雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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11話目にしてようやくーーを──にする方法を知りました。


USJ編〜決断〜

 大雨が地を殴りつけ、暴風が吹き荒れる中、葉隠は広場に向かって全力で走っていた。

 

(早く……!早く助けを呼ばないと……!海兎が殺されちゃうかもしれない……!)

 

 彼女はその個性故に表情を見ることは出来ないが、もし見ることが出来るのならば焦燥感と不安に塗れた表情をしているだろう。

 それだけではなく、彼女の目にあたる部分からは大粒の涙が流れ続けていた。

 彼女が涙を流す理由……。それはヴィランが恐ろしかった訳ではなく、もちろん海兎に怒鳴られたからでもない。あまりにも自分が無力だったからだ……。

 海兎に助けられた時、何が起こったのか全く分からなかった。あのヴィランを見た時、恐怖で足が竦んでしまった。

 海兎がああいう言い方をしたのも私を危険から遠ざけるためだろう。だからこそ自分の無力さが悔しい。これが最善と判断してしまったことが腹ただしい。何より、あの場を離れられることに安心感を覚えてしまった自分が嫌になる……!

 

(すぐに助けを呼んで戻るから……!お願いだから……無事でいて……!)

 

 

 

 

 

「……グッ……!?」

 しまった……少し意識を失ってたようだ。……ここはどこだろう……?随分と飛ばされた。どこかのビルの中のようだ。

 あの時、脳無のパンチを受ける瞬間、左腕を防御にまわし、自ら後ろに飛ぶことで衝撃を緩和させた。

 その判断が功を奏した。一瞬でも遅れていれば間違いなく内蔵が破裂していただろう。それほどの威力だった。だが、そうしてもなお、受けたダメージは大きかった。

 防御にまわした左腕は完全に潰れ、左の肋骨も折れているだろう。呼吸音も少しおかしいので折れた肋骨が肺に刺さっている可能性がある。更にビルに吹き飛ばされたせいで全身を強く打ちつけて体が悲鳴を上げている。頭も強く打ちつけたようで絶えず血が流れ、コスチュームを赤く染める。

 

 ボヤける視界の中、こちらに近寄ってくる脳無を視界に捉えつつ朧げにも思考する。

 状況は絶望的だ。体はまともに動かすことも出来ず、助けもまだ来ないだろう。

 このまま何もしなければあの脳無が私に止めを刺すだろう。ここが私の終わり……。

 

(……ごめん)

 

 脳無が少女に拳を振り下ろし、少女がただの肉塊に成り果てる。

 こうして月下海兎の15年の人生は唐突に幕を下ろことになる。

 

──筈だった……。

 

 

 

 

 

『海兎ならきっと良いヒーローになれるよ』

 

 

 

 

 

「!?」

 

 その瞬間、ある言葉が海兎の脳裏をよぎった。

 ずっと昔、まだ海兎が小さく、()()()()()()の記憶。

 母との約束……。

 

 ふざけるな!!こんなところで終わってたまるか!

 誓ったんだ……!?ヒーローになるって!!

 それに、生き残ってちゃんと透に謝るって!!

 どうせ死ぬのなら()()()()()!こんな満身創痍で制御出来るか分からないが知ったことか!!

 まだ助けは来ない……。なら巻き込む心配もない。

 お願いだから誰も入ってこないでよ……。お願いだから……

 

──()()()()()()

 

 大雨・暴風エリアに獣の咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

 

「ヴィランよ!!こんな言葉を知ってるか!?更に向こうへ!!Plus Ultra!!」

 

 その頃、エントランスの広場では戦いが一つの佳境に差し掛かっていた。

 ヴィラン連合と名乗る集団の切り札、脳無により相澤がやられ、生徒たちも危険に晒される中、飯田によって救援に駆けつけたオールマイトが現れた。

 その圧倒的な力でヴィランを蹴散らし、オールマイト対策に用意された脳無に苦戦するも、ショック吸収を更に上からパワーで捻じ伏せるという超脳筋な方法によって追い詰めていく。

 そしてオールマイトの一撃が脳無に炸裂し、雲を切り裂き、空の彼方へと吹き飛んでいった。

 その後、飯田が呼んだプロヒーローが集結し、ヴィランたちを追い込むが死柄木弔と黒霧には逃げられてしまった。

 主犯格を逃してしまったのは痛いが、まずは生徒たちの安全の確認が優先だ。

 この場にいないのは月下、葉隠、尾白、上鳴、八百万、耳郎の六人だ。

 生徒たちに話を聞くとヴィランの個性でUSJの各施設に飛ばされたらしく、ここにいる生徒が飛ばされたエリア以外にいる可能性が高いだろう。

 根津がヒーローたちにテキパキと指示を出し、いざ行動に移そうとした時、その人物は現れた。

 

「みんなぁー!?」

 

 その声に全員が顔を向けるがそこには誰もいなかった。いや、いる。この声は葉隠だろう。

 透明だが全身が雨で濡れているのか、よく見るとうっすらと体の輪郭が分かってしまう。

 その場にいる男性陣は思わず顔をそらし、女性陣は慌てて葉隠に駆け寄る。ちなみに峰田はガン見していたところを蛙吹に舌で殴られていた。

 

「ちょちょちょ、透ちゃん!?」

 

「隠して!?見えてるから!?見えないけど見えてるから!?」

 

 女子たちは慌てて葉隠の体を男子たちから隠そうとするが、そんな彼女らの言葉を遮り、葉隠は叫ぶ。

 

「お願い!!海兎を助けて⁉︎このままじゃ海兎が殺されちゃう⁉︎」

 

「!?」

 

