喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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誰にだって困難は訪れるもの……ですよね?




-新訳-第42話:〇〇二ウム?

 

 

「恋愛シミュレーションゲームって、何の事を指してるの?」

 

その言葉を聞いて、一瞬頭の中が真っ白になった。

 

「……恋愛、シミュレーション、ゲーム……?」

 

聞き間違いかと思い、試しに聞き返す。

 

「うん、何に対して言ってたんだろうって気になって」

 

「……え、えっとぉ、どこでそんな単語を?」

 

「澤田君の頭の中から。その、さっき……していた時に……イメージが、その……」

 

若干恥じらいと共に真実が明かされる。

 

「………」

 

だよねっ!俺しかいないよねっ!!くそがぁ!!確かに制御出来てなかったし四季さんとシてたから勝手にそう考えるのも仕方ないかもしれないけどさぁ!!

 

「そ、それに……なんか、ワタシが裸とか、ウェイトレス姿とか……」

 

「………」

 

「べ、別にそういうのが好きとか、して欲しいって思う事に対して嫌とかは思ったりはしてないから。してないけど……さっきの話を聞いて、澤田君からのイメージがその……ゲームでのワタシ?みたいなイメージだったし、もしかしてそういうゲームだったのかなって思って……」

 

「すぅぅーー……さーて、ちょっとコンビニでも行こうかなぁ?」

 

言い逃れが出来そうにも無いので戦略的撤退をーーー。

 

「逃げない」

 

ベッドから抜け出そうと体を起こした俺の手が握られた。

 

「……どうやら図星みたいね」

 

「四季さんが何の話をしているのか俺にはさっぱりだなぁ?」

 

「すけべぇなゲームだったと……?」

 

「いやいや、んなわけ……。健全なゲームですとも……」

 

背中に嫌な汗が流れる。

 

「その、エロゲ?って言うの?そういうゲームって」

 

「ま、またもそんな単語を一体何処で……」

 

「さっきと同じだけど?」

 

「………」

 

あばばばb。

 

「否定しないって事は、認めるってことで良いの?」

 

「チガイマスヨ」

 

「なんで急にカタコトに……」

 

「オレ、シラナイ。シラナイ」

 

「その言い方が認めてる様なものなんだけどね……」

 

「………」

 

ああ……終わった。少し前の俺の心を隔離したい。高嶺の奇跡貸してくれないかなぁ……?

 

遠い目をしながら上を見上げる。後ろでこっちを見ているであろう四季さんの視線が恐ろしい。

 

「……はぁ。別に責めたり軽蔑したりしないから。こっちを向いて」

 

「……はい」

 

逃げ場は無いし、後は好きにしてくれ。

 

「凄く落ち込んでるように見えるけど、そんなに知られたくなかったの?」

 

「そりゃあ……まぁ」

 

「それもそっか。男の子なら普通は知られたくないか」

 

「はい」

 

「それで?認めるの?」

 

「……認めます」

 

「ふーん。ワタシは澤田君がしたそのゲームとか詳しくないからよくわかんないけど、恋愛?をするゲームなの?」

 

「そんな感じです。主人公がその、女の子とそれぞれの物語を紡いでいく感じのやつです」

 

「へぇー……それがワタシ達ごとにあるってこと?」

 

「そうですね、はい」

 

「それで、それを高嶺君が?」

 

「……はい」

 

「そうなんだ。だから澤田君は高嶺君と明月さんを選んだってわけ?」

 

「明月さんにも幸せになって欲しかったので……選びました」

 

「ふーん……ま、別に怒ってたりしてないから、変に畏まらないで」

 

「そ、そうか……?」

 

「別に、澤田君がどんなゲームをしていたとか勝手だしね。それに、そのおかげで助けられた訳だし……責めるのはおかしいでしょ?」

 

「そ、そうとも取れるか……?」

 

「ここはゲームじゃなくて現実だし、ワタシは自分の意志で澤田君を選んだから別にそこまで気にしてないかな?」

 

「まじか……」

 

「それに、澤田君もワタシを選んでくれたわけでしょ?皆の中から」

 

「それはもうその通りです」

 

「お店に居る皆ってほら、可愛いでしょ?それでもワタシを好きでいてくれて、一緒に居ることを選んでくれたんだから……それだけで充分」

 

嬉しそうに笑う。反則級の笑顔だぞっ!

