喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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事後です。はい……。




第76話:もう一度……。

 

「………」

 

目を覚ます。時間は朝の7時頃。体を起こして状況を確認したが、どうやら夢では無かった様だ。

 

「……お互い、裸だしな」

 

横でまだ寝てる四季さんを起こさない様に気を付けながら浴衣を着てベッドから出る。

 

「なんか飲むか」

 

宿の部屋に付属で置かれているお茶を淹れてゆっくりと飲む。……こういうのが最高の朝と言うのだろうか。

 

心地よさそうに寝息を立てている四季さんを見ながら昨晩の事を思い出す。

 

「まさか、俺が襲われる側になるとはな……」

 

悪い気はしなかった。むしろ清々しい気持ちだ。だが、こうして幸せそうに寝ている彼女を置いて過去に戻ってリセットすることを考えると……。

 

「……って、今更言っても遅いか」

 

それでもと決めたのだから今更揺らいでいては駄目だろう。

 

淹れたお茶を飲んでいると、ベッドで寝てた四季さんが目を覚ます。

 

「……っん、んん……」

 

「起きたか?おはよう」

 

「ん?澤田君……?おはよ……」

 

寝ぼけながらこちらを見て、ハッとする。

 

「ッ!?」

 

自分の状況が分かって布団で体を隠す。

 

「~~~ッ!??」

 

「随分と驚いた顔をしてるけど……夢だと思ったのか?」

 

「う、ううん……。現実だと分かってるけど……。その、恥ずかしいから……」

 

「まぁ、だよなぁ……。何か飲むか?って言ってもお茶しかないけど」

 

「あ、うん……。お願い」

 

「オッケー」

 

「あ、あと……後ろ向いててくれる?ふ、服着るから……!」

 

「見られたくないと?」

 

俺の問いに顔を赤らめて頷く。

 

「昨日、自分から見せて来て全部さらけ出したのにぃ~?」

 

「それでもっ!恥ずかしいのは変わらないからっ!あっち向いてて」

 

「わかったわかった」

 

こっちを睨むように怒りながら枕を手に持ったので、すぐに背を向けてお茶を飲む。

 

後ろで人の動く音と、下着を着ている気配を感じる。

 

……いやいや、むしろこっちの方がエロいのでは?

 

気持ちを落ち着かせる為に取りあえずお茶を口に付ける。……ふぅ、エロい。じゃない、美味しい。

 

「ごめん、もう大丈夫」

 

「それじゃあ、お茶淹れるからゆっくりしといてくれ」

 

「……ありがと」

 

ポットの水を温め直してお茶を淹れる。

 

「ほい、玉露です」

 

「へぇ……そんな良いのを使ってるんだ」

 

「嘘です。知りません」

 

「なんでそんな下らない嘘を付くのかなぁ……」

 

「コミュニケーションだよ、コミュニケーション」

 

「はいはい、ありがとね」

 

俺も新しくお茶を淹れて二人で飲む。

 

「はぁ……美味しい」

 

「朝からこんな宿でゆったりとお茶を飲むって風情があって良いよな」

 

「ね。良い御身分って感じ」

 

「一応朝食はあるけど……食べるか?」

 

「んー、もう少ししてから食べようかなぁ。あ、今日って何時に出なきゃダメ?」

 

「確かチェックアウトが10時だからまだまだ大丈夫だな」

 

「それなら折角だしゆっくりしたいと思ってるけど……どう?」

 

「賛成。滅多に味わえないしな。時間に余裕あるし異議なーし」

 

「ん。ありがと」

 

お茶を飲んだ四季さんが一旦ベッドに戻りスマホを見る。

 

「誰かから連絡とかあったりする?」

 

「ん?特に来てないかなぁー……」

 

そのままベッドに横になってゴロゴロし始める。

 

「宿にあるベッドってどうしてこんなに寝心地が良いんだろ……」

 

「客が寝るから良いベッドでも使ってるんだろうな」

 

「やっぱりそうなのかな」

 

ゴロゴロしながらこちらをチラチラと見ている。

 

「スマホ見ながら俺へ視線を向けている気がするが……気のせいか?」

 

「……だって、澤田君が……普段通りに見えるから」

 

「……昨日あんなことしたのにおどおどしてないってか?」

 

「うん、こっちは今も物凄く恥ずかしい」

 

……もしかして、だからベッドに逃げたのか?

