遊園地……観覧車……Sweet Mariage……うっ、頭が……!
「おはようございます。今日は朝から来てもらってありがとうございます」
「いいよいいよ。昼からは高嶺と大事なデートがあるからな」
今日は、今年のお店の営業が終わってから次の日。とうとう運命の日がやってきた。クリスマスのイベントが終わり今年も残り少ないなと考えていたが、あっという間に過ぎていた。一応今日と明日の為に邪魔が入らない様に話はしている。
「ナツメさんも、今日はわざわざありがとうございます」
「ううん、一応澤田君から軽くは聞いてる。今日が最後だって……」
「そうでしたか。それなら説明する手間は要らなさそうですね」
静かな店内で3人の声だけが小さく響く。
「そういえば、チケットは持ってるよな?」
「はい。以前に頂いた物をしっかりと」
「一応プレミアムなやつだから、乗り物の待ち時間を短縮出来るぞ」
「こんな物まで用意して……ありがとうございます」
「明月さんの新たな門出への餞別ってことで」
「あまり良いことって言いづらいけどね……」
「今日俺たちを呼んだのは、最後の挨拶……で良いのか?」
「はい。それと、明日からの事をよろしくお願いいたします。と……」
「大丈夫、既に明月さんが抜けた後のことはちゃんと考えてるから。人員の目処も立ってる」
「そうなんですか?ミカドさんは仰っていませんでしたが……?」
「俺が予定として考えてるだけ。フロアだし女性で……今度の人は死神では無くてちゃんとした人間の予定だ」
「なんと、既にそこまで」
「死神の仕事も俺と火打谷さんで可能な限り手伝うって言ってるしな」
まぁ、俺に至ってはあのチャラい口調の上位神と色々約束を交わしているんだが。
「何から何まで……本当にありがとうございます」
「明月さんが今日の遊園地を心置きなく楽しめる為に頑張りました。なぁ?四季さん」
「ワタシはそんなにかなぁ……?澤田君の手伝いを少ししただけだし」
「因みに、何かやり残した事とかあるか?」
「いえ、私の方は既に終わらせているので心配要りません」
「そうか……」
「……これまで、色々なことを協力していただいてありがとうございました」
「こちらこそ、あの森で出会ってから色々と助けてもらった。その恩返し……も含めて協力しただけ。俺の方こそありがとう」
「ワタシも、明月さんと閣下に協力してもらったからお店が開く事が出来た。ほんとにありがとう」
「死神のお仕事ですからね。当然のことをしたまでですよ」
「明月さんは……蝶に還ったら、生まれ変わる……って認識でいいの?」
「はい。新たに生まれ直すことになります」
「それって、赤ちゃんから……?」
「そうなりますね。生まれ直すということはまた新しく一から人生を始めるということですから」
「そう……わかった」
「そうなると、もしかしたら10年後とかに明月さんの生まれ変わりがこのお店に来るかもしれないな」
「……そうですね、可能性はありますね」
「こう、懐かしい匂いに誘われて……みたいな展開がっ!?って感じでさ」
「それまで頑張ってお店を維持しないといけないのかぁ……大変かも」
「もしかしたら超人気店になって2号店とか3号店をオープンさせてるかもな。そこから全国展開とかして。そしたらお店に来る可能性が高くなるだろ?」
「このお店に過剰なポテンシャルを感じてない……?」
「どうなるか分からないだろ?」
「そりゃ、そうだけど」
「だから、明月さんもその時はお店のドアを開けて中に入って来てくれよ?」
「仕方ないですね……。しっかりとエスコートしてくださいよ?」
「ああ、高嶺にさせてあげるから安心してくれ」
「……なんだか、澤田さんにそう言われると、期待しちゃうじゃないですかぁ……」
「ははっ、それもそうだな」
「そうですよ。澤田さんの奇跡ならもしかして……?って考えてしますのでこういうお話は無しでお願いします」
「俺はあくまで可能性の話を言っただけなのになぁ……」
「だからこそ、です」
「澤田君はそうやって相手の反応を楽しんでる時があるから」
「あれ?四季さんまで……!?」
「これまでの行いですね」
「そうね」
「まぁ、その通りだから否定できないんだけどさー……」
「そこは否定してくださいよ……」
「……さてと、用件も済んだし、そろそろお暇しようかな?」
「もう帰られるのですか?昂晴さんとの時間までまだ余裕はありますが……」