 

「そりゃ……確かにそれぞれ魅力はあるのはあるが、それでも一番……というか、俺の中でぶっちぎって好きだったのが四季さんだったからなぁ」

 

「それは流石に言い過ぎでしょ」

 

「これでも控えめな位だ」

 

「因みにだけど、ワタシのどんなところに惚れたの?」

 

「一杯あり過ぎて言い表せられないが……ギャップとか?あと蔑む様な声とか視線?恥ずかしそうに睨む顔とか、声もそうだし甘える所とかも……」

 

色々と思いついて考えが纏まらないな。

 

「ストップ、タイム。もう良いから」

 

「ありゃ、そうか?」

 

「澤田君らしい回答ありがと。あとこれ以上は恥ずかしくて死にそう……」

 

「あっ、あと割と黒髪とかも好きだし。しかも黒髪ロング。四季さんの髪って綺麗だしさ」

 

「もう充分って言ったでしょっ!?追撃止めっ!」

 

あとすけべぇなところ?探求心あるし……。

 

「ああ、でも……」

 

「で、でも?」

 

「本物はゲームで見ていた以上に魅力的だったって事は確実に言える。想像の7億倍は可愛い」

 

「~~ッ!だからっ!もう分かったからっ!」

 

首元まで真っ赤にした顔で叫ぶ。うん。やっぱり超可愛いです。ご馳走様です。

 

「ああもうっ!恥ずかしくてどうにかなりそうでしょ!!」

 

ボスンッ。っと枕に顔を埋めて手をバンバンと叩く。

 

「聞きたい事は聞けた?」

 

「オーバーキルってくらいにはね……。軽く言われる程度を期待してたのに……」

 

籠った声で呟く。いやいや、軽くとか何を仰っていますか。魅力の塊さんよ。

 

「……ふぅー……顔が熱い……」

 

少し落ち着いた様で枕から顔を上げる。

 

「とにかく、さっきも言ったけど、別に怒ったりはしないから安心して?」

 

「感謝いたします」

 

「あ、でも……今後はそう言うゲームは禁止だからね?」

 

「ア、ハイ」

 

それもそうですよね。

 

「ワタシが居るのに、そんなゲームするとか……普通に妬く。嫉妬しまくる」

 

「大丈夫。しません」

 

「ん、信用する」

 

「信用されますとも」

 

「もししたら、両目潰すから」

 

「……仰せのままに」

 

自分への誓いとして指切りをしておく。

 

「よし、それじゃあそろそろ起きようかな……?」

 

「多少は回復したか?」

 

「動ける程度にはね、あ、先に軽く汗流しても良い?」

 

「どうぞどうぞ。後で俺もそうしようかな」

 

隣で体を起こした四季さんが恥ずかしそうに布団で肌を隠す。

 

「ちょ、ちょっと、あまりじろじろと見ない」

 

「恥じらう姿が可愛いくてつい……」

 

「当然でしょっ、裸を見られたからと言っても、普通に恥ずかしいんだから」

 

「すまんすまん」

 

ベッドから出る四季さんから視線を外す。

 

「電気付いてないけど、この距離なら大丈夫かな……」

 

電気を点けずにそのまま部屋から出ようとする四季さんの足が止まる。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「ねぇ、澤田君……」

 

ゆっくりこちらを向く。

 

「ん?何?」

 

「さっきの話の続きなんだけどね……」

 

「うむ」

 

「その、エッチなゲームなんでしょ?ワタシの裸とかの絵があった位なんだし……」

 

「そ、そうなるな……」

 

待て、何だかマズイ流れに感じる。

 

「ノートにも書かれてたみたいにワタシ以外にもお店で働いてる人達全員なんでしょ?」

 

「………」

 

「それってつまり……、他の子の裸や、他にも色んな場面を……見たってこと……?」

 

「……さぁてと、四季さんがシャワー浴びてる間にコンビニでも行ってこようかなぁ?」

 

「おい」

 

とぼけるように顔を逸らすと、聞き馴染みのある声で呼ばれる。ああ……きっと相手を射抜くような視線なんだろうなぁ。

 

「良いから答えて」

 

「………」

 

「無言は肯定と取る。で良いんだっけ?」

 

「その通りでございます」

 

取りあえず反省の意を込めてその場で土下座しておく。

 

