喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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今回は、皆でカラオケ回です。

時系列的には、前回最後の森の話から少し前です。




閑話: 謡われる黒歴史は……

 

 

「ほれほれ、今日の主役は誕生日席に座りな」

 

「ありがとうございます」

 

「2人は私と一緒に奥の席に座って座って」

 

「はーい」

 

「了解でーす」

 

「では私達は反対側に座りましょうか」

 

「そうだな」

 

長方形席の一番奥に座り、左側に涼音さん、墨染さん、火打谷さん。右側にナツメ、明月さん、高嶺。

 

そして、正面にはテレビのモニター。

 

その下にはマイクが2本とデンモクが2つ。

 

「では!早速曲を入れて行きましょーっ」

 

火打谷さんがマイクをデンモクを取ってテーブルに置く。

 

そう、俺達は本日……カラオケに来ていた。

 

 

 

 

 

「俺の歓迎会で……カラオケ?」

 

仕事を終えてナツメと一緒に帰っていると、とある提案をされる。

 

「そ、今日火打谷さんと明月さんが話しててね。明月さんがカラオケに行った事が無いから火打谷さんから一緒に行こうって話が出たの」

 

「なるほど、それで良いタイミングだから俺のやつと一緒にやると……」

 

「前に話してたでしょ?交流を深めたいって」

 

「だな、それでみんなでカラオケか」

 

「正確な日付はまだ決めてないけど、多分次の定休日とかになると思う」

 

「まぁ、俺としてはありがたい事だし賛成ってことで」

 

「そう言うと思って、オッケーって返事してる」

 

「お仕事が早いことで……」

 

隣で歩いているナツメが少し得意げな表情でこちらを見る。

 

「一応涼音さんにも軽く言ったけど大丈夫そうだったし、問題は無いと思う」

 

「俺から何かすることは?」

 

「無いから気にしないで。達也の歓迎会なんだから」

 

「それもそうだな。なら俺は楽しみに待っておくよ」

 

「そうしておいて」

 

 

 

 

とまぁ、それから次の店の定休日に皆でカラオケに来たと言うわけだ。そしてその後はどこかの店でご飯を食べるとか何とか……。

 

「~~~♪」

 

ここまでの経緯を思い返している内にトップバッターの火打谷さんの曲が終わる。

 

彼女らしい元気一杯な曲であった。

 

「あ、これ追加で頼んで貰って良い?後、おつまみでポテトとかお願い」

 

左隣の涼音さんは昼間だがアルコールに手を出していた。……らしいと言えばらしいが。

 

どうでも良いが、晩酌と言う言葉は聞くが昼からはなんて言うんだろうか?昼酌?それなら朝酌と言う言葉もあるのだろうか?

 

そんな事を考えながら目の前のドリンクを飲む。

 

「達也は何か歌わないの?」

 

「入れないといけないよな?」

 

「そりゃね。皆少なくとも一曲は歌うって言ってたでしょ?」

 

折角来たのだ。何も歌わないのは勿体ないし他の皆が気を遣うかもしれない。

 

「はい、デンモク」

 

「サンキュ」

 

ナツメから渡され取りあえず予約待ちを確認する。

 

「………」

 

三曲は既に予約が入っている。多分、墨染さんと高嶺とナツメ辺りか?明月さんは今もデンモクの操作を高嶺に教わりながら四苦八苦している。

 

……ゲームやアニメの曲は控えるとして、ボカロの曲とかも……止めとくか。ここはメジャーな奴で手を打っておこう。

 

よくある話らしいが、会社や学校のメンバーで行った時に、引かれないために無難な曲を選ぶと言っていたが……まさか自分がそうなるとは。

 

「何歌う気?」

 

デンモクを見ながら考えていると、隣からナツメが覗き込んで来る。

 

「……考え中」

 

「……なるほど、無難な曲を」

 

そうなりますね。

 

取りあえず、紅白などでも流れた事がある曲を検索する。

 

「ん?無いのか?」

 

検索をかけたがヒットせず。

 

「文字は間違って無いな」

 

歌手で調べる……が、それでもヒットせず。

 

「まじか、珍しいな」

 

仕方なく他の曲で検索をする。

 

「……これも無しか」

 

しかし、同じくヒットせず。

 

「んな事があるのか?」

 

試しに他の曲と歌手などを検討してみるが、全て無し。同じ名前の曲名はあったが違った。

 

「……もしかして」

 

嫌な予感がする。

 

「いや、まだ可能性は……」

 

アニメやゲームなどの曲を調べるが、それらも無し。

 

「しかも、ボカロがそもそも存在してない……」

 

驚くことに、ボーカロイドと言うジャンルが無い。

 

「つまりは……」

 

別世界なので、前の世界の曲などは一切あてにならないと……?

