喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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前回から一気に日が飛びます。

お店オープン初日の終わりから始まります。




-新訳-第32話:記憶の残滓ー四季ナツメー

 

高嶺君がお店に入り、一緒に働くことになってから慌ただしい日が過ぎた。

 

お店の事を指摘され、新しく人を募集して火打谷さん、墨染さんが来てくれて、お店もこれまでとは違い明るい雰囲気へ一新し、涼音さんが参加して……、今日無事にお店を開く事が出来た。

 

「いやーナツメさん、ほんとありがとね。数を増やして正解だったよ」

 

「いえ、思っていた以上に噂が広がっていて、人が来ると思っていたので……」

 

「よくそうだと分かったね。どっかでそういう話でも聞いたの?」

 

「えっと……割と勘、みたいなものでしたので……。偶々ですから深くは気にしないで下さい」

 

「そう?でも、明日からはこっちでもちゃんと考えて作るようにするから、また相談させて」

 

「はい、お願いします」

 

初日を無事乗り切った事を皆で祝いながらお店を閉める。

 

「それじゃあ、また明日です。お疲れ様でーす!」

 

「お疲れー。昂晴は私と一緒よね?」

 

「そうですね」

 

「そんじゃ、行きますか」

 

「はい、お供します」

 

「明日も早いから寝坊しない様に起こしに行ってあげる」

 

高嶺君と涼音さんが帰って行くのを見送って一人家へ向かう。

 

「……はぁぁ、ようやくお店を開くことが出来たぁ」

 

何事も無くお店をオープンさせたことに胸をなでおろす。

 

「色々とあったけど、なんとかスタートラインに立てたかなぁ……?」

 

これで終わりとは行かない。寧ろこれからだ。

 

「これまでが上手く行き過ぎた感はあるし……」

 

お店を開く為に必要な事は沢山あった。けど、皆の協力があってスムーズに進めることが出来た。

 

「それに……」

 

直感……って言えば良いのだろうか?ふと、頭に考えが閃くようなことがある。

 

「もしかして、本番に強いタイプだったのかな……?」

 

壁……とまでは言わないけど、何か問題が出て来た時に案が頭に思い浮かぶことが多々ある。

 

「……ま、運が良いだけかぁ」

 

最近では割とその勘を信じて口に出している。今日の涼音さんの作る数も、もっと人が来ると思ったからお願いしていた。

 

「どんだけ自信があったんだが……」

 

当たったからいいものを、外していたら初日から目も当てられなかった。

 

「けど、なーんか妙に確信的な自信があるんだなぁ……」

 

自分でも良く分かっていないけどね。

 

自分の行動に苦笑しながら歩いていると、家へ帰るつもりが、違うルートを辿って歩いていた。

 

「うわぁ……、気を抜きすぎでしょ」

 

無意識にいつもとは別の道を歩いてるとか……ボケたのかな?

 

「……たまにはいっか」

 

今日くらい、今の高揚感を冷ます為に歩くのも良いかもしれないとそのまま適当にフラリと歩く。

 

「ここ、前に通った感じがするなー……」

 

夜道でハッキリとは覚えてはいないけど、以前にもここを通った気がする。

 

「……ん?」

 

ふと、足を止めて横のマンションを見上げる。

 

「……?なんだろ、この感じ……」

 

最近よくあるこの感覚……。

 

「え、もしかして……」

 

勘……がって言ってるけど、どうして今ここで?

 

「……いい機会だし、確かめるのもあり、かも?」

 

お店のが偶々なのか、それとも……。

 

こんなお店とも関係無い建物で何故そう感じたのか……。

 

「……なにしてるんだろ」

 

エレベーターに乗り、何階に向かうのかすら分からず適当に目に付いた6階を押す。そのまま上へ上がりながら我に返る。

 

そのままエレベーターから出て曲がり、ある部屋の前に立つ。

 

「……いやいやいや、ほんと何してるんだ、ワタシは……」

 

今更ながら自分がしようとしていることに驚く。

 

なにせ、そのまま部屋のピンポンを押そうとしていたのだ。

 

「流石にそれは無いでしょ……」

 

知らない人の部屋を訪ねるとか完全に不審者である。

 

「……でも、どうしてだろう」

 

妙に目の前の部屋が気になってしょうがない。

 