「はぁ……ほんとってことね……」

 

「誠に申し訳ございません」

 

「別に謝る必要は無いから。言っても仕方のない事だし……まぁ?かなりもやっとしてるけど」

 

正面の四季さんの纏う雰囲気が和らいだ気がした。

 

「責めはしない。それは自分で言った事だしね。だから、ワタシがシャワーから上がるまでに全部頭から忘れること?良い?」

 

「分かりましたっ!」

 

「ワタシも戻ってくるまでに気にしない様にするから。それじゃあ行ってくる」

 

「了解です」

 

風呂場へ入って行ったのを確認して全身から力を抜く。

 

な、なんとかなった……でいいのか?兎にも角にも、危機は乗り越えれた?暫くはチクチクと言われることは覚悟しておこう。後、そのフォローもしておこう。

 

最大の壁を生きて乗り越えれたことに安堵する。後は時間が解決してくれるはず……っ!きっと!

 

またもや変な汗を掻いてしまったことに苦笑いしながら、四季さんが出てくるまで大人しく待機した。

 

 

 

 

 

次の日、今後の予定を考えるのも含めて四季さんと一緒に高嶺家へやってきた。

 

「一応、四季さんが前もって連絡は入れてるけど……念のためにしっかりとインターホンは鳴らさないといけないよな。うんうん」

 

「何を1人で納得してるの?」

 

「いや、保険は大事かなっって」

 

流石に朝からバナナとミルク事件や妖怪乳しゃぶり中とかでは無いと思うけどなっ!

 

ボタンを押すと、すぐに玄関のドアが開く。

 

「おはようございます。どうぞ中へ入って下さい」

 

明月さんに向かい入れてもらい中へ入る。

 

「お邪魔します」

 

炬燵でゆったりとしている高嶺を確認しながらてきとうに座らせてもらう。

 

「朝からすまんな。折角同棲したばかりなのに」

 

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」

 

「そうですよ。あ、飲み物はお茶で良いですか?」

 

「大丈夫。ありがと」

 

「ワタシも平気」

 

2人分の飲み物をテーブルに置いて自然と高嶺の近くに座る。

 

「それで。お話とは?」

 

明月さんが席に着いたので話を始める。

 

「ええっと、まずは……ミカドさんには朝一で報告済みなんだが、年明けから俺もお店で働かせて貰おうかと考えててさ」

 

「澤田君が無事戻って来たのは良いけど、これからの生活とか考えてそっちの方が収まりが良いかなって思ってね」

 

「まぁ、それもそうですね。私は寧ろ大歓迎です」

 

「俺も賛成です。即戦力が増えて助かりますし」

 

「ありがと。手続きとか用意するのは全部閣下が年明けまでに準備するって言ってたからそこは問題ないはず」

 

「となると、年明けの初日に澤田さんをお店で……?」

 

「そうなるかな?一応今日中には事前にグループの方で連絡は入れておくつもり」

 

四季さんと明月さんが話している間に部屋の様子を確認する。多分、今日ぐらいにでも買い物とかをしに行くつもりなんだろう。

 

「私達以外の方とはまた最初からですが、その辺りは大丈夫そうですか?」

 

周囲に視線を向けてると、明月さんが俺に問いかけてくる。

 

「ま、なるようになると思う。それにお店の皆は良い人しか居ないからな。そこは特に心配してない」

 

「まぁ……澤田さんですし、その辺りは杞憂でしたね」

 

「もっと褒めても良いんだぞ?」

 

「調子に乗らない」

 

「ういっす」

 

と、もう一つの事も話しておかないとな。

 

「あと、もう一つあってさ」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「こっちもミカドさんには話してるんだが、俺と四季さんが……超能力者になったんだっ……!!」

 

驚愕の表情を浮かべて大げさなリアクションをとる。

 

「……は、い?」

 

俺の言葉に正面の2人は困惑した顔でこちらを見る。そして隣の四季さんは呆れるようにため息を吐く。

 

「とまぁ、冗談として……いや、嘘では無いんだけどな」

 

「えっと、何があったのですか?」

 

「先にネタバレを言うと、俺と四季さんがお互いの考えを読めるようになった……念話?テレパシー的な力を得たんだ。相互にだけで他人には出来ないけど」

 

「あー……えっと……それは……?」

 

