向日葵に黒羽を添えて。   作:クロ

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1話

 「どうしてこうなった……」

 恐らく使いまわされているのに、何故か新鮮味を感じるこれからの相棒に突っ伏しながら俺は唸る。

 「だから言ったじゃないですか。小町達は運命の糸で繋がっていると!」

 「そこまでは言ってなかっただろ……」

 「実際こうなったんだからそういうことなんですよ」

 そんな俺を横目に胸を張る彼女に、ジト目と反論をお見舞いするがドヤ顔を返された。

 まあ、事の顛末は至極簡単だ。

 彼女と俺は同じクラスになった。ただそれだけのことだ。

 クラス表を見た時は愕然としたね。一瞬彼女の言う運命とやらをあやうく信じてしまうところだったよ。

 「というわけで、これからよろしくお願いしますね!……えっと。今更ですけど、お名前きいてませんでしたね」

 「そうだったな……」

 たしかにそうだ。こうして教室まで一緒にやって来たはいいが、思えばお互いの名前すら知らない。いや、さっきから彼女は自分のことを小町と呼んでいた為、俺の方は一方的に知ってはいたのだが、それが苗字なのか名前なのかはわからない。

 「小町は比企谷小町っていいます!歴史の授業では大活躍ですよ!」

 「それは誇る事なのか……?」

 むしろいじられそうだが……。学生ってそういうイジリ定番だし。

 「小町は小町の名前好きなので」

 「そうか」

 そういう彼女の表情からは1つの憂いも感じられない。そんなところは、まあすげぇなとは思う。

 「それで?あなたのお名前は?」

 「一色くろは」

 同じクラスだし隠す必要もないし素直に答える。

 「どういう漢字を書くんですか?」

 「苗字の方は漢数字の1に色彩とかの色。名前は普通にひらがな」

 「ほぇー……」

 彼女……いや、比企谷は珍しそうにそんな声を出す。

 まあ、自分でも珍しい名前だとは思う。

 くろはと読む名前は探せばいるだろう。それでも少ないだろうが。

 しかし、俺はそれに加えてひらがなだ。女性にはたまにひらがなの名前の人がいるが、男性の名前で使っているのは珍しい。

 実際、珍しそうな反応をされることがほとんどだし。よくいじられもする。慣れたものだ。

 「珍しい名前ですね!」

 「よく言われるよ」

 でも、俺はこの名前を意外と気に入っている。

 似た名前を持つ姉と比較されることもある。でも、嫌いじゃない。

 まあ、残念なことにあまり理解はされないが……。そう、きっとこいつも……。

 「素敵な名前です!」

 「は……?」

 「最近、お兄ちゃんの影響で小説を読んでるんですけど、そこに出てくる人の名前みたいでかっこいいなって!まあ、内容は相変わらずあまりよくわからないですけど……なんか、ちょっとエッチだし」

 思わず声を失ってしまった。

 こいつ純粋に言っているんだとわかってしまったからだ。

 てか、その小説って絶対ラノベだろ。最後の一言の言い方でそう確信したよ!

 「それに、さっきよく言われるって言ってた時の顔、気恥ずかしそうにしてたけど、優しい顔してたので」

 「そんな顔してたか」

 「はい!だから自分の名前好きなんだろうなって小町は思ったのです!」

 少しだけ比企谷の印象を改めなければならないかもしれない。

 こいつ、周りをすごく見てる。人の機微に敏感だ。なるほど。

 比企谷は相当面倒くさい人間を相手にしてきたらしい。いやまあ、憶測だけどさ。

 「だから、素敵だなって!」

 「そうか」

 比企谷小町への好感度が1上がった。マックスは1億な。

 「比企谷」

 「はい?」

 「敬語じゃなくていいぞ」

 「……わかった!くろは君!」

 「そこまでは許してねぇ」

 「たはー!手厳しいな!めんどくさい!」

 比企谷小町への好感度が2下がった。

 

 

 「比企谷さん!」

 「あれ?大志君だー!大志君もこのクラスだったんだね!」

 教室内も未だ名前も知らないクラスメイトで賑わいはじめた頃、俺たちの元へ1人の男子が現れた。

 「知り合いか?」

 「あ、うん。同じ中学校だったんだ!名前は川崎大志君。大志君、こっちがさっき知り合った一色くろは君」

 俺の疑問に答えた比企谷はお互いの紹介をしてくれる。

 「あ、ども。川崎大志っす」

 「一色だ。まあ、よろしく」

 淡白な挨拶だ。しょうがない。彼は比企谷しか見えていないようだし。やはり比企谷はおモテになるようだ。

 とはいえ、当の本人は全く意識していないみたいだがな。それはもう、川崎君とやらが可哀想になるぐらいには。

 「まあ、頑張れ」

 「?なんで俺応援されたの?」

 「さあね」

 俺の突然の激励に困惑する川崎が比企谷に問いかけるも反応はかなりドライだ。

 なんというか、比企谷小町という人間の本質が少しだけ垣間見えた気がする。一定のラインまでは歩み寄るが、そこから先へ踏み込ませない。そんな空気を感じた。

 川崎がそれにあまり気付けていないのが尚不憫だ。

 強く生きてくれ川崎。

 俺は応援してるぞ。

 「あれ?そういえば一色って……?」

 と、川崎が何かに気付こうとしていたが、まあ自分から言うことでもないだろう。

 どうせこのあとわかるのだから。

 

 

 それから間もなくして、我がクラスの担任が現れたことで教室内の喧騒は終わりを迎えた。

 軽いホームルームの後、本日のメインイベントへと向かう。

 これまで数回経験しているし今更緊張などしないが、会場の人々の視線は少しばかり気恥ずかしいものだ。

 そんなお披露目が終わった後は、お偉いさん方の大変有り難いお話の時間である。何度も瞳が閉じかけるが、なんとか耐えるとようやくだ。

 「続きまして、生徒会長挨拶」

 司会がそう告げると、いつもとは少し違った雰囲気を纏い、凛とした姿で亜麻色の髪を靡かせる少女が壇上へと登る。

 「新入生のみなさん。ご入学おめでとうございます。生徒会長の一色いろはです」

 その姿を見た新入生男子諸君はざわざわと色めき立ち、比企谷と川崎が納得したような、少しだけ驚きの顔を浮かべこちらを見る。

 そう。今現在壇上で歓迎の言葉を述べている彼女こそ、我が総武高校の生徒会長であり、正真正銘俺の姉……。

 

 一色いろはである。

 

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