 

「……ベッドで寝転んだのはそれが理由?」

 

「っ……う、うん。さっき思い出したら、近くに居ると頭が沸騰してどうにかなると思った……」

 

「あー……なるほど。そういうわけか」

 

「何に納得してるの?」

 

「いやー相変わらず可愛いなって再確認しただけだな」

 

「揶揄うなぁっ!」

 

揶揄ってないんだけどな……。いや、反応を見て楽しんでるから揶揄ってるのも当たってはいるか。

 

「……なんだかワタシだけ恥ずかしがってて、澤田君は違うように見えるから、ワタシの体を見て興奮してないのかなって……」

 

「はぁ?何を言ってるんだ。昨日滅茶苦茶興奮しまくったぞ!」

 

「それはその場の雰囲気とか……あと電気消してたから。一晩経って見たらそうでもなかった……とか?」

 

「いやいや、電気消えてても四季さんの体はちゃんと見えてたからな?鮮明に記憶に残っておりますからっ」

 

「……え?み、見えてたの……?真っ暗だったのに……?」

 

「そりゃ、まぁ。多少は夜目が利く体だからな」

 

「……ッ!!?はぁっ!?な、なんで言わないのっ!」

 

「えぇ……見せて来たのはそっちじゃん……」

 

「く、暗いから大丈夫だと思ったのにっ!~~~っ!最悪……」

 

「綺麗だったし、最高に興奮しましたが何か?」

 

「ッ!?」

 

恥ずかしさのボルテージが限界を超えたのか、手元の枕を俺へ投げつけてくる。

 

「ごはっ!?」

 

それをテーブルのお茶に当たらない様に気を付けながら顔面で受ける。

 

「変態っ!すけべっ!むっつり!」

 

……ブ、ブーメランでは……?

 

「暴力とはいけないなぁ……。俺はただ、四季さんが不安がっていたから安心させる為に言っただけなのに……」

 

「……セクハラで訴える」

 

拗ねるようにこちらを睨む。うん、朝から最高のご褒美だな。

 

「んで、俺からの感想を聞いて安心したか?」

 

「……安心は、した……かな?ガッカリされて無くて良かった」

 

「それは何より」

 

「け、けど……!ま、満足はっ、してないから!」

 

「満足と来たか……」

 

「だから……!こっちに来て」

 

自分の隣を叩きながら催促してくる。

 

……うん、ここは大人しく従うか。いや、従うのは自分の欲望に……だな。

 

立ち上がって四季さんの隣に腰を下ろす。

 

「それで?何をして満足する気?」

 

「分かってて来たくせに……」

 

そのまま俺の肩を掴んで昨日のようにベッドに押し倒して来る。

 

「……凄い既視感を覚えるな」

 

「なんか、その余裕そうな言い方が気に入らないから……分からせてあげる」

 

「……なるほど、澄ました顔をしてる俺が気にくわないからセックスで分からせると?」

 

「そ、そう!だから、覚悟すること……!」

 

滅茶苦茶顔を赤くしてるし、無理して言ってるなぁ……。

 

「……そうか。なら、俺が頑張らないと、なっ!」

 

俺に覆い被さってる四季さんを掴んで逆に組み伏せる。

 

「きゃあっ!?な、ななっ!?」

 

予想外の事態に驚いている。

 

「なんでっ!澤田君がっ……!?」

 

「四季さんの目的は俺が四季さんに対して興奮してるかどうかだろ?それなら俺が頑張れば証明出来ると考えてな……」

 

「そ、それはっ、ワタシがいまからしようと……!!」

 

「いやいや、俺も男だからな。やられっぱなしはプライドが許さないのだよ」

 

「っ……くそぉ、抜け出せない……!」

 

「ふはは、逃れられると思うなよ!」

 

「ぅう……」

 

無理だと分かると、こちらをチラリと見て顔を逸らす。

 

「……覚悟は出来たか?」

 

「す、好きにすればっ!どのみち、抵抗出来ないんだし……」

 

やけくそ気味で叫び、顔を逸らしたまま目を閉じる四季さんを見て苦笑する。

 

「じゃあ、頑張って証明させてもらうぞ」

 

「……うん、させてみて」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、出ようか」

 

「うん、忘れ物は……って特にないか」

 

四季さんが満足してくれた後、交互にシャワーを浴びて、朝食を食べて宿を出る。

 

「体の調子はいかがですか……?」

 