「……確かに、超能力と言えばそうかもなぁ」

 

「ちょっと、変な言い方するから2人が困ってるでしょ?」

 

「いや、どう言っても結果は同じだと思うぞ?反応に困るって」

 

「それはそうかも……閣下も最初はそうだった」

 

「あの……今の話だけを聞くに、お二人だけの間で……その、お互いの考えてる事が分かるようになった……という事でしょうか?」

 

「そんな感じ」

 

「昨日の今日で何が起きたのですか……?」

 

困惑気味の2人に昨日神から聞いた内容を話す。

 

「……なるほど、お互いの魂があるから……。そんな現象聞いたこと無いですが……というかそもそも魂が共存してる時点で初耳ですけど」

 

「澤田さんの今考えてることって四季さんに読まれるって認識で良いのか……?」

 

「逆に言えばワタシのも、になるけどね」

 

「その割には普通ですね」

 

「読めるのにも色々と条件があってさ。今はお互いに分からない様にしてる感じ。まだ扱い切れてないし」

 

俺の言葉を聞いて、昨日の事を思い出したのか隣の四季さんが若干赤くなる。

 

「なるほど。確かに慣れるまで振り回されそうです」

 

「2人は俺の事情とか色々と知ってるし、一応話だけは通しておきたかった。何かあった時に相談相手とかも必要だしさ」

 

「分かりました。私としては特に問題はないです。昂晴さんの方は何かありますか?」

 

「いや、俺も栞那と同じで特には」

 

「ありがとう。取りあえず今話したい事はこれ位だな」

 

「それにしても……また厄介な物を手に入れてしまいしたね?今度はナツメさんもですが……」

 

「あー……まぁ、そうだな」

 

「これまでのは変わらず使えるのですか?一応新しく人として生まれたわけですが」

 

「どうだろうな?視る方は変わって無いが……もう一つの方は試してみないと分からん」

 

「私としては無くなっていた方が良いのですが……」

 

「俺もそう思う」

 

そのせいで明月さんには色々と心配かけたしなぁ。

 

申し訳なさと懐かしさで遠い目をしてしまう。

 

「っと、長居しても悪いしそろそろ帰るよ」

 

「そうね。2人も色々とやることがありそうだし」

 

外出する感じの服装だし、そういうことなんだろう。

 

見送られながら部屋を出る。

 

「それで?安心は出来た?」

 

マンションから出た辺りで四季さんが声をかけてくる。

 

「だな。あそこまで行けば後は家族の問題だし、俺が介入するのは無さそうかな」

 

後は父親と対話が出来れば、無事高嶺の心のトゲも無くなるだろう。

 

「この後はどうするの?何か予定とか」

 

「特に考えてはないなぁ……」

 

現状の把握は何となく出来たし……。

 

「どこかぶらりと行くか?」

 

「てきとうだなぁ……それで?どこ行く?」

 

「そうだな……初詣とか?」

 

丁度正月だし、それに……。

 

「無難だけど採用」

 

「それに、前の世界では行く約束してたのに行けなかったしな」

 

「……確かに。言われてみればそうだった」

 

「ということで、エスコートはお任せを」

 

一歩前に出て、優雅そうに振る舞いながら四季さんに手を差し出す。

 

「……ふっ、何それ?カッコつけてるつもりなの?」

 

「四季さんと手を繋ぎながら行きたいと思ったが、正直に言うのが恥ずかしいのでそれを誤魔化す為の道化的な?」

 

「本音を言ったら意味が無いでしょうが……。でも、そこまで言うなら喜んでエスコートされようかな」

 

笑いつつも嬉しそうに俺の手の上に自分のを乗せて握って来る。

 

「んじゃ、行きましょうか」

 

「んー……寒いからそっちのポケットに手入れても良い?」

 

「それもそうだな」

 

確かに手を繋げたのは良いが、普通に空気が冷たい。自分のコートのポケットが大きくて助かる。

 

「まさか澤田君の方から手を繋ぎたいって言って来るなんてね。ちょっと意外」

 

「折角の2人での散歩だしな。自分から言いたかったってのがある」

 

あとは、色々と前の事を思い出して恋しくなった的な感じ。

 

「……デート、とかじゃなくて、散歩?」

 

「そこは、ほら、デートならちゃんと正式にお誘いしたいという気持ちがね?ありますのだよ」

 

