今年もぼちぼち投稿していくのでよろしくお願いします。
──職場体験当日。
海兎は都心の駅に一人ポツンと佇んでいた。
今日から海兎がお世話になるプロヒーローは事務所を持たないスタイルで活動している。
そのため事前に学校を通して駅で待つように指示を受けていた為、こうして言われた通りに待っているのだが、一向に姿を現す様子がない。
先程までは電車を待つクラスメイトと話をしたり、声を掛けてきてくれる学生やサラリーマンの対応をしていたのだが、クラスメイトはすでに出発し、朝の通学、通勤ラッシュが過ぎた駅は人の往来もまばらになりつつある。
(……飯田、大丈夫かな?)
ついさっきまでのみどりんと飯田のやりとりを思い出して海兎は言い表せない不安を覚える。
雄英体育祭が終わってからなんとなく様子がおかしかったので、よく一緒にいることが多いみどりんとお茶子に聞いてみたら飯田のお兄さん、プロヒーローのインゲニウムがヒーロー殺しに襲われたらしい。
一命こそ取り留めたがプロヒーローとしての道は絶たれてしまった。
その上で飯田の職場体験先がその兄がステインに襲われた保須市であることが気になる。
海兎の頭に“復讐“の文字が浮かび上がる。
(……ダメだ。私があれこれ考えても埒が明かない。私は自分のことに集中しなくちゃ。……それにしてもまだかな?)
長いこと考え込んでいた海兎だがこのまま自分が考えても仕方がないと頭を切り替える。
落ち着いたところで未だに自分の待ち人が来ないことに首を傾げる。
最初は多少遅れてるのかなと思っていたが、流石に遅すぎるために自分のいる場所が間違っているんじゃないかと不安になり始めた海兎が相澤に確認を取ろうとスマホを手に取った瞬間──
(ッ!?──悲鳴!?)
駅の構内を歩く人々は誰も気付いた様子はない。耳の良い海兎だから気付くことができた。駅の外から僅かに女性の声が聞こえた海兎はすぐにその方向に走り出す。
駅を出て、すぐ目の前の交差点。そこにはサイのような特徴を持った異形型の大男が周りの建物や車を破壊しながら大暴れしていた。
幸い怪我人は出ていないようだが、まだヒーローが到着していない為、いつ人的被害が出てもおかしくない。
だが、海兎はヒーロー科の高校に通う生徒だが社会に出ればただの一般人と変わらない。
前のような雄英高校の敷地内にヴィランが現れた場合とは違い、ここでヴィランと戦闘を行ってしまえば最悪海兎自身に処罰が下ってしまうだろう。
しかし、目の前で助けを求めている人がいる状況で見て見ぬ振りをするなど海兎には出来なかった。
逡巡は一瞬、脚に力を込めて飛び出そうとしたその時──
「意気込みは買うが、ここはプロに任しとけ!」
突然自身の後ろから声が聞こえた海兎は反射的にそちらを振り向こうとするも、その前に突風を巻き起こしながら海兎の隣を何かが通過していった。
思わず、腕で顔を覆った海兎が慌てて前に視線を戻すと、そこにはちょうどヴィランを蹴り飛ばす一人の兎の姿が。
「……ミルコ!!」
「お前が月下海兎だな?悪い、待たせたな」
ヒーロービルボードチャートJP第7位。ラビットヒーロー・ミルコがそこにいた。
「ついてそうそう悪いが、私はこいつを警察に引き渡さないといけないんでな、怪我人の確認と救護任せていいか?」
「あ、はい!分かりました!」
いきなりのミルコの登場に放心状態の海兎だったが、すぐに我に返り行動を始める。
それでも海兎は口が緩むのを抑えられなかった。
緑谷にとって一番尊敬するヒーローがオールマイトなら、海兎にとってはミルコがそれに当たる。
家族がバラバラになってから自分と似た個性を持つミルコが活躍するのを見てヒーローに憧れた。
海兎の戦闘スタイルもミルコを参考に作り上げたものだ。
そんなことを考えている内に事件の後処理も終わり、改めてミルコと対面する。
「んじゃ、改めて。ミルコだ!さっきも言ったが、遅れて悪かったな。来る途中何度も事件に遭遇して、こんな時間になっちまった」
「いえ、全然大丈夫です!月下海兎です!よろしくお願いします!」
「おう!……にしてもやっぱ私と個性似てんなぁ」
ミルコはジロジロと海兎を、特にウサ耳辺りを見ながらつぶやく。
「あの、私ミルコに憧れてて戦闘スタイルとか参考にしてます!」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」
そう言うとミルコは嬉しそうにガシガシと海兎の頭を撫でる。
その光景は二人の個性も相まって年の離れた姉妹に見える。
「おいおい!?ミルコじゃん凄え!」
「私見てたよ!サイみたいな大きいヴィランが一撃だった!」
「ていうか、あの頭撫でられてる子!?この前の雄英体育祭で2位だった子じゃない!?」
「ホントだ!何でミルコと一緒に!?」
そんなことをしていると事件の騒ぎで集まっていた人々が二人の存在に気付き、あっという間に囲まれてしまった。
「ど、どうしましょうミルコ……!」
「あん?こんなのプロになりゃ珍しくもないぞ?……ヨシッ!いい機会だ。これも勉強だと思って対応してみろ。ファンサもヒーローの仕事の一つだぞ」
「ええ!?いきなりですか!?」
海兎が思わずミルコの方を見るが、すでに彼女もファンに話しかけられており割って入れる様子はない。
元々人と話すのは苦手ではないが、こうも大勢の人に一気に囲まれた経験はない。体育祭の影響で話しかけられることは増えたがファンサービスとなるとどう対応すればいいか分からない。
