雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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今回少し長めです。


決勝トーナメント〜全力全開〜

 スタジアムを後にした海兎は飯田を念のため保健室に連れて行こうとしたのだが、本人が頑なに大丈夫と言い張るので、もし不調が出たらすぐに行くように約束を取り付けて一緒に観覧席に戻ることにした。

 

「ん?母さんから電話だ。すまない月下くん、先に戻っていてくれるか?」

 

「オッケー。体調悪くなったらすぐ保健室行くんだよ?」

 

「ああ、分かってる」

 

 母親から電話がかかってきたらしく、離れていった飯田を見送って、一人で通路を歩いていると、前方に誰かが背中を向けて立っているのが見えた。その見覚えのない姿に海兎は首を傾げる。

 

(ここは関係者以外入れない筈だけど……雄英の教員かな?)

 

 雄英の教員は全員がヒーローというわけでは無い。なので自分の知らない大人が居てもおかしくは無い。

 しかし、近づいていくとそれが自分の知っている人物であることが分かった。

 

「おお、来た来た。月下海兎くん、待っていたよ」

 

 振り返ったその人物はオールマイトと遜色ない程の巨体に、今もその体から相手を威嚇するかのように吹き出ている炎。見間違える筈がない。

 No.2ヒーロー・エンデヴァー。

 

「……どうも」

 

 少し前の海兎ならもう少し愛想の良い挨拶をしたのだろうが、轟から話を聞いた今となってはあまり好意的に対応することは出来ない。

 しかし、そんな海兎の反応も気にしていないのか、エンデヴァーは笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「普通の異形型かと思ったが、雷を扱い、尚且つ変身能力まで有するとは。騎馬戦での動きは素晴らしかった」

 

「はあ、ありがとうございます」

 

 突然現れたかと思ったらいきなり自分を褒めてくるエンデヴァーに困惑する。

 わざわざそんなことを言うためにここまで来たのだろうか?

 一瞬、意外と律儀な人なのかな?と思った海兎だったが、すぐにそれは勘違いだと知ることとなる。

 

「君なら"くだらん反抗期"を抜け出した焦凍の相手に相応しいだろう」

 

「……はい?」

 

 "くだらん反抗期"?まさか左を使ってこなかったことだろうか?でもそれは……。

 

「アレはオールマイトを超えるために作った私の『最高傑作』だ。今までは右しか使っていなかったが、左を使えばあんな無様を晒すこともなかっただろう」

 

 そう言い切るエンデヴァーは自らの発言に何も疑問を持っていない様子だ。

 轟から話は聞いていた。だから今更驚くことはない。それでも自分の息子をまるで道具のように扱うエンデヴァーに顔をしかめる。

 

「さて、時間を取らせて悪かったね。試合頑張ってくれたまえ」

 

 言いたいことは全て言い終わったのか、早々に海兎に背を向けて歩いていった。

 

「……父親、か」

 

 その背中を見ながら海兎はポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

『さあさあ、いよいよトーナメントも大詰め!準決勝だ!!まずはコイツら!轟焦凍 対 月下海兎!!』

 

 観客が待ち望んでいた試合にスタジアムの熱気が更に高まる。

 片や、圧倒的な火力を誇る轟と片や、最速の脚を持つ海兎。

 誰もが固唾を飲む中、ついにその試合が今──

 

『スタァァァトッ!!』

 

──始まった。

 

 開幕と同時に轟の氷結が迫るが、予想できていた海兎は難なく躱す。

 しかし、追いかけるように轟は氷を出し続ける。

 どうやら、こちらに近付けさせないつもりらしい。

 だが、海兎も避けているだけでは終わらない。一瞬の隙を突き、轟に向けて電撃を撃ち出す。

 

「チッ」

 

 躱すのは無理と判断した轟は目の前に盾のように氷壁を形成して防ぐ。

 

(ここだ!!)

