、したの?ワタシの目を見て……?どこかおかしい?」

 

「いや、何でもない。良い色のマフラーだなって感動してた」

 

「ほんと?趣味に合わないとか、ダサくなかった……?」

 

「いいや、全然。何だったらこれに見合うか考えるくらいには良いセンスしてると思う」

 

「そこまで大した色じゃないでしょ……」

 

まぁ、自分では滅多に気づかないか。

 

「早速、使ってもよろしくて?」

 

「逆に使われなかったらショックだなぁ……。その為に選んだんだし」

 

「それもそうだな」

 

買ったばっかりのマフラーを試しに首に巻く。新品の匂いと、首へのチクチクとしたダメージはご愛敬だろう。

 

「……最高。この世界で生まれ直して本気で良かった……」

 

「だからそんな大げさな……。でも、喜んでもらえたのなら良かった」

 

「……四季さん」

 

「ん?」

 

「俺は四季さんからプレゼントを貰った。それはオーケー?」

 

「うん……あ、でも、だからと言ってそっちも無理にしなくても良いから。これはワタシがしたくてしただけ」

 

「そうか……そうだな。なら問題無いな。……実は、俺も既に用意はしているんだ」

 

「……え?そうなの?」

 

「ああ。もしかしたら四季さんがこういったイベントを好まないって可能性を考慮して軽ーくで済ませようかなって考えていた」

 

「あー……まぁ、確かにあんまりそういうイベントは避けてたかなぁ?」

 

「だから幾つか考えていたけど、先にされたなら特に隠す意味は無いかなと結論づけました」

 

「なんだか物凄く気を遣われている様な……」

 

「まぁまぁ。ということで、俺も四季さんへのプレゼントはあるのです!」

 

「そうなんだ……でも手ぶらだし……もしかして部屋にあるの?」

 

「そうだな。部屋にあるというか……部屋自体というか……」

 

「……?どういうこと?」

 

「いや、実際その場で渡したいし……そっちが良ければ俺の部屋でお茶でも飲まないか?」

 

「……なにそれ、ナンパでもしてるつもり?」

 

「いやいやー、さっきお店では俺が癒されたし?今度は四季さんが癒される番かなぁってさ」

 

 

 

 

 

 

澤田君がワタシへのプレゼントを既に用意していたとか……ちょっと、いや、かなり嬉しい……かも?案外抜け目無いし。

 

でも、どうしてわざわざ部屋でお茶を……?今度はワタシを癒すとか言ってたけど……?って、いやいや、まさか澤田君がコスプレとかしないでしょ!?

 

それなら渡すついでに何か話すこととか……?

 

「……ッ!?」

 

「ん?どうかした?」

 

「あ、ううん。気にしないで」

 

とんでもないことを思い付いて自分で驚く。いやいやいや、まさか……ねぇ?澤田君に限ってそんな……。今だって普段と変わらない様子だし……。

 

チラリと隣を歩く彼を見る。何かを企むかの様な感じで楽しそうな顔をしている。

 

……なさそうだなぁ。うん。

 

いつも通りの姿を見て安心する……と、同時に少しガッカリというか……いや、別に期待とかしているわけじゃないけど……なんか女として悔しく思う。彼にとってワタシはあくまで協力したり守る立場なのだろうか……?でも、入院中に見たあの夢では……。

 

「んーむ……」

 

もっと分かりやすい態度とかしてくれたのなら、こっちとしても……って、もうしてるか。すごく嬉しそうだもんね。

 

腑に落ちないモヤモヤ感と嬉しいという気持ちがせめぎ合いながら澤田君の部屋につく。

 

「お邪魔……します」

 

「どうぞどうぞ。本日初公開の特別仕様になります。是非楽しんで行って下さいませ。お嬢様」

 

「特別仕様?」

 

そういえばさっき、部屋がどうこうって言ってたし……なんだろ。

 

通路を進んで部屋へ入る。

 

「あっ、炬燵買ったんだ……」

 

そこには、以前には無かった炬燵が置いてあった。

 

「いい機会だったからな。これを機に買ってみた」

 

「へぇー、いいじゃん」

 

「だろ?是非とも寛いでくれ」

 

