喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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目覚めの時です。




-新訳-Prologue1

 

 

「ーーー」

 

何か、声が聞こえる。

 

「ーーーっ!」

 

誰かが呼んでいる……。

 

どこか聞きなれたような気もするが、久しぶりに聞くような懐かしい声にも思える。

 

起きないと……。

 

その声の正体を俺は知っている。俺の為にここまで頑張って来てくれた大切な人の声。

 

その呼び声に応えるように、ゆっくりとその重たい瞼を開ける。

 

「……ん、んんっう」

 

眩しい日差しに目を細めながら俺を見下ろす様に見つめている人物と目が合う。

 

「おはよう」

 

「……おはよう、ございます」

 

その人物は俺を見て微笑む。

 

「いい夢見れた?」

 

「そう、だな。中々衝撃的な夢を見れた気がする。それに、目覚めが天国かと勘違いしてしまったくらいだ」

 

「寝起きにそれだけの冗談を言う辺り、本物みたいね」

 

「……ここは」

 

後頭部に素敵な感触を感じながら顔を起こす。どうやら膝枕をされていたらしい。

 

「蝶が沢山居た森。澤田君が生まれた場所って言った方がわかりやすい?」

 

「ああ、そこか……って!俺裸じゃんっ!?」

 

自分の姿が目に入ったが、布切れ1枚すら着ておらず、上からコートが掛けられてるくらいだった。

 

「そりゃ生まれたばかりだもんね。寒いでしょ?はい、着る服」

 

面白そうに頭上で笑う四季さんが紙袋を渡して来た。

 

「あ、ありがとう」

 

随分と用意が良いらしい。ありがたく受け取る。

 

「それじゃあ、ワタシは後ろに居る明月さん達に報告してくるから、着替えたらこっち来て?」

 

「他にも来てくれてたのか……」

 

大人しく服を取り出して着て行く。しっかりと靴まで用意されていた。

 

「これは……?って、マフラーまであるのか。しかもこのマフラー……」

 

クリスマスの時に四季さんが俺にプレゼントとしてくれたのと同じやつだった。

 

「めちゃくちゃ胸熱するやつじゃんか……」

 

感謝を込めながら最後にマフラーを首に巻いて準備を終える。

 

「着替え終わったけどー……?」

 

恐る恐る四季さんが消えた方向に進むと、明月さんの他に高嶺とミカドさんも居た。

 

「澤田さん……。無事帰って来れたのですね」

 

「……ふむ、どうやら貴様も人の様だな」

 

ジーっと俺を見てミカドさんが安堵する。

 

「今度は正真正銘の人間として生まれたのか……」

 

「澤田さんも栞那と同じく生まれ変われたってことですね」

 

「どうやらそうみたいだな」

 

多分、あの蝶……母さんが色々とまた助けてくれたんだろう。

 

「澤田君には話したい事や聞きたい事が色々とあるけど……一先ずはお店に戻らないとね」

 

そう言って俺の手を取って先導する。

 

「そうですね。ここまでなんですし、じっくりと時間を取れる場所が良いですし……」

 

「ああ。全くその通りだ。ここではゆっくりと出来ないからな」

 

俺たちの後を続くように他の3人も歩き始める。高嶺の隣には寄り添うように明月さんが付いていた。

 

それを見て本当に無事にここまで来たんだと実感して安堵する。

 

「どうしたの?明月さん達を見て嬉しそうにしてるけど?」

 

「いや、戻って来たんだなって思ってさ。それに、今日に至るまで四季さんが色々と頑張ってくれたみたいだと理解してさ」

 

「まぁ?ワタシなりに出来ることはしてきたつもり。それなりには頑張った……かな?」

 

「そうか……、ありがとな」

 

「ううん。ワタシただ澤田君がしてきたのを真似ただけだから」

 

「それでもここまで来たのは紛れもなく四季さんが頑張って来た証拠だな」

 

「そう?そう言うなら……そうかも」

 

少し嬉しそうに笑う。その笑顔を見て安堵する。

 

「今度は安心したみたいな顔して……」

 

「そりゃ無事に帰って来て皆に会えたからな。安心もするさ」

 

「ま、それもそっか。でも……、安心するには、まだ早いかな?」

 

「……え?」

 

四季さんの突然の言葉に場の流れが変わった気がした。それに合わせて握られていた手の力が増した。

 

