喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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記憶を思い出してから更に日が過ぎます。大体、明月さんのコーヒー豆事件が終わった辺り?

結構日は飛び飛びになると思います。




-新訳-第34話:Realize

 

「ありがとうございましたー」

 

今日の最後のお客さんが帰ったことで、本日の営業は終了となった。

 

「いやー、今日もお客さん沢山来ましたねっ」

 

「だよね、やっぱり涼音さんのスウィーツ目当てが多い感じだよね」

 

無事に今日を終えれたことに、火打谷さんと墨染さんが喜んでいる。

 

「それでは、表の看板を片付けて来ますね」

 

「うん、お願い」

 

あれから時間が過ぎ、お店の方は問題無く営業出来ている。澤田君の記憶と、部屋にあったノートに頼りながら進めている。

 

先日も、結菜ちゃんのお父さんの誕生日会が予定通り開かれ、無事成功した。

 

「それじゃあ、片付けを始めるとしよう」

 

「はーい」

 

涼音さんの開始の声に賛同し、皆で片付けや掃除を進めて行く。

 

明月さんと高嶺君のコーヒー豆事件も終わった事だし、後は、新メニューとテスト勉強とかだっけ。

 

他にもすることはあるけど、お店関連ではこれくらいだと思う。

 

「……はぁ」

 

こんなことを毎日考えながら働いていた澤田君を考えると……、どこで気を休ませていたんだろ?

 

改めて負担を強いていたんだと思って、ため息を吐いてしまう。

 

「ナツメさん?どうかされたのですか?ため息などされて」

 

「ん?ううん、大したことじゃ無いから気にしないで。ちょっと考え事をしてただけだから」

 

「考え事、ですか……?」

 

「うん、お店の新メニューをどうしようかなって」

 

「ああ、高嶺さんと話されていた件ですね」

 

「そ。何となく構想は出来ているんだけどね……」

 

本当の事を話すわけにはいかないので、取り敢えずそれっぽい話題で誤魔化す。

 

「どんなのをお考えで?」

 

「新メニューと言っても、新しい何かを出すんじゃなくて、既存のメニューに手を加えて派生させようかな。とか?手間とコスト面を考えるとそっちがお店としても良いかなって」

 

「確かに……。私は良いお考えだと思いますよ」

 

「ありがと。後で高嶺君と話し合ってみる」

 

「何か手伝えることはありますか?」

 

「今の所は平気。もしあったら連絡させて」

 

「了解です。頑張って下さいね」

 

嬉しそうな笑顔を浮かべて作業に戻る。

 

言った手前、ちゃんと話し合いの場を持たないといけないよね……。

 

澤田君は、問題無く物語を進める為に自分で話題を出したりと会話を誘導していた。ワタシもなるべくそうしようと思っているけど、彼のように上手くはない。

 

「まさか、ふざけたり、てきとうな会話もちゃんと練られていたとは……」

 

ほうきの持ち手の先端に手を被せて顎を乗せる。

 

何だかくやしい気分。まんまと嵌められたって感じ。いや、こんな感じで先が分かるなら納得しか出来ないけどね。

 

片付けが終わり、順番で着替えへ向かい、帰ろうとフロアに戻って来た高嶺君に声をかける。

 

「高嶺君、ちょっといい?」

 

「ん?どうした?」

 

「この後時間ある?」

 

「大丈夫だけど……」

 

「良かった。それなら少し付き合ってくれない?」

 

「え、そ、それって……?」

 

「あ、ううん。デートとかじゃないから」

 

「ですよねー……」

 

ワンチャンの期待を込めて確認をしてきた高嶺君に先んじて封じる。

 

……記憶の中の行動に近い事をしてみたけど、予想通りの反応が返ってきたなぁ……。

 

確かに、澤田君がワタシを揶揄う気持ちが少しわかってしまう。

 

「場所はお店でも良い?」

 

「いいけど……あ、もしかして新メニューの件か?」

 

「正解。少し話しておきたいから」

 

「オッケー」

 

そのまま帰らず、お互いにフロアの席に座る。

 

「実は、俺も案……までは行かないけど、思いついてはいる」

 

「新メニューを?」

 

「ああ」

 

「もしかして、胸でコーヒー豆でも温めるの?」

 

「しないからなっ!?そんな変態じみたことっ!」

 

「からのぉ~?」

 

「変わらないからなっ!?てか、蒸し返すの止めてもらっていいですかっ!?」

 

「なーんだ、残念」

 

