次の世界での物語です。主人公は居ないでの殆ど四季ナツメ視点かも。
話数もその時からに戻しました。
「こんばんわー」
外のベンチで座って居る澤田君を横目にお店に入る。
「ナツメさん、服の方はどうですか?」
「うん。ちゃんと仕上げてもらった。着替えてみるからおかしくないか確認してもらいたいのだけど……、明月さんと閣下は居たの?」
さっき澤田君に用事でいないって言われたのに2人がお店にいた。え、騙された……?
「はい。いましたよ?」
「あれ……?用事があって席を外してるって聞いてたんだけどなぁ……」
「どなたからですか?」
「……ええっと、あれ?誰からだっけ……。……うーん?ごめん、勘違いだったかも」
「そうですか?まぁ、確かに少し前まで用事があったと言えばありましたが……」
「そうなの?まぁいいや。それじゃあ着替えてくる」
「はい。わかりました」
何だかど忘れした様な気分でロッカールームに入る。
「……うん、見た感じは大丈夫そう」
ワタシの背丈に合わせたウェイトレス服を出して着替えを始めようとする。
「あれって……」
部屋の入口に、青い蝶が飛んでいるのが見える。
「多分、閣下達が言ってる蝶よね……?」
フワフワと彷徨うようにワタシの周りを飛び回っている。
「どこかから迷い込んだのかな?」
不思議に思いながらも見ていると、蝶がワタシの肩に止まって消える。
「あれ、消えた……?」
どこへ行ったのだろうと思ったが、気にしても仕方ないので着替えの続きを始めようとした。
「………、ん?」
服に手をかけたその時、謎の違和感を感じて手を止める。
「……なんだろう、これ?」
突然の違和感に周囲を見渡すと、部屋の隅で何かにマントが被されていた。多分だけど明月さんのだろう。
「人……?」
どうしてかそのマントが気になってしまう。試しに近づくと、人だと分かった。
「……え、覗き?いや、それはおかしいか」
地面に寝転がりながら覗きとか聞いた事がない。それに……寝ている様な気がする。
衝動に駆られてそのマントを捲る。
「男の……人?」
そこには目を閉じて寝ているであろう男の人がいた。多分ワタシと同じ年ぐらいと思う。
「明月さんの知り合い……?」
考えられるのは誰かをここまで運んで寝かせている……とかだと思う。マントが明月さんのだもんね。
「それならさっき一言ワタシに言えばいいのに……」
下手したら着替えの途中で起き上がって見られたりしたかもしれない。まぁ、そんな偶然は流石に無いけどね。
「……起こした方が、良いよね?」
この人が誰なのか?どうしてここで寝ているのか……。気になる。でも……。
「なんだろう……この感じ……どこかで……」
目の前の彼をどこかで見たような……?ううん、会った様な気がする。大学の人だろうか?
「うーん……ま、いっか」
思い出せないので、目を覚ます様に声をかけた。
「おーい」
その場でしゃがんで肩を揺らす。
「……ん、んん?……?」
眠りから目を覚まして目を開けると、ワタシを見て固まる。
「……え、えっと、おはようございます……?」
「おはよう、よく眠れた?」
「そ、そうですね……。寝起きに美少女を見たので困惑しているけど……」
「どうしてここで寝ていたの?」
「寝ていた……?あっ、確か……外を歩いていたら突然意識を失って……気づいたらここに……」
「……そう。嘘は付いてないみたいね。となると……明月さんの知り合いか」
「明月さん……?」
「意識を失う直前に、誰かと会ったりしてた?」
「し……信じてもらえるか分からないけど、黒い猫に話掛けられたり……ッ!?そ、そういえば……!か、鎌で斬られたりした……」
「その人って、このマントを着けていたとか……覚えてる?」
「……一瞬しか見て無いから憶えてないけど、こんな感じだったと思う……。てか、信じるのか?今の話……」
「該当する人を知ってるからね。やっぱり2人の関係者だったか……」
「もしかして、何か知ってーーー」
その時、入口のドアが開く。
「あ、ここで寝てもらってたんですね。よかった、ちゃんと起きてくれました」
「これ、明月さんの仕業?」
