雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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USJ編〜絶望〜

――暴風・大雨ゾーン――

 

 視界が黒く染まると謎の浮遊感が襲い、直後に地面に落とされる。その痛みに思わず顔をしかめていると黒いモヤが霧散していき、その身を強風と大雨が叩きつけてきた。

 どうやらUSJ内の施設の一部に飛ばされたらしい。さらに海兎が周囲を確認しているとヴィランと思われる集団に囲まれていることに気付く。

 

「お!やっと来たな!待ちくたびれたぜ」

 

「おいおい!結構可愛い顔してんじゃねえか!なあ、嬢ちゃん。俺たちと遊ばねえか?」

 

「単純な異形型か?雄英つっても所詮子供か。楽な仕事だぜ」

 

 私の方を見てニヤニヤと笑みを浮かべながら口々に好き勝手なことを言ってくるが、どう見てもチンピラが集まっただけの集団にしか見えない。

 

(どういうこと?オールマイトを殺すとまで宣言しておいてこんな奴らが仲間なの?ただの烏合の衆じゃん)

 

 思わずそんなことを思う海兎だが、あくまでこちらの戦力をバラけさせる為の時間稼ぎ――つまりは捨て駒――の可能性も考慮し、すぐに他の皆と合流することに決める。

 

(幸いここは大雨で水浸し。なら電気を流して一網打尽に――)

 

「ちょちょちょ、ちょっと待った海兎!?私もいるから!?」

 

両の掌に雷を生み出し、そのまま雷球を形成しようとした海兎だが突然横から見覚えのあるグローブが視界に割り込んできた。

 

「あれ!?透もいたの!?」

 

「いたよ!?危うくヴィランごと感電するとこだったけどね!?」

 

「ご、ごめん」

 

 危なかった。てっきり自分だけかと思ってたから思いっきりぶっ放すところだった。

 

「んだアレ……?グローブが浮いてんぞ?」

 

「もう一人声が聞こえたな。そういう個性ってことか?面倒な……」

 

 どうやら姿の見えない透を警戒している様だ。向こうから仕掛けてこないなら好都合だ。

 

「透、時間が惜しいし、一気に終わらせるよ!」

 

「うん!こんな顔が怖いだけの人たち轟くんと障子くんに比べたら敵じゃないよ!」

 

 防風・大雨ゾーンにヴィランの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 こんなはずじゃなかったのに……。

 男は目の前の光景を見てそう思った。簡単な仕事のはずだった。

 ある日、仲間と路地裏でたむろしてると突然黒霧と名乗る奴が現れて雄英に侵入する計画に加担するよう求めてきた。あのオールマイトを本当に殺せるのかという疑問はあったが、俺たちの役目はバラけさせた雄英のガキどもを始末するだけだ。

 ヒーローなんて馬鹿げた夢を見てるガキどもをこの手で殺せるだけでも十分だが、奴らの計画がうまくいけば俺たちはあのオールマイトを殺した組織の一員だ。これが終われば俺たちの名は世界中に轟くだろう。

――そのはずだった。

 3メートルを越す男が殴りかかるが、逆に蹴り飛ばされてしまった。

 全身に岩を纏った男がその身を武器に突っ込むが、岩ごと蹴り砕かれた。

 精神干渉系の個性を発動させようとした男がその姿を捉える前に一瞬で意識を狩られる。

 何だあいつは……。この前まで中学生だったんだろ?何でそんなガキ相手にここまで圧倒されてんだ……。

 そんなことを考えていると隣りにいた男がうめき声を上げると同時にその場に倒れた。

 そう、こいつもそうだ。姿が見えないガキ。目の前ガキに集中してるといつの間にか接近されている。

 こんなのどうしろってんだ!?ふざけんな!?

 男は破れかぶれに手に持つナイフを振り上げ、目の前に立つガキ――海兎に襲いかかるが、目が合ったと認識した瞬間には男は宙を舞っていた。自分が蹴られたことすら気付かずに男は意識を失った。

 

 

 

 

 

「よし!これで終わりかな?」

 

「案外あっさり終わったね!」

 

 やはり思った通りただの寄せ集めだったのだろう。数の有利を全く活かせていなかった。いや、そんなことよりも皆と合流を急がなくては……。

 

「まずは皆との合流が先決だね。透は――」

 

――気配はなかった。音もしなかった。まるで最初からそこにいたかの様な。何故気付かなかった?いや、いつからそこにいる!?

