「それじゃあ、くじ引きで組み合わせを決めるわよ。まずは一位の月下チームから順に……」
「あの……スンマセン。俺ら辞退します」
壇上に上がったミッドナイト先生に呼ばれたので前に出ようとしたら突然辞退を申し出る生徒が現れた。
声のする方に視線を向けると、そこには同じクラスの尾白が。隣にはB組の生徒もいる。
ミッドナイトが理由を聞くと、彼らは騎馬戦の記憶が無いらしく、気付いたら勝っていたらしい。
自分の実力で勝ち上がった訳では無いことに納得できず、このまま黙って本戦に出場するのはプライドが許さない……ということらしい。
結果として、ミッドナイトが二人の辞退を認め、繰り上がりでB組の生徒が二人本戦に出場することに決まった。
「鉄哲くんと塩崎さんが繰り上がって16名が揃ったわ!全員にクジを引いてもらい、組み合わせはこうなりました!」
第1試合 緑谷 対 心操
第2試合 瀬呂 対 轟
第3試合 上鳴 対 月下
第4試合 飯田 対 発目
第5試合 芦戸 対 塩崎
第6試合 常闇 対 八百万
第7試合 鉄哲 対 切島
第8試合 麗日 対 爆豪
「初戦は上鳴か……」
スクリーンに表示されたトーナメント表を見て、思わず私は一人呟く。
これは……なんというか……えーと……。
とりあえず対戦相手である上鳴の方に視線を向けると、上鳴はスクリーンを見たまま固まっていた。いや、よく見ると尋常ではない汗をかき始めている。
しばらくすると油の切れたロボットのようにギギギっと首をこちらに向けてきた。
とりあえず、笑顔で返すと「ひいっ!?」と怯えられた。失礼な!?
一回戦。みどりんが勝利を収めたものの、かなり危ない試合だった。
個性【洗脳】。相手の言葉に応えただけで洗脳することが出来るとか、強すぎない?
事前情報がなければ間違いなく無敵だろう。
入試がロボじゃなかったらヒーロー科にいたんじゃないだろうか。
というか、何でみどりん動けたんだろ?
3回戦は私の番なので2回戦が始まる前に控室に移動する。
控室に入り、軽く準備運動をしながらテレビで轟と瀬呂の試合を見ていたのだが、一瞬でテレビ画面いっぱいの大氷結が繰り出された。
まさかの瞬殺。会場からは瀬呂に向けてどんまいコールが送られる。
どんまい、瀬呂。
『さあ、どんどん行くぜ!次はこいつらだ!!スパーキングキリングボーイ!ヒーロー科!上鳴電気!──対するは、変身したら美人系!ヒーロー科!月下海兎!》』
プレゼント・マイクの実況を聞きながら、海兎がスタジアムに入ると、観客からの大歓声が響き渡った。
そんな観客を他所に海兎は上鳴に視線を向けると、先程の態度とは打って変わって、何やら自信満々な表情をしている。
この短い間に何があったのだろうか?
ともあれ、油断はしないが……。
『レディィィ、スタートッ!!』
試合が開始し、上鳴に向けて飛び出そうとした海兎だが、いきなりその上鳴が声を掛けてきた。
「悪いな、月下。この試合、俺が勝つぜ!」
「随分自信満々だね。さっきはひいって言ってたくせに」
「そ、それは忘れろ!?……確かに最初こそ絶望したよ。相性最悪だーってな。でも俺はお前の弱点を見つけてしまった」
「弱点?」
弱点って何だろう?そりゃ、私も無敵じゃないんだから相性の良し悪しくらいはあるけど……。
「これがその弱点だ!──無差別放電130万ボルト!!」
会場をすさまじい雷光が襲う。
その光景を見ながら私は思った。
──それ、私に効かないよ?
