喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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主人公視点で進んでおります。




-新訳-第39話:胡蝶の夢

 

「……なんだ?このゲームは」

 

昨日の夜に始めたゲームだったが、気が付けばカーテンから朝日が射し始めていた。

 

始めは自分が想定した通りの展開が進んでいたことに苦笑しながらも物語を進めていたが、ふとした時に違和感を感じた。

 

「どうして俺はこのゲームの結末を知ってるんだ……?」

 

いや、結末だけとかそんな軟な話じゃない。共通ルートから個別へ入った後、それらの会話や流れまでもが簡単に読めていた。

 

「既にプレイ済み……とかか?」

 

今はまだルートとしては3人しかしていない。一番に気になっている黒髪の同じ大学の四季ナツメと、このゲームのヒロインのセンターであろう明月栞那の2人はまだ未プレイだ。

 

「なんなんだ?この変な違和感は……?」

 

何かがおかしい。知っていないはずなのに、俺はこの2人の迎える結末が分かってる。理解してしまっている。

 

正直、不気味でしかない。正体の見えない何かが居るかのような……。そんな掴めない不気味さが。

 

「……残りの2人をやれば、判るのか?この正体が」

 

一睡もしていないが、不思議と眠気も空腹も来ていない。今日が休みで本当に良かった。

 

「先に、どっちからしようか……?」

 

ゲームの会話をスキップしながら最初の選択肢にやって来た。オムライスか、紅茶か……。

 

「先にオムライスにしよう。作品の根底に関わってそうだしな」

 

上の選択肢の『オムライスの味を』を選択して、他のも全て狙った選択肢を押して行った。

 

内容はやはり想定通りに進んで行った。最初は2人で携帯電話を買いに行き、操作の慣れないヒロインとメッセージのやり取り。その後一つの事件を解決し、ヒロインに惹かれて行く。

 

そして、人と死神であるが為の別れ。だが、主人公がまたも奇跡を起こして無事再会。その後は幸せそうな日々を過ごして無事エンディングを迎えた。

 

「……ふぅ」

 

物語を終え、椅子の背もたれに体を預けてため息を付いた。

 

「未来予知でも持ってんのかね……」

 

肩の疲れをほぐす様に両腕を上へ伸ばす。

 

「でも、なんか少し予想と違った所もあったな……」

 

いや、違ったと言って良いのか分からないが、展開に少し違和感を感じた程度の小さな感覚。

 

「って、もうこんな時間か」

 

時計を見れば、いつもなら起きて朝飯を食べて終える辺りだ。

 

「一旦休憩するか」

 

席を立って一度リビングへ向かう。

 

「って、誰も居ねぇな」

 

てっきりどちらかは居るかと思ってたけど……今日はどっちも早出か?てか、昨日遅くなるって言ってた母が帰って来たのに気づいてなかったな……。少しゲームに熱中し過ぎたな。

 

確認だけはしておこうと2人の寝室をノックする。

 

「流石にもう出てるよな?」

 

念のためドアを開けて中を覗く。想像通りもぬけの殻だった。

 

「ですよねー……」

 

無駄足を踏んだと思いながらドアを閉めようとした時、1枚の写真立てが目に入った。

 

「これは……2人の若い時のか?」

 

そこに入ってる写真にはまだ2人が20代とかだろう。仲睦まじく一緒に写っていた。

 

「……?」

 

その写真の父では無く、母の方の顔を見て首を傾げる。

 

「なんかこの時の母さんの顔、どっかで見た事があるような……?」

 

そんな訳がない。気のせいだろうとは思うが……不思議とこの顔を見てるとどこかで話した事があるような気がした。

 

「んなわけないない。似てる人を店とかで見たんだろ」

 

そう決めて、部屋を出る。

 

「さてと、取りあえず飯でも食べておくか」

 

昨日のチャーハンは全部食べてしまっていたので、適当にパンを焼いて冷蔵庫の中にあったサラダと一緒に食べる。

 

「……ふぁ」

 

食べ終えて食器を洗っていると流石に寝ていなかったからか、眠気がやって来る。

 

「腹も膨れたせいで眠くなって来たな」

 

洗った食器を乾燥機へ入れて部屋に戻りベッドにダイブする。

 

「あー……まだ1人残ってるけど、起きたらまたやるか。楽しみは最後にとっておいた方が……良い、しな」

 

横になり目を閉じる。体から力を抜くと、自然と眠気が襲って来たのでそれに身を委ねる。

 

なんか、良い夢でも見れそう……。

 

 

 

 

 

