喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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解説回……?




第75話:心残り

 

「その喋り方……ってことはそっちか」

 

ねっとりめの話し方で誰なのかすぐに理解する。中へ声が届かない様に外に出て扉を閉める。

 

「んんー、ごめんねぇ?彼女さんと折角イチャイチャ出来る時に来ちゃってさ」

 

「残念ながら彼女じゃないな。それで?わざわざ来た用件は?」

 

「キミなら何となく察してるとは思うけど……例のあの子の件だよ。色々と動いてるみたいだね」

 

「……不都合か?」

 

「いーやぁ、別に止めるつもりはないから安心してくれていいよ?」

 

……と言ってるが、安心は出来ないなぁ。

 

「本来あるべきだったことが起きなかった。その元凶が解決させる……何も問題はないよな?」

 

「うん、無いね。こちらとしてもそれに関しては反対しないよ。特殊な例とは言え良い事なのは間違い無いからね」

 

「それなら、約束の件か?」

 

「そう、それもだよ。僕と交わした約束、覚えてる?」

 

「そりゃな。明月さんが人間として生きる為に起こす事象を見逃す代わりに死神の仕事を担うこと。それと、俺が生涯を終えた後はそちらに協力する。だろ?」

 

「うんうんそうだね。前者は元々してるし事情も詳しいから気にしてない。後者はキミの死後、その素質を見込んで働いてもらおうと思ってるよ」

 

「俺の素質ねぇ……そんなに良いのか?」

 

「うーん、位としては中の下だね、もしくは下の上。ぶっちゃけあのお店で働いてる神社の子、あの子の方が素質として上だね」

 

墨染さんか。まぁ本物だしそれもそうか。

 

「けど、キミの場合は色々と都合が良いのだよねぇ。こちらの事をある程度知っていて能力もある」

 

「最近はこっちも良い人材が中々見つからなくて人手不足なんだよぉ。だから君みたいな素質ある人材は欲しいんだよね」

 

「まぁ、それなら好きにしてくれ」

 

「そうしたい事なんだけど……キミがしようとしてることを考えると、少し不都合があってねぇ?」

 

……やっぱり頭の中が読まれるって嫌な力だなぁ。

 

「あるべき元の世界に戻す。おかしいことじゃないだろ?」

 

「言いたい事は分かるよぉ。でもそれをする為に自分を消すのはどうなのかなぁ……?」

 

「今回の騒動に限らず、俺が視て来た世界で起きていなかった出来事の元凶は俺だと考えているんだが?」

 

「それに関してはYESと答えよう。これまでの騒動の殆どはキミがこの世界に来たことで生まれた事だと僕も考えてるよ」

 

「……詳しく知ってるのみたいな言い方だな」

 

「気になっちゃう?そうだよねぇ。自分が関与してるとなったら聞きたくもなるよねっ。でも、知ったら更に後悔することになるかもしれないよ?それでも聞くかい?」

 

「聞くに決まってるだろ。それでも知るべきだ」

 

「律儀だねぇ……、良いよ。特別に僕の見解を聞かせてあげよう」

 

目の前の神が楽しそうに笑いながら解説を始める。

 

「と言っても僕も確信を得たのはキミらが森で蝶を見つけたからなんだけどね」

 

「森で……?」

 

「不思議に思わなかった?どうしてあんな場所に蝶が集まっていたことに」

 

そりゃ当然に気になった。が、それより回収することを優先した。

 

「あそこには人の死の怨念が溜まっていたんだよ」

 

「怨念……?」

 

「そう、怨念。と言っても実際にあの場所で人が死んでいたわけじゃないけどね。……キミにも分かりやすく言えば……、そうだね、キミが元々居た世界とこちらの世界を繋ぐ門みたいなものがあそこにはあったのさ」

 

「……門が?」

 

「キミがあそこで生まれたのもそれが原因だろうね。これも推測になるのだけど、恐らく門の向こう側……キミが居た世界で大量に人が死んでるね。それもかなり惨たらしい殺され方で」