 

「おいおい、詰んだわこれ」

 

どうする?

 

一瞬迷った結果、一先ずナツメに相談する。

 

『緊急事態だ』

 

口には出さず、脳内で話しかける。

 

『なに?どうしたの?』

 

『この世界に……俺の知っている曲が無い』

 

『……本気?』

 

少し驚いた表情でこちらを見る。

 

『ああ、幾つか調べてみたけど一つも見当たらなかった』

 

『それは、ちょっと考えてなかった……』

 

『俺も予想外』

 

似た世界だし、知ってるのあると勝手に思い込んでいた。

 

『どうするつもり?』

 

『どうしたものか……』

 

歌わないって選択肢は無いし、今から覚えるのは……少し現実的では無いな。

 

『明月さんと高嶺君は事情が分かるから納得してくれるけど……』

 

『他の3人が、なぁ……』

 

こんだけ生きて来て歌える曲が1つも無いってのは普通有り得ない。歌いたくない言い訳として受け取られるだろう。だが、それを言ってしまうとなんでカラオケでオッケーしたのかと思われる。

 

そうなると気分が下がってしまう……!それだけは避けねばならない。

 

『どうにか切り抜けないといけないな……』

 

『ほんとに一曲も無いの?』

 

『もしかしたらまだあるかもしれないし、もう少し探してみる』

 

『時間が必要なら言って?2人にも協力してもらうから』

 

『頼む』

 

……さてさてと、どうしたものか。

 

「達也ー?さっきから見たままで入れてないようだけどー?」

 

デンモクとを睨みながら考えていると、涼音さんが声を掛けてくる。

 

「ちょーっと、良い感じのが見当たらなくて……。涼音さんは何か歌わないのですか?」

 

「私はもう少し酔って来たら歌う事にしてる。素面じゃ歌えたもんじゃないからね」

 

……恥ずかしいから酒の酔いで誤魔化す作戦か?

 

「なるほどです、ならまだ先になりそうですね」

 

「そう言う事。だからあんたが先でお願い」

 

「頑張ります」

 

涼音さんによる時間稼ぎは失敗と……。

 

うーむ、何か無いか……。

 

いや、待てよ。

 

一つ思い付き、検索をする。

 

「おっ、あった」

 

これが無いなら諦めていたが、案の定存在していた。

 

『見つかった?』

 

『ああ、流石にこれは無いとおかしいからな』

 

『へー、なんて曲?』

 

『誰でも知ってる名曲だ』

 

『名曲?』

 

『日本国歌だ』

 

『あー……まぁ……確かに、誰でも知ってる曲ではあるけど……』

 

『見た感じちゃんと俺がいた世界と同じ歌詞だし、問題無さそうだ』

 

『ほんと?歌詞だけ一緒で全然違うとかあったりしない?』

 

『念のため確認しておくか』

 

脳内で俺の知ってる国歌を流す。

 

『どう?』

 

『大丈夫、一緒』

 

『なら安心だな』

 

これなら歌える。それに、ネタとしても割と悪くない。カラオケで国歌とかボケ狙いが大半だしな。

 

歌う曲も決まったので一安心する。

 

カラオケの方に意識を戻すと、高嶺の曲が丁度終わった辺りだった。

 

「あ、次ワタシのか」

 

……ナツメの歌か。キャラソンの『Sweetest Bitterness』なら知ってるが……あとは別ゲーのキャラソン、ってこれは違うか。

 

ナツメの歌声を聞きながらふと気になった事をデンモクで調べる。

 

「なるほどなぁ……」

 

見事に検索にヒットする。

 

どうやら、ゆずソフトの曲なら存在するらしい。

 

「一応、理にかなっている……で良いのか?」

 

その世界なんだし、あってもおかしくは……無いよな?

