『さあ!早速順位を見てみようか!ハチマキは月下が全部取っちまったが、協議の結果直前までの順位で判断することにしたぜ!1位、もちろん月下チーム!2位、轟チーム!3位鉄て……アレェ!?3位、心操チーム!いつの間に逆転してたんだよ!?そして4位は爆豪チーム!以上4組が最終種目へ進出だあァァ!!』
なんとかハチマキを奪取することが出来た。危なかった……。すぐ終わるからってカッコつけといて間に合わなかったら、どんな顔して戻ればいいか……。
「す、すごいよ月下さん!!月下さんが変身能力まで持っていたなんて!見た感じ純粋に身体能力が上昇しているように見えるけど、反応速度も上がっている!?それに飛行能力まで!?あれは一体どうやって……!?」
「みどりん、落ち着いて」
「ご、ごめん!?」
また一人でブツブツと呟き始めたみどりん肩を叩き、現実に戻す。
「海兎ちゃんすごいよ!!」
「あなたを見てたら新しい発想が浮かび上がってきました!!」
三人は笑顔で私に話しかけてくる。
その顔からはこちらを恐怖している様子はない。
「ハハッ」
……そうか。結局私が怖がっていただけなんだ。
どんなに仲良くなっても、あの姿を見られたら拒絶されると思い込んでいた。
私が皆を信用出来ていなかっただけなんだ。
そう思うと、今まで悩んでいたのが馬鹿らしくなってくる。
まだ全部が解決した訳じゃないけど、それでもようやく7年前から一歩進めたと思う。
「みんな、ありがとう」
ようやく心から笑えた気がした。
昼休憩。私は透たちと昼食に向かおうとしたのだが、轟に呼び出されて、人気の少ないスタジアムの通路に着ていた。みどりんも一緒だ。
「あの……轟くん。話って何?」
「ああ……」
そこで語られたのは轟の壮絶な過去。エンデヴァーによる英才教育とは名ばかりの虐待行為。
あまりの衝撃になんて言葉を掛けたら良いのか分からない。
「だからこそ、俺は左は使わねぇ。右だけでトップになることであの糞親父を全否定する。オールマイトとなにかある緑谷と俺に勝った月下には聞いてほしかった。何か言ってほしい訳じゃねぇんだ。……二人共時間取らせて悪かったな」
伝えたかったことは言い終えたのだろう。私達に背を向けようとしたが、その前にみどりんが口を開いた。
「僕はずっと助けられてきた。……僕は誰かに救けられてここにいる」
私と轟がみどりんの方を見ると、彼は自分の両手を見ながら何かを思い出すように話し出す。
「オールマイトのようになりたい。そのためには1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない。でも、僕だって負けられない。僕を助けてくれた人たちに応える為にも……!さっき受けた宣誓布告、改めて僕も。……君たちに勝つ!」
そう告げるミドリンの目からは強い意志と覚悟が感じられた。
騎馬戦で私が諦めかけたときに見せた顔。
こういう人がヒーローと呼ばれるんだろう。
「……そうか」
緑谷からの宣誓布告を受けた轟は一つ頷いた後、チラッと海兎の方に視線を移すが、複雑そうな顔をしながらも何も言う様子がないのを確認すると、今度こそ二人に背を向けて去っていった。
「……月下さん?」
轟がいなくなってからもずっと何かを考え込んでいる様子の海兎に思わず緑谷が声を掛ける。
「……え、あ、どうかした?」
「えっと、僕も昼食を食べに行くけど。……大丈夫?何か考え込んでたから」
「全然大丈夫だよ!ちょっと轟の話にびっくりしちゃっただけだから。私達も早く食堂行こっ!」
「う、うん」
(一瞬月下さんの様子に違和感を感じたけど、気のせいかな……?)