「さっきも言ったけど、澤田君にはワタシも明月さんも聞きたい事や言いたい事が沢山あるから……ねぇ?」

 

先程まで優しそうに笑っていた表情とは変わり、絶対零度の眼差しで俺を見ていた。

 

「あ、ああ、ああっ……」

 

「お店に戻るまでに、言い訳を考えておいてね?」

 

「ア、ハイ……」

 

これはまずい。非常にマズイ。

 

折檻コースだと悟り、希望を込めて後ろの明月さんを見る。

 

「私も、ナツメさんと同意見だという事をお忘れなく」

 

その僅かな希望も、ジトリとこちらを見ていた。しかも手には何故か鎌を手にしていた。超怖い。

 

こうして、無事ハッピーエンドからのエンディングを迎えるなんて事も無く、哀れにも店へと連行されて行った。

 

 

 

 

 

 

その後、店に着いた俺はお店の休憩室で取り敢えず正座をさせられた。

 

まずは事情聴取を受け、俺が居なくなった後の出来事を事細かく聞かされた。その時の心情もたっぷり含めて……。

 

時間にして一時間半。体感は半日程の説教を受けた後、取りあえず解放という流れになった。

 

「あ、ああ……あ」

 

最初は四季さんから話しており、我慢していた明月さんが四季さんの話を聞いて行く内に次第にヒートアップしていき、気が付けば主導権が変わっていた。

 

「やっぱり怒らせたらダメな人ナンバーワンだな……」

 

その光景を見ていた高嶺は気まずそうに目を逸らしていた。

 

「少しは反省した?」

 

「はい……これ以上は無いって位には……」

 

まだ少し力のこもった声で、隣に座って居る四季さんから話掛けられる。

 

「皆、澤田君には物凄く感謝してる。けど、それとこれは話が別だから」

 

「はい……仰る通りです」

 

精神がゴリゴリと削られたためパイプ椅子にグッタリと体を預ける。

 

「まぁ、それなりにちゃんと反省はしてるみたいだし。今日はこの辺りにしとこっかな?」

 

今日はっ!?いま、今日はって言った?

 

「と、というか……他の3人は?もう帰ったのか?」

 

「そうね。今日は澤田君も疲れてだろうし解散することにした」

 

「そりゃありがたい。今日はもう色々と限界かもしれん」

 

「なら、澤田君の部屋に帰ろっか」

 

「俺の部屋……?」

 

あれから3か月は経ってるんだが……?

 

「大丈夫。ちゃんと契約し続けてるから安心して?」

 

「まじか。なんか申し訳ない」

 

3か月も家賃を払うのも安くは無かっただろうに。

 

「ワタシが好きでしていたことだから気にしないで。帰って来た時に戻る場所が無かったら困るでしょ?」

 

「それは確かに。またホテル生活になるのかとばかり……」

 

「取り敢えず部屋に行こ?」

 

「分かった。それと、ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

店を出る前に明月さんとミカドさんに一言告げて店を出る。

 

「一応確認しておくんだけど……今日って何月何日?」

 

「うん?1月1日だけど?」

 

「そうか……。取りあえず、明けましておめでとう?」

 

「ん。おめでとう」

 

9月末かと思えば次の日は年を越していたとか、数日は感覚が狂いそうだな。

 

気になった何気ない事を話しながらも、住んでいた部屋に着く。

 

特に迷う様子も無く四季さんがポケットから鍵を取り出し、開けて中へ入る。それに続いて俺も部屋へと入る。

 

「それじゃあ……まずは、おかえり」

 

安堵するように『おかえり』と俺に告げる四季さんを見て、その言葉の意味を理解した。

 

「ああ……ただいま。3か月振りと遅くなったけど……」

 

「ほんとね。でもちゃんと帰って来てくれたから許してあげる」

 

「寛大な心遣いに感謝します」

 

ほんわかとした空気が流れつつも部屋に辿り着く。

 

「……綺麗にしていてくれてたんだな」

 

「まぁね。ちょくちょくワタシも使ってたから」

 

秘密の話とかでだろう。人が居ない方が気が楽だしな。

 

「割と掃除もされてるし……ん?」

 

部屋を見渡していると、ベットの枕元に置かれていた一冊のノートが目に付いた。

 

「……おいおいおい。まま、まさか……?」

 

嘘だろ?流石にこれは嘘だろ?いやいやいや、嘘だと言ってくれ。

 

表紙は同じでもきっと違うノートだという謎の希望を抱いて手に取る。

 

「………」

 

パラっと中身を捲ったが、残酷な現実を直視しただけだった。

 

「急に固まってどうしたの……って、ああ、そのノート?」

 

しかも既に四季さんもご存じのご様子で……。

 

「あ、え、えと……、既に中身をご存じで?」

 

「うん?読んだけど?澤田君の前の記憶と一緒にそこに書かれてる事も参考にしてたからね」

 

あば、あばばばばっ!