 

 轟が氷壁で防ぐのは予測済み。海兎が狙ったのは轟の視野を無くすことだった。

 狙うは轟の左、氷の届かない領域。

 一瞬で轟に接近し、氷の壁を回り込もうとした海兎を──

 

──爆炎が襲いかかった。

 

「ッ!?──熱っ!?」

 

 ギリギリなんとか下がることで直撃は避けたが、まさかいきなり使ってくるとは……。

 溶けていく氷壁の後ろから炎を纏った轟が姿を現した。

 

「わりぃな。直前まで使おうか悩んでたんだが、お前には入学してから負け続けてるからな。どうやら俺は案外負けず嫌いだったらしい。だから……」

 

──お前も全力で来い。

 

 瞬間、スタジアムを覆うほどの大氷結が放たれた。

 

『うおぉぉぉ!?またやりやがったぜ、轟!こりゃあ瀬呂の二の舞か!?』

 

『いや、ギリギリ跳び上がって躱したな。上、見てみろ』

 

 相澤の声に観客が上に視線を移すと巨大な氷山の頂点に海兎が着地したところだった。

 

(”全力で来い”か……。轟が言っているのは騎馬戦で使ったアレのことだろう)

 

 轟がどれだけエンデヴァーのことを嫌っていて、左を使うのに抵抗があったのかはあのときの表情を見れば簡単に察する事ができる。

 それなのに私に勝ちたい、それだけのために解禁した。

 ホントに、みどりんとの試合の後からまるで別人のようだ。

 

(それほどの覚悟を見せられたら、応えないわけにはいかないよね!)

 

 氷山の頂点で佇む海兎の体が帯電を始める。

 それを見た観客が次の展開を察知して期待に胸を膨らませる。

 

「ガオオオオオオオオオオオ!!」

 

 会場に響き渡る咆哮。目が眩む程の雷光がその場にいる全ての者に襲いかかり、その衝撃で氷山の上部が弾け飛んだ。

 光が収まると、そこには真の姿を開放した海兎の姿があった。

 

「グルルル……」

 

 こちらを威嚇しながら睨みつけてくる海兎の姿を捉え、自然と体に力が入る轟。

 騎馬戦では一瞬の出来事だった為にあまり意識していなかったが、こうして改めて見ると凄まじい威圧感だ。

 そんなことを思いながらも轟は一瞬たりとも海兎から目を離さない。その姿を見失えばどうなるかは身を持って知っている。

 砕けた氷山の上で轟を見下ろしていた海兎だったが、その場にしゃがみ、両足に力を込める。

 

(──ッ来る!!)

 

──瞬間、大気が爆ぜ、弾丸と化した海兎が轟に突っ込んだ。

 

 そのあまりの勢いに天高くそびえる氷山は海兎の踏み込みに耐えきれず崩壊した。

 

「グッ!?」

 

 全力で体を横に投げ出すことでギリギリ回避することは出来たが、轟の表情からは動揺が隠せない。

 

(分かっちゃいたが、速すぎる!?目で見てからじゃ間に合わねぇ。あいつの挙動から次の動きを予測しろ。さっきみたいに氷壁で防ぐのはダメだ。視野を無くすのはただの自殺行為だ)

 

 困惑しながらも思考は止めること無く、次の一手を予測する轟。

 しかし、覚醒した(海兎)はいとも簡単に()の予測を越えてくる。

 

「なっ!?」

 

 地面に着地した海兎は轟が避けるのは想定済みだったのだろう。あの勢いで突っ込んでいながら、着地と同時に方向転換。一瞬で轟に接近した。

 あまりにも人間離れした動きに思考が停止し、体が硬直してしまう。

 このまま一撃を喰らうかと思われた瞬間、轟の右から冷気が吹き出し、海兎との間に氷壁を形成した。

 

(──ッ!?俺はバカか!?)

 

 あれだけ視野を無くしてはダメだと言い聞かせてきたのに、窮地に陥り、咄嗟に右を使ってしまった。

 氷壁に遮られ、轟からは海兎の姿が確認できない。ただでさえ、目で追うのも難しい速度なのだ。その姿を見失いなどしたら……。

 慌てて、周囲をキョロキョロと見回す轟が後ろを振り向くと、血を連想させるような真っ赤な瞳と目が合った。

 

「しまっ──!?」

 

 すでに海兎は脚を振り上げている。轟は自分に迫る一撃を頭では認識しながらも体が動くことはない。

 そのまま蹴り飛ばされてしまうかと思われた瞬間、轟の意志とは関係なく、その体が一瞬宙に浮き、背中から地面に倒れる。

 微かに前髪を掠りながら、海兎の剛脚が空を切る。その余波だけで観客席に突風が吹き荒れる。

 

「ッ!?──クッ!?」

 

「……へぇ」

 