これは夢だろう。何となくそう理解した。

 

夢の中の俺は、喫茶店で働いていた。

 

叔父のやっている店じゃない。起きている時にしていたゲームの世界での店だった。

 

そこにはヒロインたちが居て、主人公である高嶺昂晴やミカドさんが居た。

 

そして、何故かその輪の中には俺も居た。皆と楽しそうに店で働いていた。それを俺は輪の外から見ていた。

 

キッチンで高嶺と涼音さんと一緒に料理を作り、たまにフロアに出てドリンクを淹れたり接客をしたり……。

 

明らかに現実と夢がごちゃごちゃになっているはずなのに、不思議と俺がそこに居るのに違和感を感じなかった。

 

それよりか、()()()()()()()()()()感覚に包まれていた。

 

声も音も聞こえないけど、そう思えた。

 

場面が急に切り替わった。夢だし良くあることだろう。

 

次に出て来たのは、またしても同じく店の光景だった。けど、さっきと違う点は俺がその中には居なかった。

 

そりゃそうかと納得した。幾ら夢でもあり得ないと……。

 

その夢を見ていると、自然と1人のヒロインを目で追っていた。

 

四季ナツメ。

 

ゲームでまだ攻略していないヒロイン。

 

どんな展開なのだろうかと彼女を見ていると、ゲームで印象づいていた様な人と距離を置こうとする人では無く、むしろ積極的に前に出ていた。

 

そして彼女は、常に誰かを探している様な雰囲気があった。

 

何かを追うように動き、それが正解への道であるかのように次へと進んでいく。

 

ある日、彼女は電車に乗っていた。

 

遠出だろうか?そう思いながら見ていると、電車から降りる。

 

そこは、住んでいた所のような場所ではなく、割と田舎よりの場所だった。

 

駅から離れて歩いて行くと、次第に人工物より自然が多い方向へ進む。

 

どこに向かってるんだ……?

 

正面には人の文化など感じられない様な自然があった。その入口に辿り着いた彼女は、そのまま森へと入って行く。

 

特に迷うことない足取りで木々を抜け行ったが、ふと歩みを止める。

 

暫くその付近と見ていたが、諦めたかのように寂しい表情を浮かべて踵を返して行った。

 

「ーーー、ーーー」

 

その時に誰かに話しかけるように小さく言葉を呟いた。

 

その口の動きを見た瞬間、夢が終わりを告げた。

 

 

 

 

「………」

 

目を覚まして、暫く呆然としていた。

 

時間にして数時間。今は昼が過ぎた頃だろう。

 

「澤田君……?」

 

夢の中の彼女が最後に呟いた言葉……。気のせいでなければそう動いていた。その前は多分『またね』とかだろう。

 

「幾ら何でも、なぁ?」

 

妄想にしては酷過ぎる夢。けど……だけど、なんとかく、俺は夢のあの場所を知ってるような気がした。

 

「てか、駅名まで割としっかりめに……」

 

気になって携帯で調べてみる。が、降りたあの田舎の駅名は無かった。

 

「当たり前だよなぁ」

 

頭を掻きながらベッドから起き上がる。

 

「飯でも買いに行くか……」

 

少し寝起きの頭で着替えながら外に出る。

 

「……てか、家にあるもので作ればよかったじゃん」

 

家から少し離れた地点で衝撃の事実に気が付く。寝ぼけ過ぎていたのかもしれん。

 

「まぁ、折角だしコンビニでも寄ってなんか買っとくか」

 

わざわざ外に出たことだし、アイスでも買いに行こうと駅正面のコンビニに向かう。

 

「………」

 

駅前に着くと、さっきの夢を思い出す。

 

「……ちょっとだけ、気になったから」

 

駅内の線路図を見る。

 

「えーっと……」

 

自分の駅から1つずつ確認していく。

 

「って、無いか」

 

乗りの駅はあったが、降りの名前は無かった。

 

「……行って、見るか……?」

 

何故か、その場所が気になってしょうがない。特にゲームとかしても聖地巡礼などしたことなかったけど……。

 

衝動のままに切符を買って電車に乗り込む。

 

電車に揺られること30分。目的の駅に着き降りる。

 

「……なんか、めちゃくちゃデジャブ感」

 

駅から出ると、見覚えがあるような光景がそこにはあった。

 

「確か喫茶店は……」

 

信号を渡り、道を進んで一本裏路地に入る。

 

「この辺りに、なるのかな?」

 

ゲームと同じ場所に着いたが、当然そこに喫茶店は無く別の建物があった。

 

「帰るか」

 

それを見て何だか馬鹿らしくなり駅へ戻って電車に再び乗る。

 

「まぁ、ちょっとした散歩がてらの気分転換と思えば良いか」

 

座席に座りながら力を抜く。

 

あと30分もあるし少し休むか。

 

コンビニに行くだけだったのが少し遠出してしまったので軽く疲れがあった。

 

「寝過ごすのだけはしない様に気を付けないとな……」

 

 

 

 

「……んっ?」

 

耳に入って来る聞き覚えのある駅名を聞いて目が覚める。

 

ヤバい、うたた寝をしていたっ!?

