喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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9/28に飛びました。最後なので少し長くなってしまいました……。

ここまで何とか書いてくことが出来ました。ようやくしたかった事が出来そうです。




第77話:再び始める物語

 

「……ここ、は……」

 

目を開けると、ココアを片手に持ちながらベンチで座っていた。

 

「なるほど……ね、ここか」

 

お店の前のベンチで座りながらココアを飲んでいる。状況から見て3人の帰りを待っていた時だろう。

 

「つまり、無事成功したってことだな」

 

問題無く過去へ戻れたことに安堵しながら、高嶺達が来る前にお店に入ろうと立ち上がる。

 

「……ん?」

 

足に若干の違和感を感じたが、その原因がすぐにわかる。

 

「そういえば、まだ完治はしてなかったっけ?」

 

怪我していた足を軽く地面に叩くように確認し、お店へ入る。

 

「懐かしく感じるな……」

 

改装前の店内を見渡して目を細める。

 

「……って思い出に耽ってる暇は無いな」

 

過去に飛んだ実感を味わうのは良いが、彼らを待っておかないと……。

 

お店の電気を点け、カウンター席に座りながらココアを口へ傾ける。……よし、こんな感じで行こう。

 

最後に何を話そうか迷う。ネタバレとかも良いが……未来へ帰った後に2人が俺の為に変な気を遣うとかも避けたい。

 

「……時間は、多くないしなぁ」

 

最後に四季さんにもしなければならない事もある。それまで延ばさないとな。

 

あれこれと考えている内に、お店のドアが開き3人が入って来る。

 

「ようやく来たか。ようこそ過去へ……」

 

体を向けて歓迎のポーズを取る。

 

「澤田さんっ!?」

 

「澤田達也……!これが貴様の狙いか……!?」

 

俺を見て驚く明月さんと、俺を見て警戒するミカドさん……と、高嶺の3人。

 

「無事3人とも飛んでこれた様で一安心だよ」

 

「これは……澤田さんが仕組んだんですか?」

 

「仕組んだ……まぁ、そう思っても良いよ。今回の犯人は全部俺ってことで……。高嶺に話を持ち掛けたからな」

 

「一体、何のために……このような事を……!」

 

「そりゃ、高嶺がもう一度明月さんに会いたいって願ったからに決まってるだろ?な?高嶺っ」

 

「……はい。栞那に会いたいって……そう願った……」

 

「昂晴さん……」

 

「だから、せめてもう一度ぐらいは話す機会を作ってあげた。それだけ」

 

「それの為に……奇跡を起こしたのか?」

 

「起こしたのは高嶺だけどな。俺は焚き付けただけ。それより、明月さんと言葉を交わさなくて良いのか?言うほど時間は残されてないぞ?」

 

高嶺に向かってジェスチャーを送る。それを見て明月さんと向き合う。

 

「栞那……なんだよな?俺の知ってる栞那、だよな?」

 

未だに信じられないみたいで確認するように話しかける。

 

「はい。一緒に観覧車に乗って、好きだと告白されて、キスも……して、笑ってるって約束をしたのに、その約束を破られてしまった、明月栞那です」

 

「そこまで言わなくてもいいだろ……はは」

 

うんうん。こっちは大丈夫そうだな。

 

2人きりにさせた方が良いと思いミカドさんを手招きで呼ぶ。

 

「お前は……高嶺昂晴に機会を与えたかったのか?」

 

「碌に話も出来ずに観覧車でバイバイとかあんまりだろ?せめて別れのお話はさせておきたいと思ってさ」

 

「その結果が高嶺昂晴を苦しめるかもしれんぞ?」

 

「どのみち、明月さんの蝶が高嶺に付いてる時点で幸せは無理でしょ。明月さんは高嶺が心配、けど高嶺は蝶がいることで明月さんの事を忘れられない。NOT WIN-WINだろ?」

 

「……なるほど、そういう事か」

 

「2人が幸せになるための最善策を取っているってことでここは許してもらえないでしょうか?」

 

「もしや貴様、以前のように既に上の許可を取っているのか?」

 

