雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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保須市突入

 職場体験初日が無事終了した夜。

 海兎はミルコと宿泊するホテルの近場で食事を取っていた。

 

「……保須市?」

 

「ああ、明日から保須市に行くぞ」

 

「……もしかして、ヒーロー殺しですか?」

 

「おっ、詳しいな。元々違う奴を追ってたんだが、このところてんで足取りが掴めなくてな……」

 

「ヒーロー殺し……」

 

 ヒーロー殺しと聞くと、どうしても飯田のことを思い出してしまう。

 

「ん?ヒーロー殺しがどうかしたのか?」

 

 ヒーロー殺しの名前が出た途端に神妙な表情になった海兎を見てミルコが首を傾げる。

 

「えっと、この前クラスメイトのお兄さんがヒーロー殺しに襲われて……。一命は取り留めたんですけど、もうヒーローはやっていけないらしくて。そのクラスメイトが今、保須市にある事務所にいるんです」

 

「……復讐か?」

 

 不思議そうに話を聞いていたミルコがそのクラスメイトが保須市にいると聞いた途端に少し目を細めて呟く。

 

「分かりません。本人は大丈夫と言っていたんですけど、少し様子がおかしくて」

 

 飯田は隠しているつもりだったのかもしれないが明らかにいつもの飯田ではなかった。

 というか家族を傷つけられていつも通りいられる方が変だろう。

 

「……なら、馬鹿なことしてたら蹴っ飛ばせば良い!」

 

「はい?」

 

 難しい顔で悩んでいた海兎に対して、蹴り飛ばせと言い切るミルコに思わず目を丸くする海兎。

 

「私はそいつのことを知らねえけどな、どうせこれから向かうんだ。ならここでうじうじ悩んでたって意味ないだろ?だからもし、そいつがバカなことしてたらお前が蹴っ飛ばして目ぇ覚ましてやれ。ダチなんだろ?」

 

「ッ!!」

 

 ミルコの言葉は海兎にとってまさに青天の霹靂だった。

 難しく考えすぎていた。そもそもこんなの私らしくなかった。正面からぶつかっていけば良かったんだ。

 それでバカみたいなことを考えていたら蹴り飛ばしてでも止めれば良い。

 

「……ありがとうございます、ミルコ」

 

「ん?……おう!」

 

 ずっと胸の中にあったモヤモヤがスッキリしたら段々とお腹が空いてきた海兎は目の前の食事を勢いよく食べ始める。

 

「おう、どんどん食え!お前は細いから力が出ねえんだ。飯食って肉つけろ!」

 

「んぐ……やっぱりミルコみたいになるにはもっとご飯食べなきゃダメですか?」

 

「まあ、そうだな。たくさん食べれば良いって訳でも無いが、食わなきゃ始まらねえな。……人参ばっか食ってんじゃねえか?」

 

「ギクッ!?」

 

 ミルコの指摘に思わず料理を食べる手が止まる海兎。

 その様子に図星なんだろうとニヤニヤとこちらを見るミルコ。

 

「やっぱりな。動物系の異形型はその種の影響を受けやすい。人参じゃなくても肉よりも野菜の方が好きなんじゃねえかと思ってな」

 

「てことは、ミルコも……?」

 

「ああ、嫌いって訳じゃないが、野菜のほうが好きだな。好物は人参だ」

 

 その言葉に海兎は意外そうにミルコを見つめる。

 兎の異形型というのはもちろん知ってたが、彼女のキャラやその肉体を見て、肉系の方が好きなのかと思っていた。

 

「──と、言うわけで食うのも訓練だ。ガッツリ食えよ?」

 

「へ?」

 

 ミルコの言葉に疑問を覚えた海兎がその意味を問いかける前に二人の机に追加の料理が並べられる。それだけなら普通の光景なのだが、いかんせん量が尋常じゃない。

 

「ミ、ミルコ……たくさん食べるんですね?」

 

「私じゃねえよ。……まあ、私の分もあるが、ほとんどはお前の分だ」

 

「私!?」

 

「言ったろ?細すぎんだよ。明日からもガンガン動いてもらうんだ。しっかり食わねえとガリガリになんぞ」

 

