うーん、最終話?では無いけど、雰囲気がエンディングに入りそうな……。
働き始めての最初の定休日。
この日、俺は1人で外を出歩いていた。目的地はとある病院。
と言っても近場の病院など1つしかない。美和総合病院だ。
「うーむ、ちゃんと骨折して入院してると良いんだが……」
自分の発言に苦笑いをしながら入口から受付へ向かう。
「すみません、今大丈夫ですか?」
「はい、どうされましたか?」
「こちらに染井志律華さんって方は入院されてるでしょうか?足を怪我したと聞いて……」
「分かりました、確認するので少々お待ちください」
うむ、問題無く対応してもらえたな。
最初の関門は越えれたことに安堵していると、後ろから声を掛けられる。
「今、アタシの名前が聞こえたと思うんだけど……お兄さん、アタシに何か用?」
女性の声が聞こえ振り返る。そこには、松葉杖で体を支えながらも立ってる女性が居た。
「……染井さん?」
「そうだけど、どっかで会ったっけ?」
「あー……ちょっと知り合いの知り合い的な感じで……話したい事があるのだけど、今って大丈夫です?」
「んーなんだろ?まぁそう言う事なら分かった。病室まで来て貰っても良いかな?」
「全然大丈夫です」
受付の人に一言伝えてから彼女の病室まで向かう。
「よっと……それで、おにいさんは?」
病室のベットに腰を掛けたので話を始める。
「突然の訪問で申し訳ない。名前は澤田達也って言います」
「澤田さん?んー……ごめんね、やっぱり聞き覚えが無いなぁ。どこで知り合ったっけ?」
「あー……いえ、多分初対面ですよ」
「え?初対面……?」
「今から順を追って説明させていただきますとも」
「う、うん」
「えっと、まず……染井さんって、四季ナツメって女の子の名前を憶えてる?」
「えっ、ナツメちゃん?うん、知ってるよ。と言っても小さい頃の話だけどね」
「良かった。その彼女の知り合いなんだ」
「へぇー、ナツメちゃんの……。もしかして、彼氏さん?」
「……世間一般で言えばそうなりますね」
「へー!ナツメちゃん彼氏居るんだっ!いいなー!」
「その話はまた後でとして、本題に入っても……?」
「あ、うん。なんだっけ?」
「幼い頃の、夢の話なんだが……」
最初の協力者確保する為に、作戦を開始した。
これで、上手く進めることで出来ればしっかりと報告はしておかないとな。
蔑んだ目で見てもらう為に秘密ってのも悪くは無いが、今のナツメなら変に尻込みすることもないだろう。
「それじゃあ、そんな感じでお願い」
「分かりました。宏人の方にもそう伝えておきます」
高嶺の部屋で例の件を進める。隣に明月さんが居るけど……まぁ気にしない。
「協力してもらえるか分からないけど、もし駄目そうならまた連絡してくれ」
「協力してくれると思いますよ?なんせ、上手く行けば彼女が出来るかもしれないって言われれば喜んで協力するはずです」
「一応、相手の染井さんにも同じ餌を出してるから行けると思う」
「餌って……。まぁ、成功したら後は宏人にお願いして進捗だけ連絡しますよ」
「協力してもらってありがとな」
「このくらいお安い御用です」
「今度はどんなことをする気ですか?」
一通りの話が終わると、明月さんが問いかけてくる。
「まるで俺がいつも悪い事をするみたいな言い方だなぁ……」
「ご自身の胸に手を当てて聞いてみてください」
「残念、この世界の俺は人間としてまだ生後1か月未満だからなっ!悪事は働いて無いぞ」
「なんともまぁ、屁理屈を……」