「……休んだから少しマシになったかな……うん」

 

「少し調子に乗りました。反省しています」

 

「確かに少しは加減して欲しかったけど、謝られることじゃないから……」

 

「……悪くは無かったと?」

 

「……まぁ、それなりに……?気持ち良かったし……」

 

照れるように顔を逸らして髪を弄る。すけべな人だな。

 

「この後のご予定は?」

 

電車に乗り、揺られながら隣の四季さんに話しかける。

 

「取りあえず一回家に帰りたいかな……、そっちは?」

 

「俺もそうかなぁ……というか今日は夜までずっと部屋で籠ってると思う」

 

「そっか……分かった」

 

「後で高嶺の方にも連絡しておかないとな……」

 

多分家に居る確率が高いとは思うので今日の夜に予定を空けて貰わないとな。

 

「お昼過ぎぐらいに部屋に行ってもいい?」

 

「別に構わないが……?」

 

「最後にまたご飯作ってあげる。英気を養ってもらう為にね」

 

「なるほど、そりゃありがたい」

 

……気を遣わせてしまってるなぁ。無理して笑ってるしね。

 

「何かリクエストとかある?」

 

「リクエストかぁ……。正直四季さんの手料理なら何でも大喜びなんだが」

 

「"何でも"が一番困るんだけど……」

 

「だよな。そんじゃあ……ハンバーグ?いや、唐揚げも捨てがたいな」

 

「どっちにするの?一応どっちも作れはするけど……?」

 

「ハンバーグでっ!お願いします」

 

「ん、了解。材料買ってそっちに行く」

 

「首を長くしてお待ちしております」

 

「大層なものじゃないから期待しないで……」

 

いーや、絶対するねっ!手料理だぞ?

 

食べ物の話などで雑談をし、最寄りの駅に着いたので降りる。

 

「それじゃあ、一応家まで送るよ」

 

「大丈夫?疲れてたりしない……?」

 

「余裕余裕。俺より四季さんの方が心配だな」

 

「ワタシも平気だけど……でも、お願いしようかな」

 

「ご利用ありがとうございまーす」

 

そのまま四季さんを家まで送る。

 

「それじゃあ、少し休んで食材買ったら行くから」

 

「ああ、無理せずにな?楽しみにしてる」

 

部屋に入ったのを確認して自分も家へ向けて歩き出す。

 

「……高嶺に連絡しておくか」

 

『今日、夜に時間空けれるか?大事な話がある』っと……。

 

連絡を送り、家へ帰る。部屋に着いてスマホを確認すると、高嶺からの返信が来ていた。

 

「『特に用事は無いので問題無いです』か。うむ、それじゃあ……」

 

『人にあまり聞かれたくない話だから出来れば高嶺の部屋で話したいが大丈夫か?』

 

『大丈夫ですが、どういった内容ですか?』

 

『ざっくり言うと、明月さんの話。ミカドさんにも聞かれたくないから今日の夜にお邪魔させてほしい』

 

『分かりました。何時ごろ来ますか?』

 

『日が沈んでからだが……向かう前にまた連絡するよ』

 

『了解です。その時に連絡して下さい』

 

話が終わったので『オッケー』とスタンプで返事をしてテーブルにスマホを置いてベッドに寝転がる。

 

「さてと……あとは高嶺と一緒に過去に飛んで元通りにすれば万事解決と、なるか」

 

目を閉じて森で生まれてからの3か月間を振り返る。

 

この世界に来て最初は滅茶苦茶驚いた。まさかゲームの世界に転移……いや転生かこの場合。そしてヒロインと主人公のお店で働いてて、何とか原作通りに進めようと色々手を打ったが……。

 

ハプニングや思い通りに行かない事も多々あった。だが、それらの元を辿れば大体俺が悪いという結果があった。

 

「これは、あれか……。余計なことしかしていないってオチか」

 

自分で起こした事件を自分で解決して、マッチポンプとはこのことか。

 

「ほんと、何の為にこの世界に来たんだろうなぁ……」

 

あの神様が言うには、俺が居た元の世界で大量の死人が出ている。みたいなことを言っていたが……一体何があったのだろうか?少なくとも俺が死ぬ直前までは普通の世界だったし。

 

向こうの世界のどこと繋がっているのかも重要か。人が多く死ぬ場所だったら何とか納得も出来なくはないが……。

 

「今更考えても意味ないな」

 

どの道、門は閉じて蝶の流出は塞がれる。俺も消える。

 

現在はちょうどお昼時、残りは半日も無い。

 

「最後に、四季さんの手料理を楽しむとかは、許されても……良いよな?」

 

文字通り……最後の晩餐だしな!