「まぁな。ミカドさんと話しておきたい事とかもあるし」
「分かりました。最後に改めてありがとうございました」
……最後に、ねぇ。
「こちらこそありがとな。次会う時は死神としてじゃなくて、人として生まれ変わった時だな。楽しみにしてるよ」
「……っ、ほんとに。そう言ってると……本気で期待しちゃいますよ……?」
「良いぞ?期待してもらって。明るい人生が待ってるって思った方が良いだろ?」
「……そうですね。そうでした」
「と、いうことで……また会おう、明月さん」
「はい、またです」
「ワタシも。またお店で会いましょう」
「はい。ナツメさんもまた会いましょう」
明月さんに見送られて店を出る。
「さてと……帰りますかぁ」
「なんだかあっさりと終わったけど……良かったの?あれで」
「湿っぽいの嫌だしな。それに、ちゃんと次があるしな」
「まぁ……それもそうなのかな……?」
「この後のご予定は?」
「んー……特にないかな。折角外に出たんだしついでに買い物とか済ませようとか、そんぐらい。そっちは?」
「帰って寝るくらいだなぁ……あとはタイミング見てミカドさんと話すくらい」
「堕落的だなぁ……ってワタシも似たようなもんだけど」
「なんなら俺たちも今から遊園地に行くか?」
「人のデートの後を尾けるなんて趣味悪い」
「いやいや、純粋に一緒に楽しむだけだぞ。別に高嶺達の事を見るとかそんなんじゃない」
見る必要が無いしな。
「それでも遠慮したいかな……。遊園地に行くのって気力要るでしょ?今からそんな気分になれない」
「あ、それ分かるわ。結構気合入れるから前もって言わないと行く気起きない的な」
「そうそれ。当日に言われてテンション上げて気軽に行けるものじゃない」
あるあるだな。
「四季さんって休日とか何してるの?」
「ワタシ?そうだなぁ……基本的にダラダラしたり、お店のこと勉強したり?たまに気になった映画とか見たりしてるかな」
「如何にも休日って過ごし方だな」
「そんなもんでしょ。澤田君は?」
「俺は……スマホで動画見て時間潰したり?運動とかも多少はしてたりするかな?家で出来る範囲だけど……」
「へぇー……ダイエットでもしてるの?」
「いや、体型維持というか……筋肉と感覚を落とさない為?」
「あっ、そっか……。それって前の世界でそうだったから?」
「だなぁ……、ここでは必要に駆られることはないけど、なんか習慣になってる感じ」
「そうなんだ。他に家では何かしてるの?」
「その日以降のお店関連を考えたり?」
「やっぱりそれもなんだ」
「まぁ、これに関しては毎日だから休み関係ないな。後はたまに蝶関連でミカドさんや明月さんの手伝いをしてたな」
「蝶を回収してたってこと?」
「だな。と言ってもメインは明月さんで、俺はサポートしてたくらいだけどな」
「ふーん、色々としてたんだ」
「四季さんはどんな映画を?良く見るジャンルとか」
「特に偏っては無いけど、最近見たのはSF系かな。主人公の男が自分の友人を幸せにするために過去に戻って未来を変えるんだけど、そのせいで戻った現在は自分が知ってる現在じゃなくなってたってあらすじ」
「バタフライエフェクトってやつか」
「そうそう、それ。自分が過去を変えたせいで違う未来になるってお話」
蝶の羽ばたきが遠い場所では竜巻を起こすほどの風になってるとかなんとか。元の世界でもそう言ったゲームとアニメがあったな。大学生で厨二病のマッドサイエンティストのやつ。
「その結末は?」
「なんか終わり方が3つあるみたいで、ワタシが見たのは最終的に最初の状態に戻して終わりって感じだった」
「3つ?」
「そう、ワタシが見たサイトとDVDとでは違う終わり方になるとかなんとか……」
「へぇ、何それ。凝ってるな……題材に合ったやり方だな」
「分かる。凄いよね。まぁ、1つ見て満足しちゃったけど……」
「ひとつで満足しちゃったかぁ~……、面白そうなもんだけどな」
「そう?なんなら……今度一緒に見る?」
「その映画を?でも見る気起きないだろ?」
「自分だけだとね。でも澤田君が見るって言うなら見ようかなって」
「それなら是非ともお願いします」
「タイミングは……少なくとも来年の全部終わった後にしとこっか。その方が気兼ねなく楽しめるでしょ?」
「そうだな。その方が助かる」
「それじゃ、その時にまた予定決めよ」
「了解」
まさかただの雑談が映画鑑賞に繋がるとは……神様ありがとうございますっ!!