入ってきた明月さんを見ながら、目の前の人を指差す。
「仕業だなんて人聞きの悪い。そりゃ確かに、休憩室に人を休ませているという説明を忘れていましたけど……あっ、マント。そっか、ここに置いてましたか」
「それで、説明してくれる?」
「はい。ですが、本題に入る前に確認させて下さい。どこか痛かったり、気分が悪かったり、何か不調はありませんか?」
「いや、特には……」
「よかった。心配する必要は無いとは分かっていましたが、人を斬るのは初めての事でしたから……。ちゃんと目覚めて不調もないのでしたら、安心して良さそうですね」
明月さんの言葉を聞く感じ、本当に彼を鎌で斬ったみたい。
「……あっ、そうか!あの時俺を見下ろしていた、鎌を持っていた女の子か!」
「はい。私は明月栞那と言います。突然失礼いたしました。呑気に構えていられない事情がありまして」
「……認めるのか?俺を殺そうとしたって」
笑顔で自己紹介をしてくる明月さんを見て警戒心を出している。それもそうか……。
「誤解されても仕方ないとは思いますが、そんなつもりはありません。あの鎌で斬っても、人は死んだりしませんよ」
「だが、俺を斬ったことは間違いないんだな?」
「はい、そこに関しては……。ちゃんと全てを説明しますが、少し長い話になりそうですから。場所を変えませんか?」
そう言って寝ていた彼を連れてフロアに出る。
「ワタシもココにいていいの?」
「問題ありません。ナツメさんにも関係してくることかもしれませんから」
「ここ、店だったのか?カフェ?」
「はい、そうですよ」
「まだ営業は始めてないけどね」
「四季さんは、この店の関係者なのか?」
「そうだけど……、え?なんでワタシの名前を知ってるの?前に会ったことある?やだ……ストーカー?」
「違うから。変な免罪を被せないでくれ。俺も一星大学の3年だよ。学科も学部も違うけど名前は高嶺昂晴だ」
「高嶺君……ね。大学で会ったっけ?」
「どこかで講義が一緒だったりはするけど……どちらかというと噂の方で知ってるって感じだな」
「噂……、なるほど。そういう噂ね」
同じ大学だったのか……。それならさっきどこかで見た気がしたのも納得出来た。
「さてと。では本題なんですが……」
カラン、とベルが鳴ってお店のドアが閉まる。
あの後、明月さんから高嶺君へ事情を説明し、一緒に働こうと誘った。急な話で戸惑いながらも返事は明日へ保留となった。
……事情が事情だし、近くへ置いた方が何かと便利なのだろう。そこは理解出来るから特に反対はない……はず。寧ろ……。
「……なんだろう?このもやっとした気分……」
逆に何故か焦り……とはまでは行かないけど、変な感じがしている。
「閣下から話を聞いたからかなぁ……?」
高嶺君が帰った後に閣下から話があった。どうやら、高嶺君が事故で死んだときにワタシもその場に居て巻き込まれたらしい。覚えては無いけどね。
その際に魂の一部が零れ落ちて蝶になってしまって不安定とか何とか……。
けど、その話を聞いて……"そうなんだ"ぐらいの感想しかなかった。何となく理解が出来たからだろうか?零れても仕方が無いなって……。
「でも、納得出来てるなら……、このもやもやした感じはなんだろ……」
今日はなんだがすっきりしない気分が続いてる。……違和感って言うのだろうか?
「ま、いっか。考えても仕方ないしね。早く帰って寝よ」
そういう日もある。そう思って家へ帰る。
「ただいまーっと」
いつも通りお風呂のスイッチを入れて、貯まるまでの間ベットに座る。
「それにしても……自分の為に世界をやり直すなんてねぇ……」
今日閣下達から聞かされた話を思い出す。自分の未練の為に死んだことを無くしてもう一度今日をやり直した張本人……らしいけど。普通の大学生って感じだった。
「いや、少しズレてた感じはする……」
陽キャのイメージが語尾にウェイを付けるような人だしね。
「それにしても、変な事に巻き込まれちゃったなぁ……。いや、巻き込んだのかなぁ……?」
ワタシの夢を叶えたいって話を聞いて2人は協力してくれるけど、高嶺君まで誘うなんてね。
「……ん?」
3人……?