 

 

 

 

 

「ご馳走様でしたっ!」

 

「お粗末様。美味しかった?」

 

「そりゃもう、最の高だった!最後食べるには勿体ない位にはな!」

 

昼過ぎに四季さんが部屋に来て、夕食までの間に映画を見た。前に一緒に見ようと話していたやつだ。それを見てから次の2作目を見た。

 

1作目の終わり方とは違って、今回は主人公が何度も足掻く様子を不審に思った友人が主人公に探りを入れた事でこれまでとは違った未来になっていたとのこと。

 

その結末は友人が主人公を生かす為に自ら犠牲になって終わり……。という何とも心残りがある終わり方だった。

 

お互いにモヤモヤしながらもご飯の準備して食べた。

 

「最後まで大げさな感想どうも」

 

「正当な評価だがなっ!」

 

「悪い気はしないけどね……」

 

少し呆れるような照れてる様な顔をして俺の隣に座る。

 

「……そろそろ時間?」

 

「……そうだな。もう少ししたら、行くつもり」

 

「そっか……うん。分かった」

 

寂しそうに目を伏せる。

 

「……明月さんと高嶺君を助ける為だもんね」

 

「そうだな」

 

「最後に一つお願い……というか確認したいんだけど、良い?」

 

「確認?」

 

「……えっと、目を閉じてくれる?」

 

「あ、ああ……」

 

言われた通りに目を閉じる。

 

このパターンは、キスか?最後に……。

 

視界が見えないのでいつ来るのか待っていると、俺のおでこに四季さんのおでこだろう。こつん。と当たる。

 

「……はい?おでこ?」

 

不思議に思い目を開けると、そこには体を淡く光らせた四季さんが居た。

 

「っ!?待てっ!ストップッ!」

 

四季さんの肩を掴んで離す。

 

「ぁっ……、なんで目を開けるのかなぁ……」

 

「いやいやいや、何をしようとしてるんだよ!?」

 

「いやほら……、少しでもあった方が良いかなって……。無くなるのなら、澤田君の力になった方が成功率上がると考えた結果なんだけど」

 

「言いたい事は分かるけど……、下手したらまた倒れるぞ!?」

 

「今倒れて無いから問題無し。大丈夫でしょ」

 

「んな、てきとうな……。ていうか、なんで四季さんがそれを……!?」

 

「……こっちに来る前に性格の悪い神様が来てね。力になりたいのなら協力してあげるって」

 

「あんの神は……なんつーことを……っ」

 

マジで性格悪いな。愉快犯か?

 

「それより、時間は大丈夫なの?」

 

「……ああ、そうだな。いや、ほんとに体は平気か?」

 

「大丈夫って、終わるのに心配症だなぁ……」

 

「あろうがなかろうが関係無いだろ?四季さんが倒れたらこの後の事に望めないって」

 

「………。ほんとに、最後まで……はぁ」

 

一瞬驚いた表情をして、嬉しそうに微笑む。

 

「ほら、早く出る支度して。高嶺君待ってるから」

 

「あ、ああ。分かった……」

 

何故か急かされながらも支度を済ませる。

 

「忘れ物ない?」

 

「大丈夫。そもそも必要無いしな」

 

靴を履き終えて返事をする。

 

「ほんとに?忘れてるとかない?」

 

「……四季さんは何か心当たりが?」

 

振り返ると、何かを期待するような目でこちらを見ているのに気づき聞いてみる。

 

「……ある。最後に大事な忘れ物」

 

……なるほど。

 

「そうだったな。うっかりしてた」

 

四季さんへ一歩近づき、俺が目を合わせると目を閉じてくる。やっぱりそうだったか。

 

「……んぅ……んっ、ん……っ」

 

これは……いってらっしゃいのキスと言うことなのだろうか……?