 

ノートの持つ手が震え始め、嫌な汗が噴き出る。

 

「あっ、そういえばそれに関しても色々と気になってた」

 

「きき、気になったっ?」

 

「うん。『喫茶ステラと死神の蝶』って何?」

 

告げられたその一言は、俺の人生を終わらせるには充分過ぎる一言だった。

 

……どうやら、お店に引き続き2度目の正座が必要になりそうだ。

 

「あ、ああ……えっと、俺が勝手にイメージしたタイトルを……その、だな。名付けたと言いますか……」

 

「澤田君が?」

 

「そ、そうっ。自分の中で整理する時にイメージしやすい様に!」

 

「へぇー……、そうなんだぁ……」

 

猜疑心マックスの瞳で俺を見る。

 

「な、何か疑問でも?」

 

「ううん。それじゃあ、次」

 

ま、まだあるのか……。

 

「なんかワタシが持ってる記憶では、澤田君が視てる未来視?のイメージが何だかゲーム?アニメ?みたいにテレビ画面を見る感じだったんだけど……」

 

「ひっ!?」

 

「あれってどういう事なの?それにまるでシミュレーションゲームみたいだったし……」

 

「お、俺も詳しくは分からないかなぁ……?自分以外に同じ人は見た事ないからそんなもんと思ってたけど……?」

 

「そう?それにしてはなんか変な感じだったけど。そのノートにも書かれてる選択肢の場面とか特に」

 

「………」

 

今すぐこの場から逃げ出したい気分であります。

 

「んー……、なんか隠し事してない?」

 

「か、隠し事とかっ、俺が四季さんにするわけないだろ?」

 

「何を隠してるの?」

 

「根拠の無い発言は控えた方が良いと思うけど……?」

 

「ううん、澤田君の魂と記憶を少し持ってるからか分からないけど、表情で何となく考えてる事が解る気がする」

 

「まじで?」

 

「ん。マジ」

 

「因みに、その四季さんレーダーではどんな事が……?」

 

「動揺?バレたくない事を必死に隠そうと取り繕ってる感じがひしひしと伝わってくる」

 

「きっと故障してるだな。そのレーダーは」

 

「寧ろ確信に変わった気がする。話して?何をそんなに必死に隠そうとしてるの?」

 

真剣な表情でこちらに詰めてくる。

 

「い、いや……人には誰しも話せない秘密が1つや2つ……」

 

「怪しい。そんなに話せないこと?」

 

「かなり前にも言ったけど、これだけは言えない企業秘密だからな……」

 

「ふーん……。でも、そこまで言うなら深くは追及しないでおこうかな」

 

どうやら、疑いながらも引き下がってくれたようだ。

 

バ、バレてないよな?

 

「ま、それは置いといて、取りあえず今後の話をしましょ」

 

「ああっ、今後のね!大事だよなっ」

 

よし、話題が逸れてくれたっ!

 

「今は正月休みだけど、その休みが明けたら澤田君には前みたいにお店で働いて貰おうかと考えているんだけど……どう?」

 

「それは俺としてはありがたい提案だが……行けるのか?」

 

「そこら辺は平気。手続きは閣下にお願いするから。ロッカーの方も確保済み」

 

「何から何まで用意周到だな」

 

「でも、今日以外のメンバーとはまた一からだから……そこが問題かな」

 

「その辺りは大丈夫だろ。精々涼音さんにこき使われる程度だし」

 

「そう?仕事内容も大丈夫だし……あっ、服は用意しておかないとね」

 

「高嶺用の予備とかあればそれで行けると思う」

 

「なら心配要らなそうかな?直ぐに決める必要があるのはこのくらい……かな」

 

「了解、休み明けを楽しみにしとくよ」

 

「そ、それじゃあ、難しい話は終わりとして……」

 

