「ほえー、おっきいなー」
ここは全国にあるヒーロー科が存在する高校の中でも最難関の雄英高校。その校門に海兎は足を踏み入れていた。
国立雄英高等学校ーーかのNo.1ヒーロー・オールマイトやNo.2ヒーロー・エンデヴァー、No.4ヒーロー・ベストジーニストの出身校であり、他にも数々のヒーローを輩出してきた名門校である。
中でも1番の人気を誇るヒーロー科は偏差値79、倍率300倍と極めて高く、ヒーローを目指す多くの中学生の憧れの地である。
口を開けて呆けていた海兎だが、続々と校内に入っていく学生達を見て、気を引き締めて歩き出す。
――のだったが、不意に一人の少年が目に入った。
モジャモジャした緑髪の少年だ。それ以外に特徴はなく、普段なら目に留まることはないだろう。ならなぜこの少年に目が行ったのか?
ぶっちゃけるとめちゃくちゃガクガクしてた。恐らく緊張からだろうがまるでスマホのバイブレーションのようである。見てるだけで心配になるレベルだ。
案の定、その少年は見事にコケた。緊張で固まっていたせいか、受け身を取る様子もなく、あのままでは確実に顔面を強打するだろう。
流石に見過ごせず、海兎は持ち前の身体能力でその少年に駆け寄り、腕を掴んで引っ張り上げようとして――そのまま空高く少年を持ち上げた。
「うわあああああ!?」
「え?」
はて?私はあくまでコケないように少し引っ張ろうとしただけなのだが何故少年は空で逆立ち状態になっているのだろうか。スゴイ軽かったんだけど。というかこの人浮いてない?
「わあああー!?ごめんなさい!私の個性なの!すぐ解くから!」
海兎が疑問に思っているとすぐ近くから丸顔の女の子が慌てて少年に手を伸ばしてきた。どうやら彼女も少年を助けようと個性を発動させて、タイミング悪くそこに海兎が入ってきてしまったようだ。
「ごめんなさい!怖い思いさせて!」
「私もごめんね!余計なことしたみたいで。」
「いやいやいや!?そもそも僕が転びそうになったのが悪いんだし!ただ助けてくれようとしただけで、僕の方こそごめんなさい!!」
「でも、間に合ってよかったよ。転んじゃったら縁起が悪いもんね。」
「何なら空に浮かび上がってたから運気も上がったかもよ。」
確かにそうかも!と盛り上がる少女達をおいて少年はさっきまでとは違う意味で固まっていた。彼女達は知る由もないが、少年は今までまともに女性と会話をしたことがなく、いきなり二人に話しかけられて、軽くパニックを起こしていた。
何故かまた固まってしまった少年を不思議に思っていた海兎だがいつまでもここにいるわけにはいかないので、二人にお互い頑張ろうねと声をかけて校舎内へと足を踏み入れた。
『今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!』
ボイスヒーロー・プレゼントマイクがハイテンションで受験生に語りかけるが、誰一人として応えるものはいない。海兎に関しては油断していたこともあり、常人よりも発達した聴力のせいで地味にダメージを受けていた。これだけの人にスルーされているのに全くテンションが下がらないプレゼントマイクは流石はプロのヒーローと言えるだろう。
『俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!”Plus Ultra”!それでは皆、良い受難を!』
プレゼントマイクの説明会が終わり、指示された試験会場にて海兎は目を閉じてその場に佇んでいた。視覚を遮断し、その特徴的な耳で周囲の音を探る。
自分の心音。周囲の受験生の会話や足音。ビルの間を吹き抜ける風。
――その風の音に紛れるように聞こえた、機械音。
その瞬間海兎は腰を落とし、前傾姿勢でいつでも飛び出せる体勢を取る。
周囲の受験生はその行動を見て首を傾げたが、彼らは後に後悔する。あのとき自分たちがすべきだったのは周りとおしゃべりするのではなく、これからの試験にソワソワしていることでもなく、海兎に奇異の視線を向けることでもない。常に気を張り巡らせてすぐに行動できるようにしておくことだったのだと。
何故ならば試験はすでに始まったのだから。
『はい、スタートー!』
その言葉が聞こえた瞬間、カッと目を開き、海兎は全力で入り口へと飛び出した。
『どうしたぁ!?実践じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられているぞ!』
その言葉を聞き、ようやく他の受験生も動き出す。
「やべぇ!出遅れた!?」
「え!?もう始まったの!?」
「しまった!油断してた!?」
「そんなこと言ってる場合か!?行け行け!!」
慌てて走り出す者を見て、続々と他の者も走り出し、最後にはモジャモジャの緑髪の少年が飛び出すことでようやく受験生全員が行動を開始した。