「ありゃ、バレたか。一応今回の奇跡に対してお咎めは無いって話を付けてるから安心して良いぞ?」

 

「……全く。貴様という奴は……」

 

呆れるような目でこちらを見てため息を吐く。男からされても嬉しくないなぁ……。

 

そんなミカドさんを見て、高嶺と明月さんの方へ意識を戻す。

 

「もし躓いて、自分を信じられなくなった時には、私を思い出して下さい。べた惚れの女がいたことを。1人の女を幸せにしたことを……」

 

「そして、約束した通り笑って下さい。いずれまた出会った時にちゃんと笑顔を見せてください」

 

精一杯の笑顔で高嶺に語り掛ける明月さん。

 

「………、また、会えるとか、そういう事じゃないんだよ、全然違う……」

 

「未来で他の誰かに幸せにしてほしいわけじゃない……。2人で一緒にっ、俺が!お前と!幸せに、過ごしたかったんだ……!」

 

「娘として再会するとか!世界のどこかで幸せになるとかっ!違うだろっ?そんなの全然違う!」

 

「俺はっ!俺は……っ!もっと、恋人でいたかった……」

 

「もっと、思い出を作りたかった……」

 

「もっと……もっと……もっと、もっとっ、もっともっともっともっとっ!」

 

「もっと…………、一緒に……いたかった……それだけなんだ」

 

胸の内の悲痛な苦しみを吐き出すように明月さんへ伝える。

 

「……栞那は、大人だな……」

 

「昂晴さんが子供みたいですから、私まで子供みたいに駄々をこねたら、収拾がつきません。……でも、私も必死に大人ぶってるだけです」

 

「私は見てきましたから。幸せになろうと頑張り続けたその姿を……。死神としての仕事の意味と価値を、昂晴さんの姿から教えてもらいました。その諦めない姿に、私は救われたんです」

 

「だからこそ、昂晴さんには幸せになって欲しいと、心から思います。その為なら、大人ぶるくらい何でもありません」

 

「なので、改めて約束してもらえますか?ちゃんと、笑顔でいるって。幸せになるって……」

 

「………」

 

明月さんのお願いに、俯いたまま返事をしない。うん、ここで良いか。

 

困った様な表情をしている明月さんへ合図を送る。

 

『高嶺にキスをしてやれ』

 

ジェスチャーでそれを伝えると、意図が分かった明月さんが苦笑いをする。

 

「最後くらい、サービスしてやったらどうだ?明月さん?」

 

「……そうですね。ほんと、しょうがない人ですから……にひひ」

 

楽しそうに笑い、高嶺を見る。

 

「……昂晴さん。顔、上げてください」

 

高嶺の頬を両手で優しく包み、ゆっくりと顔を上げさせる。そして、不思議そうに顔を上げた高嶺にそのままキスをお見舞いした。

 

「っ!?っ……!」

 

突然のことに驚いたが、次第にそれを受け入れお互いに目を閉じる。

 

これで条件は満たされたな。

 

キスが終わり、恥ずかしそうに顔を離す明月さんと高嶺。

 

「さてとっ!すまんがお喋りはそこまでだ。そろそろ過去の自分らが居た位置へ戻らないといけない」

 

大声で空気をぶった斬って席を立つ。

 

「あ、あの……まだ昂晴さんからの返事が……」

 

「どの道今は無理に決まってるだろ?けど、前向きになれたはずだ。あとは時間が解決してくれる」

 

二人の前に立って高嶺を見る。

 

「すまんが、高嶺は付いて来てくれ。奥の部屋で明月さんのマントを被って寝ていないとおかしいからな」

 

「……あっ、だからあの時寝ていたのか……」

 

「ということで、明月さんのマントをもらってもいいか?」

 

「はい。大丈夫です。……どうぞ」

 

「あんがと」

 

マントを受け取って奥の部屋へ向かう。

 

「直ぐに戻って来るから2人はその場で待機でよろしくっ」

 

ビシッとポーズを決めて高嶺を一緒に部屋に入る。

 

「……さて、寝ていたのはこの辺りか?」

 