「っと、着いたな。そんじゃあ、また」
「うん、送ってくれてありがと。何かあったら遠慮しないで連絡して」
「その時は頼らせていただきます」
「ん、それじゃあまたね」
四季さんが部屋に入るのを確認して帰路に着く。
「正直、後はすること特に無いからなぁ……」
卯ノ花やルリ、その上司との話は付けてる。火打谷さんにも今日と明日は蝶が居ても回収しないように言ってある。ミカドさんにもぼんやりと説明はしてるけど……念のため明月さんと高嶺が遊園地に行った頃にもう一度会っておいた方が良いかもしれないな。
「今日は何を食おうかな……」
その日の夜、夕食を作る気が起きなかったので外食することにした。何となく……とまでは行かないけど、もしかしたらワンチャン高嶺と遭遇出来たり……とか考えていた。
「お店に一度立ち寄るから駅前を歩いてたらあるかもな」
家から出てお店から駅へ向かうルートを歩く。店を過ぎると、正面から一人の男がこちらに向かって来るのが見える。
「……まさか本当にタイミングが合うとは」
距離が近づくと、こちらに気が付いたので声をかける。
「こんな場所で偶然だな……高嶺」
「澤田さん……こんばんわ」
「ああ、こんばんわだな。……高嶺1人っていうことは、そういうことなんだな」
「……はい、栞那は蝶に還りました」
「そっか。無事次に行ったんだな……」
「これまでありがとうございました。栞那とのことでの協力や、あとお店の事とかも……」
「いいや、したくてしただけだし気にしないでくれ。それより、寄り道しているってことはミカドさんに用があるんじゃないのか?」
「そうですね、栞那が戻ったってことを……一応報告しておかないといけないかなって」
「そうだな。大事なことだな……」
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、また来年だな」
「はい、また年が明けてお店で……」
お店へ向かう夜道を歩いていく高嶺の背中を見送る。……今の高嶺を見ていると、明月さんも随分と無茶な約束を高嶺と交わしたもんだな。"ずっと笑顔で笑って下さい"とか……。しかも高嶺もそれを守ろうとか……。
「高嶺がずっと笑顔で幸せでいるための必須条件なのになぁ……」
明月さんが死神のままで消えず継続させる方法ならあるのはある。だけどそれだと意味が無いから一度蝶へ還って人間として生まれ変わってもらう。高嶺と人生を歩むためにはこれは外せないとは分かっているんだけど……、高嶺の顔を見ると罪悪感が……こう、物凄い。
「……適当に買って帰るか」
外食する気分が無くなったためコンビニ方面へ向かう。いや、完全に自業自得なんだけどさ。
次の日、俺はとある蝶を探してお店に来ていた。
「お邪魔しまーす……って誰も居ないな」
店内に入りそのまま奥の二階へ上がる。
「……ミカドさんも居ないと」
明月さん達が間借りしてる部屋へ上がり周囲を見渡す。
「うーむ、ここに居るかと思ったけど……もう既に高嶺の所に向かってるのかな?」
これなら高嶺周辺を探した方が安全か?
お店を出て神社に向かって歩き出す。そういえば、神社に行くのって初めてだな。
用が無かったので特に行ってなかったが……墨染さんの実家で神社で年末に奉納式があって、それに確か朝武さんっていう人が……あれ?朝武?んん?どこかで聞いた事があるような……?
