喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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12月24日




第71話:告白

 

 

「おはようございます」

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

クリスマスイヴの朝、今日のケーキを作るためか、いつもより涼音さんの気合が入ってる気がする。

 

「さっ、今日と明日は忙しくなるよ。昨日はちゃんとリフレッシュできた?」

 

「あー……まぁ、それなりには……」

 

高嶺としては、むしろ悩みが増えただろうな。話を聞きたいが、今は準備を進めなければいけない。

 

「おはようございます」

 

と、そのタイミングで明月さんも入ってくる。

 

「おはよー」

 

「おはようさん」

 

「高嶺さんも、おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

「今日は色々忙しくなりそうですけど、頑張りましょうね。私も練習はしましたけど……もし不手際があった場合は助けてもらえると、ありがたいです」

 

「分かってる。って言っても、俺も助けてもらう立場かもしれないけどな……」

 

「それなら俺も助けてもらうことにしようかな?」

 

「アンタらはしっかりと練習したでしょうが」

 

「ういっす」

 

「それじゃあ、始めましょうか」

 

「そう、だな……」

 

昨日のことが引っかかる高嶺にと、それをなるべく表に出さない様に取り繕っている明月さんを交えたケーキ作りが……今、始まる!

 

「で~きたぁ~……ふひぃ~……」

 

とは言ったものの、特に何も起こらずにケーキの準備が完了する。

 

「お疲れ様です」

 

「はあ~……手首ぶっ壊れそう……いつもより神経使ったぁ~……」

 

無事やり切った涼音さんがへなへなと崩れて行く。

 

「本当にお疲れ様です」

 

「数はそこまでとはいえ、やっぱり大変だわぁ~……」

 

「どうします?取りあえず休憩に入られては?」

 

「そうですね。開店してからすぐはお店の方も落ち着いていますし、午後からも作るのでしたら今の内に休んでいた方が涼音さん的にもいいかと思います」

 

「そう?なら、お言葉に甘えて……あとは、よろしく……」

 

初っ端から疲労感がヤバそうな涼音さんを送り出す。

 

「高嶺さんと澤田さんもお疲れ様でした」

 

「ああ、おつかれ」

 

「明月さんもお疲れ。ここの片付けは俺らに任せて、すまんがフロアの準備を進めてもらっても良いか?」

 

「分かりました。それではフロアの方へ行ってきますね」

 

いつも通りの笑顔を浮かべながら厨房を出て行く。……よし、これで場は整ったな。

 

「さてと、これで話易くなったな?高嶺」

 

「……何が言いたいのですか?」

 

「さっきの二人を見るに、フラれた……ではないな。告白していないのか?」

 

「……そうですね。実は……」

 

昨日のことを話し始めようとする高嶺。

 

「あ、すまん。ちょっとお待ち」

 

その話を一旦止める。

 

「そこで『どう声をかけて入ろう……?』と迷ってるお方。どうぞ中へ」

 

「え?ああ、四季さんか……」

 

厨房の入口から困った様子でこちらを覗く四季さんを呼ぶ。

 

「ごめん、盗み聞きするつもりとかはなかったの」

 

「では、3人が揃ったところで、高嶺から改めて聞かせてくれ」

 

「……昨日、二人で一緒に遊園地に行ったんだ。デート自体は上手く行ったと思うけど……肝心の告白がダメだった」

 

「ワタシの目から見ても、無謀だとは思わなかったけど……?」

 

「俺もいい雰囲気だとおもったんだけどなぁ……、けど、告白が出来なかった」

 

「何かあったの?」

 

「いや、今から言うぞっ、って雰囲気を出したら……牽制された。自分は死神だから……みたいな感じで」

 

がっくりと肩を落として顔を下げる高嶺。それを聞いて四季さんが俺をチラリと見る。

 

「あー……そのことを持ち出されると、気軽に口は挟めないなぁ」

 

「なるほど。それを理由にやんわりと断ったって訳か」

 

