轟たちの騎馬と相対するが、敵は他にもいる。
上位チーム同士の戦いの漁夫の利を狙おうと他のチームも集まってくる。
しかし、轟は他のチームに目もくれない。
その様子に不審に思っていた海兎は騎馬の上鳴が僅かに帯電しているのに気付いた。
「しっかり防げよ、轟!!──無差別放電130万ボルト!!」
轟たちの騎馬を中心に周りにいたチームがモロに電撃を浴びる。
海兎は咄嗟に電撃を放ち相殺させる。
「ぐあぁぁ!!」
「しまった……!?」
感電して動けなくなっているところに更に轟が氷結で追い打ちを掛ける。
「……これで邪魔は入らねぇ」
他のチームは拘束から抜け出すのにしばらく掛かるだろう。
更に周りに氷壁を作り出し逃げ場をなくす。
「ここが踏ん張りどころだよ!」
「オッケー!……うぷっ」
「私のベイビーのお披露目です!」
「うん!──フルカウル!!」
『おぉーと、ここにきて月下チームと轟チームが一騎打ちだ!!これは熱い展開だぜ!!』
プレゼント・マイクの実況により会場の歓声は更に大きくなった。
──埒が明かない。
海兎たちとの戦いが始まって数分、轟は一人苛立ちを覚える。
氷結させようにも海兎の電撃で相殺され、近付こうにもいつの間にか個性を制御出来るようになったのか緑谷の機動力に追いつけない。
(膠着した現状を打開するには予測出来ない一撃を与えるのが手っ取り早い……クソッ)
一瞬右手に目を向けるもすぐに視線を戻す。
「皆、聞いてくれ!!」
そんな葛藤を感じ取ったのか飯田が声を上げる。
「奥の手を使う。この後俺は使えなくなるが、あとは頼んだぞ!」
「……飯田?」
「取れよ、轟くん!!──トルクオーバー!レシプロバースト!!」
全てを置き去りにするかのような超加速。
なんとか上体を維持した轟の手が海兎のハチマキを掴み取った。
『なっ!?何だ今の加速!?速すぎんだろ!!ここにきて轟チームが1000万を奪取!!トップからいきなりの大ピンチだ、月下チーム!!』
「しまっ──!?」
「何今の!?」
「飯田くん!?」
マズイ!?ここにきてポイントを取られた。このままじゃ……!?
『そしてここで轟に拘束されていたチームたちも動き始めた!さあ、第二種目は大詰めだ!焦れ焦れ!!』
更に他のチームも轟たちに集まっていき、近付くのも難しい。
海兎の頭に敗北の二文字が浮かぶ。
「み、みどりん……。ごめん、私が──」
「……まだ、大丈夫。他のチームも狙ってるならどこか隙が出来る筈……。そこを僕のフルカウルで──」
思わず、諦めの言葉を出そうとした海兎だったが、緑谷は全く諦めてなかった。それどころか既に次の逆転の手を考えている。
「うぷっ……私もまだまだ行けるよ!」
「勿論、私もですよ!」
他の二人も同じだ。それぞれが轟たちとの戦いでもう限界が近いにも拘わらず一切闘志は失ってはいなかった。
……私はバカだ。勝手にハチマキを取られて勝手に諦めてた。
油断もない?満身もない?そんな訳無いだろう。皆が全力で挑んでいる中で私だけが本気でやっても全力でやっていなかった。
……一つ、ここから逆転できる手がある。
『お前の個性、いつまで隠しておくつもりだ?』
7年前の記憶が、自分をバケモノと呼んだ母の顔が頭をよぎる。
使ったら最後、あの時のように拒絶されるかもしれない。
それでも、変わらなくてはいけない。いや、変わりたいんだ。
もう隠すこと無く、堂々と見せることで証明したい。
──これが”私”だと……!