「あー……なんか、疲れてるのかな?」

 

知らない建物で知らない部屋のはず……。けれど、どうしても扉の向こうの人に興味が出ている。

 

そう考えていると、勢いのままピンポンを押す。

 

「………」

 

好奇心で押してしまった……。やばい……けど、今更立ち去るのも変だし……。

 

ほんと何をしてしまったのだろう……。これで人が出てきたらなんて言い訳をすれば……。

 

やってしまったという後悔と緊張しながら出てくるのを待つが、中から人の気配すらしない。

 

「……よかったぁ」

 

少し待っても出てくる気配がしないので、そのままそそくさと立ち去って家へ帰る。

 

「ただいまっと……」

 

お風呂を貯めるためにスイッチを押し、ベットへ座る。

 

……はぁ、今日の自分は特に変だ。

 

ここ最近よく思う。何か忘れてるような……足りない感じ。お店を開く事が出来たのに、大事な何かが1つーーー。

 

「やっぱり、あの日……からだよね?」

 

高嶺君が世界をやり直したあの日。あの時からそう考えたり感じることが多くなった。……魂が零れ落ちたからだろうか?でも、何となくそれは違うような気がする。

 

時たま頭をよぎる人……。きっと、この人が関係してる。ワタシが勘と言ってるのもその人と何か関係があるに違いない。

 

「……誰かを、忘れてるのかな?」

 

多分、男の人……だと思う。ワタシや高嶺君と同じ位の年齢で……いつもふざけた感じの人。

 

「なんでかなぁ……」

 

不思議とそういう人だと考えてしまう。

 

「……うん。きっとそう、そんな人」

 

けど、ワタシの知り合いにそんな人は居ない。勿論過去にも。

 

「何を探してるんだか……」

 

さっきのマンションでの謎の行動も、その謎の人物が居るかもしれない……とか思っての行動だろう。

 

「んー……でも、この感覚は間違いないしなぁ」

 

何か満たされていない感覚。お店を開きたいという欲や夢だと思っていたけど、全然満たされた感じは無い。

 

「……これが何なのか、気になる」

 

ほんと自分でもよく分からない。けど、それがあるのは事実。衝動とでも言えば良いのだろうか?本能とでも呼べば良いのだろうか?記憶から消えないし、抑えようにも抑えきれない感覚……。

 

「閣下や明月さんとかに聞いたら、何か知ってるのかな?」

 

特にこれと言って考えはないけど、あの2人なら何か思い当たったりするのかもしれない。

 

「うん、試しに聞いてみよう」

 

そう決めると、丁度いいタイミングでお風呂が貯まった報せが届いた。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……、ん?……あれ?ここは……」

 

目を覚ます……ではなく、夢で起きる……が正しいのだろうか?。この場所と風景……以前に来たことがある。

 

「こんばんわ。お久しぶりね」

 

立ち上がって周囲の景色を見ていると、後ろから声をかけられ振り返る。

 

「……またこの夢?」

 

前に似たような夢を見た。やけにハッキリとした夢だったのを覚えてる。

 

確か……前は、高嶺君が来てお店の事で見たんだっけ?

 

「今日も紅茶があるけど……付き合ってくれないかしら?」

 

2人分の紅茶を淹れてカップを置く。

 

「……折角だし、飲んでおこうかな?」

 

その内目を覚ますし、この紅茶……美味しかったしね。

 

席に座り、出された紅茶に口を付ける。

 

……やっぱり美味しい。

 

「無事、お店を開く事が出来たみたいね。安心したわ」

 

「そうね、ようやく念願の第一歩って感じかな?」

 

「自分の夢が叶えられて嬉しいかしら?」

 

「それなりに。ちゃんと人が来たくなるようにして行かないといけないけどね……」

 

「その辺りは、頑張って。としか言えないわね」

 

自分の夢の人間なのに返事がてきとうだなぁ……。

 

「今日はお店の事じゃなくて、あなたの疑問について話そうかと思うわ」

 

「ワタシの……?」

 

「ええ。ここ最近、思い出せない何かがあるのでしょ?」

 

「まぁね。自分でもおかしいとは思ってるけど……、誰かを忘れてる。そんな気がしてるっていうか……」

 

「それは、あなたと同じくらいの男の子じゃないかしら?」

 