「そこで残念がるのはどうかと思うのだが……?」

 

「ウソ。冗談だから気にしないで。それで?高嶺君の考えは?」

 

「あ、いや……これと言えるとかじゃなくてふんわりとぐらいだから軽くで聞いてほしい」

 

「大丈夫。あくまで案だから、自由に言っても文句は言わない」

 

「前に涼音さんにも相談したんだが、新メニューと言っても新しい料理を作るんじゃなくて、もっと、こう……お手軽に作れるやつの方が……とか?」

 

「なるほど、確かにそっちの方がお店的にもありがたいしね。作る側の高嶺君にとってもあまり内容が違ったりすると大変だしね」

 

「そうそう」

 

「って、なると……既存のメニューに一手間加えてみたり……とかは?」

 

「ああ、そういう手か。確かにアリだな」

 

「それならこれまでのやり方とは大きく変わらないし、作るのにもコスト掛からないしね」

 

「もしかして、四季さんの案って……?」

 

「そ。高嶺君と似た感じの路線を考えてた」

 

「同じ考えなら……少しは自信が持てる、かな?」

 

「悪くはないとはワタシは思うけど……?」

 

「なら、そういった方向で考えてみようかな」

 

その後、メニューについて少しだけ話し込んでから解散となった。

 

「んー……、これで高嶺君の方は大丈夫かなぁ?」

 

11月になってから、少しずつ本格的な寒さが出て来ている。

 

「約1か月後……かぁ」

 

それまでにしっかりと高嶺君を誘導しておかないとね。それが澤田君が望んでいることだったし。

 

「それが無事に終われば、今度は……」

 

2人が無事結ばれれば、次は澤田君。

 

「待ってて。今度はワタシが助ける番だから……絶対に」

 

 

 

 

 

 

「ナツメ先輩ナツメ先輩っ!」

 

フロアで作業をしていると、嬉しそうに駆け寄ってくる火打谷さんが目に入る。

 

「おはよう。どうしたの?」

 

「おはようございます!テスト結果っ!出ました!」

 

今にも飛び跳ねそうな表情で結果を話そうとしている。ま、その笑顔を見ればどっちに転んだかは明らかなんだけど。

 

「いい結果だったみたいね」

 

「はいっ!全体的に60点を超えていて!数学は82点でしたっ!」

 

「良かった。ちゃんと勉強した成果が出てたみたいね」

 

「先輩達のおかげです!ありがとうございました!」

 

「墨染さんの方も問題は無さそう?」

 

「大丈夫ですよ。希ちゃんも全体的に点数が上がったって喜んでました!」

 

「そう。ならこれで一安心かな」

 

「これでようやくアルバイトに励めます」

 

「でも、今回のようにするんじゃなく、日頃から勉強しておいた方がいいと思う」

 

「あはは……やっぱりそうですよねぇ……」

 

「うん。けど、今回はちゃんと頑張って出た結果だから。お疲れ様」

 

「はい!ありがとうございます!それじゃあ、バリバリ働きますねっ」

 

いつも通りの明るい笑顔で返事をして、フロアの作業に入る。

 

と、なると……そろそろ高嶺君の方にシフトしても良いかな?最初は……明月さんのスマホを買いに行く場面からになるから……。

 

試しに高嶺君に……いや、先に明月さんにスマホを持った方が良いって話しておいた方が良いのかな?

 

今後の流れを考えながら、今日の仕事をこなしていった。

 

「それじゃあ、お先ー」

 

「お疲れ様でしたー」

 

仕事が終わり、ワタシ達の着替えが終わってから高嶺君が奥へ入って行くのを見て後を追う。

 

「んー……」

 

どんな流れで進めるのが良いのかと考えながら入口のドアをノックする。

 

「高嶺君、今大丈夫?」

 

「ん?ああ、平気だけど?」

 

許可が出たので中へ入る。

 

「どうした?」

 

「えっと、……高嶺君の事で、ちょっと気になることがあって」

 

「俺の事で……?」

 

「火打谷さんと墨染さんのテストも終わって一安心したけど、高嶺君の方の問題はどうなってるのかなって……」

 

「俺の方の、問題……?」

 

「ほら、高嶺君がこのお店で働くことになったのって、未練があったからでしょ?」

 

「あ、……そういえば。すっかり忘れてた……」

 

今思い出したかのよう驚きの表情をしていた。

 

「やっぱり。一生懸命お店の為に働いてくれるのは助かるけど、自分の事もちゃんと考えてかないと」

 