「ですね。確かこの辺りで起きて……」

 

「おけおけ、いつ意識が途切れても良い様に被っておくか」

 

明月さんのマントをそのまま高嶺に被せる。

 

「どうだ?好きな人の匂いに包まれて」

 

「……胸が締め付けられますね」

 

「ははっ、だろうなぁ」

 

高嶺の返事に笑って返す。

 

「……なぁ、高嶺。明月さんと一緒に、幸せになりたいよな?」

 

「当たり前じゃないですか……」

 

「だよなだよな。一緒に人として生きて、同じ場所で住んで、同じ時を過ごして……そうして少しずつ思い出を共有していきたいよな……」

 

「……はい、栞那と一緒に……!そうしたかった……っ!」

 

「喜べ。その想い、ようやく叶うぞ」

 

「………、え?どういうことですか?」

 

「答えを知りたければ未来へ帰ることだな。そこに高嶺昂晴の願いがある」

 

「そ、それって……!?」

 

俺を見ようと体を起こすが、力が入らない様に再び倒れる。

 

「安心して寝て良いぞ。起きたら全て元通りになってるのだから……」

 

顔から落ちたマントを持ち上げ、顔を被せる。

 

少しすると、横になっている高嶺から寝息が聞こえるのを確認して立ち上がる。

 

「……次は、明月さんか」

 

部屋を出て、フロアに戻る。

 

「高嶺昂晴は……帰ったのか?」

 

「ああ、今帰ったよ」

 

「澤田さん、ありがとうございました」

 

「もう一度高嶺に会わせてくれて……か?」

 

「はい。最後に昂晴さんとお話出来る機会を私にくれて……」

 

「言っただろ?"また会おう"って」

 

「もしかして……最初から?」

 

「さぁ、どうだろうな。ただ言えるのは、ようやく俺の計画が終わるってことぐらいだ」

 

「結局、貴様は何を考えていたんだ?」

 

「高嶺の幸せ……と、明月さんの幸せだな」

 

「私の……ですか?」

 

「そうだな。俺は高嶺だけじゃなくて、明月さんにも同じように幸せになってほしかった」

 

「それは……恩返しとして、ですか?」

 

「それもあるのはある。けど、これまで死神として生き、高嶺の為に自分を犠牲にしてまで頑張って来たのを見てると……こう、報いてほしいなぁってさ」

 

「澤田さん……」

 

「だから2人には悪いけど色々と黙って動いていた場面もあった。それについては先に謝っておきます」

 

「既に過ぎたことだ。気にするな」

 

「そうですよ。私として結果的に昂晴さんが幸せになってくれるのでしたら平気です」

 

「明月さん的にはそうかもな」

 

「それで、貴様の狙いは上手く行けたのか?」

 

「ああ。なんとかな……。結果は、まぁ……未来に戻った時にでも確認してくれ」

 

「……そうだな」

 

「……それじゃあ、俺も外で座ってるよ。元々の定位置はベンチだしな」

 

「澤田さん。改めて、ありがとうございました。それと、昂晴さんの事を……お願いします」

 

席を立ち、入口へ向かおうとすると、明月さんからの別れの挨拶が来た。

 

「……高嶺を幸せにって話だったよな?」

 

「はい。出来れば……ですが」

 

「残念だけど俺には高嶺を幸せにすることは出来ないからなぁ……。その役目は、明月さんに引き継ぐよ」

 

「えっ?どういう意味ですか……?」

 

「さぁな。未来に帰ってから確認してくれ」

 

不思議そうにこっちを見る2人にひらひらと手を振りながら背を向けて店を出る。

 

「はぁぁ……あとは四季さんが来れば……」

 

ベンチに座ってると、すぐにこちらへ来る人物を見つける。

 

「澤田君?えっと……なにしてるの?一人でお店の外で座って……」

 

「お、……ああ、四季さんか。やっと来てくれたか」

 

「ワタシを待ってたの?何か用事があったら連絡してくれれば良かったのに……」

 

「あー、いやいや。勝手に待ってただけだから気にしないでくれ」

 

「それで?用事って……?」

 

「ちょっと蝶関連で確認しておきたい事があってさ。四季さんの魂のことで……」

 

「ワタシの?何かあったの……?」

 

「もしかするとってだけの確認をミカドさんからお願いされててさ。今確認しても良いか?」

 

「別にいいけど……どうするの?」

 

「あー……ちょっと、その、言い辛いんだが……おでことおでこをくっつけて確認するんだ……」

 

「……はぁ?」

 

きっつい視線が……っ、ありがとうございます!

