雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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障害物競走

『ついに始まったぜ、雄英体育祭1年部門!実況はボイスヒーロー、プレゼント・マイク!解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの二人でお伝えしていくぜ!解説のミイラマン、アーユーレディ!?』

 

『無理やり呼びやがって……』

 

 プレゼント・マイクのノリノリな声に対して相澤は不機嫌さを隠そうともしない。怪我も完治して無く、適当にモニターで観戦しようと思っていたところを同僚のプレゼント・マイクに見つかり、拉致された。

 そんな実況で始まった障害物競走。

 生徒たちが我先にとゲートに集中する。

 しかし、それも一瞬……。

 

──ゲートが凍りついた。

 

『さあ!スタートダッシュで先頭に立ったのはA組の轟だ!更に氷結攻撃で後続を妨害!』

 

 轟がスタートと同時にゲート周辺を凍りつかせた。多くの生徒が反応できず、その場に拘束されるも、彼の個性を知っていたA組、そして同じくヒーロー科のB組も難なく回避していた。

 そして、先頭を走る轟は背後からの爆発音に気付く。

 

「邪魔だ半分野郎!!」

 

「……チッ」

 

『おぉーと!?同じA組の爆豪が轟を猛追!!開始早々A組二人がトップ争いか!?』

 

『三人な』

 

『へ?』

 

 相澤の呟きが聞こえた瞬間、轟と爆豪の上空を一つの影が通り過ぎて行った。

 そのまま、二人の前方に着地した影──海兎は後ろを振り返ることなく走り出した。

 

『おお!?ここで一気に先頭に立ったのはA組の月下!!文字通り集団を飛び越えて一気にトップに躍り出た!!』

 

「くそっ……!」

 

「待てや兎女!!」

 

 轟と爆豪は慌てて海兎を追い始める。しかし、純粋な直線では離されないのがやっとで距離を縮めることが出来ない。

 そのまま、独走状態で走り続ける海兎の前に最初の障害物が見えてきた。

 あれには見覚えがある。入試の実技試験に出た仮想ヴィランだ。後ろにはあの巨大な0ポイントの仮想ヴィランが何体も確認できる。

 

『さあ、いきなりの障害物だ!まずは手始め、第一関門!ロボ・インフェルノ!何体もの仮想ヴィランロボットがお相手だ──ってそんなことを言ってる間に月下がもうロボ軍団に突撃してる!?実況者泣かせか!!つーか、ロボの攻撃全然当たんねえ!?』

 

 まだ第一関門に海兎しか来ていないのも相まって、全ての仮想ヴィランが海兎に狙いを定めるが、その全てを最小限の動きで回避していく。そんな海兎の前に0ポイントの巨大ロボが立ち塞がる。

 

(体がデカい分、速さはそこまで無い。小型同様躱すのは簡単だけど、この体育祭は自分たちをアピールする場。なら、やらない選択肢は無いよね)

 

 海兎は速度を落とすこと無く、跳躍力に変えて跳び上がる。そのまま0ポイントを蹴り飛ばした。

 その場を爆音が鳴り響き、衝撃が襲いかかる。巻き起こった粉塵が収まるとそこには装甲が木っ端微塵に砕け散り、吹き飛んだ0ポイントの姿が。しかも後ろにいた二体の0ポイントもまとめて吹き飛ばされていた。

 

 その光景に会場が一瞬静まり返ったが、次の瞬間、爆発したかのような歓声が巻き起こった。

 

「あの巨体をまとめて吹き飛ばしたぞ!?」

 

「てっきり速さ主体の子かと思ったけど、あんなパワーまで持ってるなんて……!」

 

「ミルコみた〜い!」

 

『A組月下!!仮想ヴィランをものともせず、トップのままロボ・インフェルノを突破だぁ!!』

 

『他の追随を許さないスピードに巨大ロボを吹き飛ばすパワー……単純だが、これほどわかりやすいものは無いだろう』

 

