第2話です!
タイトルはそのまんまの意味ですが、映画だけで使われていた意味も含んで使ってみました。
「それじゃあ、また様子を見に来るから」
「はい。お待ちしております」
……今回も許可は貰えなかった。けど、うん……。何となくそうなんじゃないかとは予想してた。
「……はぁ……」
期限までそんなに猶予は無い。けど、まともに進歩してる気がしないなぁ。
少しお落ち込みながらも顔を上げると、視線の先で蝶が飛んでいた。
「栞那」
「はい」
その蝶を明月さんが鎌で回収する。
「とまぁ……、こういうこと」
不思議そうにこちらを見ている高嶺君へ声をかける。
「いやスマン。わからん」
「今のはここの大家さん。お店をオープンさせるためには、あの人の許可が必要になるの。大家さんを接客して、納得してもらえたらその許可が下りる約束なんだけど……」
「かなり難しそうな雰囲気だな」
「もう何度も足を運んでもらってるんだけどね……。満足してもらえない。だから、コーヒーの味がわかる人に協力して欲しかったの。味を良くする為に……」
「さっき言ってた月末っていうのは……?」
「一時的に借りていられる期限。本当は夏までの約束を、何とか10月まで引き延ばしてもらったんだけど……」
「まだできてない、と……?」
「そう。……ワタシ、奥で休憩してきてもいい?」
「あ、はい。分かりました。こちらはお任せください」
「ありがとう。それじゃあ、よろしく」
高嶺君の相手を明月さんに任せて奥の部屋へ入り椅子に座る。
「………」
さっき、大家さんにコーヒーを飲んでもらった時、不思議と今回も駄目だろうとわかってしまった。
「……諦めているのかな?」
期限まで時間が少ないのに全く変化が無い。コーヒーの味を良くするために高嶺君にお願いしているけど……なんだか、それだけじゃ不十分な気がしている。
「……そもそも、味がどうとかって言われたっけ……?」
思い返してみれば、大家さんはコーヒーや紅茶、オムライスの味に対して意見は言ってなかった気がする。
「……問題は違うところ?」
商品の味が良ければ認めてもらえる。そう思っていたけど、そもそもの考えが間違い……?
「いや、でも……味は大事だし」
お店が開けても、美味しく無ければ人は来ないし……、うーん……。
「お店を開くために……かぁ」
ヒントがあるけど掴めていない。
『ーーーその夢を、俺に手伝わせてほしい』
「……っ?なんだろ?今の……?」
よくわからないけど、誰かの台詞を思い出す。
「……テレビ番組?動画の……?」
誰の言葉だったのか思い出せずに悩む。
「……って、そんなこと思い出してる場合じゃない」
今考えるのは、お店を開くために必要なことだ。
そう思って気持ちを切り替えたが、不思議と落ち込んでいた気持ちは消えていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただくよ」
1人でうんうんと考えていると、明月さんがワタシを呼びに来た。どうやらコーヒーとオムライスを食べたので最後にワタシの紅茶の味も確認しておきたいとのこと。
「……どう?」
「うん。オムライスの時も思ったけど、十分に美味しいと思う」
「そう、よかった」
「……大家さんってグルメだったりするのか?」
「そう言うのは聞いた事無いけど……」
「そっか。これで満足してもらえないのか……美味しいのに。前回もこの味だったんだよな?」
「そこまで変化は無いはず」
もう一つのカップに淹れて念のため味を確かめる。
「……うん。こんなもん」
「そうか……、なら味が変とかでは無いんだな」
「……要因は他にあったり?」
さっき思い付いたのを試しに聞いてみる。
「分からない。けど、それも考えていた方が良いかもしれない」
「ごめんね、一日目からこんなことになって」
「いや、他人事じゃないからな。それに、放っておけるほど心が廃れていないしな」
「……そう。ありがと」
ありがたさと申し訳なさを誤魔化す様に紅茶を飲む。
「……?」
さっきと同じ紅茶の味……。だけど……もっと美味しいのをどこかでーーー。
「四季さん?」
「ん?なに?」
「いや、飲んだ紅茶を不思議そうに見てたらさ。なんかあったのかなって」
「ううん、気にしないで。紅茶をもっと美味しく出来ないかなって考えてただけだから」
「今でも十分美味しいと思うけど?」
「だからと言って止めるのは違うでしょ?」
「それもそうだな」
「ワタシも色々と考えてみるから、出来れば高嶺君の方でも何か思いついたら言ってね」
「ああ。俺の方でも考えておくよ」
「ありがとう。今後とも、よろしくね」
「こちらこそよろしく」
その後、どちらも味見をしたというので今日は解散となり、家へ帰った。
「……んっ、んん……、あれ?ここは……?」
目を覚ますと、そこにはいつもの部屋では無く、不思議な空間が広がっていた。
「……夢、なのかな……?」
周囲を見ると、視界に広がるのは夜空の様な暗い空間。だけど、ワタシの場所だけは薄らと青く照らされており、足元はお店の床と同じ木の板で作られていた。
「どこ、なのだろう……?」
夢だとは分かった。けど、ここまでハッキリと意識があるのが不思議だった。
……夢って、もっとこう……曖昧で自由が利かないものじゃないのかな……?