 

「わかる。わかるよその気持ち。やっぱりそうなるよねぇ……」

 

「どうしておでこを合わせないといけないの?」

 

「ミカドさんの話によれば、肉体的接触が必要らしい。今二人とも忙しいとか言って居ないから俺にその役が……うん、ほんとすまん」

 

「別に澤田君が悪いってわけじゃないけど……他じゃダメなの?」

 

「ああ……手を繋ぐ程度じゃ駄目っぽい。最低ラインがこれだったんだ……。他に抱き合うとかキスとか言ってたけど……流石に嫌だろ?」

 

「当たり前でしょうが……」

 

「だから限界ギリギリがおでこらしい……すぐに終わらせるから協力してほしい……」

 

「一応、考えた結果なのよね?」

 

「可能な限り考えた結果です。多分10秒もかからないと思う」

 

「……はぁ、納得できないけど、分かった」

 

「すまん。本当にすまん……」

 

「分かったから、早く済ましてくれる?恥ずかしいんだから……」

 

「ああ……」

 

目を閉じて前髪を掻き上げてこちらを向く。……無事に丸め込めたか。

 

「そんじゃ、行くぞ……?」

 

「ん、わかった……っ」

 

自分のおでこを四季さんのおでこにくっつける。

 

「……よし、終わった」

 

用が済んだので顔を離す。

 

「終わった?」

 

「ああ、協力ありがとな」

 

「どうだったの?魂を見たんでしょ?」

 

「少し弱ってたって感じ。治療したけど体調とか変じゃないか?」

 

「んー……特に平気かなぁ……?」

 

「了解。それじゃあこれで終わりだな」

 

安心するようにベンチに座る。

 

「中に入らないの?」

 

「もうちょっとここで涼んだら入るよ。お先にどうぞ~」

 

「そ、じゃあ先に入ってるから」

 

四季さんが中へ入って行くのを確認して体の力を抜く。手や体を見ると、既に淡く光っていた。

 

「やれることはやったし……あとは高嶺に任せるか」

 

後悔や心残りはある。けど、消える最後に四季さんと会う事が出来たので全部チャラで良いと思えた。

 

「これでーーー」

 

ーーー彼女の幸せに繋がるのなら。

 

そう呟こうとしたが、その言葉が口から出ることなく。その存在の維持が叶わなくなった。

 

この日、1人の男が蝶に還った。

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

「戻ったのだ。現在にな……」

 

「ミカド……。そうか、戻った、のか……」

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「一応、な。何とか……」

 

「そうか。……それにしても、妙だな」

 

「何が?」

 

「蝶の気配が完全に消えている。あれほど出されたはずの蝶の気配が一切……それに、澤田達也の姿が見えん」

 

「確かに……でも、蝶は俺が取り込んだんじゃないのか?」

 

「お前の魂の気配は強くなっていない」

 

「………、良く分からんが……いいんじゃないか?自然と解決したってことだろ?」

 

「良いわけがあるか。……だが、ここに居ても仕方ない。とにかく中に入れ。コーヒーでも淹れてやろう」

 

「そういうの、厳密には横領になるんじゃなかったか?」

 

「我輩が奢ってやろう」

 

「珍しいこともあるもんだな」

 

「今日くらいはな」

 

お店に入り、高嶺が店内を見る。

 

「改装後で助かったかも……」

 

「何がだ?」

 

「何でもない」

 

「そうか……ーーーむっ!?」

 

「なんだよ。そっちこそ、どうかしたのか?」

 

「人の気配がする。侵入者だ」

 

「澤田さんじゃないのか?」

 