 

 透の方を振り返った海兎はこちらを見ている透の後ろにいた、ありえない存在を目にした。

 黒い肌に鳥のような顔つき、更に剥き出しの脳。

 もしここに死柄木弔がいればこう言うだろう”やれ、脳無”と。

 

 声を出す余裕など無い。全力で透を抱えて横にぶっ飛ぶ。瞬間、二人の立っていた場所に脳無の拳が振り下ろされた。

 ただ拳を振り下ろしただけ……それなのにコンクリートの地面は陥没し、その衝撃の余波だけで私たちは吹き飛ばされた。

 なんとか受け身だけでも取り、衝撃を緩和させる。ただのパンチでこの威力?ふざけてる。増強系だとしても規格外過ぎる。

 

「痛っ……え?あれって広場にいた!?」

 

「いや、私も最初はそう思ったけど……多分違う」

 

 そう、最初こそ黒霧とかいうやつの個性で広場から送り込まれたのかと思ったが、冷静になって観察してみれば違う点がある。

 まず見た目こそほぼ同じだが、背中の肩甲骨の辺りに棒のような物が突き刺さっている。さらに体つきも広場の奴より細身に見える。

 何よりも違うのがこいつからは何も()()()()()

 普通、人は生きているだけで音を発しているものだ。心音や呼吸音は言わずもがな、私なら集中さえすれば体を動かした時の関節の軋みすら聞こえる。

 広場で見た奴は微かだが呼吸音は聞こえた。

 なのにこいつは一切何も()()()()()

 仮にそういう個性だったとしても、それだとあのパンチ力は素の身体能力だというのか?ありえない。個性がサポート系のヒーローで身体能力を鍛えている者はいるが、そんなレベルではない。

 どちらにせよ、このままじゃマズイ。

 

「透。あいつは私が引きつけるから、その間に広場に戻って助けを呼びに行って欲しい」

 

「え!?だ、駄目だよ!?さっきの見たでしょ!!海兎一人じゃ殺されちゃうよ!?」

 

「それでも、このままじゃ二人共殺されるよ。それなら誰か助けを呼ぶ方がよっぽど可能性がある。それまでなんとか凌ぎ切れば……」

 

「そんなの駄目だよ!!なら私も残るよ!!二人ならきっとなんとか――」

 

「いいから早く行って!!!透がいて何が出来るの!?足手まといなの!!!」

 

「ッ!?」

 

 聞いたこともない海兎の怒号に葉隠は首を竦める。何か声を掛けようとするが本人の意思に反して何一つ出てこない。

 顔を俯かせ拳を握りしめるが、少しの逡巡の後、海兎に背を向けた。

 

「必ず戻るから……助けを呼んでくるから……お願いだから、死なないで……」

 

 それだけを言い残して葉隠は全力で走り出した。

 遠くなっていく葉隠の足音を聞きながら、海兎は心の中で葉隠に謝罪する。

 透には悪いことを言ってしまった。でもこのぐらいしないと、絶対に離れようとはしなかっただろう。ちゃんと後で謝らないと。そのためにもーー

 

「さて、待たせてごめんね」

 

 とりあえず声を掛けてみたが反応は無い。会話で時間を稼げれたらと思ったがそうもいかないようだ。

 そんなことを思いながらもいつでも動けるように警戒態勢でいたが、瞬きをした次の瞬間には目の前に拳が迫っていた。

 

「ッ!?速っ!?」

 

 間一髪その場に伏せることで躱す。

 パワーだけじゃない!?スピードも……!?

 体を持ち上げながら隙だらけの顎を蹴り上げる。しかし全く効いた様子もなくそのまま殴りつけてきた。

 空中に転身しながら躱し、渾身の踵落としを繰り出すがこれすらも効いた様子がない。

 

(どうなってるの?圧倒的なパワーとスピード。音が聞こえないせいで耳も役に立たない。それだけでも厄介なのにタフネスまでずば抜けてるなんて)

 

 普通に攻撃してるだけじゃ埒が明かない。

 

「じゃあ、これならどう?」

 

 海兎は両の掌を合わせ、雷球を生み出す。

 どんなに打たれ強くてもこれ()は効くでしょ!!