「えーと、つまりだな。騎馬戦の時、俺の放電をわざわざ雷出して相殺してたろ?だから、自分が出した雷以外の耐性はないのかな〜と思った次第でありまして……」
「馬鹿じゃないの?」
「うぐっ!?」
容赦の無い響香の言葉が上鳴の胸に突き刺さる。
「というか、仮に効いたとしても、何で全力でやったんだよ。ウェイになってちゃ勝てねえだろ」
「ぐぎっ!?」
更に砂藤が追い討ちを掛ける。
「雑魚が」
「うわあぁぁぁ!?」
そこに爆豪がトドメを刺した。
上鳴との試合だが、危なげなく私が勝った。
というか、上鳴が勝手に自滅した。
全力で雷をぶっ放して、ウェイになってたところを普通に投げ飛ばした。
流石のマイク先生もなんて言えばいいのか分からなかったのか『オ、オウ』としか言ってなかった。
「騎馬戦で相殺してたのは騎馬のみどりん達を守ってただけなんだけど……」
「普通、その程度分かると思うんだが……」
「カッコ悪かったネ☆」
私の言葉に続く常闇と青山の声に、とうとう頭を抱えてその場に蹲ってしまった。
彼がここまで落ち込んでいるのは、クラスメイトから辛烈な言葉を掛けられているからというのもあるが、自分の失態が全国に放送されてしまったことも起因しているだろう。
試合開始前にドヤ顔で勝利宣言しておきながら自滅とかかなり恥ずかしいだろう。
「どんまい」
とりあえず、何となく居た堪れない気持ちになった海兎は一言慰めの言葉を掛けておいた。
そのまま順調に試合が進み、上位8名が出揃い、試合は第2回戦に突入する。
2回戦の第1試合、緑谷対轟の試合は終始苛烈な展開だった。
何よりも驚いたのは轟が
轟の事情は昼休憩のときに聞いた。
だからこそ、その決意は固く生半可なものではないだろうと思っていたのだが、みどりんの言葉が彼に届いたのだろう。少しだけ憑き物が落ちたような顔付きになっている。
そんなことを考えていたら私の番が来たようだ。
『2回戦、第2試合!月下海兎 対 飯田天哉!どっちも前の試合は色々あったが、全力でぶつかってけよ!!』
プレゼント・マイクの実況を聞きながらも飯田は目の前の海兎を静かに見つめる。
(彼女の速さは驚異的だ。トップスピードは僕よりも上回る。しかも雷を纏われたら近付くのも難しいし、離れたらそれこそ彼女の独壇場だろう。……だが)
飯田はこれまでの海兎の動きを見ていて気付いたことがある。
彼女はその驚異的な速度や跳躍を見せるときは必ず動作の前に溜めが存在した。
人はどんなに強いパンチを放てようが、目にも止まらぬ速さで走ることが出来ようが、必ず予備動作が必要になる。
パンチなら腕を引く、走るなら上体を倒すと言った具合だ。
彼女も例外ではない。
──しかし自分は違う。
(僕の【エンジン】なら開始と同時に一気に0から100まで上げることができる。50mを走り切る前には抜かれてしまったが、初速度は間違いなくこちらが上だ)
飯田の策は単純明快。やられる前にやる。それだけだ。
(君には悪いが一撃で終わらせてもらう!)
『スタートぉぉぉ!!』
──トルクオーバー レシプロバースト
騎馬戦でも使った飯田の奥の手。
本来の用途とはかけ離れており、一度使えばエンストしてしばらくの間使い物にならなくなる諸刃の剣。
しかし、その加速は全てを置き去りにし、観戦に来ていたプロヒーローでさえも、目で追えたものは片手で数えられる程だろう。
狙いは頭。脳震盪を起こして、場外まで一気に押し出すつもりだ。
そんな絶対の自信を持って放たれた一撃はそのまま海兎の頭に迫る。
ここにきてようやく海兎は目の前の飯田を認識する。
しかし、もう遅い。
(捉えた!)
そう、確信を持った飯田が──
──吹き飛ばされた。
「ッ!?──ガハッ!?」
な、何をされた!?反撃したのか、あそこから!?