「ごめん、すっかり失念してた」

 

「そろそろクリスマスが近いけど、誰か誘おうとか考えてたりしてるの?」

 

「いや、今のところそんな予定は無いな」

 

「気になる人とかは?彼女が欲しいと思ってるんじゃないの?」

 

「欲しいと思ってるけど……ぶっちゃけ、お店の事で精一杯って感じだった」

 

「今からでも良いから考えてみたら?クリスマスまでまだ時間はあるし」

 

「因みに、四季さんの方は……予定とか埋まってたりは?」

 

「ワタシ……?2日ともお店だけど?」

 

「そっちは俺と違ってお誘いとかあってもおかしくないと思うんだけど」

 

「あー……、迷惑なことに何回かあったりしたなぁ」

 

「やっぱり?」

 

「イヴの日に遊びに出掛けない?とか、食事だけでも。とか……」

 

「四季さんモテるからなぁ……」

 

「こっちにその気が一ミリも無いからキッパリ断ってるけどね」

 

「そっちは、気になる人とか居ないのか?」

 

「……特には」

 

頭の中に澤田君の事が過ぎる。

 

「え……?今の間……、もしかして、いるのか……?」

 

ちっ、一瞬返事に迷いが出てしまった……。

 

「……何?仮に居たりしたら何か問題?」

 

多分、今のワタシの顔は赤くなってるんだろうなぁ。

 

「あ、いや、別におかしいとか言ってるわけじゃなくて……その、意外だったからさ」

 

「『孤高の撃墜王』とか呼ばれてるに、気になる人が居たってことに?」

 

「いや、まぁ……、そうだな。……大学の人とか?」

 

「……ううん。大学の人じゃない。それに、高嶺君が知らない人だから」

 

「そうなのか」

 

「そ。というよりか、今はワタシの事じゃなくて、高嶺君の事でしょ?」

 

「ごめんごめん。四季さんにいるって知って驚きだったから……」

 

「それで?気になる子とか思い浮かんだりした?」

 

「うーん、気になる子、なぁ……」

 

この様子だと、居ない……で良いのかな?やっぱり、澤田君が言ってたイベント?をしていかないと親密度って上がらないのかな?

 

「もし居るなら相談とか出来る限り協力もするから、頑張ってみて」

 

「そうだなぁ……。ま、その時が来たらお願いするよ」

 

「てきとうだなぁ……」

 

とまぁ、今は本来の目的を思い出して貰って気に掛ける。これだけでも十分かな?後は明月さんの方に話をすれば行けるでしょ。

 

 

 

 

 

次の日の営業終了後、一緒にフロア掃除している明月さんに声をかける。

 

「明月さん、ちょっといい?」

 

「はい?なんでしょう」

 

「高嶺君のことでちょっと話があって……」

 

「高嶺さんの?」

 

「うん。ほら、高嶺君ってこのお店で働いた最初の理由って……ど、……恋人を作ったりするためでしょ?」

 

「そうですね。童貞であることに未練を残されていたからですね」

 

……人が濁したのに、どうして堂々と言っちゃうのかなぁ。

 

「昨日までそのことをすっかり忘れていたらしいけどね……」

 

「それはなんとも、まぁ……」

 

「試しに聞いてみたら何だか悩んでる様子だったし、明月さんから聞いてもらえる?」

 

「私からですか?」

 

「だって、担当でしょ?」

 

何の、とは口には出さないけど。

 

「そうですね。分かりました。一度お話を聞いてみます」

 

「あと、そろそろスマホ持った方が良いと思う」

 

「あ~……すまほ、ですか……」

 

「閣下の写真を撮ったり、それをSNSに乗せたりするのを明月さんの方でも出来るようになった方が良いと思うけど?」

 

「それはそうなんですけどぉ……。使いこなせる自信が無くて……」

 

「使ってみれば案外簡単だから心配しなくても平気。高嶺君の話を聞くついでに、明月さんからもスマホの事を聞いてみたら?」

 

「んー……、そうですね。いつまでもナツメさんや愛衣さんに任せっきりも良くないですし、一度聞いてみます」

 

「明日丁度定休日だし、一緒に買いに出掛けるとかしてみたら?高嶺君なら快く引き受けるはずだから」

 

「ですね。と、なると……この後、高嶺さんのお話しを聞いてみます」

 

「うん、よろしく」

 

明月さんの方とも話をつけたので掃除を再開する。

 

これで後は明月さんの方からスマホを買いたいって提案が出るはず。大丈夫、澤田君の時も同じやり方で実際買いに行ってるんだから。

 