先に済ませておく用事が終わると、急に恥ずかしそうに俺を見る。

 

「え、えっと……」

 

何となく、これから話そうとしている内容が想像出来る。2人にとっても大事な話だろう。

 

「そのーーー」

 

ピンポーン。

 

話を切り出そうとした瞬間、それを断ち切るように玄関のチャイムが鳴る。

 

「……来客か?」

 

「………」

 

四季さんを見ると、相手に心当たりがあるのか少し残念そうな顔をしていた。

 

「取り敢えず、俺が出るよ」

 

「うん、お願い……」

 

立ち上がって玄関の覗き穴から外を見る。

 

「あー……、なるほどね」

 

そこに居たのは、竜胆ルリだった。だが、ニコニコとした表情で覗き穴越しの俺と目を合わせて来た。

 

「確かにこれは納得の人物だ」

 

と言ってもスルーは出来ない為玄関を開けて招く。

 

「やぁやぁ、この世界では初めましてかな?」

 

「そうなるのかな?」

 

「どうやら彼女が上手くやってくれたみたいで僕としても一安心だよ」

 

「そりゃ良かった。それで、どういった用件で?」

 

「ちょーっとね、キミと奥で座ってる彼女の魂を一応確認だけ済ませておこうかと思ってね。お邪魔しても良いかい?」

 

「それなら全然大丈夫だが……」

 

そのまま部屋まで連れてく。

 

「ふむふむ、どうやらほんとに僕がお邪魔だったみたいだね」

 

顎に手を当てながら面白そうに四季さんを見る。当の本人は少しご機嫌ナナメに見える。

 

「やあ、無事彼を連れ戻すのを成功したみたいだね」

 

「おかげさまで。この通り」

 

「悲しいことに、僕の印象が少し悪くなってるようで残念だよ……」

 

「感謝はしてるけど……遠回りさせられたからね」

 

「僕としては悪いとは思って無いからサクッと本題に入ろうかなー」

 

「本題……?」

 

「そうそう、今日キミ達にわざわざこの僕が直接来てあげた大事な用件さ。と言っても2人の状況を見るだけだから安心していいよ」

 

「俺もそこが気になってはいる。本当に俺の魂は大丈夫なのか?」

 

「そこに関しては問題無いから安心しても大丈夫。もし問題があったのなら即座に消してたからねっ」

 

普通に笑顔で脅して来るなよ……。

 

「ま、僕ぐらいになれば何となく想像出来ちゃてるんだけどね。念のためってやつさ」

 

そう言いながら俺と四季さんを交互に見る。

 

「ふむふむ、概ね予想通りに落ち着いたと思ってもいいみたい。これなら特に問題は無さそうかな?」

 

「どんな感じで落ち着いているんだ?」

 

「そうだね。知っていた方が混乱せずに済むかもしれないね。それに、そっちの方が面白そうだしねぇ」

 

なんだろ、急に聞きたくなくなってきた……。

 

「まず、彼女の魂だけど、零れた部分をキミが蝶に還った時に取り入れた一部で補っていたけど、それが無事に安定していたんだ」

 

「俺の魂が……」

 

「そう。まぁ、今日で少し元に還したから以前までとは言わないけど少し不安定になってはいるね。でもその内ミカドが持っている本来の蝶が戻ってくると思うからそこまで心配しなくても良いかな?」

 

「なら、大丈夫か……?」

 

「そしてキミの方も似たようになってるね。本来ある自分の魂と、少しだけ彼女の魂が混じり合ってる」

 

「お互いがお互いの魂を持ってるってことなのか……?」

 

「そう考えて貰って良いかな。しかもどちらも不思議とそれを受け入れている。1人だけじゃなくて2人も……。これは非常に興味深いねぇ……」

 

「いやぁー、愛の力って偉大だねっ!相思相愛!ラブラブって感じだよ」

 

急に茶化して来るなぁ、この神は。でも、隣の四季さんが恥ずかしそうに顔を伏せてるのでよくやったっ!