 

「はぁ?」

 

「これに関しては僕も断言はできない、でも蝶が大量に居たってことはそう言うことだろ?」

 

「まぁ……それは分かるが……。いや、ってことはさっき居た蝶は……」

 

「うん、そうだね。キミが生まれた後も次々と殺されているね。キミが居た世界って世紀末なの?それとも世界大戦でも始まった?」

 

「いや、ここと大して変わらない日本だったが……」

 

「まぁ、それについては後にしようか。まず、キミがあそこで生まれた原因がこれね。まずこれが大前提」

 

「あ、ああ……」

 

「そんな魂で作られた君はその類の感情を受け付けなかった。ま、これに関しては他にも理由があるんだけどね」

 

……だから明月さんやミカドさんがおかしく思っていたのか?

 

「そして、蝶は感情に引き寄せられる。キミを創る負の感情に蝶は引き寄せられたのさ」

 

「つまりは、俺が街に蝶を呼び寄せたってことなのか?」

 

「そう、大正解。駅で出会ったナイフを持っていた男が居たでしょ?彼は元からだったけど、背中を押したのはキミに引き寄せられた蝶だね」

 

「……本当なんだな?」

 

「本気も本気。流石の僕もそんな存在を見てどうするか悩んだよ。下手に刺激すれば魂の暴走もあり得るからね。取りあえずは観察対象として様子を見て、もしものことがあれば消して貰おうと考えてたくらいだ」

 

「その為の卯花之佐久夜姫か」

 

「せいかぁ~い。あの子なら君の魂ごと消滅させるくらい簡単だったからね。まぁ、マルチタスクが目的なのもあったけど」

 

「けど、俺は問題無かったと……」

 

「そうなんだよねぇ、そんな存在なら負の感情に染まりやすい……けど、それを防いでくれた存在が君の中に居たのさ」

 

俺の中にってことは……あの蝶のことか?

 

「そう、あの人に感謝しなよ~?君が最初から染まらずに今も無事に生きているのは彼女の存在が大きかったんだから。キミの魂に宿り魂を掃除……言わばろ過装置的な役割だったのさ。……この言い方当たってる?」

 

「大丈夫、当たってる」

 

「それなら良かった。今部屋でお風呂に入ってる彼女が倒れたのも君が彼女に魂の許容量を超えさせたせいで起きた事故、今回の死神の子が助けられなかったのも元を辿ればキミが原因だよ」

 

「分かってる。俺が蝶を回収してしまっていたからだろ?」

 

「勿論それもあるね。あの森で生まれたキミが蝶を引き寄せていた。そのせいで蝶が集まらなかったって理由もあるのさ。これについては管理不足のこちらの不手際もある。それについては謝るよ」

 

「普通にあることなのか?それは」

 

「僕が知っている限りでは初めてだね。だからこそ発見出来ていなかったってのもある」

 

「ならしょうがないな。予測出来ない事態だしな」

 

「キミがこの地で生まれてしまったのもそのせいだから、こちらの責任でもあるのさ。だから可能な限りキミに協力をしてあげた。せめてもの罪滅ぼしとして」

 

「大体の背景は分かった」

 

「そう?なら良かった」

 

「となると、世界を元の状態に戻せば解決するってことだな?」

 

「やっぱりそういう結論に至っちゃうかぁ~……残念」

 

「俺が今からしようとしてることはどうせそっちには筒抜けだろ?」

 

「そうだね。キミが自分の魂を使って過去に戻り、キミが知っている世界へ戻そうとしていることはね」

 

「もしも、俺が消えることで約束が反故されるのか?」

 

「されることはないね。蝶へ還った君の魂をこちらで回収すれば解決出来るのだから」

 

「なら、なんの原因が……?」

 

「蝶へ還るとなるとその時点で君の人生が終わる。僕としてはこちらに来るよりも現世で働いて欲しいのさ。こちらに移って再び地上へ降り立つのも簡単じゃないし、時間がかかるからねぇ……このまま徐々にこちらの事もさせて行く方が使い勝手が良いんだよ」