他の受験生が慌ただしくしている頃、海兎は背を低くしたまま市街地を駆け抜けていた。しばらくすると目の前に仮想敵と思われるロボットが現れる。
『ブッコロス!!』
人工音声でなかなかなことを叫びながら襲いかかって来る仮想敵に対して、海兎は脚を止めることなくその体に雷を纏い、更に加速する。そのまますれ違いざまに体を捻りながら速度を殺すことなく蹴りを叩き込む。
蹴りをくらった仮想敵はそのままビルの壁に激突して大破した。
「うん、そこまで頑丈でもないし、これなら全然大丈夫そう!」
そんなことを言っている海兎の背後から新たな仮想敵が姿を現して襲い掛かるが、振り下ろした機械の腕の先にはすでに海兎の姿はなかった。
「聞こえてるよ!」
その場から宙返りで攻撃を躱し、落下の勢いのまま踵落としをお見舞いした。
頭部を破壊された仮想敵はスパークを起こし、黒煙を噴き上げながら機能を停止した。
「よーし!このままガンガンいくよー!」
開幕から幸先の良い兆しに海兎は笑みを浮かべ、更にポイントを重ねるべく脚に力を込めて飛び上がる。その高さは優にビルを超えていた。
試験開始から7分程たった頃だろう。海兎は最初の勢いそのままに仮想敵を倒していた。
「これで30P!」
他の受験生よりも早くから行動を始めたにしては少し少なく感じるだろう。仮想敵を倒すことに専念していれば恐らくこの倍は取っていただろうが、海兎はその耳で助けを求める声を拾うたびにそちらを優先してきた。
(この試験ではライバル関係になるけど、だからって助けない理由にはならないよね。)
ヒーローなら目の前で助けを求める者を見捨てたりはしないだろう。たとえそれで自分のポイントが少なくなろうが海兎は構わなかった。その行為がレスキューPとして加算されているとは夢にも思っていない。
残り時間も僅かになりラストスパートに入ろうと脚に力を込めたその時だった。
突然会場全体に轟音が響き渡り、他の受験者の悲鳴が聞こえてきた。
「えっ!?何この音!?」
海兎は状況を確認するために持ち前の脚力で飛び上がった。そして海兎の目に飛び込んできたのは周りのビルの大きさを超える巨大なロボットだった。
「もしかしてこれが0Pの仮想敵!?いくらなんでもでかすぎでしょ!?って、あれは!?」
あまりの大きさに驚愕している海兎だが、すぐに別の光景が目に飛び込んで来た。
「痛ッ!」
仮想敵の進行方向には朝に会った丸顔の少女が倒れていた。どうやら仮想敵が暴れたことで崩れた瓦礫に脚が挟まれ、動けなくなっているようだ。仮想敵は気付いているのかいないのか真っ直ぐ少女に向かっている。
「マズッ!?」
すぐに飛び出すが少女とは距離が離れており、このままでは間に合わないことを直感し、海兎の表情が歪む。
(ダメッ!!間に合わない!?もう"アレ"を使うしか……)
しかし海兎にはこの状況を打破できる手が一つだけあった。だがそれを使って助けたとしてその先はどうなる?また拒絶されるのではないか?あの苦しみを、絶望を、また味わうことになるのではないか?
一瞬の躊躇い、一秒にも満たないその逡巡が彼女と彼の大きな差を生み出した。
海兎の目の前をものすごい勢いで一人の少年が横切った。仮想敵の目の前まで飛び上がった少年は大きく右腕を引き絞り……
「SMAASH!!!」
少年の一撃はたやすく仮想敵を粉砕した。その威力に海兎は目を大きく見開いた。仮に”アレ”を使ったとしても一撃であそこまでの威力を出すことは自分にはできないだろう。
驚愕の視線を向けていたが、少し少年の様子がおかしいことに気付く。落下を始めた少年が着地の姿勢を取る素振りを見せないのだ。よくよく見れば右腕が変色するほど腫れ上がり、脚も力が入ってないように見える。
「ウソッ!?ホントに落ちてる!?」
海兎は慌てて走り出し、なんとか少年を受け止めようと手を伸ばす。しかし、ほぼ同時に瓦礫から抜け出した少女も少年に向けて手を伸ばしており、ビンタする形にはなってしまったが、なんとか個性を発動することに成功する。
そこまでは良かったが、ビンタした方向に海兎がおり、受け止めようとしていた少年の急な方向転換に反応できず、額同士を激突させ、その場に崩れ落ちた。少女も個性の副作用なのか突然顔色を悪くし、その場に嘔吐し始めた。
額を押さえて悶絶する海兎と少年、嘔吐する少女。巨大仮想敵を一撃で粉砕した光景に驚愕しながらも、急にコントのようなことをしだした3人に目が点になる他の受験者達。
『終了ー!!』
なんとも言えない空気の中、プレゼントマイクの声が響き渡った。
ONE PIECEを読んでいる方ならお分かりでしょうが、”アレ”とは”アレ”のことです。
”アレ”に関しては発動条件にオリ設定を組み込ませてもらってます。