雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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狙われる理由

「さて、ではこれより職員会議を始めるのさ!」

 

 雄英の会議室にて根津の声が響き渡った。

 ヴィランによる雄英襲撃の翌日。あの後、生徒の安全確認やヴィランの残党の制圧。さらに警察との連携、マスコミの対応に追われ、教員はまともに休む暇なく動き続けていたが、翌日の夕方になり、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。

 今日は雄英のこれからの対策についての会議だ。

 会議は順調に進み、最後にある問題について提示された。

 

「じゃあ、これが最後なんだけど……ある意味、これが最大の問題だね」

 

「月下のことですね?」

 

 根津の言葉に相澤が即座に言葉を返す。

 相澤は脳無にやられた傷が癒えておらず、当初は会議には参加しない予定だったが、本人から『その場にいた当事者がいないのは合理的じゃない』という旨から会議に参加している。

 

「その通りさ。今回対オールマイト用として用意された脳無と呼ばれる改造人間。それと同じ存在が月下さんの元にも現れた。しかも、暴風・大雨ゾーンに設置されたカメラの映像を見るにオールマイト同様、彼女に対応した個性を持ってね」

 

 その言葉に教員たちは全員顔を顰める。

 オールマイトは個性の詳細は明かされていないものの、超パワーのようなものとは誰もが知っている情報だ。

 しかし、彼女は違う。ヒーロー志望ではあるが、まだ一般人に過ぎず、個性の詳細を手に入れることは不可能だ。あるとすれば――

 

「コノ前ノマスコミニ紛レテ侵入シタ時ニ手ニ入レタ……カ?」

 

「いや、あの後徹底的に調べたが、雄英のスケジュール以外にはどこも手は付けられていなかったぜ」

 

 エクトプラズムの推測に対し、プレゼント・マイクがすぐに否定する。

 あの時、海兎を戻した後、相澤とマイクは職員室の資料からデータまで全て調べたが、雄英のスケジュールが盗まれている以外には何も問題はなかった。

 

「それに生徒を警戒するなら、一般入試一位の爆豪くんかエンデヴァーさんの息子の轟くんでしょ?」

 

 ミッドナイトの発言はここにいる全員が思っていたことだ。

 確かに海兎は他の生徒よりも頭ひとつ出ていると言っても過言ではない。実際、戦闘訓練では轟に勝利している。

 しかし、それは授業の内容を知っていればの話だ。資料やデータのみを見れば、一番に海兎を警戒するのは違和感がある。何よりも足止めならチンピラヴィランで十分だ。

 それなのにオールマイトに対する戦力を下げてでも脳無を当ててきた理由……。

 

「私の殺害だけではなく、月下少女もまた目的の1つだった。そう考えれば辻褄は合います」

 

 オールマイトの言葉に教師陣はますます頭を悩ますことになる。

 一人の少女にそこまでする理由とは……?

 そんな中、相澤は根津にある確信を持って話しかける。

 

「校長。憶測の域を越えませんが……」

 

「うん。僕もその可能性が高いと思ってるよ」

 

「校長?それに相澤も、何か心当たりがあるのか?」

 

 何かを知っていそうな雰囲気の二人にブラドキングが問いかけ、他の教員も視線を向ける。

 

「あくまで可能性の話なんだけどね……君たちは月下さんの個性については知っているよね」

 

「え、ええ勿論。最後の項目に関してはあまりよく分かっていないのですが……」

 

 雄英に入学する時点で生徒たちは自分の個性届けを学校に提出している。それは海兎も例外ではない。

 

 個性【雷兎】

 兎の異形型と雷の発動型さらに変形型を含めた突然変異の複合型。

 脚力と跳躍力に優れており、聴力も高い。

 体から雷を発生させることができ、その身に纏ったり、放出させることができる。

 本人の意思により変身することができ、その状態では身体能力や雷の威力が上昇するが、スタミナを著しく消耗するため長時間の使用は出来ない。満月の夜に変身することにより能力が更に上昇するが、同時に理性を失う危険がある。

 

「突然変異だけでも珍しいが、親の個性も受け継いでいるんだろ?初めて聞いたな」

「理性を失うのはより獣に近づくからか?獣型の個性にはそのようなものもいるが……」

 

「いや、彼女の場合はその程度じゃないのさ。……皆は''三島事件"って知ってるかい?」

 

 三島事件──当時、世間を騒がせた大きな事件だ。事件と言ってもヴィランが出た訳ではない。三島研究所と呼ばれる個性研究所で当時まだ8歳の少女の個性が暴走し、その鎮圧にヒーローが駆り出された。

 子供が個性を制御出来ずに、暴走させて周りに被害を与えてしまう事件は決して少なくない。故にわざわざニュースになることもないのだが、三島事件はその規模が普通ではなかった。

 一人の少女を止めるのになんと30人以上のヒーローが集まったのだ。

 結局ヒーローにも重軽傷者が多発し、少女の体力が尽きたのか動きが鈍くなったところでようやく少女を保護した。

 この事件によって、たった一人の少女もまともに助けられないのかと多くの批判の声がヒーローに寄せられることとなった。

 

「その事件なら知らない方が珍しいですが、それが何か……まさか!?」

 

「そのまさかさ。その少女というのが月下さんのことさ」

 

 その事実にその場にいた多くの教員が驚きを露わにする。しかしそれも仕方がないことだろう。まだ未成年の子供ということで海兎の名前は伏せられていたし、なにより変身中は()姿()()()()()