緑谷はどこか引っかかるものを感じつつも、あのような話を聞いていつもどうりでいられる方が無理な話だろうと納得して食堂に足を向ける。
緑谷の後ろに続きながらも、海兎の頭にあるのは先程の轟の過去についてだ。
エンデヴァーのことはNo.2ヒーローであることしか詳しくは知らない。
それでも轟の話を聞けば、誰もがエンデヴァーに強い嫌悪感を覚えるだろう。ヒーロー科の人間なら尚更だ。
もちろん、私も会ったことは無くとも、いい気分ではない。
彼の職業が自分の目指すヒーロー、それもNo.2のトップヒーローだというのもあるだろう。
だからこそ、嫌悪感を抱きながらもほんの少しでもこんなことを思ってしまった私は普通では無いんだろう。
あんな話を聞いて一瞬でも“羨ましい”なんて思ってしまった私は……。
昼休憩。人混みに溢れた食堂で透が席を取っておいてくれたおかげでなんとか座ることが出来た。
轟から何の用だったのかと聞かれたが、人の家の事情を勝手に言うわけにもいかないので控室での宣誓布告と同じ様な内容だったと誤魔化しておいた。
混雑している中で席を占領し続けるのも悪いので食事が終わった海兎と葉隠はスタジアムの方に向かうことにした。
すると、道中で何やらA組の女子たちが集まっているのが見えたので、気になった二人もそちらに近付いて行く。
「みんな集まってどうしたの?」
「あっ、海兎ちゃん!それに透ちゃんも!実はレクリエーションの間、女子は全員チアの格好で応援しないといけないらしくて……!」
「えっ、そうなの?そんな話聞いてないけど……」
「うん、ウチらも知らなかったんだけど、相澤先生がそう言ってたらしいんだ。衣装はヤオモモが作ってくれるって」
「相澤先生が?」
あの合理性主義の相澤先生が伝え忘れるなんてことがあるのだろうか?しかも衣装の準備もせずに?
海兎はそんな疑問を抱くも、実際に相澤先生がそう言ったのならそうなのだろうと納得して皆と更衣室に向かっていった。
この時、相澤に一言確認をしていれば、そうでなくとも峰田から間接的に伝えられた内容だと聞いていれば、勘の良い海兎なら気付くことが出来ただろう。
『さあ、そろそろ午後の部を始めるぜ!──って、どうしたA組!?』
『……何してんだ、あいつら』
昼休憩も終わり、いざ始めようと気合を入れるプレゼント・マイクと気怠げにする相澤の目に飛び込んできたのはチアの格好で呆然と立ち尽くしているA組の姿だった。その手にはご丁寧に黄色いボンボンまである。
「……チアの格好してるの、私達だけじゃない?」
周りを見回して全員が思っていたことを海兎が口にする。
それを聞いた瞬間、八百万がその場に崩れ落ちた。
「峰田さん、ハメましたわね……」
海兎がA組男子の方に視線を向けると峰田と上鳴がこちらを凝視しながら満足そうな顔を浮かべていた。
なるほど。どうやら峰田と上鳴が相澤先生の名前を使ったんだろう。
峰田に関しては先程の騎馬戦で相澤先生に縛り上げられたばかりだと言うのに……。
「アホだろ、アイツら……」
「まあ、騙されちゃったものはしょうがないし、どうせならやっちゃおう!」
ボンボンを投げ捨てて恥ずかしがっている響香とは対称的に透は既に切り替えてやる気を見せている。
私もどうせなら楽しんだ方が良いかなと透の隣で体を動かし始める。
『おいおい、いい感じに盛り上がってきたじゃねぇか!A組女子が応援してくれるってよ!皆楽しく競い合えよレクリエーション!!そんでもってそれが終われば最終種目!進出4チームからなる総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!』
今までの競技形式とは違い、正真正銘、一対一の真剣勝負。
今まで以上の盛り上がりが期待できる内容に観客の歓声が会場に響き渡った。
とあるビルの一室、そこにある薄暗いバーのカウンターでテレビを見る二人組がいた。体中に手を付けた不気味な男とモヤを纏った男。雄英高校襲撃の主犯である死柄木弔と黒霧だ。