「んー……多分、そうだと思う。確信は無いけどね」

 

「……あと一歩って感じかしら」

 

「何が?」

 

「改めて聞くけど、澤田達也。この名前を聞いて何か思い出せない?」

 

「澤田、達也……?確か、前にもその名前を……。もしかして、何か関係が?」

 

「ええ。大ありよ」

 

「ワタシにはその名前の知り合いは居ないはず。誰なの?その男の人は……」

 

「……そうね。ここまで来たのだし、見せるのも良いかもしれないわね」

 

「見せる?何を?」

 

「私について来なさい」

 

カップを置き、席を立つ。それにつられるように立ち上がり後に続く。

 

夜道の様な暗さだが、相変わらずワタシが居る場所は照らされている。歩き出すと、何も無かった場所に道が出来上がる。

 

「そうねぇ、どの記憶があなたにとって効果的かしら?最初から衝撃的なのは控えるとして……」

 

「……記憶?」

 

「そうよ。都合よく前の世界のあなたから魂は貰えてるし、感情や記憶程度なら呼び出せると思うわ」

 

……自分の夢ながら、何を言ってるのかよく分からない。

 

「あっ、これなんて良いわね。ちょうど今日のあなたには分かりやすいかしら」

 

手を前に翳すと、光が集まって一つの映像の様なものが見えてくる。

 

誰かの視点なのだろう。徐々に鮮明になってくその映像を見て驚く。

 

「これ、ワタシの部屋……?」

 

視界に移ってるのは自分の部屋だった。

 

いや、夢だし、そういった記憶が出て来てもおかしくは……。

 

そう思って見ていたが、所々におかしな点が見えた。

 

「……え?これ、いつなの……?」

 

鏡に映った自分の服装は、厚着をしていた。多分冬辺りだろうか?

 

それに、何だか楽しそうな顔をしていた。頻りに服装や髪、顔におかしい箇所は無いかと念入りに確認をしてる。

 

……まるで、これからデートにでも行くみたい。

 

少し緊張してる感じと、恥ずかしそうにしている自分がそこには居た。

 

問題ないと分かって部屋から出る。どこへ向かうのか見ていると、見覚えのある道を歩いていた。

 

「この道って……今日通った……」

 

特に迷うような足取りは無く、そのまま目的地まで辿り着く。場所は勿論……今日立ち寄ったマンションだった。

 

「な、なにこれ……」

 

そんな記憶、知らないはず……。けど、この記憶は……。

 

エレベーターに乗り、6階のボタンを押す。今日と全く同じ道のりと辿って、部屋の前へ立つ。

 

深呼吸をしてから入口のピンポンを押す。少ししてドアが開き、中の人が出てくる。

 

「あっ……」

 

出て来た人は、ワタシを見て嬉しそうに笑ってから中へ招いていた。

 

「この人が……」

 

ワタシを見る笑顔を見てこれまで不鮮明だった記憶のもやが消える。

 

「……この人だったんだ」

 

映像が消え、集まっていた光が散る。

 

「どうかしら?何か思い出せた?」

 

「……謎が、1つ解けた」

 

「そう。それは良かったわ」

 

「それより、今のって……ワタシよね?」

 

「ええ、あなたよ」

 

「でも、さっきの映像は、今よりももっと後……冬ぐらいにみえた」

 

「……あなたは思い出さないといけない事がまだまだ沢山あるわ。さっきのはその第一歩よ」

 

「思い出さないと……いけないこと?」

 

「忘れてしまった何かがある。大切な何かが……それを思い出さないといけないわ。私がそれを手助けしてあげる」

 

「何が、起きてるの……?何なの、この夢……?」

 

自分の知らない記憶があって、それを無理矢理見せられてるような……。

 

「……でも」

 

それを聞いて、抜けていた何かが1つ、戻ってきたような気がする。

 

「確認させて。ワタシが会いに行った人は……誰なの?」

 

「その答えはもう出てると思うけれど?」

 

「……そっか、さっきの人が……」

 

澤田達也。その人だったってわけね。

 

「どうして、ワタシはこのことを忘れてるの?この人はワタシにとってどんな人だったの?」

 

どう見てもただの知り合いには見えなかった。それに、ワタシの行動からして……かなり相手に好意を持ってるはず。

 