「ですね……でも実際のところ、なんか肩すかしというか……振り上げた拳をどう下ろせば良いのかわからないというか……」

 

「もやもやしてるってわけね……」

 

「そんな感じ。以上、報告終了……で、ここから新規相談案件があるーーー」

 

「ほう」

 

「諦めてないというわけか、聞こうか」

 

「しつこい男って女の子としてどう思う?」

 

「誰かに好きって言われるのは、悪い気はしないと思う」

 

「だよなっ!!」

 

「嫌いな相手に何度も何度も言い寄られるのはウザいけどね」

 

「でも、高嶺の場合はその通りじゃないしな。可能性は大ありだと俺は思う」

 

「ありがとうございます。一応最初からその気だったので、安心しました」

 

「でも、いいんじゃない?高嶺君が諦めの悪い男なのは、明月さんだって分かってるだろうし」

 

「俺ってそんなにしつこいか?」

 

「そりゃそうでしょ。未練を残したまま死にたくなくて世界を巻き込んでまでやり直す男のくせに」

 

「ははっ、言えてるな。そんな男がたかが告白を躱されただけで諦めるとは到底思えんなっ」

 

「……そっか。そうだった……そうだよな」

 

自分に自信が持てたのか、さっきより良い表情になった。

 

「そうだな、諦めが悪い男なんだからしょうがないよな!」

 

「けど、ストーカーで逮捕って言うのは御免だからね」

 

「インタビューで『いやー、いつかはやるとは思っていました……』って答えるか」

 

「ブレーキ踏むべきって感じた時はどうか俺を止めて下さい」

 

「俺が責任持って止めてやろう。高嶺の意志は固まったし、あとは明月さんとのセッティングだな」

 

「そうですよね……でも今日は忙しいですし」

 

「そこは俺に任せてくれ。また前みたいに話し合う場は整えてやろう」

 

「ほんとですかっ?」

 

「ああ。最高のな……」

 

フロアにまで届く愛の告白の場をな……。

 

あと、隙を見て明月さんに仕込んでおかないとな……『高嶺が疲れてるように思える。後で良いから様子を見てほしい』とでも言えば大丈夫だろう……。二人が奥へ行けばあとはお祭りって戦法よ。

 

 

 

 

 

 

その後、高嶺が暇さえあれば明月さんを目で追っているのを注意したり、クリスマスシーズンの忙しさに翻弄されながらもなんとか1日を終える。

 

「ご馳走様でした。また寄らせてもらいます」

 

「ありがとうございます。心よりお待ちしております」

 

本日最後の客が店を後にし、営業を終える。

 

「……高嶺」

 

「はい?」

 

「奥の部屋へ行って待っててくれ。明月さんを送る」

 

「え?いえ、でも片付けが……」

 

「話がついてからでも大丈夫。いいからいいから」

 

「わ、わかりました……」

 

こそこそと話し、奥へ送り出す。それを見送ってから、表の看板をしまった明月さんに声をかける。

 

「お疲れさん」

 

「澤田さんも、お疲れ様です」

 

「夕方辺りに言ってたけど、高嶺がやっぱり少し疲れて様に見えた。だから休憩室で休んでもらうように今言った」

 

「っ!?……わかりました。少し様子を見てきます」

 

「すまんが頼む」

 

「気にしないで下さい。これも私の役目なのですから」

 

そう言って高嶺の様子を見に奥へ消えて行く。

 

「うむ、これで完璧」

 

満足そうに頷いていると、四季さんが馬鹿を見るような目で俺を見ていたので、取りあえずグッドポーズを送り返す。

 

「さってと、片付けでも始めましょうかね」

 

フロアの掃除や片付けを進めていると、涼音さんが話しかけてくる。

 

「昂晴は?」

 

「高嶺でしたら、奥の部屋で明月さんと話してますよ」

 

「話?なんでわざわざ奥で……告白でもしてるの?」

 

「さぁ?個人的なお話でもしてるんじゃないですかね」

 

「まぁ、それならいいや」

 

所在が分かったことで納得し戻っていく。

 