 プレゼント・マイクの実況に更に会場が盛り上がる。

 しかし、それをただ指を加えて見ている者はこの場にはいない。

 

「邪魔だ……!」

 

 海兎に続いて第一関門に入った轟が襲いかかってきた0ポイントを二体をまとめて凍結させた。

 凍結したロボの隙間を狙い他の生徒も集まってくるが、それも計算に入れてあったのか、凍ったロボが倒れることで行く手を阻む。

 

『月下に続いて轟も負けてない!障害の突破と妨害を同時にやりやがった!!』

 

『ふむ、なかなか合理的じゃないか』

 

 倒れたロボットに生徒が潰されたり、道が塞がれたため乗り越えるのに四苦八苦している中、相澤の淡々とした解説が流れる。

 

『さあ!そんなことをしている間に先頭は次の障害物に到達したぞ!第二関門は落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!』

 

 先頭を走る海兎の目の前には底が見えない程の大穴が掘られており、要所にロープが張ってある。

 

 少なくともUSJに行く前まではこんな大穴はなかったのだが、まさかこの時の為だけに掘ったのだろうか……。流石雄英、スケールが違う。

 そんな場違いな感想を思っている海兎だが、何も考えていない訳では無い。

 

(というか、私にとってはこんなの障害にもならない)

 

 大穴の崖際で立ち止まった海兎はその場にしゃがみ込む。

 間を置かず、海兎に続いて第二関門に辿り着いた轟はしゃがみ込む海兎を見て、何をしようとしているのか察知し、すかさず氷結を発動させる。

 

(行かせるか……!)

 

 地面を伝い、そのまま海兎を飲み込もうと襲いかかるが、一歩遅かった。

 地面に亀裂が走るほどの勢いで飛び出した海兎は難なく大穴を飛び越えて対岸に着地した。

 

『マジかよ月下!?この大穴を一気に飛び越えたぁー!?水溜りを飛び越えようとする小学生でももっと躊躇するぞ!!』

 

『何意味わかんねぇこと言ってんだ……。だから俺は穴が小せえって言ったんだ』

 

『これ以上大きくしたら後処理が大変なんだよ!?』

 

(くそっ、これも避けられたか……。このままただ追いかけるだけじゃ埒があかねぇ。かといって、追いつかないことには氷結も届かない。……ダメだ、()は使わねぇと決めた)

 

 先程から全く縮まらない差に轟は焦りを見せる。氷結で捕らえようにも走りながらではあまり威力が出ないため捕らえきれず、止まってしまえば海兎を拘束出来たとしても今も後ろから迫っている爆豪に追い抜かれてしまうだろう。

 一瞬、左手に視線を向けるもすぐに頭を振り、考えを振り払う。

 氷結を使いながら危なげなく渡りきった轟は張ってあるロープを凍らせた。

 これで後続は満足にロープを渡ることが出来なくなった。

 

『おぉーと!?轟!張ってあるロープを氷結させてまたもや後続を妨害だ!!後ろの奴らはツルッと滑らないように注意しな!!しかし爆豪!穴など関係なしと爆破で空を飛ぶ!』

 

「テメェら、俺の前を走ってんじゃねぇよ!!」

 

 多くの生徒が躊躇する中、爆豪に続き、続々とヒーロー科を中心に第二関門を突破していく。しかし、依然にトップは海兎の独走だ。

 誰も予想もしていなかった展開に会場の観客やプロヒーローのボルテージも上がる。

 

「なんて身体能力だ!?あの大穴をひとっ飛びとは……」

 

「本当にミルコみたい!もしかして子供とか?」

 

「バッカ!?まだミルコそんな歳じゃねぇだろ!?」

 

「2位の轟の個性も自分の加速やら妨害やら万能過ぎんだろ」

 

「3位の爆豪も負けてないぞ!流石にあれだけの啖呵を切るだけはある」

 

「今年の一年のレベルヤバ過ぎない!?」

 