「急がないで。ちゃんとこれからそれらを1つずつ紐解いて行くわよ」

 

「……そう」

 

謎が1つ解けると、多くの謎が見えるようになった感じだ。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、今日はこれまでのおさらいをしましょうか?その方が良いかもしれないわ」

 

あの日から、毎日同じ夢を見ている。内容はワタシの体験?と言えば良いのだろうか?記憶の閲覧会の様なものだ。

 

……これを夢として片付けるのには無理がある。多分だけど、閣下や明月さん達に関係がする何かだと思う。

 

これまで見ていた記憶はどれも身に覚えがない事ばかりであった。高嶺君が来るまでの一ヶ月間。それからお店を開くまでの日々。

 

その記憶の断片の中には、澤田達也という人物がいた。一緒にお店で働いている風景があった。

 

「……ワタシは、一体何を忘れているの……?」

 

何かがおかしい。嘘の映像を見せられている……、その可能性も考えたが、ワタシの勘が違うと告げていた。間違いなくこの日々を知っていると。

 

「……質問、してもいい?」

 

「ええ、答えられる範囲なら何なりと」

 

「ワタシがこうなったのは、高嶺君が世界をやり直した9/28、この日で間違いない?」

 

「そうよ。その日に忘れてしまってるわ」

 

「ってことは……高嶺君が世界をやり直したことが切っ掛けで?」

 

「それは違うわ。彼が世界をやり直した事と、あなたがあの子を忘れたことは無関係よ」

 

「そう……」

 

「答えられずでごめんなさい。けれど、こればかりはあなた自身で思い出して貰わないと納得出来ないと思うわ」

 

「ううん。自力でなんとかして見せるから……」

 

あと一歩、何か思い出とか切っ掛けがあれば……。

 

 

 

 

 

 

次の日、夢から覚めて体を起こす。

 

「……って、今日は定休日だった」

 

今日はお店も休みで、大学の方もタイミング良く受ける講義が無い。

 

「どうしよっか……」

 

特にすることも無いが、最近見ている夢の事で割と頭が一杯の為若干寝不足気味ではあった。

 

「澤田……達也……」

 

一度、軽く閣下や明月さん、高嶺君にも聞いてみたけど知らないという返事が来た。もし彼がほんとに居たのなら、ワタシだけでは無くて3人も忘れているってことになる。

 

「……何に巻き込まれているのだろう」

 

どうして彼は、居なくなってしまったのだろう?

 

「……ん?居ない?」

 

ちょっと、待って。冷静に考えてみれば……あの部屋にいるのではないだろうか?どうして勝手に消えてしまったって考えていたのだろう?

 

「あれ……?でも、もう会えないって……」

 

何故か、この世界では彼には会えないという固定概念的な考えがある。

 

「……一度、確かめてみないと」

 

すぐに着替えて部屋を出る。

 

「……ここだよね」

 

夢で見た道を同じ道のりを辿ってマンションへ着く。そのままエレベーターに乗り、6階へ向かう。

 

「居るの……かな?」

 

不安と緊張を感じながらピンポンを押す。

 

「……やっぱり、出てない」

 

試しにノックをしてみるが、人の動く気配はしない。

 

「やっぱり、居ないのかな?」

 

念のためにとドアを開けようと取っ手を下げると、ガチャ。と音が鳴る。

 

「鍵が、掛かってない……?」

 

不用心だなと思い、そのまま開けようとして踏みとどまる。

 

「………」

 

このまま、開けても良いのだろうか?勝手に人の部屋に入るのは……。

 

「……ううん、行こう」

 

後で沢山謝ろう。そう決めて入口のドアを開く。

 

「お邪魔しまーす」

 

ドアを閉めてから、靴を脱いで上がる。……本当大丈夫かな?ただの不法侵入だよね?これ。

 

電気も何も点いてない通路を渡り、奥の部屋へと進む。

 

「……ここは」

 

部屋に入る。そこには、引っ越したばかりだったのだろうか。あまり物が置かれて無かった。

 

「……この部屋、知ってる」

 

知らないはずの部屋。でも、ワタシの何かが知ってると言っている。

 

「ワタシは……ここを、知ってる……」

 

特にこれと言って何も無い部屋だが、懐かしい気持ちと同時に、寂しい気持ちに包まれる。

 

部屋や台所などを見て回り、ふと、不思議な感覚が襲う。

 

「この家電……、どこかで……」

 

気になってスマホの通販で調べる。すると、一ヶ月程前に全く同じ家電を購入していた。

 

「ワタシが買ってる……?」

 

1つだったら偶然と言えるかもしれない。けど、全て同じ物とかありえるだろうか?