「変なこだわり」

 

「恋人になった最初のデートはやっぱりちゃんとしたいので、広い心で見てくれると助かります」

 

「ん、わかった。ワタシもその時を楽しみにしてる」

 

2人で他愛も無い話をしながら目的地に向かう。

 

「そういえば念のため確認なんだが……」

 

「ん?何?」

 

「神社での年末の奉納祭?って無事行われてたとか分かる?後、墨染さんのお父さんが怪我したとか聞いてたりする?」

 

「ううん、特にそう言った話は聞いてなかったけど……?」

 

「それなら良いか」

 

やっぱり個別ルートに入るから起こり得るイベントなんだろうか?

 

「何かあるの?」

 

「起きたら色々と厄介な出来事が神社関係……墨染さん関連であるからさ。一応聞いただけ」

 

「ふーん、墨染さんのパターンだとそう言うのがあるんだ」

 

「そんな感じ」

 

ちょっと気になったんだが、四季さんってノートを見ていたが、明月さんと自分以外の個別ルートの内容ってあまり把握してないのか?

 

まぁ、知りたいのはその2つだし、他のは流し見くらいで詳しくは無いのかもしれないな。

 

「ま、特に起きて無ければ大丈夫そうだし」

 

聞いてる感じだと明月さんルートの世界で進んでる気がするし。

 

そう思いながら歩いてると、目的地の神社が見えて来た。

 

「意外とまだ屋台とかやってるんだな」

 

「今日まで開いてるみたい」

 

「帰りに何か買ってく?」

 

「気になるのがあればね」

 

「了解」

 

言って気づいたが、今の俺1円すら持って無いわ。なのに偉そうに提案してしまった。

 

「……死活問題だな」

 

思わぬ危機に気づき立ち止まる。

 

「え?どうしたの?」

 

「いや、当然の事なんだが……俺、1銭も金を持って無いなって思ってさ」

 

「ん?あー……そう言うことね」

 

「待てよ。ミカドさんから貰ったやつがまだ残ってたな……」

 

「けど、この瞬間は無一文でしょ?」

 

「その通りですね。はい」

 

「大丈夫。この場はワタシが出すから気にしないで?」

 

「……お世話になります」

 

「それより早く進も?」

 

「そだな」

 

再び歩き出し、賽銭箱に着く。

 

「はい。5円……いや、やっぱりこっち」

 

一度5円玉を取り出したが、すぐに引っ込めて10円を渡して来た。

 

「ありがと。5円で大丈夫だったのに」

 

「だって、これ以上の縁は不要でしょ?」

 

口をとがらせるようにしてこちらを見る。

 

「なにそれ、可愛すぎるんですけど?」

 

「いいからっ、さっさとそれを投げ込むっ」

 

「あい」

 

いやもうね、こういったちょくちょく見せる独占欲的な?最高ですね!!

 

賽銭箱にお金を放り投げ、手を合わせる。

 

願い事……神様と言っても此処に居るのはあの赤い蝶だし……本物の神を知ってる手前変な感じだなぁ。

 

取りあえず健康と平凡な日々を送れますようにとお願いしておく。

 

目を開けて隣を見ると、既に終わっていた四季さんが俺を見ていた。

 

「折角だし、おみくじして行こ?」

 

「賛成」

 

道を逸れて、隣の売店に向かう。

 

「はい、100円。自分で好きなの選んで」

 

「あざます」

 

彼女から100円を受け取る構図……シュールだなぁ。

 

100円だけを手に持ちながらおみくじを買いに向かう。三か所に分かれて売られてるが、内容は特に変わらないだろう。

 

てきとうに並んで1つ購入する。

 

元居た場所に戻り周囲を見ると、売り子をしている墨染さんと話してる四季さんが目に入った。

 

なるほど。だから別行動をしたのか。

 

「ごめん、お待たせ」

 

少しして戻って来た四季さんと一緒に中身を開封する。

 

「末吉か……そっちはどうだった?」

 

「こっちは吉。悪くはないかな?」

 

そのまま運勢の方も見ていく。

 

願望は、叶う……と。健康も良し。就職は近くにあり。

 

一番重要な恋愛も楽しいと来てるし大丈夫そうだな。

 

他のも見てると、自分のを確認し終わったのか俺のを覗いて来た。

 

「そっちも変なの無さそうね」

 

