「それではこれより、表彰式に移ります!」
ミッドナイトの宣言とともに雄英スタジアムに花火が打ち上がり、表彰式が始まった。
3位、轟焦凍 常闇踏影
2位、月下海兎
1位、爆豪勝己
本来なら会場を歓声が包み込み、彼らを盛大な拍手で称える所なのだが、観客、生徒、教師問わず全員が目の前の光景にドン引きしていた。
その原因は1位の表彰台に立つ爆豪の姿にある
コンクリートの柱に縛り付けられ、全身を拘束具で押さえつけられている。更に後ろから相澤先生が捕縛布を巻き付け、個性を発動している。
そんな状態にも拘わらず、今も自身の右隣──2位の表彰台に立つ海兎に襲いかかろうとしている。
あまりの迫力に海兎も冷や汗を流しながら絶対に左を向こうとしない。
しかし、これでもマシになった方なのだ。
──数分前。
なんとか自分で歩けるまで回復した海兎は表彰式だけでもちゃんと出ようと、轟と共にスタジアムに向かっていた。
向かう途中、常に海兎の頭の片隅にあったのは爆豪の存在だ。
(絶対怒ってるだろうなぁ……)
爆豪の性格はある程度知っている。不戦勝で喜ぶ様なことは決して無いだろう。
謝って許してくれるかなぁと思いながらもとうとうスタジアムに到着してしまい、意を決して入り口をくぐると天高く打ち上がる花火が目に入った。
そういえば、毎年表彰式は花火打ち上げてたなぁと何気なしに見上げていると、打ち上がった花火が空で花を咲かせることはなく、
「死ねやァァァァァァ!!」
「きゃあァァァァァァ!!」
「おっ」
落下してきた花火──
轟は上空を見ていなかったのか、反応が遅れ爆発の余波で吹き飛ばされた。
「い、い、いきなり何すんの!?死ぬかと思ったじゃん!?」
「うっせぇわ!!死んどけボケナス!!」
「辛辣!?」
怒ってるとは思ってたけど!?怒ってるとは思ってたけどぉぉぉ!?
「てめぇ、何棄権なんかしてんだ兎女ァ!」
「しょ、しょうがないじゃん!?まともに動けなかったし!?」
「気合で動けやァ!!」
「無茶苦茶だ!?……あ、待って!?ごめん!?ごめんて!?こっち来ないでぇ!?」
今この瞬間も掌を爆発させながら近付いてくる爆豪に海兎は顔を青くする。先程は何とか避けられたが次は間違いなく避けられない。
雄英体育祭最大のピンチに絶望する海兎だったが、天は彼女を見捨てなかった。
「ッグ!?」
突如、爆破が収まり、爆豪に見慣れた捕縛布が巻き付いていく。
「何してんだお前は……」
こめかみに青筋を立たせた
思わず、海兎は涙を浮かべながら両手を合わせる。
「……神様」
「ただの教師だ。バカやってないではよ準備しろ。時間は有限だ」
その後、吹き飛ばされてひっくり返ってた轟を回収し、何とか表彰台まで辿り着くことが出来た。
爆豪はずっと暴れ続けていたが、相澤先生に個性を消され、セメントス先生をはじめとする教師陣によって表彰台とは名ばかりの拘束台に磔にされた。
(ホント、殺されるかと思った……)
そんな状況でも淡々と表彰式は進んでいく。
「メダル授与よ!今年、一年生にメダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
「私が!メダルを持って来──」
「我らがヒーロー!オールマイトォ!!」
かっこよく飛び降りて登場したオールマイトだったが、打ち合わせをしていなかったのか、セリフが被ってしまい、なんとも気まずい雰囲気になしまった。
ミッドナイトが両手を合わせて謝る中、気を取り直したオールマイトは早速メダル授与に取り掛かる。
「常闇少年おめでとう、強いな君は。ただ!相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」
「……御意!」
弱点を突かれただけで何もさせてもらえなかったのが余程ショックだったのか、先程まで落ち込み気味だった常闇だが、オールマイトの言葉とハグを受け、自らの課題を認識し、肝に銘じるように頷く。
力強く頷く常闇を見て、満足げに頷いたオールマイトは次の轟の前に移動する。
「轟少年おめでとう。準決勝はどちらが勝ってもおかしくない、素晴らしい試合だった!君が戦闘で左を使ったのは初めて見たが、何かワケがあったのかな?」
「……緑谷にきっかけを貰いました。この力は誰のものでもない、俺の力だって。それに月下とは初めて本気で勝ちたいと思いました。例え、左を解禁してでも……。俺自身の願いのために初めて力を使いました。それでようやく思い出しました。俺の原点を。……まだ清算しなきゃならないモノがあるけど、いつの日か俺もあなたのようなヒーローに……!」
「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」
憑き物が落ちたようなそれでいて決意に溢れる顔をしている轟をオールマイトは抱きしめ、鼓舞するように背中を優しく叩く。「ありがとうございます」と礼を述べる轟に嬉しそうに頷き、次の海兎の前に移動する。
「さて、月下少女おめでとう。決勝は残念だったが、全体を通して素晴らしい活躍だった。」
「ありがとうございます!」
「騎馬戦では驚いたよ。話では聞いていたがあれ程とは!君はあの姿をあまり見せたがらないようだったが何か心境の変化があったのかい?」
「……私はこの体育祭であの姿になるつもりはありませんでした。あのときのように拒絶されるのが怖かった。今まで側にいた人たちがまた離れていってしまうんじゃないかって。結局私は何の覚悟も出来ていなかったんです。」
「……月下少女」
目を閉じながら過去を思い返す海兎にオールマイトは笑顔が曇りそうになる。
「でも、ミドリンたちのおかげで自分の勘違いに気付けました。私がみんなのことを信じきれてなかっただけなんです。受け入れて欲しいなら、まずは私が受け入れなくちゃダメだったのに。……オールマイト先生、まだ全てが解決した訳じゃないし、私の本質はバケモノかもしれない……。それでも、こんな私でもヒーローになれますか?」
「……君の事情は聞いている。たくさん悩んだんだろう、苦しんだんだろう。それでも君は前に進む道を選んだ。君は決してバケモノなんかじゃないさ。苦しみながらも進み続けられる人が間違っているはずが無い。私が断言しよう!!」
オールマイトは海兎を抱きしめながら力強く、はっきりと断言する。
「君はヒーローになれる!!」
「ッ!──あ、ありがとう、ございます……!」
オールマイトからの肯定の言葉に思わず海兎の瞳から涙が溢れる。
覚悟はしていたつもりだった。それでも不安に思わない日はなかった。
本当に受け入れられるのか。認めてもらえるのか。全部無駄なんじゃないか……と。
しかし、オールマイトははっきりと言ってくれた。間違ってないと。何よりもヒーローになれると……!