 

「それと、個人的に君のことを気に入ってるからね。だから多少ながら残念に思ってるよ。今からでも取り消さない?」

 

「すまんが、変えるつもりはないな」

 

「そっかぁ……ほんとに残念だよ。キミの様な人材はあまり居ないからねぇ……でも、神としての立場から言わせてもらうとありがたいのも事実なんだよねぇ」

 

「世界を元に戻す。元々イレギュラー的な存在が居たせいでおかしなことが起きてたしな」

 

「そう言われるとその通りとしか言えないところ辛いよねぇ……ほんと。だから僕はキミをとめることはしない」

 

「……確認なんだが、神は世界が巻き戻った後の記憶ってどうなってるんだ?」

 

「うん?ああ、そう言うこと。安心しなよ、これでも僕はかなり上の神だからねぇ。その位の事象なら観測は可能さ」

 

流石は神ということか。

 

「ただ、保険として君にこれを渡しておこうか」

 

手を翳すと、掌に白く光る玉の様なものが浮かび上がる。

 

「これを……キミのに細工して……」

 

ふわふわと浮かび上がったと思うと一際輝いて散った。

 

「……今のは?」

 

「ちょっとした細工さ。これでキミが過去に飛んだ後にその時間の僕に記憶が継承されるようになっただけ」

 

「……ああ、なるほど。森の門を何とかしとかないといけないしな」

 

「そうそう、キミが消えても元凶の門が開いたままだと良くないからねぇ。ついでだし過去の僕にお願いしておいたのさ」

 

「……感謝する」

 

「キミも元を辿れば被害者だからね。せめてこの位の望みは叶えてあげるよ」

 

……これなら大丈夫か。

 

「これで、キミが知っている本来の世界に戻るはずさ」

 

「そっか……なら安心だな」

 

「僕が来たのはキミが知りたがっていた今の話と、過去へ飛んだ時点でその元凶を無くすためも2つだね。すっきりしたかい?」

 

「ああ、かなり。憂いが無くなった感じだ」

 

「それはなによりだよ。それじゃあ、僕はそろそろ帰るとしよう」

 

「ああ、ありがとな。教えてくれて」

 

「なに、そっちの方が僕としても()()()()だったからねぇ……」

 

不敵な笑みを浮かべながら去って行く。相変わらず性格の悪そうな感じだが、今回はかなり助かった。

 

「むこうもそれなりに責任を感じている……ということか?」

 

少し腑に落ちないと思いながらも入口のドアノブを回す。

 

そろそろ四季さんは上がっているだろうか?

 

部屋から物音が聞こえなかったので出てないだろうと思いながら中へ入る。

 

「………」

 

するとそこには、真剣な表情でこちらを見ている四季さんがいた。

 

「……あ、あれ?既にお風呂あがっていた?」

 

 浴衣姿がとても素敵ですね。と言いたいがそんな雰囲気じゃない。

 

「うん。それよりも……さっきの話はほんとなの?」

 

「さっきの話って……?」

 

これはまずい。絶対聞かれていた……。そうならない様に警戒していたのに気づかなかった。

 

「お風呂出て、部屋に澤田君が居ないと思ったら入口の外から誰かと話してる声が聞こえた。確認しようにも何故かドアノブが回らないし開かないしで外に出られなかったから仕方なく内容だけは聞くことにしたんだけど……」

 

……クソが。やっぱり性格悪い奴だ。わざと四季さんが外へ出られない様にして、こちらからも中を把握出来ないようにしていたな。どおりで風呂出た音すらしなかったわけだ。

 

『僕としても面白そう』という言葉の意味に気づく。嫌がらせの達人だな。

 

「……因みにだけど、どのあたりから聞いてた?」

 

「……澤田君が、どうしてこの世界で生まれたかって辺りから。さっきの森に門があるとか……」

 

うん、重要な箇所ほとんどだな。

 

「そ、そっかぁ……」

 

「それで、今の話は本当の事なの?」

 