「四季さんのも良い感じ?」

 

「そこそこな感じかな……む、縁談が『周囲に良い縁あり』って」

 

俺の運勢の縁談の項目を見て、眉をひそめる。

 

「四季さんのことじゃないのか?」

 

「……そう思っとく」

 

「そっちのも見て良いか?」

 

「はい、どうぞ」

 

紙を受け取って中身を見る。

 

ふむふむ、商談もチャンスありと……。学問も安心して良いと。恋愛も幸福あり。

 

願望は……叶う、と。

 

「確かに良い感じだな」

 

吉なだけはある。

 

「澤田君のは何個か不吉なのもあるけどね」

 

末吉ですしおすし。

 

「待ち人も『来る、つれがある』だって。誰が来るんだろうね?」

 

「出来ればこれ以上厄介事は御免なんだが……」

 

俺のいやいや顔を見て、困った様に笑う。

 

「さっさと縛って運勢上げてもらうかぁ」

 

最後に引いたおみくじを縛り付けて来た道を戻った。

 

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 

神社でおみくじをした後、屋台で美味しそうな物を幾つか買って部屋に戻って来た。

 

「てきとうに広げて貰える?ワタシ飲み物淹れてるから」

 

「ういっす」

 

袋からたこ焼きやら焼きそばやらポテトを取り出して開ける。

 

「匂いが凄いな」

 

後で換気しないと匂いが付きそうだ。

 

「はい、お茶」

 

「さんきゅ」

 

用意も出来たのでお互いに食べ始める。

 

「あつあつでは無いけどそれなりに美味しい」

 

「味が濃いしな。調味料の力は偉大だな」

 

そのまま暫くの間食べ続けて腹を満たす。

 

「ご馳走様」

 

「ふー、満足。お腹一杯」

 

容器を片付けて一息つく。

 

「そえば四季さん、グループで連絡って入れた?」

 

「そういえばまだだった」

 

「グループに何か連絡とか来てたりする?」

 

「んー……特には来てないけど?何かあるの?」

 

「いや、確か今日あたりにお店の事で話が出てた気がしてな。年末出来なかった掃除を明日しないかって」

 

「まだ来てないかな?ワタシからしようか?」

 

「どうだったかな?最初は涼音さんから話があって、掃除しようと言い出したのは四季さんだったはず」

 

「ならもう少し置いておこうかな?」

 

「夜までに無かったら、さっきの話ついでに一報しておこうか」

 

「了解。その、お店の掃除って何か起こるの?」

 

「特にこれと言っては無かったはず。掃除終わったら皆で新年会?開いて鍋を突いてた」

 

「鍋を?」

 

「そそ。高嶺と明月さんが買い出しで鍋ごと買って来てたぞ」

 

「鍋から準備したのか……思い切りがいいなぁ」

 

その後は皆が帰って店で……って、これは言う必要は無いな。うん。

 

「それが終われば晴れてお店再開だな」

 

「そっちからしたら最初の一日がスタートって感じだけどね」

 

「前の世界とやり方が違ってたりするのってあったりする?」

 

「うーん……多分、無いと思う。少なくともワタシの記憶ではほとんど同じのはず」

 

「なら大丈夫か。一週間もあれば慣れるか」

 

「皆には即戦力だから期待して良いって伝えとくから」

 

「上げるな上げるな。変に期待されても困る」

 

「厨房もフロアもこなせる超エリートって」

 

「上げられた状態でのスタートって……中々厄介だろ」

 

「でも、実際可能でしょ?」

 

「出来るか出来ないか言われれば、可能だけどさ。なんか違うじゃん?」

 

「違う?」

 

「そこは、ほら?前情報一切無くて特に期待されてないけど、いざ始まると滅茶苦茶有能で『こいつ、何者っ!?』みたいな目で見られるのが良いじゃん?」

 

「………」

 

『何言ってるんだこいつ』と言わんばかりの表情でこちらを見る。うん、予想通りの反応ですな!