 

「ほんとに何かを忘れてる。そうに違いない……」

 

どの家電も新品に近い。恐らくだけど……彼の代わりにワタシが購入したのだろう。どうしてそうしたかは分からないけど、そのくらいの間柄ということだ。

 

「証拠……だよね?消えない事実だよね、これ?」

 

これまでは探しても見つからない、掴もうにも掴めない霧の中を彷徨っていたけど……。確かな繋がりを見つけた。

 

「つまり、本当にここに住んでいた……」

 

しかし、その姿は見えない。

 

室内を観察したり、申し訳ないと思いながらも冷蔵庫を覗いて見ると、賞味期限切れの食材があった。

 

「……日持ちする日数から考えて、先月から放置されてる」

 

他にも水場なども使われた痕跡は無かった。少なくともここ最近は使われていないはず。

 

「となると、暫くはこの部屋で生活をしてはないってことか」

 

そうなると、色々と話が繋がってしまう。

 

「消えてるってことで、間違いない……のよね?」

 

最後に部屋に戻り、寝ている場所であろうベッドに腰を下ろして手で触る。

 

「……冷たい」

 

それも当然か……。

 

「どこに、行ったんだろう……?」

 

誰からも忘れられる様な現象……多分高嶺君と同じ様な奇跡があったと思う。もしかしてと思ってLIENも確認してみたけど履歴は無かった。

 

「どうして、そんなことをしたんだろう……?」

 

何をする為に、自分の存在を他の人から忘れさせたんだろう。どういった目的があって……。

 

「うぅ……気になってしょうがない……っ!」

 

モヤモヤとした感じにムカついて、つい体をベッドに投げ出して寝転がる。

 

「……って、流石にこれは失礼になるよね」

 

勝手に人様のベッドで寝転がるとか……。

 

「……ん?」

 

不意に嗅いだ匂いに起こそうとした体を止める。

 

「……え、なにこれ……?なんだろう……」

 

不思議に思いながら布団の匂いを嗅ぐ。

 

「……すぅ……って!これ完全に変態でしょ!?」

 

自分の行動を省みて咄嗟に体を起こす。

 

「マズイ……完全にアウトだこれ……」

 

人の布団の匂いが気になって嗅ぐとか……!

 

「~~~ッ!!!」

 

恥ずかしくなって手で顔を覆う。

 

「……はあぁぁ~……」

 

冷静になれワタシ。きっと頭がおかしくなっている。そうに違いない。

 

「どうして急に匂いなんか……」

 

布団の匂いってことは、間違いなく彼の……澤田達也って人の匂いってことだ。その匂いが気になるって……!

 

「……でも、何だか……」

 

不思議と嫌じゃなくて、むしろ……。

 

「……安心した?」

 

そう。安心したんだ。心地よくなったと言っても良い。心が温まると言えば正しいのだろうか?

 

「それって、ワタシが……彼の事を……?」

 

頭に思い浮かんだ可能性をつい口に出してしまう。

 

「……っ!?いやいやいや、ワタシは一体何を言って……」

 

アホな事を口にしてしまった。ワタシが誰かを好きになるとか……ないない。

 

「あー……でもなぁ、前に見せてもらったのでは……」

 

そう。以前夢で見たワタシがこの部屋を訪ねようとしていた時、部屋で支度をしていたワタシは……なんて言うか、これから好きな人に会いに行く。そんな様な感じだった。

 

「……まさか……ほんとに?」

 

そ、それなら……辻褄が……合ったり?恋人みたいな関係なら、匂いが落ち着くとか……あってもおかしくは……なかったり?