「……可能性が高いってだけだ。あくまで本当の可能性が高いだけだ」

 

「ワタシが聞きたいのはそっちじゃない。澤田君がこれからしようとしていることに関して聞いてるの」

 

……あーあ、やっぱりそこだよなぁ。若干怒っている様に見えるし……そりゃ黙っていたからそうなるか。

 

「過去に戻るって話か?」

 

「そう、澤田君が自分を犠牲にして何かをしようとしていること。何をする気なの……?説明して」

 

……観念するか?いや、絶対止められるな。ここは何とか乗り切るしかない。

 

「……分かった。説明するよ」

 

部屋へ戻り、ベッドに腰を下ろす。

 

「今回蝶を回収した理由だけど、高嶺が奇跡を使うためなのは言ったが、その奇跡の内容が過去へ戻る奇跡なんだ」

 

「過去に……?」

 

「ああ。現在から高嶺が世界をやり直した9/28、あの日に戻る」

 

「どうしてその日に……?」

 

「そこは俺も分からんが……、高嶺が戻りたいと願った日が最初の日だったってことくらいしか」

 

あの日が高嶺の魂に入り込める日だったのはあるけど。

 

「そこでまぁ、色々とあるんだけど、現在へ戻って来た時に明月さんが人として生まれ変わってるんだよ」

 

「その色々を詳しく教えて」

 

「……言うのが割と恥ずかしんだが……聞く?」

 

誤魔化す様に言うと、やっぱり追及してきた。

 

「聞かせて」

 

「明月さんが人間になる要因が、蝶を使った高嶺との肉体的接触があったためなんだ。そのおかげで蝶が明月さんの魂の核を元に人間として構成されとこで見事生まれ変わる。その肉体的接触が……まぁ、手を握るとか軽くじゃなくてそれなりに……だな?」

 

「あ、うん。わ、わかった……」

 

容易に想像出来たのか顔を赤くして目を逸らす。

 

「だからそのためにもなるべく蝶を大量に回収しておきたかった」

 

「それがどうして自分を犠牲にするのに繋がるの?」

 

「それについては理由がある。向こうを欺くための……」

 

「欺く……?」

 

「さっきの神は俺がどうして生まれたかの原因を知っていたが、俺が蝶を回収していたことはどうやら把握していなかったみたいだ」

 

「……どういうこと?」

 

「向こうは俺が自分の魂を使ってでも高嶺を過去に送ろうとしているって言っていた。俺も最初はそうするつもりではあった。けど、森で蝶を回収したことでその必要が無くなった。それなのにそう発言しているなら俺が蝶を回収したってことは知っていないはずだ」

 

「……けど、それについては澤田君も肯定していたでしょ?どうして向こうに合わせて嘘を付いたの?」

 

「蝶を使って奇跡を起こすって普通は駄目だろ?高嶺の時もそうだが……元は人の魂だからな。ミカドさんもそうだけど、100%止められるぞ?」

 

「……確かにそうかも」

 

「蝶を回収してそれを使うのは駄目だが、本来起こるはずの事をダメにした原因である俺の魂を使って解決するのはギリギリOKそうだが……」

 

「でも実際は蝶を使うんでしょ?その……バレない?」

 

「そこは何とかする。最悪バレても何とかなりそうだしな」

 

「そうなの?」

 

「本来なら高嶺が引き寄せた蝶を使って起こすことなんだ。そしてその後は特にお咎め無しだ。寧ろ死神が人として生まれたという良い事しかない」

 

「あっ、そっか、元々高嶺君がしていたことだから、澤田君も同じことをしているだけ……」

 

「心配させるようなことをしたのは謝る。まさか聞いているとは思っていなかったからさ」

 

「ワタシ、ドアとか叩いたんだけど……?」

 

「やっぱりそうか……多分だけど、話していた神の嫌がらせだろうな。力を使って出られない様にしてたはず」

 

「そんなことする?確かにドアノブが回らなかったりドアが開かないとか変な現象だったけど……」

 