 確実に捉えたと思ったのだが、まさか躱されるとは思っていなかった海兎は思わず感心の声を上げる。

 背中から倒れた轟だが、すぐに態勢を立て直し、海兎から距離を取る。

 

『シヴィィィィィ!!いきなりの怒涛の展開に実況が追いつかねぇぜ!?月下相変わらず速ぇ!?つーか、轟も今のよく躱したな!?』

 

『いや、躱した訳じゃないな。運が良かっただけだろう。足元見てみろ』

 

『ん?あれは……』

 

 相澤の言葉にプレゼント・マイクが視線を向けると、ちょうど轟が立っていた場所、そこが薄く凍りついていた。

 

『さっき炎で溶けた氷が多少残ってたようだな。……で、運良くそこを踏んですっ転んだってとこだろ』

 

『なるほどな!まあ、運も実力の内ってな!だが、防戦一方だぞ。どうする轟!?」

 

(危ねえ、足滑らせてなかったら終わってた。くそっ!全く付け入る隙がねぇ。どうすればあいつの速さに……ん?)

 

 一人冷や汗をかきながら逆転の手を考えている轟だったが、ここである事に気付く。

 

──何故、自分はあいつのスピードに対応しようとしているのか……と。

 

 飯田ですら全く反応出来ていなかった速度だ。此方の攻撃が当たらないのなら、躱せない状況を作ればいい。わざわざあいつの土俵に立つ必要はない。

 

(一か八かの賭けになるが、やるしかない!)

 

 轟の目に強い意志が宿り、海兎も何かしてくることを感じ取り、いつでも動けるように身構える。

 すると、突然轟の右から冷気が吹き出し始め、辺り一面に氷壁が出現、ドーム状となって轟と海兎を覆っていく。

 それだけに留まらず尚も轟からは冷気が放出され続け、周囲に氷が形成され続ける。次第にドーム内の温度が急激に下がり始める。

 ここに来てようやく海兎は轟の狙いに気付いた。

 

『こいつは……いわば巨大な冷凍庫だな。なるほど、轟の狙いは体温の低下による月下の行動不能か』

 

 相澤の言う通り、轟の狙いは氷結で拘束するのではなく、冷気による体温低下だ。

 人は低体温時、身体機能が大きく下がる。轟はそこを狙った。

 しかし、それが分かって黙って見ている者はいない。

 すぐに、轟に攻撃を仕掛ける海兎だが、冷気の中心にいる轟を中心に何層もの氷の壁が形成されていく。

 その硬度は今までの比ではなく、更に壊した氷壁が即座に再生している。

 冷気の発生源の轟には手が届かず、今この瞬間も海兎の体温は奪われ続けている。

 

「さみぃぃぃぃ!?」

 

「冷気がここまで!?観客席でこれならステージは一体どれほどの……」

 

 あまりの寒さに観客も体を丸めて縮こまる。そんな絶望的な状況の中、海兎は──

 

──獰猛に笑った。

 

(──上等!!)

 

 轟が閉じこもる氷壁に向けて渾身の蹴りを打ち込む。破壊された氷壁の一部が再生を始めるが、構わず鋭利に伸びた爪で切り裂く。その後も海兎の猛攻は止まらない。

 

(頑丈?再生?関係ない!それを上回る威力と速度で破壊し続ける!!)

 

『ラッシュ!ラッシュ!ラーッシュ!!月下怒涛の猛ラッシュ!!確実に一枚一枚氷壁を破壊していく!!』

 

「すごいすごい!海兎!!」

 

「おいおい、てっきり轟の作戦勝ちかと思ったがやっぱ月下か!?」

 

「……しかし、こうしている間にも海兎さんの体温は奪われ続けてます。動けなくなってしまうのは時間の問題かと……」

 

 少しずつだが、確実に進み続ける海兎を見て、勝利を予感する芦戸と上鳴に対して海兎も限界が近いことを察する八百万。

 

「なら、このまま突破出来てもまだ無傷の轟には勝てねぇな!」

 

「……無傷な訳ねえだろ」

 

 八百万の言葉を聞いてそんなことを言い出した峰田だったが、意外にも爆豪がそれを否定した。

 

「ハア!?無傷だろ!?轟はまだ試合が始まってから一撃も喰らってないんだぜ」

 

「いや、それは違うよ峰田くん。確かに月下さんの攻撃は受けてないけどこの寒さだ。轟くんも動きが悪くなる……どころじゃないと思う」

 

