雄英高校襲撃事件から翌日。
ここは都内にある病院の一室。そこの個室の一部屋で海兎が眠りについていた。
運び込まれた当初は生きているのが不思議なほどの重症だったが、今ではなんとか持ち直している。
しかし、事件から1日たった今でも海兎が目覚める様子はない。
「全く、いつもはバカみたいに元気なくせに……」
「そう言わないの。海兎ちゃんはすっごい頑張ったんだから今くらいゆっくり休ませてあげましょう」
ベットの側では大輔と管理人が海兎の顔を見ながら話をしている。
二人は雄英がヴィランに襲撃され、更には海兎が病院に運ばれたことを聞き(正確には大輔が聞き、大家さんに伝えた)、急いで海兎の様子を見に来ていた。
幸い、もう命に別状はなく、意識も直に戻ると聞き、ホッと胸を撫で下ろした。
「さて、じゃあ、そろそろ俺は行きますね」
「あら?もう帰っちゃうの?」
「ええ、仕事を途中で切り上げてしまっていて……コイツの顔も見れたし、今日は帰ります。大家さんは海兎についていてあげてください。」
「そう、なら仕方ないわね。お仕事がんばってね。」
大輔は最後に海兎の頭を一撫でして病室をあとにした。
すれ違う看護婦さんに軽く会釈しながら、病院を出た大輔はしばらく進んだ先に止まっていた車の
「あの子の様子はどうだった?」
「一時はかなり危なかったみたいだけど、今は落ち着いてる。まだ目は覚まさないが、もう大丈夫だろう」
「……そう」
大輔の言葉を聞くと女性はあからさまに安堵した様子を見せる。
「全く。そんなに心配なら直接顔を見てきたら良いものを」
「そんな訳にはいかないわ。私に今更あの子の前に出る資格なんてないもの」
安堵していた表情から一転、その顔に陰りを見せる。そんな女性を見て、大輔もため息をつく。
「相変わらずだな、
「……」
「
「ええ、あの人は最初からあの子に興味なんてないわ」
「……クソッタレ」
未だに昔と何一つ変わっていない自分と血の繋がった存在に大輔は家族といえど強い嫌悪感を覚える。
「義姉さんは資格はないなんて言うけどさ、あいつは今でもあんたに会いたいと思ってるんだ。あんただけじゃない、あのクソ兄貴にも……」
「それは……」
「ヒーローを目指すのもそれが影響してるんだろう。立派なヒーローになれば、また前みたいに一緒にいれるんじゃないかってな」
「!?」
女性の脳裏に過去の記憶が鮮明に映し出される。
『かっこいいヒーローになって、私がお母さんのことを守ってあげるね!』
あの子は今でも昔の約束を覚えていてくれている。そのことが嬉しくて、同時に罪悪感で胸が苦しくなる。
信号が赤に変わり、車が停止線で止まる。
「義姉さんの気持ちも分かる。だが、いつか気持ちの整理がついたら、あいつに向き合ってやってくれ」
「……」
女性は大輔の言葉に胸の痛みを覚えるも答えを返すことは出来なかった。
信号が青になり、女性は黙って車を発進させる。
その頭からは海兎と全く同じ、真っ白な兎の耳が存在を強調していた
「ハハハ!なかなか貴重なデータが取れた。これで儂の研究も更に進歩させる事ができる!」
とある薄暗い一室で中年の白衣を着た男が歓喜の声を上げている。
手術台やメスのような器具があることから、一見すると男の格好も相まってどこかの病院のようにも見えるが、周りの水槽に浮かぶ脳や人型の何かがその可能性を否定する。
そんな男にスーツを着た男が話しかける。
「随分ごきげんだね、ドクター」
その男の容姿は脳無とはまた違った意味で異質だった。髪がなかった。目がなかった。鼻もなかった。顔全体にやけどを負ったように傷跡が広がっている。
男の名はオールフォーワン。裏社会を支配する悪の象徴。そしてオールマイトが弱体化するほどの傷を負いながらも倒した筈の存在だ。
「何を言っておる!先生とて今回の結果には満足しておるだろう!?」
「まあね」
今回の雄英高校襲撃事件。ヴィラン連合の目的はオールマイトの殺害だが、実は黒霧だけはもう一つの仕事を任されていた。それが月下海兎に対オールマイト用の脳無とは別の脳無をあてがうこと。
それによりある能力を使用させ、そのデータを収集することだった。
「それにしても
「確かにね。最初から使っていたならともかく脳無をここまで追い込むとは、正直予想外だったよ」
そう話し合う二人の前には海兎の前に現れた脳無が佇んでいた。
両腕はあらぬ方向に折れ曲がり、背中の棒は完全にへし折れている。更に体の至るところが完全に炭化しており、普通の人間なら確実に命を落としているだろう。
「これで全力の状態だったのなら何の文句もないのだが」
「それは仕方ないさ。下手に満月が出ていると彼女が使ってくれない可能性がある」
「それはそうだが……しかし、あれは回収しなくて良かったのか?脳無はこんな状態だが死にかけの小娘一人持ち帰るのに問題は無いだろう」
そう、海兎は脳無をそこまで追い詰めはしたが、倒しきれてはいない。にもかかわらず倒れ伏す海兎を置いて脳無を帰還させた。
「焦らなくても、これから嫌でも機会は訪れるさ」
「?何を企んでおるんじゃ?」
「それは秘密。それに彼女はカゴの中で飼うよりも自由にさせたほうが良い成長を見せてくれるはずだよ」
そういって白衣の男に背を向け、部屋を出ていった。そんな様子を見て首を傾げていたがすぐに目の前のデータに視線を戻した。
通路を歩きながらオールフォーワンは一人思いにふける。
(あのときの子供がもう高校生か……。時が流れるのは早いね)
あの子を初めて見たのは7年前だ。当時アレを見たときは
オールフォーワンは一人の少女のことを思い浮かべ、笑みを浮かべる。しかし、その笑みは冷たく、見るものに恐怖を感じさせる邪悪な笑みだった。
(ああ、理性を解き放ったとき、君はどんな姿を見せてくれるのだろうか……その日が楽しみだ、月下海兎……いや……)
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久しぶりの登場の管理人さんと南大輔。多分大輔は誰も覚えてない。作者も名前間違えてないか一度確認しました。