 

「僕の予想が正しければ、副産物で面白い現象が起きてるはずだけど……試してみる?」

 

「副産物……?現象って……どんなのだ?」

 

「心配はいらないさ。危険な事が一切ないのはこの僕が保証しよう」

 

「………」

 

胡散臭さが半端じゃない。

 

「疑われてる様で心が痛いよ。それで、その現象の内容なんだけど……」

 

「ああ」

 

「簡単に言うと、テレパシーみたいなものかな」

 

「テレパシー……?」

 

「もっと解りやすく言えば、念話って言うのかな?」

 

「あの、頭の中で会話するやつ?」

 

「そうそれ、キミ達2人は恐らくそれが可能だね」

 

不思議そうに四季さんと顔を見合わせる。

 

「百聞は一見に如かず。さっそく試してみようか」

 

「今から僕がキミにてきとうな数字を言う。それを君は心の中で彼女に伝えようとすれば良い」

 

「……分かった。試してみるのが早いもんな」

 

んな異世界ファンタジーご用達のスキルがあるとは思えないんだが……。

 

「それじゃあ、行くよ?」

 

四季さんから見えない位置で指を3つ立てる。

 

3だな。

 

「それじゃあ、今の数字を心の中で強く念じるようにして。そっちの彼女さんもそれを知りたいと念じるように」

 

「ああ、分かった……」

 

「え、ええ……」

 

今度は四季さんと向き合う。

 

「んじゃ、行くぞ?」

 

「う、うん……」

 

目を閉じて心の中で念じる。

 

さんっ!さーーんさんさんさんさんーーーー!3ですよっ!?サンシャイン!数字の3です!さんさんさん晴れですよーー?

 

「……ぇっ?」

 

「分かったのか……?」

 

「ううん……数字なんだよね?」

 

「ああ、数字だが」

 

「なんか……太陽とか晴れとか……うるさい感じのイメージが……」

 

「ぶほっ!?」

 

四季さんの発言に思わず吹いてしまった。

 

「な、なにか変だった……?」

 

「い、いや……何でもない……」

 

「どうやら無事仮説は正しかった様だねぇ」

 

「ああ、本当のようだな……」

 

「えっ?正解は?数字じゃないのっ!?」

 

1人だけ置いてけぼりの四季さんが慌てて問い詰めて来る。

 

「四季さん、太陽は英語で?」

 

「え?英語?そりゃ、"sun"だけど……あっ、そういうこと?」

 

「正解。答えは数字の3ってわけ」

 

「つまりは……澤田君が悪ふざけをしたと?」

 

「大正解っ!」

 

「……くだらないことしないでくれる?」

 

「場を和ませようと……な?」

 

「全く持って理解出来ないんだけど?」

 

「神様、どうやら仮説は正しく無かったようだ」

 

「おやぁ?おかしいな?神であるこの僕が間違っていたと……?どうやらこれは、神罰が必要みたいだね」

 

「おいまて、本物に言われたら冗談に聞こえないからな?」

 

「今後、こんなくだらない事を言わない程度にはして貰った方がいいんじゃない?」

 

横を見ると、揶揄う様な表情で俺を見て笑ってる。

 

「無慈悲な……っ!!」

 

「そうだねぇ、僕はとても優しい神だ。罰は少しくらいで許してあげようじゃないか」

 

「いやほんとにするのか」

 

「僕のプライドが傷付いたからね。仮説を証明する為に1つアドバイスをあげようじゃないか」

 

「アドバイス?」

 

視線の先は俺では無く四季さん。

 

「そう。今のキミにとってもありがたいアドバイスさ」

 

チラッと俺を見てニヤリと口を歪ます。

 

「今のキミらはお互いの心の内を読もうとすればそれが可能になってしまった。それはつまり、相手の恥ずかしい秘密も例外じゃない」

 

「そうそう。どうやらキミの彼氏さんには人には言えない秘密があるみたいだねぇ……?」

 

悪魔の様な爆弾を投下してきた。

 

「それじゃあ僕はここらで退散しようじゃないか!あまり長居するのも2人の邪魔になるし」

 

こ、こいつ……っ!本当に神か?悪魔の間違いだろっ!

 

「悪魔だなんて酷い言い方だ。僕はただ2人がもっと親密になって欲しくて言っただけなんだけどなぁ?」

 

苦悶の表情で睨む俺を見て満足したのか、颯爽と去って行った。

 

 

 

 

 

そして部屋には、再び四季さんと2人きりになった。

 

「………」

 

「………」

 

お互いに無言である。

 

「……澤田君」

 

「はい……」

 

「さっき言ってた話だけど」

 

「はい」

 

「ダメ?」

 

「………」

 

駄目だ、今隣を見てはいけない。もう声だけで陥落してしまいそうだ。そんな中顔まで見るとなったら心が揺らぎそう。

 

「ねぇ、どうしてこっちを見ないの?」

 

「今四季さんの顔を見るのは、非常に危険だと俺の中で警報が鳴りやまないんだ」

 

「ちぇ……そう簡単には墜ちないか」

 

くそっ!やはり狙ったのかっ!?妙に声が甘えてると思ったんだよちくしょうっ!