 

「ん……んんっ……ぷはっ……はあぁ……」

 

キスを終えて顔を離すと、恥ずかしそうでもあるが……寂しそうな表情をしていた。

 

「い、行って……らっしゃい」

 

「……行ってくるよ」

 

「必ず明月さんを助けて来てね?」

 

「任せてくれ。必ず助ける」

 

「うん、任せる。……それじゃあ、またね?」

 

前に明月さんに言った様に最後に挨拶としてだろう。

 

「ああ。また、過去で会おう」

 

玄関のドアを開け、外に出る。その世界の四季さんを見ることが出来るのはこれが最後……。

 

「………」

 

意思を固め、最後に四季さんを見て笑う。

 

「行ってくる!」

 

「……ッ!?うん!」

 

向こうもそれに応えようと返事をする。それを見てドアノブから手を放す。

 

ゆっくりとドアが閉まる。

 

「……、よしっ。行くぞ……気合を入れろ……!」

 

自分の頬を叩きながら背を向けて高嶺の部屋へと歩き出した。

 

 

 

 

 

「………」

 

澤田君を送り出した玄関が閉まり、少しの間動かずに立ち尽くしていた。

 

「……行っちゃった、かぁ……。はあぁぁ~~……」

 

顔に出ない様に精一杯押し殺していた感情をため息として吐き出す。

 

「この世界のワタシはこれで終わり……か」

 

部屋に戻り、ベッドに倒れるように寝転ぶ。

 

「……でも、澤田君なら上手いことやってくれるし心配は無い、かな?」

 

寝ているベッドから彼の匂いがする。

 

「上手くいってくれるといいな……」

 

明月さんを助ける為に彼は自分の命も捨てるつもりだった。正直、それに多少は妬いたりもしたが……止める事も出来ないし、恐らくその資格もないのだろう。なぜなら既に、ワタシはそれを受けた側なのだから……。

 

「あれを知っちゃったら、止めることは流石に……出来ないなぁ」

 

今回もワタシの時と同じ……ううん、きっとそれ以上に責任を感じているだろう。

 

「また最初からかぁ……」

 

高嶺君と初めて会った日だから、その時のワタシは……怪我させたことの罪悪感でウジウジしている段階だっけ?

 

「……ふふ」

 

当時のワタシが今のワタシを見てどう思うだろう?あんなに他人と距離を置こうとしたりいていた自分が、こんなに変わったと聞いても鼻で笑いそうな気がする。

 

「変われた……ううん、変えられた。が正しいか……」

 

毎回ワタシを揶揄いながらも、大事な場面では親身になって最初に手伝ってくれて、ここ一番という時に背中を押してくれた。

 

「そんなことされたら……誰だって心も動かされるに決まってる」

 

敷き布団を捲り、体に被せる。

 

「最後くらい……良いよね?」

 

世界が終わる時くらい、好きな人の匂いに包まれても……許されるよね?

 

「……それにしても、ワタシも難儀な人を好きになってしまったなぁ」

 

ワタシがアプローチをするまでこちらへの好意を隠して接していた人だ。今回は最後だからと多少強引に迫ったけど、次はどうなるか分からない。次のワタシに託すしかない。

 

「……って、好きになることは確定してる言い方になってるし……まぁ、間違っては、ないけど」

 

例え過去に戻ってまた知り合いから始まっても、最終的にまた彼の事を好きになる。……意外と自分はチョロイのかもしれない。

 

「願わくば……」

 

誰かが彼の魅力に気づいて迫ることが無く、ワタシだけを見ててくれますように……。

 

ささやかな最後の願いを胸に秘めて、目を閉じた。

 

 

 

 

 

「ここだな。高嶺の部屋は……」

 

目的の部屋に着き、インターホンを押す。

 

「はーい……」

 

中からこちらへ向かって来る足音が聞こえ、玄関が開く。

 

「やぁ、来ました」

 

「澤田さん。どうぞ、上がってください」

 

「ありがとう。お邪魔しまーす……」

 

部屋に入り、高嶺を見る。昨日と変わらず覇気の無い雰囲気を纏っていた。

 

「何か飲みますか?お茶くらいしか出せませんが……」

 

「それでお願い」

 

「分かりました」

 

高嶺がお茶を淹れてる間に部屋を見渡す。

 

うん、イメージと同じ部屋だな。違うのはベッドの所に止まってる蝶がいるというくらいだろう。

 

「お待たせしました」

 

コップに入ったお茶がテーブルに置かれる。

 

「お、ありがと」

 

「それで、俺に話とは……?それに栞那についてとの事でしたが……」

 

俺の正面のテーブルに座った高嶺がこちらを見る。

 

「ああ、明月さんの話だ。……重要な話しだから心して聞いてほしい」

 