『な、何が起こったぁぁぁ!?飯田が先制を仕掛けたと思ったらふっ飛ばされたぞ!?』
『飯田の攻撃を予測していた……?にしては直前の反応に違和感が……』
飯田はすぐに立ち上がろうとするが、顎をかち上げられて脳が揺れたのか、うまく立ち上がれない。
すかさず海兎は飯田に接近し、左手で肩を掴み、右手に雷を纏わせる。
「私の勝ち、だね!」
「……降参する」
こうなっては完全に詰みだろう。飯田は潔く負けを認める。
「飯田くんの降参により、勝者!月下さん!」
ミッドナイトの宣言により会場から歓声が巻き起こる。
今の試合を完全に理解している者は極少数だが、それでも目にも止まらぬ攻防に惜しみない拍手を二人に送る。
「手を貸すよ。ごめんね、思いっきり蹴っちゃったけど大丈夫?」
「それはお互い様さ。それにしても反応されるとは思わなかったんだが……」
「ああ、それなら──」
まだ、体の感覚が戻りきっていない飯田に肩を貸しながら、海兎は語る。
まず、飯田が開幕に仕掛けてくる可能性は海兎も考えていた。
しかし、考えついても反応出来ない可能性も考えていた。
だからこそ飯田の動きを見てから判断するのは諦めた。
「……は?諦めたって、実際に君は俺の攻撃を見切って……」
「うん。だから
「あ、ああ。そのくらいなら知っているが、それが──ッ!?ま、まさか!?」
”電気”の信号。飯田は目の前の少女の個性を思い出して、一つの結論にたどり着く。
「やっぱり飯田は頭いいね!そのまさかだよ。私は最初から用意していただけだよ。飯田が接近してきたときの反撃──」
──その電気信号を……。
今度こそ飯田は絶句した。海兎は簡単にいうが実際にやろうとしたら生半可なことではない。
そもそも脳については未だに解明されてないことが多く、一言に電気信号と言ってもただ電気を流せばいいという訳ではない。
しかし、わざわざ脳からの指令を待つ必要がない分、その恩恵は絶大だ。
それを海兎は出来る。つまり彼女の反射速度は普通の人間よりも圧倒的に──
「あっ、ちなみに普段は使い物にならないから使わないんだけどね」
「……へ?」
思わず、呆けた顔で海兎に視線を向ける飯田。
あれ程の技能を使わない理由が全く思いつかない。
そんな飯田の心情を察したのか、海兎は苦笑しながら説明する。
当初は海兎も常時使用するために編み出した技なのだが、あまりにも繊細な電気のコントロールを必要とする為、動きながらの使用は出来なかった。
その上、複雑な信号は出すことが出来ず、今回もあくまで『
「──っていう感じで、フェイントを入れられたり、奇策で来られたら対処出来ないってこと。動けないからどうしても受けの体勢になっちゃうしね」
海兎の説明を聞いて飯田も納得する。
確かにそれなら実戦で使う機会はあまり無いだろう。言ってしまえば博打のようなものだ。
ただし、相手の動きを完全に予測出来ていれば、これ程有効な手段はない。つまり──
「俺はそんなに分かりやすかったか?」
「うん。飯田、めちゃくちゃ真面目だしさ」
こちらの作戦は完全に読まれていたということだ。
仮に読まれていたとしても騎馬戦で反応出来ていなかったことから問題はないと高を括っていた自分の落ち度でもあるだろう。
試合が始まる前に自分は負けていたことに気付いてズーンと落ち込む。
「そ、そうか。僕もまだまだ精進が足りないな。次は轟くんとか。強敵だが頑張ってくれ」
「うん!」
轟は強敵だ。
場合によっては
(それでも、もう迷いはしないし、今の私の全力でぶつかるだけだ)
そんな決意とともに海兎は飯田と共にスタジアムを後にした。
初戦、二回戦と瞬殺。最初はそんなつもりじゃなかったんですが、気付いたら終わってました。