「……皆」
「月下さん?」
「どしたん?」
「なんです?」
私の声に皆がこちらを見上げる。
「みどりん、そのフルカウルっていうのまだ体への負荷が大きいでしょ?」
「そ、それは……!」
「お茶子、個性の限界もう近いんじゃない?」
「うぐっ!?」
「発目さん、もうサポートアイテムも燃料が無いんじゃない?」
「……」
三人は海兎の言葉に反論できない。
緑谷はぶっつけ本番の技故、調整が崩れ掛けている。
麗日は個性の反動で今にも吐いてしまいそうだ。
発目のサポートアイテムも常に使い続けたせいで燃料が枯渇しかけている。
「で、でも、このまま諦める訳には──」
「──だから私を信じてくれないかな?」
みどりんの言葉を遮り、私の言葉を告げる。
みどりんは目を丸くするがすぐに頷いてくれた。
「信じるも何も、最初から信じてるよ!」
「勿論、わたしも!」
「私は付き合いが長いわけでは無いですが、あなたは信用できます!」
すぐに返ってくる肯定の言葉に口元が緩みそうになる。
「うん、任せて!」
──すぐに終わるから。
『さあ、ほとんどのチームが轟チームに殺到する!轟チーム、タイムアップまで逃げ切れるかぁ!?』
『飯田の動きが悪いな。やはりあの超スピードの反動か。……ん?アレは』
第二種目の残り時間も5分を切り、佳境に差し掛かっている中、解説をしている相澤が何かに気付いた。
轟たちの争いから少し離れた場所。そこに一人浮かび上がった生徒。
『あれは……月下か?浮いているのは麗日の個性か』
『おぉと、月下一人浮かび上がって何をするつもりだ!?』
実況の声で宙に浮かぶ海兎に観客の視線が集中する。
俯いていた海兎の体に雷が帯電し始めたと思ったら、突然髪と尻尾の毛が体を覆うほどに長くなる。
いきなりの現象に観客は目を見開き、声を上げようとした瞬間──
「ガオオオオオオオオオオオ!!」
会場中に激しい雷光と共に獣の咆哮が響き渡った。
その咆哮に観客だけでなく生徒たちも上空に視線を移す。
そして雷光が収まると、
「グルルル……」
髪の毛と肌の色が雪のように真っ白になり、瞳も赤く染まっている。
その目つきは元々の海兎とは一線変わって鋭い。
他の生徒たちを睨みつけるように見下ろす姿は、まるで別人のように感じられる。
あまりの変わり様に会場中が静まり返る中、観客席の一人が呟いた。
──綺麗……。
その小さなつぶやきを皮切りに会場に大歓声が巻き起こった。
『おいおい、月下!?何だそれ!?変身とか超イカスじゃねえか!!』
『乗り越えたか……』
プレゼント・マイクが盛り上げる隣で、相澤は一人ニヤリと笑う。
覚悟を決めろとは言ったがこんなにも早く乗り越えるとは思わなかった。
どうしようも無ければバッサリと除籍にするつもりだったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
しかし、生徒たちは驚いているだけにはいかない。
「何だあれ!?月下のやつあんな事もできたのか!?」
「何かヤバそうだぞ!?」
その場の全員が注目する中、海兎は突然
「お、おい!?落ちちまうぞ!」
「騎手が落ちたら失格だぞ!?」
そのまま地面に激突するかと思われた瞬間、軌道を変えてこちらに突っ込んできた。
『なっ!?月下お前飛べんのかよ!?」
『麗日の個性……じゃねぇな。どんな仕組みだ?』
地面スレスレを飛びながら海兎は騎馬の集団に迫る。
「来たぞ!?」
「ハッ!叩き落としゃあ終わりだろ」
爆豪が爆破で迎え撃つが、掠ることなく空を切った。
「なっ!?──ガッ!?」
「爆豪!?──ぐあ!?」
海兎は次々と騎馬の間をすり抜けて行き、近場をすり抜けられた騎馬はそれだけで雷撃を浴び、体が硬直してしまう。
『月下、速えぇぇ!?何あれ!?あんな速くなんの!?変身した月下、他の騎馬を電撃で拘束しながら一気に轟に迫る!!』
「来るぞ、轟くん!?」
「ああ──ッ!?」
確実にこちらに向かってきている月下に対して、いつでも動けるように構えていたが、一瞬姿を見失ったと思った瞬間、全身に激痛が走った。
(くそっ!?ふざけんな!?一瞬視界から外れただけだぞ!?)
警戒はしていた。だが、あまりにも速すぎる。このままじゃハチマキが取られるのも時間の問題……。
「と、轟!?ハチマキが!?」
そんなことを思っていると上鳴が轟の方を見ながら叫びだす。
彼は電撃に耐性があるのか他のメンバーのようにダメージは受けてないらしい。
ハチマキと言われ、痛みに耐えながらも首元に手をやると、そこにある筈のものが無かった。
(しまった!?体が麻痺して気が付かなかった……!?)
すぐに海兎の姿を探そうと辺りを見回した轟だったが、目の前の光景に言葉を失った。
「おいっ、爆豪!?ハチマキは!?」
「あん?……アアッ!?」
「あれ、ハチマキが!?」
「私も!?」
まさかと思い、月下の姿を探すとちょうど緑谷たちの騎馬に着地したところだった。
その首や腕にはたくさんのハチマキが巻き付けられている。
その姿を捉えた瞬間、無意識に左に力が入り炎が溢れる。
(ッ!?俺は何を!?)
しかし、我に返った轟はすぐに炎を消した。
「つ、つ、つ、月下さん!?それって!?」
「海兎ちゃん、まじか!?」
「私のベイビーよりも速いです!!」
「……」
『……ここまでとはな』
『おいおいおい!?誰がこんな展開予想したよ!?狙っていたのは奪われた1000万だけでは無かったのか!?月下チーム!ドン底からの大逆転!!全てのハチマキを奪取したァァァ!!!そしてこの瞬間タイムアァァァプ!!!』
「「「や、や、やりやがったァァァ!!!」」
プレゼント・マイクからタイムアップが告げられた瞬間、観客からは溢れんばかりの歓声が鳴り響き、生徒からは様々な感情が乗せられた絶叫が響き渡った。
会場からの視線を一身に受けながら海兎はニコッと笑みを浮かべた。
月下チーム 騎馬戦 第1位
今回でようやく