 改めて机の上の料理に目を向ける。

 肉汁が溢れるステーキに磯の香りが漂う海産物。山盛りのライスにコンソメ香るスープ、新鮮な瑞々しいサラダ。どれも食欲を誘う匂いを漂わせ、一日の疲れもある海兎の口からよだれが溢れてくる。……適正な量ならば。

 

「さあ、食え!」

 

 その後、食ってすぐ寝るのは良くないとミルコと軽い組み手(ミルコからしたら)をしてから、ようやく初日は終了した。

 

 

 

 

 

 次の日の早朝、宿泊したホテルの前に海兎とミルコの姿があった。

 

「ヨシ!ちゃんと寝たか?」

 

「はい!ここのベットすっごいフカフカでしたね!」

 

 昨日は食事の後の組み手で食べたものをリバースしそうになり、倒れ込むようにベットに飛び込んだ海兎だったが、自室のベットに比べて質の良いベットで眠ったおかげか翌朝にはしっかりと疲れが取れていた。

 

「昨日も言ったが今日から保須市に行くぞ!」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をした海兎はそのまま駅に向かって歩き出す。

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

 が、ミルコの声を受けて首を傾げながら振り向く。

 

「え、だって保須市に行くんですよね?ならあっちじゃ?」

 

「いや、こっちだぞ」

 

 そういってミルコが指差すのは駅がある方角とは真逆の方角。

 駅の場所を間違えてるのかなと思い、訂正しようとした時、昨日のミルコの言葉が蘇った。

 

『来る途中何度も事件に遭遇して、こんな時間になっちまった』

 

 事件の後処理が終わった後にミルコは遅れた理由についてそんなことを言っていた。

 職場体験直前までミルコが活動してたのはここから遠く離れた九州方面。

 前日の夜に偶然テレビでインタビューを受けてたのを見ているから間違いない。

 だからてっきり早朝に交通機関を使って来るのかと思っていたのだが、それだと事件に何度も遭遇するというのはおかしい。

 もし、もしも、九州から走ってきていたとしたら?

 海兎が向かおうとしている方向に駅があるのは間違いない。

 しかし、ミルコが指差している方角。海兎の勘違いでなければその方角は……。

 

「ああ、もしかして駅行こうとしてたのか?違うぞ。人が多いし、何よりも遅い。自分で走ったほうが速い。……つーわけで、脱兎のごとく!!」

 

 そうしてミルコは呆ける海兎を置いて飛び出した。自身が指差していた方角──保須市に向けて。

 

「マジですかあぁぁぁぁ!?」

 

 海兎の職場体験二日目は慌ただしくスタートした。

 

 

 

 

 

 ミルコについて走り続けていた海兎だが、何事もなく保須市まで辿り着ける訳では無い。

 昨日と同様、道中の事件を解決しながら保須市に向かっている為、何度も足を止めているが、それでも一般人と比べればとんでもない速度だろう。

 

(……あれ?)

 

 ミルコのサポートをしながら走り続けていた海兎だったが、ここに来て一つの違和感を感じ始めていた。

 

(私、あんまり疲れてない?)

 

 昨日はミルコについて行くので精一杯だった筈が、今では無理なくついていけている。

 もちろん油断すればすぐに離されてしまう速度だが、間違いなく昨日よりも速く動けるようになっていた。

 世の中には理論派と感覚派がいる。

 簡単に言うと、緑谷のような考えてから行動するタイプが理論派。オールマイトのように直感で行動するのが感覚派だ。海兎は後者に当たる。

 一日目は基本的にミルコの後ろをついていくだけだった海兎だが、長い間ミルコの動きを見て無意識の内にその動きを学習、自分の動きにトレースしていたようだ。

 

(も、もしかして昨日いっぱい食べたから?すごい!ミルコの言う通りだ!)