そうなると、明日は焼肉かぁ……。久々だし、ちょっと楽しみ。

 

明日の焼肉を楽しみに待つと共に、本来なら居たはずの1人が居ない事に寂しく思い、少し胸が締め付けられた。

 

お店を閉め、それぞれが帰路へ着いた。

 

「………」

 

そのまま帰ろうかと考えたが、何だか寂しい気分……。

 

「さっきの焼肉のことを考えちゃったからかな」

 

今後の事の確認もするために、進路を変更する。

 

「お邪魔しますっと」

 

自分の部屋へ帰らず、誰も居ない無人の部屋へ入る。

 

「一週間振り」

 

誰も居ない静かな部屋でベッドに寝転がる。

 

「さてと……」

 

ベッド横の棚に隠されている一冊の大学ノートを取り出す。

 

「えっと……、今は、澤田君が書いているので言うと……」

 

明月さんと高嶺君がスマホを買いに行った事で、始めに書かれていた共通ルートが終わり、明月さんの個別ルートに入った……で良いんだよね?

 

「野中君の件が終われば明月さんのことを好きになるから……そこからは流れに任せれば上手く行けるはず」

 

経過を何回か確認しておく必要はあると思うけど、あまり余計なお節介はしない様にしておかないとね。

 

「それにしても……凄い書き込みようだなぁ」

 

ノートを捲る。そこには共通ルートと書かれたページとは別に、個別ルートと書かれた欄があった。しかも、名前はお店で働いているメンバー。

 

「火打谷さん、墨染さん、涼音さんに、しかもワタシまで……」

 

明月さんは勿論の事、それ以外の全員の名前と、似たようなフローチャートが書かれており、所々に重要と思われる書き込みと注意点などが事細かく書かれていた。

 

「これを見る限り、共通ルートであるこの、選択肢で誰と恋愛に発展するのか決まる……って感じだし」

 

まるで、シミュレーションゲームの様だ。

 

「それに……」

 

最初のページの一番上には『喫茶ステラと死神の蝶』とタイトルが大きめに書かれている。

 

「うーん、澤田君の記憶では何だか、テレビ画面を見ている様なイメージだし……、未来を視るってこんな感じのイメージなのかなぁ?」

 

アニメ風に映ったお店と、そこに現れるワタシ達が話しているのを覗いて視ている……とでも言えば良いのだろうか?

 

それとも、まだ完全に澤田君の記憶をワタシ自身が思い出せていないのか。

 

「まぁ、でも、今の時点でも十分過ぎるし、問題はないか」

 

気になれば、本人に直接聞けば良いんだから。

 

「んー……、少し、薄まってきたなぁ」

 

ベッドに敷かれている布団などに対してふと思う。

 

「掃除したり、ワタシが来ているのが原因だけどね……」

 

こうして、彼の事を考えながら横になっていると、安らぐと同時に、早く会いたい気持ちが強くなる。

 

「はあぁぁーー……」

 

完全に変態行為だとは自覚してはいるけど、途中から気にすることを止めた。我慢は身体に毒。そうに決まってる。

 

「あの神様にも話はしてるし、森への確認も行ったから、蝶に関しては問題無しと」

 

以前に一度、澤田君を助ける為に少なくとも明月さんと同じ様な蝶が必要だと考え、森へ行った。けど、近づこうにも一定以上先に進むことが出来なかった。おそらく、結界と思われるのが張ってあった。

 

実際に話を聞けば、蝶が外に出ない様に塞いでるとのこと。普通なら方向感覚を狂わせて入口へ戻す様な仕掛けらしいけど……。

 

その後、その蝶を使って澤田君を助けたいとお願いしてみると、意外とすんなり了承を貰えた。どうやら、向こう側も澤田君に戻って来て貰った方が都合が良いとか何とか。

 

一先ず、そちらは確約出来たので、先に高嶺君と明月さんの方を終わらせることにした。

 

「後、1か月かぁ……」

 

こんなにも長く感じる日々は初めてかもしれない。勿論お店の事で忙しく、気が付けばあっという間に過ぎていた……なんて感覚もあるけど、ふと彼のことを思い出すと、その日までの残り時間がとても長く感じてしまう。

 

「早く、会いたいなぁ……」

 

もはや、そう思ってしまうこの気持ちを、自分で止めることは出来なくなっていた。

 

 

 





次は、明月さんルートの内容をちょろちょろっと進めて行こうかと思います。

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