「……いや、細かい事は気にしないでおこう」
既に神様とやらで一杯一杯だ。これ以上他作品の乗り込みとかは良くない。うん。
赤い蝶とかが出ませんようにと考えながら神社に着く。年末近いという事もありそこそこ人が多い。
「この中に居るわけないか……」
少しブラっとして出店を見ていると、見知った顔を見つける。
「……む、お前は」
出店のたこ焼きを頬張ってる少女と目が合った。
「……これは意外、こんな所に出現するんだな」
「ルリがいたら変なのか?」
「いや、そういうわけではない。ここらの出店を食べに来たのか?」
「そうだ。こういう時にしか味わえないからな。やらないぞ?」
「要らん、食べたかったら自分で食べるよ。腹が空いたらだけど……」
「ルリのおすすめはあそこの焼きそばだな。ソースとの味が美味かったぞ」
「へぇ……確かにいい匂いだな。何箇所か食べてるのか?」
「これで5件目だ。後はデザートにあの小さいカステラを食べるつもりだ」
「ああ……あれね。はいはい、ベビーカステラね。あそこのチョコバナナも甘いものだぞ?」
「っ!?あんなところに潜んでいたとは……!」
「どっちにするんだ?」
「どっちも……だけど、お腹の余裕が……」
耳と尻尾があれば間違いなく垂れてるだろうなって分かる位には落ち込んでいる。
「……なら俺がカステラの方を買おうじゃないか。気になっていたし。だからそっちはチョコバナナを買って食べると良い。少し位分けてあげよう」
「……っ!いいのか!?」
「これならどっちも味わえるだろ?」
「……達也、お前良い奴だな。褒めてやる」
「そりゃどうも……」
そんな目をキラキラさせて言っても威厳も何もないな。
たこ焼きを食べ終わるのを見てベビーカステラを買う。……これが売ってるってことは腰をやらなかったんだな。この人。
四季さんのルートのことを思い出しながら美味しそうに買ったチョコバナナを食べているルリの方へ向かう。
「ほい、ベビーカステラ。どうぞお納め下さい」
「うむ、苦しゅうないぞ」
片膝を付いて紙袋を差し出す。端から見れば姪と戯れてるように見えるのだろうか?横を通った婦人が微笑ましく俺を見てた。
「どう?美味いか?」
「……もう一つ」
「幾らでも食べてくれ」
追加を要求したってことは美味しかったのだろう。俺も一つ摘まんで食べる。
「うん、普通に美味いな」
想定内の美味しさだ。普段から涼音さんのを知ってると物足りないが……。
「このチョコバナナも美味い。今日は良い日だ」
「そうかそうか、良かったな」
美味しそうに食べてるのを見ていると、こちらに近づいてくる人物が視界に入る。
「戻るのが遅いと思って見に来れば……お主といたのか」
「よっ。さっき偶々そこで会ってな。食べ歩きしてたんだ」
「その様じゃのう」
「そっちも食べるか?そこで買ったベビーカステラだけど」
「ほう……ふむ。では折角だし頂くとしよう」
袋から取ったベビーカステラを一つ食べる。
「……食べやすいな。甘すぎず薄くも無い。程よいバランスじゃ」
「一口で個数があるのも食べ歩くのに向いてるよな~。好きなだけ食べてくれ」
「そうか?ならもう一つ……」
「……ていうか、ここに居て大丈夫なのか?」
「ん?どういう意味じゃ?」
「いや、ここって神社だろ?仮にも神が他の神の敷地内に入るのって良くなかったと思うんだが……?」
「なんじゃ、こちらのことに詳しいのだな。それについては心配は要らぬ、既に許可は取っておる」
「そうなんか。なら大丈夫か」
「それに、仮に迷惑をかけたとしても怒られるのは妾ではなく上のあやつだからの。たまにはこうやってこちらからも嫌がらせをしておいた方がいいじゃろう」
「うわぁー……良い性格してんなぁ……」
「ルリが来たいと言っておったからの。ちゃんと事前に話は付けておる」
「地上を満喫してんなぁ」