このまま二人のとこへ行かない様に防衛しつつ片付けをして行けば大丈夫だな。

 

「ちょっといい?」

 

後ろから四季さんに呼ばれる。

 

「ん?ここは通さないぞ?どうしても通りたいのなら俺を倒してからにしな」

 

「いや、通らないから。奥に行ったみたいだけど……大丈夫なの?」

 

「ふっふっふ、大丈夫だ。高嶺なら上手くやってくれるはずさ」

 

「ならいいけど……」

 

「むしろ明月さんが逃げないか若干の不安要素があって困るんだよね」

 

「あ~……また話を逸らされたり?」

 

「それそれ。……けど、まぁ心配要らないだろ」

 

「はてさて、どうなることやら……」

 

「結果を楽しみにして、こっちは片付けを続けよう」

 

「そうね」

 

話を終え、持ち場に戻ろうと背を向ける。

 

「俺は栞那のことが好きだ!」

 

「………」

 

無言でお互いに振り返る。周囲を見ると、全員が作業の手を止めて、声のした方向へ視線を向けていた。

 

「い、いまのって……昂晴君の、だよね?」

 

「好きですっ!アナタのことが好きですよっ!」

 

「こ、今度は栞那さん………っ!?」

 

「まさか冗談で言ったつもりが、ほんとに告白とはねぇ……」

 

「え、えぇ……昂晴先輩と栞那さんが……!?」

 

「どうやら、上手く行ったみたいね」

 

「そうだな。致命的な何かを失う羽目になるけど」

 

一応作業を続けながら通路に意識を向けていると、主役のお二人が戻ってくる。

 

「あの……すみませんでした。片付けの最中に抜け出してしまって……」

 

「い、いえ。平気ですよ。片付けくらい、アタシたちだけでも出来ますからっ」

 

「悪い。決してサボるつもりはなかったんだ……大事な用件があって」

 

「いいのいいの。全然いいの。そうだよね、昂晴君にとっては大事な用件だよね……」

 

「~~~~~~~ッッ!!」

 

帰って来た高嶺達を見て、墨染さんと火打谷さんが顔を赤らめて目を逸らす。

 

「……なぁ、四季さん。あの2人、どうしたんだ?怒ってる……のとは、ちょっと違うっぽいけど」

 

「単純に、どう目を合わせて良いのか分からないんでしょ」

 

「何故……分からないのですか?」

 

うむ、本人たちは一切分かっていないな。

 

「そりゃ、そうでしょう……ねぇ?」

 

面白がる様な表情を浮かべ、こちらに同意を求める。

 

「ああ、そうだな。なんせ……」

 

「俺は栞那のことが好きだ!」

 

「ーーッッ!?」

 

俺の台詞に高嶺が目を見開く。

 

「好きですっ!アナタのことが好きですよっ!」

 

「んなぁっ!??」

 

俺の台詞に続いて四季さんも明月さんの台詞を再現する。それを聞いて本人が驚く。

 

「な、な、なんでそれっ……!」

 

「なんでもなにも……あれだけ大きな声で叫ばれちゃ……ねぇ?こっちに聞かせたいのかと思った」

 

「………、確かに。大きかったな」

 

冷静になった高嶺が、自分の行動を振り返って納得をしている。

 

「~~~ッ!」

 

隣の明月さんは未だに立ち直れていないご様子。

 

「あ、お祝いに特大のケーキでも作ってあげようか?交際記念のチョコプレートもつけてさ」

 

「お気持ちだけで結構です。あからさまに技術の無駄遣いをした嫌がらせにしか思えないので止めてください」

 

「あ、あのっ、キスって……どんな感じでした?ど、どんな味でした?」

 

「いや、まだしてないから」

 

「ね?ね?いつから?いつから昂晴君ってば、栞那さんのこと好きだったの?」

 

「いつからかな…いつの間にかにって感じだったけど……」

 

「細かく説明しなくていいですからっ、そういうの!」

 

墨染さんと火打谷さんに質問攻めされる高嶺と、それを阻止しようと動く明月さんの図が出来ていた。

 