「俺も外から中の物音が一切聞こえてなかったんだ。あの性悪神なら絶対する」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「と、まぁ……そういうことで誤解させてしまっただけなんだ」

 

「……そう、一応理解は出来た」

 

「なら良かった。そんじゃ俺も風呂入ろうかな……」

 

「……ねぇ、澤田君」

 

話が終わったと思ってベッドから立ち上がったが、呼び止められる。

 

「どこか気になったか?」

 

「澤田君が持ってる蝶を使ったとして、本当に足りるの?無事って保証はあるの……?」

 

「……大丈夫。って言いたい所だけど、それについては俺も分からない」

 

「ッ!?なら……!」

 

「けど、俺がもし限界を迎えて消えても消えなくてもどの道結果は変わらないんだよ」

 

「えっ?どういうこと……?」

 

「……これについては話さない方が良いと思ってたが……全部話すよ」

 

真剣な表情で四季さんと向き合う。

 

「……過去に戻ってもう一度やり直す。そうすると当然今とは違う未来になる。これは分かるよな?」

 

「うん、別の未来になるってことでしょ?」

 

「そう。以前四季さんが見た様な映画が分かりやすいけど、過去を変えると未来は変化する。なら、今この瞬間俺たちが生きている世界はどうなると思う……?」

 

「……別の未来が出来ただけで変わらないってのは楽観視過ぎる?」

 

「そうだな……。少し前にさっきの神様に確認したんだよ。仮にごそっと変えた場合元々あった世界はどうなるのかって」

 

「どうなる……の?」

 

「どうやらそこで終わりらしい。消えてなくなるんだとさ。過去を変えずに戻れば元の世界へ戻れるんだけど、過去を変えたなら戻るのは違う未来らしい」

 

「つまり……ワタシたちがいるこの世界は……」

 

「……無かったことになって、また9/28から新しく始まることになる」

 

「……そ、そう……なんだ……」

 

「けど、未来はそこまで変わらないと思う。元々お店は開かれるはずだしその未来を元々俺は知っていたからな」

 

「そ、それじゃあ……また一からってことになるの?」

 

「ああ。だけど安心してほしい。お店に高嶺を誘う事さえ出来れば必ずお店は開かれる。これだけは保証する」

 

「……ごめん、少し頭の中を整理させてほしい。澤田君が言っている事は分かってるけど、追いついていないだけだから……」

 

「……分かった。ひとまず俺も風呂入って来るよ」

 

「うん……その間に整理しとくから……」

 

その場を離れて風呂場へ行く。

 

……多分、これで何とか誤魔化せただろう。多少雑でしっかりと考えればおかしな点があると分かるが……全部話したと思いきや最後に爆弾を投下させたことで混乱して細かい箇所を忘れたはずだ。全部話したという雰囲気を出していたし、細かく説明もしていた。

 

「……ごめんな」

 

自分でもクソ野郎とは思うが、バレる訳にはいかないからな。

 

服を脱いで浴場へ入る。

 

「澤田君……、最後に一つ確認させて」

 

髪を洗っていると、入口のドア越しから話掛けられる。

 

「どうしたー?」

 

「過去に戻って変えたら、本当に今は無くなる?」

 

「……ああ、本当だ。違う未来になるからこれまでの事は無くなる」

 

「……そう、わかった。ありがと」

 

寂しそうに呟いて部屋へ戻って行く。

 

「受け入れた……のか?」

 

明月さんを助ける為と原因を取り除くためにと分かって自分を納得させたのか。

 

……今更ながら無理がある言い訳を並べたもんだと思う。冷静に考えればおかしいな。そこを突っ込まれた時の言い訳も考えておかないとな。

 

明月さん……そして四季さんを助ける為にしていることだと自分に言い聞かせながら髪を流し始めた。

 

 

 

 

「よし、出るか」

 

風呂を入り、浴衣の着こなしにおかしい箇所が無い事を確認して風呂場を出る。

 

「……ん?寝ているのか?」

 