 

「でも、さっき神様が言ってたのは本当だったから、その内露見しそうな気もするし……気長に待ってようかな?」

 

……確かに、それは全然あり得る。

 

「痛いとこ狙ってくるなぁ……」

 

「だって、そこまで秘密にしてるなら尚の事気になるでしょ?」

 

「気持ちは分かる」

 

「今のままだと澤田君が隠そうとして疲れたり、ワタシに気を遣ったりするくらいならここで吐いちゃった方が楽じゃない?」

 

「まぁ……一理ある」

 

「……もしかして、重い話だったりするの?」

 

「い、いや、そっち系の話では無いから安心してくれ」

 

「だよね。どっちかって言うと……恥ずかしい系のはずだし」

 

「くっ……!」

 

ヤバいぞ、どんどん追い詰められてる気がしてならない。

 

「あっ、今焦った?」

 

「……そんな事はないな」

 

すぐに心を落ち着かせる。

 

「あ、無くなった」

 

「というか、平然と人の考えを読もうとしてるよな?」

 

「ごめん、何だか楽しくてつい……」

 

「早速使いこなし始めてるなぁ」

 

「超能力みたいで、ちょっとわくわくしてるのかも?」

 

「ならしゃーないな」

 

男として気持ちは分かる。

 

「でも、なんかまだイマイチな気がする……。例えるなら、電波が悪い感じ?」

 

「熟練度が低いとか?」

 

「なのかな?」

 

「あとは……直接体に触れたり?」

 

「直接?」

 

「そそ、よくある話だし」

 

「なるほど、直接かぁ……試す価値はあるかも」

 

考えるように呟くと、手を差し出して来る。

 

「お試しに……はい」

 

「……了解」

 

どの程度か知るためにも検証は必要だしな。

 

出された手の平に自分の手を置く。

 

ふむ、試しに何か考えてみるか……。

 

ちくわ。

 

ちくわ大明神。

 

あと四季さんの手柔らかいです。

 

「……なんでちくわ?」

 

「何となく?」

 

どうやら交信は成功の様だな。

 

「それより、どう?電波の状況は?」

 

「あー……なんだろ?確かに直接触れてる方が解りやすい……かも」

 

ほほう、じゃあ、ちくわのイメージを……。

 

「だからなんでちくわなのっ!?」

 

「何となく?」

 

「あー、なんか頭にちくわのイメージが来て不気味かも……」

 

「以心伝心とはまさにこの事だな」

 

「残念ながらね……」

 

逆に、四季さんはは何を考えてるのだろうか?

 

やはり気になってしまうのでこちらも意識を集中してみる。

 

『んんんー……なんでここでちくわなの?もっと考えることがあるでしょ……』

 

ごもっともで。

 

『それにしても、こうやってお互いに手を重ねて無言で居るって……なんかドキドキしてきたかも』

 

『うぅ……なんかワタシだけこんなこと考えてるのかな……?さっきのちくわ以降何も聞こえないし……』

 

『なんか壁?みたいに見られないようしてるのかな?考えを読まれない様に心を静める的な……』

 

『そ、それなら今ワタシの方を読まれたりしたら……って、さっきから澤田君無言だけど……ん?無言?』

 

「ッ!!?」

 

突然四季さんが素早い動きで手を引く。あ、バレたか。

 

「……み、見た?聞いた?」

 

「何をだ?」

 

「そっちも、ワタシの心を読もうとしてたでしょ!?」

 

「まぁ、フェアじゃないと思って軽くは……」

 

「っ~~~!ど、どこまで見たのっ!?」

 

「何処までって、恥ずかしがることはないんじゃないか?俺も四季さんと手を重ねてドキドキしてたし」

 

「あ、ああ……っ」

 

みるみる顔が赤くなる。

 

「大丈夫。滅茶苦茶可愛かったから!」

 

「勝手に見るなぁ!!」

 

それは理不尽では?