「なんにせよ、おめでとう」

 

「そ、そうですよね。まずはおめでとうございます、ですよね」

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとう」

 

「あ、ありがとう……ございます……」

 

皆からの祝福を受けて、恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

「高嶺」

 

女性陣で話している隙に高嶺を連れ出す。

 

「上手くやったみたいだな。おめでとう」

 

「はい、色々と協力ありがとうございました」

 

「したのは精々場を作っただけだ。それを活かして行動したのは高嶺自身だしな。……これで取りあえずは一安心だな」

 

「ご心配をおかけしました」

 

その後は少しだけ皆で盛り上がってから、片付けを再開した。

 

 

 

 

 

「いやー、無事二人が付き合ってくれたなぁ……」

 

「そうね、お店中に聞こえるぐらいの大告白をね……」

 

店を閉め、さぁ帰ろうとすると、案の定四季さんに呼び止められたので、一緒に帰り道を歩く。

 

「でも、これで終わりじゃないんでしょ?澤田君が言ってた最後は年明けだし……」

 

「だな。これでようやく最終段階に入れたって感じ」

 

「今後の続きって、今から話せたりは……出来そう?」

 

「……そうだな。折角ここまで協力してもらったのに最後は駄目とは行かないもんな」

 

「もし澤田君が隠しておきたいって言うなら無理には聞かないけど……」

 

「いや、話すよ。知らないままだと四季さんが困ると思うから。……取りあえず、俺の部屋で大丈夫?」

 

「うん、了解」

 

なんか毎度この流れで俺の部屋に来ている様な気が……まぁ、他に安心出来る場所が少ないんだけどな。

 

「今日はもてなしは出来ないけど、どーぞ」

 

「お邪魔します」

 

部屋に上がり、暖房と炬燵の電源を入れる。

 

「ほい、お茶」

 

冷蔵庫から飲み物を淹れてテーブルに置く。

 

「ありがと」

 

「そんじゃあ、早速話すとしましょうか」

 

炬燵に入ると、それなりに暖まって来ていた。

 

「えーっと、今日、無事高嶺と明月さんが交際を開始しました」

 

「ええ、作戦通りにね」

 

「実は、明月さんが高嶺との交際を断っていた理由があります」

 

「死神だからじゃないの?いや、改めて言うくらいだし別のが……?」

 

「ああ。今日が24日だから……6日後の30日だな。この日に明月さんが蝶に還る」

 

「……え?明月さんが蝶に?どういう意味?」

 

「順を追って説明するから聞いてほしい」

 

「う、うん……」

 

「明月さんが死神で、その身体は蝶で構成させてるのは知ってるよな?」

 

「知ってる。前にその話を聞いた」

 

「前提として、死神って言うのは一時的な存在なんだ。神の元へ還した蝶が集まり、新たに生まれ直すまでの準備期間に死神として存在している。そして、その準備期間が終えれば再び、蝶になって還り、生まれ変わって新しい人生を送ることになるんだ」

 

「……それって、つまり明月さんは……」

 

「もうその時間が目の前に来ている。それが6日後の12月30日だ」

 

「た、高嶺君は、知ってるの……?」

 

「既に承知済みだな。昨日のデートでそれを聞いた。日付までは流石に知らないけどな。それでも諦めきれないって今日また告白した。明月さんからずっと一緒には居られないって言われても……」

 

「そうなんだ……」

 

「そんで高嶺の説得に負けて、死神としての残りの人生を一緒に過ごすことを明月さんは選択した」

 

「ねぇ……」

 

「なんだ?」

 

「澤田君は……このことを最初から、知ってたの?」

 

「そうだな、最初から知ってた」

 

「……そ、そう」

 

「四季さんが疑問に思ってるのは理解できる。『どうしてこんな結果を選択したのか?』ってとこか?」

 

「……うん。別に責めるつもりとか一切ないけど……これだと二人が幸せになるなんて思えない……」

 