「いや、我輩の知らぬ気配……だと思うのだが、妙だな……」

 

「なにが?」

 

「いや、我輩にもよく分からんのだが……取りあえず、害意は感じられん。泥棒とかではなさそうだが」

 

「……取りあえず、確認しよう」

 

「そうだな」

 

「場所は?」

 

「こっちだ……付いてこい」

 

「こっちって……栞那が間借りしていた部屋じゃないか。何もない部屋で一体何を……?」

 

「ーーーッ!?」

 

「気づかれたか!」

 

「誰かいるのか!そこで、何をしてる!?」

 

「えっ!?いや、何をってーーーというか、今は来ないで下さい!!」

 

「……は?」

 

「い、今の声って……」

 

「馬鹿な。そんなことが……!?」

 

「けどっ、聞き間違える訳がないっ!」

 

階段を上がり、名前を呼ぶ。

 

「栞那っ!?」

 

「だっ、ダメって言ったのに!なんで突撃してくるんですかっ!?」

 

そこには、生まれたままの姿で立っている、明月栞那が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えてみたのだが……原因は、高嶺昂晴しか考えれん。お前が先ほど過去に飛ぶ際、蝶と共に過去に渡り、栞那の魂に触れた」

 

「それが切っ掛けで高嶺昂晴を通じて栞那へ渡り、新たな存在として生まれ変わったのだろう。大量の蝶を持っていた状態で肉体的接触をしたからこそ起こったと我輩は考えている」

 

「つ、つまり……!澤田さんが私から昂晴さんにキスを要求したのは……!?」

 

「十中八九、それが狙いだったのだろうな」

 

「ま、まってくれ!澤田さんは、最初から栞那がこうして戻ってくるのを狙っていたのか……?」

 

「そうだ。しかも、今の栞那は死神ではなく、人間だ」

 

「そういえば……さっき栞那の気配を"人間"って言ってたな……」

 

「そう……なんです、か?私はもう……死神では……ないんですか?」

 

「ああ。普通の人間だ。気配が全く違う。人間として、生まれ変わったのだ」

 

「そんなことが……あり得るのか……?」

 

「あったのだから仕方あるまい」

 

「私は、本当に私……なんですか?こんな特殊なこと……私、聞いたことがありませんけど……」

 

「我輩もだ。普通なら赤子としてこの世に生まれるのだが……、前例として似たようなケースが既に起きているからな」

 

「あっ、澤田さん、ですよね……?」

 

「……全ては奴の思惑通り、だったという事か……」

 

「私は昂晴さんと、このまま一緒にいられるんですか?」

 

「問題無い。神からの裁定の心配もな。既に澤田達也が話を付けていると聞いた。あやつはこうなると知っていたから前もって話を終わらせていたのだろう……」

 

「で、では……私は……!」

 

「このまま人の世界で生きることになるだろうな。人間として。人としての時間で」

 

「ッ!?俺が寝る前に澤田さんが言ってたことって……!?」

 

「何かあったのですか?」

 

「俺が奥の部屋で戻る前に澤田さんが言ってたんだ。栞那と同じ時間を過ごしたいっていう俺の願いがようやく叶うぞって……その答えは未来に戻れば分かるって……!」

 

「そ、そういえば私にも言ってましたね……。昂晴さんを幸せにする役目を私に引き継ぐと。その際に同じ様に未来に帰れば分かると……」

 

「これが奴の狙いだったということか。高嶺昂晴の幸せの為に栞那を幸せにする。まさしくその通りだな」

 

「……ッッ、あ、あれ?なんででしょう?嬉しいのに……こんなに嬉しいこと、ないのに……なんだか、涙が……ぐずっ、ぐずっ……私……本当に、嬉しくて……」

 

「栞那……」

 

「もう、我慢しなくても……良いんですよね?私の気持ち……もう、出してもいいんですよね?」

 

「我慢なんてしなくても、大人ぶらないくてもいい。ちゃんと聞くから。栞那の気持ちを……。今度は俺が大人になる、全部受け止めるから」

 

「うっ……うっ……、うあぁぁああぁぁ~~~っ……!!」

 