 

「てか!そっちは全然読めなかったんですけど!?何?ちくわって!」

 

「へぇ。となると、冷静さを保てば聞こえないのかもな」

 

あれか?強い感情が表に出てくる的なパターンなのかもな。

 

「……ずるい」

 

「へ?」

 

「ワタシだけ一方的に知られるのは不平等」

 

「そう言われてもなぁ……」

 

「冷静さを、無くさせれば良いんでしょ?」

 

「な、何をする気だ?」

 

標的を捕えた様な表情でこちらを見る。それを見て本能的に後ろに下がってしまう。

 

「このままだと、負けたみたいでなんか悔しい」

 

拗ねたように言うと、立ち上がって俺の後ろに回る。

 

「………、ふー……」

 

背後で一度深呼吸をし、そのまま背中から手を回す様に抱き着いて来た。

 

「あ、あの……?しし四季さん?」

 

「何?」

 

「これはちと、強引では……?」

 

「これ位が必要と判断しただけ」

 

「い、いやぁ……これは流石に……」

 

「ふふ、流石の澤田君でも動揺する?」

 

「男なら誰でもすると思います……」

 

「……どうやらそうみたいね」

 

「読まれました?」

 

「ううん、読まなくても声だけで充分伝わって来たから」

 

「際ですか……」

 

なんだこの状況は……。

 

「はぁ……落ち着くぅ」

 

後ろの四季さんはまるで温泉に浸かった様な声を出す。くそエロいなっ!

 

「別に、エロくないと思うけど?」

 

「おっと」

 

これは簡単に心を読まれているなぁ。気を付けないと。

 

「どう?ドキドキしてる?」

 

「そりゃあ……かなりしてますとも」

 

「そ。ワタシも同じ」

 

そう言って俺の背中に耳を当てる。

 

「んー……あっ、ほんとだ。鼓動が早い」

 

「この状況で緊張してなかったら別の問題があると思う」

 

「別の?」

 

女に興味が無い的な奴だな。

 

「あー、そっち系の人ね」

 

うん、さらっと読んでますね。

 

「というか、四季さん?いつまでこのままで……」

 

「ん?もしかして嫌だった?」

 

「んな事は無いんだが、証明には充分かなと思いまして。いや、全然俺としては良いんだが」

 

「んー……ならもう少しこうしてようかな?」

 

「……仰せのままに」

 

役得と言うか、ありがたいし……。

 

「そういえば、そっちは今後どうしていくつもり?」

 

「と、言いますと?」

 

「ほら、ワタシや明月さんの件は無事に終わったでしょ?他にも何かやる事あるのかなぁって気になって」

 

「今後ねぇ……。この瞬間は特に考えてはいないな。数日はゆっくりするつもりだったけど」

 

まずお店の状況をしっかり見ておかないとな。ここだと、俺は一番の下っ端になる訳だし。

 

「四季さんの魂が安定するまではゆったりするのも悪くないかもな」

 

「ワタシの魂?」

 

「まだミカドさんの所に居るんだろ?」

 

「そうみたい。ま、その内戻って来るらしいからそんなに心配はしてないかな?」

 

戻って来る条件ってあったっけ?前向きになれば……とかだったけど、まだクリアしないといけないイベントとかが?

 

「何?まだする事があるの?」

 

「あー……、どうだろ?一応しておいた方が良いのかなって気になっただけ」

 

後、そうなると汐山弟にも恋人が出来るし……結構手伝って貰ったからそのくらいの恩返しもしておきたいな。

 

それなら、病院に行って……てか、この世界だと俺と深山先生と面識無いな。結菜ちゃん経由で話せば大丈夫か?ケーキとかの差し入れ持ってけば登山家の子とも接点出来る可能性はあるし……。

 

「……なんか、一気に色んな考えが来てごちゃごちゃしてる」

 

「すまん。ちょっと考え事してた」

 

「まだしておきたい事が色々とあるってのは、何となく解った」

 

「その時が来たら詳しく話すよ」

 

「よろしく」

 

サプライズ……とかも良いかもしれないけど、四季さんそういうの好きじゃないだろうし。ここは素直に教えるのが吉だろう。

 

 





10,000文字を越えてしまったので一旦区切って次に回します。

なんか書きたい事を書こうとしたら永遠と続きそうなので……。

次回はちょこっと甘い感じで……そして遂に企業秘密が()

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