 

俺が居た世界ではカラオケに無かった曲たちが並んでいる。しかもOPやEDだけではなくキャラソンまで完備だ。

 

……後でこっそり一人で歌いに来よう。

 

意外な事実を知り、満足感を得ながらデンモクを戻す。

 

いや待てよ、1人も良いがナツメと来てご本人にキャラソンを歌って貰うのかとどうだ?生歌だぞ?

 

……今日の俺は天才かもしれないな。問題はナツメに曲を覚えてもらう事になってしまうが……。

 

恋人の歌声を聞きながらそんな事を考える。

 

ナツメの曲が終わり、いよいよ俺の番が来た。

 

『熱唱を期待してるから』

 

面白い物でも見るかのような視線を投げられながらも席を立ち、モニター前に立つ。一応今日開いて貰ったことに対して一言位言っておかないとな。

 

曲を一時停止で止め、マイクを持つ。

 

「えー、本日は私の歓迎会を開いて頂きありがとうございます」

 

「よっ!天皇陛下!」

 

俺が歌う曲を見てか、火打谷さんが声を上げる。

 

「堅苦しいぞー!早く歌えーーっ」

 

若干出来上がった涼音さんから催促が飛んでくる。

 

「では、私も一曲歌うという事で……聞いて下さい。日本国歌で『君が代』」

 

取りあえず、恥ずかしがらずに堂々と歌う。ネタに振っていると思って貰う為に極力身振りも含めて1分ちょっとの国家を歌い切る。

 

今まで生きてきたが、君が代の歌詞を初めてちゃんと見たかもしれない……。

 

「ご清聴、ありがとうございました」

 

歌い終わり、優雅に一礼を決める。

 

「歌うのが短いぞー!もっと歌えー!」

 

「アンコールをおねがいしまーすっ」

 

揶揄うように声を上げる涼音さんと、それに乗っかって火打谷さんが他を要求してくる。隣の墨染さんもそれなりに楽しそうにこっちを見ている。

 

「アンコールか……参ったな」

 

と言っても、他知らないんだよ……。

 

「いや、ほら、次が控えてるし……」

 

まだ歌っていない明月さんを見る。

 

「こちらはまだ決まっていないので、時間は大丈夫ですよ?にひひ」

 

いや、そこは助けてくれよ。

 

隣の高嶺を見ると、少し困った様に首を振る。

 

唯一の味方のナツメへ視線を向けるが、愉快な見世物を見るような笑みを向けてくるだけだった。

 

……唯一の味方だと思ってた人が、一番楽しんでるパターンだわこれ。

 

と言っても歌えるものは無いので諦めて終了しようとした時、視界の端に映った高嶺を見て手が止まる。

 

……いや、まて。まだ歌える曲はあったな。

 

置こうとしたマイクを再び戻す。

 

「2人からの熱いアンコールに応えて、1曲だけ歌おうかと思います」

 

「いけいけーー!」

 

「流石っ!国歌を歌うだけはありますね!」

 

「ですが、この曲はカラオケに無かったので、アカペラと言いますか……ただただ私が歌うだけになってしまいますが、ご了承ください」

 

頭の中の記憶を掘り起こしながら次の曲を思い出す。

 

チラッとナツメを見ると、『何をする気?』と言いたそうな目をしていたので笑って返す。

 

「それでは聞いて下さい。作詞作曲は不明で……『Stay with you』」

 

「星空を見上げると思い出すよ~、君のこと~♪」

 

「ぶぶっ!!??」

 

その瞬間、飲み物に口を付けていた高嶺が盛大に吹いた。

 

「きゃあっ!?」

 

当然、隣の明月さんが驚き、墨染さんも驚いた表情で俺を見る。

 

「さささ、澤田さんっ!?」

 

驚愕の表情で立ち上がる高嶺。

 

「それまで考えたことなかった。未来が見えなくて~、俯き続けるだけの毎日~♪」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

俺のソロライブは、観客の発狂により中止となり、その次の『I belong to you』の方をお披露目することは無かった。

 

ま、続きの歌詞を知らないんだけどね。

 

 





おまけ回でした。

その後、夕食の席で高嶺に問い詰められる男が居たとか居なかったとか……。



あと、ゆずソフトの曲がカラオケに欲しいと切に願う。

DRACU-RIOT!の『Scarlet』とか歌いたい。
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