「本当は嫌でした!私だって一緒に居たかった!好きだからっ!大好きだからっ!ずっとずっと、一緒にいたいに決まってるじゃないですか!」

 

「でもあそこで私が悲しんだら、泣いちゃったら、きっと昂晴さんを苦しめることになるって思ったから……!だから辛くても堪えて、ずっと、ずっと、我慢して……我慢して……!」

 

「ごめんな。俺が頼りないせいで、栞那に負担をかけたみたいで……」

 

「謝らないで下さいぃ~!」

 

「なら……ありがとな。今までずっと、俺のことを守ってくれて……。これからは俺が頑張るよ。栞那のことを守れるように、ちゃんと頑張るから」

 

「だから、これから先もずっと……一緒にいてくれ」

 

「いますっ、ずっと一緒にっ!もう離れたりしませんっ~~~!」

 

「俺も離したりしないからな」

 

「はい、はい……嬉しいです。本当に嬉しい……!」

 

「俺だって嬉しい。好きだぞ、栞那」

 

「私だって好きです!大好きですぅぅぅ~~~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明けまして、おめでとうございます」

 

「ああ。明けましておめでとう」

 

次の日、昂晴さんが間借りしている部屋まで来たので新年の挨拶をしました。昨日はあの後、私が泣き止むまで昂晴さんがしっかりと抱きしめ続けてくれました。

 

落ち着いた後に澤田さんの事を尋ねたのですが、2人とも見ていないとのこと。連絡のメッセージを送ってみたのですが、未だに既読が付いていないようでした。どうしてお一人で帰られたのでしょうか……?私と昂晴さんの再会の邪魔にならない様にと退散を……?

 

ありえますね。彼なら粋な計らいとか言って颯爽と帰りそうですね……。色々と感謝を言いたいのですが……。

 

「2人とも揃ってるな。話がある」

 

「どうしたんだ?」

 

「これからの事についてだ」

 

「これからの……ですか?」

 

これからと言うと、私と昂晴さんの2人の。と言うとこなのでしょうか?

 

「ああ。高嶺昂晴のおかげで栞那は死神ではなく人になったのだ。それならこれまでと同じ生き方は出来ないであろう?」

 

「それも、そうですね……」

 

言われてみれば、そうですね……。これからは人として生きていく事になるのですから、色々と違って来るでしょうし……。

 

「そこで、1つ我輩から提案がーーー」

 

「はーい、その話ストップ~。僕から話させてもらっても良いかな?」

 

「ッ!?」

 

階段の方から声が聞こえ、全員でそちらを見る。

 

「あ、あなたは……!?」

 

「ちょっとお邪魔するよー?君たちに話しておかないといけないからさ」

 

そこには、白い恰好で耳と尻尾を生やした少女が……って、以前に澤田さんが仰っていたお方ですよね……?なんだか口調が……。

 

「あなたは……!?」

 

ミカドさんが焦るようにそちらを見る。

 

「そうだよ~?君たちにも分かりやすく言えば、彼と交渉をした卯花之佐久夜姫の上司ってところかな?」

 

「えっ!?」

 

という事は……、とても偉い神様となりますよね……?

 

「そうなんだよ、僕はとってもえら~い神なのさ。ここに直接来れないからこうやって依代を使って降りて来てるのさ」

 

「……ど、どの様なご用件で……?」

 

ミカドさんがその場に跪いて尋ねる。

 

「彼……澤田達也との取り決めを果たしに来ただけ」

 

「澤田達也の……ですか?」

 

「ああそうだよ~?彼から僕へのお願いがあってね。まずはそこのお二人さん」

 

「は、はいっ?」

 

「お、俺ですか?」

 

「そうそう。YOUらだよ。そこの女の子が人へ生まれ直したからね。今後はそこの彼の家で一緒に住むこと。まずはこれが1つね」

 

「え、えぇッ!?」

 

昂晴さんと家で……!一緒にぃ!?