「……一体。……分かりました」

 

真剣な表情に切り替えて話始める。

 

「……明月さんに再び会いたくないか?」

 

ゆっくりと、しかしはっきりとそう問いかける。

 

「……そりゃ、当然に決まってるじゃないですか……」

 

「そうだよな。すまん。聞き方が悪かった」

 

「ーーー明月さんに再び会える手段があると言ったら、どうする?」

 

「ッ!??あ、あるんですかっ!」

 

俺の言葉を聞いて目を開き、前のめりになる。

 

「ある。だが、それをするには高嶺の協力が必要だ」

 

「俺に出来る事ならなんでもします!」

 

「本気か?これはある意味神へ反抗だ。なんせ、2度目の奇跡を使う事になる」

 

「2度目の……!」

 

「それでも明月さんに会いたいか?その覚悟はあるか?」

 

「……あります。栞那にもう一度会いたい。ですが、どうやって……?」

 

「それをこれから話す。聞き逃さない様にな……」

 

さぁ、始まるぞ。

 

 

 

 

 

高嶺と作戦を話し、俺たちはお店までやって来ていた。

 

「……ミカドさんも居なきゃダメなんですよね?」

 

「ああ。高嶺の肩に居る明月さんの魂の残滓と、ミカドさん。後は高嶺と俺が同じ空間にいないといけない」

 

「どうやって呼びましょうか……?」

 

「大丈夫。簡単な方法があるから……」

 

「……?」

 

不思議そうにこちらを見た高嶺。

 

「んじゃ、ミカドさんが来たらあとは話した通りで行くぞ?」

 

「はい。お願いします」

 

お店の前に立ち、森で回収した蝶の一部を解き放つ。

 

「……これが、さっき言ってた蝶達ですか」

 

「そうだな。蝶に敏感なミカドさんならすぐに飛んでーーー」

 

と言った時に、お店からミカドさんが飛び出して来た。

 

「ーーーッ!?澤田達也?それに高嶺昂晴……?この蝶は貴様らが原因か?」

 

「ミカドさん、こんばんわ。すまんなこんな時間に……」

 

「挨拶より先に、この蝶はなんだ?」

 

「ちょっと、昨日……回収しててさ。その蝶なんだよね」

 

「蝶を……?いや、今はそれよりも回収することが優先だ」

 

ミカドさんが動こうとした時に更に蝶を排出する。

 

「貴様っ!?何をしているんだ!」

 

「何をって、体に溜め込んでいる蝶を解放しているだけだが?」

 

「何故それをしているのだ!」

 

「……高嶺を明月さんにもう一度会わせるためって言ったら?」

 

「っ!?……貴様、まさか……高嶺昂晴に奇跡を起こさせる気かっ!?」

 

「ご名答。まさにその通りだ」

 

森で回収した蝶達を全て開放する。

 

「馬鹿な真似はよせ!高嶺昂晴もだっ!感情を抑えろ!ここで奇跡を起こせば……全てが無駄に終わるのだぞ!?」

 

「俺は……栞那に会いたいよ」

 

「分かってるのか……!?次は無いのだぞッ!」

 

「高嶺、大丈夫だ。俺を信じて望め。もう一度あの日を……!」

 

「澤田達也……!一体何をする気だ……?」

 

「俺の罪の清算……って言うのは聞こえは良いけど、高嶺と明月さんを救う。ただそれだけ」

 

無数の蝶が高嶺の周囲へ集まって舞う。

 

……まだ奇跡が起こらないということは、足りてないのか。

 

回収した蝶だけでは足りてない様なので俺自身の魂を削る勢いで蝶を吐き出す。

 

「まてっ!よせ……!それ以上は貴様の体が持たんぞっ!」

 

体を見ると、淡く光り……蝶となって漏れていく。

 

「ははは!それで高嶺が奇跡を起こせるのなら本望だな!」

 

更に大量の蝶が高嶺へ集まる。

 

「さぁ、願え!望め!高嶺昂晴っ!お前のその強い意志が奇跡を起こすのだからなっ!!」

 

周囲の蝶が高嶺に引き寄せられるに消える。

 

「くっ……!間に合わないか……っ!?」

 

高嶺が顔を上げる。

 

「俺は……栞那に、もう一度……会いたいんだ……っ!」

 

その瞬間、周囲が光へ包まれた。

 

 

 

 





次で最後ですね。

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