「あれがツキシタミト……ね。俺に黙って脳無を送り込んだっていう
「ですから、何度も謝罪しているではありませんか」
テレビから視線を移して此方を睨みつけてくる死柄木にため息をつく黒霧。
雄英襲撃の際に死柄木に黙って計画を実行したのだが、ある日の出来事がキッカケでバレてしまった。
というのも、オールフォーワンを含む3人で今後の計画について話していた所、突然ドクターがやってきて『先生、この前回収した脳無なんじゃが……』と口を滑らしてしまったのだ。
"回収した脳無"というワードにオールマイトに吹き飛ばされて回収出来なかったのでは?と疑問に思った死柄木は黒霧に問いただした。
黒霧も適当に誤魔化せば良かったのだが、意外にもアドリブに弱いのか『そ、それは……』と言葉に詰まってしまった為、流石の死柄木も何かあると察してしまった。
元々は必要ないと判断して話していなかっただけで、知られてはいけないという訳ではなかった為、オールフォーワンが全てを話したのだが、自分だけ除け者にされたことが気に入らないのか、ネチネチと黒霧に嫌味を言い続けているらしい。
「それにしても、先生がわざわざ脳無を用意するくらいだからどんなもんかと思っていたが、それ程の奴か?」
確かに、騎馬戦での変身能力には驚かされたが、特別警戒しなくてはいけない程には感じられなかった。あのスピードは厄介だが、オールマイトに比べれば差は歴然だ。
すると、死柄木たちが見ていたテレビとは別のテレビから声が聞こえてきた。
『確かに、今の彼女を見ただけではそう思われても仕方がないね』
「何だよ、何か別の理由があるのかよ、先生」
『彼女はまだ、自分の本質を理解していないだけだよ。抵抗せずに受け入れてしまえば、彼女はもっと高みに登れる。……それに僕が彼女に期待しているのは何も戦闘能力だけじゃない」
「期待?どういうことだ?」
てっきり自分たちの将来的な障害となる存在として警戒しているのかと思ったが、期待しているとはどういうことなのか。
『彼女は言わば僕たちが次の
「鍵?」
どういう意味なのかと問いかけるも『いずれ分かるさ』とはぐらかされてしまった。
黒霧に目を向けるがコイツも詳細は知らないらしい。
「……まあいい。俺は目障りな奴らを殺せればそれだけで十分だ」
その言葉にオールフォーワンは笑みを浮かべる。
『ああ、その通りだ弔。お膳立ては僕に任せてくれればいい』
死柄木との通信を終え、一息ついたオールフォーワンは傍に置かれた一冊の本を手に取る。
かなり年季が入っているのか、ボロボロで所々文字が掠れて読めなくなっている。
しかし、本をパラパラとめくるオールフォーワンの表情はまるで新しい玩具を与えられた子供のようだ。
その様子を見ていたドクターが呆れたようにため息をこぼした。
「またその本か。最近は暇があれば見ているが、飽きないか?」
「全然。ドクターだって初めて見たときは僕から奪い取る勢いだったじゃないか」
「それはそうじゃが、何度も見てれば飽きる。というか、もうほとんど読めないだろう?レプリカを読めばいいじゃないか」
「分かってないな、ドクター。オリジナルでしか味わえない雰囲気というものがあるんだよ」
「ふむ、ワシには分からんな」
そう言ってドクターは仕事に戻ると言い残して部屋を出ていった。
一人になった部屋でオールフォーワンは本を読み続ける。
その本はある集団の冒険の記録を記した日誌。
とある村の少年がたった一人で冒険の旅に出て、苦楽を共にする仲間を集めながら世界中を旅する物語。
ときに強大な敵に挫けそうになりながらも仲間と共に乗り越え、いずれは”王”と呼ばれるまでの冒険記。
よく出来た作り物のような話だが、オールフォーワンはこれが現実で起こった事だと確信している。
殆どが読めなくなっている中、まだ微かに読める箇所も存在した。
ちょうど、オールフォーワンが開いているページ。そこにはこう書かれていた。
──”
オリジナルの日誌より一部抜粋。