「それじゃあ、早速……」

 

スイッチを入れて中に入る。……その内温まるか。

 

「あ、それと。これは俺からのクリスマスプレゼント」

 

紙袋を炬燵のテーブルに置く。見た感じだと一つはお菓子のロゴに見える。

 

「今開けてもいい?」

 

「ああ。お好きにどうぞ」

 

紙袋から中身を取り出す。

 

「これは……紅茶?こっちは、お菓子?」

 

しかもどっちもそこそこ値段が高いやつだ。

 

「紅茶を選んでたら、どうせならお菓子もそれなりに合わせないと思ってさ」

 

「嬉しいけど……結構かかったんじゃない?」

 

「多少はな。でも考えている内に楽しくなって勢いで買ったってのもあるのはある。だから気にせず受け取ってくれると嬉しい」

 

「楽しくなってきたて……、でも、うん。ありがたくもらおうかな?」

 

「是非ともそうしてくれ。……それと、ここに紅茶を楽しむためのセットがあるけど……飲んでくかい?」

 

「そんな屋台みたいな……。それじゃあ、折角だし澤田君に淹れてもらうかな?」

 

「毎度アリ。ゆっくり寛いでてくれ」

 

ワタシから紅茶を受け取り、準備を始める。

 

それにしても、紅茶と焼き菓子かぁ。こう言っちゃなんだけど、澤田君にしては無難な物を選んだ気がする。それとも、意外とこう言ったのは苦手だったりするのだろうか?

 

「ひとつ聞いてもいい?」

 

「何なりとお申し付けください」

 

「どうして紅茶とお菓子にしたの?」

 

「……もしかして、ご不満だった?」

 

「それは違う。もらったのは素直に嬉しいのはほんと。でも、なんか澤田君にしては無難だなぁ……って思って。もっと変なこととかして来てもおかしくないし」

 

「四季さんの中の俺がどういう人物像なのか理解するには十分すぎる言葉だな。否定はしないけど」

 

「自分で認めてどうする……」

 

「まぁ、これに関してはまず外れない物を選んだのは確かだ。ここで外したら目も当てられないしな」

 

「そうなんだ」

 

結構気を遣ったのだろうか。

 

「あと、俺のプレゼントはその紅茶たちだけではないぞ?」

 

「……?え、まだあるの?」

 

「さっき言っただろう?今度は四季さんが癒される……いや疲れを癒す番?」

 

ポットにお湯を注ぎ、蒸らしの待ち時間にこちらを向く。

 

「紅茶とお菓子だけだとなんか味気ないって思ってさ。どうせならそれを味わう空間も楽しませてあげたいと思ったさ!」

 

「……空間を?」

 

「そう、だからまずは炬燵を買った!寛げる場を!次に紅茶を飲みながらそれに合うだけの菓子を食べる。なんて贅沢……っ!」

 

「えっ、もしかして……その為に炬燵を買ったの!?」

 

「いや、元々どこかで買う予定ではあった。……この2つが組み合わさることで人は堕落するだろう」

 

「……アホなの?」

 

「えぇっ!?でも、実際に堕落するだろ?気は抜けるし炬燵からは抜け出せない。気持ちは怠惰へと落ち、炬燵の一部と化すだろ?」

 

「それは……まぁ、確かに炬燵の魅力には勝てないけど」

 

「そこに何もしなくても紅茶とお菓子が付いてくる。最高だろ?」

 

「それは、認めざる得ない……かな」

 

「なら大人しく癒されてくれ」

 

……これがクリスマスプレゼント……?いやでも、澤田君なりに考えてくれたし……面白いと言えば面白い……かも?普通に炬燵はありがたいし。でも、そんなノリで買っちゃうものだろうか……?買う予定だったって言ってはいたけど。

 

もしかして、前にワタシが言ったから……とか?いや、んなわけないか。既に検討していたし。

 

「お待たせしました」

 

「ありがと」

 

置かれた紅茶を持ち、飲んでみる。

 

「……美味しい」

 

「高い葉を使ってるだけはありそうか?」

 

「かなり」

 

けど、それらの味をちゃんと出させる淹れ方をしてるのも凄いと思う。

 