よく分からない場所ってのは確かに夢っぽいけど……。
「……あっ、あそこに明かりが……」
少し離れた場所のここと同じ様に照らされている場所があった。
「とりあえず、行ってみようかな?」
どんな夢なのかは分からないけど、その内目を覚ますだろうと思いそのまま進む。
足を踏み出すと、その分だけ前方に光が射し、足場が作られていく。床は相変わらずお店と同じだった。
「……なんだか、パズルみたい」
暗闇に道を造ろうと少しずつ集まり、足場として成ってく光景はバラバラのパズルが組み合わさっていくようだった。
「……着いたけど、特に何があるわけじゃないか」
夢なのだ。そこら辺は適当だろう……。
振り返り、元の道を帰ろうと一歩踏み出す。
「あら。折角ここまで来てくれたのに、もう戻っちゃうの?」
「っ!?」
突然背後から声をかけられ振り返る。すると、そこにはさっきまで無かったお店のテーブルと椅子が置かれており、1人の女性が座っていた。
「……え?だ、だれ……?」
テーブルには紅茶のティーセットが並べられていて、高校生……?ぐらいの女の子がカップを持ち上げて紅茶を飲んでいた。
「私?……そうねぇ。あの子の夢の住人……ってところかしら?」
「……?あの子?住人……?」
自分の夢に突然知らない人が出てくる。そんなことがあるのだろうか……?どこかで会った、とか?
「……そう警戒しなくて良いわよ。とりあえず、座って紅茶でもどうかしら?」
正面の席を勧められたけど……、なにこれ?どんな場面?……ほんとに変な夢だ。
どうせその内目を覚ますだろうと考え、半ば諦めて席へ座る。
「私が紅茶を淹れるわ。と言っても、味は私のじゃないけどね……」
カップへ紅茶が注がれる。容器を満たしたカップから湯気が立ち昇る。
「さぁ、飲んでみて?きっと気に入ってくれると思うわ」
「えっと、い、いただきます」
言われるがまま一口飲む。
「……美味しい。ん?……あれ?この味って、どこかで……?」
凄く美味しい。……それに、何だか懐かしいような……。
「気に入ってもらえたようね。良かった、安心したわ」
ワタシが満足してもらえたのを嬉しそうに微笑む。
「それじゃあ、あなたが目を覚ますまで私とお喋りしましょう?」
「えっと、あなたは……?」
「さっきも言ったけれど、あの子の夢の住人よ?いえ、今はあなたの夢の住人ね」
「あの子……?どういう事でしょうか?」
さっきから謎ばかり増えて行く。自分の夢なのに融通が利かないというか……思い通りにならない感じが……なんとも夢らしいというか……。
「澤田達也。この名前に見覚えは……ない?」
「さわだ……、たつや?いえ、特には……」
唐突に知らない名前が出てくる。男の人だろうか……?
「ふふ、やっぱりそうなのね。予想通りだわ」
「誰ですか?その人は……?」
「……人を助ける為に自分を犠牲にしたアホな子よ」
「アホな子って……」
自分の夢に呆れる。……何だか虚しい気持ち。
「まぁ、いいわ。それについては徐々に思い出してもらいましょ。今は……あなたの夢の、あのお店をオープンさせる方が優先ね」
「ああ……そういう夢かぁ」
何となく今の状況が理解出来た。今日お店を開くために色々と考えていたのが夢として出て来たってことね。
「あの高嶺って男の子がお店に来てくれたことで無事スタートラインに立つことが出来たわ」
ワタシにお構いなしで話し始める。高嶺君がスタートライン?確かに何か変わるかもって少しは期待してるのは本当だけど……。
「でも、今のままじゃとてもオープン出来ないわ。残念だけど」
「……っ!?」
ハッキリとそう口に出す。……ワタシは本心ではそう思ってるってことなんだろう。
「今の状態ではね。だから色々と変えて行く必要があるわ。お店もあなた自身も……」
「……ワタシ、自身も?」
「ええ。ご両親の夢を実現する為、あなた自身の夢を叶える為に頑張ってるのは分かるわ。思い描いているお店を開きたいってことは」
自分の心の中を見られている様で気持ちが若干沈む。この感じ、前にもあったような気が……。
「やっぱり、お店を開くために変わらなきゃ……ダメなのね」
自分の夢で指摘されるのは変な気分だけど、薄々ワタシも心のどこかで分かっていたってこと。
「……どうすれば、良いと思う?」
自問自答とも思える質問を正面へ投げかける。
「……そうねぇ、変われる切っ掛けはあの男の子が運んで来てくれるわ。そのチャンスを掴み取れるかは……あなた次第よ」
「あの男の子……?」
状況的に、高嶺君のことだろうか?