「俺はただナツメの笑顔を見たいってのと過去の清算をしたいってだけだからな」
「それで、昔のご友人を……?」
「ああ、あの頃一緒に夢を描いた時の仲間と再会する……これが中々大事なことでさ」
あと1つ両親とのもあるが、それはまた後で考えよう。
「澤田さん……」
「それと、ナツメの夢を実現させる為にお店関連で色々と協力してもらう事があるから、その時はよろしくお願いします」
「ナツメさんの夢、ですか?」
「そう、夢。小さい頃に描いた夢を……な」
あれをしない事には本当の意味で夢を叶えたとは言えないだろう。
「何をするか分かりませんが、こちらとしてはいつも通り協力は惜しみませんので、何時でも言って下さい」
「俺の方も遠慮せず言って下さい」
「2人ともありがとう。と言ってもそんなに気負いしなくても良いからな?」
「いえ、澤田さんには前の世界で助けて頂いているのですから。ね?昂晴さん?」
「ああ、栞那を救って貰った恩があります」
「あー……あれかぁ。結局この世界ではナツメが全部こなしたし、無駄になった感があるんだよなぁ……」
それに、元を辿れば俺が原因と言うね。
「ですが、そのナツメさんがここまでしたのは澤田さんの記憶があったからですよ?」
「うん、まぁ、そういう見方も出来るが……うーん」
個人的にはやはり罪悪感は否めない。
まぁ、今の2人は既に父親との話も決着済みだからこそ、こうやってナツメの事を相談しに来ているわけだが……。
「澤田さん」
「ん?」
「安心してください。私も昂晴さんも間違いなく幸せです。幸せにして貰ってますし、これから更に幸せになります」
微笑むような笑顔で、優しく語り掛けてくる。
「ですので、これからはご自身の幸せの為に生きて下さい。愛する人と……ナツメさんと過ごす日々の為に」
「……ああ、分かってるよ。四季ナツメを愛し、愛される者としてこの世界で生きて行くつもりだ。心配しなくても大丈夫」
「……そうですね。今のご様子を見れば杞憂でしたね、にひひ」
いつかの病院の前ので言われた言葉を思い出した。この世界に来た理由とか、もはやどうでも良い。
「だろ?好きな人と好きに生きてくよ」
「なら安心ですね。あ、だからと言って怪しいことをするのは程々にして下さいよ?」
「相変わらず信用度が低いなぁ……」
「それについては過去の自分を恨んで下さい」
「ふむ、四季ナツメの夢を叶える為にか……」
「ああ、だから協力してほしい」
「わかった。そういう事ならば、是非もない」
「一応計画は俺の方である程度固めてはいるから、問題は無いと思う」
「後は本人次第と?」
「今日辺りにでも話すつもりだ」
「なら、本人の了承をもらってからまた来ると良い」
「動き始めるのはもっと後になるとは思うけど、先に話だけでもしておきたくてさ」
「確かに準備期間があるのならこちらとしてもありがたい」
「助かる」
「魂が安定してるとは言え、いい方向に持って行くのだろう?」
「だな。他にもするのはあるけど、そっちの方も同時進行中だ」
「他に協力することはあるか?」
「大丈夫かな?ミカドさんにはさっきのお店関係で色々としてもらう感じになりそう」
「そうか。なら心配は要らなさそうだな」
「そうだ、またその内お高い缶詰とか買ってこようか?お礼としてさ」
「前の世界では栞那に没収されたからな……」
「今度はまた別のを買ってくるから楽しみにしておいてくれ」
「ほう、ならば楽しみに待っていよう」
なるべく健康的なのを選ぶのと……数も少なめなら大丈夫だよな?