 

「そしたら紹介した四季さんの株も上がる訳よ。その方が周りの好感度とかも上がりやすいし」

 

逆に有能とか言われてたら、なんかミスした時に簡単に評価は下がるしな。いや、店の皆がそんな訳はないけどさ。

 

「その道のプロって煽りに煽りまくるから」

 

「オーマイガーッ」

 

「あと、これは提案なんだけどね?そろそろお互いに名前で、呼び合わない……?」

 

「急な提案だな……?」

 

「付き合ってるんだから、別に……おかしくは無いでしょ?」

 

おかしくは無いな。寧ろ正常である。

 

気になるのは、なんでこのタイミングで?まぁ良いけど。

 

「まぁ……確かに、恋人なのに苗字呼びだったし、切り替えるのもあり寄りのあり」

 

「でしょ?それじゃ、これからはお互い名前で呼び合うってことで」

 

「了解」

 

名前呼びか……今の内に練習しておくのが良いかもな。

 

「……ところで、ナツメはどうして急に名前で呼ぼうと言い出したんだ?」

 

苗字呼びから名前だから多少の恥ずかしさはあるが、満足感の方が割と強い。

 

「えっ、あ、あー……特に、理由とか、無いけど?」

 

すぐに名前で呼ばれたことに驚く。そして誤魔化す様に目を逸らす。

 

「そうか?それなら良いけど、割と急だったから何か理由があったのかなって思ってさ」

 

てか、あるだろうな。このパターンは……。さっきの流れ的にお店が関係してる。

 

「深い意味は無い。無いけど……ただ……」

 

「ただ?」

 

「名前で呼んでたら、大丈夫かなって……考えただけ」

 

大丈夫?何が大丈夫なんだ?

 

「大丈夫、と……」

 

……これは、あれか?周囲に付き合ってるのを周知させるための手段としてか?そんで、そうしていれば俺のお店での立ち位置が確立出来るとか?

 

「なんか、変な気遣いをして貰ったようで……」

 

「違う、ワタシが心配なだけだから……」

 

「俺ならそんぐらい上手くやれると思うが?」

 

「別に信頼してないわけじゃ無いの。ただワタシが不安なだけだから……」

 

不安?お店の人間関係で不安要素ってあったか?

 

「だってさ……お店には可愛くて魅力的な女の子も多いし、さわ……た、達也は皆の事を色々と知ってる感じだし」

 

「……ん?」

 

「それに対してワタシは結構面倒な性格だし……何かを機につい別の子に情が移ってフラフラっと行かれたら……生きて行けない」

 

……ああ、そういうこと。心配ってそっちのか。

 

「無いと思うんだけどなぁ……」

 

「分かってる。頭では分かってるの。でも、もし他の子が困ってたりしたら……絶対助けるでしょ?」

 

「そりゃ、そうだけど」

 

「それが駄目とかでは無いの。達也なら必ず手を差し伸べるってのも、よく理解してるつもり」

 

「だから、名前呼びと……」

 

「それなら少しは不安が減るかなって思って……」

 

頬を赤らめながら上目遣いで恐る恐るこちらを覗く。何この可愛い生き物、据え膳ですか?

 

「……魂レベルで繋がってるからなぁ。ナツメのことが好きだし可能性は皆無だと思うけど?」

 

「うん。そこは信じてる。ちょっと考えただけだから……。高嶺君に色んな可能性があったみたいに、達也にもあったのかなって……」

 

「俺がナツメでは無くて他の子を選んだりする世界が?」

 

「そう。たまたま出会ったのが先だったから……とか。ほら、前の世界で火打谷さんの問題にも関わってたでしょ?」

 

「ああ、あれか」

 

瞳のことだな。

 

「あのまま進んでたらワタシじゃなくて火打谷さんを選んでいたとかあったのかなって」

 

「ほうほう」

 

言いたい事は分かる。もしかすると、有り得た可能性でもある。

 

「ごめん、一度考えたらどんどん膨らんで来て……」

 

「いや、不安になるのは理解できる。知ってるからこそ思いついてしまう考えだもんな」

 

「うん……、だって、好きだから。滅茶苦茶好き。だからその分余計に考える」

 

「……そういう不安な時の解決策を、()()()()が言ってたんだが、聞くか?」

 

「……どうするの?」

 

「相手の喜びそうな事をして、夢中にさせれば良いってさ」

 

「相手の喜ぶ……こと?」

 

「そそ。男なんて単純だぞ?すけべぇなことでもすれば一発だ」

 

爽やかな笑顔で回答する。

 

「………」

 

それを聞いて『この流れで言う事か!?』と口を開けて停止している。

 

「な、なんでここで、それを……?」

 

