日本において、海軍とカレーは切っても切り離せない深い関係を持つが、どうやらそれは、
どーも、はじめまして。いつのまにか身一つで海に投げ出されて運良く大きな帆船──帆に「MARINE」と書かれているので軍艦でしょう──に助けてもらえたと思ったら、なぜかONE PIECEの世界に漂流してました、僕です。どでかく背中に「正義」を背負った兵士さんたちを目の当たりにし、グランドラインやカームベルトという単語を聞いた結果の判断です。例のごとく、頬をつねっても目が覚めなかったので現実です。信じがたいことですが、受け入れねばなりますまい。
ちなみに先刻、名前やら出身地やら、遭難するまでの経緯を矢継ぎ早に質問された挙句、頭のイっちゃったかわいそうな人と言われました。涙目。僕は大真面目に答えただけなのに。
とりあえずメシでも食って落ち着けと、今は監視役の海兵さんと食堂に来てカレーを食しています。
そして冒頭に戻ります。
曜日感覚を忘れないように、毎週金曜日の昼食のメニューはカレーで固定だそうです。やっぱ海自じゃん! さすが
「僕の出身地でも、海軍と似たような官営組織が同じことやってますね」
「軍ってのは効率が第一だからなァ。同じ考えに行き着くのは道理かもしれん」
神妙な面持ちでゆっくりとカレーを口に運ぶ監視役さんが、フムフムとうなずきます。彼が気さくな人でよかった。僕を頭のおかしいヤツとは思っていても、普通に会話してくれてるのは素直にありがたいです。おかげで、なんとか孤独で発狂せずには済みそうです。まあ本当は、無事に日本に帰れるのか心配で、内心では泣きたくて仕方がないんですが、そこはそれ。不安はいったん頭の隅に置いといて、カレーに集中することにします。
一口含めば、スパイスの効いた辛めのルーが舌に乗り、海水で冷えた体を芯から温めてくれるのです。そこに野菜の甘味が染み込んでいて、まさに辛さと甘さが見事に調和した奇跡の一品と言えましょう。これを兵食に採用した海軍の偉い人は、きっと天才だったに違いありません。もしも日本に帰れたら、横須賀か呉へ観光に行こうと思いました。……本当に帰れたらですけどね。
「なあ、海軍みたいな官営組織って、それもう海軍じゃねェの」
「うちの国は戦力の不保持を掲げてるとかなんとかで、軍じゃダメっぽいんですよ。あくまで自衛目的の組織ですって」
「ふーん、いろいろと面倒くさい国だなァ、おまえさんの
「そうなるまでに、いろいろと面倒くさいことがあったんですよ、たぶん」
「なるほどな」
監視役さんは、また慎重な手つきでルーと米をすくい上げました。いっそ神経質だと言い換えたいくらいの慎重ぶりです。周囲をぐるりと見渡すと、みんな監視役さんのように、おそるおそるカレーを食べています。
「そういや、さっきから気になってるんですけど。なんか皆さん、カレー食うだけにやたらと気張ってません?」
それ聞いちゃうの、とでも言わんばかりに眉をひそめた監視役さんに、ちょっと身が縮んだ僕です。
「ほら、あそこ」
監視役さんが顎で指した先には、食べかけのカレーを前にうなだれる海兵さんと、慰めるように彼の肩に手を置くもう一人の海兵さんがいました。何やら話し込んでいるようなので、カレーを食べる手を止めて耳を澄まします。
「ご苦労さまなこった」
「だからカレーは嫌いなんだ、手洗いじゃシミが取れねェ!」
「あきらめてクリーニングに出すんだな。今度から、食べ方には気ィ遣えよ」
「クソ〜、ただでさえ給料低いのに……」
あっ(察し)。
「『金曜日の茶色い悪夢』だ。海兵の嫌いなものランキングじゃ、必ず上位に入る」
監視役さんがヤレヤレといった表情で鼻を鳴らしました。実感のこもった様子から、彼も白い制服の上にカレーをこぼしたことがあるのでしょう。僕はというと、急にカレーを食べるのが怖くなって、スプーンを持つ手が震えています。なぜって、ずぶ濡れになった私服の代わりに、予備の制服をお借りして着ているからです。シミをこさえてしまっても、一文無しの僕じゃクリーニング代なんて払えません。
「カレーって、こんなに恐ろしい食べ物でしたっけ」
「ああ、おまえさんが今まで気づかなかっただけでな」
「気づきたくなかったですね……」
「おれも新兵の頃はそう思ったよ……」
ため息がスプーンにのしかかり、カランと音を立ててカレー皿に沈みました。