また明月さんに怒られない様に注意点を考えながら苦笑いをする。
「1つ、聞いても良いか?」
「ん?どした?」
「澤田達也。貴様今、幸せか?」
「ははっ、当然。毎日が幸せに決まってる」
「そうか。それと結局、貴様の奇跡については謎のままだったな」
……そこでその話題を出しますか?いやまぁ、ミカドさんからして見ればずっと疑問だったかもしれないけどさぁ。
「それについては……今後とも企業秘密ってことで何卒」
「ふん、相変わらずの返事だな。まぁよい、貴様が幸せならばな」
「なんか……申し訳ない」
いやほんと。
「それで?今日は1人で何処行ってたの?」
目的を終え、スマホでメッセージを送ってからナツメの部屋にやってきた。
「色々と?あちこちと巡ってた感じ」
「ふーん、例えば?」
2人で座椅子に座りながら、肩に頭を乗せつつ俺を見上げる。
「まずは美和総合病院だろ?それから高嶺の部屋と、後はミカドさんの所にだな……」
「んんー?全く接点が思い浮かばないんだけど……?」
「一つ一つ説明しよう。まず病院でなんだが……」
「うん」
「女性と会って来た」
「………、は?」
さっきまでの少し甘えるような声とは裏腹に、激辛な声が出る。
「ちょっと待って。え?女の人と?病院で?なにそれ?」
体を起こして俺を見る。
いやー、良い反応してくださいますね。でもこのままだと不穏な展開になりそうなので先に進めないと。
「ストップ、最後まで聞いてくれ。ちゃんと事情がある」
「……わかった。聞くだけ聞いてあげる」
「ナツメは、染井志律華って女の子覚えてるか?」
「えっ!?」
俺の言葉に驚く。
「ほら、小さい頃に入院してた子」
「う、うん……覚えてるけど?どうしてその名前が?」
「話せば長くなるんだが……」
取りあえず、今日の出来事と夢の事について説明をする。
「ワタシの為に……?」
「そそ、お店を開けたのも夢の一つと言えるけど、まだ達成出来てない夢があるからさ」
「その為に、今日あちこち行ってたの……?」
「黙って動いた事については謝る。染井さんが本当に居るのかすら判明してなかったから、下手に言うのもと思ってさ」
「あ、ううん。そこについては特に怒ったりはしてないから」
「なら良かった。それで、改めて提案なんだが……」
未だに少し内容が飲み込めていないナツメに向かって言う。
「もう一度、あの絵の夢を実現させてみないか?」
「ワタシの、夢を……」
「ああ。一応色々と考えては居るんだ。後はナツメと相談して決めたい」
「う、うん。それは嬉しいけど……どうしてそれを?」
「言っただろ?手伝うって。それに、ナツメの笑顔が見たいからな」
「……うん」
「どう?あとは本人の了承次第だけど」
「……正直、ワタシ自身半分くらい諦めてた。それに、今でも充分に幸せなのにこれ以上高望みしちゃいけないって考えも……ちょっとある」
「残念だけど、俺は最初から諦めてないぞ?」
「『ワタシが諦めても~』……だっけ?」
「そうそれ」
あの時は勢いのまま言った台詞だったが……。
「ふふっ、そうだった……。それならワタシも負ける訳にはいかない……かも」
目を閉じて思い出す様に笑い、目を開けて俺を見る。
「ワタシの、ちっぽけな……小さな夢だけど、手伝ってくれる?」
あの夜と同じ様な台詞だけど、目の前にいるナツメの顔はあの時とは違って明るく、希望に満ちてる。
「喜んで。それで
お互いに目を合わせてあの夜の言葉を繰り返す。
「……ふ、ふふ、変なの」
「笑うなって、そこそこ恥ずかしいんだぞ」
「ごめんごめん、なんか面白くって」
楽しそうに笑う。
「それじゃ、どっちが先に諦めるか勝負ね」
そう言って手を差し出す。
「………」
「ん?どうしたの?」
「……いや、デジャヴというか、軽くトラウマシーンなので」
無いと分かってるが、手を握ろうとした時にーーーとか考えてしまった。
「それもそっか……、それじゃあーーー」
ずいっ、っと顔を近づけてくる。
「今度は、こっちで……ね?」
手を握るのでは無くて、誓いのキス的な感じだろう。
「……それはナイス提案」
「でしょ?」
目の前のナツメの頬に手を添える。
「ナツメ、愛してるよ……」
「ワタシも愛してる。色々面倒な事とか言うかもしれないけど……今後ともよろしくね」
「そこも含めて好きな所だからな。それで笑ってくれるなら全部良し」
「もう……ばか」
恥ずかしそうに微笑んだナツメが、目を閉じる。
「誉め言葉だな」
それに合わせて、俺も目を閉じた。
もう、ここらでエンディングを挟んでも良いのでは……?
とまぁ、この後に1話書いてから後日談とかおまけ話をしていきますとも。