 

慌てて席を立って電車を降りる。

 

「あぶねぇ……、もう少しで乗り過ごすとこだった……」

 

なんとか降りれたことに安堵して顔を上げる。

 

「……は?ここは?」

 

駅内から外を見ると、自分が住んでいた様な場所では無く田舎の景色が広がっていた。

 

「ま、まさか……だよな?」

 

おそるおそる駅名の書かれた看板を見ると、そこに書かれていたのは探しても見つからなかった名前が書かれていた。

 

「めちゃくちゃ乗り過ごしていたのかよ……」

 

次の電車の時間を見ところ、20分後には来るらしい。

 

「聞き覚えがあると思ってたけど、気になって頭に残っていたパターンか……」

 

偶然の産物ではあるが、気になっていた場所でたまたま降りてしまった。奇跡的確率だろう。

 

「まー……折角来たんだし、これも運命と思って行ってみるか」

 

改札を通り駅から外に出る。

 

「うわぁ……見た通りだな」

 

目に飛び込んできた景色は、夢で見たのと同じ物だった。

 

「なんか、ここまで来ると……流石に、あれ……だよな?」

 

夢で見たから……とかで片付けられるような案件ではない。

 

「……やっぱり、俺はここを知ってるってことだよな」

 

昨日の夜から今に至るまでにふと感じる違和感……。その正体がこの先にある。そんな謎の確信。

 

「確かに行かないとな」

 

夢と同じ道を辿り、森へ辿り着く。

 

「この先に……」

 

ここを入ればもう後戻りは出来ない。そんな不気味な感覚に襲われる。

 

「でも、知らないといけない……何故か気になって仕方がない」

 

心の底から湧き出る様な感情に押されるがまま歩みを進めて行く。

 

直感を頼って暫く歩くと、少し開けた場所に辿り着く。

 

「ここは……?」

 

周囲を見ていると、少し奥に青い蝶が飛んでいた。

 

「蝶?」

 

その場をひらひらと飛んでいる蝶だが、近づいても特に逃げず相変わらずその場を舞っている。

 

「青い蝶……まるでーーー」

 

まるでゲームに出て来た魂の残滓みたいだ。

 

そう呟こうと口を動かすと、その場で飛んでいた蝶が俺に向かって飛んできた。

 

「うおっ!?」

 

咄嗟に身を引くが、避けきれず蝶と接触してしまった。

 

が、その瞬間。蝶が溶けるように姿を消したと同時に頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。

 

「っ!?っ……!」

 

突然の出来事に目を瞑りその場にしゃがみ込む。

 

少しの間固まっていると、ようやく混乱が収まった。

 

「……ははっ、そういうことだったのか……」

 

それと同時に、全てを理解した。

 

「そりゃそうだよな。既にプレイ済みだし、実際にそこで生きて来たんだから……」

 

これまでの違和感、疑問が解けて清々しい気分だ。

 

「ここから、始まったもんな……」

 

ゆっくりと立ち上がって状況を整理する。

 

「となると……ここはなんだ?夢の中?それとも死後の世界か?」

 

死んだはずの両親、そして喫茶店。しかも俺は高校を卒業してすぐに喫茶店で就職をしてるとか……。

 

「なんか、ちぐはぐした感じだな」

 

まるで誰かの想像を形にして創られた世界の様な……。

 

「どうすれば解けるか考えないといけないけど……、その前に帰るか」

 

ここに居ても問題は解決出来ないのでその場を去る。

 

電車に乗り、元居た駅で降りて家へ戻る。

 

「ただいまーっと」

 

家の中からは人の気配はしない。時間的にまだ仕事から帰って来ていないのだろう。

 

そのまま階段を上がって部屋へと帰る。

 

「さてと」

 

まずは、今の状況を整理しよう。

 

親子3人で過ごしていて、俺は叔父の喫茶店で過ごしていると……。両親は共に働いている。

 

ここまでは何となく俺の中にある記憶でも再現可能。

 

「2人とも俺の子供の時からあまり顔変わってないし……」

 

となると俺の夢か何かか?でも普通こういうのって自覚したら目覚めるパターンだし、夢じゃないのか?