部屋に入ると電気が消えていた。ベッドを見ると、ふくらみがあるので寝るつもりと思われる。

 

「俺も寝るか……」

 

水を飲んでベッドに入る。

 

「おやすみ」

 

起きているか分からないが取りあえず言って目を閉じる。

 

明日……明日で全部解決出来る。それでいい。あとは高嶺がお店で働けば大丈夫だ。

 

寂しい気持ちもあるが、自分がすべきことだと決めて背を向けて寝る体勢に入る。

 

すると、隣のベッドで動く気配がした。どうやら寝てはいなかった様だ。

 

「澤田君……」

 

ベッドから起き上がり、こちら向いて声をかけてくる。

 

「……どうかしたのか?気になる事でも……?」

 

振り向いて目を開けると、俺を見下ろす様な形でこちらを見てくる四季さんが居た。……なんだか妙に色っぽい。いや、エロい!浴衣パワーって凄い!!

 

「澤田君の話を聞いて……色々と考えたんだけど……、どう説得しても澤田君が納得して止まってくれるとは思えなくて……」

 

「……そうだな。四季さんには申し訳ないけど、必ず決行する気でいる」

 

「……だよね。そんな風に見えるから、説得するのは諦める。だから……」

 

「だから……?」

 

「せめて、明日までに後悔を残して終わりたくないって思ったの……」

 

「……何か俺に手伝えることがあるか?」

 

せめて、そのくらいはしてあげたい。

 

「う、うん……むしろ、澤田君にしか、で、出来ない事なんだけどね……?」

 

「分かった。なんでも言ってくれ。前にも言った通り、最後まで四季さんの頼みなら何でも協力しよう」

 

体を起こして正面で向き合う。

 

「……ほ、ほんとに?」

 

「勿論」

 

「聞いた後で……やっぱり無理とか、出来ないって言わない?」

 

「言わないから安心して言ってみてくれ」

 

「わ……わかった。えっと……」

 

急にモジモジして顔を逸らす。……どんだけ恥ずかしい事を頼むつもりだ……?

 

「今から……明日の終わりまで……ワ、ワタシと……付き合ってほしい……恋人として……」

 

「………、えっ!?」

 

恥ずかしそうにこちらを見てとんでもない事を口に出して来た。

 

「ちょ、ストップ……ッ!……か、確認だけど……四季さんが俺に付き合ってほしいって言ってるで良いのか……?」

 

「う、うん……言った」

 

「……それは、どういった意図があってだ?」

 

「ッ!?男の人に付き合ってって言う意図なんて一つしかないでしょっ!」

 

「……あ、ああ。確かにそうだな……」

 

えっと、これは、つまり……四季さんが俺の事を好きで、付き合いたいと……言うことだよな?間違ってないよな?

 

「……ダメ?」

 

「いや、ちょっと状況が……。頭が混乱してる……」

 

どうしてこの瞬間だ?てか、何時から好きだったんだ?さっきの台詞的に後悔して終わりたくないってことだから……。

 

「頼み、聞くんでしょ?何でも協力するって言った……」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「言った後で無しとは言わないんじゃ……ないの?」

 

「無理とかそういうことは無いが……」

 

「それなら良いでしょ?それとも……澤田君はワタシの事が……嫌いだった?」

 

か細く呟くその言葉を聞いて、反射的に返事をする。

 

「嫌いなわけがないっ!!寧ろその逆だ」

 

「それなら、ワタシのこと……好き?」

 

不安そうにこちらを見つめてくる。……何だか色々と考えるのがダメな気がしてきた。

 

「……そりゃ、当然好きに決まってる。世界一な」

 

「なら、両想いってことで……問題、無いよね……?」

 

「……けど、良いのか?どの道明日には……」

 

「そうだけど……このまま何もせずに終わるが嫌だなって……どうせ全部無くなるんだったら、好きな事して終わりたい」

 

「その結果が……俺と……?」

 

「……うん。もしかして、嬉しくなかった?」

 

「いや、滅茶苦茶嬉しい。今すぐ叫びながら踊り出したい気分だ」

 