「ごもっとも。今のままだと幸せとは到底呼べないよな。あと一週間もせずに高嶺一人になるんだから」

 

「……あー、なるほど。明月さんを救う手立てがあるってことね?」

 

「その通りだけど、何に納得したんだ?」

 

本題はこれからなのに……。

 

「明月さんが蝶に還るのが12月30日。だけど澤田君が最後って言ったのは1月1日。2日差があるから、この間に何があるかってのを今から話す……違う?」

 

「あ、いや、当たってる。丁度それを今から話そうかなと……」

 

「そうなんだ、それなら安心かな……?」

 

「まだ内容を話していないぞ?」

 

「わざわざマイナスな事を前置きとして話したくらいだし、何か策があるんでしょ?じゃなきゃ、高嶺君や明月さんに辛い思いまでさせて進めるはずがない。そうでしょ?」

 

「あー……うん。おっしゃる通りです」

 

「それで?何をするの?」

 

さっきまでの不安そうな表情とは打って変わって、真剣な表情で俺を見る。

 

「……まずはこれまでのおさらいと行こうか」

 

「死神は、肉体的な成長がなく死ぬこともない。人と同じ見た目をしているが、決して人では無い。明月さんが死神のままだと、どうやっても高嶺だけが歳を取り、老いて、それを明月さんが看取ることになってしまう。それは明月さんにとっても辛いことになる。まずはそれを無くしたかった」

 

「その為には、明月さんが死神という存在から解かれる必要があった。やり方は簡単だ。明月さんが存在を保てなくなるくらいまで自身の魂を弱らせればいいだけ」

 

「1つ目は、高嶺が世界をやり直したことで、神から目を付けられた。あまりにも強すぎる魂は奇跡すらも可能にする。そこで明月さんが取った手段は、死神の鎌で高嶺の魂をギリギリまで刈り取り、自分の魂を使ってそれを補填する。その地点では明月さんという存在はギリギリの地点で保たれていた」

 

「2つ目は、少し前にあった高嶺の知り合いの野中君が居ただろ?」

 

「うん、覚えてる」

 

「あれを解決した経緯だが、高嶺が野中君の蝶に触れてしまったとこで、負の感情が流れ込んできたんだが、逆に高嶺が強く意思を持つことで野中君に高嶺の明るい感情が流れ込み、感化されて前向きになったおかげで解決出来たんだ」

 

「だからあんなに早く終わったんだ」

 

「けど、高嶺も無事では無かった。蝶に触れれば魂に影響を及ぼす。そしてそれは身体に現れる」

 

「もしかして……!高嶺君が次の日体調を崩したのって……」

 

「そう、蝶に触れたことで魂が衰弱してしまったんだ。このままだと命にも危険が及ぶかもしれない……そこで明月さんに高嶺のお見舞いを頼んだ。一緒に魂の状況も見て欲しいって話をしてな」

 

「高嶺の魂が衰弱しているのが分かれば明月さんなら必ず自分の魂を譲渡してでも高嶺の魂を安定させるってのは分かっていたしな。そして、それをした明月さんはギリギリで保っていた魂が限界を迎えることになった……」

 

「と、ここまでが今までのおさらいだけど……疑問や謎は解けた?」

 

「色々とね……。澤田君が何を隠して、どうしてそんな行動をしていたのかが……納得出来た」

 

「……何か聞きたい事とか、言いたい事があれば受け付けるが……?」

 

「……ううん、大丈夫だから進めて?」

 

「……了解」

 

もっとこう……文句とかやり口が最低とか人の心が無いのかー!って言われてもおかしく無いと思うんだけど……。別に四季さんのなら喜んで罵られたのに。

 

「それで、俺はこのまま明月さんが蝶に還るまで待ち、その後……人として新しく生まれ直してもらおうと考えている」

 

「……それって、可能なの……?あ、でも、最初からって訳ではなくて澤田君みたいにそのままも可能か……」

 

「そそ、そんな感じ。そして後は高嶺に頑張ってもらうことになる」

 

「高嶺君に?」

 