「閣下と……明月さんに、高嶺君……うん。3人」
3人……という人数に違和感を感じながらも、考えても3人しかいない……。
「……なんか、なんだろ……?」
『お風呂が沸きました』
変な違和感を感じていたが、その時に通知が来る。
「……お風呂入ろ」
次の日、大学が終わりお店へ来ていた。昨日試着しようとしていたのを結局着れてないし、今日は高嶺君がお店で働くか返事をする日だし……。
「………」
ウェイトレス姿に着替え、フロアで昨日見た夢の事を思い出す。
「それにしても……変な夢だったなぁ」
詳細までは覚えてないけど、ワタシが笑顔でお店で働いており、お客さんも沢山いて、明るい感じの雰囲気だった。とても充実した気分だった……気がする。
「願望が……出ちゃったのかな?」
昨日高嶺君がお店で働くかもって考えたから、もしかしたらお店を開いた時のことが夢で出て来たのかもしれない……。
「それでも都合良すぎでしょ……」
なんせ、今は大家さんに許可を貰える兆しすらない。一応もう少し待っては貰えるけど……それまでになんとかしないとね。
「失礼します」
考え事をしていると、入口から人が入ってくる。
「うん?ああ、どうも」
どうやら、来たのは高嶺君みたい。
「……へぇ……」
「……なに?」
入ってくるなりワタシの恰好をジロジロと見始める。
「似合ってるな、と思って」
「この服?それはどうも。ありがとう」
……似合ってるって、高嶺君ってコスプレ好きなのかな?ジロジロと見てるし。
「なんで微妙そうな顔?」
「いや、高嶺君ってコスプレ好きなのかなぁ、と思って」
「別に好きとか特別な思い入れがあるとかそんなのじゃないから。ただ、珍しいとは思うけどさ」
「ならいいけど……」
とか言う割には相変わらずこっちを見てる。
「そんなに見ないでくれます?恥ずかしくなるから」
「カフェのユニフォーム?」
「そうだけど……変?」
「いや、いいんじゃないかな?」
「そういえば、結局高嶺君の方は決心はついたの?働くかどうか」
「一応、返事は決めてるよ」
「そう。……その表情を見る感じだと、働くみたいね」
「……顔に出てたか?」
「なんて言うか、前向きな表情に見えたから。目に後ろめたさとかが見えないなって……」
「……人のこと良く見てるんだな」
「……そう?うーん、どうだろ……。あまり意識してなかったけど……なんとなくそう思っただけ。そっちが分かりやすいだけかも」
「マジか……気を付けよ」
そんなことを話していると、奥から明月さんと閣下が現れる。
「高嶺さんっ、よく来てくれました!」
「良く来たな、高嶺昂晴」
人の姿をしている閣下を見て不思議そうにしている。
「……誰だ?初対面の相手をいきなり呼び捨てとか」
「バカにしているのか?それとも、昨日の今日でもう忘れたのか?人の体をさんざん弄んでおいて……お前という男は……」
「ーーーちょっおまっなにをっ!?」
「高嶺君って……そっちの人だったの?」
閣下の言葉に戸惑いを見せる高嶺君を揶揄う。
「まさか高嶺さん……童貞ではなくて、処女を捧げたかった……とか?」
「そんなことは考えた事もない」
「冗談ですよ、すみません。ちゃんと分かってますから……」
「高嶺さんは攻め専門ですよね?」
「役割の話をしてんじゃねーよっ!」
「なんだ、そっかぁ、違うんだ……」
「え?なんで残念そう?」
「ウソ、冗談」
場が面白くなって来たけど、これだと話が進まないのでここで終わり。
「そんなに慌てなくても大丈夫です、ふざけてみただけですってば」
「その姿で会うのは初めてだからわからないだろうけどね。それ、閣下だから」
「閣下?閣下ってアレか?ケット・シーか?」
「だからソレとかアレとか無礼な呼び方をするな」
すると人から閣下の姿に戻る。
「どうだ?これならわかるだろう?」
「まさか変身も出来るとはな……」
「とりあえず座って下さい。何か飲みますか?」
「いや、俺は客として来たわけじゃないんだ」
「分かってます。昨日の件で、来てくれたんですよね?」
「決めたよ。だから、まずはその返事をしようと思う」
高嶺君の言葉に明月さんが真剣な表情をする。
「……分かりました。聞かせてもらえますか?」