「オールマイト、私これからも頑張ります。あなたのような、みんなを安心させられるヒーローになれるように……!」
「うん!君ならなれるさ!HAHAHAHAHA!」
海兎の宣言に大きく頷き、笑い声を上げるオールマイト。
そして、次はとうとう一位の爆豪の前に移動する。
「爆豪少年。伏線回収見事だったな。まあ、決勝は君にとって納得出来ない結果かもしれないが……」
「オールマイトォ……!こんな一番……何の価値もねぇんだよ!あんな決着、認められるか!!」
(顔すげぇ……)
今もなお怒りが収まらない爆豪の顔は異形型の個性持ちと思われてもおかしくないほど変容してしまっている。というか目がつり上がりすぎて顔からはみ出ている。
その般若のような形相に流石のオールマイトもごくりと唾を飲み込む。
「おい、てめぇ!いつまでそっち見てんだ!こっち向けや!!……何キョロキョロしてんだ!てめぇのことだ兎女!!」
直前までオールマイトの言葉に涙を流していた海兎だったが、爆豪に殺気を向けられ一瞬で引っ込んだ。
今は顔をそらして口笛を吹いているが、恐怖からかうまく吹けず、空気の抜ける音しかしない。
そんな行動が更に爆豪の怒りを増幅させているのだが、歓喜やら恐怖やらで感情がぐちゃぐちゃになっている海兎は若干パニックに陥っていて気付けない。
「う、うむ、相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。君は不本意かもしれないが、受け取っとけよ!傷として忘れぬよう!」
「要らねっつってんだろが!!」
意地でも受け取ろうとしない爆豪だが、まァまァとなだめながら隙を突き、セイッと口に紐を引っ掛けた。
そして観客席の方を振り向き、声高に叫ぶ。
「さァ!今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!ご覧頂いた通り、競い、高め合い、さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さん、ご唱和ください!!せーの!!」
「「「プルスウ──」」」
「おつかれさまでした!!」
「「「ええぇぇぇッ!?」」」
「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
まさかのおつかれさま発言に会場からブーイングの嵐が巻き起こるも、オールマイト人柄故かそれはすぐに笑いに変わり、こうして無事、雄英体育祭は幕を閉じた。
その後、教室で相澤先生から明日、明後日と休校になる事と休み明けにプロからの指名を発表することを告げられ、その日は解散となった。
モタモタしているとまた爆豪に絡まれそうだったので、急いで荷物をまとめて教室を飛び出す。後ろから爆豪の怒号が聞こえてきたが、聞こえないふりをした。二日間の休校で彼の怒りが収まってくれることを切に願う……。
「おかえりなさい、海兎ちゃん」
「おう!おかえり」
「ただいま!大家さん!大輔さん!」
海兎がマンションに着くと入り口で大家と大輔が出迎えてくれた。
海兎の活躍はテレビで観ていてくれたらしく、二人ともすごい、すごいと褒めちぎってくる。
「……海兎、アレ、使えたんだな」
「……うん。たくさん心配掛けてごめんなさい。……でも、もう大丈夫!」
そう言って笑う海兎の顔からは以前までどことなく感じられた焦燥感のようなものが感じられない。
そんな様子に大輔と大家も思わず頬が緩む。
「……にしても、あの雄英体育祭の決勝で棄権とか、お前が初じゃないか?」
「あれには私達も声を出して驚いたわね」
「常に全力というか、後先考えてないというか……」
「あ、あれは、手を抜く余裕が無かったし!?私も想定外だったというか!?」
「ふふふ、そうね。海兎ちゃんは頑張ったものね。今日はお祝いよ。海兎ちゃんの好きなものたくさん用意したわ」
「人参!!」
「相変わらずそればっかだな。用意してあるから安心しろ」
「やったぁぁぁぁ!!」
大好物が用意してあることを知った海兎はピョンピョンと跳ね回りながら喜びをあらわにし、大家の手を取ってマンションに入っていく。
そんな姿に苦笑しながら大輔も後に続くが、突然スマホからメールの受信を知らせる着信音が鳴り、足を止める。
スマホを開き、差出人の名前を確認した大輔の眉間にシワが寄る。
──クソ兄貴
それは、大輔と血の繋がった兄弟。
激昂するかっちゃん──本来は既に爆発するはずの怒りゲージが何かしらの要因で抑えられ、それまでを遥かに超える怒りを感じることで覚醒する形態。
アドレナリンがドバドバで痛覚が麻痺しているため
遭遇した場合すぐに相澤先生を呼ぶこと。
by月下海兎