 

雷珠散月(エレクトリカル・ルナ)!!」

 

 戦闘訓練で使った広範囲の雷撃。しかもここは大雨でそこら中水浸し。逃げ場はない。

 海兎を中心に雷が全方位に広がる。周りが水浸しな影響で普段とは比較にならないほどの範囲に広がり、いくら速くても避けられないだろう。

 

「え?」

 

 しかし海兎は目の前の光景に絶句した。確かに電撃はあいつに届いている。しかし、全身に広がることは無く肩甲骨付近から突き出ている棒に収束しているように見える。

 何アレ!?雷を無効化してる……!?あの棒……まるで避雷針のような……!?

 脳無に突き刺さっている棒に収束していた雷はそのまま体を伝い地面に流れていった。今の一撃がなかったかの様に脳無は再び海兎に殴りかかってきた。

 

 冗談じゃない。オールマイト並みと言ってもいいパワーとスピード。それに一切聞こえてこない音。さらに雷の無効。初めから頭の片隅には浮かんでいた。でも、ありえないとすぐに否定していた仮説。それがここにきて真実味を帯びてきた。

 

(間違いない……こいつは個性を()()持っている!!)

 

 普通、個性は一人に付き1つだ。轟の様な炎と氷の2つを操る個性もあるがあれはあくまで1つの個性から発生してるだけあり、個性を2つ持っている訳ではない。私の【雷兎】も同じようなものだ。

 しかし、こいつの能力はとてもじゃないがそれらと同じとは思えない。脳が剥き出しなのも気がかりだ。

 

 それにしても音の無効化に雷の無効化、さらに私を優に超える身体能力。まるで私の個性に対抗しているような……え?

 私……対策なのか?他の先生(プロヒーロー)ならともかく何故一生徒の私なんかを……。そもそも個性が割れているのもおかしい。まさか他のクラスメイトにも?

 ダメだ。情報が無さすぎて全て推測の域を出ない。今はギリギリ避けられてるけど、このままじゃいずれ捕まる。

 

 脳無の右フックをバク転で躱し、距離をとる。そのまま足を前後に開き、姿勢を低くしいつでも飛び出せる体制に入る。

 脳無がこちらに突っ込んでくるのと同時に足元のコンクリートを砕く勢いで一気に脳無に接近する。

 脳無の拳が海兎の顔面に迫るが、さらに体をほぼ地面スレスレまで下げることで躱し、足払いを仕掛けた。

 両足をかち上げられた脳無は上下が逆さまになり、足が地面を離れる。

 

その状態(空中)なら受け流せないでしょ!!)

 

 脳無の胸に両手を当てる。地面に流す暇なんか持たせない!

 

雷月(ライユエ)!!」

 

 雷を放電させるのではなく、相手の体内に直接叩き込む。単純故に最強。雷の無効化を行う暇すら与えない。

 目を覆うほどの雷光が辺りを照らし、二人の姿を包み込む。

 光が収まるとそこには顔を俯かせ、肩で息をする海兎と体を痙攣させ、地面に伏した脳無が姿を現した。

 

 良かった……これも効かなかったら本当にどうしようかと……。しかしここからどうするか……。しばらくは体が麻痺して動けないだろうけどいずれは動き出すだろう。

 何なら応援が来るまで電撃を打ち込み続けようか……。死んじゃわないかな……?ていうか私の体力もつかな……。

 そんなことを考えながら顔を上げた海兎の瞳に写ったのは――

 

 

 

 

 

――こちらに向かって拳を振り下ろす脳無の姿だった。

 

「ッ!?」

 

 海兎の体がまるでサッカーボールのようにビルに向かって吹き飛んだ。




オリジナル脳無。個性【消音】【避雷針】
【消音】体から発生する音を完全に消す。常時発動型で自らの声も聞こえない。
【避雷針】電撃を棒に誘導し、地面に流すことで無効化する。多少の雷耐性あり。
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