「俺は……、ここで働く。あ、いや。一緒に働かせて下さい」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
「これから、よろしく」
「助かる。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よかった……引き受けてもらえて、ホッとしましたぁ」
高嶺君が働くとなって、明月さんが安心するように胸を撫で降ろす。
「俺の命にも関係してることだからな」
「無事働くことになったとして……、それでは、まずは契約を結んでもらおうか」
「死神との契約……ゴクッ」
「……違反したら、それで俺は死んだりするのか?」
何を想像したのか緊張した表情で2人を見る。
「いえ、労働に関する契約です。契約書はこちらに」
「ちゃんとハンコは持ってきたのだろうな!」
「いざという時、労基がうるさいですからね」
「……労基の指導、受けるのか?死神なのに?」
「死神だからこそ、無駄な騒ぎは避けたいのだ。この店だって必要な許可は得ている。もちろん、正規の手続きでな」
「……思ったよりちゃんとしてるんだな」
何となく言いたい気持ちは分かる。非現実的な存在が現代社会の仕組みに従ってるの……少し変な感じ。
「ところでだが、まだオープンしてないて聞いたけど、何か問題でもあるのか?見た感じだと結構準備は揃ってると思うんだが……?」
「それは……高嶺君、コーヒーって普段から飲む?」
「飲むぞ。頻繁って程ではないけど」
「それはよかったです。なら、コーヒーの味を確認してみてもらえませんか?実は、コーヒーの味がわかる人がいなくて……」
「……あれ?」
「なんだって?」
「あっ。勘違いしないで下さい。適当に淹れてるわけじゃないですよ?淹れ方はちゃんと勉強しました。……ですが、正直苦いとしか思えないんですよね……。普段からコーヒーは全然飲まないので」
明月さんの発言を聞いて、何か変な違和感を覚える。いやでも……ワタシ達は飲めないし。
「四季さんは?」
「……ん?え?ワタシ?……ワタシもコーヒーはちょっと……。頑張れば、飲めなくはないんだけど……」
「あー、そっか。四季さんは砂糖とミルクたっぷりじゃないと飲めない人だった」
「……なんで、知ってるの?」
「大学のコンビニでコーヒー買ってるところをたまたま見たから。ブラックで一口飲んだ後は大量の砂糖とミルクを入れてただろ?アレって味の確認をしようとしてたんだな」
「……そういうこと。でも結局、全然わからなかったけど……」
「以前に明月さんと色々試してみたんだけどどれも苦くて……それなら色んな人が飲んでるコンビニなら飲めるかなって」
結果は惨敗だったけど……。
「それでは、すぐに準備をしますね」
高嶺君がカウンター席に座り、明月さんが中へ入ってコーヒーの準備を進めて行く。
……なんだか無駄の無い動き。しっかりと練習したんだろう。それか、閣下から教わったのだろうか?
「はい、どうぞ」
明月さんのコーヒーの淹れ方を見ていると、準備が終わりカップを高嶺君に出していた。
「ありがとう」
それを受け取って、一口飲む。
「………」
その様子を不安そうに明月さんが見ている。
「……どう、でしょうか?」
「いや、普通に美味しいんだが?」
「本当ですか?気を遣ったりせず、率直な感想を教えて欲しいんですが……」
「正直な感想だ。ちゃんと美味しい。……ただ、しいて言うなら……、特別な味って訳ではない……とか?」
「そうですか……」
「すまん。言い方が悪かった。お店の商品として出されても不満とか無いとは思う。俺としては十分な味だ」
「でも、よくある味ってことなんですよね?」
「……まぁ、そうなるのか……?」
「美味しく淹れる為には、もっと研究しないとダメですか……」
「……因みに、オープン出来ない問題って言うのは、コーヒーの味がわからないってことだけなのか?」
「それはーー」
高嶺君に現状の説明をしようとすると、入口のドアが開く。
「お邪魔させてもらいますね」
ーーー大家さんっ!?
丁度話そうとしていた人がお店へ来て驚きながらも姿勢を正し、頭を下げて挨拶をした。
主人公のせいで初手から歪みが……。