 たとえ、あの事件の場にいたヒーローがここにいたとしても詳しい事情を知らなければ今の海兎と繋げることは出来ないだろう。

 

「では、その事件から月下の存在を知っていたと?」

 

「消去法になるがな。それ以外は皆目検討もつかん」

 

「相澤くんの言う通りさ。彼女が入院している病院はプロヒーロー数名に警護してもらってる。意識が戻り次第彼女にも話を聞くつもりさ」

 

 一先ず、今日のところは解散にしようという根津の声に各々が席を立ち上がろうとした時、会議室の扉が開く音がし、全員の視線が集中する。

 

「リカバリーガール?どうかしたのかい?ちょうど今会議が終わったところだよ」

 

「そうかい。ならちょうど良かったかもね」

 

「ちょうどよかった?」

 

「今しがた、病院から連絡があってね……」

 

──目が覚めたようだよ。

 

 

 

 

 

 ……知らない天井だ。ここどこ?

 ゆっくりと起き上がり周りを見回す。

 ……どこかの病院のようだ。朦朧としていた意識が徐々に覚醒していき自分の身に何があったのか思い出してきた。

 

「私……生きてるんだ……」

 

 思わずそう呟くと、扉がガラッと開く音がし、誰かが入ってきたのかと視線を向けると、見慣れた人物がこちらを見て呆然としていた。

 

「……海兎ちゃん?」

 

「あ、管理人さん。おはよ──」

 

「海兎ちゃん!?大丈夫!?どこも痛くない!?」

 

「え、あ、うん。体は……大丈夫かな」

 

「そ、そう……。良かった……。そうだ!先生を呼ばないと」

 

 管理人さんのナースコールにより病院の先生が駆けつけ、一通り診察を受けることとなった。

 その過程で知ったが雄英襲撃の日からから丸1日経っていることにはかなり驚いた。

 

 ようやく診察も終わり、先生にはもう大丈夫と伝えられた。

 その後に、まだ状況が飲み込みきれてない私に管理人さんが今日までのことを教えてくれた。

 

「そっか。大輔さんにも心配掛けちゃったな」

 

「本当よ。海兎ちゃんが病院に運ばれたって聞いた時は心臓が止まるかと思ったんだから」

 

「うん……心配掛けてごめんなさい」

 

 覚悟はしていたとはいえ沢山の人に心配を掛けてしまった。きっと透たちも心配してるだろう。ちゃんと謝らなくては……。

 しばらくそんなことを話していると病室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「あら?誰かしら?どうぞ?」

 

「失礼します」

 

 一言告げて入ってきたのは相澤先生とガリガリに痩せ細った男性だった。この人誰かに似ているような……?

 

「初めまして。月下海兎さんの担任の相澤と申します。海兎さんのご親戚の方でしょうか?」

 

「これはご丁寧に。私はこの子の住んでいるマンションの管理人を勤めさせてもらっています。」

 

「相澤先生?ミイラみたい……」

 

 相澤先生は全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。これ、私よりも重症じゃない?。なんで普通に動いてるんだろう……?

 

「それはほっとけ。病院から目が覚めたと連絡をもらってな。体の調子はどうだ?」

 

「あ、はい。何も問題ないです。病院の先生も大丈夫って」

 

「そうか。……すまなかった」

 

 しばらくこちらをじっと見つめてきたと思ったら突然謝罪と共に頭を下げてきた。

 

「ええ!?ちょ、ちょっと待って!?急にどうしたんですか相澤先生!頭を上げてください」

 

「そう言うわけにもいかん。俺は教師として生徒を守る義務があった。なのにヴィランに無様にやられて、危うくお前を死なせてしまうところだった。ヒーローとしても教師としても失格だ」

 

「いや、それは……でも」

 

 突然の担任からの謝罪にどうしたらいいかアタフタしていると隣にいたガリガリの男性が歩み寄ってきた。もしかしてフォローしてくれるのだろうか?

 

「月下少女。私からも謝罪を。助けられなくて申し訳なかった」

 

 違った!?謝罪を重ねてきた!?

 

「ええ!?あなたもですか!?というか……えーと、どちら様で?」

 

「ああ、すまない。自己紹介がまだだったね。私は八木俊典。オールマイトのマネージャーをやらせてもらってる」

 

「オールマイトの!?」

 

「ああ。オールマイトから伝言を預かっていてね。出来れば本人も直接来たがっていたんだが、彼は有名過ぎるからね」

 

 なるほど。確かにオールマイトが急に現れたら病院は大パニックになってしまうだろう。

 

「君を助けられなかったことを悔やんでいた。本当に申し訳ない」

 

 そう言って相澤先生の隣で八木さんは頭を下げた。正直、大人二人に頭を下げられて、どうしたらいいか分からないが、これだけは言える。

 

「気にしないでください。って言ってもお二人は気にすると思いますが、別に怒ったりはしてないですよ。私がこうなったのは私の力不足が原因です。だからもう頭を上げてください」

 

「……君は優しいな」「……すまん」

 

 とりあえず、二人の頭を上げさせることには成功した。良かった。あそこまでやられると逆に恐縮しちゃってどうしたらいいか分かんなかった。

 

「……月下。今日俺たちがここに来たのはお前の無事を確認する為でもあるが、もう一つ目的がある。……襲撃してきたヴィランについてだ」




職員会議が長引いたのでここで切りたいと思います。
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