 

「ま、待ってくれ!突然何を……!」

 

「う~ん、僕はあくまで彼のお願いを言ってるだけだし、説明はめんどくさいから後で適当に説明しといて~」

 

「はっ、お任せ下さい」

 

「彼とそっちの考えは同じだったみたいだし、問題無いでしょ。それからもう1つは、過去に戻ったあの日……9/28時点で世界から澤田達也という存在の記憶をを消すこと……だったんだけど、キミらはこっちに戻ってきたせいでその対象から外れちゃってたんだよねぇ……これは僕も予想外だね」

 

「え……?澤田さんの……記憶を?」

 

目の前の神様の発言に全員が困惑する。

 

「澤田達也の……記憶を消す……?」

 

「ああ、それもそうか。キミらは今の世界じゃなくて彼が居た世界から来たんだったね。そりゃ混乱するのも無理はない。うんうん」

 

澤田さんが、居た世界……?今の世界……?それだと、まるで澤田さんがーーー。

 

「説明するのも面倒だし……実際にこの世界のキミらの記憶を送った方が早いよね」

 

パチン、と指を鳴らすと、白い球体が浮かび上がって私たちへ向かって来る。

 

「変に怖がらなくて大丈夫。ただの記憶なんだからさ……」

 

面白そうにこちらを見て笑う。

 

「は、はぁ……ーーーッ!??」

 

白い球体が体へ吸い込まれたかと思った瞬間、脳へこれまでの3か月間の記憶が蘇る。

 

「こ、これは……!?」

 

「お店での、記憶……?」

 

「だが、この記憶は……!」

 

お店での記憶を思い出した。それだけ、それだけだけど、決定的な違いがあった。

 

「こ、この記憶は……本当なのですか……?」

 

「そうだよ。この世界でのキミらが昨日まで過ごした記憶さ」

 

そう、そこには……澤田さんに関する記憶が一切存在していなかった。澤田達也と言う名前すら憶えていなかった。

 

「ど、どうして……私は、澤田さんの事を……!?」

 

「自分を責めても意味ないよ~。さっき言った様に、キミらが過去から現在に戻ったあの時に記憶から消えてるからね」

 

「どうして澤田さんの事を消したのですか!?」

 

隣の昂晴さんが問いかける。どうやら、ミカドさんと昂晴さんも私と同じ様ですね。

 

「しょうがないなぁ……特別に1から説明してあげるから大人しく聞いて貰える?」

 

「……は、はい」

 

「彼はキミらを救う為に過去に飛んだ。ここまではキミらも理解出来ていると思う。だけど、彼の目的は残念だけどそれだけじゃなかったんだよねぇ~」

 

「それに追加で、四季ナツメ。彼女の事も同時に救おうとしていた。更に更に、彼は自分がこの世界での異分子……本来あるべきだった運命を歪ませていた存在と分かってしまったんだよ」

 

「澤田さんが……?」

 

ナツメさんもでしたか……。いえ、これについては理解できます。彼なら救えるものを全て救えるように動く人ですから……。ですが、その後の言葉……運命を歪ませていた?

 

「そうだねぇ……。彼から聞いてたりしてたんじゃない?"自分が知っている未来とは違う出来事が起きている"とかさ。予想外のハプニングが起きてしまった……とかとかさ!」

 

……確かにそう言ったことを以前に聞いていますが……。

 

「例を挙げるなら、先ほどの彼女……四季ナツメが突然倒れた。これは彼にとって想定外。更に言えば、元死神のキミが戻って来るのは本来昨日じゃなくて、一昨日だった……とかね」

 

「私が……戻ってくるのが……?」

 

「ああそうとも。彼の計画では一昨日の大みそかにキミが昨日みたいに人として戻ってくるはずだった。だがしかし!彼が自分の失態のせいでその計画が狂ってしまった……。まぁ、彼の頑張りで何とか成功させたみたいだけどね」

 

「僕が調べてみると、前の世界で起きた想定外のハプニングは根っこを辿ればそのほとんどの原因が澤田達也という存在のせいで起きている事が分かった」

 

「彼も薄々気づいていたみたいだったけどね。そこで彼はある行動に出る。"自分という存在が消えれば、元の世界に戻るのでは……?"とねっ」

 

「……ッ!?」

 

という事は、澤田さんは自ら……!