「んじゃ、俺も飲んでみよっかな……うむ、美味いな」

 

「流石値段だけはある」

 

「けど、さっきの萌えを注入した紅茶には勝てないかなぁ?」

 

「それを蒸し返すなぁっ!」

 

「いや、紅茶を蒸してたらそっちの記憶も自然と蒸し返してきて……」

 

「うわーないわー。炬燵の温度上げないと……」

 

「駄目だったか……」

 

「折角の紅茶が美味しくなく感じる位にはね」

 

「マジか。なら口直しにお菓子でもどうぞ」

 

「そうしようかな」

 

折角美味しい紅茶を飲んでるのに、こっちも食べないのはもったいないしね。

 

「結構色んな種類が入ってるんだ」

 

袋を開けると、クッキーやチョコレート、フィナンシェ、マドレーヌなどが入っていた。

 

「結構有名な所だし、味は保証しておこう」

 

「そこの心配はしてないから大丈夫だけど……なんか申し訳ない無い感じがあるなぁって」

 

ワタシはマフラー1つに対してこう色々としてもらってるのは……。

 

「四季さんもお店で楽しませてくれただろ?」

 

「……あれはこっちとしてはノーカンにしておきたい気持ちが……ある」

 

「俺にとってはあれもプレゼントだと思ってる。なんせ一生経験出来ない様な体験だったからな!」

 

「だからあれは忘れてって言ってるでしょ……?」

 

~~っ、あぁもうっ。どうしてあんなことしちゃったのだろう……。しかも、結局はいつも通りの方が好みとか言われるし……。

 

紛らわせるようにクッキーを1つ開けて食べる。

 

「……うん、やっぱり美味しい」

 

「ならよかった」

 

「はい、澤田君も」

 

手元に置いてある入れ物をテーブルの中央へ置く。

 

「……良いのか?」

 

「当たり前でしょ。目の前に居るのにワタシだけ食べるほど無神経じゃないし……それに、こう言ったのは誰かと一緒に食べた方が美味しく感じるんじゃないの?」

 

以前にワタシにそう言っていたのを思い出して口にしてみる。

 

「……ははっ、そうだな。そっちの方が美味しいよな」

 

ワタシの言葉に驚くような表情をして、嬉しそうに頷く。

 

「ではお言葉に甘えて頂こうかな?」

 

入れ物からワタシが食べたのと同じのを取り、食べる。

 

「うま。滅茶苦茶上品な味がするなぁ。よく知らんけど」

 

「なんだか洗礼された味って感じがするよね」

 

「有名なだけはあるよな……。紅茶にも合うし。これが……マリアージュ」

 

「……火打谷さんの真似?」

 

「お、よくわかったな。この前の焼肉でオリジナル丼食べてた時の台詞」

 

「あ~……確か明月さんがスマホを買った日の」

 

「そうそう」

 

「高嶺君、上手く告白出来たかな……?」

 

「無事遊園地のチケットは渡しているんだよな?」

 

「うん。言っていた通りプレミアムの方をね。あ、もう2枚はどうする?一応持ってるけど……?」

 

「……一応俺の方で預かっておこうかな?」

 

「どうしてわざわざ4枚も買ったの?誰かに渡す予定……だったりする?」

 

前に澤田君のお願いで遊園地のチケットを4枚入手したけど……今回高嶺君に渡したのは明月さんの分も合わせて2枚だけ。残りは何に使うんだろうか……?

 

「あとでちょっとな。明月さんに渡す予定」

 

「明月さんに?」

 

「ああ。これに関しては今日次第ってとこもあるけど」

 

「ああ、そういうこと」

 

多分、二人が付き合ってからもう一度遊びにいくとか、そんな感じなのだろう。

 

「周りから見ても、良い雰囲気だったしOKしてもらえるんじゃない?」

 

「ん?……ああ、そういえば言って無かったな」

 

「何が?」

 

「今日の高嶺の告白は失敗に終わるぞ?」

 

……は?