「君!雄英の月下さんだよね!?何でミルコと一緒に?」
「えっと、今日から職業体験でして……」
「ミルコから指名貰ったってこと!?すごーい!?」
「あ、ありがとうございます」
「やっぱり個性が似てるから?もしかして親戚とか?」
「そ、そうですね。昔から参考にしてて……。あと親戚ではないです」
丁寧に一人一人対応していく海兎だが、全く人が途切れる様子がない。それどころかどんどん人が増えていっている気がする。
そのことに海兎が目を回していると、不意に腰に腕が巻き付き、そのまま俵のように抱えられる。
「わっ!?」
「そんじゃ、私らはそろそろ行くわ!」
そういうとミルコはそのまま海兎を抱えて、人が密集しているところをひとっ飛びで飛び越えていく。
いきなり飛び上がったミルコに目を丸くする人々だが、すぐにそれは歓声へと変わっていき、小さくなっていく二人の背中に声援が送られる。
「お前、一つ一つ答えてたらきりがないぞ。ある程度答えたらうまく抜け出すようにしろ!」
「べ、勉強になります……」
ヒーローが人気職なのは十分知っていたつもりだったが、直接体験することで自分の認識が甘かったことを痛感した。
戦闘訓練や救助訓練などやることは山ほどあるが、ファンサービスもうまくできるようにしておこうと海兎は心に決めた。
「ヨシッ!んじゃあ行くか!」
「……?行くってどこに?」
「決まってんだろ?仕事だよ。私は事務所持ってねえからな。基本はパトロールで事件を発見次第蹴り飛ばす。お前ならついてこれんだろ!」
「ッ!──はい!」
こうして海兎の一週間にも及ぶ職業体験は始まった。
先程も言ったが海兎たち雄英生にヴィランとの戦闘は基本許可されていない。故に海兎のやることはミルコについていって、事件現場の安全確保や巻き込まれた一般人の救護だ。
ヴィランと直接対峙するのはミルコ一人だが、さすがはトップヒーロー。すでに朝の事件を含めて4人のヴィランを鎮圧しているが、心配する暇もないほど圧倒的である。
しかも全く疲れた様子もなく今も次の事件の現場に猛スピードで向かっている。
対して海兎はミルコとは違い、すでに息が切れてきており、薄っすらとだが汗が滲んできている。
(ッ速い……!)
原因はミルコの事件現場に向かう速度だった。速さには自信があったのが、置いていかれないようにするだけで精一杯だ。
しかも、時折こちらを見ては海兎がついてきているか確認している辺り、おそらく全力では無いのだろう。事件を見つけるまでの合間の時間がなければダウンしていたかもしれない。
さっき事件現場にいた一般の方には逆に大丈夫かと心配されてしまったくらいだ。
(ただ速いだけじゃない……!上体の動かし方、地面の蹴り方、脱力のタイミング。全てが完璧。動きの全てに無駄がない……!)
似た個性を持っているからこそよく分かる。純粋な筋力の差はもちろんだが、一つ一つの技術が海兎の遙か先をいっている。
(これが……プロの世界……!!)
今の自身との隔絶した差を見せつけられた海兎だが、その瞳に絶望の色は無く、それどころか無意識の内に笑みが浮かぶ。
現場に向かいながらも横目でそれを確認したミルコの顔にも海兎には見えない角度で同じように笑みを浮かべる。
(インターンならともかく、職場体験に指名するなんざ初めてだったが、どうやら正解だったみたいだな……!)
雄英体育祭での活躍を見て海兎に興味を持ったが、事務所を持たない自分が仮免すら持たない子供を受け持って大丈夫なのかと自分なりに考えたものだ。
サイドキックもいないので常に自分が見ていなければいけないし、自分について来れずに歩幅を合わせていたら現場に遅れてしまったなんてことになったら笑い話にもならない。
結局はあまり考えることが苦手でなんとかなるだろと結論づけて指名を出した。
(多少は速度を落とす覚悟もしてたんだがな。まさか、私の
海兎は一つ勘違いをしていた。
彼女はミルコが自分に合わせて速度を落としていると思っているが、実は普段と変わらない速度を出している。
全力を出してない点は正解なのだが、今の海兎のように向かうのに全力を使って、現場で力が出ないようじゃ本末転倒だ。
もちろん状況によっては全力で向かうこともあるが、普段はある程度余力を残して向かっている。
(それに
海兎の体の動かし方を見るに、ところどころ粗が目立ち、技術に至ってはてんでまだまだ未熟だ。
おそらく見様見真似でやっているだけで誰かに直接教わった訳では無いだろう。
だがそれは、これからに伸びしろがあると言えることでもある。
(今のコイツは持ち前の身体能力とセンスだけで私についてきている。もしそこに技術が加われば……!)
最初は自分と似たような個性だったから興味を持っただけだったが、直接その才能を見た今となっては自分の技術を習得させた時、どのように化けるのか気になって仕方がない。
「海兎!そういやお前のヒーロー名何て言うんだ?」
「キ、キャロット……です!」
「キャロット!良い名前じゃねえか!気に入った!」
「ありがとう……ございます!」
「おい、キャロット!」
「……?」
「これから一週間みっちり鍛えてやるからしっかりついてこいよ!!」
「ッ!──はい!!」
──やっぱり、お前を指名して正解だった!!
──という訳で職業体験先はミルコです。
三日三晩考えた結果「あ、ミルコいるじゃん」と思い付きました。
……嘘です。キャロットを主人公に考えたときにすぐ出てきました。