 クラスメイトが殺される。その言葉に体が固まるが、すぐにどういうことなのかと葉隠に事情を聞く。

 

「ハッ!あの兎女。あんなチンピラ共もまともにやれねぇとはな」

 

「バッカ爆豪!確かに月下は強えけどまだ女の子なんだぞ!ならすぐ助けてやらねえと男じゃねえだろ」

 

 爆豪が海兎を侮辱するような発言をし、それを切島が咎める。

 傍目から見たら爆豪が海兎を馬鹿にしているように見えるが実際は違う。

 爆豪はクラスメイトから『クソを下水で煮込んだような性格』とまで言われるような言動や行動をしているが、人が死にかけていることを鼻で笑うようなことまでは流石にしない。

 戦闘訓練で轟と障子との戦いを見て、自分じゃ勝てないと思ってしまった。

 もちろん、これから先負けるつもりは毛頭ないが、それでも少しでも自分にそう思わせた相手だ。間違ってもヴィランもどきのチンピラに負けることはないし、戦えなくてもあの脚なら逃げ続けることくらい出来るだろう。

 本人に聞けば確実に否定するだろうが、爆豪は海兎を強者と認めた上でこの発言をしていた。

 

 しかし、生徒が危険なことには変わりない。根津は葉隠を安心させるように明るく話しかける。

 

「安心してほしいのさ!これから先生(プロヒーロー)たちが手分けしてこの場にいない生徒の救助に向かうのさ!」

 

「な、なら早くお願いします!あのヴィラン……普通じゃありません!!」

 

「普通じゃない?」

 

 しかし、葉隠の顔から不安な表情が消えることはなく、それどころか今この瞬間にも悪化しているように見える。もしかしたらネームド(ヴィラン)がいるのだろうか?

 

「そ、それが肌の色が真っ黒で脳が露出しているんです!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

 その言葉を聞いた生徒たちは思わず声を上げた。

 黒い肌に剥き出しの脳。その特徴を持つ存在と自分たちはつい先程まで対峙していた。

 対平和の象徴としてオールマイトを追い詰めた改造人間・脳無。

 もし、あれが一体だけではなかったとしたら?そんな存在と海兎は一人で戦っている?

 その事実に気付いた全員の顔から血の気が引いた。それはオールマイトも例外ではない。

 

「校長!!今すぐ月下少女の救援に向かってください!!彼女が対峙しているヴィランは私に匹敵する力を持っている可能性があります!!」

 

「!?……セメントス先生はここの守りを、山岳ゾーンにはハウンドドック先生とパワーローダー先生が、火災ゾーンにはスナイプ先生とブラドキング先生にお願いするのさ。他の教員は暴風・大雨ゾーンに。生徒の安全を第一に考え、何かあれば逐一報告して欲しいのさ」

 

 オールマイトに匹敵する。それだけで警戒度は跳ね上がる。だが、他のエリアにも現れないとも限らない。根津は自身の個性【ハイスペック】を用いて現状の最適な人員を振り分ける。

 

「あの!私も連れて行ってください!私なら最後に海兎と別れたところまで案内できます!!」

 

「それは……いや、お願いしてもいいかな。ただし、先生の側を決して離れないように」

 

「はい!!」

 

 葉隠はマイク先生、エクトプラズム先生、ミッドナイト先生と一緒に来た道を引き返す。

 

(お願い海兎……無事でいて……!)

 

 

 

 

 

 暴風・大雨ゾーン──常に空を暗雲が覆い、猛烈な風と雨が吹き荒れる、ビル群が立ち並ぶドーム状の施設。四人がようやく施設に辿り着き、中に入ると目に飛び込んできた光景に思わず絶句した。

 天高くそびえていたはずのビル群は多くが倒壊し、無事な方が少ない。天候システムにも異常が出ているのかドームの天井が雲の切れ目から覗いてしまっていて、雨は降っているものの、風は完全に止んでしまっている。

 

「これは……!?」

 

「おいおいマジか!?激しい戦いがあったってレベルじゃねーぞ!?」

 

「トニカク、生徒ヲ探スノガ先決ダ」

 

 エクトプラズムが個性【分身】で海兎の捜索を始める。

 

『聞こえてるか!!月下!!聞こえたら返事しろ!!』

 

 プレゼント・マイクが個性【ヴォイス】で呼び掛ける。

 

「静かね……?月下さんはどこに……!?」

 

 ミッドナイトは脳無が現れた場合、すぐに個性を発動できるように周囲の警戒を行う。

 

「海兎……?どこなの?」

 

 自分に出来ることは少ないが、必死になって周りに視線を向ける葉隠。

 しかし、なかなか見つけることが出来ない。純粋に施設が広いこともあるが、もし倒壊したビルの下敷きになっていた場合は最悪だ。

 すると根津からの連絡があり、山岳ゾーンと火災ゾーンの方は無事に生徒を保護したらしい。これで後は海兎だけである。こちらの情報を伝え、応援を要請しようとしたその時、エクトプラズムが動いた。

 

「分身カラ連絡ガアッタ!!見ツケタゾ!!」

 

 走り出したエクトプラズムを慌てて三人が後を追う。そして、見つけた。

 

「ッ!?」

 

「クソッ!?」

 

「月下さん!?」

 

「……海兎……?」

 

 海兎は倒壊したビルの残骸に背中を預ける形でそこにいた。

 全身が血まみれで、左腕はぐちゃぐちゃに潰れている。顔色も青白く、生気を感じさせない。

 四人の脳内に最悪の可能性が浮かび上がる。

 

「い、嫌だ……嫌だよ……海兎ぉー!?」

 

 葉隠の悲鳴がエリアに響き渡った。




海兎、USJに散る。
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