 

 ……ただ、感覚派の殆どが自らの行いに無自覚である。

 

 

 

 

 

「……?……ッ!?──ミルコ!!」

 

「ああ、聞こえた!!」

 

 事件を解決しながらも順調に進み、いよいよ保須市に入ろうとした時、海兎の耳に奇妙な音が聞こえてきた。耳に意識を集中させると、何かの破壊音と多くの人の悲鳴が聞こえてきた。

 すぐに緊急事態だと判断し、ミルコに知らせようとするも、すでに聞こえていたのか、スピードを上げるミルコに慌てて続く海兎。

 そして状況を把握する為、ビルの上にミルコと共に降り立った海兎は目の前の光景に絶句した。

 保須市のあちこちから黒煙が立ち上り、今この瞬間も様々な所から悲鳴やヒーローと思わしき声が聞こえてくる。

 

「あれは!?」

 

 周囲を確認していた海兎の目があるものを捉えた。一瞬ビルの間を通っただけだが、見間違える筈がない。

 

「何で脳無がここに!?」

 

「脳無?確か雄英を襲撃したヴィラン連合とかいう奴らが連れてたっていう奴か?」

 

「はい、ヴィラン連合の改造人間。……でも前に見た奴とは見た目が変わってます」

 

 今、海兎が見た脳無は背中から翼を生やして飛んでいたような気がする。USJの広場に現れた脳無や海兎の前に現れた脳無とは特徴が一致しない。

 何にしてもこのまま好きにさせる訳にはいかない。

 すぐに現場に向かおうと手すりに足を掛けたその時──

 

──飯田くん!!

 

「ッ!?──みどりん?」

 

 海兎の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。しかもかなり切羽詰まった様子だ。

 そちらの様子が気になるが、目の前の脳無を放って置く事はできない。だが、どうやら近くに飯田もいるらしく、何か嫌な予感がする。

 

「海兎!」

 

「ッ!は、はい」

 

「行って来い!!」

 

「……え?」

 

 海兎が迷っていると突然ミルコに呼ばれ、振り返るとただ一言行けと言われ、呆然とする。

 

「何か聞こえたんだろ?ならお前はそっちに向かえ!」

 

「で、でも!?」

 

「私を誰だと思ってんだ?あんな奴一人で十分だ!お前はお前のやることをやれ!」

 

「──!!」

 

「ただ、知ってると思うがヴィランとの戦闘での個性の使用は禁止されている。救助活動を優先しろ!」

 

「はい!!」

 

 ミルコの声を背に海兎は声が聞こえた方に飛び出した。

 

 

 

 

 

「轟くん、緑谷くんと逃げてくれ!これは僕の責任なんだ!」

 

 大通りから外れた路地裏の細道。そこでは雄英生3人があるヴィランと対峙していた。

 

「ハア、逃がすか。そいつは粛清対象だ……」

 

 ヒーロー殺し、ステイン。各地で何人ものプロヒーローを襲撃してきた凶悪犯で飯田の兄を襲撃した張本人だ。

 飯田と緑谷は怪我こそ浅いようだが地面に倒れたまま動かない。轟が炎と氷結を使いながら距離を取りながら戦うが、縦横無尽に飛び回るステインの姿を捉えきれない。

 

(クソッ!動きが変速すぎる。二人とあそこのプロを連れて引く暇がねぇ……)

 

 距離を離すため氷結を放ち、下がろうとした時──

 

「己よりも速い相手に視界を遮るのは愚策……!」

 

「!?──しまっ」

 

 一瞬の油断。並の相手ならともかくステイン相手には大きすぎる隙。刃こぼれした刀が轟に迫り──

 

「やらせない!」

 

「なっ!?──グッ!」

 

 視界の外から何かが弾丸のように接近し、ステインを蹴り飛ばす。回避は間に合わなくとも、防御し、自ら後ろに飛ぶが衝撃は受け流しきれず、ステインの口から声が漏れる。

 しかし、うまく宙で体を捻り、足を滑らせながら着地したステインは自らを蹴り飛ばした存在を睨みつける。

 

「……ハア、次から次へと……」

 

「……正直、助かった」

 

「あっ!」

 

「な、何で君まで……!」

 

 ステインを蹴り飛ばした人物はそのまま綺麗に着地し、すぐさま周りを確認。かなり悪い状況に眉をひそめる。

 

「ミルコから戦闘は避けるように言われてるんだけど……ちょっと無理そう」

 

「何で君まで来るんだ!──月下くん!!」

 

 ここに、一体の兎が乱入した。




この作品を見てくれた人に教えて頂いたんですが、兎って特別人参が好きって訳じゃないらしいですね。ミルコもキャロットも原作で人参が好物なので勘違いしていましたが、よくよく考えたら確かに小学生の頃、飼育係で兎の餌やりはキャベツとか多かった気がします。
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