 反論する峰田に緑谷が説明する。

 本来、左を使うことで体温調節を行える轟だが、この状態で使ってしまえば、海兎にも恩恵を与えてしまい、何より脆くなった氷壁を一瞬で突破されるだろう。

 

「もうどちらも限界が近い。勝敗が着くのは時間の問題だと思う」

 

 緑谷の言う通り、二人はもう限界が近かった。

 海兎は体温の急激な低下と個性の限界により既に意識を失いかけている。

 轟は自身の体すら凍りつき始め、感覚が無くなってきている。

 それでも、海兎は攻撃の手を緩めることはなく、轟も氷結の発動を止めない。

 

(ッ意識が飛ぶ!でも負けられない!証明するんだ、私は……!)

 

(諦めてたまるか!あのクソ親父は関係ねぇ!俺は、俺だって……!)

 

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

 二人の咆哮が会場に響き渡る。

 

「頑張れぇ!!」

 

「どっちも負けんなぁ!!」

 

 二人に触発されるように観客からも声援が響き渡る。

 

「いっけー!海兎ぉ!!」

 

「月下さん!!」

 

「轟、男だろ!!」

 

「轟さん!!」

 

 A組もそれぞれ思い思いの声を上げる。いや、A組だけじゃないB組もヒーロー科以外の生徒からも声援が飛び交う。

 

『攻めが果てるか、守りが果てるか!?これはもう意地と意地のぶつかり合いだ!!二人をここまで突き動かす理由はなんだ!?名声か!?栄冠か!?いや、そんなもんじゃねぇ!!二人が求めるのは勝利の二文字のみ!!ああ、もう!実況なんかやってられるか!?二人共頑張れぇぇぇ!!』

 

『オイ』

 

 実況を放り出して応援を始めるプレゼント・マイクを睨みつける相澤だが、その包帯の下で無意識に拳を握りしめているのは本人も気付いていない。

 

──そしてついにその時が訪れた。

 

(ッ!見えた!)

 

 とうとう最後の一枚の氷壁を砕いた海兎だが一瞬違和感を抱く。

 最後の氷壁が妙に脆かったような……そんな気が。

 しかし、その疑問はすぐに解けることとなる。

 氷壁を砕いた瞬間、今までとは真逆の強烈な熱波を感じる。

 そこには体に業火を纏った轟がいた。

 

(お前がここまで突破してくんのは分かってた!氷壁(ここ)ん中じゃあ逃げ場はねえだろ!!)

 

 周りは何層にもなる氷の壁。轟の炎で脆くなろうとも破壊して避ける余裕はない。

 

(──なら、正面から打ち砕く!!)

 

 海兎の体を今までを遥かに超える雷が包み込む。

 

「「勝つのは──」」

 

 海兎と轟。

 全てを薙ぎ払う一撃と全てを焼き尽くす一撃が──

 

「私だあぁぁぁ!!」「俺だあぁぁぁ!!」

 

──衝突した。

 

 観客を今まで以上の衝撃が襲う。スタジアムを覆っていたドーム状の氷壁は粉々に飛散し、強烈な爆炎と稲妻が会場に迸る。

 

「ど、どうなったんだ!?」

 

「勝敗は!?」

 

 スタジアムは未だに土煙に包まれて、二人の姿を確認することは出来ない。

 しかし、次第に収まっていくとある光景が観客の目に飛び込んでくる。

 スタジアムの外周の壁に叩きつけられて気絶している一人の少年。

 そして、場外ギリギリの位置に立つ一人の少女の姿。

 体はボロボロで、今にも倒れそうだが、俯きながらもしっかりとその足で立っている。

 

「ッ轟くん場外!勝者、月下さん!!」

 

──瞬間、会場に今までを遥かに超える歓声が響き渡った。

 

 会場からの二人の健闘を讃える声を聞きながら、とうとう緊張の糸が切れたのか、海兎はその場に倒れ込み、気を失った。




 普通に戦ったら海兎が圧倒する未来しか見えなかったので、かなり考え込みました。観客を顧みない超高範囲攻撃ならワンチャンありそうかなと思いましたが、一瞬で離脱出来そうですね。体育祭の時点でボツですが……。
 書いている途中で轟の氷結って冷気を放出して氷を生み出すのか、氷そのものを生み出しているのか疑問に思いましたが、この小説では冷気を放出する設定でいかせてください。
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