「高嶺……、昂晴くんね」
「高嶺君が……?切っ掛けを?」
「ふふ、そうよ。これまで進まなかった日常が慌ただしくなるわ。遅れを取らないように頑張りなさい」
楽しそうにこちらを見て笑う。
……楽しそうな笑顔。
その瞬間、脳裏に一瞬誰かの笑う顔がチラつく。
「……ん?」
ノイズみたいに荒くぼやけていてハッキリと分からなかったけど……。男の、人?
「………」
なんだろう。この感じ……。何か、忘れている様な感じ。思い出そうとしても思い出せないモヤモヤ。最近よくあるけど……。
「……今日は、ここまでにしましょう。急ぐ必要は無いわ」
楽しそうにこちらを見ていた彼女が、真面目な顔をして立ち上がる。
「またここで会いましょう。あの子の頑張りが、あなたにどんな結果をもたらしたのか……楽しみにこの場所で待ってるわ」
こちらに背を向けて歩き出す。すると、周囲の暗い空間に徐々に光が射し始める。
目を覚ますってことなんだろうか。
「……結局、最後までよく分からない夢だなぁ」
知らない見た目の人と紅茶を飲み、自分の悩みの相談だなんて……。
呆れるようにため息を吐いていると、光が急速に強まって行き、目が開けられない程眩しく輝いた。
「ん……っ、ふぁっ……なに?この変な夢」
目が覚めてベッドから体を起こす。最初に頭に思い浮かんだのは夢の内容。
「……んんっ~……、結局、誰だったんだろうぅ……」
眠たい目を擦りながらスマホで時間を確認する。アラームが鳴る数分前だった。
「あー……、もう起きないと」
どうせすぐに起きることになるからと起き上がり、お店へ向かう為に身なりを整える。
「……なんか、夢なのにハッキリと覚えてるなぁ」
いつもなら時間が経てば薄れて行くけど、余程内容が衝撃的だったのか、今日見た夢の内容をハッキリと覚えていた。
「……お店と、ワタシ自身……かぁ」
夢は記憶の整理とか言われてるし、ワタシ自身がそう考えているってことで間違い無いのだろう。
そんなことを考えているとお店へ着き、ウェイトレス服に着替える。
「………」
変な夢を見たからだろうか……?妙に胸がざわつてる気がする。
「うーん、最近何だか変だなぁ……」
今日のは昨日のと違ってモヤモヤした感じでは無くて不安……?みたいなもの。虫の知らせとかだろうか?
「んー……」
カラン。
そんな事を考えていると、入口から誰かが入って来る。
「あ、高嶺君。おはよう」
「おはよう」
「……ほほー……。なるほどなー。そういうことだったか~」
知らない人の声が高嶺君の後ろから聞こえる。
「なにが?」
「俺に頼みごとなんて珍しいと思ったら、なんだそういう理由だったか」
見た目からして高嶺君のお父さん……ぐらいだろうか?
「こんな可愛い子がいたら、やる気も出るってもんだな。お前だって男だもんな」
「……高嶺君、その人は?」
「いきなりゴメン。紹介する、俺の親父だ」
「初めまして、高嶺昂晴の父。高嶺和史です」
「はぁ……四季ナツメです。初めまして」
案の定、高嶺君のお父さんだったみたい。
「どうして急に高嶺君のお父さんが……?」
「実は、親父は自分の絵を買ってくれた店について、口を出すこともあって……コンサルみたいなこともしてるんだ。だから、この店についても、相談に乗ってもらえないか頼んでみたんだ」
「そうなんだ……」
「昂晴はこう言ってるが、そんな大層なものじゃない。絵と雰囲気に合わせるために、インテリアなんかにも、ほんの少し口を出すことがあるってだけだ」
「だからここのお店も見てもらうと思ってさ」
「……わかった。とりあえず明月さん達も呼んで来る」
奥に居る2人を呼ぶためにフロアを離れる。
……夢で言ってたみたいに、お店が変わる為の切っ掛けが……来たのだろうか?
「夢で言われたことが起きるとか……正夢ってやつなのかなぁ」
それか、予知夢ってやつ?
「……あれ?」
予知夢……?デジャブ……、未来視……?
不意に引っかかった言葉に思わず足を止める。
「未来視……?」
この感じ、どこかでーーー。
「あれ、ナツメさん?どうかされたのですか?」
声がした方向を見ると、閣下と明月さんが出て来ていた。
「明月さん。ちょうど良かった」
「何やら話し声が聞こえたが、誰かいるのか?」
「うん。高嶺君のお父さんが来てる」
「高嶺さんの……?」
「そう。お店の事で色々と意見をくれるとかなんとか……。詳しくは向こうで直接聞いて欲しい」
「分かりました。それじゃあ行きましょうか」
「そうだな」
コンサルとかもしてる絵描きの人かぁ……。今のお店ってどんな雰囲気なんだろう。
どの様な評価を言われるか不安を感じながら、2人を連れてフロアへと戻った。
夢の住人が……。住居を変えて来ましたね。