「上からはお主のことを見守るだけで過度の干渉はするなと言われたからの。暇じゃから色々と楽しませてもらっておる。いわば長期休暇みたいなものじゃ」
「神もたまには休まないとな」
「その通り。ぬしらの店にも週一くらいで行っておるぞ」
「マジか。常連さんかよ」
「デザートが美味くてのぅ……あとは最近はオムライスを食べたぞ?口コミでも評判だったから気になって食べたが評判通りの美味しさじゃな。他の種類も増えて楽しみじゃ」
口コミって……。なんかシュールだな。
「あんがと。シェフにそう伝えておくよ。神様も認めたってな」
「来年も楽しみにしておるぞ」
「ああ、ご来店をお待ちしておりまーー」
店員としての言葉を吐こうとした時、視界の隙で高嶺が歩いてるのが目に入る。
「どうしたのじゃ?急に黙りおって……」
「いや、来年も是非とも来てくれ。店員一同楽しみに待ってる。それと、急用が出来たからすまんが帰る」
「そうか、妾達のことは気にせんでいい。そっちを優先するがよい」
「ありがとう。……それと、これあげるから2人で食べてくれ」
手に持っていたベビーカステラを渡す。
「良いのか?買った物じゃろ?」
「充分堪能出来たしな。俺からの貢ぎ物だ」
「随分とてきとうな貢ぎ物じゃのう……もう少し敬ってもよいのではないか?」
「それなら来年にでもお店で何か奢るよ。そんじゃ、良い年を」
高嶺の姿を見失わない様にその場を離れて歩き出す。
確かこのまま家に戻って、メシ食べて寝て……夢を見て起きたら蝶を見つけて……だったか。念には念を入れて無事蝶が高嶺に行くのを確認しておかないとな。
そのまま少し離れた位置から後ろを追ってマンションに入って行くのを確認する。
「問題は明月さんの蝶がどこに居るかだけど……待ってたら来るでいいのかね……」
これで、来ませんでしたっ!とかなったら流石に笑えない。全部パーである。
「……もう少し探すかぁ」
マンションから離れてお店と駅前を歩き回る。
「あれ?達也先輩?」
「ん?……って火打谷さんか、買い物の帰り?」
「はい。もしかして、先輩も買い物ですか?」
「いや、俺はちょっと探し物を……。今日と昨日は蝶の回収ってしてないんだよな?」
「え、はい。言われた通りしてないですよ?」
「おっけー。あと、蝶が飛んでたりとかは?」
「いえ、見てないですね。何か探してるんですか?」
「少しな。回収されたら不味い蝶がいて探してたんだ」
「あー、だからアタシにそう言ってたんですねっ」
「そう言うこと。もし見かけたら連絡してほしい」
「分かりました。お任せくださいっ!」
ビシッと敬礼をこちらにしてくる。
「ありがとな。それじゃあよいお年を。また来年」
「はいっ、先輩もよいお年をー」
手を振って別れる。……うーん、もう一度お店に行ってみるか。
最後にもう一度お店に向かう。
「……おっ、蝶だ……」
お店の前に着くと、ひらひらと飛びながら店内へ消えてく蝶を見かける。多分間違いない。
その後を追ってそのまま屋根裏部屋へ辿り着く。
「……やっぱり、明月さんか」
部屋に入ると、スマホの上に止まる蝶を見つける。机の上に置いてあるスマホは明月さんの物で当たってるだろう。
「となると、これから高嶺の所にか」
スマホの上で羽を動かしてる蝶に手を差し出す。
「行こうか明月さん。高嶺の場所までエスコートするよ」
俺の言葉に反応したのか、周囲を飛び回る。どこかに止まってもらおうと腕を上げると、意図を察したのか俺の腕に止まる。
「ーーーッ!?」
と、その瞬間。蝶からの感情と記憶を受け取って咄嗟に腕を離す。
「……危なぁ……。すまんがやっぱり飛んで付いて来てくれ」
焦りを落ち着かせながら店を出ると、問題無く俺の後を付いて来てくれている。