 

「は?……え?どういうこと?成功しないの!?」

 

「そうだな」

 

「えぇ……ちょっと待って。今日の告白の為に前から色々と仕組んできたんじゃないの?」

 

「そうだな。今日高嶺が明月さんに告白をする為に色々としてきたつもり」

 

「なのに……玉砕?」

 

「正確には告白前に明月さんから牽制で止められる……が正しいか」

 

「……え?そっちもよく分かんないんだけど?明月さんって少なくとも高嶺君のこと嫌いとかじゃないと思うし……」

 

「高嶺は人で、明月さんは死神。これが全てだな」

 

「……そういうことね。そう言われると、頷くしかないのかな?」

 

「だから明月さんは高嶺の告白を躱すんだよなぁ……」

 

呆れながら笑ってる彼は、失敗するって分かってても特に焦りも感じていない。ということは……。

 

「……既にそれが分かっててそのままにしたの?」

 

「まぁな」

 

「つまりは、それも澤田君の作戦の一つ……ってこと?」

 

「ご名答。正解した褒美にお菓子を1つ贈呈しまーす」

 

テーブルの上にあるお菓子を1つ取ってワタシの前におく。

 

「どうも。それで?何を考えてるの?」

 

「そりゃ、どうしたら二人が無事にハッピーエンドに辿り着けるかを考えてるさ」

 

「はぐらかさないで。ワタシが聞きたいのはその具体案」

 

「いや、この後は特に何もしないな。あとは高嶺の勇気と諦めの悪い性格を信用しているだけ」

 

「えっと……高嶺君は、まだ諦めていない……?」

 

「うむ。高嶺にとっては人生初の告白で、かなり気合を入れたはずだ。そんな告白をする前から察しては逸らされたら肩透かしもいいとこだろ?」

 

「それは……確かにそうかも」

 

「だからまだ諦めきれてないはず。明日にでも新展開が待ってることに期待でもしておこうか」

 

そう話すと、静かに紅茶を飲む。

 

「けど、例え付き合えても明月さんが死神であることは変わらないんだけど……?」

 

たとえ両想いだったとしても、大前提として立ち塞がる壁は高い。

 

「そうだな。それに……」

 

「それに?」

 

「いや、これは今話すことじゃなかったな。でも何とかなるだろう」

 

「その根拠は……?」

 

「……ふふ。愛の前に、種族や年月の壁などいとも簡単に崩れ去るものさ」

 

ふっ。っとニヒルに笑う。

 

「いや、なにキモイことを決め顔で言ってるの……?」

 

「辛辣ぅ……!?結構いいこと言ったと思ったんだけど!」

 

誤魔化す様に答えるってことは、まだ言えないことなのだろう。

 

「ひとつだけ確認させて」

 

「答えられることなら」

 

「澤田君が考えてる二人のは……いつ終わりそうなの?」

 

「来年の元旦の日、だな……。その日の初詣に行ったら終わりだ」

 

「……そういうこと。了解」

 

以前に一人で初詣に行くとか言っていたのはこのことだったのか。……来年の元旦ね。それなら大して待つことも無さそうだし、今は良いかな。

 

本当なら今日、少し勇気を出してアプローチでも掛けてみようかと考えていたが、今の話を聞いてその気持ちも無くなる。

 

今は向こうの事に集中しておきたいはずだし、余計な事で気を回して迷惑をかけたくないし。

 

それとさっき、『それに……』の後の濁しかたが明らかにわざとらしく見えた。直前の表情も一瞬目を伏せて悲しそうな顔もしていた。そうさせてしまう様な何かをしようとしてる。間違いない。

 

ワタシが今すべきは、色恋に現を抜かすのではなくて……彼の力になること。少しでもその負担を減らすことだ。

 

「……ワタシに、何か手伝えることはある?」

 

「……そうだなぁ。もし高嶺が落ち込んで相談でもしてきたら、発破でもかけてほしい。まだチャンスはあるぞってさ」

 

「ん。了解……もし何かあったらすぐに頼ってもいいから。力になれるか分からないけど、話くらいは聞くから」

 

「サンキュ。……って、折角の場なのに暗い話はあまり良くないな。紅茶も冷めるし新しく淹れ直そう」

 

「……それじゃ、お願いしようかな?」

 

 

 

 





観覧車……うぅ、頭が……っ!?


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