「極意だからな。ま、一緒に居るだけでも充分に幸せだけどな」

 

「大層に言ってるけど、エロいことをシたいだけなんじゃ……?」

 

「そりゃ、シたいって思うのもあるのはある。だけど……」

 

立ち上がってナツメの後ろに回って抱きしめる。

 

「俺たちと言う限定的な範囲ならこれだけでお互いの気持ちを確かめれるからな」

 

「それは……そうだけど……」

 

「それとも、そっちは嫌か?」

 

「それ、分かってて聞いてるでしょ?」

 

「何を言ってるのかさっぱりだ」

 

「全く……。ワタシも同じ、好きに決まってるでしょ?」

 

安心するような声を出したと思ったら、体から力を抜いて体重を預けて来た。

 

「達也は……何したら喜んでくれる?」

 

「そうだなぁ……キスとか?」

 

「……それ以外で」

 

「まさか断られるとは……ちょっと想定外なんだが」

 

「今キスしたら……色々と止められない気がする。だから……しない」

 

「………」

 

恥ずかしそうにもじもじとしている。これ、誘ってるのか?俺に無理やり唇を奪えと言ってるのか?

 

「ほ、他は……?」

 

「そ、それじゃあ、もう暫くこのままで」

 

「ん。それぐらいなら幾らでも」

 

はぁ、全く。俺じゃなきゃ理性崩壊してたぞ……。ほんとにすけべぇなやつだ。今でも割とギリギリなのに。

 

うーむ、それにしても……めちゃんこ良い匂いだな。これは女子だからか?それとも好きな人だからか?

 

それにすっごく柔らかい。それはもう国宝級ですよ奥さん。世界の宝ですよ。

 

体の数パーセントしか触って無いのに、これほどとは……。これより柔らかい場所があるとか……卑怯だと思いませんかっ!?

 

気を紛らわせる為に頭の中で口論を広げていると、こてん、と頭をこちらに預けて来て顔を上げる。

 

「なーんか、変なこと考えてない……?」

 

訝し気な視線を俺に向けてくる。

 

「変な事とは失礼な。至極真っ当な考えですとも」

 

「ぜーったい、うそ。エッチなこと考えてる」

 

「それのどこが変な事なんだ?当然の思考回路だと思うぞ」

 

「いや、そこまで堂々と開き直られても……」

 

「俺、自分の心に嘘は付きたくないんだ……!!」

 

「それ、ここで言うセリフじゃないからね?」

 

「あるぇ?決めれたと思ったんだが……」

 

「全然決めれてない。カッコよくもなんともないから」

 

「ここだと思ったんだけどなぁ」

 

「もっと相応しい場面があるでしょうが……」

 

「例えば?」

 

「んー……そうだなぁ。好きな人に告白する前とか?」

 

「ああ、確かにある。めっちゃ想像出来た」

 

「でしょ?だから不合格」

 

「もっと精進致します」

 

「ん、よろしい」

 

エロい事も良いが、こうやって何気ない会話も結構好きですとも。下らない雑談でも良し。

 

「今日は流石に帰るか?」

 

「そのつもり。明日お店に行くんだし、支度しておかないとね」

 

「となると、明日は1人寂しく生きて行くか」

 

「何なら一日早く挨拶済ませる?」

 

「いや、流石に初日にするよ。昨日の今日で行くより一日時間空けた方が良さそうだしな」

 

「りょうかい。なら明日はボッチで楽しんでね」

 

「何とかなるだろ、知らんけど」

 

「だからと言ってフラフラと変な所に行かない様に」

 

「変なところて……」

 

「あと、ナンパされても付いて行かないこと」

 

「される可能性の方が圧倒的に低いと思うんだが……」

 

「そんなことない。ワタシだったら声掛けて持ち帰る」

 

「知り合いだからノーカンで」

 

「何かあったら連絡するようにね?」

 

「その時は頼らせてもらいますとも」

 

若干の嫉妬や不安が混ざりつつも心配してる恋人の頭を撫でながら、うんうんと頷いておいた。

 

 





余談ですが、主人公のコートを選び、買ったのはナツメであり、ポケットの中に手を入れたいと提案したのも彼女である。つまり、予定調和です。

とある人……。きっと、好きな人が喜びそうなことですけべぇな事を実施した人に違いない……っ!

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