……さっきのは危なかったなぁ。明月さんから高嶺へ対する感情が流れて来てしまっていた。無意識だとは思うが……、高嶺のことを心配しまくってるし、好きすぎるだろこの人……、危うく俺まで高嶺のこと好きになったらどう責任取るつもりだこんにゃろ。
使っていて初めて弊害的な物を感じて焦った。強すぎる感情や願いだったからか、俺にまで浸食……とまでは行かないが感化させてくるみたいな感覚。確かにこれは危ないな。
ミカドさんや明月さんの忠告を思い出しながら高嶺の部屋の前に着く。
「……んー……、中で物音は無いな。動く気配も無いし……寝てるのかな?」
中の様子を確認して飛んでる蝶を見て呼びかける。
「着いたぞ。明月さんの運命の人の部屋だ。行ってくると良い」
そう言うと一度俺の周りを飛んで中へ入っていく。
「……これで後は高嶺がミカドさんの方へ行って終わりだな。まぁ一応部屋から出る所までは見ておくか」
時刻は既に夕方を迎えている。何時頃になるかはわからないけど、ミカドさんが缶詰を開けようとしていた辺り夕食だったんだろう。
高嶺のマンションとお店への道とは逆側で入口が見えるようにコンクリートの段差に座る。
「お店まで見に行きたいけど、近くに居ることで巻き込まれて一緒に過去に飛ぶのは嫌だしなぁ……」
確かあの日の俺は店の前で3人の確認をしていたはず。それがそう影響するか分からない以上行かない方が賢明だろう。
スマホで時間を潰しながら待っていると、マンションの入り口から全力で走りだす高嶺を確認する。その背中にはしっかりと明月さんの蝶も付いて行っている。
その背中を見えなくなるまで見送ってからその場を離れる。
「ん~……っ、よしよし、明月さんもちゃんと付いて行ってるし成功だな」
背伸びをして家へ帰る。これで無事明月さんが戻ってくる。しかも即同棲だし、揶揄ってあげないとな。
「全部知ったあとで色々と怒られそうだけど……まぁ、甘んじて受け入れるか」
その程度可愛いもんだし、半分くらいは照れ隠しとかだろう。明日の神社辺りで良いだろう。そこらへんで合流すれば皆もいるし。
「っと、一応遠回りして帰ろう」
どのくらいが範囲内か分からないしな。
夜が明けて朝日が昇り、人の動きも活発になり始めた時間帯に起きて朝食を食べる。
「うーんやはり日本の朝はソーセージに目玉焼きと味噌汁が正義だな。あと白米」
これに納豆と海苔もあれば朝の定食だ。いや、サラダが足りないか?
「……ん?」
スマホからメッセージの通知が届く。朝の今に珍しいな。
画面を見てみると、四季さんからだった。
「『今日の初詣だけど何時頃に行く?』か、……って付いてくるのか」
別にわざわざ合わせなくても良いのだが……四季さんも結果が気になるのだろう。
「そっちに合わせるよ……と、正直タイミングはいつでも良いしな」
返事を送ると、すぐに帰ってくる。
『それじゃあお昼前にでもどう?』
「お、いいね。ついでに屋台とかのご飯も食べてみるか」
メッセージに返信をして朝食を続ける。新年1日目から最高の日になりそうだなぁ……。初夢は見てないけど。
「お店へのお守りとか買っておいた方が良いのかな?こういう時って……」
確かあそこの神社って元は安産祈願とかだった様な気がするが……まぁいいだろ。娘に巫女のコスプレさせて収益化してるくらいだし細かいことは気にしなくても。
朝食を食べ終え、少しゆっくりしてから支度を整え部屋を出る。
「あああー……やっぱり外は寒いなぁ」
マフラーを巻いてるが手の方は寒い。そういう時『それじゃあ……手、繋ごっか……?』みたいな展開が良くあるが……はぁ。やめよ、考えるのは。
くだらない事を考えながら神社に向かっていると、少し離れた場所でありえないものを見る。
「……は?た、高嶺……?」
そこには、2人では無く1人で歩いている高嶺がいた。
しかも……
ようやくここまで来れました。最終局面ですね!