 

「それか他の人のか、もしくはあの神が面白い事をしているか」

 

あの性格の悪い神ならやりかねん。俺を試そうとかそんな感じで。

 

「うーむ」

 

それだったのなら、まだクリア条件を満たしていないとかなんだろうか。

 

「おーい、聞こえてるなら出て来てくれないかー?」

 

試しに呼び出してみるが、効果なし。

 

「駄目か」

 

改めて考えよう。まず、どうして俺1人でではなく両親や知り合いも含めての夢か、この辺りも重要な気がする。

 

前の世界で俺1人か、皆が居る世界での生活のどっちかなら現実的だが……俺の想定外の世界だし、やっぱり他人の?それか俺の心の底にある願いだったり……?

 

暫く考えていたが進展は無く、玄関のドアが開く音を聞いて意識を戻す。どうやら父親が帰ってきたらしい。

 

迎える為に一階に降りる。

 

「おかえりー」

 

「おう、ただいま」

 

仕事から帰って来たであろう親の顔をまじまじと見る。

 

「ん?どうした、俺の顔をじろじろと見て?」

 

「あ、いや、なんでもない」

 

「そうか?っと、母さん今日も遅くなるってさ。もしかすると帰るの明日になるかもしれないらしい」

 

「まじか。そりゃ残念」

 

「だから昨日に続いて今日も男飯になりそうだなっ」

 

「特に気にしてないから平気だけど」

 

少し疲れたように靴下や服を洗濯かごに入れる姿を見て、ふと頭に思い浮かんだ事を口に出す。

 

「今日の夕食、俺が作ろうか?」

 

そんな言葉が出た。

 

「おっ?どうした急に」

 

「仕事で疲れてるだろうし、たまには親孝行でもしておこうかと思ってさ」

 

「ははっ、なんだ?良い事でもあったのか?休みだったからか?」

 

「何となくそう思っただけ。だからてきとうに寛いでいてくれ」

 

「そうかそうか。それなら、一緒に夕食を作ろうじゃないか!」

 

「は?一緒に……?」

 

「息子と一緒に料理をする……親として成長を確認できる貴重なタイミングだろ?」

 

「いや……分からんけど」

 

「お前も親になれば分かるさ。ちょっと待ってくれ、すぐに戻る」

 

「あ、ああ……」

 

そういって部屋へと入って行く。んー……やっぱり俺の願望が作った夢の路線は無いような気がするなぁ。完全に想定外だったし。

 

 

 

 

「いやー美味しかったな!」

 

「それ言うと自画自賛になるけど……まぁ、うん」

 

父親と共同で作った夕食は、それなりに楽しかった。役割を分担してわいわいとしてた気がする。

 

「子供との共同作業だったが、男同士なのが聊か残念だったなっ」

 

「……言えてる」

 

どうせなら彼女とかと一緒にいちゃいちゃしながらしたかったのも確かだ。

 

それを考えて少しチクリと胸が痛む。

 

「おいおい、確かに言ったのは俺だが、何もそこまで暗い顔しなくても良いだろ?」

 

「ああ、いや、ちょっと別の事考えていただけだから」

 

「あれか?俺とじゃなくて可愛い彼女とかとしたかった……!とかか?」

 

「………」

 

「図星か。それを言うなら俺も母さんと一緒にいちゃいちゃしながら作りたかったよ」

 

「両親のいちゃつきを見せられながら飯を待つ息子の気持ちを考えてくれ……」

 

「そういえばな、母さんは昔は料理が下手だったんだ」

 

「えっ、そう?割と何でも卒なくこなしそうなイメージだったけど……」

 

「頭とか運動神経は良かったけどな、どうしてか料理はへたくそだったんだ」

 

「へぇー。超意外」

 

「それが今やこの家を支えるメインウェポンだ」

 

「努力家でもあったんだなぁ」

 

「それもある。けど、負けず嫌いだったんだよ」

 

「というと?」

 

「母さんと違って俺は昔からしてたからそれなり料理は出来てた。それが悔しいとか言ってきて何度も挑戦してた」

 

「……もしかして、これから惚気でも始まるのか?」

 

「おっ、気づいたか?」

 

「……まぁ、いいや。それで?」

 

「おお?話を切られると思ったが、珍しいな」

 

「話したそうだから、気が済むまで聞いておくよ」

 

それに、俺も気になるしな。

 