 

「そう。消えることを選んだのさ。その際に自分という存在の記憶を消して欲しいと頼まれて消してあげたよ。しっかりとね……。まぁ、ちょっとしたイレギュラー達が居たんだけど」

 

その存在が、私たちと言うことですか……。

 

「私たちの記憶も……消されるのでしょうか?」

 

「ん?いやいや、消す気は無いね」

 

「……へ?そうなのですか?」

 

「うん。だって頼まれたのはあの日、あの瞬間の一回のみだったからね。それ以外のことは頼まれてないし」

 

「よ、よろしいのですか……?澤田達也の記憶を残しておいて……」

 

「ああうん。問題無いね。僕としては……そっちの方が面白い方向に動きそうだからさ」

 

何やら面白そうにこちらを見てくる。

 

「まぁ、そう言う事だから。仲良く一緒に暮らしてねってお話」

 

「ま、待って下さい……!ほ……本当に澤田さんは……!?」

 

隣の昂晴さんが今の話が信じられないと問い詰める。

 

「本当も何も、キミらの中にある記憶がそれを物語ってるだろ?」

 

「ですが……!こんなの……」

 

「何かっ!澤田さんを助けれる方法などは……!」

 

とても信じられるわけが無い。ですが、私の中にある記憶が……澤田さんの事を知ってる記憶と知らない記憶の両方存在している。今いるこの世界が後者だとすれば……本当に澤田さんは……。

 

「彼はキミたちを救う代償に自らの命を絶った。そのことをまずは受け入れなよ」

 

「こ、この世界では……澤田さんのことを誰も……知らない……」

 

「前の世界のように一緒に働いた記憶は一切存在していない。澤田達也がこのお店に居た。そんな現実は存在しないんだ」

 

「そんな……、そんなのって……」

 

誰よりも一番に苦しみながらも皆の為に頑張った彼が……この世界では無かったことに……?

 

「キミらの言いたい事はよぉ~く分かるよ。あんなに頑張った人間の終わり方がこれなのか!?って言いたいよね?うんうん、すご~く理解できる。僕も似たような考えだからね」

 

「でも、これでも僕は神だからね。特定の人物を贔屓する事は出来ないんだよぉ……彼の事は気に入っていたから僕としても本当に残念だよ~……」

 

「何か……何か方法は……無いんですか?」

 

「んん~、ごめんねぇ?僕にはどうしようもないんだよぉ……」

 

「い、いえ……こちらこそすみませんでした」

 

「高嶺昂晴。神とは平等であらねばならん。個人を好き勝手に助けたとなれば問題なのだ……」

 

「……そ、そうか」

 

つまり……澤田さんを助けることは……。

 

「助けることは出来ないね。()()()……だけど」

 

「それは……一体どういう意味なのですか?」

 

「何、今から下のフロアに行けば分かるさ。キミたちを待ってる人が居る」

 

「我輩たちを……」

 

「ククッ……そうさ。その人物なら、助けになってくれると思うよ?早く行ってあげな。僕が来てからずっと下で待っているから。ふふ」

 

笑いを我慢するように話していますが……。どなたかがフロアに……?

 

「ミカドさん、昂晴さん。見に行ってみましょう」

 

「ああ、行こう」

 

「協力者が……?一体……」

 

澤田さんの存在が消えたこの世界に協力して下さる方が……?

 

疑問に思いながらも階段を下りてフロアに出る。

 

「……え?」

 

フロアに居たのは、1人の女性。

 

「ああ、やっと来た。3人ちゃんと揃ってる……。さてと、それじゃあ早速で悪いけど、これからの事について話し合いを始めましょう?」

 

「彼ーーー()()()を救う物語を」

 

そこには、真剣な表情で私たちを見つめる。ナツメさんが居た。

 

 

 





今回が最後と言ったな?あれは嘘だ……。主人公が居た最初の世界の最後ではありますが……。

ここから2つ目の世界での物語です。彼を救うための最終章です!

次回はこの世界の9/28から始まります。主に四季さんの視点で。

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