「そう。なら良かった」

 

心底安心するように微笑む。……なんて表情だ。俺を殺す気か。

 

「明月さんの事で色々と考えてるのは分かるんだけど、後は明日の夜に高嶺君の所に行くだけだよね?」

 

「そう、なるな……」

 

「それなら、良いかなって思って……ごめん、迷惑かけることになるけど……」

 

「迷惑じゃない。想定してなかったから驚いてたのはあるけど……」

 

「負担になったりしない……?」

 

「しないしない。明日は夜まで予定は無かったし、やる事はもう全部終わってるからな」

 

「……ありがと」

 

「いや……こちらこそ?まさかこんな場面で四季さんに告白されるとは思ってなかったから……」

 

「ワタシも、全部終わってから言おうって考えてた。けど、明日で終わるって聞いて……急がなきゃってなった」

 

「あー……それについては、申し訳ないとしか言えないなぁ……」

 

「じ、自分でもっ、急に変なこと言ったのは自覚してる!けどこのままじゃ嫌だったのっ」

 

「そ、そうか……」

 

目の前で恥じらってるのが物凄く可愛いです。無くても可愛いけど!

 

と、取りあえず協力と言って付き合う……で良いのか?それとも気持ちを伝えたかったのか?

 

……どっちにしろ罪悪感が半端ない。目の前の彼女を無い事にして新しく始めるのだから……。

 

「ワ、ワタシは澤田君の事が好きで、澤田君もワタシの事が好き。告白はOKで、ふ、二人は今付き合った……で、当たってるよね?」

 

「な、何も間違って無いです……」

 

改めてそう言われると……こう、複雑な気持ちである。

 

「そ、それなら……っ!」

 

ズイッとこちらに近寄り、俺の肩を押して後ろのベッドに押し倒して来る。

 

「し、四季さんっ!?なな、何を……!?」

 

「こ、恋人なら……こういった事も、あるんじゃ……ないの?」

 

「それはまた……随分飛躍したお考えをお持ちで……」

 

……なにこのシチュエーション。俺今押し倒されているんですが?え、なんでぇ……?

 

「それともっ……澤田君は、ワタシとするのは……いや?」

 

シュル……と浴衣の帯を解いてこちらを見る。

 

「な、何とも……大胆なお誘いを……」

 

浴衣が開いており、部屋は暗いが肌はハッキリと見える。そこそこ夜目が利くので……。

 

「こうでもしないと……、はぐらかすでしょ……?」

 

倒れこんでいる俺に、覆い被さる様な形でベッドに膝を乗せてくる。

 

「四季さんって、結構肉食系だった……?」

 

「う、うるさいっ。抑えきれなかったのっ、文句ある?」

 

「いや、無いです……」

 

「それで、澤田君はいや?ワタシがこれからしようとしていることに反対……?」

 

「……本当に良いのか?」

 

「……うん。ワタシがそれを望んでるの。澤田君とそういう事をしたいって」

 

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 

「こ、ここまで来たんだからっ、そっちに拒否権はないから!それに……なんでも協力、するんでしょ……?」

 

「……分かったっ!俺も男だ。二言は無い!それに……四季さんの気持ちは心の底から嬉しい。頑張ってくれた四季さんの気持ちにも応えたい」

 

「それじゃあ、いい……?」

 

「ああ」

 

正直、裏切るような形で終わらすのに応えても良いのか迷いもあった。けど、それでもその気持ちを受け入れたいと思った。

 

「は、初めてだから、よ、よく分からないけど……が、頑張るから……おかしかったら言ってほしい」

 

「残念ながら、俺も初めてだから詳しくは無いけどな……」

 

「それなら……少し安心かも……」

 

至近距離まで顔を近づけ、目を閉じる。

 

……ここまで来たら、最後までいくしかないよな……!?

 

少しやけくそな気持ちが混じりながら、それに応える為に四季さんの後ろに手を回してこちらに引き寄せた。

 

 

 

 





※シーンはありません。

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