「ああ。そこら辺はあまり説明する必要が無いから省くけど、高嶺が頑張ることでまた明月さんに会えるって感じだ」

 

「それは、人に生まれ直した明月さんと……?」

 

「そう、人としてな……。そこまで来てようやくハッピーエンドってわけだ」

 

「……それが間の2日間ってわけかぁ」

 

「この後のことは特に協力してもらうこととかないし、俺も様子を見るだけ。けど一応話しておかないと困るだろ?」

 

「そうね。聞かないままだったら問い詰めていたかも……」

 

半笑いしながら手元のお茶を飲む。

 

「それなら話して正解だった」

 

話が終わり、俺もお茶を飲む。

 

「澤田君は、いつからこのことを計画していたの?」

 

「いつから……、9月からだが?」

 

「最初からってことかぁ……。なるほどね」

 

「ちゃんと動き始めたのは最近だけどな。それまではお店のことを集中していたし」

 

「なんて言うか……お疲れ様」

 

「まだ終わってないけどな。……それに、大したことはしていないからな」

 

「またそう言う……。労いくらい素直に受け取ったら?」

 

「ありがとうございます」

 

「うん、よろしい」

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま、っと」

 

澤田君に家まで送ってもらい、何事もなく帰宅する。

 

「はあぁぁー……」

 

自分の部屋に無事戻ったことに安堵する。冷静にしているつもりだけどやっぱり緊張というか……ドキドキする。

 

「まさか、自分がこんなことになるなんて、半年前じゃ想像もしてなかったなぁ……」

 

お風呂のスイッチを入れて、お湯が貯まるまでの間ベッドに座る。

 

「9月の初めに明月さんから紹介されて、一緒にお店を開くことになって……」

 

あの時は普通の無害そうな人が来たというくらいの認識だった。

 

「それからコーヒーや紅茶の淹れ方や味を色々試して……」

 

明月さんと澤田君が買って来た豆で味の違いを……違いを……うん。

 

「その時だっけ?澤田君の昔話を聞いたのは……」

 

幼い頃に両親を亡くして、叔父に育ててもらい、紅茶を学ぼうとしたら変な施設へ連れて行かれて……ってあれは本当なのだろうか?

 

「……でも、あんな姿を見せられた身としては信じるしかないかぁ」

 

明月さんを庇って肩に傷を負い、同じ日の夜に犯人を追いつめてワタシのせいで足に……あの時のワタシは最悪だったなぁ……。

 

「それと火打谷さんのもか」

 

計3回も巻き込まれて……いや、止める為に自分から行っていたのかもしれないけどね。となると、ほんとにワタシの行動は余計だった。

 

「それから高嶺君が来て、急に状況が動いて……」

 

それまでの1ヶ月はゆっくりとしていたが、高嶺君が来て、火打谷さんが来て、墨染さんが来て、涼音さんが来て……無事お店が開けた。想定していたよりもたくさんのお客さんが来て今でもありがたいことに繫盛していると言ってもいいくらいには人が来ている。

 

「そして、その裏で色々と動いていたと……」

 

この3か月を振り返る。すぐに思いつくのはワタシを揶揄ったり満面の笑みで変態発言をしている彼の姿だけど……、知らないところで沢山悩んで沢山決断をして……皆の為に頑張って来てくれた。

 

「……そもそも、澤田君が言ってる力っていつからなんだろ?」

 

高嶺君やワタシの、お店の事の未来が視えるのは事実。限定的なものとも言ってた。以前の口振りからしてこっちの世界に来る前から知っていたみたいだし……。

 

「……っ!?」

 

そこであることに気づく。

 

「澤田君の身体も……明月さんみたいに蝶で、出来てるよね……?」

 

彼も明月さんみたいにワタシに似たようなことをしていた。確かおでこをくっつけて……。

 

「ま、まさか……っ!?」

 

嫌なことを思いついてしまい、すぐにスマホを取った。

 

 

 

 

 





一旦、一区切りっと。次はこれの続きを書いて行きます。


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