「さんきゅ。ま、何度もしてるうちに俺が作ってる味とか覚えて来てそれを昇華させてさ、あっという間に胃袋を掴まれていたって感じ」

 

「見事に落されてたってわけかぁ」

 

「愛情に勝るスパイスはなしってな!というか、その前から俺はゾッコンだったけどなっ!はっはっは!」

 

「はいはい、ご馳走様」

 

「お前も母さんみたいな良い女を捕まえろよな?」

 

「可能だったらな。……2人って何時出会ったんだ?」

 

「なんだなんだ?両親の馴れ初めとか聞きたくないんじゃなかったのか?」

 

「さっきの話を聞いたら気になってさ。折角だし聞いておこうかなって」

 

「そうだなぁ……、初めては中学の時だな」

 

意外と早く巡り合えてたんだな。

 

「と言っても、その頃はお互いに顔合わせるのも滅多に無かったし、仲良くなかったからな」

 

「まじで?」

 

「ああ。マジでだ」

 

「でもまぁ……確かに2人の性格を考えたら、そっちが突っかかるのを母さんが煙たがっていたとかなら想像出来る」

 

「うっぐ……」

 

「図星だったのか……」

 

「まんまその通りだな。それで高校はお互い別々で、再び会ったのは大学だな」

 

「運命的な再会を?」

 

「いーや、俺が母さんが目指していた大学を狙って受けた」

 

「父親がまさかのストーカーだった……」

 

「違うからなっ!母さんとの条件だったんだっ!」

 

「条件……?」

 

「ああ、中学の時に惚れた俺は告白をしたんだ。そこで『本気なら私と同じ学校に通えるだけの頭を持ってくること』ってさ」

 

「ああ……背景を何となく察した」

 

「分かりやすいだろ?後は俺が高校で猛勉強して無事合格したってわけよ」

 

「なるほど、掴み取った勝利だったのか」

 

「凄いだろ?」

 

「そこは素直に男として認めざる得ない。息子としても誇らしい父を持ちました」

 

称賛の拍手を送る。

 

「母さん程のいい女を手に入れる為に当然の努力だなっ」

 

懐かしそうに語る父も、なんだか自慢げである。

 

「その後無事お付き合いして……あっ、何度目かのデートで初めて撮った写真があるぞ?見るか?」

 

「あー……それじゃあ、見ておこうかな?」

 

楽しそうに話してるのに水を差すのは嫌だし、流れに従っておく。

 

「確か部屋にあったし、持ってこよう」

 

立ち上がって自分たちの部屋に入って行く。

 

と思ったが写真立てを手に持ってすぐに出て来た。

 

「まだ2人とも大学生の時の写真だなこれは。若いだろ?」

 

出された写真を見る。

 

「ああたしかーーーっ!?」

 

見せられた写真は2人が仲良さそうに写っている1枚の写真……。今日これを見るのは2度目だった。

 

確かに2人とも今よりも若い……それより驚いたのは隣に写ってる母さんの顔だった。

 

「………」

 

俺はこの顔と同じ人物を知っている。いや、会っている。

 

「真剣そうに見てるが、そんなに驚いたのか?」

 

「まぁ……それなりに中々衝撃的な感じだった?」

 

「まぁ、息子のお前からしたらそうかもな」

 

隣の父は若い頃の写真を見て懐かしそうに目を細めている。

 

「っと、つい話し込んでしまったな。まだやる事残っているのに」

 

「皿くらいなら俺が洗っておくから、先に風呂行ってきたら?」

 

「ん?そうか?……なら今日くらい息子の優しさに甘えておこうか」

 

「そうそう。次何時になるか分からないからな」

 

「冷たいこと言うなよな……せめて週一くらい労ってくれても良いじゃないか?」

 

「そうしたいのは山々だけど……色々と難しそうだしなぁ」

 

「色々ってなんだ色々って。ま、今日みたいのを次も期待して待ってるさ」

 

「ああ、またその時が来たら精一杯するよ。色々と雑談交えながら……」

 

「言ったな?楽しみにしてるぞ」

 

そう言って風呂場へ向かって行くのを見て皿洗いを始める。

 

……なんとなく、この夢の終わりが解った気がしてきた。

 

となれば終わらせる必要があるのだろう。相手はそれを望んでいる。そう導こうとしている。

 

それなら俺も、そうあるべきなのだろう。

 

排水溝へ流れて行く水を見ながら、静かにそう決意した。

 

 





今回で終わりまで持っていこうと考えて書いていたけど、思ったよりグダグダと進んでしまい次になりそうです……。

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