 

「……いや変態かっ」

 

匂いフェチとか笑えない。

 

「けど……そう考えると……」

 

考えれば考えるほどそうだと思ってしまう。ワタシが彼の事を好きだと……。ドキドキしてしまっていると。

 

「うわぁ……。本気?マジで?」

 

信じられない様に自分の気持ちを確認する。

 

「なんか……発作でも起きたのかな?」

 

布団の匂いを嗅いでしまってから夢で見た彼の顔が離れない。考えるだけで心が高鳴ってるのが分かる。

 

「あ、危ない成分でも入ってる……とか?」

 

馬鹿なことを考えながら、確認と言い訳をしながらもう一度布団の匂いを嗅ぐ。

 

「……うぅ~~!!」

 

かっっんぜんに変態の所業だ。自分が自分を抑えられない。

 

「でも……凄く安心する……」

 

これは……間違いない。忘れてしまう前のワタシは、きっと彼の事が好きだったんだろう。こんなことをしてしまうくらいには……。

 

「……尚更、分からなくなるなぁ」

 

夢で見た感じ、彼もワタシの事をそれなりに好意的に接してくれていたはず。それなのに、居なくなったとか……。

 

「なに、か……問題が起き、た……?」

 

最近、寝不足でだったのもあるが、安心して油断していたのだろう。急激な睡魔に襲われる。

 

駄目だと分かりながらも、そのまま瞼が閉じて行く。

 

「………」

 

遂に睡魔に負け、そのまま意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

不思議な夢を見た。

 

『遠慮や俺を気にする必要は一切ない。四季さんが望むことがあるなら言ってくれ。それに全力で叶える為に協力は惜しまない』

 

誰かに、そんな提案をされた。

 

『お店を開くためには、今の時代に合わせて変わる必要がある。その為に自分も変わらなければならない。頭でわかっていてもそれを行動に移すことは結構勇気がいる事だからな。素直に凄いと改めて思っただけ』

 

誰かに、褒められた気がする。

 

『四季ナツメ、キミを助けたい。明月さんへの恩返しでもなく、俺の意思で。四季さんのおかげで救われて変わることの出来た男がここにいる。なら、今度は俺が四季さんを助けたい。明るく、楽しそうに笑いながらみんなで働く姿を見たいんだ。そのために俺はこうしている。罪滅ぼしじゃなくて、そうしたいと俺自身が願ってるからだ』

 

誰かに、願われたことがあった。

 

『俺にとっては世界一だけどな。好きなだけ願ってくれ。その度に好きなだけ付き合わせてもらうから』

 

彼に、頼ってもいいと、夢を諦めないで欲しいと言われた。

 

『喜んで。それで四季さんの笑顔が見れるなら。それが俺の望みでもあるからな』

 

彼に、そうやって笑って手を差し伸べられた。

 

不思議な夢を見た。

 

『澤田達也。自分の言っている事が分かっているのか?今回の事故で死んだのは高嶺昂晴だけでは無いんだぞ?』

 

『知っている。……四季さんもだろ?最悪な事に事故のせいで魂の一部が零れてしまって更に危うい状態になってしまった事も全部知っている。そうなると知っていて……見捨てた』

 

『貴様がそうした理由はなんだ?救えたかもしれない魂だったのだぞ』

 

『……高嶺昂晴が、幸せを目指す為に必要になる鍵の1つだからだ』

 

『仮にだが、もし必要にならなかった時はどうするのだ?四季ナツメの魂の一部が零れ落ちた意味が無いとなったら彼女はどうなる』

 

『その時はーーー俺が何とかする』

 

そんな、不思議な夢を見た。

 

『四季さん…?』

 

そこには血だらけで、明らかに無事ではない体で道路を這いながら、誰かの髪を掬っていた。

 

『ごめん四季さん……。だが……』

 

その人の感情が流れてくる。相手に対しての後悔と、揺るがない強い誓い。

 

『今度は必ず。君を幸せにして見せる。他の誰かでは無く俺が……』

 

『君をーーーー必ず救って見せる』

 

血だらけで、()()()()()()()()向かって、そう誓っていた。

 

 

 

 

 

目が覚める。どうやら、ベッドで寝てしまっていたらしい。

 

「……んっ…」

 

寝ぼけた頭のまま、目を擦る。

 

「あれ……?」

 

次第に頭がクリアになっていく。頬が濡れている……泣いていたのだろうか?

 

さっきまで見ていた夢を思い出して、ふと口から言葉が零れ出る。

 

「……()()()?」

 

 

 





おや?四季ナツメの様子が……?

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