 海兎は先頭を走りながら横目で後ろを確認する。

 まだ距離は空いているが、油断すればすぐに追いつかれる距離だ。

 轟の氷結に捕まってしまえば、間違いなく抜かれるし、爆豪に至っては爆破の威力が上がってきている気がする。

 確か、みどりんが爆豪の個性は汗をニトロ代わりにしてるって言っていたような……。

 つまりはスロースターターってことか。尚更油断は出来ない。

 そんなことを思っていた海兎の前についに最終関門が姿を現す。

 

『さあ!ついに先頭が最終関門に到達したぞ!最後は一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚を酷使しろ!!』

 

 プレゼント・マイクはよく見ればわかると言うが、目を凝らしてようやく少し地面が盛り上がって見える程度だ。

 いちいちそんなことをしていたらあっという間に後続に追いつかれてしまう。

 普通なら誰しもが足を止めてしまう場面だ。……普通なら。

 

『あれぇぇぇ!?月下普通に走ってんだけど!?地雷ちゃんと起動してる!?』

 

『よく見ろ、真っ直ぐ走ってる訳じゃねぇ。あいつは耳が良いからな、地雷から僅かに聞こえる駆動音で位置を特定してんだろ』

 

『あいつマジで無敵か!?』

 

 轟と爆豪も後を追うが、その差が縮まることは無い。このまま海兎がトップでゴールするだろうと誰しもが思ったその時、突然今までの比ではない爆発音が会場に響き渡った。

 あまりの衝撃にその場でたたらを踏み、足を止める。

 その音に爆豪が何かしたのかと後ろを振り向いた海兎だが、当の爆豪も後ろを振り向いている。

 

(爆豪じゃない?ならあの爆発音は?誰かが地雷を踏んだ?)

 

 最終関門の入り口は黒煙に包まれていて確認が出来ない。しかし、この時足を止めたのは海兎の失敗だった。すぐに走り出せば"彼"に抜かれることもなかった。

 

「!?──上!?」

 

 衝撃に耐えるため姿勢を低くし、腕で顔を守っていたのがマズかった。爆発と同時に飛び出した存在に気付くのが遅れた。

 上位三人の頭上を何かの鉄塊が飛んでいった。その鉄塊にしがみついている生徒が一人──

 

「みどりん!?」「緑谷!?」「デク!?」

 

 今まで上位の争いに顔を出すこともなかった存在がここに来て牙を剥いてきた。

 

『おいおいおい!?ここに来てトップが入れ替わった!!A組の緑谷、お前今までどこにいた!?地雷を利用して先頭までぶっ飛ぶって思いついてもやるか普通!?』

 

 海兎は慌てて緑谷を追いかける。幸い爆風を利用して飛んだだけなので、すでに減速し、落下し始めている。

 しかし、緑谷も考えなしに飛んできた訳ではなかった。地面に落ちる瞬間に持っていた鉄塊──仮想ヴィランの装甲を地面に叩きつけることにより更に地雷を爆発させて、再度加速した。

 目の前で地雷が爆発したことにより、吹き飛ばされないようにするのが精一杯で前に進むことができない。

 

「マジかよおい!?一体誰が予想した!?スタートから先頭を走り続けた三人を出し抜き、堂々の一着でゴールしたのはA組の緑谷出久だぁ!!」

 

──僕も本気で獲りに行く!

 

 開会式前にみどりんが言っていた言葉だ。

 油断したつもりは無かった。慢心も無かった。ただ悔いはないかと問われると否定しきれない。そう考えてしまう時点でゴール直前で気が緩んでしまったのだろう。

 最後の最後まで諦めなかった"彼"と違って。

 

「……やっぱりすごいや」

 

 緑谷に続いて海兎が。轟、爆豪がその後に続いてゴールした。

 

 月下海兎 障害物競走 第2位




改めて思ったのが、増強系の個性ってそれだけで万能ですよね。
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